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「2025年に中国と戦う」文書で話題の輸送コマンド司令官 [安全保障全般]

配下部隊に業務指針や指示事項を示す年頭文書
空中給油機の連続運用や少人数運用に挑戦する粘血指揮官
「出る杭は打たれる」で「後ろから撃たれた」か・・・

Minihan7.jpg米国時間の1月27日からSNS上やメディア報道で、米空軍大将が「2025年に中国と戦うことになろう」との見積もりを含む文書を配下部隊に配信する準備をしていた・・・と話題となっています。

文書は、本ブログでも3回取り上げている米空軍輸送コマンドの熱血司令官Mike Minihan大将が新年に当たり、配下部隊に自身の情勢認識や部隊運営方針及び当面(2月と3月)の指示事項を周知するためのもので、2月1日付で配信される予定だったもののようです

Minihan8.jpg「2025年に中国と戦うことになる」・・・との部分は、「2025年」を強調したいというよりも、戦いへの準備に十分な時間が無い可能性が高い事を部下に注意喚起するために、一つの見方を取り上げたものと見るべきで、それ以上のものではないと思いますが、話題になったのでご紹介しておきます

「2025年に中国と・・」は文書冒頭の情勢認識を述べた部分で、
●私が間違っていることを望むが、部下の分析によると、我々は中国と2025年に戦うことになる
●習近平は3期目の任期を確保し、2022年10月に戦争準備委員会(set his war council)を設置した

Minihan2.jpg●台湾は2024年に総統選挙を予定し、これが習近平によい条件(reason)を提供する。米国の大統領選挙も2024年にあり、習近平に混乱した米国をもたらすだろう
●このように全ての情勢が、習近平と戦争準備委員会に良い条件と機会を2025年に提供することになる

●2022年を使って我々は勝利をつかむための基礎設定を行った。前年の基礎を基に、2023年を我々は明確な作戦行動につなげるために活用する
●私が「明確な作戦行動」との言葉で意味するところを知りたければ、1月に「Total Force Team Charleston」が行ったことを確認してくれ

Minihan.jpg国防省報道官は直ちに、「Minihan空軍大将の見解は、米国防省の見解ではない」とコメントを出し、「国家防衛戦略は明確に、中国は国防省にとってのpacing challengeであり、我々の焦点は同盟国等と協調して平和で自由で開かれたインドアジア太平洋地域を維持することだ、と規定している」と述べています。

また中国に関しては常に、「pacing challenge」で、米軍はアジア太平洋に指向する必要があるとの姿勢を明示しながらも、喫緊の衝突が差し迫っているわけではないとのトーンで情勢を説明しています

Davidson3.jpg一方で過去にも軍人司令官は、例えば2021年に当時のPhil Davidson太平洋軍司令官が「中国は2027年までに台湾に対して軍事行動を起こす」と発言したり、米海軍トップのMichael M. Gilday大将が昨年10月に「米軍は2022年や23年に(中国と)戦う準備が無ければならない。私はそれを否定できない。それを言いまわって警告するつもりも、それを望むこともないが」と語ったりしています

今回の話題の発言の主であるMinihan大将は、前職が太平洋軍副司令官で対中国作戦の難しさを知り尽くした高級幹部で、KC-46が不具合を多数抱えたままの状態にもかかわらず、「不具合による運用制限の中でも、乗員や整備員に必要な訓練や各種手順の改善徹底を図ることで、リスクを抑えて実戦運用に提供可能だ。我々には今必要でなんだ。今の戦いに敗北すれば将来は無い」と運用開始を宣言したり

Minihan9.jpg中国作戦での空中給油機ニーズが膨大であることを踏まえた対策検討として、KC-46の最大能力発揮のため、様々な事前訓練やメディカル面での検証や配慮を行いつつ、36時間連続飛行の試みや「操縦者1名・給油操作員1名」での運用などに挑戦を続け、最前線の要求に対応しようと模索を続けている熱血指揮官です

2月1日付で正式通達予定の司令官名の文書が、1月27日時点でSNS上に流布する米軍の悩ましい現状ですが、熱血司令官の熱血ぶりについていけない部下の中に、「リークして司令官を苦しめてやろう」との意図を持った者がいたと解釈するのが自然でしょう・・・。難しい時代になったものです・・・

当該文書は以下の1月30日付米空軍協会web記事に掲載の写真でご確認ください
https://www.airandspaceforces.com/read-full-memo-from-amc-gen-mike-minihan/

Mike Minihan大将関連の記事
「KC-46A空中給油機が36時間連続飛行」→https://holylandtokyo.com/2022/12/12/3974/
「KC-46を操縦者1人で試行運用」→https://holylandtokyo.com/2022/11/02/3881/
「不具合抱えたままKC-46運用開始宣言」→https://holylandtokyo.com/2022/09/21/3688/

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米イスラエルが8500名規模の巨大統合演習 [安全保障全般]

空母にHIMARSに航空機140機などなど
イランがウクライナ混乱に乗じて不穏な動きの中
安全保障担当米大統領補佐官も訪イスラエルして

Juniper Oak.jpg米イスラエル軍が8500名超(米6400名、イスラエル1200名)規模の大規模統合全ドメイン演習「Juniper Oak」を、1月23日から27日の間にイスラエル及び東地中海で実施しました。演習開始直前の18-20日には、サリバン安全保障担当米大統領補佐官がイスラエルを訪問して地域情勢等について協議を行ったと報じられるなど、緊張感が漂う中での演習開始です

両国から航空機約140機、空母を含む艦艇6隻が参加し、宇宙軍や特殊作戦軍も参加する広範な内容を含む演習で、ウクライナ紛争で欧米が足を取られる中、イランが核兵器開発をさらに進め、中東域全体でイランの支援を受けたイスラム過激派が無人機攻撃等を活発化させる情勢を背景に、陸海空宇宙サイバードメインに渡る巨大演習です

Juniper Oak4.jpg2020年9月の歴史的なアブラハム合意でイスラエルとUAE&バーレーンが国交を樹立し、その流れを受け2021年9月にはイスラエルが米欧州軍管轄から米中央軍管轄に移行し、イランに警戒感を持つアラブ諸国とイスラエルの関係が、単なる雪解けから連携フェーズに進展しつつある中での大規模演習に注目が集まっています

演習参加航空機は末尾に列挙しますが、両国軍からの発表によれば、演習科目は正にオールドメインで、米軍が推進するJADC2を中核に据えた指揮統制協力を意識し、航空侵攻から防空、海上航空阻止、SEAD、戦時救難、電子戦など広範な内容となっており、F-35やFA-18はもちろんのこと、B-52やAH-64アパッチヘリからRC-135特殊作戦機、EA-18G電子戦機、AC-130特殊攻撃機など航空機20機種以上や、低高度衛星、艦艇やウクライナで話題のHIMARSまで参加する戦力構成になっています

Juniper Oak2.jpg同演習についてMichael Kurilla米中央軍司令官は、「(米国とイスラエル以外で、)世界中のどの国も、この地域にこの規模の戦力を、このレベルの機敏さをもって集結することはできない」、「全ドメイン、陸海空宇宙サイバーで訓練を実施し、如何なる緊急事態にも対処しうる能力を強化する」と述べ、米軍事専門家も「(米中央軍司令官の発言はその通りで、)地域の潜在的敵対国や我が同盟国等に、その能力を改めて示した意義は極めて大きい」とコメントしています

米軍からの参加航空機
• Four B-52s
• Four F-35s、Four F-15Es、Four F-16s、45 F/A 18s、
• One AC-130、Two MQ-9s
• Six EA-18Gs、One RC-135
• Two HH-68s、15 MH-60s、Four AH-64s
• Five E-2Ds
• One HC-130
• Two KC-46s

イスラエル軍からの参加航空機
• Six F-35s、18 F-16s、Eight F-15s
• Two AH-64s
• Two unmanned aerial vehicles
• One UH-60、One CH-53
• One Gulfstream G550
• Two 707s
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Juniper Oak5.jpgウクライナ問題と台湾問題が世界中でホットな話題ですが、中東でもイランの核開発が以前の5か国合意の制限レベルを超えて進展しつつあるほか、イランから又はイランの支援を受けた過激派からと推測される無人機攻撃などが最近継続して発生しており、予断を許さない状況です

ちなみに「Juniper Oak」演習では、弾薬18万ポンドが使用されたそうです

アブラハム合意以降の動向関連記事
「B-52をサウジ戦闘機が護衛」→https://holylandtokyo.com/2022/11/17/3957/
「B-52が中東9か国と編隊飛行」→https://holylandtokyo.com/2022/04/06/3105/
「UAEへのF-35輸出協議中」→https://holylandtokyo.com/2021/11/24/2443/
「UAE司令官視察:イで史上最大の多国間空軍演習」→https://holylandtokyo.com/2021/11/12/2408/
「米中央軍で対イランの動き2つ」→https://holylandtokyo.com/2021/09/15/2224/
「イが欧州軍から中央軍管轄に」→https://holylandtokyo.com/2021/01/19/301/

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世界初の対無人機等の防空兵器消耗戦に直面するウクライナ [安全保障全般]

最新戦車の次はF-16など戦闘機提供ではない
戦闘機での航空優勢狙いは非効率でロシアの思うつぼ
ロシアの航空優勢拒否戦略の継続が追求すべき道
防空弾薬の枯渇がロシアの狙いであり、それを防げ!

Ukraine Air defense3.jpg1月25日付Defense-Newsが、米空軍大佐とシンクタンク研究員の寄稿を掲載し、米国とドイツがウクライナに最新戦車提供に合意したことを受け、世間では次はウクライナに戦闘機を提供すべきとの意見があるがそれは完全な誤りであり、ロシアが戦術転換でミサイルや無人機攻撃によるウクライナ民間インフラ攻撃を激化させる中でも、ウクライナは犠牲を耐え忍んでも防空兵器枯渇を防止する選択的使用に舵を切り、防空兵器によりロシアの航空優勢確保を拒否し続けるべきだと主張しています

Bremer.jpg2名の寄稿者は、過去1年間の露によるウクライナ侵略の教訓は、現代の航空戦には、高価な戦闘機などよりも機動力を備えた地上配備の防空装備が適しているとの一つの現実であり、ウクライナにF-16などの戦闘機を提供して航空優勢を確保しようとする手法は、ロシア軍の航空アセット数量からしても完全な誤りだと指摘しています

しかし同時に筆者は、米軍をはじめ西側諸国が長年にわたり防空ミサイル等の防空システム投資を軽視してきた付けは大きく、ウクライナに提供できる防空ミサイル等の弾薬類は底をつきかけており、厳しい状況に直面しつつあると指摘し、例えば米軍はパトリオット防空ミサイル1個大隊程度しか支援できない状況だとしています

Grieco stimson.jpg弾薬不足に苦しむロシア側も、似た状況にある米軍や西側の状況に気付き始めて作戦を転換し、無人機や長射程ミサイルでウクライナの発電所など社内インフラを攻撃し、厳しい冬を迎えたウクライナ国民の交戦意志を削ぐ作戦を重視すると同時に、ウクライナ軍が貴重な防空兵器を消費せざるを得ない環境を作為して、弾薬枯渇状態による防空無効化で航空優勢を確保しようとしていると筆者は分析しています

従来の航空優勢確保は、敵の防空兵器を味方の戦闘爆撃機などで物理的に破壊するSEAD(suppressing enemy air defense)を通じてでしたが、ウクライナでロシア軍は史上初めて、無人機や長射程ミサイルを敵国民や社会インフラに向けて発射し、「敵の防空兵器を強制的に消耗させることによる航空優勢の獲得」を狙っているとも表現しています

Ukraine Air defense.jpg寄稿者の主張は厳しい選択をウクライナに迫っています。弾薬在庫が限られた西側各国からの防空兵器支援は今後あまり期待できない現状を踏まえ、ロシア軍によるウクライナ国民や重要社会インフラに対する攻撃にも、防雨兵器の使用は選択的に抑制し、少しでも長く防空兵器を温存してロシアの完全な航空優勢確保を拒否する「air-denial strategy」を継続すべきとの提案です

そして、極めて非効率な戦闘機による無人機や長射程ミサイルの要撃などに乗り出し、数量で勝るロシア航空アセットを戦場に駆り出したり、最前線のウクライナ地上部隊の防空能力を犠牲にしてはならないと寄稿者は訴えています
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Ukraine Air defense2.jpg寄稿者は、輸送機パイロットのMaximilian Bremer米空軍大佐(空軍輸送コマンド特殊計画部長)と、スティムソンセンター上級研究員でジョージタウン大学教員のKelly Grieco客員教授の2名です。ウクライナでの戦況や戦闘機提供の狙いを十分把握していませんが、この寄稿の提言はオプションとして議論に値するものだと考えご紹介しました

なお1年前にも、ウクライナに関するご両名の寄稿「ウクライナで戦闘機による制空の時代は終わる」をご紹介しております

Ukraine Air defense4.jpg先日、ウクライナ空軍の戦闘機パイロットがロシアの無人機や巡航ミサイル要撃任務に従事し、厳しい緊張感に苦悩しているとの外国メディアの報道を見ましたが、実態としては、ウ空軍の戦闘機パイロットは戦いにほとんど貢献できず、高価なアセットとこれまでの訓練経費を生かせないまま、軍内で「肩身の狭い」思いをしているということでしょう・・・

これは、「ウクライナ」と言う環境での戦いだからでしょうか? まんぐーすは必ずしもそうだとは思いません。現代の、そして将来の航空戦の厳然とした現実だと思います。

同コンビによる別寄稿
「ウで戦闘機による制空の時代は終わる」https://holylandtokyo.com/2022/02/09/2703/

CSISやCSBAの台湾への提言:非対称戦略へ
「CSISが台湾軍に非対称戦術を迫る」→https://holylandtokyo.com/2023/01/16/4160/
「CSBAは2014年に同要求」→https://holylandtokyo.com/2020/11/08/381/

嘉手納基地からのF-15撤退関連
「第1陣の8機米へ帰還」→https://holylandtokyo.com/2022/12/06/4021/
「米空軍幹部発言から大きな流れを学ぶ」→https://holylandtokyo.com/2022/11/09/3904/
「衝撃、11月1日から段階的撤退」→https://holylandtokyo.com/2022/10/31/3817/

ウクライナでの戦い
「ウクライナでイラン製無人機が猛威」→https://holylandtokyo.com/2022/10/20/3787/
「衛星通信へのサイバー攻撃で始まっていた」→https://holylandtokyo.com/2022/06/23/3365/
「アジア太平洋への教訓は兵站」→https://holylandtokyo.com/2022/06/17/3358/
「SpaceXに学べ」→https://holylandtokyo.com/2022/04/22/3173/

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元米海軍造船担当次官補が根本改革訴え [Joint・統合参謀本部]

米海軍は失った信頼回復に厳正な予算管理を
予算内に収まる現実的な戦力造成計画を
装備品調達のコスト管理をかつてのように厳正に

Zumwalt dame.jpg1月17日付Defense-Newsは、元米海軍造船&兵站担当次官補であるEverett Pyatt氏の寄稿文を掲載し、米海軍が沿岸戦闘艦やフォード級空母やコロンビア級戦略原潜やZumwalt級駆逐艦DDG-1000等々のずさんな管理で失った、米議会や国民からの信頼を取り戻し、台頭する中国に備えるには、増加が見込めない予算の現実を受け入れ、予算内で収まるような厳正な装備品開発&調達管理を復活させないと、艦艇規模は現在の半分になってしまうと訴えました

RIMPAC 20202.jpg米海軍の装備品調達の混迷については何回も取り上げてきましたが、沿岸戦闘艦LCSがトラブル多発の中で本格紛争での役割を得られないまま4兆円を無駄にして早期退役を開始したり、フォード級空母がニミッツ級の2倍のコストに膨らんで開発が遅延していること、ステルス駆逐艦のDDG-1000が3隻で建造を終了する惨状で、次期戦略原潜コロンビア級コスト急上昇で艦艇建造コストを圧迫しつつ開発が遅延している等々の惨状を、信頼喪失の原因だとPyatt氏も指摘しています

LCS-2ship3.jpg一方で中国について同氏は、飛躍的な拡大を遂げて世界最大の海軍に成長し、例えば南シナ海の資源を確保せんとするとともに、国有企業経由で世界中の商船企業やコンテナ輸送企業を買収して世界最大規模の商船能力を保有するに至り、数千隻の漁船で世界中の漁業資源を食い荒らしていると危機感を訴えています

同氏は、米海軍の惨状立て直しのために国防授権法で設置された超党派8名で構成される「National Commission on the Future of the Navy」に望みを託し、解決方向はシンプルであり、今後の予算増が望めない現実を受け入れ、予算内で装備品調達が進むように計画管理を厳格化し、企業の競争を促進して、1980年代に予算内で米海軍600隻体制を確立した当時に立ち戻ることだと主張しています

更にEverett Pyatt氏は寄稿文で
Ford CV2.jpg●1980年代当時は、装備品開発や調達の段階ごとに進捗や品質を注意深く確認し、企業の競争環境を作ってプログラムの破綻を回避して安定した艦艇調達を可能にしていた。また輸送船分野では100隻の中古商船を僅か400億円程度で入手して有効活用していた。Navy Materiel Commandを廃止して官僚機構を整理する等の取り組みも成果を生んでいた
●現在は造船業界が衰退して建造能力が低下しているとの指摘もあるが、慎重な調査結果によれば、年間15隻もの建造能力を保有しており、艦艇開発のゴタゴタで単価が上昇することで建造数が低下することによる負のスパイラルが問題点だと指摘されている。

●今は、価格が2倍に高騰した駆逐艦や攻撃型原潜の建造が調達計画に含まれ、航空機調達予算も制約する気配がないが、このような状態が続けば米海軍の艦艇数は、現在の半数までに落ち込むことになってしまう
Columbia-class.jpg●米国や同盟国の予算は限られており、敵の勢いは猛烈である。技術やシステム開発や即応態勢維持や諸計画管理や作戦運用に革新を起こさなければならないことは自明である。限られた予算内でこれらに取り組まない限り、中国の海洋ドメインでの覇権を許容することになってしまう

●「National Commission on the Future of the Navy」の強力なリーダーシップの元、冷戦を勝ち抜き、幾多の海洋問題を解決してきた米国と同盟国の知見を再動員し、今後の10年に立ち向かう必要がある
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F-35C Carl.jpg米海軍内では装備品調達問題だけでなく、虎の子のF-35搭載用に改修した強襲揚陸艦を火災で損失(おそらく放火)、複数の艦艇衝突事故、港湾役務業者との癒着ワイロ事案などなど、人的戦力の問題も顕在化している現状で、明るい話題がありません

筆者は現在83歳の米海軍黄金時代を支えた人物であり、今でも執筆活動を盛んに続けている方です。現在の問題が単純ではないことを承知しつつも、黙っていられない心境なのでしょう

筆者の述べる解決策が簡単に実現できるとは思えませんが、現状把握のためにご紹介しました・・・

米海軍の問題
「3大近代化事業を一つに絞れ」→https://holylandtokyo.com/2021/06/11/1898/
「無人システム構想が酷評受ける」→https://holylandtokyo.com/2021/03/30/173/
「米空母と潜水艦修理の75%が遅延」→https://holylandtokyo.com/2020/08/27/534/
「国防省が空母2隻削減と無人艦艇推進案」→https://holylandtokyo.com/2020/04/23/733/
「CSBAが提言:大型艦艇中心では戦えない」→https://holylandtokyo.com/2020/01/14/865/
「米艦艇建造や修理人材ピンチ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-06-24

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空軍長官がステルス空中給油機検討に積極言及 [米空軍]

KC-Z検討約7年前倒しの重要性力説
つなぎ給油機KC-Yの継続は不明なまま

blended wing6.jpg昨年12月11日、Kendall空軍長官が外交問題評議会CFRで講演し、中国の防空能力強化&延伸により従来型の米軍輸送機や空中給油機が作戦空域に接近困難になりつつあり、ステルス性を輸送機や空中給油機に求める必要があると訴え、ステルス形状で空軍の気候変動対処構想「Climate Action Plan」にも沿って燃料効率が良く環境にも優しいBWB機(blended wing body aircraft:B-2やB-21形状の機体)の検討を推進すべきと主張しました

そして、将来米空軍の態勢作りをより明確に盛り込む2024年度予算案(2023年10月からの予算)では、この将来輸送機や給油機、長らく放置されてきた電子戦能力強化、更に新構想に基づく弾薬類体系の構築と備蓄量確保に向けた方向性を打ち出すと改めて強調しました

blended wing7.jpg同講演を取り上げた1月13日付米空軍協会web記事は、電子戦や弾薬体制(生産体制拡充や対象攻撃目標に適した弾薬体系の整備方向手順を含む弾薬ロードマップ作製)については発言を詳しく紹介していませんが、以下ではKC-46(KC-X)の次の次に当たる「KC-Z」と呼ばれてきた将来給油機検討についての発言をご紹介いたします

なお「KC-Z」については、2022年春夏頃までは2030年代に検討開始とされてきましたが、米空軍給油機検討担当幹部が2022年8月に「空軍長官から検討大幅前倒し指示を受け、予備的検討が6-7年前倒しの2023年から開始になった」と発言し大きな話題になりました。

LMXT.jpg大幅な前倒し検討開始以外に「話題となった」背景には、KC-46(KC-X)と「KC-Z」の間に「つなぎ給油機KC-Y」として導入される予定で、ロッキードとエアバス社共同で入念に受注を狙って準備を進めてきた「KC-Y」が無くなる可能性も出てきたことで、業界内の「どろどろ」「魑魅魍魎」が動き出したとの懸念があります

「KC-Z」についてKendall空軍長官は
●伝統的に米空軍は、DC-10やB-767などの旅客機を空中給油機や輸送機に改良して使用してきた。もちろん独自開発のC-17輸送機のようなパターンもあるが、両タイプとも今後の作戦様相を考えると生存性が不足しており空軍のニーズをもはや満たさない
blended wing.jpg●例えば中国は、より遠方から我が航空機を迎撃可能になり、我々から行動の自由を奪い始めており、我が輸送機や給油機は生存性を念頭に今後は設計されるべきである

●これらを踏まえ米空軍は、民間機市場では実現しておらず既存機活用ができないBWB機(blended wing body aircraft)について、国防省と協力してプロトタイプ作成に進みたいと考えている
(注:2022年10月の米空軍気候変動対処構想「Climate Action Plan」発表時には、DIU(Defense Innovation Unit)と協力して初期的な設計検討を開始しており、燃料消費量を3割削減可能なBWB機の2027年までの試験飛行を目指すと発表されている)

blended wing2.jpg●空軍は引き続き、老朽化が急速に進む現在の主力空中給油機の近代化や更新に投資を続けていくが、空軍はその段階より先の次世代を見据えて前進しなければならず、現在の関連航空アセットが成し得ない環境でも生き残るアセットを得る必要がある
///////////////////////////////

同空軍長官はCFRでの講演で、「KC-X」として導入が開始されているKC-46を現計画の179機導入後、従来計画の「つなぎ給油機KC-Y」に進むのか、同長官が頻繁に示唆している「KC-Y」導入中止とKC-46継続購入に進むのか明確にしませんでした

LMXT5.jpg2022年8月には前述の空軍担当幹部が「KC-Y」について、「2022年秋には要求性能が明らかになり、調達が2023年春に決定されるだろう」と語っていたにもかかわらず、方向性が見えなくなってきています。

繰り返しますがこの件は、KC-46機種選定時に3回選定をやり直した末に敗北した「遺恨」や「恨み」を晴らすため、「KC-Y」受注獲得に向け万全の準備進めロッキード社と組んだ「エアバス社」を、如何に納得させるかにかかっている「ドロ沼」です。米空軍はこの「ドロ沼」を避けるため、気候変動問題まで持ち出してBWB機推進を訴えていくのでしょう・・・

空中給油機検討の関連記事
「空軍がKC-YとKC-Zの検討予定に言及」→https://holylandtokyo.com/2022/08/26/3558/
「BWB機の技術動向調査」→https://holylandtokyo.com/2022/08/05/3508/
「将来給油機体制検討に企業へ情報提供依頼」→https://holylandtokyo.com/2022/07/11/3425/
「給油機のミニマム必要機数を削減」→https://holylandtokyo.com/2022/06/13/3319/
「KC-XYZの再検討再整理表明」→https://holylandtokyo.com/2022/04/18/3151/
「KC-Yにロッキードが名乗り」→https://holylandtokyo.com/2021/10/05/2260/

選定やり直し3回:KC-46機種選定の泥沼
「KC-X決定!泥沼回避可能か?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-25

気候変動対処計画
「米空軍の同計画CAP」→https://holylandtokyo.com/2022/11/07/3747/
「海軍と海兵隊が同計画検証演習」→https://holylandtokyo.com/2022/09/28/3666/
「米国防省が気候変動対処構想発表」→https://holylandtokyo.com/2021/10/11/2318/

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https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-04-16-1

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今は不要も韓国への核再配備計画を事前決定しておけ [安全保障全般]

1991年に配備が撤去されて以来の再配備問題
ユン大統領が自開発か米に展開要請を迫られる可能性に言及
CSIS米有識者委員会が提言まとめる

CSIS Korea4.jpg1月19日、CSISが主催した14名の有識者による「朝鮮半島における抑止力強化」に関する検討委員会が報告書を発表し、ユン韓国大統領の発言を引き金に大きなトピックになりつつある「韓国への核兵器再配備」について、現時点では必要なく再配備はむしろ逆効果になりかねないが、

事態の推移によっては考慮せざるを得なくなることから、公には細部計画や手順等について曖昧なままにしつつも、配備や使用要件の他、運搬手段や保管場所や保管場所のセキュリティーなど兵站支援事項などは事前決定し、事前決定したことだけは明確にしておくべきで、そのための机上検討演習を行うべきと提言しました。

CSIS Korea6.jpgこの14名の検討委員には、Vincent K. Brooks元在韓米軍司令官、アーミテージ元国務副長官、Randall G. Schriverアジア太平洋担当国防次官補、Katrin F. Katz元NSC日韓担当補佐官などが含まれていますが、折しも1月11日に韓国大統領が「韓国はいずれ、米国に核兵器の再配備を要請するか、自国開発することを迫られるだろう」と発言し、北朝鮮の挑発行為がエスカレートする中、韓国世論が核兵器自国開発支持に大きく傾きつつある状況下でレポートが公開されました

同委員会は前提として、現時点では核兵器の再配備が必要な状況ではなく、核拡散抑止に重きを置くべきとBrooks元司令官が代表して説明しつつも、報告書では情勢に応じて必要なオプションとして再配備を残したとレポートについて語っています

CSIS Korea.jpgそして報告書は、「米韓両国は可能性がある核兵器再配備を具体的に検討する机上検討演習実施を考慮すべきで、再配備の兵器の種類や配備時程やロジ的なことを事前決定していると公に明確にしておく一方で、細部計画については曖昧さを維持しておく手法を取るべき」と提言しているようです

また再配備検討演習では、「具体的な運用法や保管セキュリティ―を考慮した具体的な保管場所や、運搬手段をF-16やその後継の可能性があるF-35にするのか等も含めて煮詰める必要がある」とまとめているようです。

CSIS Korea2.jpg更に検討委員会のKatz元NSC担当補佐官は、「具体的な兵站支援面などを煮詰めることなく、この問題を抽象的に議論するのは無責任だ」、「これらの議論を恐れる必要はなく、今が議論に適したタイミングだ」と主張しています

具体的な運搬手段としては、「継続的に半島周辺に展開する核搭載巡航ミサイル攻撃原潜や戦略爆撃機、また韓国南部に拠点を持つ核と通常兵器の両方が使用可能な航空機の配備準備も意味ある選択肢だ」と提案しています

CSIS Korea3.jpgまた同有識者委員会は、宇宙からの北朝鮮の動向把握が非常に重要なことから、最近日本と米国が宇宙分野における協力拡大に合意したように、韓国がミサイル警戒用の米国早期警戒赤外線監視衛星の情報に直接アクセスできるような体制整備のため、米韓両国も協力を強化すべきと提言しているようです
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CSISの同検討委員会関連webページ
https://www.csis.org/news/csis-commission-korean-peninsula-releases-landmark-report-enhancing-extended-deterrence-south

CSIS Korea7.jpg北朝鮮を対象にした「再配備」検討になっていますが、米韓両国に於かれましては、中国からの「嫌がらせ」にめげることなく、「細部手順の事前決定」に向けた諸検討と、「細部合意に関する曖昧さの維持」に協力して取り組んでいただきたいと思います

核アレルギーの強すぎる日本は、米韓の「再配備」検討の様々な紆余曲折を横目で見ながら、核へのアレルギーに邪魔されない純軍事的で、かつ視野の広い国家戦略を見据えた落ち着いた議論を踏まえつつ、政治的な決断に備える姿勢が望まれるのでしょう。

核兵器に関連する記事
「バイデンsole purpose断念」→https://holylandtokyo.com/2022/11/04/3888/
「ドイツの核シェアリングと戦闘機」→https://holylandtokyo.com/2022/01/19/2614/
「核兵器禁止条約でごたごた言うな」→https://holylandtokyo.com/2021/01/26/307/
「中国は核兵器管理条約を拒否」→https://holylandtokyo.com/2020/07/13/570/

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米空軍が推進する戦力管理サイクルAFFORGEN [米空軍]

24か月間を1サイクルとして管理
20年間の中東での戦力酷使を反省材料に
既に少数戦力部隊からは不満の声も・・・

AFFORGEN.JPG1月3日付Defense-Newsが「2023年注目の米軍動向」の一つとして、米空軍が本格的に推進しようとしている「戦力管理サイクル」を取り上げています。

この「戦力管理サイクル」は、米空軍の新しい戦力造成管理計画「new force generation plan : AFFORGEN」の一環とされており、部隊の運用を6か月間単位の4つのステップからなるサイクルで回し、各部隊の「燃え尽き現象」を防止し、「新人の養成やベテランの技量維持」を計画的に行って米空軍全体の能力を適切に維持発展させていくことを狙いとしています

AFFORGEN3.JPG米空軍の苦い経験として、約20年間継続した中東でのテロとの戦いで、中東域への長期に及ぶ連続した部隊派遣により、兵士の「燃え尽き現象」「特定任務の反復による部隊能力維持困難」「兵士の家庭崩壊」などなどの問題が深刻化し、パイロットをはじめとして離職者が激増し、同時に対中国等の本格紛争への転換が困難に直面している現実が背景にあります

6か月間単位の4つのステップサイクルとは
●前線派遣後のアセット修理などリセット期間
  (resetting after a deployment)
●基礎訓練期間
  (basic training)
●応用訓練期間
  (advanced training)
●即応態勢期間
  (mission availability)

AFFORGEN2.JPGただ、特殊任務を持つ少数部隊や、米空軍として保有アセット数が少ない部隊はこのサイクルを守ることが難しく、既に当該部隊の兵士がSNS上で「リセット期間のはずなのに、大量の任務に忙殺されている」等の不満をぶちまける事態となっており、完全にこの方式を適用することは容易ではなさそうです

米空軍は同時に、本格紛争における被害状況下の運用を想定し、戦力を分散して運用するACE(agile combat employment)構想を推進し、その重要なピースとして少ない兵士で戦力運用を継続するための「兵士の多能力化:multi-capable airmen」に着手し、基礎訓練期間(basic training)や応用訓練期間(advanced training)の改革にも取り組んでいるところです
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AFFORGEN4.jpg2023年には、米空軍の「new force generation plan : AFFORGEN」に関連する、取り組みや問題点を指摘する報道が増えそうですのでご紹介しておきます。

それから・・・、2022年11月に、従来は戦闘機パイロットのみが就いていた「空軍司令部作戦部長」ポストに、特殊作戦ヘリMH-53Jと統合部隊も含め特殊作戦部隊一筋の中将が推挙されましたが、背景には「AFFORGEN」を軌道に乗せたいBrown空軍参謀総長の意向が働いたとも言われています

戦力管理ローテーションのための人事とのうわさ
「仰天人事:空軍作戦部長に特殊作戦一筋の男が」
https://holylandtokyo.com/2022/11/18/3965/

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ロシアの大改良新型TU-160M2爆撃機開発前進!? [安全保障全般]

初飛行1981年TU-160の8割を更新の新造機M2型開発
2024-25年に運用開始し、27年までに10機体制
現有16機のTU-160も近代化改修してM2型へ
ほとんど実戦活躍が無かった同機の再生はあるのか?

TU-160M2.jpg1月10日付Defense-Newsは、プーチン大統領の強い押しで2015年から開発が始まった、TU-160の骨格をほぼそのまま活用しつつ、8割のシステムを新しくする新造機TU-160M2が、ツポレフ社傘下のMAC工場での2回目の試験飛行を終え、12月末にロシア国防省に引き渡され、今後更なる本格的な試験を経て2024-25年の運用開始と、2027年までの10機製造(当面の契約規模)に向けて前進していると報じました

ウクライナ侵略の当初計画が崩壊し、軍事面でも経済面でも苦境にあるロシアにおいて、今後の試験や部隊配備が順調に進むとは考えにくく、ロシア軍需産業とロシア国防計画が順調なことを示す「カラ元気」の可能性大ですが、隣国ロシアが極超音速兵器や核兵器を搭載する戦略爆撃機の動向ですので、ご紹介しておきます

TU-160M2 2.jpg初代TU-160はNATOで「ブラックジャック」と呼ばれ、米空軍B-1爆撃機を模倣したと言われる低空侵攻が可能な可変後退翼を持った超音速爆撃機ですが、B-1Bより一回り大きい機体と2倍弱のエンジン出力により、最大速度はB-1Bのマッハ1.25に対してマッハ2.05、航続距離はB-1Bを16%上回る14,000 km、最大搭載量はB-1Bの34tを17%上回る40tを誇った機体でした

試作機が1981年に初飛行し、1987年5月には2個飛行隊で運用開始しましたが、製造途中でソ連が崩壊し、試作機8機を含む35機しか生産されませんでした。特にウクライナは19機を保有していましたが、極めて複雑な構造から運用困難で放置され、後にロシアが8機買い戻した以外は使用されないまま廃棄される運命をたどっています

TU-160M2 3.jpgその後音沙汰がな途絶えていましたが、2005年頃からプーチン大統領が突然搭乗した映像が公開されたり、2007年に15年間中断されていた海外への遠距離偵察飛行に登場するなど、プレゼンスを再び示し始めました

それでも1987年の運用開始から実戦投入はありませんでしたが、2015年11月にシリアのアサド政権支援のため、他の戦略爆撃機とともに対ISの巡航ミサイル攻撃を行い実戦デビューを果たし、ロシア軍のウクライナ侵攻においても巡航ミサイル攻撃を行う様子が目撃されていたところです

TU-160M2 4.jpgTU-160の骨格を基にしたTU-160M2の開発は、2015年頃より表面化し、既存16機の近代化改修と合わせ50機程度の新造機Tu-160M2を開発製造する構想をロシア国防相が同年発表し、2018年1月に10機の新造TU-160M2製造契約をツポレフ社傘下のUACと締結していました。

開発UACで2022年1月と12月に試験飛行を行い、報道された露国防省への引き渡しとなっていますが、今後は企業が確認した基本性能を露空軍部隊で確認し、更に作戦運用を想定した北米や諸外国周辺空域への長距離飛行や低空での作戦行動試験、更には極超音速兵器などの兵器発射試験も行われる予定だそうです

M2型機は現有16機のTU-160の8割の搭載システムや装備を更新するほか、エンジンも新しいNK-32-02にして飛行試験で引き続き確認していくとのことです
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TU-160M2 5.jpg2024-25年には運用開始し、2027年までに10機を新造し、既存機16機のアップグレード改修機も含め50機体制を目指すとのことですが、ロシア経済大混乱の中、今後忘れた頃に報道されると予想されるTU-160M2運用開始の知らせを待つことといたしましょう。

プーチンが好みそうな威圧感ある機体ですが、長射程ミサイルを搭載するとは言え、BWB(blended wing body aircraft)形状に近い機体とは言え、ステルス性がB-1Bよりはるかに劣る大きな機体であり、今後の運用法にも注目したいところです

TU-160やM2型機に関するウィキペディア情報
https://ja.wikipedia.org/wiki/Tu-160_(%E8%88%AA%E7%A9%BA%E6%A9%9F) 

TU-160登場の記事
「ロシアTU-160爆撃機が南アフリカ展開」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-22
2018年にも南米ベネズエラへ飛行

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嘉手納にドイツから米空軍F-16展開 [米空軍]

(追記)16日に8機、その後追加で4機到着の模様
撤退開始したF-15戦闘機の穴埋めに一時的な展開
昨年11月展開の8機のF-22と共にプレゼンス維持

F-16 Spangdahlem6.jpg1月16日、ドイツのSpangdahlem空軍基地に所在する米空軍第52戦闘航空団のF-16戦闘機が、嘉手納基地に展開しました。

2022年11月1日から、機体老朽化を理由に約2年間で段階的な米本土への撤収を開始している同基地F-15戦闘機部隊(48機)の一時的な穴埋め戦力で、F-15の後釜戦力が未定の中で、対中国最前線の沖縄での米空軍プレゼンスを維持するためのローテーション派遣と考えられます

F-16 Spangdahlem.jpgこの戦闘機展開に関する声明文で米空軍は、何機のF-16がドイツから展開したか、またいつまで展開するのか言及していませんが、「F-16戦闘機の展開は米空軍のアジアインド太平洋戦略に基づくものであり、同戦闘機の嘉手納での運用開始に伴い、その特徴を生かしつつ、嘉手納チームと一体となって同地域の平和と安定を脅かす攻撃的な行動を抑止し、いざとなればその脅威を打ち負かすであろう」と発表しています

昨年10月末に嘉手納F-15の撤退開始発表時、米空軍は「アジア太平洋正面での戦力向上は最優先課題であり、嘉手納航空アセットの高性能機種への転換は、日米同盟の強固な基盤の上で態勢を強化することへのコミットメントの事例である」と決意を表明していますが、米共和党などからF-15撤退決定に強い反発の声が上がり、有力上院議員等から国防省に対し、今後の対中国正面への戦力展開計画と中国の弾道ミサイル脅威を見据えた地域の対処計画を報告するよう厳しい追及が続いています

F-16 Spangdahlem4.JPG米空軍は嘉手納F-15の撤退開始発表後、11月4-5日にかけアラスカ配備のF-22を8機嘉手納に展開させ、中国正面へのコミットメントが揺ぎ無いことを示し、更に今回欧州ドイツからF-16を派遣して様々な懸念の声に対応しているところです。(現在もF-22が嘉手納に展開中なのかは不明)

本展開についてRAND研究所のDavid Ochmanek上席研究員は、Military.comの取材に応え、「ドイツ基地から嘉手納基地への戦闘機移動ではあるが、ロシアによるウクライナ侵略が継続する中で、欧州米空軍戦力を削減することを意味するものではないだろう。欧州には絶えず米空軍アセットが交代で派遣されている」とコメントしていますが、

F-16 Spangdahlem5.jpgさらに突っ込んで、「F-16やF-22展開は嘉手納にとって力の近代化であるが、どの機種の有人機が嘉手納に派遣されようが、中国の弾道ミサイル攻撃から在日米軍基地を守れるのかとの大問題が無視されてはならない」、

そして、「F-15でも16でも22でも、中国のミサイル攻撃に対しては極めて脆弱であり、何が派遣されようがあまり興味はない。嘉手納だけでなく、地域全体の米軍の体制を、この中国脅威を前にしてどうするのかを知りたい」と米空軍や米軍全体の姿勢を問いただしています
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これ以上何も申し上げることはありません。上記最後の一文がまんぐーすの一番の関心事項でもあり、自衛隊にも向けられた「古くて新しい大きな課題」です

嘉手納基地からのF-15撤退関連
「第1陣の8機米へ帰還」→https://holylandtokyo.com/2022/12/06/4021/
「米空軍幹部発言から大きな流れを学ぶ」→https://holylandtokyo.com/2022/11/09/3904/
「衝撃、11月1日から段階的撤退」→https://holylandtokyo.com/2022/10/31/3817/
「嘉手納でelephant walk」→https://holylandtokyo.com/2022/11/25/3981/

CSISやCSBAの台湾への提言:非対称戦略へ
「CSISが台湾軍に非対称戦術を迫る」→https://holylandtokyo.com/2023/01/16/4160/
「CSBAは2014年に同要求」→https://holylandtokyo.com/2020/11/08/381/

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レポート:宇宙軍は衛星のSM&L(機動とロジ)重視を [サイバーと宇宙]

衛星のSM&L:Space Mobility and Logistics
機動:衛星能力を維持しつつ宇宙での位置を変える
ロジ:機能点検、修理、給油、機能増強など

Space SM&L.jpg1月5日Aerospace Corporationが米宇宙軍への政策提言レポートを発表し、宇宙軍も重要性を当初から理解しているものの、技術的な壁等から実質未着手の「衛星のSM&L:Space Mobility and Logistics」分野、つまり「衛星や宇宙船に機動性を持たせ、状況対応力や強靭性を高める」ための軌道上の衛星の機動性確保(つまり移動用燃料補給)や衛星への補給支援(軌道上での点検、修理、給油、能力向上)に、民間活用と民間サービス応用導入と軍独自投資開発等の複数アプローチを選択して取り組むべきと提言しています

「衛星のSM&L」は、宇宙軍が2020年6月発表の最初の文書「Spaceopower」でも、核となる5つの重要分野の一つと記述しているテーマですが、打ち上げ重量の制約の中で技術的ハードルも高く、宇宙軍創設から現在までの数年間は「運用部隊も運用部隊も関連取得計画もなかったし、機会もなかった」と認める状況にある分野だと、「Enabling a New Space Paradigm: Harnessing Space Mobility and Logistics」とのレポートは表現しています。

Space SM&L2.jpg衛星や宇宙船に機動性を持たせ、状況対応力や強靭性を高めるに必要不可欠な要素の「衛星のSM&L」ですが、現在の衛星は限定的な推進燃料しか搭載されておらず、かつ燃料補給を受ける設計にもなっていないため、慎重な推進燃料使用を心がけているようですが、衛星が搭載する高価な機材が機能しているのに、推進燃料を使い果たして軌道上に浮かんでいるだけの状態になるのが大部分のもようです

もちろん推進燃料の搭載量を増やす検討もあったようですが、打ち上げ重量制約の範囲で、厳しい宇宙環境に耐える主任務機材の信頼性を確保するために重量がかさみ、燃料搭載量は抑えざるを得なかったのが現在の状況です

Space SM&L3.jpg「SM&L」の「SM:Space Mobility」に直結する推進燃料補給以外にも、「SM&L」の「L:Logistics」に該当する衛星への補給支援(軌道上での点検、部品確保、修理、能力向上)も取り残された重要課題であり、同レポートは「SM&L」の課題を以下の6つに整理し議論しています

なお、「Materiel Logistics」は「衛星等の維持に必要な部品等を宇宙空間に事前集積&保管すること」、「Client Augmentation」は「軌道上の衛星のアップグレードと修理」、「Active Debris Mitigation」は「デブリを破棄するために軌道変更すること」と説明されています

• Inspection
• Orbit Modification
• Materiel Logistics
• Refueling
• Client Augmentation
Active Debris Mitigation

Space SM&L4.jpgレポート執筆者はこの「SM&L」改善を通じて「衛星や宇宙船に機動性を持たせ、状況対応力や強靭性を高める」ために、上記6つの各項目の特性や民間市場での自律的発展可能性を踏まえ、4つのアプローチ(参加Participant, 既存サービス調整導入Customized, テナント参加Anchor Tenant, and 自立開発運用Owner)を米宇宙軍は選択して取り組むべきと提言しています

6日付米空軍協会web記事のまとめによれば、6項目の最初の4項目については、民間衛星での需要もあることから、民間企業が進める技術開発とサービスから、打ち上げ能力、宇宙での事前配置されたリソースとデポなど、資材ロジスティクス能力を活用でき、また衛星ライフサイクルのさまざまな段階で衛星軌道を変更することが可能だと同レポートは分析しています

Space SM&L5.jpg一方で、デブリの軽減とクライアント増強 (軌道上衛星の能力向上や修理) には、そのような機能開発や展開に、宇宙軍による多くの特設投資が必要になる場合もあると主張し、いずれにしても、米宇宙軍を21世紀の戦略環境にふさわしい宇宙戦闘部隊に発展させるには、「SM&L」検討&導入が不可欠だと同レポートの筆者3名は訴えています
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Aerospace Corporationの同レポート紹介webページ
https://csps.aerospace.org/papers/enabling-new-space-paradigm-harnessing-space-mobility-and-logistics

引き続き、宇宙ドメインについては基礎知識不足を「露呈しぱなっし」のまんぐーすですが、「SM&L」との用語など、小さなことからコツコツと学んでいきたいと思います。

末尾に紹介しております、ブログ「東京の郊外より」支援の会へのサポートについても、年初に当たり改めてご検討をお願い申し上げます

衛星に機動性を求める米国防省の取り組み
「小型衛星核推進装置を求め企業募集」→https://holylandtokyo.com/2021/09/28/2233/
「核熱推進システム設計を3企業と」→https://holylandtokyo.com/2021/04/20/111/
衛星の延命や機動性付与技術
「衛星用の熱核推進システム推奨」→https://holylandtokyo.com/2022/01/27/2622/
「衛星延命に企業と連携」→https://holylandtokyo.com/2021/11/10/2350/
「画期的:衛星が推進力衛星とドッキングで延命へ」→https://holylandtokyo.com/2020/02/28/839/

「米国防省が国防宇宙戦略を発表」→https://holylandtokyo.com/2020/06/23/629/

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米陸軍は2023年極超音速兵器配備までに2回試験 [Joint・統合参謀本部]

2023年末の部隊配備までに陸軍と海軍の共同試験を

LRHW4.jpeg1月1日付Defense-Newsによれば、米陸軍の迅速能力造成室長(Rapid Capabilities and Critical Technologies Office)Robert Rasch中将が、予定している米陸軍部隊への2023年末極超音速兵器の配備前に、時期は非公表ながら陸海軍共同での同兵器のフル装備試験を2回実施すると語った模様です

LRHW.jpg極超音速兵器の陸軍と海軍の共同開発は、陸軍が両軍共用の「hypersonic glide body」を担当し、海軍が「two-stage hypersonic missile booster」開発を担う形で、3年前くらいから加速していましたが、2020年初めにハワイでの試験に成功したものの、2021年後半にはmissile booster試験に失敗し、2022年6月に仕切り直し試験で成功していたところです

更に過去にさかのぼると、10年前に米陸軍は極超音速兵器の基礎試験に成功していますが、一端陸軍は技術的ハードルと必要資金難から開発を中止しています。それでも5年ほど前から陸軍独自に開発を再開しましたが、進捗が芳しくなく、国防省の仲立ちで海軍と協力体制を組んで今日に至っています

LRHW3.jpg2021年5月には、ワシントン州の米陸軍第1軍団に極超音速兵器(LRHW:Long-Range Hypersonic Weapon:通称「Dark Eagle」)の受け入れ部隊が編成され、実ミサイルを除く地上機材や模擬ミサイルキャニスター等を受領し、2023年運用開始に向け、本格的な試験や部隊運用の細部手順検討に向けた準備を開始しています
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陸軍と海軍は、地上や艦艇や潜水艦から「初速ゼロ」で極超音速兵器を発射する共通点があり共同開発していますが、空軍は戦闘機や爆撃機から空中発射することから独自に開発を目指しています。

LRHW5.jpg地上から発射する米陸軍が、2023年末の部隊配備予定で最も先行していますが、米海軍艦艇搭載は早くても2025年、潜水艦への配備は2028年以降となるのが現時点での見積もりで、米空軍は2028年頃に戦闘機搭載型HAWCのプロトタイプを開発製造して正式導入やその規模を判断する模様です

極超音速兵器はロシアや中国が開発&配備面で先行し、米議会等から矢のような催促が国防省や米軍にあるようですが、「中国と米国では、同兵器の位置づけが異なる」とKendall空軍長官が指摘しているように、高価な同兵器の開発に成功しても、その配備や使用先は限定されるとの指摘にも留意する必要があります

米軍の極超音速兵器開発
「迎撃兵器開発を2企業と契約」→https://holylandtokyo.com/2022/07/01/3405/
「米潜水艦配備は2028年以降」→https://holylandtokyo.com/2021/11/26/2450/
「陸軍部隊が実ミサイル以外を受領」→https://holylandtokyo.com/2021/10/18/2342/
「米空軍が3度目の正直でHAWC成功」→https://holylandtokyo.com/2021/09/30/2281/
「最近の状況&米海軍が2段目ロケット試験成功」→https://holylandtokyo.com/2021/08/30/2169/
「米艦艇搭載は2025年頃か」→https://holylandtokyo.com/2021/07/30/2037/
「豪州とも協力」→https://holylandtokyo.com/2020/12/10/340/
「今頃学会と情報収集枠組み」→https://holylandtokyo.com/2020/11/04/378/
「3月の極超音速兵器テストは誤差20㎝」→https://holylandtokyo.com/2020/10/16/434/
「3軍協力で極超音速兵器開発」→https://holylandtokyo.com/2020/08/21/530/
「ボディー試験に成功」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-22
「空軍開発本格化」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-06-16
「攻防両面で超超音速兵器話題」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2018-09-08-1
「防御手段無し」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2018-03-21-1
「宇宙センサー整備が急務」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-07-31

米空軍と国防省の同兵器開発の対立
「米空軍が戦闘機搭載型HAWC契約」→https://holylandtokyo.com/2022/12/27/4090/
「3回連続ARRW成功」→https://holylandtokyo.com/2022/12/16/4061/
「空軍:高価な同兵器は少数保有で」→https://holylandtokyo.com/2022/02/22/2742/
「国防省が空軍に改善提言」→https://holylandtokyo.com/2022/02/10/2670/
「国防次官:同兵器は最優先事項だ」→https://holylandtokyo.com/2022/01/26/2649/
「空軍長官:重要性は中国と米国では異なる」→https://holylandtokyo.com/2022/01/25/2639/

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CSISが台湾軍に非対称戦術を迫る [安全保障全般]

戦闘機VS戦闘機や艦艇VS艦艇の戦いはあきらめよ!
台湾海空軍は対称戦を捨てろ。小さな米軍を目指すな
非対称な戦い「ヤマアラシ戦略:porcupine strategy」を
高価で豪華だが脆弱な装備追及を止めろ!

taiwan defense4.jpg先日ご紹介したCSISによる台湾有事Wargameレポート(1月9日発表:中国による台湾侵攻)は、台湾が早期に降伏しないとの前提で、日米が協力して精力的に支援すれば、中国の侵略企図は破砕できるが、台湾経済は壊滅的な被害を受け、米軍は空母2隻と数十隻の艦艇や数百機の航空機を数千人の兵と共に喪失し、長期にわたり世界の指導的役割を果たせなくなるとの厳しい現実を突きつけ話題となりました。

本日は同レポートの中から、CSISが台湾軍に求めた軍装備体系の大改革に関する部分(123-125ページ)を取り上げ、陸軍を最優先せよ、弾薬や装備品は紛争開始前に台湾に備蓄しておけ(ウクライナ方式の侵略後提供は不可能)、そして台湾海軍や空軍は高価ながら有事に役に立ちそうもない艦艇や戦闘機調達を止め、移動式の対艦ミサイルや対戦車ミサイルや防空ミサイルや地雷などを最優先し、非対称な戦いで長期持久を図れるような装備体制変革を直ちに推進せよと訴えた部分をご紹介します

taiwan defense.jpgCSISは、以前から多数の研究が台湾に非対称戦体制への変革を迫っているにもかかわらず、台湾政府や台湾軍により変革がとん挫している現状を踏まえ、米国に対し「アメとムチ」を駆使して台湾軍改革を進めるよう強く迫っていますが、日本の自衛隊にも程度の差はあれ台湾軍と同方向の変革が必要なことは、2010年5月のCSBA「エアシーバトル」レポート当時から明確ですので、「喉元に刃を突きつける」気持ちでご紹介いたします

2010年5月のCSBA報告書の解説
「CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-18
「2CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-20
「3CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-20-1
「4CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-21
「5CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-21-1
「6CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-24
「最後CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-30

元祖ASB:CSBAの報告書
「ASBの背景:対中国シナリオ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-12-30

CSISの台湾軍への提言部分(123-125ページ)より

ウクライナ方式は通用しない
taiwan defense2.jpg●ウクライナでは、ロシアの侵略開始後に、西側からウクライナへの兵器や装備品提供が始まり、現在も継続して可能であるが、台湾ではこのウクライナ方式は通じない。ロシア軍と異なり、中国軍は台湾への補給物資輸送を阻止する能力があることから、侵略開始前に必要な装備や弾薬を台湾が保有している必要がある
●米国は、遅れている台湾へのFMS装備提供を加速前倒しし、台湾も自身で製造可能な多様な弾薬調達を急ぎ、中国による侵略開始前に必要量を確保しておく必要がある

台湾陸軍に対して
taiwan defense3.jpg●台湾陸軍が必要な質や能力を保有しているか不明確(怪しい)であるが、戦力差からして中国軍を台湾上陸前に撃破することは不可能であり、中国軍上陸部隊に台湾沿岸部で粘り強く抵抗することが不可欠であることから、これが可能なように、急いで台湾陸軍の効率性や残存性を高める必要がある。台湾軍は陸軍強化を最優先すべきである
●台湾は山脈や河川により地形が複雑であり、これを最大限に活用して戦いを長引かせ、中国軍に消耗戦を挑むべきである。台湾主要都市の防衛は大きな被害を生むが、都市を失うことは中国側の作戦を容易にしてしまう

台湾海軍や空軍に対して
taiwan defense5.jpg●歴史的に台湾軍は、米軍の小型版を目指すように多様な装備を導入し、大型水上艦艇や最新戦闘機、更には潜水艦や地上装備を現在も追求し、戦闘機470機、水上艦艇26隻、潜水艦4隻等を保有している。
●このような装備は、まだ中国軍が弱体であった当時には、台湾の能力を誇示して中国侵略を抑止するには意味があったかもしれないが、中国軍が急速にミサイル部隊や海空軍戦力を増強した今となっては、現在の対称戦を想定した戦力構成(symmetrical capabilities)は不適切である

●有事になれば、台湾海軍水上艦艇は中国艦艇部隊にほとんどダメージを与えることなく壊滅するであろうし、残存性の高い潜水艦もわずか4隻では継続的な海洋戦力とはならない
●台湾空軍も、中国軍のミサイル部隊を前に台湾海軍と同様に極めて脆弱であり、強固な地下シェルターに格納されて中国ミサイル攻撃を生き残る可能性のある僅かな戦力では、ほとんど戦い全般に貢献できないだろう

taiwan defense7.jpg●我々のWargame結果が有効性を示した非対称な戦いを追求する「ヤマアラシ戦略:porcupine strategy」では、台湾軍が「艦艇VS艦艇」や「戦闘機VS戦闘機」の戦いでは中国軍に対抗できない現実を踏まえ、台湾軍が高価で脆弱な通常兵器よりも、機動性や隠密性を備えたJavelin対戦車ミサイルやStinger携帯防空ミサイルなどへの重点投資を求めている
●このような結論は他の多くの台湾軍事戦略への研究提言と方向を同じくするもので、最新の軍事バランスに当てはめても一貫している。この非対称戦略では、台湾海軍に大型艦艇よりも安価な、沿岸防衛用の移動式対艦巡航ミサイル、機雷、小型対艦ミサイル搭載ボート、機雷敷設能力強化に投資するよう強く求めている。空軍には移動式防空ミサイルの充実など。

●特に、例えば台湾に提供予定で未到着の地上発射ハプーン対艦ミサイル400発などは、今回のWargameで死活的に重要であることが示されており、200発追加することで政治的リスクや兵站補給の課題などを局限しながら極めて大きな追加効果を上げることが示されている。MLR or MDTFシステム等と同様で高い効果を上げる。

taiwan defense8.jpg●ただし、このような非対称戦型への変革、つまり「ヤマアラシ戦略:porcupine strategy」追求は、当時のLee Hsi-Min台湾軍参謀総長により2017年にまとめられているが、その後の台湾軍幹部はこの構想導入に消極的なままである
●今日の脅威環境を踏まえれば、「アメとムチ」の組み合わせで台湾軍改革を推進させることに、強い決意をもって米国は望むことが不可欠である
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CSISレポートの台湾軍への提言部分(123-125ページ)は分かり易い英語で書かれており、116ページからの他の提言部分と合わせ、一度目を通してはいかがでしょうか。

taiwan defense6.jpg2014年12月にCSBAが発表した台湾軍戦略への提言レポートと共通する部分が多く、「古くて新しい」指摘です。繰り返しになりますが、2010年5月にCSBAが提案した「エアシーバトル構想」で示された日本への提言も、未だに「古いが新しい」提言であると認識すべきです。特に依然として戦闘機命派が牛耳る航空自衛隊にあっては・・・

CSISの同レポート紹介webページ
https://www.csis.org/analysis/first-battle-next-war-wargaming-chinese-invasion-taiwan
CSISレポートの現物(165ページ!)
https://csis-website-prod.s3.amazonaws.com/s3fs-public/publication/230109_Cancian_FirstBattle_NextWar.pdf?WdEUwJYWIySMPIr3ivhFolxC_gZQuSOQ

インパクト強烈なCSISレポート・台湾有事で日本も・・・
空母2隻・数10隻の艦艇と数百機の航空機喪失、台湾経済大打撃・米軍の影響力当面喪失危機
「台湾有事のWargame結果を異例公開」→https://holylandtokyo.com/2023/01/11/4135/

旧態然とした台湾軍の問題は根深く、対中国に向けた政府主導の軍改革も、国防省や軍幹部や軍OBの抵抗で進まず、時間的余裕もない現状。日本にも通じる米国専門家指摘の問題点を確認
https://holylandtokyo.com/2023/01/04/4103/

CSBA提言の台湾新軍事戦略に学ぶ
まとめ→https://holylandtokyo.com/2020/11/08/381/
その1:総論→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27
その2:各論:海軍と空軍へ→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27-1
その3:各論:陸軍と新分野→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27

2010年5月のCSBA報告書の解説
「CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-18
「2CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-20
「3CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-20-1
「4CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-21
「5CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-21-1
「6CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-24
「最後CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-30

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沖縄海兵隊の主力旅団が縮小改編MLRへ [安全保障全般]

2+2で合意:3200名規模から2000名規模へ
海兵旅団から軽快な「海兵沿岸旅団MLR」へ
宇宙分野での連携強化も合意し岸田首相訪米準備

MLR4.jpg1月11日、ワシントンDCで日米2+2が開催され、13日の岸田首相とバイデン大統領との会談を前に、宇宙分野での協力強化に加え、在沖縄海兵隊で3200名規模の「第12海兵旅団」を縮小しつつも対中国作戦により適合した「第12海兵沿岸旅団:MLR:Marine littoral regiment」に2025年までに改編することに等に合意したと発表されました

「海兵沿岸旅団:MLR:Marine littoral regiment」の創設は、対中国など本格紛争に対処可能な将来米海兵隊への変革方針を示した2020年3月米海兵隊発表の「Force Design 2030構想」で明らにされ、アジア太平洋地域に3個設けることとなっています。

MLR3.jpgMLRを生み出した同構想は、戦車部隊の廃止、歩兵部隊や回転翼部隊の削減、総兵数の削減、ロケット部隊や対艦部隊や無人システムの増加や電子戦の強化などを柱に、小規模だが軽快な部隊に再編し、海軍と連携し制海に力点を置く将来海兵隊の姿を描いたもので、他軍種にも大きなインパクトを与える大きな方向転換を明確にしたものでした

同構想発表時には、日本に最初のMLR設置とDavid Berger海兵隊司令官が述べていましたが、地元調整のむつかしさ等から(推測)、まずハワイに第3MLRが最初に創設され、2023年9月の態勢確立に向け訓練中です

MLR5.jpgMLRは、従来の海兵旅団が歩兵や戦車や火砲中心だったのに対し、中国などのミサイル射程内の厳しい環境下「contested maritime spaces」で自己防御を図りつつ、機敏に移動しつつ敵艦艇や敵上陸部隊を攻撃するより軽快な部隊編成を目指し、対艦ミサイル部隊や防空部隊やISR部隊や兵站支援部隊を中心に構成される模様で、ハワイの第3MLRが試行錯誤を行っています

またMLRに関する報道では、「戦闘が始まれば中国が海空で優勢になる可能性が高いが。戦力を追加で投入できるようになるまでの間、最前線の部隊がいかに相手の侵攻を食い止めるかがカギを握ることになり、MLRにはその中心的な役割が期待される」とか、「小規模なチームに分散して各離島へ展開し、敵からの攻撃をかわしながら相手の艦艇や航空機の進出を食い止め、制海権の確保を目指す」と紹介されています

MLR2.jpgただ各種報道はあまり触れていませんが、現在の3000名以上規模から2000名弱規模に縮小されることは事実で、「軽快さや分散行動や機動展開の容易さ」を追求するとは言え、中国のミサイル射程内の危険な地域に戦力を置いておけないとの軍事的合理性に基づく判断とも言えます。在沖縄海兵隊の総兵力は変わらないとの、思慮深い配慮に基づくよくわからない説明は日米両政府からなされていますが・・・

ハワイで準備中の先輩部隊第3MLRの状況
(2022年8月の記事より)
●同年2月に対空監視から味方部隊の航空管制までも担当する「対空大隊」を編成し、6月には攻撃能力を担う「第3沿岸戦闘チーム」や文字通りの「戦闘兵站大隊」が再編成され、RIMPACでも訓練に参加
MLR.jpg●2023年9月の態勢確立に向け、軽着上陸用艦艇の「stern landing vessel」や、長距離運航が可能な「unmanned surface vessel」導入がカギとなるが、無人艦艇導入チームが同年夏から検討を開始。
●同年秋には、打撃力強化の柱「Medium Missile部隊」が編成予定で、「stand-in force」の準備が進んでいる
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宇宙分野での協力強化については、米国の日本に対する防衛義務を定めた「日米安全保障条約第5条」が宇宙空間も適用対象になりうることを2+2で確認しています。これは露のウクライナ侵略が宇宙ドメインで始まっていた最近の事例を踏まえると重要な一歩だと思います

「反撃能力」「敵基地攻撃」に関しても協力強化へ・・・。どこを攻撃すればよいのか、日本のISR能力では特定できないでしょうから・・・

CSISの強烈インパクトのレポート発表が1月9日で、日米2+2が11日で、日米首脳会談が13日との美しい流れになっています

米海兵隊の主力海兵旅団の改革
「ハワイで創設のMLR部隊」→https://holylandtokyo.com/2022/08/19/3546/
「米海兵隊のstand-in force構想」→https://holylandtokyo.com/2022/05/25/3264/
「MLRを日本にも」→https://holylandtokyo.com/2020/04/15/726/
「Force Design 2030構想」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-25

CSISの強烈インパクトのレポート発表
「台湾有事のWargame結果を異例公開」→https://holylandtokyo.com/2023/01/11/4135/

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カナダが正式に88機F-35A導入発表 [亡国のF-35]

初度4機を2026年に、2032年までに全機を
寒冷地での運用実績やサプライチェーン安定を受け

Canada F-35.jpg1月9日、カナダのAnita Anand国防相は、CF-18戦闘機の後継としてF-35を第1候補にすると2022年3月に発表してところ、88機を2032年までに調達する過去30年間でカナダ空軍最大の投資案件になることを正式に決定したと発表し、2026年に4機、27年に6機、28年に6機を当面導入予定だと明らかにしました

また、F-35導入決定が遅れたことで138機保有のCF-18の維持が困難になっていることに関し同女性国防相は、豪州から導入決定している中古FA-18と現有CF-18の延命アップグレードにより、F-35導入完了2032年までの間に戦闘機不足に陥らないよう対応すると説明しています

Canada F-35 3.jpgカナダは8か国の「共同開発国」としてF-35開発開始当初から参画していましたが、策士であるトルドー首相の下、F-35共同開発国ながら同機の開発遅れや価格高騰を理由に購入決定を延期し続け、「つなぎ戦闘機」として豪空軍中古F-18購入まで決断していましたが、2018年頃から複数機種を候補に「情勢をしっかり見極める機種選定」を再開し、2022年3月に「F-35を第1候補、グリペンを第2候補に指定し、F-35で価格交渉がとん挫すればグリペンにする」と「粘り腰」発表していたところです

この「情勢をしっかり見極める機種選定」を振り返り同国防相は、「F-35はこの間に成熟した。サプライチェーン問題も懸念はなく、カナダは同機が期限内に納入されると確信し、CF-18退役を進められると判断した」と述べ、更にカナダ特有の寒冷地運用の懸念に関しても、ノルウェーや米軍アラスカでの運用実績が懸念を払しょくし、北極圏でのドラッグシュート運用や「磁北でなく真北での運用」にも取り組んでいくと説明しています

Canada F-35 2.jpgまた同国防相は具体的なカナダでの運用&訓練拠点基地に関し、ケベック州のBagotville基地とアルバータ州のCold Lake基地を計画していると明らかにしました

F-35導入に関連する国内産業への恩恵について、既に共同開発国としての参画で約4000億円規模を確保し、今後25年間は3300もの雇用を生み出すとし、その数値はさらに拡大するだろうと期待を同国防相は表明しています
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Canada F-35 4.jpg価格交渉も想定内で収まり、サプライチェーン問題にも懸念は無いとの発表ですが、F-35の維持費高止まりやエンジン問題などに改善変化が全くない中ですので、種々の国際情勢を総合的に勘案した「政治的決断」と理解するのが適当でしょう

ロッキード社はカナダの発表に併せ、現時点でF-35戦闘機は既に890機以上が9か国の27基地で運用されているとアピールしています。

F-35導入を決定した国(カッコ内は購入予定機数)

●共同開発国(8か国)
豪州(100機), Denmark(27), Italy(90), Netherlands(37), Norway(52), 英国(138)、米国(2443)(空軍1763、海兵隊420、海軍260)、そしてカナダ(88機)
トルコも共同開発国ながら、ロシア製SAM購入で排除された

●FMS購入国(9か国)
Belgium(34機), Israel(19), 日本(42+100) , 韓国(40)、シンガポール(当面12機 最終的に約50機) ポーランド(32機 2020年1月)、スイス(32)、そして、フィンランド(64機)、ドイツ(最大35機)、そして検討中なのがチェコ(24機)

策士トルドー首相カナダ選定の紆余曲折
「F-35を第1候補に決定」→https://holylandtokyo.com/2022/03/31/3061/
「仕切り直し再開か」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2018-11-03
「カナダが中古の豪州FA-18購入へ!?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-12-10
「痛快:カナダがF-35購入5年延期」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-23
「カナダに軍配:旅客機紛争」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-01-28
「米加の航空機貿易戦争に英が参戦」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-09-16-1
「第2弾:米カナダ防衛貿易戦争」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-06-04
「5月18日が開戦日!?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-05-20

「ノルウェーがF-35を領空保全任務に」→https://holylandtokyo.com/2022/01/12/2598/

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CSISが台湾有事のWargame結果を異例公開 [安全保障全般]

24回様々な想定や参加者で実施した結果
莫大な被害想定を国民にも知らせ心の準備と抑止を
数千名の損失と莫大な装備被害で米軍は当面弱体化
無論早期に日本も巻き込まれ損害

CSIS Taiwan 2023.jpg1月9日、CSISが台湾有事(2026年に中国が台湾に着上陸侵攻)を想定した24回ものWargame結果を集約した168ページものレポート(The First Battle of the Next War:Wargaming a Chinese Invasion of Taiwan)として公開し、台湾が早期に降伏せず、日米が緊密に連携して対応すれば、中国の企図を早期に破砕することができるが、数千名の損失の他、数十の艦艇や数百の航空機を喪失し、米国の世界的立場は多年にわたり打撃を受けるとの分析結果を明らかにしました

通常このような影響の大きいシミュレーション結果は、秘匿度の高い情報を利用して実施されることから概要のみ公開や非公開となることが大半ですが、CSISはそのような手法では蓋然性が高まる台湾有事に関する国民的議論が不十分なまま事態を迎え、結果として生じる大きな損害を前に世論が思わぬ方向に大転換する恐れもあるとして、結果の公開を前提としてWargameを検討し実行したとのことです

CSIS Taiwan 2023-5.jpg24回のWargameは「Smith Richardson Foundation」が資金を提供し、米軍の退役将軍・海軍士官、元国防総省当局者らが参加して、想定や参加者を入れ替えて行われ、CSIS関係者は、過去使用されたデータや研究分析結果、理論的に導かれた兵器性能を基礎など、秘密情報を利用しない公開情報による公開フォーマットで実施されたことが最も重要だ・・と強調しています

各種報道から「つまみ食い」した情報で以下に同レポート概要の概要をご紹介しますが、「米軍の潜水艦や爆撃機、戦闘機は日本の自衛隊に頻繁に補強され」とか「自衛隊は平均122機の航空機、26隻の艦船を損失。米軍は空母2隻を喪失」とか、生々しい結果となっており、CSISが結果公開を前提として研究を進めた問題意識に強く共感した次第です

同レポート紹介YouTube映像・約140秒
 

10日付毎日新聞報道等によるとCSISレポートは・・・
CSIS Taiwan 2023-2.jpg●机上演習は22年夏から行われ、「米国が台湾防衛に加わる」「核兵器は使用されない」との前提で、数週間の軍事衝突をシミュレーション。米軍の参戦時期、台湾軍の即応体制、米軍の空対地ミサイルの対艦攻撃力の有無などの前提条件を変え、計24のシナリオを試した。
●中国が日本の基地や米軍の水上艦を攻撃したとしても結論を変えることはできないが、「台湾が反撃に出て降伏しない」というのが大前提。米軍の参戦前に台湾が降伏すれば、全てが終わるとの前提

●最も蓋然性が高い条件の3つのシナリオの内の2つでは、中国側が台湾の主要都市を制圧できないまま、10日以内に補給困難に陥り、「敗北」と判定された。残る1回では南部・台南の港を一時制圧したが、米軍の空爆で港は使用不能となり、「こう着状態だが中国に不利」と判定された。
●中国による大規模攻撃下でも、台湾地上部隊は敵の上陸拠点に展開して反撃、米軍の潜水艦や爆撃機、戦闘機は日本の自衛隊に頻繁に補強され、中国軍の水陸両用艦隊を迅速に無力化し、侵攻中国軍は補給の増強や上陸に苦戦

CSIS Taiwan 2023-4.jpg●ただし、この防衛には多大な代償が伴うことを指摘し、米国と日本は「何十もの艦船や何百もの航空機、何千もの兵士を失う」とともに、このレベルの損失を被れば米国の世界的立場は多年にわたり打撃を受けると分析
●自衛隊は在日米軍や自衛隊の基地が攻撃された場合に参戦し、中国の攻撃で平均122機の航空機、26隻の艦船を損失。米軍も毎回空母2隻を失うほか、168~372機の航空機、7~20隻の艦船を失った。台湾軍も平均約3500人の犠牲者を出した。

●台湾や米国にやや不利な条件で行われた17回のうち3回では「こう着状態だが中国に有利」と分析されたが、中国「勝利」と判定された例はなかった。
●だが、台湾が単独で防戦した場合や、日本が中立を保って紛争に参加する米軍部隊の在日米軍基地の使用を認めなかった場合には、中国が「勝利」した。

CSIS Taiwan 2023-3.jpg●上記を含む分析結果としてCSISレポートは、台湾が中国の侵攻に屈しない条件として「台湾陸軍の強化」「在日米軍基地の使用」「初期段階からの米軍の直接的関与」「米軍の長射程対艦巡航ミサイルAGM-158C(LRASM)等の増強」「戦力分散型の作戦運用」「戦力防護用シェルター整備」「爆撃機の増強」が「非常に重要だ」と指摘し、台湾への武器供与や日本との緊密な連携などを米国政府に提言した。
●CSISの担当研究者は、「中国は多くのシナリオで在日米軍や自衛隊の基地を攻撃した。日本は九州・沖縄の航空自衛隊基地の強靱化など備えを進めるべきだ」と指摘した。
/////////////////////////////////////////////

CSIS Taiwan 2023-6.jpgCSISと日本の研究機関が相談し、日本語訳を出してはどうでしょうか? そのくらいのインパクトがあると思いますし、レポートで導かれたシミュレーション結果が独り歩きしないように、又は左翼勢力に「切り取り曲解解釈報道」されないように備えておく点からも、日本で広く読まれるべき性質のものだと思います

空母2隻を喪失したら、1万名の米海軍兵士と装備品価値数兆円が失われるリスクに直結しているわけですから、それは恐ろしいまでのインパクトであることを肝に銘じるべきです

CSISの同レポート紹介webページ
https://www.csis.org/analysis/first-battle-next-war-wargaming-chinese-invasion-taiwan

CSISレポートの現物(165ページ!)
https://csis-website-prod.s3.amazonaws.com/s3fs-public/publication/230109_Cancian_FirstBattle_NextWar.pdf?WdEUwJYWIySMPIr3ivhFolxC_gZQuSOQ

弾薬量の圧倒的不足
「CNAS:弾薬にもっと予算配分を」→https://holylandtokyo.com/2022/12/02/3990/ 
「賛否交錯:輸送機からミサイル投下」→https://holylandtokyo.com/2022/11/15/3936/
「弾薬不足:産業基盤育成から」→https://holylandtokyo.com/2022/10/19/3758/
「ウ事案に学ぶ台湾事案への教訓9つ」→https://holylandtokyo.com/2022/03/15/2806/
「Stand-inとoffのバランス不可欠」→https://holylandtokyo.com/2020/07/01/562/

台湾関連の記事
「台湾軍の抱える根深い問題」→https://holylandtokyo.com/2023/01/04/4103/
「ウクライナ侵略は日本への警告だ!」→https://holylandtokyo.com/2022/03/28/2949/

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コロナ沈静化で米空軍の離職率増加 [米空軍]

コロナで退職&転職を控えていた人材流出再開か
米空軍報道官はもう少し推移を見守る必要ありと言及も

2022 Retension.jpg1月5日付米空軍協会web記事が、米空軍が公表した士官と下士官別の2017年から2022年にかけての年度別「継続勤務者率」と、米空軍報道官のコメントを取り上げ、コロナ感染による社会的混乱の鎮静化に伴い、米国社会全体での求人市場の採用競争が激化傾向にあり、2022年の「継続勤務者率」が過去6年間で最低(つまり離職者率が最高)になったと分析しています

データを公表した米空軍報道官は、「過去6年の継続勤務者率は、コロナの影響を幾らか受けているかもしれないが、全般に横ばいで推移している」、「コロナ感染の影響を見極めるのは時期尚早である」とコメントしていますが、以下のデータから見ると、コロナによる社会的混乱が沈静化しつつあった2022年は、2021年と比較して士官と下士官の両方で継続勤務率が1%以上低下(離職率が1%以上アップ)していることが読み取れます

A-Force retention2.jpgまた、それ以前と比較して、コロナウイルスが猛威を振るった2020年と21年は継続勤務率が上昇(離職率が低下)していることも、士官と下士官の両方で見て取ることが可能です

同記事は、米国労働市場全体の影響を受けやすい下士官のデータの変化に注目し、コロナ前2019年からコロナ感染開始の2020年の間に「1%以上」の変化があり、逆の変化が士官と下士官の両方で2021年から22年の間で見られると指摘しています

継続勤務者率(Retention Rate)の推移
Fiscal Year/ Officer/ Enlisted
2017/ 93.00%/ 90.00%
2018/ 93.20%/ 89.60%
2019/ 93.60%/ 90.00%
2020/ 93.70%/ 91.10%
2021/ 94.10%/ 90.50%
2022/ 93.10%/ 89.40%

A-Force retention3.jpg米空軍側の人事制度も求人市場動向に併せて対応し、2020年感染拡大時(求人容易な時期)には継続勤務者へのボーナス支給対象範囲を絞り込み、コロナ感染沈静化傾向開始(求人困難化時期)の2021年中旬には同ボーナス支給対象を拡大し、2022年には範囲を前年の2倍に拡大したようです

ただ、このように細かな人事施策と支出抑制努力にもかかわらず米空軍の充足率は低下しており、2022予算年度末(22年9月末)時点での米空軍正規兵数は328517名で、予算定員の329220名を僅かながら下回り、2023年度の予算定員はさらに厳しい採用&離職状況を予想して325344名にまで絞られているとのことです
///////////////////////////////////////////

A-Force retention4.jpg米空軍は20年に及ぶ対テロの戦いでの兵士への海外派遣負担増を受け、更に民間企業の業績好調もあり、パイロットを始めとする人材流失に苦しんでいましたが、コロナ禍で一時期の「息抜き」を得たものの、再び人材確保難の時代を迎えることになりそうです

中国経済バブルの崩壊やウクライナ侵略に端を発する世界経済混乱の影響で、欧米の景気見通しは厳しく、民間の求人採用数の推移は予測が難しいところですが、動乱期を迎えつつあるように見える国際情勢の中で、米軍の継続勤務率(離職率)は米軍の士気を考える重要なバロメータになるような気がいたします

米空軍パイロット流出不足関連
「コロナ後の操縦者争奪戦に備え」→https://holylandtokyo.com/2021/10/17/2271/
「女性登用増に航空機設計基準変更」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-08-20
「ヘリ操縦者養成から固定翼削除試行」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-08-06
「米空軍がパイロット募集の身長基準を廃止」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-05-23
「Fly-only管理の募集中止」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-15
「5年連続養成目標数を未達成」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-19
「採用の身長基準を緩和」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-11-18
「操縦者不足緩和?」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-06-12
「操縦者養成3割増に向けて」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-10-21-1
「下士官パイロットは考えず」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-05-19-3
「F-35操縦者養成部隊の苦悩」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-05-12-3
「下士官パイロット任務拡大?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-01-22
「仮想敵機部隊も民間委託へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-01-09-1
「さらに深刻化」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-11-10

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