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NZ海軍がほぼ全艦艇の同時更新へ [安全保障全般]

1隻の補給艦を除く、他全8隻の更新提案を募集開始
8隻が2030年代半ばに耐用年数を迎えるとか
単なる更新ではなく、体制・作戦運用・支援体制の変革追及

Royal NZN4.jpg9月7日、ニュージーランド国防省は同国海軍Royal New Zealand Navy (RNZN)が保有する艦艇9隻のうち、就航3年の最新型補給艦(HMNZS Aotearoa)を除く他の8隻が2030年半ばに耐用年数を迎えることから、11月15日を期限に情報提供要求(RFI:request for information)を発出しました

Royal NZN.jpg比較的脅威が薄いニュージーランドの戦略環境を背景に、海洋国家でありながら海軍が全9隻体制とは驚きですが、2019年に同国政府が発表している「Defence Capability Plan」で、既に海軍の「体制や運用全部見直し」が予告されていたようです

まず現在のNZ海軍戦力を確認しておくと

〇更新対象外
1隻2020年就航の最新型補給艦(HMNZS Aotearoa:全長約170m)

〇更新検討対象
2隻のフリゲート艦Anzac級(全長約115m):就航1997年と99年
2隻の沿岸パトロール艦(全長55m):就航2009年
2隻の遠洋パトロール艦(全長85m):就航2010年

1隻の輸送艦HMNZS Canterbury(全長約130m):就航2007年
1隻の水路調査船HMNZS Manawanui(全長約83m):就航2019年
    (元は海底油田支援船で2003年就航)

Royal NZN3.jpg同海軍はRFI発出に伴うプレス発表で、「個々の艦艇をそのまま更新するlike for like approachではなく、このユニークなタイミングを海軍全体の艦艇構成や作戦運用や艦艇支援体制を見直す機会ととらえている」と述べています。

ただし、2019年発表の「Defence Capability Plan」は2024年までを対象に、同国軍全体の投資方向を詳細に記述している模様ですが、ニュージーランドでは10月に総選挙が予定されており、結果次第では同計画の方向性に影響が出る可能性があるようです
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Royal NZN5.jpg以下の8月の「国防見直し」発表報道のように、中国から9000㎞離れたニュージーランドでも中国の脅威を強く意識しているようですが、10月14日の総選挙に向けた政治情勢は与野党伯仲の混戦模様で、総選挙終了まで、全てが様子見になっているようです

具体的には、アーダーン前首相(美人!)の個人的人気を追い風に6年前に政権奪還を果たした労働党ですが、足下では物価高、治安情勢、住宅価格への対応を理由に支持率は低下傾向が続いています。政党別支持率では国民党が労働党を上回る推移で、差が開く傾向だそうですが、首相候補の人気では現職の労働党ヒプキンス首相が僅差で国民党のラクソン党首を上回るなど、国民党は決め手を欠く状況が続いているようです

8月4日付のロイター「国防見直し」発表報道によれば
NZ GEL.jpg●ニュージーランド(NZ)政府は同日公表の「国防見直し」で、大国間の対立が激化する中、ここ数十年で最も困難な戦略的環境に直面しているとした上で、軍備は将来の課題に適した水準ではないとの分析を表明したが、改善への具体的計画は示さず
●同政府は「国防見直し」に合わせ、初の「国家安全保障戦略」を発表。気候変動や欧米と中国・ロシアの間の戦略的競争といった課題に対応するために、軍事費増額とインド太平洋諸国との関係強化が必要と強調

NZ GEL2.jpg●「国防見直し」発表に際し、ブリッジマン国防長官は「直面する脅威はより複雑化より困難に」と表明。「当面は現軍隊で対応するが、新たな未来と進化する状況を見据える必要あり」、「強大になる中国は、既存の国際的ルールや規範に挑戦する形で、手段を行使している」との情勢認識を示したが、
●現時点でGDP約1%を占める国防予算の増額や装備の刷新決定は、2024年の追加文書発表までは行われない、とも述べた。

最近のNZ関連記事
「米空軍史上最大の空輸演習@西太平洋」→https://holylandtokyo.com/2023/07/13/4852/
「Talisman Sabreを過去最大の兵站演習に」→https://holylandtokyo.com/2023/04/14/4506/
「7か国で宇宙作戦ビジョン2031」→https://holylandtokyo.com/2022/02/25/2753/

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寒冷地での攻撃ドローン試験とニーズの高まり [安全保障全般]

イスラエル企業が北欧東欧諸国の要望を受け
「Uvision」社が「Hero」シリーズの極地試験を

Hero-120.jpg8月16日付Defense-Newsは、イスラエルの無人攻撃ドローン企業「Uvision」社が北欧及び東欧諸国の要望を受け、今年に入って北極圏環境下で同社製攻撃ドローン「Hero-120」の運用試験を行っていると紹介し、気温マイナス20度Cでの運用や保管&輸送に耐えられるか確認したと報じています

具体的な試験の場所や関心を持っている国名は明らかになっていませんが、「極地での運用に関心を持つseveral defense forces」が試験に立ち会い、画像撮影や赤外線センサーなどを搭載して性能確認試験が行われたとのことで、北極圏国家だけでなく広く厳しい冬での運用が必要となる「北欧や東欧のニーズ」が高まっていると記事は紹介しています。

Hero-120 4.jpg記事は、北欧諸国で現在イスラエル製の無人機「Hero」シリーズを使用している国はないが、同地域とイスラエル軍需企業の関係は深く、例えばフィンランドは最近、独イスラエル共同開発の対戦車ミサイルをEurospike社から導入し、防空&ミサイル防衛システム「David’s Sling」の購入許可を得たところで、ノルウェーも小型戦術無人機の導入協議を1月に開始したところだとも紹介しています

「Uvision」社関係者は、「わが社はHero-120だけでなく、様々なタイプの無人機で構成される「Hero」シリーズ全体の北極圏寒冷地への適応を研究開発計画の中に組み込んでいる」と語っており、またドローン本体だけでなく「ドローンの保管や輸送」など兵站分野に至るまで具体的導入を想定した確認を並行して行っており、顧客の要望に対応できる態勢を整えているとアピールしています
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Hero-120 2.jpgウクライナでの戦いで、2022年から23年にかけての「冬の戦い」を経験したことから、寒冷地への装備品適応確認に注目が集まっているのかもしれません。ロシアの脅威を目の当たりにした北欧や東欧諸国にとっては切実な問題でしょうから。

イスラエルは、ロシアとの関係に配慮し、ウクライナへの防空システム「アイアン・ドーム」提供を拒んでいるようですが、直接の紛争当事国でない北欧や東欧諸国への無人機提供については柔軟な姿勢を見せているようです。

イスラエル関連の記事
「アイアン・ドームをウに提供せず」→https://holylandtokyo.com/2023/08/01/4880/
「米イが8500名規模の巨大統合演習」→https://holylandtokyo.com/2023/01/30/4216/
「なぜ露とウの仲介をイスラエルが?」→https://holylandtokyo.com/2022/03/09/2802/
「4機のKC-46給油機導入発表」→https://holylandtokyo.com/2022/09/06/3629/
「イが中央軍管轄に」→https://holylandtokyo.com/2021/01/19/301/

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1月の台湾総統選挙前に親中派国民党支持が1/3に [安全保障全般]

独立派の与党民進党支持率は国民党の3倍に
2022年秋の地方選挙で大敗の与党民進党が大復活
中国経済崩壊+習近平体制弱体化で親中派衰退顕著

Taiwan 2024 2.jpg8月25日付YouTubeチャンネル「朝香豊の日本再考」が、2023年1月13日に迫った台湾総統選挙に向けた各政党の候補者支持率を取り上げ、2022年11月末の台湾地方選挙で大敗した与党で独立派の民進党候補が支持率を大幅に伸ばし、昨年末には10ポイント以上差を付けられていた親中派の国民党候補に対し、現時点では3倍の支持率を確保し、その差が最近1か月で急激に拡大していると紹介しています

Taiwan 2024.jpgそしてこの急激な政党支持率の変化の背景について朝香氏は、「中国の不動産バブル崩壊」や「コロナロックダウンによる中小企業倒産と海外企業撤退」に端を発する、「中国の輸出・消費・投資のトリプル急降下」、「金融システムの破綻」、「4割を超える若者失業率」等々の形で表面化している「中国の崩壊」を目にした台湾国民が、中国頼りの野党国民党を「見限った」結果だと端的に指摘し、この傾向は今後全世界に拡大すると述べています

独立派の与党民進党と親中派の野党国民党の支持率の変化
          2022年末 2023年春 2023年7月 
独立派の与党民進党 29%   36%  44%
親中派の野党国民党 39%   20%  14%弱 

Taiwan 2024 4.jpg独立派の与党民進党が政権を握る台湾に対し、中国は様々な貿易障壁を設けて「いやがらせ」を繰り返してきましたが、台湾も対抗策として、輸出入の相手先を従来の中国中心から、米国のほか、ASEANや南アジアや中東やアフリカ方面へ多様化する「南向制作」に取り組み、コロナ禍を経て徐々に着実に成果を上げており、ここ最近の「中国経済大減速」を受け、その方向性がますます加速すると言われているようです

そして朝香氏は、この台湾の急激な国民意識の変化は、「中国の崩壊」を様々な情報ルートを通じて身近に肌身に染みて感じる台湾ならではの迅速さであるが、時間がたてば世界中に拡散する変化を象徴するものになろうと語っています。

Taiwan 2024 3.jpg朝香氏は「自身の願望」も踏まえた可能性だとしながらも、「金の切れ目が縁の切れ目」との言葉通り、親中派である台湾国民党への支持率が急減しているように、世界中の「親中派」は、その親中主張の拠り所を失い、又は中国からの直接又は間接的な支援を失い、「紆余曲折」を繰り返しながらも、衰退方向に向かうであろうとも語っています
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ちょっと癖のあるおじさん朝香豊氏ですが・・・
8月25日付YouTubeチャンネル「朝香豊の日本再考」


日本の「マスゴミ」は、「中国経済の大失速」や「北京や河北省での大水害」を全くと言って良いほど報道せず、一方で福島原発の「処理水」海洋放出に関し、中国の主張や「補償金まみれの老害漁協」の声ばかりを繰り返し報道して「風評被害」をまき散らしていますが、

Mass-Gomi.jpg「コロナ」、「東京五輪」、「安倍総理国葬」等の騒ぎを通じて化けの皮がはがれ始め、急速に顕在化しつつある「中国経済の崩壊」プロセスと並行する形で、消滅方向に向かうのでしょう・・・・。歴史的なその崩壊の様子を、「中国共産党崩壊と共に」生暖かく見守りたいと思います

台湾関連の記事
「CSISが台湾軍に非対称戦術迫る」→https://holylandtokyo.com/2023/01/16/4160/
「台湾有事のWargame結果を異例公開」→https://holylandtokyo.com/2023/01/11/4135/
「徴兵期間を4か月から再び1年間に」→https://holylandtokyo.com/2023/01/04/4103/
「台湾が統合強化と権限分散の軍改革へ」→https://holylandtokyo.com/2021/05/26/1705/
「台湾軍の対中国体制に危機感」→https://holylandtokyo.com/2021/03/08/155/

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南シナ海で米海軍監視下、比が中国海警包囲を突破 [安全保障全般]

比沿岸警備艦に招待されたプレスが状況を世界に発信
海警艦艇の包囲網を突破し、環礁の比拠点人員&物資輸送

BRP Cabra2.jpg8月22日、中国と沿岸国との領有権争いが続く南シナ海で、フィリピン側が海洋監視拠点(座礁した貨物船利用)に補給物資を補給船で届けようとしたところ、「中国海警(位置付け沿岸警備隊)」艦艇や偽装漁船に進路妨害や危険な接近を約5時間にわたり繰り返されましたが、

米海軍がISR機を3時間にわたり上空に派遣する等の措置もあり、中国艦船等の妨害を突破したフィリピンの木造補給船2隻による補給物資の比監視拠点への輸送作戦は成功し、これらの様子が比沿岸警備艇に招待され乗船していたAP通信をはじめとする西側メディアによって世界に配信されています(日本のメディアは全く報じませんが・・・)

Second Thomas Shoal.jpgフィリピンの木造小型補給船2隻はフィリピン沿岸警備隊の2隻の警備艦(BRP CabraとSindangan)に護衛され、西側メディアはBRP Cabraに招待され乗船していましたが、8月21日夜から中国海警の艦艇4隻と偽装漁船4隻に追跡されはじめ、

フィリピン側が補給輸送の目的地としていた「Second Thomas Shoal」に設置した海洋監視拠点(座礁した貨物船利用)の手前約7㎞付近から、中国側艦艇による妨害行為が本格化したと、8月23日付Military.com記事は伝えています

BRP Cabra3.jpg中国海警の艦艇は、フィリピン側沿岸警備艇の前方わずか46mを横切ったり、進路前方を塞ぐなどの行動を約5時間にわたって続け、この間拡声器で中国側が「双方による誤解や誤認識を避けるため、この場を離れ立ち去れ! さもないとこの事態から生じる全ての結果の責任をそちら側が負うことになる」、「もしこのような侵害と挑発を続けるならば、我々は対抗措置を取る」等と威嚇を続けた模様です

そんな状況下でしたが、フィリピン側の木造補給船(全長10m程度以下の船)2隻は、巧みに中国の妨害を振り切り、「Second Thomas Shoal」の浅瀬に入り込んで中国側の追随を許さず、無事に海洋監視拠点(座礁した貨物船利用)への交代要員や補給物資の輸送に成功したということです

Second Thomas Shoal3.jpg8月5日には、中国側が比の補給船に放水銃を使用する事象が発生し、米国が「比との同盟に基づき、比軍や航空機や艦艇が攻撃を受けるようなことがあれば、防衛義務を遂行する」との声明を出して中国側に警鐘を発していたところでした
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今年に入って米比関係は、ホワイトハウスKirby戦略報道官が5月1日に「驚愕の進歩を見せている」と公式会見で表現したほどの進展を見せており、米海軍がISR機を上記のような事態に急遽派遣するほどの緊密な関係を構築するに至っています

Second Thomas Shoal2.jpgフィリピン側も、このような中国側との対立場面を予期して、西側メディアを事前招待して沿岸警備艦に乗船させておくほどの「周到さ」と「中国への強硬な堂々とした対応姿勢」を対外的にアピールする姿勢を明確にしており、「中国国力の衰弱」に付け込む様子に逞しさを感じます。

日本政府も是非このようなフィリピンの姿勢に学んでいただきたいですし、日本の「マスゴミ」の皆様には、中国を「早々に見限る」ことをお勧めしておきます

米フィリピン関連の記事
「首脳会談と33年ぶり空軍演習」→https://holylandtokyo.com/2023/05/08/4597/
「米比2+2とBalikatan演習」→https://holylandtokyo.com/2023/04/20/4524/
「5世代機初展開F-22」→https://holylandtokyo.com/2023/03/24/4442/
「第3MLRの編成」→https://holylandtokyo.com/2022/11/14/3900/

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次のカンボジア独裁者は米陸軍士官学校卒 [安全保障全般]

7月23日の総選挙運動で息子が存在感アピール
West Point卒の息子に仮に首相を譲っても
フンセン現首相の強力な「院政」継続と皆が予想

Manet4.jpg7月23日、東南アジア諸国の中でも中国と最も親密なカンボジアで総選挙が実施され、アジア最長約40年間も国家元首にあるフン・セン首相率いるカンボジア人民党が、他の野党を事前に徹底排除したこともあり、多くの予想通り地滑り的勝利を納めました。

ただし、圧倒的な与党人民党が野党を徹底的に叩いて排除したことで、さぞかしカンボジア国民の不満が高まっているかと思えばそうでもなく、2021年に将来(時期未定)の後継首相になることが人民党内で正式決定している現首相の息子フン・マネット陸軍司令官(45歳)が選挙運動に夫人とともに登場し、

Manet.jpg「人民党への投票はあなたの未来への投票です。アンコール時代のクメール帝国の栄光を再び取り戻すため、共に歩んでいきましょう」と訴えると、集まった数万人の聴衆は歓喜に包まれ、

現首相の父よりも温和に見え、米陸軍士官学校を卒業し、ニューヨーク大学で修士号、更に英国ブリストル大学で経済学博士号を取得して、より洗練されて見える息子への支持がカンボジア国民の間で圧倒的に高いことを証明して見せるなど、フン・セン体制の盤石ぶりが目立った選挙だったようです

Manet6.jpg1952年生まれの父フン・セン首相は、170万人を撲殺したポルポト派に18歳で身を投じ、後にポルポト派を離脱してベトナム軍の力も借りカンボジア政権を奪取した人物で、1985年にカンボジア首相に就任して以降、独裁専制君主としてカンボジアを支配していますが、

ポルポト派による凄惨な内戦を終結させ、1990年代から最近まで、西側流の自由経済体制を導入して年平均約8%の経済成長を継続実現した功績で、国民からの支持は底堅いものがあります

Ream Naval Base.jpg一方で中国との太いパイプと後ろ盾があることも確かで、最近では南シナ海に面するカンボジアReam海軍基地に、米豪支援で建設された災害対処用施設を無効化するようなやり方で、中国海軍用の施設が建設され、既に衛星情報によれば中国駆逐艦が使用できるほどの大型埠頭が確認できると、西側が懸念しているところです

そんな中での時間をかけた権力移譲ですが、8月で71歳になるフン・セン首相はまだまだ元気で精力的に活動しており、今回の総選挙で確保した5年間の任期期間中に45歳の息子マネットへ首相を譲るかは不透明で、多くの専門家は「仮に首相の座を表面的に息子に譲ったとしても、強力な院政を敷いてカンボジアを実質的に動かすことになろう」と見ています

Manet5.jpgまた息子のマネットは、カンボジア軍副司令官&陸軍司令官として、岸田首相を表敬するなど外交的にも様々な場に顔を出して存在感を見せつつありますが、政治力は未知数で、個人的なメッセージ発信もほとんどないことから、時間をかけて権力移譲が行われるものと見られており、スイスの大学を卒業した「金正恩」の現状から、権力の座についても大きな変化を期待する者は多くないのが現状です

しかし今回の総選挙に向けた運動期間中には、前述のように夫人とともに選挙カーに乗るなど西側の政治家をイメージさせるソフト路線で国民の支持をがっちり固め、「片目の強面宰相」として名をはせているフン・セン首相の路線からの脱却を狙う戦略は今までのところ大成功で、今後が注目されています

Hun Sen.jpgフン・セン首相は左目の「義眼手術」を日本の政治家の仲介で日本の病院で受け、安倍総理の国葬にも自ら出席したほどの日本通ですが、同じく日本と歴史的に関係の深いミャンマーとともに、中国への接近が目立つ点で西側との関係が難しい状態にある東南アジアのカギとなる国です

カンボジア総選挙のタイミングに合わせ、7月23日付Military.com記事を中心に、興味深いカンボジアについて取り上げました。カンボジアReam海軍基地への中国進出懸念の過去記事も併せてご確認ください

カンボジアReam海軍基地への中国施設建設
「その後・疑念深まる」→https://holylandtokyo.com/2022/06/15/3354/
「中国進出警戒感高まる」→https://holylandtokyo.com/2021/06/18/1921/

中国海南島の中国軍増強
「空軍基地増強」→https://holylandtokyo.com/2022/11/08/3895/
「海軍基地増殖中」→https://holylandtokyo.com/2022/10/06/3720/

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イスラエルは期待の防空兵器をウに提供せず [安全保障全般]

米印が導入済の「アイアン・ドーム」提供を継続拒否
ロシアとの関係に配慮&最新装備の秘密漏洩危惧
短射程ミサイル・ロケット防御システムとして世界最強とか
 
Iron Dom6.jpg7月21日付読売新聞朝刊が「世界最強の防空システム“アイアン・ドーム”、イスラエルがウクライナへの提供拒む」との記事を掲載し、対シリア軍事作戦やロシア在住ユダヤ人コミュニティーの存在などロシアへの配慮、また最新防空システムの技術漏洩への懸念等から、ウクライナが強く要請している短射程ミサイル防衛分野で世界最強と言われる防空システム「Iron Dom:アイアン・ドーム」の提供を拒否していると報じています
 
Iron Dom.jpg「Iron Dom:アイアン・ドーム」は、イスラエル北部の脅威となっているイスラム武装組織「ヒズボラ」や、南部ガザ地区に根を張る「ハマス」からイスラエル国内に発射される短射程ミサイルやロケット弾からイスラエル国民を守るため、米国からの軍事援助資金を活用してイスラエル企業ラファエル社が開発し、2011年から同国で配備運用されている防空ミサイルシステムです
 
Iron Dom7.jpgあくまで短射程のミサイル・ロケット・迫撃弾・砲弾などを迎撃する目的のシステムで、対処範囲も10㎞以内程度と言われていますが、様々な兵器が世界中に拡散して重層的な防御態勢構築を迫られる中、米軍やインド軍も導入し、米陸軍部隊は対中国を意識したグアム島での試験も行っています。

また、最初の海外輸出が対露のアゼルバイジャンやルーマニアで、その後インドと米軍へも輸出され、シンガポール、韓国、サウジ、キプロスも導入を検討中と報じられています
 
Iron Dome8.jpgやみくもに迎撃ミサイルを発射するのではなく、システムで迎撃可能な目標を絞り込んで対処する基本方針で運用プログラムが構成されており、イスラエル軍やラファエル社の発表では、1目標に2発の迎撃ミサイルを発射する運用で、運用開始の2011年当時で既に90%の撃墜率を達成したとされており、このクラスの防空システムとしては「世界最強」との評価も聞かれる装備です
 
Iron Dom4.jpgただし、迎撃ミサイル1発が1500~2000万円と高価で、迎撃対象目標が大量に発射される安価なミサイルやロケット弾であることから、その費用対効果をどう評価するかが各国の導入判断の際に悩ましい問題となっており、例えば韓国では、2011年から何度も導入検討と国産化と費用対効果分析結果で導入見送りが繰り返されています
 
前置きが長くなりましたが、以下では「Iron Dom:アイアン・ドーム」を巡るウクライナとイスラエルの状況をご紹介します
 
7月21日付読売新聞朝刊記事によれば
Iron Dom9.jpg●2011年の「Iron Dom」導入以来、イスラエル国民の命を守り続けた同システムは、昨年8月にはロケット弾470発の97%の迎撃に成功している。その成果にウクライナが目を付け、2022年10月に正式にウクライナからイスラエルに同システム売却を要請した
●しかしイスラエルはウクライナに色よい返事をせず、ロシアへの表立った批判を控える姿勢も一貫しており、ウクライナに軍事物資を送らず、医療機器の提供など人道支援にとどめている

Iron Dom8.jpg●イスラエルがアイアン・ドームを提供しないのは、ロシアの動きに神経をとがらせているからだ。イスラエルは自国防衛のため、内戦が続くシリアの軍施設や武装勢力の拠点の空爆を散発的に続けている。この空爆はシリアの制空権を握るロシアの黙認なしには、実行できない。また、ロシアには数十万人とされるユダヤ人のコミュニティーがあり、ロシアと敵対したくない事情も背景にある。
●このようなイスラエルの姿勢に、ロシアからの攻撃が再び激化しているウクライナはいら立ちを募らせ、6月28日に在イスラエルのウクライナ大使館は、「ロシアは空爆して我が国民を殺害している。それなのに、イスラエルはウクライナへの防衛装備品売却を依然拒んでいる」とイスラエルを痛烈に批判する声明を出した

Uzi Israel.jpg●この状況に関し、イスラエルのベギン・サダト戦略研究所ウジ・ルービン研究員は「イスラエルの役割は歴史的に正しい側につくことではなく、国防や経済的必要性に見合う側につくことだ」と冷徹に指摘している
●またイスラエル軍の前情報局長で国家安全保障研究所のタミール・ハイマン所長は、「アイアン・ドームは北のシリアや南のガザからのロケット攻撃を受けるイスラエルにとって国民の命を守るために欠かせない装置だ。イスラエルが最も懸念しているのは、シリアでの動向に加え、ウクライナに供与した最先端の技術が奪われ、ロシア、さらにイランに流出することだ。そうなればこの装備の優位性を保てなくなる。イスラエルは今後もウクライナにアイアン・ドームを提供することはないだろう」との見解を示している
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Iron Dom2.jpg米国からイスラエルに対し、同システムを提供するよう圧力がかかっているとの話も聞きませんし、2022年2月の開戦時からイスラエルのウクライナとロシアへの姿勢は一貫しているようです

「イスラエルの役割は歴史的に正しい側につくことではなく、国防や経済的必要性に見合う側につくことだ」・・・一つの正論です

WSJ紙のIron Dom紹介映像(2分30秒)


イスラエル関連の記事
「米イが8500名規模の巨大統合演習」→https://holylandtokyo.com/2023/01/30/4216/
「なぜ露とウの仲介をイスラエルが?」→https://holylandtokyo.com/2022/03/09/2802/ 
「4機のKC-46給油機導入発表」→https://holylandtokyo.com/2022/09/06/3629/
「イが中央軍管轄に」→https://holylandtokyo.com/2021/01/19/301/
「イがUAEへのF-35に事実上合意」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-10-26

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陸上自衛隊が豪州で初のミサイル射撃訓練 [安全保障全般]

米豪共同陸軍演習「Talisman Sabre」での一コマ
兵站(物資輸送・補給・維持整備)重視の演習内で
広い演習場を利用し中SAMや12式地対艦誘導弾を

talisman sabre Japan.jpg7月24日付Defense-Newsは、7月20日から8月4日までの約2週間にわたり実施されている米豪陸軍共同演習「Talisman Sabre」演習に、日本の自衛隊と韓国陸軍部隊が参加して、豪州大陸で初めてのミサイルやロケット実弾発射訓練を行っている様子を報じています

米豪陸軍共同演習「Talisman Sabre」は隔年開催の訓練ですが、4月の記事で、今年はこれまでの陸上戦闘中心の演習から、装備物資輸送量が従来比4倍規模になる対中国を意識した史上最大規模の兵站(物資輸送・補給・維持整備)演習になるとご紹介し、日韓インドネシアを兵站拠点として巻き込んで

talisman sabre Japan3.jpg例えば、米太平洋陸軍の演習兵站司令部は、従来ハワイのオアフ島に置かれましたが、今回は初めて海外の豪州東海岸中部ブリスベーンに設置され、他軍種や豪州のメンバーも同居する全く新しい合同兵站センター形態に挑戦したり、関連で日本配備の「配送センター:distribution center」の「再構築・改編:reconfigure」も一連の訓練に含まれているような構想でした

talisman sabre Japan5.jpgもちろん上記のような兵站メインの全体演習構成の中でも、日韓だけでなく、参加国(Fiji, France, Indonesia, New Zealand, Papua New Guinea, Tonga, the United Kingdom, Canada and Germany)や、オブザーバ国(Philippines, Singapore and Thailand)からの要望も聞き取り、日韓それぞれの国では訓練が難しい長射程兵器実弾射撃の場も提供したのでしょう

7月21日にShoalwater Bay 演習場で米海兵隊のM142 HIMARS、豪陸軍のM777A2榴弾砲、韓国軍のK9 Thunder車載自走砲システムやK239 Chunmooロケットシステムが火力デモンストレーション演習を行いましたが、

talisman sabre Japan2.jpg空母型護衛艦いづもを含む海自艦艇3隻も含め、計1500名体制の「史上最大規模」で参加した自衛隊も、同日同演習場で上記演習に参加し、中SAM発射訓練を行い、また別の場所でも同日、射程約200㎞の12式地対艦誘導弾(冒頭写真)の発射訓練も行ったとのことです

豪州陸軍で同演習計画担当のDamian Hill准将は、(兵站面に焦点を当てた今回の同演習の中でも、)同盟国等が各国の装備を持ち寄って共に訓練することで、各兵器システムの特性を互いに確認でき、相互運用性を向上させることができるとデモ射撃演習の意義を語り、

talisman sabre Japan4.jpg陸自12式地対艦誘導弾部隊のSenzaki3等陸佐は、Talisman Sabreへの参加を通じ、豪州陸軍との信頼関係・協力関係を向上させることができたと語っています

約3万名が参加している巨大な多国間演習ですが、兵站面での成果等が確認できればまたご紹介したいと思います

同演習に関する4月の記事
「Talisman Sabreを過去最大の兵站演習に」→https://holylandtokyo.com/2023/04/14/4506/

兵站支援関連の記事
「兵站改革目指しCFT設置」→https://holylandtokyo.com/2023/04/10/4469/
「ウの対中国教訓は兵站」→https://holylandtokyo.com/2022/06/17/3358/
「ウへの補給物資輸送拠点」→https://holylandtokyo.com/2022/05/11/3197/
「改善提案最優秀:燃料と水輸送負担軽減策」→https://holylandtokyo.com/2022/05/06/2781/
「ウへの武器提供」→https://holylandtokyo.com/2022/03/02/2772/

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米国がまもなく化学兵器全廃完了 [安全保障全般]

サリン等の化学物質は無効化完了
残るはロケット弾頭など9月末期限まで
化学兵器禁止条約未締結国3つと
締結国でも保有&使用疑念のロシアやシリア

M55 rocket4.jpg7月7日付Defense-Newsが、1997年に発効した化学兵器禁止条約に基づき米国が取り組んできた保有化学兵器の破棄措置期限が9月末に迫る中、6月22日にロケット弾頭に充填されていたサリンなどの化学剤3万トンの無効化が完了し、残るは化学兵器運搬手段で化学剤が充填されていたM55ロケット弾等の処分のみになったと紹介しています

化学兵器は1925年(発行28年)のジュネーブ議定書で「使用禁止」とされましたが、その開発、生産および貯蔵までは禁止されておらず、1993年1月にパリで署名され1997年4月29日に発行した「化学兵器禁止条約」(現在まで193か国署名批准、エジプト、NK、南スーダンのみ未締結)で、保有まで禁止されたものです

M55 rocket2.jpg1997年から約10年で既保有化学兵器の破棄が求められましたが10年では完了せず、2011年時点で米露リビアの3か国の破棄未完了が確認され、条約締結国から早期破棄完了が求められました。これを受けロシアが2017年9月、リビアが同年11月に破棄完了を報告しました

ピーク時には3万トンが80万発の弾頭に分かれて保管されていた米軍化学兵器は、破棄場所や手法等をめぐって主要貯蔵施設のあったケンタッキー州やコロラド州の理解がなかなか得られず、太平洋上のジョンストン環礁やユタ州の砂漠施設での化学剤破棄作業から順次開始され、2015-16年からやっとケンタッキー州やコロラド州での破棄作業も追随、2023年6月22日に化学剤破棄処理が完了したもようです

M55 rocket5.jpg現在は、代表的な化学兵器運搬手段であったM55ロケット弾約5万発の破棄作業が9月末の期限に向けて行われており、一部の副生成物は微生物とともに処分されたり、金属部分は540度C以上の温度で無害化されたのち、スクラップ金属として再利用される計画となっているようです

第1次世界大戦で少なくとも10万人が犠牲となったといわれる化学兵器ですが、米国の破棄完了をもって地球上から化学兵器が消滅したと信じている専門家はおらず、米国防省のKingston Reif担当次官補は、未申告の化学兵器保有や使用が疑われているロシアとシリアに対して特に懸念を抱いていると語っています
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M55 rocket3.jpg一応は、検証制度の実効性や加盟国数などから、「モデル軍縮条約」とも言われる化学兵器禁止条約ですが、未申告の化学兵器保有や使用が疑われているロシアとシリアなどなど、懸念は尽きることがありません

地下鉄サリン事件を経験した日本の教訓が示すように、カルトやテロリストが比較的容易に入手可能なこの兵器について、改めて考える機会となれば・・・と考えご紹介しました

AI技術で新たな兵器の恐れ
「AI作成の生物兵器に危機感」→https://holylandtokyo.com/2022/10/04/3671/

化学兵器禁止条約の解説(外務省)
中露も締結国ですが・・・
エジプト、NK、南スーダンが未締結、イスラエル未批准
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bwc/cwc/gaiyo.html 

最近の化学兵器使用と最近の取り組み(外務省)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol162/index.html 

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「欧州空の盾」計画に中立国スイス&スウェーデン参加 [安全保障全般]

独が中心となり17国体制で防空システム共同購入
既存NATOシステムとの融合でロシア脅威に備え

ESSI3.jpgドイツが中心となって2022年10月に創設され、ロシアの脅威に対抗する防空&ミサイル防衛システムの共同迅速購入などを目的とし、当初14ヵ国で始まった「欧州空の盾取り組み」(ESSI:European Sky Shield Initiative)に、今年2月のデンマークとスウェーデン追加参加に加え、7月7日に中立国として2番目でスイスが参加署名する予定だと明らかにされました

ESSI.jpg当初の14ヵ国は全てNATO加盟国で、Belgium, Bulgaria, Czechia, Estonia, Germany, Hungary, Latvia, Lithuania, the Netherlands, Norway, Slovakia, Slovenia, Romania, the United Kingdomの14ヵ国でしたが、2月にDenmark and Swedenが加わって16か国となり、7月7日にスイスがドイツで開催されるESSI覚書署名式で17番目に正式加盟するとのことです

具体的にESSIでは、既存のNATO防空システムを強化する方向で、防空&ミサイル防空システムを加盟国が相互運用性を備えた形での導入方針で、市場にある装備品を有効に迅速に開発導入することを目指しており、調達においてはNATOの「Modular Ground-Based Air Defence High Visibility Project」枠組みを活用するそうです

ESSI4.jpgただし、具体的装備としてイスラエル製の「Arrow 3」や米国製の「パトリオット」と言った欧州製でない装備名が上がっていることにフランスが強く反対し、加盟を拒んでいる現状もあるようです。

日本の「左巻き」の皆様が良く事例として取り上げられる「欧州の中立国」ですが、脅威の変化に即し、時代の変化に応じて、柔軟に仲間を作って国益を追求する姿勢を是非学んでいただきたいと思います。
またフランスはフランスだなぁ・・・と改めて感じるESSIでした

ウクライナで学ぶ防空の重要性
「ウクライナで露が制空権で優位に!?」→https://holylandtokyo.com/2023/06/28/4795/
「世界初の対無人機等の防空兵器消耗戦」→https://holylandtokyo.com/2023/01/27/4220/
「イラン製無人機が猛威」→https://holylandtokyo.com/2022/10/20/3787/
「ウで戦闘機による制空の時代は終わる」→ https://holylandtokyo.com/2022/02/09/2703/

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ベルギーの欧州戦闘機開発関与希望がさざ波を [安全保障全般]

ベルギーが仏独スペインのFCASへオブザーバ参加希望か
FCAS主要企業の賛否が分かれる中
ニッチ分野への自国軍需産業関与狙いか

Dedonder.jpg6月16日付Defense-Newsは、F-35のFMS購入国であるベルギー国防相が最近数か月間に繰り返し、欧州で進んでいる2つの次世代戦闘機開発プロジェクトのどちらにどの程度関与するのかを明確にすべきだと同国政府に要望しているが、実質的には「仏独スペイン」チームが進めるFCAS計画への「オブザーバー」参加を求め、同チーム国に打診していると報じています。

この報道を理解するため、2018年頃からスタートしている2つの次世代戦闘機開発プロジェクトを復習しておくと・・・

「独仏スペイン」のFCAS(Future Combat Air System)
→独Airbus, 仏Dassault, スペインIndra、仏Thales, 仏MBDA and 仏Safranなど
「英伊スウェーデン+日本」のGCAS(Global Combat Air System)
「TEMPEST」計画とも呼ばれる
→英BAE、英ロールスロイス、スウェSaab、日MHI、伊Leonardoなど

FCAS.jpg・・・の2つですが、本日取り上げるベルギーは、日本が昨年参画を表明した「英伊スウェーデン」チームのGCASではなく、「独仏スペイン」チームのFCAS計画の方に「オブザーバ」参加を打診しているとのことです。

ちなみにベルギーは、F-16戦闘機の後継として、2018年に34機のF-35A導入を決定し、2030年までに34機導入完了する契約を結んでおり、最初の4機を2023年に受領することになっています(ただ、コロナの影響で今年は2機のみ受領になりそうとか)

FCAS2.jpg記事は、「オブザーバ参加」の定義は明確になっていないとしつつも、複数のベルギー関係者の話として、ベルギーは当面の間はとりあえず正式共同開発国ではなく「オブザーバ」の位置づけでFCASに関与し、特許や中核的技術部分へのアクセスや製造参画は追求せず、ニッチな装置や部品提供を通じてベルギー軍需産業界のFCASへの関与を追及しているのではないか・・・と伝えています

「独仏スペイン」チームのFCAS計画は現在、独仏スペイン3か国政府と主要関連企業である独Airbus, 仏Dassault, スペインIndraを交えた「シェア争い」が続いており、より多くのシェアを要求して一歩も譲ろうとしない仏Dassaultの強硬な姿勢を受け、「着地点を探して上空で旋回中」との状態継続中とのことですが、FCAS関係企業のベルギーの希望に対する反応は様々です

Trappier.jpg警戒心を強く打ち出しているのは仏Dassault社のCEOであるÉric Trappier氏で、「オブザーバ参加」について排除するとまでは言及していないようですが、F-35購入国が「独仏スペイン」と同等の共同開発国に入ることには強く反対し、

5月の講演で「ベルギーの関心事項を耳にしてはいる」、「F-35購入国がFCAS計画メンバーに入ることは賛成できない。F-35を選択した国の関係者に、なぜ私の工場やオフィスで場所を提供する必要があるのか?」、「ベルギーにも仕事を分けてやれよと言う人がいるが、私は賛成しないし、戦う用意がある。なぜベルギーに仕事を分け与える必要があるのだ」と声を荒げて語ったようです。

(ちなみに独は2023年3月にF-35導入決定しており、NATOの核運搬任務遂行のためとの大義名分はあるものの、仏としては不満があるのかも・・・)

Dedonder2.jpgこの発言に対しベルギーの女性国防相Ludivine Dedonder氏はDefense-Newsに対し、「仏Dassault,社CEOの発言は想定していた内容だが、一つの企業のCEO発言より遥かに重い国益が掛かった問題であり、将来の戦闘機、それがFCASか、GCASかに関わらず、我が国防上の重要プログラムであり、我が国の企業が参画していることが重要なのだ」と政治的な問題であることまで示唆し、強い意志を示しています

FCASに関与している他の企業では、仏Safran社CEOは「英伊スウェ日本のGCAS側で参画されるより、我がFCAS側に関与してくれる方が望ましい」とコメントし、Airbus社報道官はベルギーの参画可能性についてコメントを避けつつ、新たな参加国受け入れの是非については、仏独スペイン3か国の政治的判断にゆだねられる問題だと述べるに止めてぃます
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F-35 Greece4.jpg現代の戦いの中での戦闘機の位置づけや重要性が急降下する中でも、大きな「お金」が動く戦闘機開発や売込みの世界には、相変わらず様々な思惑がうごめいています。

ウクライナ問題で大きな経済的打撃を受けている欧州経済を背景に、主要なF-35調達国である「米英伊」などが維持費高止まりや戦い方の変化を受けてF-35調達数削減に向けた動きを加速する中、34機のF-35導入を決定してしまった小国ベルギーも、様々に国益確保のため動き出したと見るべきでしょう・・・

仏独スペインのFCAS開発
「独仏中心に欧州連合で第6世代機開発」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-04-07-2

英スウェ伊+日本のGCAS開発
「英伊が日本恫喝:逃げるなよ!」→https://holylandtokyo.com/2023/02/14/4299/
「伊が訪日し協議」→https://holylandtokyo.com/2022/09/27/3699/
「英戦闘機開発にイタリアも参加へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-09-11

最近のF-35購入又は追加購入決定
「小国ルーマニアも」→https://holylandtokyo.com/2023/04/18/4519/ 
「シンガポール追加」→https://holylandtokyo.com/2023/03/10/4343/
「ドイツも核任務用に」→https://holylandtokyo.com/2023/03/10/4343/ 
「カナダがやっと決定」→https://holylandtokyo.com/2023/01/12/4134/
「チェコが東欧で2番目」→https://holylandtokyo.com/2022/07/25/3492/
「フィンランドが15番目」→https://holylandtokyo.com/2021/12/14/2520/
「スイスが14番目の購入国に」→https://holylandtokyo.com/2021/07/02/1976/
「ポーランドが13カ国目に」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-03

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NATO加盟直前のスウェーデンに史上初B-1B展開 [安全保障全般]

7月のNATOサミット(@リトアニア)でのNATO加盟直前に
2機の大型爆撃機がロシアににらみを利かす

B-1 Sweden2.jpg6月19日、米空軍の超音速爆撃機B-1が2機、史上初めてスウェーデンの空軍基地に展開着陸し、スウェーデン空軍のグリペン戦闘機と編隊飛行を披露するなど、7月のNATOサミットで32番目の加盟国となる予定のスウェーデンと米国が、加盟前の段階でも既に強固な関係にあることを改めて誇示しました

NATOでは、4月にフィンランドが31番目の加盟国として承認されたところですが、スウェーデン加盟にはトルコが反対し手続きが遅延していましたが、トルコが反対姿勢を軟化させたことから、7月ーにリトアニアで開催されるNATO首脳会議で加盟が正式承認される見通しとなっているところです

B-1 Sweden.jpgスウェーデンの南部に広がるバルチック海(ボスニア湾)に面する「Luleå Kallax Airbase」に展開した2機のB-1爆撃機は、米本土テキサス州Dyess空軍基地から英国空軍Fairford空軍基地にローテーション展開中の4機の一部で、既にスウェーデンがNATOの一部として自然に作戦行動の一部に組み込まれている状況を象徴しています

これまでもB-1爆撃機は、スウェーデン領空や周辺空域を飛行して同国空軍と訓練を実施した実績がありますが、今回は同国空軍基地に着陸し、展開期間は非公開ながら、C-130輸送機で同時展開した整備員や整備器材とともに、しばらくスウェーデン空軍基地を拠点として活動することになります

B-1 Sweden4.jpgB-1の初着陸展開に関し欧州米空軍は、「米軍は北極圏での演習訓練を行ってきたが、今回の着陸展開を伴う訓練は、米スウェーデンの友情だけでなく、欧州集団防衛の強化に資するものである」とのコメントを出し、

米国防省Sabrina Singh副報道官は、「スウェーデンは極めて高い能力の軍を有しており、長年にわたり米・NATO・スウェーデンは、共に肩を並べて訓練を重ねてきた」、「公式に32番目のメンバーとなった暁には、更に関係を深化させることを楽しみにしている」と会見で語っています。

またスウェーデン国防省も、「展開目的は、スウェーデンの領土と領空防衛のための訓練である」との声明を発表していますが、両国とも、今後同様のNATO装備展開等が増加するかには言及しませんでした
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B-1 Sweden5.jpg中立的な姿勢を長年維持してきた北欧の国々が、あっという間にNATO加盟に至りました。

一方で、なかなか対中国の連携が進まないのがASEAN諸国です。とりあえず7月11~12日にリトアニアの首都ビリニュスで開催されるNATOサミットに注目いたしましょう

NATO関連の記事
「2022年10月恒例の核兵器演習」→https://holylandtokyo.com/2022/10/13/3751/
「2030年までにF-35が500機に」→https://holylandtokyo.com/2022/04/12/3087/
「米本土に初の統合軍司令部:JFC- Norfolk」→https://holylandtokyo.com/2021/07/21/2023/

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米国防省がウクライナ提供用にStaralink契約 [安全保障全般]

昨年2月の開戦からSpaceX自腹支援を肩代わり
契約細部は価格も内容も非公表
SpaceX側の戦闘直接使用禁止要請へも対応か

Starlink2.jpg6月1日、米国防省がウクライナ国内へのSpaceX社の衛星通信サービス「Starlink」提供について、米国防省がSpaceX社から同サービスを借り上げる形で、ウクライナへの衛星通信サービスを継続することでSpaceX社と合意していることを声明文で認めました

SpaceX社の「Starlink」サービスは、2022年2月の開戦直後にウクライナ副首相(IT担当)がSNS上でイーロンマスク氏に直接要請したところ、すぐさまマスク氏が対応し、地上の衛星通信アンテナや通信端末などを速攻でウクライナ国内に届け、しかもSpaceXが通信設備や通信料を全て自腹負担したことで、世界中から喝采を浴びたサービスです

Starlink.jpgただ、長引く戦争でさすがのSpaceX社もその費用負担に耐えかね、2022年10月にマスク氏が、これまでに約100億円を同社が負担してウクライナを支援してきたが、これ以上の継続が難しいと明らかにし、後に同発言をマスク氏が同発言を取り下げたものの、米国防省は状況についてSpaceX社と協議を始めていることを当時認めています

その後の国防省とSpaceX社の交渉については表面化しませんでしたが、今年2月にSpaceXのGwynne Shotwell社長が、ウクライナ軍が同社との「Starlink」使用合意枠外である、直接的な戦場通信や攻撃連携に衛星通信を使用していることを「(同通信機能の)Weaponization」だと懸念を表明するなど、なんとなくギクシャク感が漂う状況に立ち至っていました

Starshield2.jpg一方で2022年12月にSpaceX社は、「Starlink」サービスとは異なる「Starshield」とのサービスを開始し、「Starlink」とは別枠の、国家安全保障関連サービスに特化した衛星通信や地表観測サービスを提供しており、6月1日に米国防省が認めたSpaceXとの契約によるウクライナ支援が、「Starshield」サービス関連だとも言われています

6月1日付米国防省声明は、「我々は引き続き、ウクライナが必要とする衛星や通信能力を確保できるよう、一連のグローバル企業と協同していく」、「衛星通信はウクライナの様々な通信能力の中で緊要な役割を担っており、米国防省はこの種の能力提供のためStarlinkと契約した」と発表していますが、契約時期、契約内容、関連コストについては安全保障上の非公開事項だと回答を拒否しています
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Starshield.jpg2022年2月の開戦直後に「Starlink」関連地上装備を迅速に大量にウクライナに提供しただけでなく、その後ロシア側が全力で「Starlink」に電子妨害攻撃を仕掛けた際には、

国防省の電子妨害戦担当幹部が、「泣けるほど素晴らしい迅速な対処だった」「官僚的な国防省や米軍では到底なしえなかった光速の素晴らしい仕事」と絶賛した仕事ぶりでウクライナを支えたSpaceX社を、米国防省が放置することなど到底できなかったのでしょう

また国防省や米軍内から、宇宙分野で先進技術をもつ民間会社との連携を、十分な資金を投入し、迅速に進めるべきとの請願が繰り返し各所から出ており、この点からも必要性が認められたということでしょう

ウクライナとSpaceX関連
「ウ衛星ネット費用を米国防省に要求」→https://holylandtokyo.com/2022/10/18/3770/
「国防省有志が民間技術迅速活用求める」→https://holylandtokyo.com/2022/09/16/3609/
「米宇宙軍の能力向上に民間衛星をまず活用」→https://holylandtokyo.com/2022/07/27/3454/
「露の電子戦に迅速対処したSpaceXに学べ」→https://holylandtokyo.com/2022/04/22/3173/

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寄稿:被撃墜事例相次ぐ極超音速兵器を過信するな [安全保障全般]

過去2週間で露軍Kinzhalが7回撃墜されたことを受け
飛翔最終段階で速度大減速が避けられない同兵器の限界
技術面で更なる改良は高価&困難で投資優先を再考すべき

Kinzhal6.jpg5月26日付Defense-NewsがMITのDavid Wright客員研究員の寄稿を紹介し、最近2週間でウクライナ軍運用のパトリオットミサイルに7回も迎撃されているロシア軍自慢の極超音速ミサイル兵器「Kinzhal」を事例として、極超音速兵器はその飛翔ルート全ての段階で「極超音速」を維持しているわけではなく、

特に目標に到達する最終段階では被撃墜を避けるための軌道変更や空気抵抗により速度が大幅に減速し、防空兵器に撃墜される可能性が相当程度あり、速度維持のための改良は技術的ハードルが高く更なる投資が必要で、これに伴う兵器の大型化は運搬等を困難にすると警告し、今後の防空兵器の能力向上も加味すれば、予算配分の最優先事項として同兵器開発に取り組んでいる米国防省は方針を再考すべきではないかと提言しています

Kinzhal3.jpg極超音速兵器は、既にロシア軍の「Kinzhal」や「Zircon」ミサイル、また中国軍が「DF-ZF」や「Starry Sky 2」として部隊配備を示唆し、これに脅威を感じた米国防省が最優先開発兵器として取り組み中で、早い順番で米陸軍の「Long Range Hypersonic Weapon (LRHW)」、海軍の「Conventional Prompt Strike (CPS)」、そして米空軍の「Hypersonic Attack Cruise Missile (HACM)」での導入に挑んでいるところです

極超音速兵器は、紛争初期段階において、敵の攻撃ミサイルや防空網を音速の5倍以上の飛翔速度で突破して無効化することを狙って優先開発されてきましたが、音速の5倍以上から10倍程度との初期飛翔速度では現在の防空システム突破が可能ながら、空気抵抗や進路変更により速度が低下し、パトリオットが迎撃担当する目標近傍の低高度域では大幅減速して「迎撃不可能ではない」ことが、7回の「Kinzhal」迎撃事例で証明されてしまいました

Kinzhal4.JPGまた、7回のロシア軍「Kinzhal」迎撃事例は、6回がパトリオットPAC-3の最新バージョンMSE型で行われていますが、1回は旧バージョンPAC-3で成功していると言われており、ロシア製「Kinzhal」の完成度の問題を加味しても、「極超音速兵器」無敵神話は脆くも崩れ去ったとの見方も出始めています

目標に命中する直前まで空気抵抗等に打ち勝って「極超音速」を維持するには、「スクラムジェット」等の推進装置をミサイルに組み込むこと等が技術的には考えられますが、極超音速飛行で生ずる大気との摩擦熱に耐える機体や推進装置の開発は容易ではなく、米国防省も長年苦闘を続けながら更なる投資が必要とされており、仮に完成してもミサイルの大型化は避けられず、その運搬や目標への接近が困難との見方があります

Kinzhal5.jpgDavid Wright氏は最近2週間で相次いだ、ウクライナでの極超音速兵器撃墜事例を良く検証分析し、極超音速兵器開発の目的や実現可能な性能レベルを費用対効果も踏まえて議論の俎上に載せ、今後の防空システムの更なる発展も考慮して、米国防省は極超音速兵器開発への投資優先度や投資額を、他の優先課題と比較して再評価すべきではないかと問題提起しています
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極超音速兵器の実態についてはよくわかっていませんが、終末にDefense-Newsが緊急掲載して読者アクセスNo1になっていた記事ですので取り上げました。

米軍の極超音速兵器開発
「米空軍がARRW断念」→https://holylandtokyo.com/2023/04/05/4478/
「Zumwaltへの極超音速兵器契約」→https://holylandtokyo.com/2023/02/22/4313/
「バカ高い極超音速兵器:米議会が試算」→https://holylandtokyo.com/2023/02/08/4261/
「陸軍はあと2回試験」→https://holylandtokyo.com/2023/01/17/4107/
「3回連続ARRW試験に成功」→https://holylandtokyo.com/2022/12/16/4061/
「高価な兵器は少数保有で」→https://holylandtokyo.com/2022/02/22/2742/
「空軍:重要性が中国と米国では違う」→https://holylandtokyo.com/2022/01/25/2639/
「潜水艦へは2028年」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-11-19
「3度目の正直でHAWC成功」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-09-28
「米艦艇搭載は2025年頃か」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-07-24

迎撃兵器システム開発関連
「迎撃兵器を日米共同開発で」→https://holylandtokyo.com/2023/03/22/4438/
「迎撃兵器開発を2企業と契約」→https://holylandtokyo.com/2022/07/01/3405/

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引き続きインドネシアは米国に塩対応 [安全保障全般]

米陸軍トップが訪問も「全てのmajor powers国と仲良く」と
米比関係が急速に改善進展するのとは対照的

McConville Indonesia.jpg5月12日付ABCNEWS電子版は、同日James McConville米陸軍参謀総長がインドネシアを訪問し、インドネシア国防相など同国安全保障関係者と、両国間の軍事協力関係強化について協議したと報じています

ただ、米国との関係が急速に進展し、ホワイトハウス高官が「驚くべき:stunning」と表現する程のフィリピン関係とは対照的に、 中国との関係を強く意識して「中立的な立場」だと強調するインドネシア側との話し合いはあまり進展がなかった雰囲気で、会談後の報道も具体的な合意事項等の発表が全く含まれていません。

5月12日付ABCNEWS電子版によれば
McConville Indonesia2.jpg●11日までフィリピンを訪問していた米陸軍参謀総長は同日夜インドネシアに到着し、12日にインドネシアのPrabowo Subianto国防相と会談した。同大将はインドネシアとの軍事演習強化を含む両国関係の深化方法について議論したと語った
●また同大将は、「この地域に我々は多くの友人を持ち、緊密に連携している。地域の平和、安全、安定に関し、我々は利害を共有している。だからこそ我々は、皆にとって自由で開かれたインドアジア太平洋を維持するために協力しているのだ」と表現した

●ただしPrabowo Subiantoインドネシア国防相は、「地域の平和と安定の推進と維持は我々共通の関心事だ」と述べる一方で、「インドネシアは全ての国、特に全てのmajor powers国との関係維持を望んでいる」と強調して発言し、McConville大将がインドネシア訪問直前に訪問したフィリピンとは異なり、中国との関係を引き続き重視している事を示唆した

McConville Indonesia4.jpg●11日には、インドネシアでASEAN首脳会合が開催され、中国との距離感が加盟国内で異なるASEAN内の複雑な思惑に配慮する形で、従来のASEAN会合と変わらない表現である「地域での誤算や衝突を避けるため、地域での対立事案については自制した姿勢で対応すべき:call for self-restraint in the disputes to avoid miscalculations and confrontations」との声明が採択されている
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McConville Philippines.jpg米フィリピン関係は、今年2月の米国防長官訪比時の米軍の比軍基地へのアクセス数倍増(4個基地から8個)合意、3月の米軍第5世代機(F-22)初訪比と南シナ海上での訓練、4月11日の「2+2」会合での国防支援調整協議(レーダー、無人機、軍用輸送機、防空装備、F-16輸出)と、

米海兵隊が新部隊MLR(Marine Littoral Regiment)まで投入してフィリピン側と連携を深めた大規模演習「Balikatan」(4月)など、「驚くべき:stunning」進展を見せていますが、中国経済大減速の中でもASEAN諸国の動きは様々です

McConville Indonesia3.jpgフィリピンの変化の背景を米国の専門家(AEIのZack Cooper氏)は、「比は過去5年間に渡り、中国との関係改善アプローチを試みたが、中国側がその高圧的な態度を変えなかったことで比国民の反感を買い、フィリピンは国益保護&追求のため、米国との協力強化の道を選択するに至った」と分析しているところです。

タイの総選挙結果を受け、タイ軍事政権に変化がありそうですが、米国との関係がどうなるのか、中国に配慮を見せていたタイ政権に変化があるのかにも注目したいと思います

インドネシア関連の記事
「戦闘機の機種選定」→https://holylandtokyo.com/2022/01/06/2581/
「オーストリアに中古戦闘機購入打診」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-07-21
「米軍が活動拠点求め」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-02-16-1

フィリピン関連の記事
「米比が33年ぶりに比で空軍演習」→https://holylandtokyo.com/2023/05/08/4597/
「米比2+2とBalikatan演習」→https://holylandtokyo.com/2023/04/20/4524/
「5世代機初展開F-22」→https://holylandtokyo.com/2023/03/24/4442/
「第3MLRの編成」→https://holylandtokyo.com/2022/11/14/3900/
「前政権時の米とのギクシャク」→https://holylandtokyo.com/2021/08/02/2065/
「三菱製レーダーを提供へ」→https://holylandtokyo.com/2020/08/31/536/

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CSIS:露のウへのミサイル攻撃を総括分析 [安全保障全般]

ロシアの失敗を将来の戦いで期待すべきではないし
ウクライナ経済の復興は極めて厳しいが
防空&ミサイル防衛システムと分散運用の効果確認

CSIS Williams.jpg5月11日付Defense-Newsが、CSISのミサイル防衛プロジェクト副責任者であるIan Williams研究員の寄稿を掲載し、ロシアによるウクライナ侵略当初からの巡航ミサイルや無人機による攻撃は、ロシア軍ミサイル部隊等の低パフォーマンスや、目標情報の入手分析や情報伝達能力の低さにより、ウクライナの指揮統制能力や防空能力を破砕するに至らないままミサイル等を消費し、低調になりつつあるとの指摘を紹介しています

この間、ロシアミサイル部隊や無人機攻撃部隊は、攻撃目標重点をウクライナ軍からウクライナのエネルギーインフラに移し電力供給網等に打撃を与えたが、春に現地を訪問して確認した限りでは最低限の電力網は維持されており、また西側の支援も得たウクライナ防空能力向上により、弾薬不足は影を落としているものの、2022年春のミサイル撃墜率10%程度から、同年年末には5割程度になり、最近では7-8割にまで向上していると同研究員は指摘しています

CSIS Williams2.jpg同研究員は、このロシア軍のミサイル攻撃作戦事例は、ロシア軍の自軍への過信やウクライナ軍能力過小評価が重なったケースであり、将来のミサイル防衛を考える上では注意を要するものの、ミサイル攻撃に不可欠な敵目標の継続的かつ迅速な把握、指揮統制系統維持の重要性、更に防御側の分散、機動、隠蔽、カモフラージュなどの基本的な自軍防御努力の重要性が改めて確認されていると主張しています

同研究員は5月5日に本件に関する約70ページのレポート「Putin’s Missile War」を発表しており、Defense-Newsへの寄港はその概要の概要ですが、細部の作戦状況に関する情報入手が難しい中で、公開情報や現地調査を踏まえ、将来の軍事作戦の中核になるミサイル攻撃や無人機攻撃についてアプローチを試みるもので貴重であり、概要の概要を更につまみ食いしてご紹介しておきます

5月11日付Defense-News記事によれば
Williams CSIS.jpg●2022年2月以来、ロシア軍は数千発のミサイルや片道無人機よるウクライナ攻撃を行っており、これによりウクライナ国民や社会インフラは大きな損害を受け、戦後のウクライナ経済回復は大変厳しく、海外からの大きな支援を持ってして長期間を要することになろう
●しかし軍事的にロシア軍は戦略目標を達したとは言えず、作戦の細部は依然不明部分が多いが、ロシア軍の作戦遂行能力の低さ(ミサイル部隊等の低能力や、目標情報の入手分析や情報伝達能力の低さ)とウクライナ軍の西側支援を活用した粘り強い戦いにより、ウクライナは指揮統制系統を維持し、ウクライナ国民の士気は大きな低下を見せていない。またウクライナの兵站能力も、低下はしているがロシアの狙いほどはダメージを受けていない

CSIS Williams3.jpg●このようなロシア軍の状況は、湾岸戦争やイラク戦争時の米主導多国籍軍による巡航ミサイルや精密誘導兵器を巧みに使用した作戦結果と対照的で、イラク国家指導層とイラク軍の指揮系統を絶ち、イラク防空能力を短期間で破砕して航空優勢を獲得した戦史とは対極の結果となっている
●現在のロシア軍は既にミサイル在庫が大幅に減少し、ウクライナへの攻撃数は減少しており、国内で新規に製造した少数のミサイル等で時折攻撃を再開する程度にまで攻撃は低下している。逆にウクライナは世界的な防空兵器弾薬枯渇に直面してはいるが、西側からの防空兵器提供を受け、ロシア側ミサイルの迎撃率を飛躍的に(前述のように)向上させている

Russia cruise3.jpg●言い換えればロシアは、自らがウクライナ侵略後にウクライナ内で確立したかったA2AD網構築に失敗し、逆に西側の支援を受けたウクライナ軍のA2AD網に阻止され、被害が拡大している状況にも見える
●ロシア側の失敗の原因は、侵略の目標目的達成に必要な作戦規模を低く見積もりすぎていたこと、ロシア軍の能力を過信していたこと、特にウクライナ軍の機動・分散による部隊配備の変化を迅速に捕え、攻撃サイクルに反映する仕組みの機能不全が際立った印象がある

Russia cruise5.jpg●ロシアによるウクライナ侵攻で観察された事象が、他の地域で今後再現されるとの前提を置くべきではないが、巡航ミサイル等による攻撃は非常に危険だが、完全に阻止不可能ではないことをウクライナは示したと言える。
●高性能の防空システムと指揮統制システムを訓練した兵士に運用させ、ローテクではあるが重要な装備の分散、機動展開による位置秘匿、装備品のカモフラージュによる隠蔽、おとりによる敵監視網情報網のかく乱などを組み合わせる事で、防空&ミサイル防衛システムを機能させ、被害を緩和することが可能なことを示したとは言える
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「戦った経験がない」中国軍とウクライナでのロシア軍を比較することは困難ですが、通所兵器での西側との対峙を事実上あきらめ、核戦力による抑止や対応に軸足を移しつつあったロシア軍と、台湾有事を例に考えれば、通常兵器でも十二分に米軍に対応可能なレベルの中国軍の現状での違いは明らかだと思います

Russia cruise4.jpgCSISのIan Williams研究員ご指摘のように、「高性能の防空システムと指揮統制システムを訓練した兵士に運用させ、ローテクではあるが重要な装備の分散、機動展開による位置秘匿、装備品のカモフラージュによる隠蔽、おとりによる敵監視網情報網のかく乱などを組み合わせる事」の重要性を再確認しておきましょう。

そして、日本の環境で有事に機能しそうもない戦闘機に過剰投資している日本の現状への警鐘と理解しておけば良いと思います

CSISのレポート「Putin’s Missile War」紹介ページ
https://www.csis.org/analysis/putins-missile-war

ウクライナでの戦いに学ぶ
「世界初の対無人機等の防空兵器消耗戦に直面するウ」→https://holylandtokyo.com/2023/01/27/4220/
「ウで戦闘機による制空の時代は終わる」https://holylandtokyo.com/2022/02/09/2703/
「アジア太平洋への教訓は兵站」→https://holylandtokyo.com/2022/06/17/3358/
「SpaceXに学べ」→https://holylandtokyo.com/2022/04/22/3173/

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