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欧州議会は台湾を中国の一部だとは認めず [安全保障全般]

激論の末、中国が激怒する結論の報告書を議会で採択
(たぶん、中国代表部の採択阻止工作も功を奏せず・・)
極めて重要な中国への世界の動きも、日本メディアは報ぜず

European Parliament.jpg2月28日、欧州議会が欧州連合 EUの「共通外交・安全保障政策」に関する年次実施報告書を議決するタイミングに併せ、台湾の地位と台湾情勢に関する「共通安全保障防衛政策」 との報告書も別途採決し、賛成 350票(得票率 65%)で報告書を決定しました。

本日は、世界の中国に対する姿勢の転換点になるかもしれない(呼び水となってほしい・・・)、この極めて意義深い内容の欧州議会の報告書について、中国研究の大家で中国共産党の崩壊をフォローする渋谷司氏の YouTube チャンネル (渋谷司の中国カフェ)からご紹介します

ズバリこの台湾に関する報告書のエッセンスは
Shibuya.jpg・中国共産党による台湾に対する領有権主張は根拠がなく、台湾と中国は対等な関係にあり、決して従属関係にはない
・台湾は、インド太平洋地域におけるEUの重要なパートナーであり、民主的な同盟国 である

・EU加盟国は、グローバル・サプライチェーンの強靭化強化に関し、台湾とより緊密 な関係を構築すべき
・欧州議会は、中国共産党が台湾の国際機関への参加を妨害し続けていることを非難し、世界保健機関 WHO や国際民間航空機関 ICADへの台湾の加盟を、EU加盟国やEU 執行理事会が支援するよう求める

もちろん駐EU中国代表部は強く反論し
European Parliament3.jpg・この報告は、国際法と国際関係の基本規範に違反する。「一つの中国」原則は、国際 社会が普遍的に持っている国際関係の基本規範である
・「一つの中国」原則に反し、「一つの中国、一つの台湾」を提唱して台湾独立勢力の言い訳の役割を果たす
・中国の主権を侵害し、中国の内政に著しく干渉するものとして、中国は強い衝撃を受け、断固として反対し、強い言葉で非難する
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European Parliament5.jpgもともと2月 28 日の欧州議会の中心議題であった欧州連合 EU「共通外交・安全保障 政策」の年次実施報告書に関しても、賛成 338票(62%)、反対86票、棄権 122票との結果が示すように、決して「満場一致」の穏やかな議論ではなく、棄権が多数発生する甲論乙駁の議論だった模様で、台湾に関する報告書への賛成 65%との結果も、中国側ロビイストや工作要員等による報告書否決に向けた裏工作や駆け引きがあった中での、画期的な内容の強行突破採決だったのだろうと邪推しております

European Parliament6.jpg今の欧州は、過去 10年に及ぶリベラルの口車に乗った「安易な移民受け入れ」や、耳障りの良い「環境政策重視」の結果、治安も経済も崩壊目前の状態にありますが、遠く離れた中国や台湾に関し、骨のある採決がなされたことに敬意を表したいと思うと同時に、渋谷氏も指摘するように、この重い決定に日本のメディアが「報じない自由」を発動している現状を嘆かわしく思います

台湾関連の記事
「台湾近傍フィリピン北端に米国支援で軍施設増強中」→ https://holylandtokyo.com/2024/02/15/5548/
「中国による台湾への非接触型・情報化戦争」→ https://holylandtokyo.com/2024/01/05/5398/
「中国は大規模な台湾侵攻を考える状態にはない」→ https://holylandtokyo.com/2023/12/08/5330/
「新型潜水艦が西側支援を受け完成」→ https://holylandtokyo.com/2023/10/04/5093/

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豪州海軍が水上攻撃艦艇規模を2倍強に増強へ [安全保障全般]

有識者諮問会議提言を豪政府が基本採用へ
駆逐艦&フリゲート艦を現 11隻から 26隻体制へ
32 発ミサイル搭載の無人艦艇6隻導入も提言に

OG navy fleet4.jpg2月20日、豪州政府が委託した有識者諮問会議が豪海軍水上攻撃艦艇部隊(駆逐艦&フリゲート艦) の強化提言(Enhanced Lethality Surface Combatant Fleet)を発表し、現在の当該艦艇規模11隻を 26隻体制に拡大すべきとの答申を打ち出しました。またこの海軍部隊提言とは別に、豪州沿岸での水 上警察任務を遂行する艦艇を25隻導入すべきとの提言も含まれたとのことです

本答申に関し 28 日付 Defense-News 記事は、豪州政府が本答申を現有フリゲート艦(Anzac-class) の能力向上改修継続部分を除き受け入れたと報じており、現在の勢力がわずか 11 隻との実態にも驚くばかりですが、これを2倍以上に拡大する方向を打ち出した豪州の決意にも驚かされます

OG navy fleet3.jpg専門家は約1兆円の水上艦艇増強答申を、予算的には今後の議会審議や国民世論の影響を受けることは当然としながらも、達成可能な経費規模だと論評し、人的戦力確保が困難な課題だとして昨今の豪軍の離職率の高さを指摘していますが、本答申の方向に進むことは間違いなさそうです

なお、現在の豪海軍 11隻とはあくまで打撃能力保有の駆逐艦&フリゲートだけの隻数で、そのほかに強襲揚座艦2歳、哨戒艇4隻、掃海艇4 、補給艦2隻等を保有していますのでご注意ください。 それでもあれだけ大きな大陸国家が、この規模の海軍しか保有していないとは驚きですが・・・。以下では28日付 Defense-News 記事から豪海軍2倍以上増強提言の概要をご紹介します

豪水上攻撃艦艇(駆逐艦&フリゲート艦)の2倍強増強提
●大型の「Tier 1 駆逐艦およびフリゲート艦」を9隻に
OG Hunter-class.jpg・現在は3隻の「Hobart-class」対空駆逐艦のみだが、同艦艇にイージスシステムやトマホーク巡航ミサイル搭載改修を行う
・新しく現在3隻発注中の「Hunter-class」対潜フリゲート艦を、計6隻調達する

より小型の「Tier 2 フリゲート艦」を11隻に
OG Anzac-class.jpg・現在 8隻保有の「Anzac-class」と同等以上の規模で、陸上及び海上攻撃能力を持ち、防空や援護能力を持つ「general-purpose frigates」を11隻調達する (なお現在8 隻保有のAnzac-class は、1番艦はすでに非稼働状態で、2番艦も 2026 年退役予定の老朽艦)
・豪州海軍はこの最初の?妻の候補を、ドイツの MEKOA-200、日本のモガミ級、韓国のFFX Batch IT/ITI、スペインの Alfa 3000に絞り込み、来年機種選定を行い、初納入は2030年を予定

●有人運用もオプションの大型ミサイル搭載艦6隻
・米国設計で、32 個のミサイルセルを備える 6 隻の大型水上艦艇は、オプションで乗員搭乗可能な従来概念とは全く異なる艦艇を予定。豪州内の建造場所も実質決定しており、2030 年代半ばから就役予定
・豪国防相は同艦艇に乗員を配置すると述べているが、専門家は無人艦艇として将来運用される可能性があると予想している。ただ同専門家は「殺傷兵器を搭載した無人水上艦艇運用には法的環境が整備されていないため、豪政府は現時点でその可能性についてはあまり触れたくなかったはずだ」とコメントしている

OG navy fleet.jpg●なお提言には、「打撃能力保有の駆逐艦&フリゲート艦」以外に関する提言も盛り込まれ、水上警察任務 (civil maritime security operations)のために 25隻の「小型艦艇」からなる部隊の整備も推奨している
●予算面では ・今後10年間で約1兆円(U.S.$7-3 billion)が必要とされ、今後4年間に約 1600億円(U.S.$1.1 bilion) を政府が割り当てる計画を持っている模様で、専門家は個々のプロジェクトの承認を得ていく必要があり、世論の理解も欠かせないが、支払い可能な範囲だと考えている

●人的資源が懸念材料 ・ただし2倍以上に膨らむ艦艇数を支える人的資源については懸念が強く、例えば豪国防省は2022年から 2023 年に軍人数を2,201人増強する計画を立ててが、増員どころか「1,38g 人」減少させており、この面での対策が最も困難ではないかとの見方が多い
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OG navy fleet2.jpg専門家は、「2020年代後半に老朽艦退役に伴う能力低下のリスク増大時期がやってくることを問題視し、豪海軍はこの時期の対策を考える必要があると指摘」しているようですが、時代の要請とはいえ、豪州は大きく軍拡に踏み出し、記事によれば国防費のGDP比を、今の2.1%から2.4%に拡大するようです

米国からの「軍備増強圧力」もあるでしょうが、日本にはどのような要求が来ているのでしょうか? 中国の経済破綻に起因する混乱や国家体制の崩壊具合にもよりますが、様々なファクターが絡み合う、探り合いの今後数年になりそうですねぇ・・・

豪州関連の記事
「北部重要港湾の中国へのリース継続」→https://holylandtokyo.com/2023/10/25/5170/
「却下もB-21購入検討認める」→https://holylandtokyo.com/2023/05/15/4588/
「豪で過去最大の米軍兵站演習」→https://holylandtokyo.com/2023/04/14/4506/
「サイバー能力大拡大の10年計画推進」→https://holylandtokyo.com/2022/11/16/3911/
「米がMQ-9B輸出許可」→https://holylandtokyo.com/2021/04/29/119/

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米国で年始から話題の「朝鮮半島有事の蓋然性」議論 [安全保障全般]

年初から米国で話題の2つの論考をご紹介
「金正恩は戦争に出る戦路的な決断を下した」論と
「朝鮮半島有事に至る可能性をシナリオ別に検討」論考

north korea war3.jpg2月27日付で防衛省防衛研究所が「NIDS コメンタリー」枠組みで、30代後半の若手研究者(戦史研究センターの国際紛争史研究室主任研究官 石田智範氏)による、実質2ページの「朝鮮半島有事の蓋然性を巡るアメリカ国内の議論」 との短くも異味深い論考を掲載し、「2024年の年明け早々、朝鮮半島有事の蓋然性というテーマが米国の安保政策コミュニティを賑わせた」として2本の論考(共に1月11日発表)を紹介していますので、つまみ食いでご紹介します

最近関心が薄らいでいた北朝鮮問題ですが、経済的な破綻状態が深刻さを増し、最近では年初の能登半島地震発生時に金正恩から岸田首相に見舞い電報が送られたり、首領様の妹女史から岸田首相訪朝に関する発言が飛び出すなど、何やら動きがありそうな雰囲気もありますので、頭の体操としてご覧いただければと思い取り上げさせていただきます

38 North.jpg石田主任研究官が取り上げた最初の論考は、核物理学者の Siegfried S. Hecker氏と1990 年代以降の米朝交渉に米国務省で深く携わったRobert L.Carlin 氏(元CIA 分析官)2名による、情報分析サイト「38 North」に掲載された「金正恩は戦争の準備をしているのか?」との連名寄稿で、「すでに金正恩は戦争に訴えるという戦路的な決断を下した」と主張し、朝鮮半島有事の危険性を真剣に訴え注目を集めたものです

もう一つは、元米国務省の北朝鮮核問題担当特使として「米朝枠組み合意」を主導した Robert Gallucci 氏が発表した論考で、朝鮮半島有事に至る可能性をシナリオ別に検討したもので、少なくとも短期的に不安定化のトレンドにある朝鮮半島情勢を考える上で参考になると石田氏が取り上げていま

「金正恩は戦争に出る戦路的な決断を下した」論
north korea war4.jpg●まず両氏は前提として、北にとって対話は「核開発の隠れ義に過ぎない」とする定型的な議論を退け、米国との国交正常化が過去30 年の北朝鮮外交の中心的な政策目標であったことを強調。
●いわく、金日成、正日、正恩の三代にわたり北朝鮮は「中と露に対する緩衝材」として米国との国交正常化を真剣に追求してきており、2019年2月のトランプとの米朝首脳会談(@ハノイ)は、金正恩にとり先代達の渇望した偉業を成し、国内的権威確立に向けた乾坤一擲の大勝負だった。

trump kim summit.jpg●そのため、ハノイ会談の決裂を受けて「トラウマ的な面目の失壁」を味わった金正恩は、過去 30年の政策方針を破棄し、中露との関係強化へと外交の舵を切り直した
●アフガンからの米軍撤退等の情勢変化を受け、北は米国が世界から勢力を後退させていると認識し、「朝鮮問題の軍事的な解決」を図る好機が到来したと判断するに至った。韓国に対する統一政策の放棄は、軍事力行使の対象として韓国を明確に位置づけ直したものであり、全般的な戦路転換の結果である。

●そして両氏はこの流れから、抑止力強化での戦争防止で十分と考えるのは危険だと主張。ただし両氏の議論は、北問題に十分政策資源を配分していない近年の米国に再考を促すことを求めているが、既存の政策枠組みに対する代替案でも提示してはいない。
north korea war7.jpg●「金正恩は戦争に訴える戦路的決断を下した」との核心部分についても、両氏も認めているようにあくまで状況証拠に基づく推論の域を出ず、反論の余地は多分に残されている。両氏の論考が米国の対北政策に及ぼす影響は限定的で、米国は引き続き日米協力の推進を基軸とした 朝鮮半島政策を展開すると考えられる。

●ただ、少なくとも短期的に、北が低烈度の軍事行動を活発化させると予想する点で専門家の見方は概ね一致してい 最近の日米韓による連携強化の動きを受け、金正恩は自らの「強さ」を内外に示す必要に迫られているはずで、また仮に金正恩がトランプ前大統領の再選に米朝交渉再開の望み持つならば、その布石として予め対外的な緊張を高めておくことはむしろ合理的だろう。

「半島有事の可能性を3つのシナリオ別に検討」論考
●ガルーチが提示するのは大きく3 つのシナリオである。
north korea war2.jpg●第一に、台湾有事が朝鮮半島に波及するシナリオ。台湾をめぐって米中が事を構えれば、北は核保有国として中国支援の役回りを買って出るはずであるから、北朝鮮による核の威嚇を前にして、日本や韓国といった地域の同盟国が機会主義的な行動に走る可能性を米国として懸念。

●第二に、北が自らの核抑止力で米国同盟の信頼性が低下したと誤認し、核の威嚇で韓国に政治的意思を強要するシナリオ。ここで事の帰趨を決定的に左右するのは、抑止をめぐる北朝鮮指導者の主観的な計算であり、客観的には非合理的な決断が下される可能性があり懸念。
●第三に、偶発的事態が戦争へエスカレーションするシナリオ。特に核兵器運用に経験の浅い北が、現場レベルで想定外の行動をとる可能性を懸念。
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north korea war5.jpg石田主任研究官は、地震関連の金正恩から岸田首相への見舞いの電報や、首領様の妹女帝による岸田総理の訪朝に関する発言から、現時点では日本に対し北朝鮮は、米国や韓国とは一線を画した対応をとっているとし、日本として日米韓連携を深め北朝鮮の抑止に万全を期すことは無論だが、その先の北朝鮮との関わり方についても、広い視野をもつ必要があるだろう・・・と結んでいます。

日本の地上波や新聞の報道を見ると、「つまらない」を遥かに通り越し、「怒りがわいてくる」方が激増中だと聞き及びましたが、本当ならきわめて健全なことで素晴らしいことだと思います。ご興味のある方は、実質2ページの論考原文を是非ご覧ください

現物「半島有事の蓋然性をめぐる米国内の議論
https://www.nids.mod.go.jp/publication/commentary/pdf/commentary301.pdf

防衛研究所「NIDS コメンタリー」
「安全保障としての半導体投資」→https://holylandtokyo.com/2024/02/28/5534/
「サイバー傭兵の動向」→https://holylandtokyo.com/2020/08/05/515/
「真の注目は台湾立法院長選出」→https://holylandtokyo.com/2024/01/23/5460/

防衛研究所の「異様な」対中国姿勢がわかる公刊物
「中国による台湾への非接触型・情報化戦争」→https://holylandtokyo.com/2024/01/05/5398/
「中国の影響工作/概要解説」→https://holylandtokyo.com/2023/12/21/5362/
「異様な中国安全保障レポート2024」→https://holylandtokyo.com/2023/11/28/5299/

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米軍史上初、海兵隊が財務監査by部会機関に初合格 [Joint・統合参謀本部]

国防省や陸海空軍は過去に合格歴無し
2010年の初監査から不合格を重ねた末に
合格歴のない国防省や他軍種への圧力強まる

Marine financial audit3.jpg2月23日付Defense-Newsは、米海兵隊が同日、国防省や他軍種が未だに合格したことがない第3者機関による財務監査に、史上初めて合格したと報じています

記事によれば、法律により、米国防省と陸海空軍と海兵隊は1990年代に財務監査を受けることになっていた模様ですが、例えば海兵隊は監査の本格準備を始めたのが2006年になってからで、実際に初めて行われた2010年監査では、多くの要改善事項が指摘され不合格となっています

Marine financial audit2.jpgその後海兵隊は、2012年度の限定された範囲の監査に合格したと2013年末に一度は発表しましたが、2015年3月に多くの財務及び監査関係者から結果は信頼性が低く合格判定を取り消すべきとの声が上がり結果が修正され、その後は今回の2023年度監査まで毎年不合格を繰り返しており、国防省や他軍種も同様な連続不合格を続けている状態にありました

海兵隊の財務監査は、Ernst and Young社との第三者監査法人機関によって実施され、財務諸表に記載されている全ての資産を精査し、全ての物品が海兵隊が指定の場所にあることを確認する作業が行われました。

Marine financial audit.jpg監査チームが米国および世界各地で70か所以上の現場を訪問、土地や建物など7800件以上の不動産資産、軍需装備品5900点、スペア部品等190万個、更に2400万個の弾薬等を、陸軍や海軍保管庫等を借用して保管しているものも含めて調査&照合したとのことです

また、原則として監査は単年度で終了するものですが、あまりにも膨大な不動産や物品をチェックする必要があるため、2023年度だけでは終了させることができなかったようですが、「海兵隊の信頼性を議会や納税者に示すため、海兵隊司令官の目標だった」との米海兵隊の強い要望で期間を延長し、2023年度監査を終了させ、合格を勝ち取ったとのことです

Marine financial audit7.jpgもちろん、合格ながら要改善箇所の指摘もあり、例えば人事システムと財務データシステム間の情報共有には、人為的エラーを防ぐため統合された自動化システムを追求すべき等の助言が監査結果には記載されているようですが、アーンスト・アンド・ヤング社とは別に監査を行った国防省会計監査官のマッコード氏は、

「私は海兵隊、特にエリック・スミス海兵隊司令官のリーダーシップと努力を賞賛したい」、「財務諸表全体に対する最高レベルに厳しい監査に合格した取り組みは、国防省や他軍種の取り組みを促進させるだろう」と率直に高く評価しています
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Marine financial audit6.jpg国防省や各軍種に対する財務監査の仕組みが良くわかっていませんが、記事から察すると、国防省や各軍種があまりにも巨大な組織で、監査対象物件や装備が広範囲多数に及ぶことから、法律はおそらく、「国防省や各軍種は、第三者機関である信頼のおける監査法人に、自らの予算で監査を依頼し、健全であることの合格証をゲットして国民に示せ」と要求しているのでしょう

国防省監察官のマッコード氏は「国防省や他軍種の取り組みを促進させるだろう」と毎年同じようなコメントを出していると記事は揶揄していますが、国防省自身は2018年から海兵隊と同様の手法で外部監査法人による監査を受け、2023年11月には6回連続で不合格となっている有様で、襟を正し、反を示す姿勢が求められるでしょう。それにしてもねぇ・・・・、ひどい。

2018年度の国防省への初監査は当然不合格
国防副長官「誰も合格するとは思っていなかった」
外部監査会社から1000名の派遣受け600か所を監査
「2018年史上初の国防省部外監査」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2018-11-17

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ミクロネシア3国と米の協定COFAピンチ [安全保障全般]

人口20万ながら米本土や日本より広いEEZ
対中国に不可欠な米国の独占的軍事アクセスが予算問題で
政府間の協定延長交渉は合意も、米議会が予算未承認

Micronesia 3N.jpg2月23日付Defense-Newsが、西太平洋で日本より35%も広いEEZ(排他的経済水域)を擁し、現在は米国との自由連合協定(COFA:Compacts of Free Association)により米国から種々の援助を受ける代わりに、米国の独占的な軍事アクセスを許可しているミクロネシア3国(パラオ共和国、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島共和国)とのCOFA協定延長に関し、

2024年9月末で完全失効するCOFA協定の米国と3国政府間の延長交渉は、今後20年間に渡り米国が合計約1兆円の支援を3国に行うことで2023年中に合意しているが、その資金を裏付ける法案を米議会が未だ承認しておらず、この間に、3国の内の2か国との現行協定が失効し、2023年末から現在は臨時支出法案により何とかギリギリ資金を捻出している綱渡り状態にあると報じ、このすき間に中国が進出する可能性等を懸念しています。

Royal ASIA.jpg国防省のJedidiah Royalアジア太平洋政策担当次官補代理は、パラオ政府が既に予算不足に陥っており、3か国政府関係者からの「米国は本当にこの地域に留まるつもりがあるのか?」との疑念と戦っていると述べ、2019年に3か国近隣のソロモン諸島が外交承認を台湾から中国に切り替え、後に実質的に中国軍や治安部隊を受け入れる協定を結んだことや、2024年1月に島国ナウルも中国との国交を回復している点を例に懸念を表明しています

Defense-News記事は3つの視点で懸念を整理し、
●まずはソロモン諸島やナウルの例から明白なように、中国との勢力争い。米国にとって、ミクロネシア3国は、米国領土のグアムと北マリアナ諸島、およびパプアニューギニアや豪州などの米国の同盟国等と近接し、米安全保障や国防関係者にとって不可欠な領域である
Micronesia 3N 5.jpg●朝鮮半島や台湾での不測事態の際、ミクロネシア3国やその近接国は、アクセス確保の点から全ての計画の「大前提」になっている存在で、ミクロネシア3国に関してCOFAで米国は、領土への独占的アクセス権を持ち、米国船舶の領海侵入や、米航空機の領空飛行が可能な状態を確保し、同時に、米国は敵対者、特に中国の同様のアクセスを拒否することが可能となっている

●2つ目の懸念は、3か国の島々に現存する米国既存の軍事施設の存在で、マーシャル諸島の「Ronald Reagan Ballistic Missile Defense Test Site」実験場や、パラオに米国が建設中のレーダー施設がこれに当たる
Micronesia 3N 2.jpg●仮にこれら施設の移設を迫られた場合の必要経費をRoyal次官補代理を把握していないとしているが、外部専門家には「hundreds of billions of dollars(数十兆円)」と見積もる者もいる

●3つ目は、アジア太平洋地域全体における米国政府への信頼度低下の懸念である。ミクロネシア3国との協定延長が円滑に進んでいない現実をアジア太平洋諸国は目にしており、西太平洋地域での対中国作戦で「分散運用」を掲げ、分散拠点を切望している米軍や米国防省にとっては、他国との交渉上の大きなブレーキとなっている

なぜ米議会は予算承認していないのか?
Micronesia 3N 4.jpg●COFA協定延長に必要な約1兆円($7 billion)は、2024年度国防授権法案に含まれていたが、米下院指導部が約3400億円($2.3 billion)分は他の国防省予算を削減して拠出するよう要求し、2月の期限までに政府と妥協できず、法案に盛り込めなかった経緯がある
●Royal次官補代理は事の重要性に鑑み、事態打開に向け議会への説明を頻繁に行い「立法に向け24時間体制で取り組んでいる」と説明しており、約50人の下院議員からなる超党派のグループも下院議長に書簡を送り、合意形成に努力するよう要請しているが、合意案作成は2月20日時点では行き詰っている
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Micronesia 3N 3.jpgこの分野に関し全く基礎知識が欠落しているので「ググって」見つけたのが、ご紹介している外務省など作成の地域のEEZ地図と、以下にURLをご紹介する「日本財団」のミクロネシア3国解説web記事です。

太平洋戦争時の悲惨な記憶を乗り越え、親日的な国も多いことから、日本国民としても関心を持ち、関係強化に努力したいものです

外務省作成の「太平洋の島々」解説スライド
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ps_summit/palm_06/pdfs/map.pdf

「日本財団」の解説web記事
ここをクリック 

太平洋の島々関連の記事
「中国とソロモン諸島の安保協定案リーク」→https://holylandtokyo.com/2022/04/11/3119/
「日本戦前の南洋諸島進出を学ぶ」→https://holylandtokyo.com/2020/08/14/523/

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緊急衛星打上げの次のステップ「Victus Haze」へ [サイバーと宇宙]

昨年9月成功の「Victus Nox」計画を終了し
2025年打上予定で数週間後に「Victus Haze」契約発表へ
ご認識や誤訳にはご容赦を・・・・

Victus Haze3.jpg2月20日付で米宇宙軍が声明を発表し、対衛星兵器の導入に向け中露が国際規範無視の兵器開発に突き進む中、仮に友軍衛星が被害を受けた際の代替衛星を迅速に補填するための「緊急衛星打ち上げ」能力開発に関し、2023年9月に第1弾「Victus Nox」計画で発射命令から27時間での打ち上げに成功したとご紹介しましたが、宇宙軍が同計画を終了し、第2弾計画「Victus Haze」の企業との契約を数週間後には発表予定だと明らかにしました

Saltzman2.jpg2月13日に宇宙軍トップのSaltzman大将が、「(Victus Noxで成し遂げた、)衛星やロケットを格納庫から持ち出して、5日目に打ち上げできたことは画期的だったが、地球が秒速30㎞で回転している事を考えれば、5日はまだ長く、5日間で多くのことが起こる可能性があり、私は関係者に何日単位ではなく、時間を縮めて数時間単位に短縮するよう強く求めるつもりだ」と空軍宇宙軍幹部やOB、軍需産業界や専門家の前で宣言しているところです

第2弾計画「Victus Haze」の企業選定については、2023年8月中旬に提案要求書類を9月4日回答期限で発行し、その後応募企業からの聞き取りや提出提案の中身を精査してきた模様ですが、その結果を数週間後に発表して2025年の同計画による緊急打ち上げに挑む予定です

「Victus Nox」と第2弾「Victus Haze」計画の違いは・・
Victus Haze2.jpg●(第2弾Hazeから要求追加)衛星準備は、要請から1~1.5年以内に実施。同サイズで異なる任務用装置を搭載する衛星を準備
●(第1弾Noxから要求アップ)宇宙軍からの「hot standby態勢」指示で、ロケット提供者と衛星製造企業と地上管制施設(地上施設はHazeで追加)は、まず48時間(Noxでは60時間以内要求で57時間で打上げ)で打ち上げ可能な待機態勢に入る。

●(第2弾Hazeから要求追加)続く「alert態勢」指示で、「hot standby態勢」を30日間維持できる態勢に入る
●(第1弾Noxと同レベル要求)その後に出される「notice to launch」指示で、24時間以内に打上げ可能な態勢を確立する

Victus Haze4.jpg●(第1弾Noxと同レベル要求)軌道上に到着後48時間以内に任務遂行可能態勢を確立(Noxでは37時間で確立)
●(第2弾Hazeから要求追加)他衛星に接近して当該衛星を査察&分析(rendezvous and proximity operations)する能力要求

●(第2弾Hazeから要求追加)第1弾では2022年9月に2社選定(衛星担当Millennium Space Systemsと打ち上げ担当Firefly Aerospace)したが、Hazeでは一企業として一体的な活動が可能な体制を要求
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Victus Haze5.jpg宇宙軍トップのSaltzman大将が理想として掲げた「数時間」は、まだ遠い夢物語かもしれませんが、これが衛星緊急打ち上げ技術確立の「現在位置」であることを理解しておきましょう。

第1弾「Victus Nox」と第2弾「Victus Haze」計画に関してや、昨年9月14日の「Victus Nox」計画の打ち上げについては、以下の過去記事でもご紹介していますので、ご興味のある方はご覧ください。小さなことからコツコツやっております

衛星バックアップ用に緊急打ち上げ能力
「第1弾Victus Nox打ち上げ成功」→https://holylandtokyo.com/2023/09/22/5057/
「第2弾Victus Haze計画の企業募集」→https://holylandtokyo.com/2023/08/30/4992/
「2019年頃の検討状況」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-06-01

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米空軍とボーイングがE-7価格交渉で激突 [米空軍]

KC-46とT-7とVC-25で既に1兆円自腹のB社
少しだけ豪英版と仕様を変えたい米空軍
最優先迅速化事業なのに7か月も交渉停滞か

E-7 NATO.jpg2月20日付米空軍協会web記事が米空軍幹部たちの話から、米空軍が最優先事業として稼働率2-3割とも言われるE-3早期警戒管制機の後継として導入決定したE-7 Wedgetailの価格交渉が、既に固定価格契約KC-46とT-7等のお陰で1兆円自腹支払いさせられているボーイング社の新CEOによる厳しい事業精査方針を受け、米空軍特別仕様部分(non-recurring engineering)の価格設定で当事者間に2倍の開きが双方にあり、契約が進まない状態だと報じました

E-7は既に豪、韓、トルコが導入済で、英も近く受領で、米国の後にNATOも発注した今や国際標準の空飛ぶレーダー&作戦指揮統制機ですが、米空軍幹部が「最終的には、ほとんど英空軍発注仕様の機体と変化ない」と主張しつつ、昨今の中国のサイバー戦力強化や重要航空アセット攻撃能力強化傾向から、「他国機と相互運用性を維持しながら、米空軍独自の仕様も要求」している部分に関し、ボーイング側の開発経費見積もりと空軍の想定がかけ離れている模様です

Calhoun Boeing.jpgボーイング社が契約に極めて慎重なのには理由があり、現ボーイングCEOのDavid Calhoun氏が就任した2020年4月以前に、前CEOが無謀な固定価格契約した「KC-46」「T-7練習機」等のコスト超過&自腹支払い分が1兆円($7 billion)に達するデタラメ振りで、Calhoun氏は厳正に契約を精査し、入札には積極性を控えるとたびたび発言しており、2022年4月に米空軍仕様機体の開発&製造契約を結んではいるものの、要求の細部を後で知らされ、その後の交渉に同社が極めて慎重に臨んでいるからだそうです

米空軍はE-7を可及的速やかに導入したいと考えており、2027年に初号機を受領し、2032年までに計26機を受け取る計画を持っていますが、いきなり入り口部分で大きな壁にぶつかっており、米空軍首脳も既に豪・韓・トルコで運用開始している機体であるだけに、最後の詰めの甘さに地団太踏んでいるようです

本件に関しKendall空軍長官(2月12日)
Kendall AFA5.jpg●ボーイング社と価格合意を得るのに苦労している
●地上移動目標を衛星や他センサーを総合的に組み合わせて探知追尾する方式が最終到達目標であり、E-7はそこへ向かう途中の「橋渡し役」であるが、中国がE-7の様な重要指揮中枢を攻撃する能力(ステルス機や長射程空対空ミサイル)を強化していることから、空軍として戦力は常に見直しながら前進しなければならない

Andrew Hunter調達担当次官補(2月13日)
●ボーイング社は、自分たちが期待される仕事の全範囲を、しっかり理解して検討しなければ入札しない。様々な状況を考えれば、合意内容に慎重になっているのは驚くべきことではない。
Hunter AF.jpg●米空軍仕様にE-7を最適化するための非定常的な設計開発部分(non-recurring engineering)に、予想を超えた開発作業が必要だと判断されたことが大きな驚きであった。我々は最終的には英空軍が調達するE-7と非常に極めて近い機体だと考えていたが、ボーイングが予想の2倍の費用を要求してきたことで、交渉が長期化している
●我々は協議を続けており、ボーイング社側の空軍要求の解釈とその具現方法、どの機能が最も重要で、どの部分を後送りできるか等について話し合い、双方の隔たりを埋めて問題を絞り込むことに取り組んでいる。入札プロセスをもう少し早く回転させたい
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E-7 Wedgetail3.jpg米空軍が2023年2月末にボーイング社と米軍仕様E-7開発契約を約1800億円で結んだ際は、青息吐息のE-3の稼働率が4割以下に落ち込んでいるとご紹介しましたが、今現在は5機のうち1機しか稼働状態にない惨状とのことです

しかしボーイング社は、民航機分野でも墜落事故から復調の兆しがみられると思っていたら、別の機体のドアが吹っ飛んだりして大混乱ですが、会社として大丈夫なんでしょうか? 現CEOには頑張って頂きたいと思います

米軍とE-7導入関連の記事
「今後の能力向上を米英豪共同で」→https://holylandtokyo.com/2023/07/21/4871/
「E-7とE-3違いを概観」→https://holylandtokyo.com/2023/03/30/4447/
「初号機を2027年納入契約」→https://holylandtokyo.com/2023/03/06/4358/
「導入を正式発表」→https://holylandtokyo.com/2022/04/28/3186/
「E-3は2023年から退役へ」→https://holylandtokyo.com/2022/04/01/3074/
「後継機検討のRFI」→https://holylandtokyo.com/2022/03/01/2711
「米空軍航空機は高齢」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-11-27

「NATOもE-7」→https://holylandtokyo.com/2023/11/21/5262/

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突然グアムで実弾ARRW極超音速兵器使用の講習会 [米空軍]

緊急追加情報! 中国に見せつけるARRW発射試験
https://www.airandspaceforces.com/air-force-test-arrw-hypersonic-missile-pacific/
Kwajalein Atoll.jpg米空軍がARRW発射試験情報(航行危険情報)を公示
3月5日から3月10日の間に実施予定と
マーシャル諸島クェゼリン環礁(Kwajalein Atoll)試験場で
グアム基地の2500マイル南東から射程2100マイルで
最終試験を西太平洋で実施し、HW探知追尾能力も検証か
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23年3月に装備化断念発表のARRWをなぜ最前線基地に?
極超音速兵器全体の基礎を学ぶ講習会と説明も
突然のB-52HとARRWと受講者写真公開に波紋広がる

Guam ARRW2.jpg2月28日付米空軍WEB サイトが、アンダーセン基地([コピーライト]グアム島) 広報が配信した同基地で開催の「極超音速兵器講習会:Hypersonic Weapon Familiarization Training」の様子を、10枚の講習模様写真と短い説明文で掲載しましたが、米本土の開発基地から「門外不出」だった当該兵器が、いきなり最前線基地グアムに現れ、しかもそれが実弾で B-52H爆撃機に搭載されていたことで、軍事メディア や専門家らが大騒ぎとなっています

まず基礎情報として、米空軍の極超音速兵器(以後は HW と表記)開発は・・・ (なお米軍と米海軍は、共通部分が多い地上発射型と艦艇発射型を共同開発中で、隆軍は2023年に最終試験を行ってワシントン州の部隊で実配備開始予定だったが、2024 年に最終試験がずれ込み 遅延中。海軍の進払と合わせ、細部は末尾の過去記事等を参照)

●Kendall空軍長官は、中国はA2AD 戦路で米軍を遠ざけたいからHW を重視するが、米国は中国の高価値目標攻撃用(地上 C2 施設等)の一つの選択肢として保有し、、それは中国抑止のためだから、空軍内の優先度や重要性はそれほど大きくないと位置づけ

●爆撃機搭載の ARRW(Air-Launched Rapid-Response Weapon)
Guam ARRW3.jpg・ロッキード開発のブースト&グライド方式で、短射程
・当初開発不調で2回試験に失敗も、2022年 12月に初成功後、2023年8月と10月にも成功

・しかし2023年3月末、Kendall 長官とHunter 調達次官補が、ARRW は開発までで、調達はせず、HACM に注力と発言 (ただ2024年に地上目標攻撃を含めた ARRW 最終試験を実施し、データ等取りまとめ、後の開発案 件の資として残す)
・調達なし決定に際し Hunter 次官補は、「我々には計画があるが、公開の場では話せない」とのみ言及。2024年3月中旬議会提出の2025年度予算案には何らかの方向性が出る模様

●戦闘機タイプに搭載の HACM (Hypersonic Attack Cruise Missile)
・小型だがスクラム Jet エンジン等を搭載し長射程
・レイセオン主契約でエンジンはNG社
・2021年9月に3度目の正直で基礎試験に成功し、2022年 11月末にレイセオン社とプロトタイプ 開発契約を約180億円で締結

以上のような経緯の ARRWが、最前線グアムに突然登場でしかも実弾ということで、例えば3月4日付米空軍協会は驚きを表現し・・・・

Guam ARRW.jpg●過去の ARRW 開発試験はすべて加州エドワーズ空軍基地離発着で行われ、他の基地への展開など なかった開発中の兵器 ARRW が、対中国最前線のグアム島基地に突然現れ、、しかもそれが実弾を示す黄色いテープを巻かれている
●更にいきなりグアムで「極超音速兵器講習会:Hypersonic Weapon Familiarization Training」が開催&紹介され、約25名の兵士(第23爆撃飛行隊と第49 試験評価隊の兵士)が参加

Guam ARRW5.jpg●本講習の目的を空軍 web 記事は、「複数の航空機コミュニティーにHW(ARRW だけでなく、HACM や他のタイプも含め)の基礎知識を教育」、「HW 使用に関する討議を通じ作戦運用を考察」、「HWの兵站支援全般を理解」することと紹介。
●なぜ突然「HW 講習会」? 調達&部隊配備しない ARRW でなぜ? なぜグアムで?  なぜ実弾を? なぜこの配信をアンダーセン基地広報が? この後に試験発射を周辺で実施?・・・などなど、様々な疑問が飛び交う状況も、空軍からは一切追加情報なし

●B-52H には4発 ARRW が搭載可能だが、写真では1発しか確認できない。1発だけグアムへ?
●ちなみにARRWは、300発調達を前提とすると、1発あたり 22?26億円と推計され、隆海軍の地 上や艦艇発射用はその約3倍と言われている
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Guam ARRW4.jpgちなみに3月4日付米空軍協会 web 記事は、中国のHW である DF-17は「米海軍空母キラー」とか「グアムキラー」と呼ばれており、弾道ミサイルの先端に取り付けて射程延伸のオプションもあると 紹介しています

中国の不動産バブル崩壊やゼロコロナ政策に端を発する「中国経済崩壊」がますます顕在化する中、米軍も腰を据えて中国恫喝体制に入ったのでしょうか???

アンダーセン基地広報の写真10枚付き発表
https://www.andersen.af.mil/News/Features/Article/3690368/andersen-afb-hosts-hypersonic-weapon-familiarization-training/

米軍の極超音速兵器開発
「米陸軍の最終テスト&配備は24年に持ち越し」→https://holylandtokyo.com/2023/11/15/5224/
「ウで次々撃墜:同兵器を過信するな」→https://holylandtokyo.com/2023/06/01/4695/
「空軍がARRW配備断念」→https://holylandtokyo.com/2023/04/05/4478/
「Zumwaltへの極超音速兵器契約」→https://holylandtokyo.com/2023/02/22/4313/
「バカ高い極超音速兵器」→https://holylandtokyo.com/2023/02/08/4261/
「陸軍はあと2回試験」→https://holylandtokyo.com/2023/01/17/4107/
「3回連続ARRW試験に成功」→https://holylandtokyo.com/2022/12/16/4061/
「高価な兵器は少数保有で」→https://holylandtokyo.com/2022/02/22/2742/
「空軍長官:重要性は中国と米国では異なる」→https://holylandtokyo.com/2022/01/25/2639/
「潜水艦へは2028年」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-11-19

迎撃兵器システム開発関連
「迎撃兵器を日米共同開発で」→https://holylandtokyo.com/2023/03/22/4438/
「迎撃兵器開発を2企業と契約」→https://holylandtokyo.com/2022/07/01/3405/

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一味違う新戦闘機族のボスACC司令官誕生 [米空軍]

ペンタゴン経験なきACC司令官に太平洋空軍司令官が
ACE構想生みの親であるWilsbach大将が就任
前任Kelly大将より年上の司令官誕生の異例人事

Wilsbach ACC3.jpg2月29日、米空軍最大の正規兵人員規模(約8万名)と戦闘アセットを保有する米空軍戦闘コマンドACCの新司令官に、直近約3年間を太平洋空軍司令官として勤務し、かつ米空軍勤務の85%の期間を太平洋軍部隊(嘉手納、アラスカ、ハワイ、韓国以外は、中東3年、米本土3.5年のみ)で過ごし、驚くことにペンタゴンでの勤務経験皆無の異例の大将で、それでいて今や米空軍の中核作戦コンセプトであるACE(Agile Combat Employment)構想の生みの親でもあるKenneth S. Wilsbach大将が就任しました

Wilsbach ACC.jpg冒頭でご紹介したように、2020年8月から約3年半ACC司令官を務めた前任のKelly大将より、1歳年上のWilsbach大将が新司令官に就任するとの軍隊制服高官では極めて異例の「年齢逆転」人事ですが、背景には米空軍勤務期間の大半をアジア太平洋軍戦域で過ごした対中国専門家で、「ACE構想の提唱者でけん引役」で、更にペンタゴン勤務が無い事を逆手に取った「型にはまらない改革への推進力」を持つ同大将への期待の表れと、まんぐーすは解釈しております

3月1日付米空軍協会web記事は太平洋空軍司令官として功績を
Wilsbach ACC2.jpg●長い太平洋軍勤務で着想したACE構想を太平洋空軍に普及し、その着想は全米軍の基本作戦運用指針として採用された
●ACE構想に基づき、第5世代戦闘機を分散運用先候補でもあるマリアナ諸島テニアン島や、政治情勢の変化を見据えたフィリピンに機を見て初展開させた
●地域の中心的同盟国である日本と韓国に大型爆撃機を展開して日韓戦闘機との共同訓練を実施する等、米日韓3か国の同盟関係が強固で緊密なことを中国や北朝鮮等に示した

記事が挙げたWilsbach新司令官が取り組む事業
●前線戦闘機部隊をF-35部隊への換装推進
●F-15EXの前線部隊での運用方針を固め展開態勢を確立すること
●A-10とF-22の段階的退役を円滑に進める事
●全世界で1000機導入を仮置きしているCCA(Collaborative Combat Aircraft)の開発を支援し、部隊導入&運用に向けてコンセプト固めと受け入れ諸準備を推進すること

2月29日の司令官交代式でWilsbach新司令官は・・・
Wilsbach ACC4.jpg●台湾の人々は現状に相当程度満足しているにもかかわらず、中国はその台湾に対する(台湾国民の思いに反する方向性を持つ)意図や姿勢を極めて明確に示し続けている。我が空軍の任務は、地域の紛争を抑止し、その安定を守ることである
●我々は中国に(作戦遂行上の)ジレンマを与えるべく取り組んでいる。空軍戦闘コマンドACCとして、どのようにジレンマを与えるか? まず第一に我の即応態勢を確立維持すること、次に戦力の近代化に取り組み、そしてそれら戦力をACE構想にも続き運用可能に鍛えることである。これら全てに前司令官のKelly大将は注力してこられたが、我々はその思いを継ぎ、全ての関係能力の拡大実現に向け前進していく

Wilsbach ACC5.jpg更に同司令官が就任式典で強調したのは
●ACC戦力発揮の中核は「米空軍の下士官」であり、その任務遂行を基礎で支える「必要なもの」を確保し、彼らが成すべきことを遂行できるように注力していく。(家族の住居や生活環境や子弟教育環境など広範にわたる勤務環境の整備や、給与や手当や引っ越し費用等の金銭面での処遇改善を示すものと思料)
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Wilsbach ACC7.jpgAllvin空軍参謀総長はACCへの期待を2月中旬に、「我々は大国との紛争に備え、再・最適化を目指している」、「その再・最適化の多くの鍵となる項目がACCに根差したものであり、ACCが実現した形を全米空軍に普及して行きたい」と、米空軍大改革を進めるにあたってのACCへの大きな期待を語っていたところです

前提となる2月12日発表の空軍大改革方針発表
https://holylandtokyo.com/2024/02/16/5579/

Kenneth Wilsbach大将の公式経歴表
https://www.af.mil/About-Us/Biographies/Display/Article/108478/kenneth-s-wilsbach/

Wilsbach大将関連
「ACE運用態勢にはない」→https://holylandtokyo.com/2023/09/19/5048/
「経歴紹介:次期ACC司令官候補に」→https://holylandtokyo.com/2023/05/11/4614/
「ACE構想の生みの親が語る」→https://holylandtokyo.com/2022/06/24/3374/
「米空軍がACEドクトリン発表」→https://holylandtokyo.com/2021/12/17/2532/
「欧州米空軍がACE演習」→https://holylandtokyo.com/2021/10/27/2317/
「F-35とF-16が不整地離着陸」→https://holylandtokyo.com/2021/01/29/310/
「若手がACEの課題を語る」→https://holylandtokyo.com/2020/11/27/397/

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数か月後にCCA第1次募集企業を2-3社に絞る [米空軍]

米空軍無人ウイングマン計画が第1次募集佳境に
更に第2次募集も予定しソフト&アイディア勝負か
2-3年後の量産体制入りを狙い様々なタイプを模索中

CCA NGAD4.jpg2月13日、Kendall空軍長官がAFA Warfare Symposiumでの記者懇談会で、現在進めている無人ウイングマン機CCA(collaborative combat aircraft)の第1次募集審査で比較検討中の5社の提案について、数か月後には2-3社(予算上の制約で2社になる可能性が高い)に絞り込むと明らかにし、

更に2025予算年度での有人機との連携飛行運用開始に向けた第2次募集も予定しており、第1次募集が機体のハードウェア議論が中心だったのに対し、機体ハード比較検討中心からCCA自立飛行を左右する極めて重要で難しい分野であるソフトウェアも含めた新たな提案募集も開始する予定で、そこには「最も緊密で最も戦略的な複数の同盟国:closest and most strategic international partners」も加わるだろうと語りました

Kendall AFA2024 5.jpg同空軍長官はまた、CCA開発は5か年計画でまとめ上げる「緊急性:sense of urgency」を持ったプロジェクトで、遅れて参加を募る第2次募集企業と契約を結ぶ際には、作戦運用コンセプトと初期設計を含めた相当に煮詰まった契約となる予定だ、とも語っています

そして米空軍としてCCA量産に今後は焦点を向ける予定で、今後2-3年で更に関係企業を絞り込み、最終的にいくつの企業が本格生産に入るか未定だが、少なくとも2社体制は確保したいとの考えも示しました

CCA NGAD2.jpg第1次募集審査で比較検討中の5社には、Lockheed Martin, Boeing, Northrop Grumman, General AtomicsとAnduril社が含まれており、米空軍は約1000機を調達するアバウトな想定を提示し、複数の能力や生存性が異なるタイプのCCAデモ機を作成し、攻撃・偵察・電磁波妨害・デコイなど多様な任務遂行の可能性を試したい意向を持っており、

同Symposiumの別の場でHunter空軍調達担当次官補は、空軍戦闘コマンドACCのみならず、幅広い分野の産業界から多数の提案やアイディアなどのフィードバックを受けていると語っており、また第1次募集で5社に入れなかった複数の企業が、更にアイディアを具体的に煮詰め、ある意味でハードよりCCA運用には重要な自律的運用ソフトを「売り」にして応募準備をしていると活発な開発状況を示唆しています

CCA NGAD3.jpgそして同次官補は、第1次募集企業提案でも有用な自立化運用可能なデモ機が完成するだろうが、その先にはより高度に進化したCCA提案機が新たなソフトと共に登場することが予期されるとも語っています
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AFA Warfare Symposiumは、現役空軍幹部やOB、軍需産業関係者や専門家が一堂に関して「夢やビジョン」を語る場ですので、ステージ上の演出やスライド表示もそれにふさわしい華やかなものになっており、そこで語られる内容も「問題点や課題」よりも、それを乗り越えた先にある「夢」中心になります

CCAに関しては、対中国正面である西太平洋の、どこに展開して、誰がどのように維持整備し、誰がどのようにコントロールして運用するのか・・・との大問題が残っていますので、その辺りを念頭に置きつつ、生暖かく引き続き見守っていきたいと思います

CCA関連の記事
「CCAに空中受油能力搭載か」→https://holylandtokyo.com/2023/12/04/5255/
「あと6年で実用化する試験準備」→https://holylandtokyo.com/2023/11/08/5153/
「AIアルゴリズム集大成試験」→https://holylandtokyo.com/2023/08/08/4922/
「2020年代後半導入へ」→ https://holylandtokyo.com/2023/04/03/4473/
「長官:NGAD 200機、CCA 1000機」→https://holylandtokyo.com/2023/03/09/4403/
「関連技術を23年から本格開発へ」→ https://holylandtokyo.com/2022/11/22/3948/

応援お願いします!ブログ「東京の郊外より」支援の会
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