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防研分析官がイランとイスラエルの攻防を速攻考察 [安全保障全般]

イランは米に近いサウジやUAE等に攻撃計画事前通知
イスラエルVSハマス戦争から世界の視線それる
イランの脅威に湾岸産油国の危機感高まる

Iran Israel.jpg4月23日付で防衛省防衛研究所の中東担当主任研究官・西野正巳氏が、4月13日深夜からのイランによるイスラエル直接攻撃と同19日のイスラエルの反撃、そしてその後の中東全体の雰囲気について「NIDSコメンタリー」枠組みで約4ページの論考「イランの史上初の対イスラエル領土攻撃とイス ラエルの反撃」を速攻で発表しました。特に今後の中東情勢に関する観点が興味深いのでご紹介します

西野主任研究官は、イランもイスラエルも「事態のエスカレーションを望まない」中で、自国民に相手への政府としての強い意志を見せるために4月13日と19日にそれぞれ攻撃を行ったが、攻撃を大規模に見せかけつつ、攻撃による大きな被害を出さないよう注意を払っていると分析し、この双方の動きにより、ハマスVSイスラエル紛争から世界の注目がいったん外れ、一方でイランの脅威を湾岸諸国をはじめとする中東諸国に改めて考えさせることになっているとの視点を提示しています。

西野正巳・主任研究官の分析概要の概要は・・・

Iran attack.jpg●イランは4月13日深夜から、無人機約170機、巡航ミサイル30発以上、弾道ミサイル 120発以上をイスラエルに向け発射し、1979年のイラン建国以来初のイスラエル直接攻撃を行った。
●但し、イランは攻撃による事態エスカレーションを望まず、イランのイスラエルに対する強い姿勢を自国民に見せるため攻撃を大規模に見せかけつつ、攻撃による大きな被害を出さないよう対策した。

●イスラエル側の被害発生を防ぐため、イランは攻撃の実施時期や概要を、事前にトルコ、サウジアラビア、UAE など中東諸国に事前通告することで、情報を間接的に米国やイスラエルへ届けて、イスラエル側が十分な防衛体制を準備できるようにした。
●イスラエル軍は米英軍などと連携・協力して、情報を生かしてイラン攻撃に対処した。

Iran Israel2.jpg●アラブ諸国の一角であるヨルダン軍も、自国領空を侵犯してイスラエルに向かうイラン無人機多数を撃墜し、他の一部アラブ諸国も、レーダー情報の提供などの形でイスラエルを支援したとみられる
●結果的に、無人機と巡航ミサイルは全てイスラエル領空到達前に撃破され、弾道ミサイルも多くはイスラエルのBMD システム「アロー」で迎撃された。一部少数の弾道ミサイルのみが着弾し、南部のネバティム空軍基地にわずかな被害が出た程度で収まり、攻撃の結果はイランの狙い通りとなった

攻撃後のイランの姿勢や攻撃への配慮
Iran Israel4.jpg●攻撃後、イランは国連代表部 SNSを通じて、今攻撃で本件は完了として、これ以上のイスラエルとの攻撃の応酬を望まない意向を表明した
●ただイランはイスラエルの反撃も想定し、イエメンから相当数の兵器をイスラエル向けに発射した一方で、レバノンの親イラン勢力であるヒズボラ温存のため、ヒズボラを活用したレバノンからの攻撃は意図的に避けた可能性が高い。(イランは 2023年10月以来一貫して、ヒズボラがイスラエルとの本格交戦に突入して打撃を受ける事態の回避を目指している)

●現状を整理すると、イランは事態のエスカレーションを望んでいなし、イスラエルもイランとの全面交戦のような過度のエスカレーションを望んでいない。 このため、4月19日のイスラエルによるイランのイスファハン攻撃も、イラン側の被害はわずかとみられ、更なるエスカレーション防止を狙うイスラエルの意思を反映しているしたとみられる。

今後の中東情勢等への影響は
Iran Israel7.jpg●イランとイスラエルの相互攻撃という今回のエスカレーションに伴い、ガザ地区でのハマスとイスラエルの交戦として始まった紛争の構図や、それを巡る各国の姿勢が、今後変化する可能性がある
●まず、ガザ地区への注目が相対的に薄れ、それに伴い、ガザ地区の人道状況についてのイスラエルに対する、米国等からの批判が弱まる可能性がある

●また、今回のイランによるイスラエル攻撃の直後、G7 は一致してイランを非難しており、一部アラブ諸国の姿勢も変わる可能性がある。
●例えばヨルダン軍は、直接的には自国の領空防衛任務を遂行したが、結果的に、イスラエルへ飛来するイラン無人機を撃墜してイスラエルを支援した形になっている

Iran Israel5.jpg●サウジは 2023年10月のハマスによる対イスラエル大規模攻撃の直前まで、イスラエルとの国交樹立交渉を進めており、サウジはイスラエルとの国交樹立の見返りとして米国に、米国によるサウジアラビア安全保障へのより明確な関与の約束も求めていたとされる
●現在サウジはイスラエルとの国交樹立交渉を凍結しているが、2019年にイラン勢力による無人機と巡航ミサイルの攻撃で、国営石油会社サウジアラムコ施設が深刻な被害を受け、石油生産能力が一時的に半減した痛い経験をしており、今回のイランによる対イスラエル攻撃からイランの脅威を再認識したとみられ、地域安全保障上の脅威認識が一致するサウジアラビアとイスラエルは、水面下で接近・協力を試みる可能性がある
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Iran Israel6.jpgこの論考は「NIDSコメンタリー」の枠組みには珍しく、詳細に「引用先」や「参考文献」が明示されており、なおかつ4月13日と19日の双方の攻撃後に、週末を挟みつつも「速攻で」23日に発表している点で、その積極的な姿勢を大いに歓迎し、拍手を送りたいと思います

これだけ世界から関心を集め、広く報じられているテーマについて、迅速に今後の大きな流れに関する視点まで論ずる姿勢は、まさに政府系研究機関の分析官の「鏡」ですし、その方向を支えた防衛研究所も素晴らしいと思います。日本のメディアが反イスラエル報道で凝り固まる中、アラブ世界内の動静を冷静に紹介する研究者の意地を感じました。防衛研究所の中国分析官の皆様にも見習っていただきたいと思います

イラン関連の記事
「出来すぎのイラン攻撃への迎撃作戦概要」→https://holylandtokyo.com/2024/04/16/5812/
「中国仲介:イランとサウジが国交復活」→https://holylandtokyo.com/2023/04/21/4550/
「イラン製無人攻撃機がウで猛威」→https://holylandtokyo.com/2022/10/20/3787/

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