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国防省政治任用ポストの4割が議会未承認のまま [米国防省高官]

平均未承認空席期間は1980年代以降で最長
8つの次官級ポストの内、5つが議会未承認

Undersecretary6.jpg20日付Defense-Newsは、米国防省の政治任用ポスト60個の内、4割の24ポストが米議会の承認を得ない臨時代理又は代行者(acting or performing-the-duties-of capacity)で占められる異常な状態のまま、来年1月の政権交代を迎えるだろうと紹介しています

人選や議会承認にレーガン政権時代以降40年間で最長の時間を要している理由として記事は、辞任者や更迭が多いこと以外にも、政権が指名する候補者の質が低く承認審議が難航していることや、政権自体が議会承認を重視せず臨時の状態を気にしていないこと、が背景にあるとの専門家意見を紹介しています

Undersecretary2.jpg議会未承認24ポストの中には、議会承認待ちの様々な段階にあるポストが「11個」あるようですが、米議会の年末までの稼働日数や他の優先課題等を考えれば、これ以上正式承認者が出る可能はなく、実質2か月足らずの任期のために承認を進める意欲をだれも持ち合わせていないのが現状だそうで

専門家は、臨時や代行者がいて業務を進められる部分はあるが、大きな課題になるほど、政府機関内や米議会との調整に「議会承認を受けた」立場が「見えない力」として必要であり、また文民重要ポストに未承認者が多いことで、軍人(統合参謀本部)の発言力が強くなりシビリアンコントロール上の懸念も出てくると教科書的な問題点を指摘しています

Undersecretary.JPG実態として「多数の未承認ポスト」の影響を理解していませんが、なし崩し的に組織制度が変わることには不安があるので、次期政権では解消されるでしょうが、未承認ポスト24個と解説記事の概要をご紹介しておきます

なお、国防省の本部(国防長官室)には、大きく6つの部署(政策、人的戦力管理、調達&兵站、研究開発、情報、改革Reform)があり、それぞれのトップに次官が指名され、監察官(Inspector General)や会見監査(Comptroller)と合わせて8つの次官級ポストがあり、その5つが未承認状態です。また陸海海軍省も次官補レベルまで政治任用のようで未承認ポストがあります

60ある政治任用ポストで未承認の24個は

国防長官
政策
Undersecretary of Defense for Policy
Deputy Undersecretary of Defense for Policy
Assistant Secretary of Defense for Legislative Affairs
Assistant Secretary of Defense for Space Policy
Assistant Secretary of Defense for Readiness
Assistant Secretary of Defense for Indo‐Pacific Security Affairs
Assistant Secretary of Defense for International Security Affairs
Assistant Secretary of Defense for Nuclear, Chemical, and Biological Defense Programs
Assistant Secretary of Defense for Special Operations and Low Intensity Conflict
Director of Cost Assessment and Program Evaluation

人的戦力管理
Deputy Undersecretary of Defense for Personnel and Readiness
Assistant Secretary of Defense for Manpower and Reserve Affairs

調達&兵站
未承認なし
研究開発
Undersecretary of Defense for Research and Engineering
Deputy Undersecretary of Defense for Research and Engineering

情報
Undersecretary of Defense for Intelligence and Security
Deputy Undersecretary of Defense for Intelligence and Security
改革
未承認なし

監察官や会見監査官
Inspector General of the department
Undersecretary of Defense (Comptroller)
Deputy Undersecretary of Defense ‐ Comptroller

陸海空軍省
Undersecretary of the Navy
Undersecretary of the Air Force
Assistant Secretary of the Air Force for Space Acquisition and Integration
General Counsel of the Army(米陸軍法務官)

20日付Defense-News記事によれば
Undersecretary3.jpg人選と承認に要した議会審議時間を見てみると、オバマ政権時代には平均で、人選に5か月、承認手続きに2か月だったが、トランプ政権ではそれぞれ、7.5か月と3.5か月要しており、トランプ政権の時間はレーガン政権以降で最長となっている
これを次官級ポストに絞って見てみると、トランプ政権は人選と承認で合計約6か月と、オバマ時代の2倍の時間を要している

人選が終わって議会承認を申請している段階にあるケースが11ポストあり、11月16日に申請された国際安全保障担当次官補ポストから、3月に申請されて承認の見込みがないものまで、様々な段階のものがあるが、今後政権交代まで米議会で承認審議が行われる見込みはない

このような状態になっている理由について政治任用者を審議する上院軍事委員会のTim Kaine議員(民主党・バージニア州)は、「様々な理由がある。政権側が更迭するケースや辞職者が多いことに加え、後任候補者が共和党優位の上院でも承認を躊躇するレベルであることも影響している」と述べ
Undersecretary4.jpgまた「トランプ大統領が上院の審議にさらされる承認手続きを好まず、臨時や代理で良しと考えるタイプの人物で、戦略的な業務が多い国防省ポストに関してはこの傾向が強い」ともコメントしており、臨時の政策担当次官である反イスラム姿勢が顕著なAnthony Tata氏の承認手続きが夏にとん挫したままでも、継続して「臨時」で職務を継続している例を挙げている

共和党系のシンクタンクAEIのMackenzie Eaglen女史はこの現状に関し、「大きな官僚組織であるペンタゴンは、ある程度の空席状態には対応してきた」と述べる一方で、正式な承認手続きを経た官僚でないと乗り越えられない重要な政策調整の「見えないゴールポスト:invisible goal posts」が障害物として厳然と存在する」と指摘している
また文民統制の観点から、承認を得ない国防省官僚が増えることで、ペンタゴン内での文民官僚の影響力が低下し、文民と軍人の力関係のバランスが変化することに関する懸念に触れ、次期政権ではこれ以上議会承認手続きを経ない臨時官僚が増えることに警鐘を鳴らしている
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Undersecretary5.jpg「見えないゴールポスト」や「文民統制」の視点での懸念はあるのでしょうが、政策担当次官との国防省No3ポストに加え、研究開発や情報担当次官のポストでも臨時や代理で回っている(らしい)現実から、議会承認を軽視する方向にならないか注視する必要があるのでしょう

トランプ大統領がツイートを多用したことで、バイデン氏のツイートが少ないと評価する人が出てくるくらい従来の「常識」を変えたトランプ政権ですから、後の人は色々大変そうです

バイデン政権の国防長官最有力候補フロノイ女史の思考
「必要な国防政策を語る」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-08-12
「米議会で中国抑止を議論」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-17
「バイデン政権で国防政策はどう変わるのか」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-11-09

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米空軍戦術構想ACEの課題を若手が語る [米空軍]

空軍外の研究機関出向の少佐2名による論考
彼らが担う中露との戦いへの危機感あらわ

DABS.jpg12日付Defense-Newsが準トップ記事扱いで、米空軍の将来作戦運用の中核であるACE構想(Agile Combat Employment)の課題に関する米空軍少佐2名による論考を掲載し、対中国や対ロシア作戦を支えるこの構想の今後の課題を、4つの視点から紹介しています

ACE構想(Agile Combat Employment:機敏な戦力展開)は、中国やロシアは本格紛争緒戦で、保有する大量の弾道ミサイルや巡航ミサイルで米空軍戦力が集中する拠点航空基地(飛行場など)を攻撃して無効化を企図するだろうから、施設や装備が不十分であっても周辺の飛行場等に戦力を分散し、中国等のISRやターゲティング活動を困難にして対抗しようとの作戦構想です

DABS5.jpgこのACE構想では、施設の充実した航空基地と施設装備が不十分な周辺飛行場等を一群と考えて運用し、分散展開予想基地への物資・装備の事前集積、緊急空輸への備え、迅速な分散機動展開状況での戦力発揮訓練、分散展開先での少人数での運用確保に兵士のマルチ職能付与(給油、給弾、軽易な整備)・・・などが必要とされ、2017年に同構想が打ち出されて以降、欧州やアジア、更には中東展開部隊も訓練を開始し、教訓の共有や手順の共通化が地域間で進められているようです

また、当初は足の短い戦闘機クラスの分散運用がACEの対象でしたが、最近は大型爆撃機もこの流れに加わり、BTF(bomber task forces)の使用できる飛行場を増やす取り組みが始まっている模様です

以下では、「Center on Military and Political Power at the Foundation for Defense of Democracies」との研究機関に所属する、Scott D. Adamson少佐とShane “Axl” Praiswater少佐による論考が指摘している、ACE構想4つの課題をご紹介します

12日付Defense-News記事によれば
使用可能な同盟国やパートナ国の飛行場数拡大
DABS2.jpg戦力の分散先となる飛行場をより増やす必要がある。分散先が少なければそれだけ中国やロシアの攻撃を受けやすくなり、米空軍指揮官の選択の余地もなくなる
様々な関係国との合意や協力強化で使用可能基地が増えてはいるが、本格紛争緒戦では何波ものミサイル波状攻撃が予期されることから、更なる作戦運用基盤の確保が必要

事前集積物資や装備の調達加速
分散運用先で必要となる物資や装備(deployable air base system)の調達には思いのほか時間が必要であり、欧州で必要な事前集積物資や装備の準備は、2026年でも完了していない可能性があるほどである
これをアジア太平洋地域に拡大すれば更に時間が必要と予期されることから、未だ予算化されていない事前集積物資用の資金を早急に確保し、速やかに調達プロセスを開始すべきである

空輸所用をしっかり見積もり必要な投資を
DABS3.jpgACE構想では迅速な物資輸送がカギであり、空輸需要は極めて大きい。従って、現在の空輸能力でACE構想を支援可能かどうかを、厳しい戦場環境であること前提として慎重に見積もるべきである
厳密な見積もり結果を基礎とし、必要ならば空輸能力の強化や、または長距離爆撃能力強化への更なる投資配分を決断すべきである

米軍兵士の多職能(multi-capable)化の拡大推進
米空軍は複数の職能を備えた兵士の養成を拡大すべき。迅速に展開可能な兵力数には限界があることから、メインの職種以外の複数の職務遂行能力を身に着けた兵士が必要である。米空軍は教育体系を再考し、戦力展開時の兵站負荷に備えるべき
2020年から各メジャーコマンドで「multi-capable化」の取り組みが始まっているが、米空軍として基礎教育や技術教育学校の在り方から再検討し、前線の動きを支えるべき

ACE構想の実現は必要不可欠な課題である。Brown空軍参謀総長が勤務指針を示した冊子の中で述べているように、「(変化を怠れば、)数十年我々が国益を守るために保ち続けてきた、確実性をリスクにさらすことになる」ことを忘れてはならない
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ACE構想の今後の課題からは、ACE構想の実行可能性確保が極めて厳しい状況にあることが伺えます。

DABS4.jpg記事では、ポーランドの展開先飛行場での展開システム(deployable air base system)の写真を紹介しており、米空軍兵士が滑走路補修訓練を行う様子の写真もありますが、「お試し」「形ばかり」程度の訓練風景写真に、公開しない方が良かったのでは・・・と感じてしまいました

また2名の少佐が「こそッと」訴えた、「又は、長距離爆撃能力強化への更なる投資配分を決断すべき」との一文が、2名の本音の様にも読めてしまいます

集中配備から、分散運用する新コンセプトACEへ
「中東派遣F-35部隊も挑戦」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-08-19
「三沢でACE訓練」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-21
「太平洋空軍がACEに動く」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-12
「太平洋空軍司令官がACEを語る」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2017-12-10-1
「有事に在日米軍戦闘機は分散後退」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-11-02
「F-22でACEを訓練」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2017-03-08

「Broun参謀総長がその方針を8ページで語る」https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-09-01

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米海軍が日本海でも「航行の自由作戦」 [安全保障全般]

竹島でも大和堆でもなく「ピョートル大帝湾」で
1984年に旧ソ連が「内水」と主張し始めた係争地

Peter the Great.jpg11月24日、米海軍第7艦隊は、ロシアが領海と主張する日本海北西部ウラジオストク周辺の「Peter the Great Bay:ピョートル大帝湾」の海域付近で、米海軍のイージス駆逐艦「USS John S. McCain」が「航行の自由作戦:freedom of navigation operation」を実施したと発表しました

ロシア国防省は米海軍発表に先立ち、米海軍の駆逐艦がロシアの「領海に侵入した」と発表してところです。 ロシア国防省は、米駆逐艦が24日、ロシアの領海に約2km「違法侵入」したと指摘し、ロシアの対潜駆逐艦「Admiral Vinogradovアドミラル・ビノグラドフ」が発見し警告、米駆逐艦はロシア艦艇からの警告を受けてただちに公海に出たと主張しています

USS McCain.jpgこれに対し米海軍報道官のJoe Keiley大尉は、「ロシア側の主張は誤りで、駆逐艦マッケインは如何なる国の領海からも排除されてはいない」、「同駆逐艦は国際法に基づき、航行の自由作戦を引き続き公海上で継続する。米海軍は決して脅迫に屈することなく、またロシア連邦が主張するような不当な領海主張を受け入れることはない」との声明を出しています

第7艦隊は2017年以来、中国による南シナ海や黄海における不当な領海主張のような行為に対し「航行の自由作戦」を増加させてきており、今年も中国が領有を主張する海域に少なくとも6隻の艦艇を派遣していますが、「ピョートル大帝湾」へのロシアの主張に対する同作戦の実施は2018年12月以来となります

24日付Military.com記事によれば
Peter the Great2.jpg旧ソ連邦は1984年、通常の領海(海岸など領海基線から12海里)を超え「ピョートル大帝湾」の入り口に約106nmのラインを設定し、その内側を国際法上の「歴史的湾」との解釈で艦船の無害通航権を認めない「内水」だと主張をはじめ、ソ連邦崩壊後のロシアでも同様の主張を引き継いでいる
米国は、ロシアによる「歴史的湾」との解釈からくる「内水」主張は、国際法を反映した海洋法条約に違反しているとし、それを示すために航行の自由作戦を実施している

ピョートル大帝について
ピョートル大帝はピョートル1世の呼び名で、ロシアのロマノフ朝の繁栄を出現させた皇帝(在位1682~1725年)。ロシアの専制君主政治であるツァーリズムの体制を完成させた
1967年から2年間、皇帝でありながら欧州各国の視察を自ら行う。その旅行で刺激を受けて積極的な西欧化政策を推進、西欧の技術者を多数招聘し、産業の近代化を行った。オランダとイギリスでは造船所で一職工として働き、ハンマーをふるって造船技術を習得、博物館、病院、裁判所、砲弾工場なども見学した

Peter the Great3.jpg南方では、オスマン帝国とその属国であるハン国が領有する黒海沿岸に進出し、さらに黒海から地中海方面に勢力を拡大する、いわゆる「ロシアの南下政策」の端緒をつくった
北方では、バルト海の覇権をめぐってスウェーデンのカール12世との北方戦争を戦った。バルト海の制海権を得たロシアは1712年に新都ペテルブルクを建設して西欧への窓口とし、バルトの覇者としての地歩を確保した。軍備では特に海軍の育成に努め、ペテルブルク近郊を拠点にバルチック艦隊を創設した

また東方ではシベリア進出を推し進め、清との間で1689年にネルチンスク条約を締結し、ロシアと清朝の間での最初の国境を画定した。これは清(中国)がヨーロッパ諸国と結んだ最初の条約であった。また部下にカムチャツカ探検を命じ、日本との通商路を探った。晩年にはベーリングを派遣してカムチャツカ、アラスカ方面を探検させ、ベーリングは1728年にアラスカに到達した
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USS McCain2.jpg駆逐艦マッケインは、2017年8月21日、マラッカ海峡シンガポール沖でリベリア船籍の石油タンカー Alnic MC と衝突して乗組員10人が死亡する大事故を起こし、乗組員寝所、機関室、通信室などの区画が浸水する被害を受けた艦艇です

2019年10月末に復帰し、第7艦隊横須賀に配属されており、汚名返上の任務遂行ですが、今後の活躍にも期待いたしましょう

めっきり減った南シナ海の話題
「航行の自由作戦活発化というけれど」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-06
「初のASEANと米国の海洋演習」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-09-03
「次期米軍トップが中国脅威を強調」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-07-14-1
「海洋プレッシャー戦略に唖然」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-06-13
「F-35搭載艦艇がFONOP」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-04-07
「アジア安全保障会議2019」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-05-31-1
「中国艦艇が米艦艇に異常接近」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2018-10-06-1

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ギリシャが公式に中古F-35購入を要請 [亡国のF-35]

2021年から受領開始したいと希望
融資期限が迫るEUローンを利用で急ぐのか?
トルコや在シリアロシア軍を警戒か?

F-35 Greece.jpg11月6日付でギリシャ国防省が米国に対し、18-24機の中古F-35を早急に導入したい旨の公式文書を発出し、来年2021年から初号機を受領開始したいと要望している模様です

ギリシャ空軍は154機の旧式F-16を保有(84機がBlock 52、70機がBlock 30 and 40)し、2018年に近代化改修を約1000億円で発注しているようですが、最近のトルコの軍事脅威やシリア進出ロシア軍の圧力を感じてか、中古12機を含むRafale戦闘機18機の購入契約(2021年から受領開始予定)を仏と結び、経済的には破綻に近い大混乱状態の中でも軍事力強化を考えているようです

Greece.jpg2019年初旬からギリシャは25-30機のF-35購入を米国に希望していたようですが、ギリシャの経済状況等を勘案し、米側はF-16最新輸出型で製造・維持整備体制が確立している「F-16V Block 70」導入を推奨していたようで、そこまでしてF-35を追求する理由を米専門家は、少数のF-35導入で、主力F-16戦闘機の「戦力増強:force multiplier」剤としての役割を期待しているのでは・・・と推測しています

また「2021年から初号機受領」とのスピードを急ぐ背景には、脅威論以外に、融資期限が迫るEUローン活用の皮算用があるのだろうとの米軍需産業関係者の話をメディアは紹介しています

いずれにしても、「中古のF-35」とか「2021年から初号機受領」とか、何でもありの世界の戦闘機市場の中でも驚きを隠せないお話ですので、推測を多分に含んだ米軍事メディアの記事をとりあえずご紹介しておきます

19日付米空軍協会web記事によれば
F-35 Greece2.jpgギリシャが発出した公式文書(LOR:Letter of Request)は、機体提供のスピード、F-35機体の形態、支払い計画について条件を設けているようで、初号機の受領が2021年との条件にも「極めて重要:crucial」との言葉が使用されている
取材に対し匿名の国防省関係者は、F-35に余分な機体など存在しないと語り、ギリシャの要求を満たせるF-35機体は存在しないと語っているが、最近初期に生産されたF-35が、量産を目指す最新型と形態が大きく異なり、実戦用に改修するには大きな投資が必要で米空軍が苦慮しており、仮設敵機部隊(アグレッサー)としての使用も検討していると報道されている状況でもあ

F-16 Greece2.jpgまた、昨年トルコがロシア製防空システムS-400を導入開始したことでF-35計画から除外され、トルコが購入予定だった約100機の行き先が宙に浮いているとの見方があるが、その場合は「中古」と言えないと国防省関係者はコメントしている
仮にギリシャがF-35新造機を希望する場合でも、既に2024年分までの製造計画と提供先はセットされており、それ以降でないと製造ラインに乗らないと軍需産業関係者は語っている
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トランプ大統領の最後の腕力で、この契約もまとめるのでしょうか? 

UAEへの売却については、米議会の中で「売却阻止法案」を提案する議員の動きがあるようですが、こちらの方もあと2か月でまとめ上げるのでしょうか。最近ノルウェーもF-35を機種選定対象にしたとか、風のうわさで聞きましたが・・・。

F-35 Greece4.jpgF-35は、開発中に生産をなし崩し的に始めたことから、それでなくても部品製造と供給網と兵站管理システム機能不全なのに、多様な異なる形態のF-35が混在して、現場整備員に大きな負担を強いています。米国内のコロナ蔓延でサプライチェーンは混乱が増幅しており、明るい話題がないのですが・・・

最近のF-35記事
「UAEへの輸出に事実上合意」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-10-26
「ODIN導入開始」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-10-24
「中東でかく戦えり」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-08-19
「機種別機数が第3位に」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-07-07
「B型とC型が超音速飛行制限甘受」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-04-27
「元凶:ALISとその後継ODINの現在位置」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-17
「ボルトの誤使用:調査もせず放置へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-29
「ポーランドが13カ国目に」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-03
「維持費削減:F-35計画室長語る」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-05-03
「同上:米空軍参謀総長が」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-03-02

ALIS関連の記事
「ODIN導入開始」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-10-24
「元凶:ALISとその後継ODINの現在位置」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-17
「ALISを断念しODINへ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-22
「ALIS問題を議会で証言」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-11-15
「ALISは依然大きな障害」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-02-02

F-35維持費削減は極めて困難
「国防省F-35計画室長が語る」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-05-03
「米空軍参謀総長が語る」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-03-02
「F-35の主要な問題や課題」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-12-17
「維持費をF-16並みにしたい」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-04-01-1

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統合作戦に隠れた大きな壁:Data Formatsの相違 [Joint・統合参謀本部]

陸軍と空軍の2年計画の検討は壁突破の先陣
「これは技術の問題ではなく、文化の問題だ」

ABMS.jpg9日付C4ISRnetは、中露に対抗して行くため米軍各軍種が重要と強調している統合ネットワークによるリアルタイムの情報共有や指揮統制において、その進展を阻んでいるのは各軍種の「データのフォーマットや基準や構成」の相違であり、技術の問題ではなく文化の問題だと指摘しています

そしてこの軍種間の文化の壁を打破するためには、各軍種のリーダーや意思決定者が、過去の経緯へのこだわりを捨て、現在利用可能な最新技術を生かせるような「data standards:テータ基準」の受入れに踏み込むことだと主張しています

Project Convergence3.jpg「データのフォーマや基準や構成: common data format ,standards, and architectures」との言葉が、具体的にどのようなものを指しているのか基礎知識がなく、記事にも説明がないので抽象的にしか書けませんが、複数の責任ある関係者が「最も難しい部分」、「過去の失敗の原因」と指摘していますので捨て置けません

なお、まんぐーすが斜に構え、冷ややかにご紹介した10月の米陸軍と空軍の「JADC2コンセプト共同開発2年計画」合意は、この問題に正面から立ち向かう米軍の中では画期的な第一歩で、この問題に苦悩していた関係者には大きなニュースだった模様です。まんぐーすは反省しております

ただ、米陸軍による長射程攻撃兵器への重点投資について、米空軍が反対の意向を持っていることに変化はなく、次期政権の国防長官にはこの辺りの調整も期待されています

9日付C4ISRnet記事によれば
米空軍が主導して進める全ドメイン統合指揮統制(JADC2)や先進戦闘管理システムABMSは、全ての軍種のセンサー情報を最新AIやIT技術を用いて融合し、各級指揮所や指揮官がリアルタイムで情報を共有し、強靭なネットワークで全軍種の最適な兵器に遅滞なく提供して戦いの主導を握ることを目指している
Project Convergence.jpgここで重要なのは、各種センサー情報や指揮統制指示が、切れ目なくリアルタイムに共有されることだが、そのためには関連データが、合意された基準に基づいた共通の形式であることが不可欠である

しかし複数の専門家は、現在の米軍では、組織文化の壁から、非常に難しい課題となっていると指摘している
軍需産業幹部は「共通のデータ基準を定めることは、生きるか死ぬかの問題だ」とその重要性を強調し、その難しさを元米海軍副CIOの退役少将は「この問題克服は各軍種の文化の壁を乗り越えることで、データ共通基準を追求する過程で、多くの努力がこれまで無駄になってきた経緯がある」と振り返っている

しかし10月に米陸軍と空軍が合意した「Combined Joint All-Domain Command and Control」を目指す2年間の検討合意は画期的で、データ共有の基準やインターフェース検討から開始することになっている
担当する陸軍准将は、「米軍の軍種間にはデータに関して異なった考え方が存在するが、陸軍と空軍は統合作戦遂行の優位性を確保するため、同じ道を歩み始めている」、「両軍はデータのフォーマや基準や構成について緊密な協議を開始している」とこの合意について語っている

Project Convergence4.jpgそして「来年米陸軍は、米空軍のABMSを米陸軍のProject Convergenceと融合させたいと考えている」とのスピード感で取り組んでいると力説した
この動きに関して、元米海軍副CIOは「組織のリーダー同士がオープンに透明性をもって対話することが必要」、「現在利用可能な最新技術を生かせるようなテータ基準の受入れに踏み込むことが必要」とコメントしている

10月上旬に発表された「国防省データ戦略」はこの文化の壁打破を図る必要性を示唆しており、産業界が導入している「open-data architectures」の基準導入を促している。またこの戦略に関し民間コンサルタントは「open-data architectureや基準化は、他では得られない能力獲得への道である」と強調している
国防省のCDO(chief data officer)Dave Spirk氏は10月末に講演で、過去には各軍種のデータ管理に関する担当部署や担当者を、相互に把握していないレベルの状態だったが、今では相互に人的関係を築き、定期的にコミュニケーションをとるまでに至っており、文化の壁を超えつつあると語っている

ABMS2.jpg現存するデータ基準の相違を乗り越えるため、米空軍戦略計画部長のClinton Hinote中将は「翻訳機(translators)」のような機能を構築する事を考えている」と10月中旬に発言しているが、これに対して専門家は「データ間の翻訳はデータ共有に遅れを生じさせる。AIや機械学習の最大活用を考えるとデータ基準の統一が最善のはず」と懸念している
一方で米軍各軍種は、既存のレガシーアセットを今後数十年使用していく必要もあり、新たなデータ基準を導入に踏み切る場合の対応を考える必要がある
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このような問題が存在することを、頭において今後の報道を見守りたいと思います

それ以上、何もコメントできませんが、「技術の問題ではなく、(軍種間の)文化の壁が問題だ」との言葉に「さもありなん」と腹落ちいたしました

ここにも、中露と戦う前に、陸海空軍海兵隊が相互に戦う様子が見え隠れしています・・・

実は米陸軍と空軍の2年計画は画期的だった
「米陸軍と空軍がJADC2コンセプト共同開発にゆるく合意」
https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-10-06

米海軍と海兵隊は我が道なのか
「米海軍の戦術ネットワークProject Overmatch」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-10-15
「米空軍の課題:他軍種はABMSに懐疑的」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-09-12

全ドメイン指揮統制連接実験演習:ABMSとJADC2関連
「突然前倒し?第3回目は太平洋で」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-09-29
「2回目のJADC2又はABMS試験演習」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-09-05
「初の統合「連接」実験演習は大成功」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-23
「国防長官も連接性を重視」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-09
「将来連接性を重視しアセット予算削減」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-28

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米海軍長官がアジアに第1艦隊編成を要望 [Joint・統合参謀本部]

シンガポールか?Andaman島か?
「We want to stand up」との表現で煮詰まっているのかな?

Braithwaite.jpg17日、Kenneth Braithwaite海軍長官が潜水艦協会年次総会で講演し、中国軍の活動が活発になる中、インドーアジア太平洋を第7艦隊だけでカバーするには無理があることから、1973年に一度消滅した「第1艦隊」をインド洋から太平洋をカバーしやすい場所で再編成したいと語りまし

米海軍の「艦隊」と言ってもその規模や形式は様々で、「艦隊」の中でも最大のアジア太平洋担当「第7艦隊」は、横須賀を拠点として約2万の兵士と艦艇・潜水艦70隻(空母攻撃群含む)、航空機150機の大所帯ですが、昨年末に編成された「第2艦隊」は、200名規模でロシア潜水艦探知追尾の指揮統制調整を担う小規模組織で、海軍長官の言う「第1艦隊」がどの程度を意味するのか明確ではありません

Fleet.jpg冒頭でもふれたように「We want to stand up a new numbered fleet」との表現で、今後受け入れ先の調整を丁寧に進める必要性にも言及しており、どこまで煮詰まっているのか不明ですが、「インド洋と太平洋のクロスロードに設けたい」と述べていることから、調整中の微妙なタイミングなのかもしれません

以下では、海軍長官の発言と、「第1艦隊」の拠点となる候補地に関する米軍事メディア記事をご紹介しておきます

19日付Military.com記事によれば
17日、Braithwaite海軍長官は「我々は新たな艦隊を立ち上げ、インド洋と太平洋の間のクロスロードに配備したい。そして同地域のプレゼンスを高めたい」と語った
Braithwaite3.jpg同長官は、アジア太平洋域には米海軍最大の第7艦隊が活動しているが、その担当領域もまた世界最大であり、第3艦隊の支援を受けつつ、なんとか南シナ海での航行の自由作戦などに懸命に対応している現状を説明しつつ、これ以上第7艦隊だけに頼っていられないと訴えた

また、中国軍の急速な戦力増強と活動活発化を訴え、9月には中国海軍空母2隻が同時に海上行動に出るなど、その行動範囲も拡大していると背景を説明し、新たな艦隊はそれら中国軍に対する強力な抑止力になりえると訴えて「だから第1艦隊を立ち上げようとしているのだ」と語った

具体的な配備先に関し海軍長官は、「我々は地域の同盟国やパートナ国であるシンガポールやインドなどと相談しなければならないし、不測の事態に備えて、懸念のある必要な場所に艦隊を配置しなければならない」と語った
Braithwaite2.jpgまた「チョークポイントのそばのシンガポール以外でも、米軍だけでなく、同盟国等にも安心感を与えられるような、アジア太平洋域全体への展開派遣に適した場所に第1艦隊を配置したいと考えている」と述べた

シンガポールには現在既に、米軍関係者約1000名が所在し、沿岸戦闘艦LCSがローテーション派遣されており、西太平洋の海軍兵站群が燃料弾薬食糧などの提供を担い、第7艦隊艦艇への支援も行っている(ので有力な候補地だ)
シンガポール大学のIan Chong准教授は場所・港湾設備・支援施設拡張の余地等からシンガポールは第1艦隊配備の適地だとしつつも、仮に空母攻撃群まで配備するとなれば、中国との関係に神経を使う地域諸国の現状から相当に調整が難航するだろうとコメントしている

他の候補地として、フィリピンのスービック湾も候補だろうが、同国の支援が得られるかは不透明で、同様にマレーシアやインドネシアも協力的とは考えにくく、施設面でも相当のテコ入れが必要
Andaman Island.jpgまたベトナムのカムラン湾も候補にはなるが、ベトナム政府や国民の支援は難しく、同盟国のタイも期待できるとは言い難いと同准教授は見ている

マラッカ海峡に近く、人口密度が低いことから政治的に受け入れ可能性が比較的高いとみられるインド領の「Andaman Island」の可能性を指摘する専門家もいるが、同准教授は関連施設を整備するには莫大な資金と時間が必要な点を懸念している
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前任者が空母ルーズベルトでのコロナ爆発感染とその後の措置を巡って辞任し、5月末から海軍長官を務めるBraithwaite氏は本ブログ初登場です。海軍士官学校卒業の60歳で、約10年の対潜ヘリや広報担当正規士官勤務をを経て予備役に転換し、「Public Affairs」専門で2011年に准将で退役した人物で

海軍長官の前は、2018年2月から2020年5月までノルウェー大使として赴任していますが、海軍退役後の期間に、「Cambridge Analytica」と言う2016年米大統領選で情報工作に関与したとされる外国企業に所属していた件でメディアの注目を浴びたこともあったようです

予算や艦艇の回しが厳しい中で、あくまで「We want to stand up」との表現の「第1艦隊」復活構想ですので、慎重に見守るべき話だとは思いますし、実現するにしても規模は限定的で名前でアピール的な気がします。外交面でも一筋縄では進まない事業であることを念頭に置く必要がありましょう・・・

アジア太平洋軍関連の記事
「司令官が在日米海兵隊削減を示唆」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-09-25
「米海兵隊は戦車部隊廃止へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-25
「2つの長射程対艦ミサイルを柱に」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-06
「アジア認識を語る」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-04-07
「欺まんで中国軍を騙せ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-12-21
「西太平洋の基地防御は困難」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-09-23
「現空軍トップとベトナム訪問」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-09-14
「アジア太平洋で基地増設検討中」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-08-28 
「太平洋軍司令官が議会に要望」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-04-29
「中露空軍の連携飛行を警戒」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-07-31
「PACAFが緊急避難訓練」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-04-27
「燃料と弾薬の備蓄不足を語る」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-03-02-1

Wikipedia第1艦隊
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC1%E8%89%A6%E9%9A%8A_(%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E8%BB%8D)

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ミラー臨時長官が特殊作戦軍を4軍と同格扱いに [米国防省高官]

特殊作戦担当次官補に長官への直接報告を指示
陸海空軍長官と同等の扱いに

Miller8.jpg18日、Christoper Miller臨時国防長官が米軍特殊作戦部隊の「母基地」との位置づけにあるノースカロライナ州の米陸軍Fort Braggを初の部隊訪問として訪れ、米軍の特殊作戦担当高官が国防長官に直接報告するように指示したと明らかにし、具体的にはEzra Cohen-Watnick特殊作戦軍担当次官補(臨時)が、政策担当次官を介することなく直接報告できるように仕組みを変更しました

Miller6.jpg国防長官への直接報告は、陸軍、海軍、空軍の各長官に認められているものですが、Cohen-Watnick次官補に同等の権利を与えることで、米軍の重要な役割を担いながら現場の意見や不満が中央に届いていないとの特殊作戦軍関係者の不満に、その道のプロである臨時長官として「いの一番に」答えたということでしょう

この扱いが一時的なものか、恒常的なものになるのか位置づけがよくわかりませんし、予算とか行政運用面での変化があるとも考えにくいのですが、アフガンとイラクの米軍兵士削減を発表した翌日に、この発表を同基地の米陸軍特殊作戦部隊記念碑の前で行った模様で、約2か月間の短期間に賭けるミラー臨時長官の思いが詰まった動きの様なのでご紹介しておきます

18日付Military.com記事によれば
Miller5.jpg18日ミラー臨時長官は、長官として初の部隊訪問先として選んだFort BraggのArmy Special Operations Command Memorial Plazaの前で、「私は特殊作戦担当の文官職員に対し、国防長官に直接報告するよう指示した。初めて陸海空軍長官と同等に扱うことにしたのだ」、「この改革は、国防省と米軍の機敏性を改善し、意思決定を円滑にし、より迅速に現場指揮官と陸海空海兵隊の関連兵士たちを支えるためである」と説明した
また「トランプ大統領の支持を得て、米国特殊作戦軍の新たな歴史を開き、改革の分岐点とする。今ここから、我々はより強固な文民監督のもと、重要な特殊作戦を擁護し支援していく」と指示の背景を説明し、この動きは2017年国防授権法で認められたものだと述べた

また同臨時長官は、特殊作戦軍の地位向上は、16日に示した同長官の3つの目標(アフガン及びイラクでの戦いの終結、対中露を重視する国家防衛戦略NDSの継続遂行、transnational threats対応の加速)と、方向を同じくするものだとも述べ、1987年に特殊作戦コマンドが編成されて以来の関係者の不満に対応するものだと説明した
Cohen-Watnick.JPG更に同長官は、ここ最近の国防省内の人事の動きや同長官の取り組みが反発を生んでいることに触れつつも、トルーマン大統領の言葉「ワシントンDCで友人を得たければ、犬を飼え」を引用し、気にしない姿勢を示唆した

具体的に陸海空軍長官並みの直接報告権を与えられるのは、Ezra Cohen-Watnick特殊作戦&低列度紛争担当次官補で、上司である政策担当次官を通じてではなく、直接報告することが認められることになる
Cohen-Watnick次官補は、「臨時長官の指示は、60年前に当時のケネディー大統領が予言していた特殊作戦の地位や重要性向上のビジョンを、トランプ大統領の下で具体化したものだ」と表現している
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特殊作戦担当次官補が陸海空軍長官と同等の直接報告権を得たことが、どれほどの影響があるのか理解できていませんが、来年1月20日までの短期間で、特殊作戦部隊重視で突っ走ろうとの姿勢はよくわかりました

Miller7.jpg「ワシントンDCで友人を得たければ、犬を飼え:If you want a friend in Washington, buy a dog」は直訳的に解釈すれば、様々な人々の思いが交錯する政治の町ワシントンDCで、人間の友人を得ることは難しいから、犬でも飼って話相手にした方が良い・・・との言葉ですが、何をやっても反対する人はいるのだから、自分の信じる道を進ませてもらう・・とのミラー長官の決意表明と受け取っておきましょう

「トランプ大統領の支持を得て」との言葉が複数回使用されており、今のトランク氏の状況からすると心配ではありますが、自らがアフガンなど中東で特殊作戦に従軍した元大佐の決意ですので、その成り行きを見守りましょう・・・

話題のEzra Cohen-Watnick次官補は、エスパー長官更迭を受け辞任した情報担当次官の臨時後任に指名されたはずなのですが、その辺りの関係はよくわかりません

対テロ専門家の臨時国防長官をご紹介
「臨時国防長官Christopher Miller氏はどんな人」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-11-10
「16日に3つの目標を全国防省宛てに明示」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-11-18
「アフガンとイラク派遣兵力削減指示」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-11-17

バイデン政権の国防長官最有力候補フロノイ女史の思考
「必要な国防政策を語る」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-08-12
「米議会で中国抑止を議論」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-17
「バイデン政権で国防政策はどう変わるのか」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-11-09

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Miller臨時国防長官が3つの目標を示す [米国防省高官]

13日の全国防省&米軍宛メモの補足文書の位置づけで
16日に「私の目標:my goals」を示す

miller1116.jpg16日、Christopher C. Miller臨時国防長官が13日発信の全国防省&米軍勤務員宛就任メッセージに続き、勤務に当たり国防長官として目標とする点を「より絞り込んで正確に: more finite and precise statement」伝えるための文書を、再び国防省と米軍勤務者全員に向け発信し、3つの具体的優先事項を明らかにしました

17日にアフガニスタンやイラク派遣米軍を政権交代直前の1月15日までに相当数削減する事を記者会見で公式表明し、全世界にその姿を初披露した同臨時長官ですが、その前日に著名なアメリカンフットボール監督の言葉を引用しつつ、3つの「目標」を達成するため、各人が持ち場でそれぞれの仕事・任務を果たすことを期待すると呼びかけています

3つの目標と臨時長官の思い
現在の戦いを、責任ある形で終わらせ、米国民の安全を確保する
引き続き2018年国家防衛戦略NDS遂行に努め、特に将来の戦略環境に対応しつつ、大国間の紛争(great power competition)への備えに焦点を当てて取り組む
米国政府が全政権を挙げて取り組む「transnational threats」対処に、国防省としてよりスピード感をもって取り組む

この明確な目標に向かって前進するにあたり、私が良く思い浮かべるシンプルだが力強いフットボールコーチBill Belichick氏の言葉「Do your job」を紹介しておく

我々はチームであり、この言葉を心に刻んでもらいたい
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「Transnational Threats」とは、非国家組織による、テロ、組織的国際犯罪、大量破壊兵器の入手などに代表される、特定国家がもたらす脅威とは異なる種類の現代的脅威で、交通や通信技術の発達と普及を受け大きな脅威となり、携帯電話や電子メールやインターネットの発達普及により世界中に拡散しつつある脅威(ブリタニカ百科事典)・・・です

Belichick.jpgBill Belichick氏は、現在ニューイングランド・ペイトリオッツのヘッドコーチで、ヘッドコーチとして6回のスーパーボウルを制覇している名将です。4年間で3回優勝を果たしたヘッドコーチは彼だけ。また、ニューヨーク・ジャイアンツ守備コーチとしても2度のスーパーボウル優勝に貢献しています

アメフトのような複雑な戦略・戦術を繰り出すのでしょうか・・・・。対テロとTransnational Threatsの間に、great power competitionが挟まれている構図のようです。今後2か月間は・・・

16日の臨時長官メモ現物
https://www.airforcemag.com/app/uploads/2020/11/MESSAGE_TO_THE_DEPARTMENT_ACTING_SECRETARY_MILLERS-GOALS_OSD010972_20_FOD_FINAL1.pdf

対テロ一筋の臨時国防長官をご紹介
「臨時国防長官Christopher Miller氏はどんな人」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-11-10
「アフガンとイラク派遣兵力削減指示」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-11-17

バイデン政権の予想
「バイデン政権で国防政策はどう変わるのか」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-11-09

バイデン政権の国防長官最有力候補
初の女性長官誕生か:フロノイ女史の思考
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トランプ大統領アフガンとイラク派遣兵力削減指示へ [米国防省高官]

11月17日、Miller臨時国防長官が正式に発表しました!
https://www.military.com/daily-news/2020/11/17/trump-makes-it-official-troop-reductions-iraq-afghanistan.html
///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

大統領交代直前の1月15日期限で
対テロ専門家の臨時国防長官指名はこのため!?
イラン攻撃が話題な中ですが・・・

Trump8.jpg16日付Military.comが、トランプ政権が来年1月15日までにアフガニスタンとイラク駐留米軍兵力数を、それぞれ現在のアフガン約5000名を2500名に、イラク約3000名を2500名に削減する大統領指示を準備しているとの政府高官の発言を紹介しています

トランプ大統領はこれまで、2020年末までにアフガンとイラクから全ての米軍兵士を撤退させると主張してきましたが、さすがに国防省など各所からの反対意見が強く、上記レベルの削減に落ち着く模様だと報じられています

Miller.jpg更迭されたエスパー前長官の後任に指名された「対テロ専門家」のChristopher Miller臨時国防長官も、職務開始直後の13日に国防省全職員宛てメモで、中東での米軍の戦いの終了を考えることの重要性を強調しており、来年1月20日のバイデン政権スタートまでの期間で、臨時国防長官が重点として取り組む方向が明らかになってきたような気がします

現場を担当する米軍司令官は兵力削減に反対で、早急な米軍削減発表が現地勢力との交渉を不利にするとの懸念の声も聞こえる中、先の週末には関連米軍指導者たちにトランプ政権の方針が伝えられた模様です

米軍削減指示の具体的内容については細部を検討中とのことですが、米国はクリスマス休暇返上で、様々な動きがありそうな雰囲気です

16日付Military.com記事によれば
この兵力削減が期限までに実行されれば、バイデン政権誕生の5日前に完了することになる。ただこの発表にあまり驚きはなく、エスパー前長官の更迭や後任者人事からこの動きを予想していた関係者も少なくない
バイデン氏は選挙期間中、兵力撤退について具体的なことは述べず、対テロに焦点を当てた幾らかの兵力のみを残すべきと述べており、「米国は長引く戦いを憂いており、戦いを状況に応じ終わらせねばならない。その際、米本土が二度と攻撃を受けないよう確実にすることが必要」とぼんやり表現している

Miller4.jpg一方Miller臨時国防長官は、職務開始直後の13日に国防省全職員宛てメモで、「我々は過去の戦略的過ちを繰り返さないよう、終わりを見据えて戦わねばならない。全ての戦いは終わらせねばならない」、「戦いは長く犠牲は膨大で、私を含め皆が懸念している。終結には妥協と協力が不可欠である。我々はこの課題に全力で対応してきたが、今や国に帰る時だ」と述べている
トランプ政権の姿勢は安定せず、10月7日に大統領が「少数の精鋭部隊を残し、クリスマスまでに派遣兵士を帰還させる」とツイートしたが、O’Brien大統領補佐官はこのツイートに関する記者団の質問に対し「大統領は希望を述べたに過ぎない」と説明したが、併せて「アフガン派遣兵士を2500名まで削減する方向だ」と述べが、その時点で米軍や国防省は何も話を聞かされておらず、現場が大いに混乱した経緯がある

McKenzie.jpgFrank McKenzie中央軍司令官などは、早急な兵力削減発表や実施は、タリバンと現アフガン政権や関係勢力代表たちとの話し合いに水を差すことや、イスラム国勢力掃討に影響すると難色を示してきたところである。また兵力削減は、共に行動してきた同盟国等と慎重に協議する必要があると訴えてきたところである
米軍幹部はまた、アフガン現地には米国に持ち帰るべき大量の重要で非公開の装備が持ち込まれており、その撤収には相当の時間が必要と主張してきた

McKenzie司令官などは兵力削減加速に反対姿勢であったが、政府高官によれば、対テロ作戦継続に必要な戦力を残し、緊要な装備品の引き上げには余裕を与える前提で、兵力削減を受け入れたと言われている
タリバン側はアフガン軍への激しい攻撃を毎日のように行っており、タリバンとアフガン政府との協議は、カタールで1か月間以上断続的に行われているが、ほとんど進捗がない状況と伝えられている
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McKenzie2.jpgアフガニスタンやイラクの情勢をほとんどフォローしておりませんが、Miller臨時国防長官は約2か月の任期で、この問題に重点的に取り組むということです。対イランとの噂もありますが・・

現場の兵士が危険にさらされることがないよう、また中東の一般市民に犠牲者が出ないことを祈るばかりです

対テロ一筋の臨時国防長官をご紹介
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バイデン政権の予想
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バイデン政権の国防長官最有力候補
初の女性長官誕生か:フロノイ女史の思考
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米空軍内に電子戦(spectrum戦)専門の航空団創設へ [米空軍]

米国防省の電子戦戦略発表を受け
サイバー戦と情報戦を担う第16空軍の下に

Wilson3.jpg10月30日、Stephen Wilson米空軍副参謀総長がオンラインイベントで、米空軍戦闘コマンドACCのサイバー戦と情報戦を担う第16空軍の下に、まもなく電子戦(spectrum戦)航空団(Wing)を立ち上げると述べ、同28日に発表された米国防省の電子戦(spectrum戦)戦略を受けた流れだと説明しました

本来なら10月29 日発表の米国防省の電子戦(spectrum戦)戦略(Defense-wide electromagnetic spectrum strategy)について説明し、その上で米空軍の話をすべきですが、この国防省の新戦略が内容がよくわかりません

29 日の新戦略発表で国防省担当幹部は
EW Cognitive2.jpg新戦略では、従来の伝統的な電子戦分野である電子妨害や心理戦活動、商用・公用・軍用の電磁波運用管理だけでなく、米軍が電磁波の世界で容易に隠れる(Hide)ことが出来たり、商用周波数帯を作戦用により容易に使用出来たりする方向である
また、敵の周波数使用を容易に拒否できるようにする方向を追求する

日々の電磁スペクトラム運用を司る「combatant command」を創設する方向で検討する
具体的なロードマップ(EMS roadmap)は、Hyten統合参謀本部副議長らが中心となり来年3月までにまとめる
・・・と説明していますが、よくわかりません。軍用の周波数帯を不必要時に民間に貸し出す代わりに、必要時に商用周波数を軍が使用できるような枠組みを含んでいるとの説明もあるようです

そんな国防省の新戦略を受けた米空軍の動きですので、とりあえずご紹介しておきます

10月30日付米空軍協会web記事によれば
Wilson.jpgWilson副参謀総長は、「米空軍は過去数年間、電子戦について深く検討してきたこともあり、国防省の新戦略発表をうれしく思う」と述べ、過去約20年間のテロとの戦いで電子戦を軽視してきた過去を反省し、見捨てられた状態にあった電子戦能力なしでは「すべてのドメインで敗北を期すことになる」と危機感を訴えた
空軍戦闘コマンドのMark D. Kelly司令官が電磁スペクトラムを掌握する人材を集め、「spectrum warfare wing」を立ちあげる予定だと同副参謀長は述べた

新設される電子戦航空団(spectrum warfare wing)は、サイバー戦部隊と情報ISR戦部隊を合併して2019年秋に創設された第16空軍の配下に設けられ、サイバーと情報戦との融合を目指す
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Electronic Warfare.jpg10月29日の電子戦の新戦略発表は、匿名の国防省高官が「backgroundブリーフィング」として行っており、中国やロシアに「手の内を明かさない」最近の米国防省の姿勢を反映したものだったようです

サイバーと情報ISRと電子戦を融合して運用する・・・理にかなった方向で、どんどん進めていただきたいのですが、我が自衛隊の状況を思うと全く追随できていないであろう現状が心配です

関連のC4ISRnet記事
https://www.c4isrnet.com/electronic-warfare/2020/11/17/us-air-force-sets-sights-on-new-spectrum-warfare-wing/

第16空軍の関連記事
「新設第16空軍の重要任務は2020年大統領選挙対策」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-19
「遅延中、ISRとサイバー部隊の合併」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-08-24
「米空軍がサイバー軍とISR軍統合へ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-04-06-3

ロシアの電子戦に驚愕の米軍
「東欧中東戦線でのロシア軍電子戦を概観」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-06-09-1
「ウクライナの教訓」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-05-08
「露軍の電子戦に驚く米軍」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-08-03-1
「ウクライナで学ぶ米陸軍」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-02

EW関連の記事
「国防省EW責任者が辞任」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-12-19
「ACC司令官が語る」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-04-19
「米空軍がサイバーとISRとEwを統合」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-04-06-3
「電子戦検討の状況は?」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-12-13
「エスコート方を早期導入へ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-27

「米空軍電子戦を荒野から」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-17-1
「ステルス機VS電子戦攻撃機」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-22
「E-2Dはステルス機が見える?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-06-12

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2021年版「中国安全保障レポート」はサイバー宇宙情報軍民 [中国要人・軍事]

新ドメインを扱い最若手を執筆責任者に抜擢

China report2021.jpg11月13日、防衛省の防衛研究所が毎年恒例第11回目となる「中国安全保障レポート2021」を発表しました。副題として「新時代における中国軍事戦略」を掲げ、情報、サイバー、宇宙、軍民協力といった関心の高い新ドメインを取り上げています。まだ本レポートは日英中3か国語で提供され、防衛研究所webサイトで無料公開されています。

このレポートは、世界に大きな影響を与えつつある中国の戦略的・軍事的動向を、中国専門家だけではなく、他地域の専門家の視点も交えて分析し、「あくまでも執筆者の個人的見解で、防衛省の公式見解ではない」との注釈付ながら、実質的には防衛省の見方を国内外に発信するためのものです

巻頭で「現在では本研究所を代表する出版物として各国・地域の研究機関やメディアなどから高い関心を集めるようになっている」と自ら記載しているように、中国を見る上での貴重な資料ですので、末尾の過去記事と合わせ、ぜひご活用ください

以下では手を抜いて、2ページにまとまられている「要約」部分の概要をつまみ食いでご紹介いたします

第1章 情報化戦争の準備を進める中国
ISR War China.jpg中国が現在まで一貫して採用している「積極防御」戦略は、毛沢東以降の共産党指導者による軍指導の過程で、徐々に先制攻撃重視に変化してきている
毛沢東時代のは、攻撃を受けた後に反撃する「後発制人」を前提とし、鄧小平時代には通常兵器使用の局地戦争が戦略レベルに引き上げられ、積極防御戦略は局地戦争の持つ先制攻撃概念も内包するようになった

江沢民時代は、「ハイテク条件下での局地戦争」における勝利を目指し、胡錦濤時代に差し掛かる頃には情報の重要性が認識され、「情報化条件下での局地戦争」の勝利を目指し、先制攻撃の重要性が高まった
習近平政権になると、宇宙・サイバー・電磁波といった新領域を効果的に運用した情報化戦争における勝利が志向されるようになる。軍種の境界を無くして統一指揮される軍隊が、人間の判断によって物理的対象を攻撃する

さらに、智能化戦争の段階に至ると、方針決定に人工知能やゲーム理論を利用し、相手意図を分析して指揮官に提供する指揮システムが構築され、攻撃対象もサイバー空間や認知空間など非実体的なものが含まれるようになる

第2章 中国のサイバー戦略
Cyber war China.jpgPLAは、情報支配を意味する「制情報権」が現代戦で核心的主導権が重要との認識を持ち、自身の情報化とともにサイバー戦略を発展させてきた
2015年末新設の戦略支援部隊は、「制情報権」掌握に加え、宇宙・サイバー・電磁波領域を含めた統合作戦の情報支援、先端技術の軍事力転化などを担うとみられる。またPLAは「制情報権」掌握のため、平時から情報窃取を目的とするサイバー作戦や、戦争初期の段階で機先を制するサイバー攻撃を重視している

他方で、PLAは情報化を進める中で情報システムへの依存を深め、情報産業で外資導入を進めた結果、脆弱性を抱える現状に危機感を強めている。このためPLAは、サイバー核心技術の国産化と専門人材の育成を図っている
また「制情報権」の観点から、自国主導のサイバー空間に係る国際規範と国際標準の拡大を目指しているが、中国の活発な取り組みは、米国からの厳しい警戒と対応を招いてい

第3章 中国における宇宙の軍事利用
Space China.jpg中国の宇宙活動は当初から密接に軍事と関わりながら展開してきた。他方で、PLAで宇宙の軍事価値が広く認識されるようになったのは、1990年代以降の湾岸戦争等を通じてであり、現代戦勝利の鍵は情報で、そのため宇宙を制する必要が強く認識されるに至った。来たる智能化戦争でも、宇宙は戦争遂行上、不可欠な領域として位置付けられている
PLAは陸海空作戦支援に宇宙を利用するとともに、他国の宇宙利用を妨げる能力も整備している。また中国では、政府や軍の支援を受け新興宇宙企業が急速に技術力を向上させており、将来的には軍が民間の技術を導入したりサービスを利用する時代が来ると見込まれる

米中は互いの宇宙活動に強い警戒感を有し、最近では月とその周辺の空間が新たな争点領域になり始めている。またインドが 2019年に衛星破壊実験を実施した背景には、対中国抑止力を獲得の狙いあるとみられている
一方で、中国との宇宙分野での協力に前向きな国家も少なくなく、中国は軍備管理や衛星測位、宇宙状況認識などの分野で熱心に協力を進めている

第4章 中国の軍民融合発展戦略
Civil Military.jpg習近平政権の下、軍民融合を通じ軍事力強化が進められている。軍民融合発展戦略は、軍事と経済社会を結びつけ軍事力強化と国家振興を目指すものである。PLAは創設以来、生産活動に従事するなど人民との密接な関係を持ってきたが、市場経済化の過程で中国民間企業の技術水準が向上していることを背景として、PLA軍事力強化のために軍民融合が重視されてきている

習近平政権は、中央軍民融合発展委員会という強力な組織を新設し、軍民融合を進める施策を次々と打ち出し、新たな安全保障領域に係る国防科学技術工業の重点化、先端技術の積極的な軍事利用、そして核心技術の国産化などを進めている

しかし、中国が国内で軍民融合を進める一方で、積極的な投資活動・技術交流を通じ海外からの技術導入を図ることによって、欧米諸国内に安全保障観点の懸念をもたらしており、欧米諸国における貿易投資規制の強化などにつながっている
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Civil Military2.jpg情報、サイバー、宇宙、官民協力は、西側先進国では左翼勢力の反対活動や妨害活動でなかなか前進が難しい分野ですが、中国やロシアなど専制国家が得意とする分野です

一方で、レポートがサイバー分野で指摘する「PLAは情報化を進める中で情報システムへの依存を深め、情報産業で外資導入を進めた結果、脆弱性を抱える現状に危機感を強めている」との部分のように、急速に発展を遂げる分野では弱点を構成するケースも多いので注目したいものです

約100ページのレポート現物
http://www.nids.mod.go.jp/publication/chinareport/pdf/china_report_JP_web_2021_A01.pdf

防研の「中国安全保障レポート」紹介記事
1回:中国全般→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-05-19
2回:中国海軍→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-02-17-1
3回:軍は党の統制下か?→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-12-23-1
4回:中国の危機管理→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-02-01
5回:非伝統的軍事分野→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-22
6回:PLA活動範囲拡大→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-03-09
7回:中台関係→サボって取り上げてません
8回:米中関係→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-03-03-2
9回:一帯一路→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-02-11
10回:ユーラシア→サボって取り上げてません

米国防省「中国の軍事力」レポート関連記事
「2020年版」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-09-02
「2019年版」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-05-06
「2018年版」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-08-18
「2016年版」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-15
「2015年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-06-17
「2014年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-06-06
「2013年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-08
「2012年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-05-19
「2011年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-08-25-1

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ロシアがスーダン紅海沿岸に海軍拠点確保 [安全保障全般]

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ロシア法適応で武器弾薬持ち込み放題
冷戦後初のアフリカ拠点確保でインド洋への足場強化か

Sudan.jpg9日の週、ロシアはスーダンに海軍補給センターと艦艇補修施設(a naval logistic center and repair yard)を設けることで、6日にスーダン政府と合意文書を取り交わしたと明らかにしました。ロシアがアフリカに拠点を設けるのは、旧ソ連時のソマリア以来で、冷戦終了後初となります

ロシアはアフリカの拠点復活を以前から追求しており、2017年当時のOmar Hassan Ahmad al-Bashirスーダン大統領と交渉の口火を開き、同大統領がクーデターで追放された後も、2019年にアフリカ40か国を招いて行ったロシアーアフリカサミット等を通じ、同国と交渉を重ねてきた模様です

ロシアは同時に、中国やアメリカが拠点を置く同じ紅海沿岸のジブチでの拠点確保の道も探っていたようですが、こちらの方は交渉がとん挫したようです

13日付Defense-News記事によれば
Port Sudan.jpgこの合意は、スーダン政府が今後25年間、ロシアに港湾インフラや土地を無料で提供するとの合意で、25年経過後さらに10年延長のオプションも可能との内容も含まている
また合意文書は、同補給センターがロシア法の下で運用され、全ての兵器、装備品、物資を取り扱うことができると規定しており、ロシアの原子力推進艦艇の利用も可能となってい

Port Sudan2.jpgロシアがスーダンの海軍拠点に今後どれくらいを投資するのか明確になっていないが、シリアへのロシア軍展開後、ソ連時代に地中海沿岸の拠点としてきたシリアの「Tartus」港を再び確保しているケースでは、毎年40億円以上をロシアが投入して施設整備を進めていると報道されている

ロシア国営タス通信はこの合意締結に関し、軍事専門家Dmitry Litovkin氏による「ロシアの原子力推進巡洋艦が休養・補給施設として活用できることから、ロシア海軍北海艦隊やバルチック艦隊の兵士がインド洋での活動を命じられた場合、長期連続航海による消耗を強いられることがなくなるだろう」とのコメントを紹介している
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Sudan2.jpg地図からご覧いただけるように、スーダンは紅海沿岸で海岸線を有しており、ジブチの北方に位置しています。

スーダンに海軍拠点を確保することで、インド洋での活動拠点を得たとの解釈でよいのかよくわかりませんが、前述のシリアでの拠点確保に加え、ロシアはリビアの飛行場に反政府勢力支援の航空戦力を派遣しており、世界に触手を再び伸ばしていることは間違いありません

米国がゴタゴタしている中ですから注意しておきましょう

ロシアとアフリカ
「露がリビア派遣アセット増強」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-07-28
「ロシアがリビアにMig-29」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-05-27
「ロシアTU-160爆撃機が南アフリカ展開」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-22 
「特殊作戦軍が中露と対峙する」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-05-19
「米アフリカ軍削減の動き」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-14

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米国防省初:ロボット警備犬をTyndall空軍基地に配備 [米空軍]

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YouTube映像でその不気味な動きをご確認ください
武器は搭載していないようですが・・・
エスパー氏更迭で、高官の抗議辞任が相次ぐ国防省ですが・・

robot dogs.jpg10日、フロリダ州の米空軍Tyndall基地で、同基地の基地警備部隊である第325治安警備隊が、米国防省の基地として初めて運用を開始するGhost Robotics社製のロボット監視犬のデモンストレーションを行い、約1年かけて同社と共に成熟させてきた成果を披露し、基地警備の「force multiplier」として期待されている様子をアピールしまし

Tyndall.jpg同基地は2018年10月にハリケーン「ミッチェル」により壊滅的な被害を受け、所在していた事務所や隊員宿舎は全て使用不能の状態となり、所属していた55機のF-22の内、避難できなかった17機が「細部不明」の被害を受け、「修理可能」とのみ報じられている状況です。そんな厳しい基地の現状を受け、少数で広い飛行場基地を警備可能なようにロボット犬「最初の基地」に選ばれたのかもしれません

ロボット警備犬の性能は非公表のようですが、報道では
ロボット警備犬は、第325治安警備隊が保有する警備犬や他の人員にとって代わるものではなく、戦力を増強する「force multiplier」との位置づけ
半自律能力を備え、兵士や乗り物でのパトロールに不向きなエリアのパトロールを、事前に設定したルートに沿って行う予定

robot dogs2.jpgロボット警備犬はセンサーやカメラを装備し、「virtual reality」ヘッドセットを装着した警備隊本部で勤務する兵士が、ロボットからの情報をモニターし、必要に応じてロボットを操作する
ロボットをモニターする兵士は、必要に応じ無線を使用し、ロボット犬に装着したスピーカー経由で音声を発することができる

ロボット犬には「地図作成センサー」も装着可能で、移動したエリアの立体的な地図を作成可能。地下の様子を探るセンサーも準備されている模様

同社が公開している映像が多くを物語っています

百聞は一見に如かず(各70秒の映像です)
記事で紹介のGhost Robotics社のロボット犬




同社のwebサイトには更なる映像が
https://www.ghostrobotics.io/

ネット上で検索すると、豪州軍が同様の「四つ足ロボット」を地上部隊と共に演習で行動させている写真等が確認でき車輪には不向きな不整地や市街地用に「四つ足ロボット」の進出が目覚ましいようです。

robot dogs OG.jpg米空軍主導の全ドメイン指揮統制演習(JADC2とかABMS試験)では、設備や施設不十分な緊急展開先での警備用に試験活用されているようであり、今後西太平洋地域への米軍の展開時には帯同されることもありそうですのでご紹介しておきます

エスパー長官が更迭されたことを受け、トランプ政権への反発から、10日には国防省No3の政策担当次官や情報担当次官まで辞表を提出する混乱状態に米国防省が陥っています。このような隙に中国やロシアが良からぬことを企てそうで心配ですが、事態となっていますが、落ち着いていきましょう

ロボット監視犬も参加!
全ドメイン指揮統制連接実験演習:ABMSとJADC2関連
「突然前倒しで3回目を西太平洋で」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-09-29
「2回目のJADC2又はABMS試験演習」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-09-05
「初の統合「連接」実験演習は大成功」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-23

「今後の統合連接C2演習は」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-05-08-1
「連接演習2回目と3回目は」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-02
「国防長官も連接性を重視」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-09
「将来連接性を重視しアセット予算削減」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-28

「陸軍と空軍がコンセプト開発に合意」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-10-06

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米海軍の最優先事業コロンビア級SSBNの初契約 [Joint・統合参謀本部]

オハイオ級2500億円に対しコロンビア級は6000億円以下を目標

Columbia-class.jpg5日、米海軍のコロンビア級戦略原潜計画責任者であるScott Pappano少将が会見し、2031年に運用開始を予定するコロンビア級SSBN(オハイオ級の後継)の1番艦(Columbia)の建造と2番艦(Wisconsin)の建造準備契約を、約1兆円($9.47 billion)でGeneral Dynamics Electric Boatと結んだと発表しました

14隻保有するオハイオ級戦略原潜を、最低12隻のコロンビア級に更新する計画で、2021年から1番艦の建造に着手し、2027年に米海軍に引き渡し、2031年に運用開始を予定するものです

現有のオハイオ級は1970年後半に1番艦が建造され、運用中の14隻は古いもので運用開始から36年、新しいものでも24年が経過しており、米国核兵器の2/3を担うSSBNの更新は米海軍の最優先プロジェクトだと歴代の海軍トップは言い続けたきたところです

Columbia-class2.jpgコロンビア級は全長は約560フィートで、オハイオ級とほぼ同じですが、2万トンを超える潜水艦は米海軍史上最大で、ロシア海軍のボレイ級SSBNと同等の大きさです。SLBM(Trident II D5)搭載数をオハイオ級の24発から16発に削減しますが、新しい電気推進システムを搭載し、42年間燃料交換不要で維持修理費を大幅に削減可能な原子炉の搭載が予定されています

問題は価格です。現在のオハイオ級が1隻2500億円なのに対し、コロンビア級は当初4900億円を目指したものの、現在では5900億円以下を目指すとの流れになっており、米海軍では「核抑止任務は別枠予算で見てほしい」と訴え続けており、今後毎年1隻ペースの調達が継続可能なのか全く目途が立っていません

また一方で、対中国を考えた米海軍の将来体制検討では、攻撃型原潜バージニア級の急速増強(毎年3隻)との数字も出てエスパー前国防長官も推していた状況で、弱体化している海軍用造船所の能力で何が可能で何を優先すべきかも議論になっているようです

6日付Military.com記事によれば
Columbia-class3.jpg5日、Pappano海軍少将は記者会見で、「本日の契約は少なくとも12隻調達するコロンビア級SSBNにとっての重大なマイルストーンとなった」と述べ、海軍省のJames Geurts調達開発担当次官補は「多くの努力によって今日を迎えることができたが、これだけでは不十分であり、皆が協力して巨大プロジェクトを遂行し、核抑止任務遂行に貢献しなければならない」と決意を新たにした

またプロジェクトリーダーのJon Rucker海軍大佐は、「オハイオ級建造計画を1970年代に立ち上げて以来、初の戦略原潜プロジェクトであり、またオハイオ級の老朽状態から、ミスの許されない余裕のない重要プロジェクトだ」と難しさ厳しさを表現
また同大佐は、コロンビア級戦略原潜は2080年代まで長年に渡り運用する重要装備で、一番艦は初期投資も含め約1兆円(the lead ship will cost $9.2 billion)になると語った

Columbia-class4.jpg米海軍は今後毎年1隻ペースでコロンビア級を調達する計画だが、米国防省はバージニア級攻撃原潜の建造ペースアップも重点に挙げており、米海軍艦艇を担当する造船施設の労働力の質の低下問題視され、建造ミスや火災も頻発する最近の状況の中、潜水艦建造の実行可能性に疑問視するレポートがCongressional Research Serviceから10月に出されている
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米海軍は、トラブル続きで完成できないフォード級空母がニミッツ級の約2倍の価格で、コロンビア級戦略原潜もオハイオ級の2.5倍の価格と、重要装備品の開発管理がでたらめな軍種として悪名を轟かせており、コロンビア級原潜にも不安の声が多く聞かれる状況です

サイバーや宇宙や電磁波戦も含めた、抑止概念の再整理が叫ばれる中、コロンビア級戦略原潜プロジェクトの将来が明るいとは思えません。せめて、1番艦契約が粛々と遂行されることを祈ります

コロンビア級(オハイオ級の後継)SSBN計画の関連
「NKのおかげSSBNに勢い」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-06-09-2
「コロンビア級の予定概要」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-10-27
「次期SSBNの要求固まる」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-08-2
「オハイオ級SSBNの後継構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-01-25-1
「SLBMは延命の方向」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-13

多くの専門家が核兵器関連予算の縮小を予期
「バイデン政権で予想される国防政策の変化は?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-11-09

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臨時国防長官Christopher Miller氏はどんな人? [エスパー国防長官]

年初には次官補代理だった人物が臨時国防長官に
本来なら副長官が臨時長官職に就くべきと異論噴出中ですが

Trump Esper.jpg9日、トランプ大統領がツイートで、エスパー国防長官を更迭し、2020年初には次官補代理だったChristopher Miller国家対テロセンター長(上院で全会一位で承認、8月に就任したばかり)を臨時国防長官に任命すると発表しました。

Miller2.jpgChristopher Miller氏は2014年に米陸軍を退役(おそらく中佐)した人物で、軍退役後7年以上経過が国防長官就任の条件であることから正式な国防長官には就任できませんし、法的には上院で承認されているDavid Norquist国防副長官が臨時長官に就任するべきだとの異論も各所から出ていることから、ゴタゴタしそうな雰囲気です

ですが、今年年初には国防長官から4階層下の次官補代理だった「対テロ特殊作戦」の専門家が、1月までの短期間とは言え国防長官職に任命されたので、少ない情報からご紹介しておきます


米国防省サイトに残る次官補時代の経歴表等からすると
Miller.jpg1965年10月15日生まれ(55歳)でアイオワ州アイオワ市育ち。地元の高校卒業後、1983年に下士官として米陸軍予備役及びワシントンDC軍警察に入隊する
ジョージワシントン大学をROCTコースで卒業(首席で卒業、歴史学の学士)後、1987年陸軍歩兵部隊士官に任官、その後特殊作戦部隊に移り、第5特殊作戦群で多様な指揮官や幕僚職を経験する

2001年にアフガンで初実戦、2003年にはイラクにも展開、その後も中東地域に何度も派遣され、他機関や他軍種と連携しつつ特殊作戦の経験を積む
2014年に第5特殊作戦群第2大隊長か同群主要幕僚で退役(大佐:50歳)し、その後2年間は秘密の特殊作戦に関わる民間軍事会社に所属し、国防省の政策次官等をその専門知識で支えた

2018年から2019年の間、国家安全保障評議会NSCの対テロ担当上級部長と大統領特別補佐官を務めた

2020年1月から特殊作戦及び対テロ担当の国防次官補代理、その後時間を置かず、特殊作戦担当次官補に昇進
Miller4.jpg2020年8月から、国家対テロセンター長(Director of the National Counterterrorism Center)を務めていた

米海軍大学指揮幕僚大学卒で国家安全保障の修士号を得、米陸軍大学の上級指揮官コースも卒業している
奥さんと成人した娘が2人、大学生の息子一人
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急遽充実されたMiller氏のウィキペディアページ
https://en.wikipedia.org/wiki/Christopher_C._Miller 

国防長官を政権移行期間に入るこのタイミングで「更迭」することにも批判噴出中ですが、対テロから中国ロシア対処に転換を図る過程にある米国防省のトップに、「対テロ」専門家の退役中佐が実質4階級特進で就任することに興味津々です

50歳で大佐で退役していたのなら、Miller氏は、軍人として「出世街道」とは別のその道の専門家的な道を歩んだ人物です。

エスパー長官、お疲れさまでした。 国防省職員や米軍兵士に宛てた最後のメッセージ紹介報道
https://www.military.com/daily-news/2020/11/09/heres-secdef-mark-espers-final-memo-pentagon-staff.html 

「死に体:エスパー国防長官と後任候補」
https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-10-31

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バイデン政権で国防政策はどう変わるのか [安全保障全般]

臨時ニュース
エスパー国防長官がトランプ大統領に解任され、臨時国防長官にChristopher Miller国家対テロセンター長が就任すると大統領がツイートで発表https://www.defensenews.com/pentagon/2020/11/09/esper-fired-as-secretary-of-defense/
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今後、山のように出るであろう予想分析の一つです
上院をどちらがとるかにもよりますが・・・

Biden3.jpg7日付米空軍協会web記事が「バイデン政権誕生は国防政策にとって何を意味するのか?」との記事を掲載し、広く浅く、国防政策における変化を複数の専門家の意見を交えて紹介していますので、とりあえずご紹介しておきます

国家防衛戦略NDSで示された方向も、予算枠も大きく変わらないだろうし、変えようもないとの大枠の見方ですが、最新技術や無人システム追求は変わりない一方で、海外派遣兵力の見直しが予期され、核兵器や宇宙軍やF-35などの扱いの優先順位が下がるかもしれいないとの分析を紹介し、イラン核合意やオープンスカイズ条約への復帰や、新START条約の5年延長に進むだろうと予想しています

Biden.jpg気になるのは上院を共和党が守るか、民主党多数になって下院とのねじれが解消されるかですが、現時点で48-48議席で、残り4議席(North Carolina, Alaska ,Georgia2つ)は1月まで決定しない模様で、同点の場合は副大統領が一票入れる仕組みなので予断を許しません。また、共和党議員の中には民主党員的な投票行動をとる議員もいて混迷度合いが深まっているのが現状らしいで

誰のコメントか細かく区分して紹介していませんが、Michael O’Hanlon、Lawrence Korb、Thomas Spoehr、Todd Harrison、Gordon Adamsのコメントです。とりあえず、広く浅くご紹介して置きます

7日付米空軍協会web記事によれば
厳しい財政状況はだれが大統領になっても変わらず、トランプ大統領自体もフラットな国防費を予言していたところであるが、バイデンがどれだけ国防費削減に取り組むかには意見が分かれている
民主党のサンダースやウォーレンのような10%カットに取り組むことはないし、現実に大統領になれば、米軍が直面している厳しい情勢や装備品の状況を目の当たりにし、想像以上に厳しい状況に驚くことになろう。オバマ大統領1期目も、国防費削減を予言しながらそれほどでもなかった経緯もある

Smith2.jpg米議会との関係では、Adam Smith下院議員が米議会とバイデン政権の橋渡し役を果たすことになろう。ちなみに同議員は核抑止関連予算の削減を主張している
同議員はまた国家防衛戦略NDSを「中露との危険で不必要な冷戦へのレシピ」と酷評しているが、多くの専門家は、バイデン政権が新戦略を打ち出しても「great power competition」との強い表現を引っ込めるくらいで、方向性は変わらないと見てい

現在の国家防衛戦略NDSが重視する、同盟国との協力強化や打撃力の強化や国防省の業務改革は同じだろうし、極超音速兵器など最新技術兵器の追求、自律性のある無人システム重視も変化ないだろう。あえて言えば、人道支援活動の増加やトランスジェンダー兵士の受け入れ、更に人権問題がある国への武器売却規制強化は考えられる
中東やアフリカでは、外交政策を重視すると打ち出し、米軍派遣兵力削減を主張する左派の声が力を持つ可能性はあるが、特殊作戦部隊は残るだろう

Biden4.jpg欧州派遣ローテーション戦力の扱いは微妙である。5年前と比較してロシアとの緊張は低下しており、継続している陸軍旅団のローテーション派遣を止め、少数のポーランド駐留米軍に変える道もあり得る
中東では、バーレーン、クウェート、サウジからの兵力削減も可能性があるが、この辺りは上院議員選挙の結果が大きく影響する可能性がある。またドイツと韓国駐留米軍の削減に関しては、共和党内でも異論が多いことから、政権交代後に見直しの可能性があ

装備品への投資関連では、極超音速兵器や無人システム重視する代わりに、核兵器近代化関連予算や米陸軍兵員、空軍のF-35調達数、新型爆撃機の調達ペース、ICBMが削減の対象になる可能性があり、現在の宇宙軍への投資構想も見直しの対象になる可能性がある
上下院のねじれ状態が継続した場合でも、拮抗した勢力となることから、共和党側は海軍予算やF-35予算を死守するため、核兵器関連を妥協の余地がある分野として差し出す可能性がある

バイデン政権になっても、低出力核兵器や潜水艦発射の核搭載巡航ミサイルの扱いについては、両党の対立が続くだろうし、ICBMや空中発射型核搭載巡航ミサイルについても議論があろう。しかし、機会があったオバマ政権時代にも手を付けなかった問題であり、そのまま議論だけ続き現方針で進む可能性が高い
Biden2.jpg新しい核体制見直し(NPR)で、ICBMの配備数400発を削減する可能性はある。ただし、中露と何らかの合意がない限りは動きにくいだろう

新START条約の延長にバイデン政権は署名したがるだろう。トランプ政権がとりあえず1年延長でロシアと合意し、バイデン政権に引き継ぐだろう
バイデン政権は、イランとの核合意(Joint Comprehensive Plan of Action (JCPOA))やOpen Skie条約に復帰すると考えられ、ロシアとの新たなINF条約を目指す可能性もある
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次の国防長官の「最有力候補」がフロノイ元政策担当国防次官で、女性初の国防長官になるとの線で記事は書かれていますが、政権移行チームの立ち上げがあったばかりで具体的な情報はありません

McSally.jpg一応記事は、共和党の上院議員だったMartha McSally元A-10飛行隊長(大佐で退役、現役時に上官にレイプされたと議会で発言し注目浴びる)と、元陸軍士官のTammy Duckworth上院議員(民主党)の名前を「その他の候補者」として挙げています。今後に注目です

いずれにしても中国の軍事力増強の勢いはすさまじく、限られた予算と時間と戦術の中、今から中国の動きに大きな変化があるとも考えにくく、米国防政策に大きな変更は難しいのが現状でしょう

バイデン政権の国防長官最有力候補
初の女性長官誕生か:フロノイ女史関連
「必要な国防政策を語る」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-08-12
「米議会で中国抑止を議論」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-17
「強制削減下の国防」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2015-06-18-1
「ヘーゲル長官の後任を打診されたが」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2014-11-25
「フロノイ次官の退任」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-12-13
「フロノイのアジア政策授業」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-04-30

「死に体:エスパー国防長官と後任候補」
https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-10-31

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https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-04-16-1

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