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使えるのか?米陸軍の新型ISR機デモ機 [Joint・統合参謀本部]

ビジネスジェットに最新ISR機材搭載
初飛行成功も、どのような場面で使用か意味不明

Bombardier ARES.jpg8月27日、米陸軍が使用してきたGuardrail ISR aircraftの後継機検討の一環として、Bombardier Global 6000/6500ビジネスジェットにISR機材を搭載した技術デモ機が初飛行に成功したと、後継機プロジェクト担当のL3Harris Technologiesが発表しました

この機体の初飛行は、米陸軍の「High Accuracy Detection and Exploitation System program」の一つで、Bombardierビジネスジェットに「ARES:Airborne Reconnaissance and Electronic Warfare System」を搭載する「米陸軍技術デモ機:U.S. Army technology demonstrator aircraft」との位置づけです

「ARES」との名称からは電子戦装置のイメージが浮かびますが、「ISRによる敵戦力の高精度の位置特定:High Accuracy Detection and Exploitation」がメインの機材のようです

Guardrail ISR.jpg米陸軍は「ARES」とは別に、2019年11月から「ARES」より小型の「Artemis:Aerial Reconnaissance and Targeting Exploitation Multi-Mission Intelligence System」の開発契約を結び、同じくBombardierビジネスジェットに搭載して、欧州や米本土での演習で能力確認を行っているようです

米陸軍が本分野でこれまで使用してきたGuardrail ISR aircraftがターボプロップの機体で、後継の「技術デモ機」もビジネスジェットということで、どのような作戦運用や運用環境を想定しているのか「???」ですが、突然米陸軍がステルス機を導入して今後「ARES」や「Artemis」を搭載するとも考えにくいので、市場にあるビジネスジェットで安価に後継機を確保するのでしょう

将来の本格紛争対処を考えると腑に落ちないプロジェクトですが、米陸軍の行き先を考える材料として、概要をご紹介しておきます

8月27日付Defense-News記事によれば
Guardrail ISR2.jpg現有の「Guardrail」は、性能上の陳腐化や部品枯渇で運用が難しくなりつつあり、米陸軍は一部機体を「部品共食い」用として扱い、残機体の運用を維持する方針を決定している
今回の「米陸軍技術デモ機」契約を、米陸軍はL3Harris Technologiesと2020年11月に結び、約6か月でBombardier Global 6000/6500ビジネスジェットに「ARES」を搭載して初飛行に成功した

同社の航空機担当社長は、「同機は高度4万フィートで14時間連続飛行が可能で、遠方の脅威の位置特定を可能にし、sensor-to-shooter network能力を増強する役割にふさわしい」、「搭載可能重量が14000ポンドで、かつ十分な電力供給能力があり、米陸軍の最長能力を持つセンサーを支えつつ、拡張性も備えている」とのべ、
Bombardier ARES3.jpg同機体が「ISRによる敵戦力の高精度の位置特定:High Accuracy Detection and Exploitation」プロジェックの有力候補機体だとアピールしている

米陸軍でプロジェクト責任者を務めるJames DeBoer大佐は、ARESとの名称から電子戦能力を持つとの印象を与えるが、現時点ではそうではなく、その予定もないと説明している
また同大佐は、「どれぐらいの搭載能力が(搭載機体に)必要か? どの部分に投資すべきか? 将来の拡張性はどの部分に必要か? などを考えつつ、関連企業と議論している」とプロジェクトの状況をDefense-Newsとのインタビューで今年語っている
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Bombardier ARES2.jpg米陸軍が現在使用する「Guardrail ISR aircraft」の作戦運用を把握していませんが、後継機で「Army’s longest-range sensors with room for growth」を目指すにしても、ビジネスジェットで大丈夫なんだろうか・・・と考えてしまいます

米空軍が、E-8 JSTARSの後継機に一時ビジネスジェット機活用を検討しましたが、残存性の観点から航空機の使用を止め、ABMSとのシステム全体で支える方向に向かったような流れが「時代」かな・・・と思っていましたが、米陸軍はどのような運用環境を想定しているのでしょうか?

「ARES」より小型の「Artemis」を搭載したBombardier Challenger 650を、今年春欧州で実施の「Defender exercise」や、5月のユタ州での「Edge 21 at Dugway Proving Ground」に投入したようですが、その様子が気になります

米陸軍関連の最近の記事
「議会が無人機対処を問う」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-07-29
「UH-60後継の長距離攻撃ヘリの選定開始」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-07-13
「空軍大将が米陸軍を厳しく批判」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-04-03
「米陸軍トップが長射程攻撃やSEADに意欲満々」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-03-12
「米陸軍は2023年から遠方攻撃兵器で変わる」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-09-09
「3月の極超音速兵器テストは誤差20㎝」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-10-14
「射程1000nmの砲開発に慎重姿勢見せる」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-03-10
「射程1000nm砲の第一関門」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-15

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独仏が混合C-130飛行隊を発足 [安全保障全般]

ノルマンディー地方の仏Evreux空軍基地に
まず仏空軍の4機で両国兵士が活動開始
空中給油型も含め計10機で2024年に体制完結

pearly france.jpg8月31日、ドイツとフランスの国防相(お二人とも女性)が、ドーバー海峡に近いフランス軍Evreux空軍基地にドイツとフランスが輸送機を出し合って混合編成するC-130輸送機飛行隊を立ち上げたと発表しました。

この混合飛行隊構想は2017年から検討されていたもので、費用負担等で色々紆余曲折はあったようですが、最終的には両国が共同訓練センター設立等のため、それぞれ約150億円の施設整備費を負担することで合意し、2020年9月に「鍬入れ式」が行われていたようです

Kramp-Karrenbauer4.jpg現時点では、同飛行隊は仏空軍差出のC-130輸送機4機のみで編成されていますが、今後、ドイツが新たに発注した6機のC-130輸送機が徐々に加わり、2024年に計10機体制が確立する見通しとのことです

予定戦力構成や以後の予定等は・・・
●両国の派遣要員数は最大計260名上限と両国で取り決め
●仏軍4機のうち2機は、ヘリへの空中給油能力有
●独軍提供6機は、3機に空中給油能力があり、3機が最新のC-130J型(独用初号機は7月に完成したばかり)

C-130J Germany.jpg2022年2月に独提供の最初の1機が配備された時点で初期運用態勢IOC確立を宣言予定
ロッキード社が同基地にC-130J training centerを建設&運用する

仏国防省報道官は
両国のC-130はバージョンが非常に近く、同混合編成飛行隊の仏独兵士は、各国の機体を区別なく使用して任務を遂行する

飛行隊創設に際しての両国共同声明は
両国は、フランスとドイツの新たな主要協力エリアの立ち上げに合意した
(差し出された戦力が)各国独自の任務に使用されることもあるが、両国兵士が混合編成で飛行隊所属の機体を運用することが可能になった
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Evreux Air Base.jpgフランスとドイツがどれほどの信頼関係にあるのか欧州情勢を把握していませんが、次世代戦闘機開発では、英・スウェーデン・イタリア連合に対抗し、仏独スイス連合で開発競争を行っています

混成飛行隊がどんな任務に従事するのか? またなぜ混合である必要があるのかイメージできませんが、フランスはアフリカのサハラ砂漠南部の「Sahel region」にC-130を昨年秋から展開させており、同様の海外活動を協力して考えている可能性はあります

「それでどうした?」と言われそうな記事ですが、小さなことからコツコツと・・・Take Noteしておきたいと思います

欧州の戦闘機開発
「英戦闘機開発にイタリアも参加へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-09-11
「独仏中心に欧州連合で第6世代機開発」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-04-07-2

ドイツが大軍縮からの反転に苦悩
「20年ぶりアジアへ艦艇派遣」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-08-04
「国防費増強プランを打ち出すも」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2018-09-08-3
「独潜水艦が全艦停止」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-10-22
「美人大臣の増強計画」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-12
「今後5年間国防費6%増へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-03-21-1
「ドイツ軍の人材確保策」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-11-09-1
「2011年時には大軍縮計画」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-10-30

ドイツと戦闘機関連記事
「独3機種混合案検討を認める」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-04-23-1
「独トーネード後継を3機種混合で?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-29
「トーネード後継でFA-18優位?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-08
「独の戦闘機選定:核任務の扱いが鍵」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-02-01
「独トーネード90機の後継争い」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-04-28

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米空軍省のソフト開発責任者が怒りの辞任 [米国防省高官]

元は著名なIT&サイバー&ソフト開発若手企業家
頭の固い変化に追随不能な指導者だらけ
IT無知な少佐&中佐クラスの人事配置に怒り心頭
官僚的な縦割り行政とエゴだらけの意思決定&不作為
3年間の不満をSNS上でぶちまけ辞職

Chaillan CSO.jpg2日、2018年5月から米空軍省のソフト開発責任者CSO(chief software officer)を務めた35歳(推定)のフランス人Nicolas M. Chaillan氏が、米空軍や国防省のソフト開発やIT事業に関する理解の無さをネット上にぶちまけ、辞任しました

Chaillan氏はわずか15歳でソフト開発企業を立ち上げ、これまでに12ものソフト関連事業を起こしたフランスでは著名なIT&サイバー&ソフト開発企業家で、ソフト開発者としても最近8年間だけでも澄明なソフトを150本作製し、500企業で採用されているその道のプロです

そんな華々しいご経歴の新進気鋭の若手ですが、どのような経緯か不明ながら米国政府機関に縁があったようで、国土安全保障省でサイバー特別補佐官を2016年10月から1年半を務め、2018年8月からは空軍省勤務と並行して国防省国防長官室でクラウド&ソフト開発特別補佐官を務めていました(おそらく国防省も同時に辞任したと推測)

Chaillan CSO2.JPGご本人によれば、「米国防省のような巨大組織で成果を上げられれば、世界のどんな組織でも変えられる」との「青雲の志」をもって乗り込んでこられたのでしょうが、残念な結果となってしまいました

フランスの民間で華々しい実績を上げた若手が、巨大官僚組織である米国防省や空軍省に来れば、フラストレーションがたまるのも当たり前ですし、自らのアイディアを聞き入れない組織への不満も募るでしょう。そんな怒りが爆発状態でのSNS上への暴露ですから慎重にみる必要がありますが、「さもありなん」な内容ですので、ご参考まで紹介します

理解力も能力もあったWill Roper前調達担当空軍次官補やその関係者が政権交代と共にペンタゴンを去り、ますます動きにくくなったのでしょう・・・・。残念です

2日付米空軍協会web記事によれば

Chaillan氏の功績
Chaillan CSO3.JPGWill Roper調達担当空軍次官補、Lauren Barrett Knausenberger空軍省CIO、Preston Dunlap主任IT組織改革等のIT技術に見識のある空軍省指導層と共に空軍省のIt改革に尽力し、また国防省のクラウド&ソフト開発特別補佐官として、ソフト開発を迅速化する「DevSecOps Initiative」を推進した
この「DevSecOps Initiative」はソフト作成を分割し、ソフトの定期的反復改善を推奨する方式で、従来の方式と比較して「Windows XT PCとWindows 10 PCほどの差がある」と言われている

またソフト改革による戦力増強事例として、老朽機であるU-2偵察機に飛行中でも新ソフトを導入可能なシステムを導入し、大きな話題を呼んだ

そんなChaillan氏は辞任理由をSNS上で
Chaillan CSO4.jpg縦割り行政の非効率や官僚制の鈍重さにいらだっていたが、宇宙軍が空軍から分離することで、ますます縦割りのサイロが増えることになり、大きな誤判断だと感じている
ITやサイバーの見識がない少佐や中佐クラスを、お決まりの人事ローテーションで日進月歩のITやサイバー分野に配置することを止めるべきだ。飛行訓練を受けていない士官をパイロットとして部隊配置しないだろう。この問題はそれほど大きな障害となっている

米軍の指導層の、IT技術やIT関連投資への反応の無さや関心の無さは、私の辞任を早めることになった大きな理由の一つである。過去3年間に渡り必要な改革に向けた疲れる戦いを続けてきたが、ペンタゴン内のITチーム編成を変える力は私にはなかった
より悪いことに、国防省の規模が大きいことを言い訳に改革案を非難する者、、組織防衛のエゴや個人の栄達のため反対する者、国防でなく各軍種の利益を優先するものなど、投資の無駄を考えない者に多数遭遇することとなった

Chaillan CSO5.jpg辞任の直接の引き金となったのは、国防省や統合参謀本部が最優先事業だと公言し、私にCSOとして4か月との短期間で取りまとめるよう命じたMVP(Minimum Viable Product)について、私が現場ニーズを短期間で吸い上げ、プロジェクトにまとめる過程を承知していながら、2022年度予算案で「予算配分ゼロ」にした決定である
国防省は約10万ものソフト開発を進めている地球上最大のソフト依存組織である。ただそこでは、10万のソフト開発が相互連携や協力がほとんど皆無な縦割り体制で行われており、無駄な重複が多数存在する。開発の多様性の利益を主張する者がいるが、ほとんどの場合、偏狭な組織防衛が背景にあるのが現状である

私は、20年後の米国の子供たちが、世界で圧倒的な人口や開発力を有する中国に対抗するチャンスを失って茫然と立ちすくむ将来を恐れている。中国のハードワークな人口と対抗するには、より賢明で効率的で前向きな姿勢で機敏さと改革志向な態勢である必要があるのに。米国は時代に先んじリードする立場になければならないのに。後塵を拝することは許されないのに
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Chaillan氏による怒りの投稿
「It is time to say Goodbye!」
https://www.linkedin.com/pulse/time-say-goodbye-nicolas-m-chaillan/

Chaillan氏の華々しいご経歴
(急いでみないと消去されますよ)
https://www.af.mil/About-Us/Biographies/Display/Article/1926281/nicolas-m-chaillan/

恐らくWill Roper前調達担当空軍次官補がChaillan氏を呼んできたんじゃないかと思いますが、米空軍や国防省が最優先課題としているJADC2の中心的担当者が辞任したということなのでしょう

最近JADC2やABMS関連のニュースがないなぁ・・・と思っていたのですが、Chaillan氏の動きも背景にあったのかなぁ・・・と懸念しています

米国防省クラウド事業がドロ沼
「将来戦の鍵クラウド事業出直し」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-07-09

老朽機U-2をソフト改修で刷新試行
「U-2にAIセンサー操作員搭載」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-12-17

全ドメイン指揮統制JADC2演習関連
「理解容易な2事業から開始」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-06-29
「国防副長官がAIDA開始発表」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-06-23
「具現化第1弾でKC-46に中継ポッド」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-05-22
「3回目はアジア太平洋設定で」→https://holylandtokyo.com/2020/10/05/425/
「2回目のJADC2又はABMS試験演習」→https://holylandtokyo.com/2020/09/09/476/
「初の統合「連接」実験演習は大成功」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-23
「今後の統合連接C2演習は」→https://holylandtokyo.com/2020/05/14/671/
「連接演習2回目と3回目は」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-02
「国防長官も連接性を重視」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-09
「将来連接性を重視しアセット予算削減」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-28

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速報 米海兵隊F-35が10月~11月に海自艦艇に展開 [Joint・統合参謀本部]

防衛省や海上自衛隊から発表ありましたか???

Berger4.jpg9月1日、David Berger米海兵隊司令官がCSISのオンラインイベントで、10月か11月に、米海兵隊のF-35が海上自衛隊の艦艇に展開すると明らかにしました。「いずもクラス」との言葉も出ています

話の流れは、今後の対中国を考える時、クワッドなど多国間の連携が重要になるとの話から、英空母エリザベスに海兵隊F-35Bが既に5か月以上展開して一体運用をしている話となり、この流れは海上自衛隊との連携にもつながるとの説明で明らかにされていま

以下の映像の19分30秒~20分50秒の間で語られています
とりあえず速報まで

CSISイベント映像(計56分)


英空母エリザベスで米海兵隊と英軍F-35が一体運用
「英空母エリザベス米英のF-35B搭載で初出撃」→https://holylandtokyo.com/2021/05/11/1492/
「英新型空母と米駆逐艦が空母攻撃群を編成へ」→https://holylandtokyo.com/2021/01/27/308/

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新空軍長官が着任しての思いを語る [米空軍]

4年ぶりの国防省復帰で中国脅威を再確認
老朽航空機の早期退役を議会に受け入れさせるために

Kendall3.jpg8月13日、就任してまだ1月経過していないFrank Kendall空軍長官がDefense-Newsの独占インタビューに答え、オバマ政権時の調達&技術担当国防次官を離れて以来、4年ぶりのペンタゴン勤務の感想等を交えつつ、今後の取り組みについてその一端を語りました

まだ最新の状況説明を受けている段階のようで、あまり突っ込んだ内容に触れているわけではありませんが、前任の空軍長官Barbara Barrett女史(勤務1年半)は全く存在感がなく、就任後に仕事ぶりをご紹介したことが1回もない稀有な存在でしたので、剛腕のKendall新空軍長官に期待を込めつつ、インタビューの概要をご紹介します

Barrett2.jpg中国が恐れるような非公開の新兵器開発が進んでいるとの話や、米空軍近代化における最大のネックとなっているA-10やRQ-4等などを米議会の反対で早期退役させられない問題への対処方法について、考えを語っていますのでご紹介しておきます

17日付Defense-News記事によればKendall新長官は
ペンタゴンに戻り、長らく私の懸念事項である中国の状況についいて情報ブリーフィングを受けてみて、私が想像していた以上に中国の軍事力近代化が加速していることをお思い知らされた。我々にはやるべきことが多く残されている
Kendall 7.jpg米空軍では、非公開で進めている中国を恐れさせるような(scare China)大きな技術的飛躍を含む兵器開発を進めているが、これらを進めるには資金確保が重要である

(どのような技術で中国を恐れさせるのか?との問いに、)例えば、既に公になっているF-35のBlock 4 upgradeでは、搭載計算機の能力を向上させ、搭載可能兵器やセンサーを増強する。また少しだけ公にしているB-21爆撃機も、中国を大いに怖気付かせる装備と考えている
非公開のものについては語れないが、2-3の案件が進行中であり、潜在的な将来の敵対国を威嚇するような案件が存在すると申し上げておく

これら将来のための優先度の高い計画が存在するが、米空軍は横ばいの予算枠の他にも、大きく自由度を縛られている。米空軍がやるべきことを実行していくためには、老朽化した航空アセットを早期退役させる必要があるが、米議会の理解が得られず、優先度の高い事業が遂行できないのだ

Kendall SASC.jpg私がオバマ政権時に国防省次官勤務をしていたころから、米空軍は次世代航空機、人工知能、全ドメイン指揮統制、自動化無人システムなど新技術導入のため、旧式装備の早期退役に取り組んできたが、議会の反対によりA-10やU-2やRQ-4を全て退役させる案の一部しか実現できなかっ
これを受け米空軍は、細切れ退役案を持ち出し、議会との妥協を図って限定数のB-1やKC-10やRQ-4退役の承認を得てきた。しかし、こんなやり方では経費削減や新装備への再投資効果は不十分で、空軍にとっては「真綿で首を絞められる:death by a thousand cuts」ようなもの

財政的観点で見れば、特定機種すべてを退役させることが最も効果的である。少数でも特定機種を保有し続けていれば、基礎的な固定費を負担し続ける必要がある
Kendall 5.jpgまだ煮詰まっていない段階だが、私は議会関係者と共に、老朽機の早期退役を細切れでなく一つのパッケージとしてまとめて提案できないか考えているところである。そうすることで空軍関係者が個別に関係自治体や利害関係者と交渉や説明したりする労度を、まとめて効率的に行うことができると考えている

もちろん例外はあり、幾つかのケースではまとめての議論が不可能な場合があるだろう。しかし取り組んでみたい。国家安全保障がこの取り組みにかかっているともいえる。鈍重な手法では強い軍は生み出せない
また、既に検討が進んでいる2023年度予算案について、私なりの軌道修正をいくつか加えたいと考えている。(本件に関しては、Brown空軍参謀総長も、米空軍が考える大胆な航空アセット近代化案を披露したいと語っている)

全ドメイン指揮統制改革の鍵であるABMSについては、前線の作戦運用に変化をもたらす、また一定期間内に成果が得られる投資先を明確にして進めるべきだと考えている
議会からも、ABMSの狙いや効果が不明確だとの指摘を受けており、投資と効果の関係を整理して示す必要があると考えている
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Kendall SASC3.jpg米空軍の各種装備開発が突っ込みどころ満載なのは否定できませんが、老朽機種早期退役に反対するのはその機種の安全保障上の必要性であることはまれで、配備基地の自治体に落ちる税金や雇用絡みです

秘密で開発中の新兵器の成熟と共に、Kendall新長官による老朽装備一括パッケージ退役案が成就することを祈念いたしております

オバマ政権で調達&開発担当国防次官を4年
陸軍士官学校卒で航空工学修士とMBAと法学博士
「Kendall氏が上院で所信を語る」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-05-26-1
「空軍長官候補Kendall氏をご紹介」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-04-28

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米軍士官学校で続々カンニング事案 [Joint・統合参謀本部]

海軍士官学校で約100名に処分、18名退学へ
米陸軍や空軍でも同時期に摘発&調査中
Web活用試験が不正を誘発!?

Naval Academy.jpg20日、米海軍士官学校は、2020年12月に同士官学校で実施した「一般物理1」のオンライン試験において、受験者653名の中で105名にカンニングの疑いがかけられ、約100名に何らかの処分が下され、その中の18名が退学処分となったと発表しました

同記事は米海軍から発表があった事案のみ細部を伝えていますが、他にも2020年12月に陸軍士官学校で、2021年1月には空軍士官学校でも同規模の試験で不正が発覚しており、捜査中であると触れています

米海軍士官学校の事案は、webを使用した試験の実施要領や監督要領が不適切だったことが最大の問題点だと米海軍は発表しているようですが、コロナ下で学校教育を手探り状態で進めている中、隙をつく手段に出た学生側の責任やモラルを責められても仕方ない状況で、性的襲撃(sexual assult)やセクハラや人種差別問題と並んで米軍幹部にとっては頭の痛い状況です

20日付Military.com記事によれば
Naval Academy3.jpg20日に米海軍士官学校が発表したところによれば、2020年12月の「一般物理1:General Physics I」最終試験は「myopenmath.com」とのwebシステムを利用して実施されたが、対象となった653名の学生は試験に際し、資料の閲覧や外部の助けを借りることを禁止されていた
しかし試験後、士官学校側は一部の学生が「チャット」ソフトを使用して外部者と試験中に会話していた等の不適切な行為を察知し、同士官学校長が直ちに捜査を命じた

同士官学校は「海軍犯罪捜査局:Naval Criminal Investigative Service」の支援も受け、試験中に試験ソフト以外の外部サイトにアクセスしていた学生をPCログから特定し、105名に許可されていない情報を試験中に利用した疑いがかけられた
Naval Academy2.jpg細部調査の結果、105名中の18名が退学処分となり、82名が5か月間の矯正教育を受ける処分が下された。なお、4名は無罪とされ、残り1名は現在も調査中となっている。士官学校側は処分の重さに差がある理由については明らかにしなかった

これだけ大規模な事案に関わらず、士官学校側は個々の学生が個々に不正を行ったもので、学生が協力して行った疑いは全くないと結論付けている
Naval Academy5.JPGまた調査は、最大の問題はweb試験における不適切な試験管理要領にあるとし、士官学校は今後極力学生を集めて従来通りの試験方法で行うように促し、web試験を実施する場合は学生の状況をモニターするソフトを使用することや、web試験での不正使用につながるソフトを利用禁止にするよう求めている

なお米海軍士官学校以外にも、2020年12月に陸軍士官学校での試験では70名以上の学生が数学の試験で不正行為の疑いをかけられ、2021年1月には空軍士官学校で249名が受験した試験で不正行為の調査が行われている
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海軍の士官候補生がどのような環境でweb試験を受けていたのか細部不明ですが、「カンニングは士官候補生としてあるまじき恥ずかしい行為であり、絶対許されない」と明記されている学生綱領「honor code」を学生が順守すると信じて教官側が「ゆるゆる」のweb試験を採用したら、約15%の学生が裏切った・・・との事案です

Naval Academy6.jpg如何なる環境にあっても、カンニングは「士官候補生としてあるまじき恥ずかしい行為」なのですが、将来ある学生に「変な気」を行させるような試験方法は、教官として考え物だと思います

問題山積の米軍士官学校ですが、米国社会の縮図として捉えるべきで、この時代に士官候補生を志して入学してくれる若者がいること(しかも依然として高い倍率で、一般的には高学力で人物的にも優秀な人材が集まっていることは確か)には敬意を表したいと思います。日本は卒業生に散々お世話になっていますから・・・

士官学校の問題関連
「士官学校の性的襲撃に変化なし」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-02
「米3軍の長官が士官学校でのセクハラ問題議論」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-04-10
「出て行ってくれ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2017-09-30-2
「空軍士官学校の内通者が反旗」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-12-10-1
「性犯罪対処室が捜査対象」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-07-04

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ロッキードが秘密兵器用の新工場開設 [安全保障全般]

数々の秘密兵器を生み出した伝説の加州スカンク工場内
自由迅速にレイアウト変更可能で多様少量生産にも対応狙う

Skunk Works New.jpg8月10日ロッキード社が、加州PalmdaleのSkunk Works(スカンク工場)内に24000平方メートルの巨大な秘密プロジェクト用の新工場を開設したと発表し、記者団や関係者への「ちらりお披露目会」を開催しました。

Skunk Works(スカンク工場)は、かつてU-2高高度偵察機、SR-71超音速偵察機やF-111初代ステルス攻撃機開発を担った「秘密プロジェクトのメッカ」で、75周年を迎えた伝統&伝説の工場ですが、この新施設がどんなプロジェクトを担うのかをロッキード側は非公開としており、10日の「ちらりお披露目会」以降は「関係者以外立ち入り禁止」の施設となる模様です

Skunk Works New6.jpg同社担当副社長のJeff Babione氏は細部には言及せず、戦闘機、ISR機、極超音速兵器やその他最先端プロジェクトに関わることになるだろうと述べるに留まり、NGAD(次世代制空機:Next-Generation Air Dominance)とのかかわりについても質問に答えなかったようです

以下では、Skunk Works(スカンク工場)内に設けられた新施設:米空軍整理番号「Plant 42 complex」のコンセプトと設備概要をご紹介し、米軍事産業が直面している課題の裏返しとなっている状況をご紹介としたいと思います

11日付米空軍協会web記事によれば
(Babione担当副社長の説明によれば)
Skunk Works New7.jpgこの施設はロッキード社が今年開設予定の4工場の中の一つで、恒久的な設備配置をせず、言わば床に固定する設備がない「intelligentでflexibleな施設」であり、製造製品に応じて、効率的な装置の配置が柔軟に可能な仕様となっている。この考え方は従来のテキサス州Fort Worth工場(F-35製造)など特定製品を生産する工場施設とは根本的に異なる

施設の広大なフロアーは自由な設備配置を可能にしてあり、「製造ロボットのところに材料や部品を持っていくのではなく、ロボットが仕事のある場所に移動する」イメージで使用され、朝施設の西側で作業していたロボットが、午後には東に移動して動作する従来とは全く異なるコンセプトを採用し、同時に自動化度合いを大幅に増やしている
使用するロボットは民生用の汎用タイプで、ソフト組み換えで多様な仕事が可能で、特定の仕事専従機材ではない。展示している重量約1.3トンのロボットは、車輪やエアクッションで柔軟に移動することを想定している

Skunk Works New2.jpg複数のロボットは互いに「対話」するよう設計されており、切断速度、ドリル穴の精度具合などの情報を互いにやり取りして調整する機能を備えている。またロボット間や従業員間のデータ共有を容易にするため、秘密プロジェクト施設としては初めてWiFi使用を可能とし、同時に工場内のペーパーレス化も進めている
基本的に本施設は最終組み立てをメイン作業とする予定で、ベンダーから納入された部品の検査などもレーザー測定器をネットワークに組み込んで迅速化し、自動システム内で発生したトラブル対処も、迅速な情報共有で促進される

施設内の空調には最新設備を投入し、設定温度の2.5度以内に施設内全ての場所が収まるように設計されている。これは複合素材から鉄、アルミ、チタンなど、多種多様な材料からできている各種部品の状態を、設計段階の前提条件で組み立てるためである
膨大な空調施設の運用には、施設に近傍に開設予定の大規模ソーラー発電施設から電力をが供給する計画で、現在加州やPalmdale行政区と許可取得に向けた調整を進めている

Skunk Works New5.jpgこれら自動化や柔軟な設備配置を可能にしたことによる生産性アップ程度について、現時点で数字を挙げて説明はできないが、設計から製造に至る全ての工程で効率化が図られ、顧客から強い要望がある「コンセプト具現化までの時間短縮」や「ライフサイクルの加速」に貢献できると自負してい
現在の他施設では不可能だが、この施設では特定の一つの製品に特化するのではなく、同じ体制で複数の多様なアセットに同時に取り組むことが可能となり、少数生産品種と大領生産装備の同時進行も想定できる。極超音速兵器の大規模生産と他の少量製品の組み合わせなどの可能性がある

雇用拡大の面から地域にも貢献できる。この施設は新たに450名の雇用を生む計画であり、テキサスのFort Worth工場やジョージアのMarietta工場を含めると、2017年以降で雇用が3倍に増え5600名規模になる予定である
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精密数値工作機による多品種少量生産やプログラム変更による他製品の製造などは、既に民間製造部門では以前から実現されている形であり、構内での柔軟なレイアウト変更やデータ共有のネットワーク化も民間企業が10年以上前から取り組んできたように思います

Skunk Works New4.jpg最新兵器の特異性や細かな国防省独自の規定など、自動化や柔軟な生産体制構築を難しくしている要因もあるのでしょうが、軍需産業側のコスト意識が希薄だったことも否定できないでしょう

これだけではSkunk Works(スカンク工場)が真に最先端工場になるのかよくわかりませんが、多いに稼いでいるLockheed Martin社で、今後への期待も高いのでご紹介しておきます

米国軍需産業の分析レポート
「混乱に乗じた中国資本の浸透警戒」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-26
「2019年世界の軍需産業TOP100」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-07-23
「2019年版 米国防省軍需産業レポート」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-06-28
「2018年版レポート」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-05-26-1

PalmdaleではNorthrop Grummanも
「RQ-180のその後?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2014-06-13-1
「特ダネ:謎の無人機RQ-180とは?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-12-09

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https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-04-16-1

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