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無人ウイングマンCCAは2029年までに100機 [米空軍]

Kendall 空軍長官が議会証言で
2023年代後半までに 1000-2000 機導入の構想も
100機後は2年単位で契約更新し順次改良を

CCA NGAD4.jpg4月30日 Kendall 空軍長官が米下院の予算関連小委員会で、24日に第一弾企業選定「increment 1」で Anduril 社と General Atomics 社を選び、ロッキードやボーイングを敗者とする発表をしたばかりの無人ウイングマン機CCA(Collaborative Combat Aircraft)に関し、2030年代後半までに 1000-2000機導入の構想を持ってはいるが、当面5か年計画最終年の2029年までに約 100機を導入する計画だと説明しました

また、同長官は「CCAの最終的な調達機数は、1機のコストやCCAの能力達成度や他の装備品の成熟度などの要因により影響を受ける」と述べ、「F-35戦闘機の1/3程度の1機35-45 億円程度で、繰り返しの使用を前提とするが、ある程度のリスクを甘受し損耗は想定した上で、現有戦力では実現できない多様な戦術や戦法を使用可能にするアセットとなる」との表現で証言しています

CCA NGAD.jpg更にKendall氏は、「有人戦闘機1機が行動を共にするCCAは、2-5機の範囲と現時点では想定しているが、全ての有人機がCCAと行動を共にすることを前提とはしていない。少なくともCCA 導入当初は」とも語り、今後 CCA 開発と並行して作戦運用法も検討を深化させる必要があることを示唆しています

24日の第一弾企業選定「increment 1」の後に予定される、第2弾企業選定「increment 2」の決定時期は 2025年から 26 年が予定されていますが、最近のウォーゲームでは「アジア太平洋戦域では、それほど高性能のCCAは必要とされておらず、low-end CCAを多数準備したほうが良い」との教訓が得られているとの報道や空軍高官発言もあり、

MQ-28 Ghost Bat4.jpgKendall 長官も議会では、「本プロジェクトは、約2年毎の複数の段階(multiple increments)を経て進化していく手法を考えており、increment 1では迅速な生産を目指すが、これら初期のCCA運用を通じて空軍が多くを学んで、2-3年後の次の increment に生かしていく」と語り、「走りながら考える」風の成長過程をCCAで設定しているようです

また米空軍はCCA開発において同盟国との開発協力を重視しており、豪州がボーイングと取り組むモジュラー性を重視した無人機「MQ-28 Ghost Bat」や、英国軍や他同盟国のプロジェクトとの協力 追求姿勢を強く打ち出しています

MQ-28 Ghost Bat2.jpgKendall 長官と共に議会証言した AIlvin 空軍参謀総長は、数か国の同盟国と関連議論を行っており、「公言できない秘密の他国の開発案件や技術と、我々のCCA プロジェクトを組み合わせることで期待されるシナジー効果や、(機体や搭載装備&兵器の)相互運用性確保によって生じる効率性により、大きな飛躍が得られると期待している」と語っています
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CCA NGAD3.jpg4日に Anduril 社とGeneralAtomics 社が選ばれた第一弾企業選定「increment 1」で、何が要求されているのかも全く「非公開」状態で、CCA に求めるレベルが揺れている様子が感じられる記事であり、 2029年までに約 100機との具体的数字が出る議会証言とのギャップを感じます

少なくとも 1000機との大風呂敷ですが、「どこに展開し、だれが維持整備し、どのように兵站を確保して運用するのか」がさっぱり見えないCCAであり、今後も引き続き「生暖かく」見ていきたいと思います

CCA 関連の記事
「大手3社がCCA一次選考漏れ」→https://holylandtokyo.com/2024/05/17/5851/
「F-16改良AI無人機でCCA ソフト開発試験に」→https://holylandtokyo.com/2024/04/26/5788/
「CCA 原型候補 XQ-67 が初飛行」→https://holylandtokyo.com/2024/03/21/5652/
「第1弾候補企業を2-3社に」→https://holylandtokyo.com/2023/03/06/5595/
「あと6年で実用化する試験準備」→https://holylandtokyo.com/2023/11/08/5153/
「AIアルゴリズム集大成試験」→https://holylandtokyo.com/2023/08/08/4922/
「2020年代後半導入へ」→ https://holylandtokyo.com/2023/04/03/4473/
「長官:NGAD 200機、CCA 1000機」→https://holylandtokyo.com/2023/03/09/4403/
「関連技術を23年から本格開発へ』→ https://holylandtokyo.com/2022/11/22/3948/

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若手研究者による「デジタル権威主義」解説 [サイバーと宇宙]

防研のNIDSコメンタリーが部外者の論考掲載
37歳の上智卒&自治体職員後&防大大学院博士が執筆
超苦手な学術論文風ですが・・・

digital authoritarianism2.jpg4月17日付で公開の防衛研究所「NIDSコメンタリー」に、愛知学院大学准教授 大澤傑氏による実質4ページの論考「デジタル技術が促進する新たなたたかい---流動化する国際秩序とデジタル権威主義」が掲載され、デジタル技術が独裁者に乱用される、いわゆるデジタル権威主義の状況や脅威について解説していますのでご紹介します

失礼ながら、論考の前半部分の多くを割いて記載されている、言葉の定義というか、権威主義国家の捉え方等々についての部分は、若手研究者として致し方ないのでしょうが、結果的に一般の読者を遠ざけるような「学術的色付けのためのこねくり回し」となっており、この部分はバッサリ無視させていただいて、まんぐーすが理解できそうな部分だけ、記載事項の並び替えや解釈も交え、適当につまみ食いで取り上げます

大澤准教授の論考によれば
Oosawa2.jpg●米国同時多発テロや世界金融危機、新型コロナの広がりなど、連続する危機との直面で各国の政治体制は動揺し、民主主義国家の体制に対する信頼が低下する一方、(中国やロシアなどの)権威主義はデジタル技術を用いてそれを乗り切った。むしろ権威主義国家では、その危機を梃子として体制を強化する傾向が見られる。かつては民主主義を促進させると考えられたデジタル技術も、今となっては権威主義との相性の良さが浮き彫りとなありつつある

●権威主義の至上命題は体制維持で、その手段として3つの要素「抑圧」、「懐柔」、「正統化」を用いる(抑圧を除けば、民主主義においても一定程度見られる統治手法)

digital authoritarianism3.jpg抑圧→反対派や体制の脅威になる者を排除して体制の安定化を図る「ムチ」。デジタル技術抑圧とは、ネットのシャットダウンや、監視による反対派の補足などが好例

懐柔→親体制派が体制から離反しないよう、また人々が体制を支持するように特権や利益を与える「アメ」。独裁者はアメとムチを利用した統治を行う。デジタル技術による便利で安心安全な社会の構築が一例

正統化→体制の正統性を担保し、人々が自発的に体制を支持するように仕向ける方法。個人崇拝化や業績のアピールなど。デジタル技術懐柔による生活環境の改善だけでなく、体制を賛美する言説の流布や、フェイクニュースやディスインフォメーションを用いた認知の誘導などが該当

●中国の統治手法が一例
digital authoritarianism.jpg人々の様々な特性を指標化した「社会信用スコア」は抑圧のツールにもなるが、行儀が良い人々が様々な特権を得られることから懐柔のツールにもなる一方、それによって構成された便利な社会は体制を支持する人にとっての正統化の手段ともなる。

中国のデジタル権威主義の抑圧的な側面を強調する論調がある一方で、これまで与信を得ることができなかった人々が「社会信用スコア」の導入によって権利を獲得することができたとの指摘もある。

中国では「五毛党」200 万人以上がネット上に共産党政権の正統性を高める書き込みを行っている模様。デジタル技術を利用し、独裁者は権威主義的な統治を効果的に行うことが可能となったといえる。 一方、民主主義国家においても同様にデジタル化によって便利な社会構築が進められたが、それに伴う情報集積はハイブリッド戦での脆弱性につながった

●ただ、デジタル権威主義の未来は明るくない
digital authoritarianism4.jpgロシア→政治体制の個人化を進め、高い抑圧で難局突破を狙うが、それを維持できるかは軍や警察にいかに懐柔できるかに依存し、先行きは不透明

中国→少子高齢化や新型コロナ蔓延などに伴う経済停滞で、懐柔、正統性がともに低下しつつある。戦狼外交や野心的対外政策で国民のナショナリズムを喚起して体制を維持しているが、この先は不透明

●そこで中露が陰の「たたかい」ハイブリッド戦に注力
Oosawa.jpg両国はサイバー攻撃や影響力工作や選挙介入を通じ、自国に有利な国際環境を「戦わずして」構築すべく企図
抑圧や懐柔維持が困難になりつつある両国は、「西側諸国による覇権主義的な国際秩序への対抗」という言説で、「民主主義対権威主義」を語り、外部批判で自国の正統性を際立たせる正統化に力を

他方、両国は民主主義的価値の流入や西側諸国の影響力が高まることによって体制が転覆する可能性を恐れている 

中国はグレート・ファイアウォールを構築し、ロシアは独立系メディアを締め出している 北朝鮮やクーデタ後のミャンマーでも同様の動きアリ。軍事的コストが低く、正統化を図ることができるハイブリッド戦は有効な選択肢である。
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Oosawa3.jpg防衛研究所の研究者のアピールの場である「NIDSコメンタリー」に、なぜ部外者である大澤傑氏の論考が掲載されたかは「?」ですが、上智大学院から一度は地方自治体に就職した大澤氏が、どのような経緯かは不明ながら防衛大学校総合安全保障研究科博士課程修了して博士(安全保障学)を取得した経緯か、または大澤氏の研究分野が、防衛研究所の研究者だけではカバーできない重要分野だったため、依頼して論考掲載の運びとなったものと推察いたします

省略した論考前半部分については、ご興味のある方はじっくり原文https://www.nids.mod.go.jp/publication/commentary/pdf/commentary310.pdfでご確認ください  

防衛研究所の最近の研究
「安全保障としての半導体投資」→https://holylandtokyo.com/2024/02/28/5534/
「サイバー傭兵の動向」→https://holylandtokyo.com/2020/08/05/515/
「台湾への非接触型「情報化戦争」」→https://holylandtokyo.com/2024/01/05/5398/
「中国の影響工作/概要解説」→https://holylandtokyo.com/2023/12/21/5362/
「異様な中国安全保障レポート2024」→https://holylandtokyo.com/2023/11/28/5299/
「量子技術の軍事への応用」→https://holylandtokyo.com/2022/01/14/2577/
「先の大戦・あの戦争の呼称は」→https://holylandtokyo.com/2021/08/13/2103/

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大手3社が無人機ウイングマンCCA一次選考漏れる [米空軍]

新興Andurilと老舗General Atomicsを米空軍が選定
ロッキード・ボーイング・NGは外れる
ただし本格生産企業選定?の2次選考は別に

Anduril Fury.jpg4月24日、米空軍が無人機ウイングマンCCA(Collaborative Combat Aircraft)の基本設計やプロタイプ製造及び試験を担う候補企業2社を発表し、2017年創設のスタートアップ企業Andurilと、MQ-1 PredatorやMQ-9 Reaperを製造してきたGeneral Atomicsが選ばれ、大手3社(ロッキード、ボーイング、Northrop Grumman)は選外となりました。なお、新興Andurilと老舗General Atomicsから1社を選び、後に第2弾選定で量産型を最終決定するのは2025-26年とのことです

ただし米空軍は、「少なくとも1000機」導入との意向を示しているCCAに関し、引き続き多くの企業の知見を活かしたいとの意向を強く持っており、今回の2社選定はあくまでも「1次選考:Increment 1」で、細部を検討中の「2次選考:Increment 2」も予定しており、その「2次選考」には今回選外となった大手3社を含む関連20社にも参加機会がある、と強調しています。

具体的に24日米空軍は以下のように発表
General Atomics Gambit.jpg●米空軍は、Anduril とGeneral Atomicsが、detailed designs, manufacture, and testing of production-representative test articlesすることに関し、継続的に資金投入することを決定した
●ただし、今回production-representative CCA製造に選ばれなかった20以上の企業からなる「broader industry partner vendor」も、引き続き将来の本格生産契約を含むCCA将来事業の仲間である(continue to be part of)

Anduril Fury2.jpg「1次選考」と「2次選考」の違いがぼんやりしているのですが、「基本設計」と「本格製造」担当企業の分離とのニュアンスで米空軍幹部が語ることもあれば、「まずは無人ウイングマン機の基本能力確立」で「次の段階でより高度な能力追求」との流れで説明されることもあります。

最近は、アジア太平洋戦域対象のウォーゲームで「ステルス性が高く、高度な能力を持つCCAのニーズはそれほど高くない」との結果が出ているとの背景情報が報じられ、3月にRichard G. Moore空軍計画部長(中将)が「まずは兵器運搬アセットとしての基本固め」で「その他の部分は2次選考以降に」と表現するなど、CCAの要求性能や運用構想の揺らぎもあり、「基本設計」と「本格製造」との単純切り分けではない雰囲気となっています

選ばれた企業2社は
General Atomics Gambit2.jpg●Anduril → 2017年創設のシリコンバレーstartup企業。仮想敵機無人機「Fury」開発を手掛けていたBlue Force Technologies社を2023年秋に買収
●General Atomics → 1990年代から米空軍に無人機MQ-1 PredatorやMQ-9 Reaperを製造提供している。CCA関連では「Gambit」とのコンセプト機体を提案

米空軍は2社発表に際しKendall空軍長官がコメントを出し、「開始から僅か2年目なのに、本計画のスピードと質は素晴らしいい」、「計画の透明性と政府と企業間のチームワークがこの迅速性を可能にした」とこれまでの進捗に満足感を示すとともに、2社選定後も多くの企業を巻き込んでプロジェクトを推進したいとの意向を強く打ち出しています

ただし、選考から漏れた大手3社の反応は微妙で、
CCA3.jpg●Northrop GrummanはCEOが、「自立型無人機への我が社の戦力に現時点で変化はない」、「米海軍と多国が同様の計画を進めており、その機会を生かしてこの分野に取り組む」、「CCAの今後の進展をモニターしていく」との声明を出し、
●ボーイングも、「米海軍用の艦載無人給油機MQ-25 Stingrayや、豪州と取り組むMQ-28 Ghost Bat計画、その他非公開プロジェクトで、自立型無人機分野に取り組んでいく」、「現時点でのCCAに参画できなくなり残念だが、本分野への関与に変化はない」と、温度差はありつつもCCAへの継続関与方針を示していますが、

●ロッキードは、「CCAとF-35やF-22との融合に特に焦点を当てて取り組んでいく」とのみコメントし、CCAへの継続関与を明確にしなかったため記者団から確認質問が出たようですが、先ほどのコメント以上に申し上げることはないと回答し、CCAからの離脱を示唆しています
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General Atomics Gambit3.jpg「少なくとも1000機導入」との大ぶろしきを広げた米空軍・・・というよりKendall空軍長官の剛腕・・・との表現が正しいと思いますが、現在の予算状況や今後の中国を含む脅威の変化の中で、どこまで「1機45億円以下程度」を「少なくとも1000機」で突っ張れるのでしょうか?

更にCCAに関しては、対中国正面である西太平洋の、どこに展開場所を確保して、誰がどのように維持整備し、誰がどのようにコントロールして運用するのか・・・との大問題が残っていますので、その辺りを念頭に置きつつ、生暖かく引き続き見守っていきたいと思います

CCA 関連の記事
「F-16をAI無人機へ:CCA ソフト開発&試験用に」→https://holylandtokyo.com/2024/04/26/5788/
「CCA 原型候補 XQ-67 が初飛行」→https://holylandtokyo.com/2024/03/21/5652/
「第1弾候補企業を2-3社に」→https://holylandtokyo.com/2023/03/06/5595/
「あと6年で実用化する試験準備」→https://holylandtokyo.com/2023/11/08/5153/
「AIアルゴリズム集大成試験」→https://holylandtokyo.com/2023/08/08/4922/
「2020年代後半導入へ」→ https://holylandtokyo.com/2023/04/03/4473/
「長官:NGAD 200機、CCA 1000機」→https://holylandtokyo.com/2023/03/09/4403/
「関連技術を23年から本格開発へ』→ https://holylandtokyo.com/2022/11/22/3948/

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米陸軍が50kwレーザー兵器試作品の導入断念 [Joint・統合参謀本部]

2022年からイラクで現場評価を行っていたが・
計画では試行運用経て2023年に量産業者選定予定も
更に別企業の50kw級2機種を来年から試験へ

Stryker 50KW2.jpg3月29日付Defense-Newsは、米陸軍の迅速能力技術評価室が主導し、2022年からイラクに試作品を持ち込んで試行運用を続けていた3台のレイセオン社製のStryker戦闘車両搭載50kw級レーザー防空兵器(DE M-SHORAD: Directed Energy Maneuver-Short Range Air Defense systems)について、追加1台を含めたデータ収集は継続するものの、部隊導入に向けた取り組みはあきらめ、別企業製の2機種の同クラス兵器の試行テストを計画することになったと報じています

Rasch.jpg米陸軍の同評価室(Rapid Capabilities and Critical Technologies Office)は、現在10-, 20-, 50- and 300-KW級のエネルギー兵器の開発に毎年約150憶円投入し続けており、この50kw級のSHORADシステムは、小型無人機やロケット弾や迫撃砲から戦闘車両を防御することを狙い2021年に企業体制を固めて開発を本格化し、現場試験運用を経て2023年には量産用の仕様を固め、改めて量産担当企業を募集&選定する予定でした

Stryker 50KW.jpg米陸軍同評価室長のRobert Rasch中将は、前線で試行運用したレイセオン社製のStryker戦闘車両搭載型の問題について具体的には言及せず、「この試作品を機動部隊装備に組み込んでいく試みは断念し、陸軍評価テストコマンド研究室に持ち帰って分析することにした」、「我々は試作品を評価し、量産に向けた要求書を仕上げたかったが出来なかった。もう少し時間を頂いて他の提案と競争させ、実現可能なものを仕上げたい」と苦しい説明を行い、

50kw級開発については、別の2企業の提案2機種を追加で評価したいと述べ、「別の2つの企業(ワシントン州の企業nLightとロッキード社)がそれぞれ開発中の2機種を来年入手し、異なった発想で設計された2機種のレーザービームの質や費用対効果や信頼性等を今後評価する予定で、結果の陸軍上層部への報告は2026-27年を想定している」と計画の3-4年遅れに言及しています

IFPC-HEL2.jpgちなみに、同評価室が50kw級と並行して開発中の300kw級は、ロケット、大砲、迫撃砲、無人機、巡航ミサイル等の脅威対処を狙ったシステムで、米陸軍が「IFPC-HEL:Indirect Fire Protection Capability-High Energy Laser」計画でロッキード社と2023年10月に開発契約を結び、500kw級へのグレードアップ研究も並行して製品名「Valkyrie」として2025年に試作品納入される予定となっています

また細部フォローが出来ていませんが、20kw級では、歩兵部隊の車両「ISV:Infantry Squad Vehicle」搭載用を開発&導入する計画が進行中と聞いています
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米国防省2021年発表の「Directed Energy Roadmap」では・
●2022年までに、150-300KW級の兵器化
100Kwでドローン、小型ボート、ロケット、迫撃砲に対処可能
300kwで巡航ミサイルに対処可能
●2024年までに、500KW級の兵器化
●2030年までに、1GW級の兵器化

IFPC-HEL.jpg・・となっていますが、ロードマップ発表から3年で既に大幅に遅れており、エネルギー兵器・レーザー兵器が「いつまでたっても完成まであと5年」と揶揄され続けている理由がここにあります

西側前線部隊では、イランの支援を受けたフーチ派による西側艦船への巡航ミサイルや無人機攻撃対処で、エネルギー兵器・レーザー兵器による防御システム早期配備の要望が急速に高まっていますが、技術的にはまだまだ困難な道のりが待っている模様です

米陸軍の取り組み
「300KW級開発をロッキードと契約」→https://holylandtokyo.com/2023/10/18/5138/
「50KW級レーザー搭載装甲車3台導入」→https://holylandtokyo.com/2022/01/21/2623/

海軍や空軍の取り組み
「AC-130用試作兵器を部隊へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-10-12
「戦闘機防御用から撤退へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-07-01
「空軍が無人機用の電磁波兵器を試験」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-09-27
「米艦艇に2021年に60kwから」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-05-24

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輸送機や給油機はFやBと共に開発すべき [米空軍]

次世代戦闘機やCCAと共に将来CやKCも検討すべき
将来給油機はFやBレベルではないがステルス性が必要
2025年までに25%のCやKCに通信やネット中継機能を

Minihan11.jpg3月28日、米空軍輸送コマンド司令官で「熱血漢」「改革派」とご紹介してきたMichael Minihan大将が講演で、次世代輸送機や空中給油機NGASの開発が戦闘機や爆撃機の「後追い」となる傾向に警鐘を鳴らし、対中国を意識すれば、戦闘機や爆撃機の活動に不可欠な次世代輸送機や給油機開発は、広い視野から新設される米空軍「Integrated Capabilities Command」で戦闘機や爆撃機開発構想と並行して進めるべきだと訴えました

また将来輸送機や給油機構成について、全てがそうである必要はなく、配合比率は現時点で固まっていないが、、一部はある程度のステルス性を有して高い脅威下で活動可能である必要があり、輸送や給油任務以外に、兵器や救命装備投射プラットフォームとして、また前線地上部隊への燃料弾薬やバッテリー輸送アセットとしてのニーズに対応する必要があるとの考えを示し、「垂直離着陸能力」の必要性にも言及したようです

Minihan12.jpg更に同司令官は「2025年までに25%のアセットに必要」「約250機を想定」との具体的目標付きで、輸送機や給油機に「connectivity upgrades」、つまり小額投資で実現可能な通信中継やネットプロバイダー機能を持たせ、統合戦力や同盟国等の戦力増強に貢献すべきだとの持論を展開しており、まんぐーすは「なるほどそうだな」と思いましたので、以下で具体的な表現等をご紹介します

Defense OneのウェビナーでMinihan大将は
●例えば1950年代のB-52爆撃機開発が、B-52の戦略的運用に欠かせないKC-135空中給油機開発と並行して実施されたように、米空軍は輸送機や給油機開発を、戦闘機や爆撃機開発の後回しにしてはならず、この点で2月に発表された(米空軍全体の新規開発事業を一元統制管理する)「Integrated Capabilities Command」創設計画は極めて重要で、FとBとCとKCを一体的に検討する役割を担う同新コマンドに輸送コマンドも必要な人員を送り込むことになる
NGAS 5.jpg●輸送コマンド保有戦力の多くが老朽化しており、我々へのニーズが拡大し続ける中で新たなプラットフォームへの投資が必要となっている。現状では将来の輸送や給油機の将来の能力別構成比率について語れる段階にはなく、同時に一つの機種で全てに対応できないのは自明で、現有アセットと同程度の能力のアセットで十分な任務も多くの残るだろうが、高い脅威下で活動可能なアセットを一定程度確保する必要が生じてい

●そこでは、ステルス性を持つ戦闘機や爆撃機の支援だけでなく、FやBによる兵器投射を支援するパレタイズ兵器や撃墜された搭乗員への救命装備の投下、最前線地上部隊への通信機器用バッテリーの投下などのニーズにもこたえる必要がある
●ハイエンドニーズに対応する輸送や給油アセットは「小規模smaller fleets」で、戦闘機や爆撃機レベルのステルス性は必要ないと思うが、低視認性は欲しいし「垂直離着陸能力」も追求したい

C-17 R11.jpg●また、2025年までに25%のアセット、つまり空軍輸送コマンド保有の輸送機や給油機約250機に、小規模な投資や改修工数で実現可能な「connectivity upgrades」で通信中継やネットプロバイダー機能を持たせ、空輸コマンドの為だけでなく、広く統合戦力や同盟国等の戦力増強に貢献したい
●以上述べたような将来への変革はリスクも伴うが、現状に留まるリスクは受け入れ難いし、過去2年半の作戦運用や各種演習を通じ、述べてきた改革方向が間違っていないことは証明済だと認識している
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NGAS4.jpg特に米本土から離れ、使用できる作戦拠点が限定的な西太平洋での対中国作戦運用ニーズを各種演習やウォーゲームで検討すれば、新しいアジア太平洋軍司令官が議会証言したように「給油や兵站が極めて重要」であることは明白で、同時に一朝一夕には解決できそうもない重い課題です

もはやウォーゲームの世界では、F-35など足の短い戦闘機タイプや脆弱な空母に搭載した艦載機が活躍できそうな場面が「皆無」に近いのでは・・・とも邪推していますが、何をするにしても輸送機や給油機の任務が減るとは考えにくく、CやKC開発は、FやBの後追いではだめだとのMinihan大将講演は、現役将軍としては精いっぱいの発言でしょう

Mike Minihan司令官関連の記事
「アジア太平洋でACE体制は未完」→https://holylandtokyo.com/2023/09/19/5048/
「米空軍史上最大の空輸演習を西太平洋で」→https://holylandtokyo.com/2023/07/13/4852/
「2025年に中国と戦う」→https://holylandtokyo.com/2023/01/31/4241/
「KC-46A空中給油機が36時間連続飛行」→https://holylandtokyo.com/2022/12/12/3974/
「KC-46を操縦者1人で試行運用」→https://holylandtokyo.com/2022/11/02/3881/
「不具合抱えたままKC-46運用開始宣言」→https://holylandtokyo.com/2022/09/21/3688/

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昨年9月AI無人戦闘機が有人F-16と本格空中戦 [米空軍]

半年後の4月19日に米空軍が曖昧ぼんやり発表
複数本格空中戦で何回勝利かなど細部には触れず
試験目的は「重要な戦闘局面でのAIの信頼性確認」と

Air Combat Evolution5.jpg4月19日、AIによる自立飛行試験用に改良されたF-16戦闘機VISTA(Variable In-flight Simulator Aircraft)を運用する部隊幹部等が、国防省研究機関DARPAとともに取り組んできた空戦革新プログラム(Air Combat Evolution (ACE))関連で、2023年9月にVISTAと有人F-16戦闘機の間で空中戦飛行試験を様々なパターンで実施し、AI搭載無人機が空中戦等で安全に確実に飛行できることの確認に向けた検証を行ったと明らかにしました

これまで米空軍は、F-35等の墜落を防ぐ「自動地上衝突回避システム(Auto Ground Collision Avoidance System)」導入等において、既存ルールを事故防止目的で徹底するため自立型AIを活用してきましたが、「操縦者が従事する最も危険で予測不可能な飛行形態」で「操縦者にとって最も難易度の高い能力の一つ」である「有視界飛行での空中戦」を自立型AIに実施させることで、米空軍内にAIへの信頼感向上を狙ったものだと関係者は説明しています

同日付Defense-Newsは空軍発表について
Air Combat Evolution6.jpg●4年前に開始した空戦革新プログラム(Air Combat Evolution (ACE))では、当初コンピュータシミュレーション上で、自立型AI搭載戦闘機と人間が操縦する戦闘機が相対することで自立型AIの成熟を図ってきた。自立型AIに実飛行時の安全ルール制限を付加していなかった状態での飛行対決も含め、当時の対戦成績は五分五分だった

●2022年12月と2023年9月にVISTAに自立型AIを搭載した実飛行を計21回行い、2023年9月には約2週間に渡り、有人F-16戦闘機と本格的な空中戦飛行試験を複数回実施した。ただし、本格空中戦試験で、VISTA(緊急時の安全確保のため操縦者搭乗)が有人F-16に何回勝利したかなど、細部については空軍関係者は明らかにしなかった
Air Combat Evolution4.jpg●本格的な空中戦飛行試験では、飛行安全上の確認や配慮から、最初はVISTAに防御的な空中戦機動が必要なVISTAに不利な状況設定から飛行試験をスタートし、段階的にVISTAによる攻撃的機動を伴う場面に設定を変えていき、有人F-16との「nose-to-nose passes」や垂直機動を伴う飛行や、相手との距離2000フィート以内や時速1200マイル(2150㎞)での攻撃的な機動も飛行試験も実施された

●本プログラムでのVISTAと有人戦闘機の対決飛行試験から得た教訓は順次AIの成熟改良に反映されており、今後も様々なシナリオ設定で有人機との対戦飛行試験が計画されている。試験は単にAIの空中戦能力向上を目指しているのではなく、無人ウイングマン機CCA実現などを含む「AI技術への空軍内の信頼度を高める」目的で、今後も継続すると空軍関係者は語っている
●しかし「将来の無人戦闘機部隊の編制につながるのか?」との質問に対しACEプロジェクト関係者は、そのような長期的計画に関する質問は空軍指導層にしてほしいと回答するにとどまっている
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X-62A 2.jpg末尾の過去記事では、空戦革新プログラム(Air Combat Evolution)開始の4年前は、シム環境でAIと現役バリバリ操縦者が2020年夏に対決して「5-0」でAIが圧勝とか、2021年7月には実機を用いてAI操縦者と人間操縦者の空中戦試験を予定との発表をご紹介していますが、当時の「盛り上がり」に比し、その後の米空軍関係者の本プロジェクトに関する「曖昧」「ぼんやり」「ロープロファイル」な姿勢に大きなギャップを感じています

「Air Combat Evolution」プロジェクトは2020年に開始され、3年計画で2023年春終了の予定だったと記憶していますが、この辺への言及がないのも不思議です。まんぐーすの邪推ですが、恐らく、2020年頃の盛り上がりに「有人戦闘機命派」が反発し、「世に誤解を与え、有人戦闘機不要論を高める懸念アリ」などと不満を訴え、現在のロープロファイルかつ半年遅れの対外発表になったものと考えます

Kendall VISTA.jpgただ、4月9日にKendall空軍長官が議会で、「(時期は未定ながら)VISTAに自ら搭乗して自立型AI開発状況を確認する」と宣言して大きな話題(5月2日に搭乗済!)になるなど、ロープロファイル希望の有人戦闘機命派にとっては、向かい風がますます強くなりそうで、メシウマです!

無人機空中戦検討プロジェクト
「VISTAで自立AI総合検証試験へ」→https://holylandtokyo.com/2024/04/26/5788/
「22年12月コッソリAI無人機飛行試験」→https://holylandtokyo.com/2023/02/27/4326/
「8企業がAI空中戦で有人F-16に挑む」→https://holylandtokyo.com/2020/08/19/528/
「米空軍研究所は2021年に実機で」→https://holylandtokyo.com/2020/06/10/620/
「空中戦用AI開発本格化」→https://holylandtokyo.com/2020/05/22/678/

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宇宙技術開発の国際&企業協力強化に規格設定を [サイバーと宇宙]

米国防省の国防革新ボードによる聞き取り調査結果
装置の規格や基準がないと同盟国も企業も投資躊躇
共通のインターフェースやデータ形式なども
企業との連携や国際協力追求の宇宙分野で顕著な課題

PRM NG2.jpg4月17 日付 Defense-News は、同日開催された国防革新評議会(Defense Innovation Board)で、日進月歩の宇宙分野技術開発において、リーダーである米国が部品やインターフェイスの規格や基準を明確にしないことが、同盟国や関係企業群の開発投資や協力意欲を削ぎ、連携強化を阻害しているとの指摘がなされたと報じています

同評議会には国防、ビジネス、教育分野等々のリーダーが含まれ、今年のテーマである同盟国や企業とのイノベーション推進に関する「障壁」について取りまとめているようですが、昨年 12月から同評議会が数十回にわたり実施した同盟国や産業界への聞き取り調査結果から、上記が明らかになったようです

GPS IIIF 2.jpg例えば、宇宙空間での人工衛星への「燃料補給」に、米国防省と宇宙軍は複数企業や同盟国と連携して取り組んでいますが、企業各社は、自社が投資して開発するの給油インターフェースやポート機器が将来採用される製品と互換性があることを確保するため、事前に規格や基準を知りたがっており、早期に開発の方向性を明確にすることで投資を促進して同盟国や企業からの協力を得やすくすべき、との提言があるようです。

Victus Haze3.jpg同様に米国の同盟国も、米国がこれらインターフェースやポート機器の基準や規格を明確にするまでは、自国規格の決定を遅らせたり、国家予算投入を控える傾向があり、結果として企業も同盟国も「足踏み」期間が延び、人材や資金の投入が遅れて技術革新の阻害要因やブレーキになっていると、17日の評議会では指摘が相次いだようです

また評議会は、「米国防省が、知的財産権により生じる技術利用の制約が無い標準規格や基準を採用すべく、迅速に取り組むべき」との勧告案も提議され、「これにより、米国内イノベーションが促進されるだけでなく、同盟国の能力も強化されるだろう」との指摘がなされた様で、最終報告書で勧告される模様です
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PRM NG.jpg国防革新評議会(Defense Innovation Board)から勧告を受け取る国防省や米軍研究開発部門からすれば、よりよい規格や基準を早期に定めるために、最新の技術動向や開発状況を、企業や同盟国と早い段階から共有したいのだ・・・との声が聞こえてきそうですが、「開発最前線あるある」の悩みなのかもしれません

「卵が先か、鶏が先か?」を明確にする議論はあるとしても、このような課題をリーダーとフォロワーが共有することで、折り合いつけつつ前進していくのでしょう・・・期待しています

宇宙分野での企業との連携
「妨害に強い GPS衛星への取組」→https://holylandtokyo.com/2024/02/25/55711
「補給方式異なる2企業と並行連携」→https://holylandtokyo.com/2024/02/20/55541
「衛星の緊急打ち上げ技術開発」→https://holylandtokyo.com/2024/03/12/5622/
「衛星が地上局との Link-16 通信試験」→https://holylandtokyo.com/2023/11/30/53111

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やっと操縦者の飛行中身体データ測定装置ICS実用化か [米空軍]

機体センサーと身体センサーで操縦者の状態把握し事故防止
2022年デモ装置完成で23年初に部隊で試行使用
機体に連接し操縦者不調のアラームや機体機動に反映
「なぜ」今頃までこんな重要で安価な装置がなかったの?

ICS.jpg4月15日付米空軍協会web記事が、米空軍研究所AFRLがBAE Systems社と協力して開発中の、飛行中のパイロットの身体データや操縦者を支える酸素供給装置などのデータをリアルタイム測定し、操縦者が「低酸素症」や「脱水症」等々で正常な状態でない場合にアラームを発したり、最終的には機体の機動を強制的に制御したりする装置ICS(Integrated Cockpit Sensing (ICS) system)の開発状況を紹介しています

ICSは安価な装置で、機体側センサー(機内空気の温度・気圧・酸素等濃度等々のデータ測定)と操縦者センサー(ヘルメットや飛行服に装着された頭や耳や身体各所のセンサーで、血中酸素濃度、心拍数、体温、湿度、呼吸数、その他の指標を測定)からのデータを、操縦者が装着したスマホサイズのプロセッサーで処理して、何か問題が発生した場合にパイロット(最終的には機体にも)に警告する等する装置です

ICS2.jpg2022年にBAE社が空軍研究所と連携してプロトタイプを作成し、2023年に米空軍部隊で試験使用する許可を得たICSは、2024年1月から3月まで3つの空軍部隊(Edwards基地のテストパイロット学校、ネリス基地の第59試験評価飛行隊と第422試験評価飛行隊)でF-16操縦者が体験使用し、その声を空軍研究所はフィードバックして装置を改善し、出来るだけ早く実用化して多様な機種で飛行安全確保や操縦者のパフォーマンス向上に役立てたいと考えています

ICS 5.jpgICS装置開発の背景には、従来の航空事故調査では、航空機機体に装着されている数万のセンサー情報を活用して事故当時の状況を分析してきましたが、肝心の操縦者に関するデータがボイスレコーダーやフライトレコーダーに限定されていたため、軍の事故調査委員会から「国防省や軍は操縦者に関するデータ収集や分析が不十分で、事故防止や人的戦力最大活用の貴重な機会を逃している」、「研究者にとって根本原因を見つけることが非常に困難である」と厳しく明確に指摘され、ICS開発関係者から「事故報告書に『可能性がある』や『恐らく』と言った操縦者に関する表現が多いのは、操縦者用のセンサーがゼロだから」との現実があります。

またこのICSにより、例えば1月から3月に行われたテスト使用で、ある操縦者は機体に高い加速度Gが掛かった際に、脳内酸素レベルが他操縦者と比較して大きく低下したことが確認できましたが、これは当該操縦者が高G機動状態における「抗G緊張操作」、つまり呼吸と筋肉の緊張テクニックを改善して脳内酸素レベルを維持する技量を高めれば、操縦者としてのパフォーマンス向上できる可能性を示すものと期待されています

ICS 4.jpgこのように有効性や必要性が明確に指摘され、技術的にもシンプルで安価に実現可能で、飛行安全に直結する重要な装置の開発や配備が「なぜ」遅れたのかについて、米空軍協会web記事は一切触れていません。

ここはまんぐーすが「邪推」するしかありませんが(邪推ではなく、真実だと断言して良いと思いますが)、操縦者は一般に、低酸素症(低酸素)、脱水症、一時的な歪み、精神的疲労、空間見当識障害、過呼吸などに悩まされていても、操縦者としてのキャリアへの影響(昇任や飛行手当を失うリスク)を恐れて症状の報告をためらい、問題を研究するため機関との連携を避ける傾向が極めて強いことが米空軍医官の調査(末尾の過去記事参照)で示されていますが、

ICS 3.jpgパイロット自身の弱みを知られて空軍パイロットの地位や金銭的メリットを失うことを恐れて、空軍パイロットが組織ぐるみでこのような装置の導入を阻止してきたとしか考えられません。つまり飛行の安全をないがしろにしてまで、組織ぐるみでパイロットの「ステータス」と「収入」を死守してきたということです

多少乱暴な表現になりましたが、いくら言葉を足して柔らかく説明しても、本質は上記のとおりです。それがまかり通っているのが、世界の空軍の実態であり、当然変えるべき悪しき組織文化です。

ICS概要と部隊テスト状況説明(約17分間)


米空軍の2023年医学ジャーナルが警鐘
「操縦者は自らの心身不調を隠す傾向大」→https://holylandtokyo.com/2023/03/31/4463/

第5世代機でも重い低酸素症問題
「F-35着陸大事故の副因か」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-11-24
「F-35で謎の低酸素症多発」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2017-06-11
「F-22飛行再開・原因特定」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-07-25

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無人ウイングマンCCA導入に新職種創設視野 [米空軍]

米空軍司令部担当中将が人材養成の重要性語る
ハード開発に関心集中も、1000機を維持運用する人材は?
新規に急速大量導入する新装備の落とし穴

Harris CCA.jpg4月12日、米空軍司令部で将来空軍体制検討を担う新たな部長職(Deputy Chief of Staff, Air Force Futures)にあるDavid A. Harris中将が米空軍協会のイベントに登場し、米空軍が開発最優先で前倒しして2028年からの導入開始(計約1000機導入を想定)を予定する無人ウイングマン機CCA(Collaborative Combat Aircraft)に関し、ハード開発に関心が集まっているが、CCAを受け入れ維持運用する人的戦力管理には「新たな職域(AFSC:Air Force Specialty Codes)」設定も考える必要があると表現し、受け入れ人材育成の重要性とインパクトの大きさに言及しました

CCA NGAD4.jpgCCAに関してまんぐーすは以前から、(対中国作戦のための)有人戦闘機や輸送機や救難救助機の前方展開基地確保や維持整備要員確保の目途も立っていない中で、新たに約1000機もの無人小型ジェット機を導入し、それらをどのような手段で何処に前方展開させ、どのように誰が維持整備して運用するのかが不明確なままで突っ走っている「危うい事業」と指摘してきましたが、やっと疑問の維持運用人材の課題に言及する幹部が現れた・・・と言うことです

12日にDavid A. Harris中将はミッチェル研究所で
Harris CCA3.jpg●我々はCCA機体開発に注目しがちだが、CCAを支える維持整備運用要員に関連する「基本ドクトリン」や「基本手順やマニュアル」や「教育訓練体系」等々についてもしっかり検討&準備する必要がある
●CCAを必要機数を部隊配備することに集中しがちだが、ハードを適切に維持管理して運用し、教訓を反映して継続的に能力を高めていく仕組みづくりも大変重要で、そのためにCCA専門の新職種を設けることが必要かもしれない
●CCAの維持運用のためには、例えば、無人プラットフォームからリアルタイムでデータを抽出して分析する必要があり、その担当者はデータ分析者で情報分析官で機体整備員でもある必要があり、多様な職能の融合が必要な職域となろう

CCA NGAD.jpg●最近CCA運用のAIソフト開発を担う米空軍とMIT研究機関を訪問したが、「CCAがどの程度の自律能力を持つべきか」との難しい問題に関し、関係者間で議論が行われている状態で結論は出ていなかった。有人機操縦者が疲労したり思考飽和状態にあれば自立性を高め、別の特定場面では人間の統制を強めるべき等々の議論があった。これは作戦運用面での検討だが、CCAの維持整備運用と人間の関係にも多様な課題があり、担当する人材への要求もこれまでとは異なる

●最も避けるべきは、完成したCCAを担当部隊に持ち込み、「これを運用してくれ。従来の部隊運用手順を、部隊に合うように考えてCCA用にアレンジしてうまくやってくれ」と丸投げするありがちなやり方だ。あるべきは、開発段階から実際の現場運用に携わる要員が関与し、現場での限界を踏まえてCCAを完成させ、並行して維持整備運用手順を確立し、人材育成を進める事だ
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Harris CCA2.jpgちなみにHarris中将は、AC-130やMC-130など特殊作戦機のナビゲータと言う極めて特殊な仕事に従事し、空軍特殊部隊の部隊長や統合特殊作戦コマンドの作戦副部長を歴任してきた人材で、現在のポストは恐らく、Kendall空軍長官が2月中旬に発表した米空軍大改革計画の柱である、兵器開発要求性能取りまとめと開発管理を戦闘・空輸・CSコマンドから切り離し、長期的視点から専従で行う新設の「Integrated Capabilities Command」をケアする空軍司令部責任者だと思います

同じく空軍特殊作戦部隊出身で、空軍司令部作戦部長(特殊作戦ヘリ操縦者が異例の就任)から空軍副参謀総長に就任しているJim Slife大将のフォローがあるとは思いますが、戦闘機パイロットが牛耳る米空軍作戦運用と現場部隊運用に関し、特殊作戦機のナビゲータ出身幹部が手を付けるのは決して容易なことではないとお察しいたします。数百機から1000機もの完全な新規導入小型ジェット無人機を維持運用する人材確保など、簡単な仕事ではありませんから・・・

David A. Harris中将のご経歴
https://www.futures.af.mil/About-Us/Leadership/Display/Article/2719716/david-a-harris

2月12日発表の米空軍大改革計画
「米空軍が大改革アクションを」→https://holylandtokyo.com/2024/02/16/5579/

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日米豪の国防相協議でF-35共同演習等に合意 [安全保障全般]

無人ウイングマンCCA等の研究開発協力も
3か国協議の終盤にフィリピン大臣も参加し支援協議

JPUSOZ.jpg5月2日、ハワイの米陸軍基地Camp Smithで日米豪の3か国国防相会談が実施され、アジア太平洋地域の安全保障情勢について議論意見交換が行われ、3か国による防空&ミサイル防衛強化に向けた初訓練やF-35共同訓練などの機会の増加、無人ウイングマン機CCAなど軍事技術開発面での協力強化、更に地域の同盟国等の国防能力強化の支援策等について合意された模様です

また日米豪国防相会議の終盤にはフィリピン国防相も協議に加わり、4か国国防相が一堂に会する2回目の4か国協議が行われ、4月に4か国海軍艦艇が南シナ海で初実施した「MCA:Joint Maritime Cooperative Activities」の流れを受けた対中国活動や、フィリピン防衛力強化のための3か国による支援について議論されたとのことです

3日付米空軍協会web記事は3か国協議に関し、
F-35 Kadena Hill3.jpg●豪州は72機のF-35購入契約済で3個飛行隊編成予定だが、機数を100機まで増強する方向にあり、日本はF-35A型を105機と艦載用B型42機の導入を2022年に決定している
●2023年に日本と豪州は、互いのF-35を相手国に派遣して訓練を行っており、この流れを発展させる形で3か国F-35共同訓練が打ち出された
●具体的には、2025年から26年にかけ実施予定の、米国でのCope North演習、日本でのBushido Guardian演習、そして豪州でのPitch Black演習での3か国F-35訓練実現に合意した

JPUSOZ 2.jpg●3か国国防相は、CCA(collaborative combat aircraft)開発など、研究開発分野での協力強化にも合意した
●また3か国は、2027年に初の3か国共同「combined live-fire air-and-missile exercise」実施で合意し、アジア太平洋地域の航空&ミサイル脅威の増大を受けた共同防空枠組み開発検討を行うこととなった

●3か国協議の終盤にフィリピン国防相も協議に加わり、比の相互運用性を高め防衛能力近代化を推進するための3か国による支援について議論が行われた。そして4か国による海洋演習や共同活動を活発化することで合意した
(米国は2018年から、比の排他的経済水域EEZ内に戦闘機や爆撃機を展開して比軍と共同訓練を行っており、最近増加&エスカレート傾向にある南シナ海での中国艦艇による比艦艇への嫌がらせ行為への警戒を強めている)
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JPUSOZPH3.jpg日本のメディアは相変わらず中国に忖度し、「平穏な中国」報道に努めているようですが、中国が懸命に隠そうとしてきた「経済崩壊」が隠し切れなくなり、習近平の中国内での孤立や「排除」の企てまで噂される状況に至りつつあります。

中国軍の習近平への反発や離反の動きも伝えられるなど、話半分や1/4に聞いても「中国国力の低下」は急速に進んでいるように見え、これがどのように世界に影響を与えるのかに世界の識者の関心が集まりつつあるように感じています

JPUSOZPH6.jpg「中国の急速な軍事力拡大」を理由に軍事力強化の必要性を訴えてきた西側諸国が、今後は「不安定さを増す中国」への備えの必要性を前面に押し出して国防費増加を訴えるのか、日本は最も変化が遅くなるでしょうが、西側各国のインテリジェンス分析から生まれるであろう、その辺りの変化にも注目したいと思います

日米軍事同盟関連の記事
「在日米軍兵士等への医療体制不備」→https://holylandtokyo.com/2024/04/12/5736/
「極超音速兵器の迎撃態勢整備」→https://holylandtokyo.com/2024/04/11/5732/
「次の在日米軍司令官候補」→https://holylandtokyo.com/2024/03/27/5745/
「横田基地で緊急退避や被害対処訓練」→https://holylandtokyo.com/2023/11/07/5194/

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対中国作戦の米軍統合指揮官が交代 [Joint・統合参謀本部]

太平洋海軍司令官から Indo-Pacific コマンド司令官に
祖父・父も米海軍勤務の筋金入り
海軍操縦者ながら米空軍 F-15を操縦し実戦経験

Paparo change2.jpg5月3日、ハワイで太平洋軍司令官の交代式が実施され、オースチン国防長官が執行者として見守る中、前任者 John Aquilino 海軍大将(40年の軍生活を終え退役)から、直前まで太平洋海軍司令官を務めてきた Samuel J. Paparo Jr 海軍大将に、対中国作戦の指揮官任務が引き継がれました

Paparo 新司令官は式典訓示で、「中国の日増しに増長する拡大主義や浸潤性を目の当たりにし、わが太平洋軍は即応体制を維持する必要がある。今後を見据えるとき、統合戦力軍として、力と決意と自言をもって、この大きな責務に向き合わねばならない」と指揮官としての思いを語り、

Paparo change.jpg「太平洋軍は同盟国等と共に、国際規範に基づく地域の平和を脅かす中国の問題行動に立ち向かい、この先の見えない試練に対し、過去 1世にわたり世界の安全保障と繁栄を支えてきた、安定して開かれた世界を維持しなければならない」と決意を新たにしています

以下では新司令官Paparo 海軍大将を改めてご紹介
●1964年生まれ。米海軍士官学校出身「ではない」空母艦載戦闘機パイロットで、F-14やFA-18や F-15Cで飛行時間6千時間以上・着艦 1100回以上の「Top Gun」スクール出身者。
Paparo.jpg●海軍操縦者ながら、視野拡大のため米空軍戦闘機部隊への交換操縦者として空軍F-15C部隊に配属され、サウジに展開して実任務を遂行した経験もあるほか、米空軍指揮幕僚大学 ACSCやAWC コースも履修し、空軍との人的つながりも太い

●横須賀配属空母のF-14 操縦者として勤務を開始し、飛行隊長や空母航空団司令官や空母戦闘群司令官を歴任し、中東担当の第5艦隊司令官も務め、米中央軍海軍と米太平洋軍海軍司令官(直近ポスト)を経験している
●統合職としては、米中央軍の作戦部長(J3)経験のほか、珍しい職歴として、アフガニスタンの「Nuristan Province」復興担当指揮官として、米陸軍第10山岳師団第3旅団や第173空挺旅団と共に活動した経歴アリ

2月1日に上院軍事委員会で証言し
Paparo6.jpg●中国の軍事力強化を受け、米太平洋軍は「more forward, more distributed posture:より前方に、より分散した戦力配備態勢」に転換する必要がある
●また作戦運用を支えるため、「効率性 efficiency」原則で構築されてきた兵站態勢を、「効力効果 effectiveness」原則で再検討すべき

●統合戦闘力を発揮するうえで、ダイナミックな戦力機動展開が求められる航空作戦構想から、空中給油能力を念している。統合戦力として(空中給油のために)足の長い、無人の、multi-domain-platformsが、作戦機と輸送機用に必要だ
●また分散運用を支える地域全体への燃料供給も極めて重要だ。抑止面で、競争面で、危機紛争対処面で、米輸送コマンドとの「COCOM-to-COCOM relationship」が最も重要だ。2つのコマンドが常続的に顔を突き合わせるように作戦計画を煮詰め、有事に備えている
////////////////////////////////////////////

Paparo change3.jpgなおPaparo 新司令官が訓示で、中国の度を越えた「侵略的かつ拡張主義的な主張や行動」を表すため、フィリピン軍参謀総長 Brawner 陸軍大将の表現を引用し、「従来のGray Zone との言葉より悪質との意を込め、Brawner 大将の提案する ICAD (illegal, coercive, aggressive and deceptive:違法で強制的で攻撃的で欺瞞的な)に改名する」と発言し、「これも我が同盟国やパートナーの知恵」と紹介したことが話題となっています

Paparo5.jpgご説明が遅れましたが、米太平洋軍司令官(U.S. Indo-Pacific Command 司令官)は、有事に太平洋軍配下の陸海空海兵隊宇宙軍や有事増強される他コマンドの全部隊を指揮下に置き、アジア太平洋地域での軍事作戦を、大統領直属の米軍指揮官として来配を振るうことになります

また、対中国有事に世界から駆け付ける可能性のある西側諸国軍を束ねて、、実質的な多国籍軍司令官として指揮する立場となる米軍人になります。 2月1日の上院軍事委員会での発言内容からも、アジア太平洋地域での軍事作戦に関する認識は確かなものが感じられる人物ですので、期待したいと思います

Samuel Paparo 海軍大将の公式経歴
祖父・父も米海軍勤務の筋金入りです
https://www.cpf.navy.mil/Leaders/Article/2628260/admiral-samuel-i-paparo/

Paparo 大将関連の記事
「議会承認に向け米上院で証言」→https://holylandtokyo.com/2024/02/14/5540/
「大統領は初の女性トップ指名」→https://holylandtokyo.com/2023/07/24/4888/
「Paparo 大将を国防長官が推薦報道」→https://holylandtokyo.com/2023/06/13/4747/

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嘉手納展開の米空軍戦闘機F-35とF-15C→F-22とF-16へ [米空軍]

5か月ぶりのご紹介:再び嘉手納でElephant Walkです
今回は機数増やすため新旧派遣機両方が参加
(Elephant Walk後も新派遣機が全機残置かは不明)

Kadena Elephant 2024.jpg4月11日米空軍嘉手納基地が、老朽化で撤退&退役するF-15C戦闘機の短期穴埋めローテーション派遣戦闘機等を滑走路上に並べ、中国向けに戦力をアピールする「Elephant Walk」を実施しましたのでご紹介します。このイベントは、ローテーション派遣機の交代時期に当たる2023年11月にも行われており、2回目の今回は派遣「交代前」と「交代後」の戦闘機が共に参加することで、参加戦闘機が前回より10機増えた形で実施されました

「沖縄なんて有事に敵攻撃で即機能停止が予期される場所に戦闘機を置きたくないから、F-15Cの後継に別戦闘機を配備する考えは全くないが、急に戦闘機を撤退すると言うと世間体が悪いから、当面は戦闘機のローテーション派遣と後釜の戦闘機配備は検討中・・・で誤魔化しておこう」と、まんぐーすが邪推する米空軍の本音は隠しつつ、戦力をアピールするイベントだとまんぐーすは理解しています

Kadena Elephant 2024 2.jpg2022年10月28日、約40年間展開してきた48機のF-15C型戦闘機を、「今後2年間で」段階的に米本土へ撤退&退役させると米空軍が突然発表して以降の「穴埋め戦闘機ローテーション派遣」経緯は記事末尾に列挙する通りで、今回は昨年10月頃から展開しているF-35と州空軍F-15Cの交代として、ハワイ配備のF-22と所属非公開のF-16が4月上旬に展開した模様です

ローテーション派遣機数は一貫して非公開で、段階的に退役する嘉手納F-15Cの残機数も非公開との米空軍の姿勢から、これまたまんぐーすの邪推ですが、「交代時期には、戦力見せびらかしElephant Walkのために各機種10機程度が嘉手納に所在するが、数週間後には2~6機程度のミニマム規模になっているのでは?」と推測していますし、

Kadena Elephant 2024 3.jpg最終的には、「嘉手納へのローテーション派遣への注目が低下して忘れられかけた頃に、嘉手納への後継戦闘機配備を検討の結果、西太平洋地域への配備戦力全体で考える形に改め、嘉手納への戦闘機配備については、戦力運用上の事項として今後は明確にはしない」と、コッソリ「2+2」合意文書の説明用資料の添付資料の地図の端っこに、小さな小さな文字で補足説明されて終わりの様な気がしています


米空軍関係者は嘉手納に期待しない旨を隠していません
Holmes3.jpg●2021年2月、当時の米空軍戦闘コマンド司令官(Mike Holmes大将)が米空軍主要幹部や軍需産業関係者を前に、「今の戦闘機の航続距離、搭載兵器、展開距離等は、欧州線域ではそのまま将来も通用するが、太平洋線域では距離の問題が克服できない」、「太平洋戦域では、次世代制空機(NGAD)検討において従来の戦闘機のような装備のニーズは必ずしも生まれない」と課題の本質を明確に述べたり、
●2022年11月、関連ウォーゲームに何度も関与しているミッチェル研究所長のデプチューラ退役空軍中将が、嘉手納F-15C/D撤退開始発表時に「嘉手納は対中国有事の際、疑いなく数百の中国軍の精密誘導ミサイル攻撃を受けるので、嘉手納基地の航空機は危機が迫れば他基地に避難する可能性が高い」、「前方プレゼンス維持、同盟国への関与維持、ISR活動の必要性等から嘉手納を捨てることはないだろうが・・」と隠すことなく軍事的合理性を基に語っています

Gates5.jpg●更に2023年5月のDefense-Newsは、新米空軍参謀総長と副参謀総長は、統合参謀本部議長にご栄転の前空軍参謀総長と共に、維持費のかさむF-15やA-10の早期退役を加速し、(アジア太平洋戦域では足が短く活動拠点確保も困難で犠牲も懸念される)F-35の調達機数も計画よりも削減し、先端無人機や指揮統制能力強化への投資を推進する案を練って推進し始めている・・・と紹介している等の関連情報が数多く出ています
●この流れの原点を遡れば、2009年1&2月号のForeign Affairs誌に掲載された当時のゲーツ国防長官による「A Balanced Strategy」との論文にたどり着き、中国やロシアや新興脅威国の台頭を念頭に「足の短い戦闘機の役割は小さくなる」喝破した表現に至ります。そしてその頃からチマチマと「戦闘機命派」を批判してきたのですが、力及ばず今日に至るまんぐーすです

Kadena Elephant 2024 4.jpg以下では、なんとなく哀愁の漂う今回の「Elephant Walk」を前回2023年11月時と比較しつつご紹介し、これまでのローテーション派遣の概要を列挙しておきます

それからも一つ・・・。米国防省や米軍は、中国の経済崩壊や連鎖する習近平中国統治体制の弱体化、汚職&粛清&給与減給による中国軍の混乱や秩序崩壊状況を、相当程度把握していると思いますが、この状況をどう評価して対応しようとしているのでしょうか? とっても気に成ります。

china collapse2.jpg全体的には「習近平が何をしでかすか分からない状況で、台湾に手を出すかもしれないから・・・」との理由をつけ、中国崩壊がより顕在化して「中国脅威論」が使えなくなる前に「予算を確保しておきたい」との思いが見え隠れしているような気がします

【4月11日のElephant Walk参加機】
カッコ内は昨年11月時の機数、太字は前回不参加機首
• Four F-15Cs(10)
Eight F-16Cs
• 10 F-35As(14)
11 F-22As
• One MQ-9 Reaper
• Two HH-60Gヘリ
• Two KC-135 空中給油機(1)
One MC-130J特殊作戦機
• One RC-135電波情報収集機
• One E-3早期警戒管制機
• One U.S. Navy P-8 Poseidon
 (前回は海軍E/A-18G電子戦機2機も参加)

【ご参考:嘉手納F-15C/D撤退と代替機派遣の経緯】
●2022年11月4-5日にかけ、アラスカ配備の8機のF-22が嘉手納に展開
●2022年12月1日、第一弾として(恐らく)8機のF-15が米本土に帰還

●2023年1月17日、ドイツの米空軍基地から16機のF-16が展開
●2023年3月28日、アラスカEielson基地第355戦闘飛行隊所属のF-35が展開
(この時点で、各機種の機数は不明ながらF-22やF-16も嘉手納に所在)
●2023年4月8日 F-22アラスカへ帰還、同10日F-16ドイツへ帰還
●2023年4月8日、米本土からF-15Eが嘉手納に展開

●2023年10月3日、加州とルイジアナ州の州空軍F-15Cが展開
●2023年11月20日、ユタ州Hill基地からF-35展開

●2024年4月11日、ハワイの2個飛行隊からF-22展開
●2024年4月日時非公開、派遣元非公開でF-16展開

Holmes大将やミッチェル研究所長等の「極東で戦闘機無力発言」
(非常にアクセス数の多い記事です)
「嘉手納米空軍F-15撤退を軍事的合理性から考察」→https://holylandtokyo.com/2022/11/09/3904/
「米軍F-35調達機数削減の予兆を指摘」→https://holylandtokyo.com/2023/07/18/4823/
「新空軍2トップはF-35調達数削減派」→https://holylandtokyo.com/2023/05/19/4648/

嘉手納基地F-15撤退と代替戦力派遣
「ユタ州からF-35派遣」→https://holylandtokyo.com/2023/11/24/5271/
「加州とルイジアナ州空軍F-15C到着」→https://holylandtokyo.com/2023/10/10/5113/
「F-15E展開、F-22とF-16が帰還」→https://holylandtokyo.com/2023/04/12/4511/
「空軍F-35が嘉手納基地に展開」→https://holylandtokyo.com/2023/04/04/4482/
「ドイツからF-16展開」→https://holylandtokyo.com/2023/01/19/4178/
「第1陣の8機米へ帰還」→https://holylandtokyo.com/2022/12/06/4021/
「米空軍幹部発言から大きな流れを学ぶ」→https://holylandtokyo.com/2022/11/09/3904/
「衝撃、11月1日から段階的撤退」→https://holylandtokyo.com/2022/10/31/3817/

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Patriotミサイルの復活と継続発展見通し [安全保障全般]

「ウ」以前は後継検討が始まっていたが
今や欧州・アジア・中東で関心急増
ミサイルの生産体制も2倍強へ

Patriot 2.jpg4月9日付Defense-Newsが、冷戦期に米陸軍に導入され、2010年代には後継システム開発も検討されていたパトリオット防空ミサイルシステムが、2014年の露によるウクライナ侵略を契機に東欧諸国を中心に注目を集めだし、米陸軍もペトリ後継検討の方針を見直し、更に2022年2月のロシアの本格侵攻後の着実な撃墜実績により、アジアや中東諸国を含む世界中から迎撃ミサイルやシステム全体への発注が急増し、システム担当レイセオン社も迎撃ミサイル担当ロッキード社が生産体制を強化している様子を取り上げています

Patriot 5.jpg冷戦期に導入が開始されたパトリオット防空システムは、1990年代の湾岸戦争と2003年のイラク戦争で本格的な実戦を経験することになりますが、湾岸戦争ではイラク軍がサウジ領内の米軍展開拠点に向け発射したスカッドミサイル迎撃に失敗して米兵28名死亡につながったり、イラク戦争では3回の有軍誤射で英軍トーネード1機を撃墜して2名を死亡させる事案等も経験しました

Patriot 3.jpgそれでも米軍の主力防空ミサイルシステムとして世界から注目され、1個中隊がミサイル4発搭載発射機8両、レーダー搭載車両1台、指揮統制装置車両1台と発電機で構成されるセットが、米軍以外で日本を含む18か国に約160中隊分(米陸軍は上記以外に約90個中隊)提供され世界中に普及し、ウクライナではロシアの極超音速兵器Kinzhalの迎撃、距離100nmでのSU-34戦闘機や距離130nmでの巡航ミサイル迎撃成功等の成果を上げ、評価が高まっているところです

米陸軍内での後継検討はPatriot発展形態へ
IBCS.jpg●米陸軍はパトリオットの2つの課題「柔軟な指揮統制(防空システムとの連接運用の限界)」と「レーダー覆域の限定(前方120度範囲のみの捜索能力)」を改善すべく後継システム開発を検討していたが、関連技術の進歩や予算状況、2014年の露によるウクライナ侵略を受けての世界からのパトリオット需要の高まりもあり、
●パトリオット課題の改善も念頭に置きつつ、個々のシステム構成品を順次更新し、最終的にパトリオットとは別の特性を持つ他の防空システムも含めた「Integrated Air and Missile Defense」システムとして発展させていく方針へ変更を決定

●パトリオットの課題「柔軟な指揮統制(防空システムとの連接運用の限界)」に関しては、多様なセンサーや迎撃ミサイル等発射装置を連接して統制可能なNorthrop Grumman製の「IBCS:Integrated Battle Command System」を導入決定し、2023年からフル生産体制に入っている
LTAMDS.jpg●「レーダー覆域の限定(前方120度範囲のみの捜索能力)」問題に関しては、レイセオン製の360度監視追尾可能な新型センサーLTAMDS(Lower Tier Air and Missile Defense Sensor)のデモ機テストを現在実施中で、既に4回の実弾迎撃試験に成功している

●更なるパトリオットの能力向上のために、米国防省は2024-28年度間に当初2500億円の投資を予定していたが、追加で3400億円を同期間に投資する方針を最近明らかにし、極めて優先度の高い装備との表現で予算の重要性を説明している。また「Integrated Air and Missile Defense」システムとしては2025年度予算案に約900億円を計上している。

米国以外での人気急上昇と企業のフル生産
Patriot.jpg●現在米国以外で18か国がパトリオット使用国だと説明したが、2014年の露によるウクライナ侵略後だけでも、ルーマニア、ポーランド、スウェーデンが導入を決定し、2022年2月の露のウクライナ侵略以降は、スイスが追加で5中隊分セットを追加発注し、ルーマニアとドイツも追加導入を決定している。更にスロバキアが新規導入検討を表明し、国名非公開で2国が導入交渉中と報じられている
●中心企業のレイセオンは、年間12中隊分セットの生産設備フル稼働で対応しており、ミサイル製造を担当するロッキードは、米国防省や関係国の強い要望を受け、最新型PAC3-MSE(Missile Segment Enhancement)の2018年時点での製造能力年間300発を、2023年12月までに年間500発レベルに増強し、2027年までに650発体制を構築すべく取り組んでいる

●同盟国等から米陸軍のパトリオット部隊展開要請も増加しているが、米軍部隊への負担増や機材の維持整備上の限界ギリギリの運用を続けていることから、米軍や国防省は、同盟国等自身による能力強化を推奨しており、装備導入への問い合わせも増えつつある
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Patriot 6.jpg安価な無人機や巡航ミサイルの急速な普及拡散により、西側諸国は防空コストの急増と弾薬不足に苦悩する新たな時代を迎えていますが、とりあえずレイセオン(RTX)とロッキードの該当部門は好調だということです

レーザー兵器を含むエネルギー防御兵器の完成と配備や、サイバーや電子戦との融合による将来の防御能力向上に期待いたしましょう

パトリオット関連の記事
「PAC-3を艦艇VLSから発射試験へ」→https://holylandtokyo.com/2024/01/25/5487/
「米陸軍がPAC-3部隊増強へ」→https://holylandtokyo.com/2023/09/04/4932/
「世界初の無人機等の防空兵器消耗戦」→https://holylandtokyo.com/2023/01/27/4220/
「THAADに最新型PAC-3連接」→https://holylandtokyo.com/2022/03/18/2820/

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