米空軍大将が陸軍の長射程兵器導入を「ばかげている」と [Joint・統合参謀本部]
大型爆撃機部隊GSC司令官のTimothy Ray大将
重複投資、アジアで受入国探し困難、1発数十億で破産する
米議員に「ばかげている、いい加減にしてくれ」と説明
1日、米空軍協会Podcastで公開されたインタビューで、米空軍で大型爆撃機やICBM部隊を管轄するGSC(Global Strike Command)司令官のTimothy Ray大将が、米陸軍が地上発射極超音速ミサイル等を重点装備として遠方攻撃に乗り出す方針を示していることに対し、「ばかげている。いい加減にしてほしい」と辛らつに批判し、くすぶり続けている「米空軍VS米軍地上部隊の長射程兵器導入構想論争」に、一気に火が付きそうな情勢になってきました
翌日2日には、米陸軍と空軍の参謀総長同士が連絡を取り、Brown空軍参謀総長が「米空軍は引き続き他軍種と緊密に協力しながら、米国の要求にこたえていく。4軍はそれぞれに、国家安全保障のため、統合軍としての役割を相互にサポートするため、それぞれを編成、装備、訓練することを担っている」との、沈静化を狙った声明を出していますが、コロナの影響で国防予算は厳しさを増しており、中国と戦う以前に、4軍間の「仁義なき戦い」は激しさを増しています
米空軍側は以前から、「遠方攻撃は既に米空軍が大型爆撃機等で担っており、空軍の極超音速兵器開発も進んでいるから、予算厳しき中で重複投資は無駄だ」、「ウォーゲームが示すように、長射程兵器だけでは勝てない」、「極超音速兵器や長射程精密誘導兵器は高価で、それだけで数万個の目標に対処すると破産する」と地上部隊の動きを批判してきましたが、GSC司令官は更に「欧州や中央アジアでは受け入れ国があるかもしれないが、アジアでは難しい」との点も持ち出して、陸軍を厳しく批判しています
2日付米空軍協会web記事等によれば
●1日公開の米空軍協会ミッチェル研究所のインタビューでRay司令官は、「(米陸軍の遠方攻撃追求を最優先とする構想について、)純粋にその構想の信頼性に苦慮している。私は既に米空軍が習熟している分野に、相当額を投資して重複する戦力を編成する案をばかげていると思う」と語った
●同司令官は、陸軍が全ドメインで戦うと称して、地上発射型の極超音速兵器を配備し、敵のミサイルや飛行場を迅速に攻撃できると主張し、陸海海兵隊が担ってきた長射程攻撃、海上作戦、着上陸作戦、宇宙作戦の任務に乗り出そうとしていることを批判した
●また同司令官は、「地上配備の長射程兵器が機能するには、同盟国等の受け入れ承認が必要だが、欧州や中央アジアのいくつかの国では可能かもしれないが、アジア太平洋地域でにわかに可能になるとは考えにくい」、「陸軍がその能力を部隊配備するまでに少なくとも5年は必要で、実際に部隊配備できても、有事に前線に展開するには2-3か月は必要だろう」と述べ、一方で空軍アセットは直ちに必要な場所に派遣できると語った
●そして、「関係しそうな同盟国に尋ねてみたらどうか? これまでなかったそのような兵器の受け入れ可能性について。基地対策で苦労している現状から、更に全く異なる依頼をすることとなる現実を考えるべきだ」と表現した
●極超音速兵器に関しても、米空軍の爆撃機搭載用AGM-183Aの試験が4月5日に予定され、B-52やB-1やF-15E等に搭載可能になることがまもなく証明される段階にあると同大将は訴え、陸軍の地上発射型より機動力があると主張した
●また、空軍の大型爆撃機部隊が開始した「Bomber Task Force」は、インドのような新たな場所にも展開先を広げ、数日ではなく、時間単位で展開可能で、長期にわたり変化する情勢に対応する柔軟性もあると語り、「国防省予算が厳しい中で、暴力的に高価な陸軍のアイディアに投資する必要があるのか」と疑問をぶつけた
●そして、複数の米議員から陸軍構想について質問されたが、そのたびに「正直に申し上げると、ばかげているし、いい加減にしてほしい」と答えているとまで表現した
●インタビューの中でミッチェル研究所の研究部長であるDeptula退役空軍中将は、「アフガンやイラクからの撤収が(政権の)話題の中で、米陸軍は極超音速兵器を追求することで自身の存在意義を主張しようとしている」、「強引に新たな任務を確保し、国家防衛戦略NDSの中で存在感を発揮しようとしている。それが遠方攻撃最優先の背景だ」と厳しく指摘した
●更に同部長は、「陸軍は統合戦力を頼ることなく、遠方の目標情報や衛星画像情報を陸軍の航空機や宇宙センサーで獲得しようと構想しているが、これらは米空軍が統合戦力にすでに提供しているもので、完全に重複投資だ」とも訴えた
●そして、陸軍は遠方攻撃に投資するために、米陸軍が中核として担ってきた基地防空やミサイル防衛への投資をおろそかにしていると批判し、米軍全体での戦闘能力強化を考えて行動すべきと批判した
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何回も申し上げてきたように、こんな時こそ統合参謀本部が乗り出すとタイミングだと思いますが、議長が陸軍人で、副議長が空軍人の体制では期待できそうもありませんし、仲介の動きさえも聞こえてきません
それでも、第一列島線上に「インサイド部隊」として残存性の高い防空&対艦ミサイル部隊を電子戦能力を強化して配備し、遠方で待機する「アウトサイド部隊」である海空軍部隊の来援まで持ちこたえ、中国が既成事実を積み上げることを阻止する体制づくりが大きな米軍の方向性のようなので、海兵隊を含めた地上部隊の動きは今後も要注目です
対中国新構想「海洋プレッシャー戦略」の中核か?
CSBAの同構想レポートを振り返る→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-06-13
遠方攻撃を巡り米軍内に不協和音
「米陸軍トップが長射程攻撃やSEADに意欲満々」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-03-12
「米空軍トップが批判・誰の任務か?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-04-02
「海兵隊は2つの長射程対艦ミサイルを柱に」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-06
米陸軍の目指す長距離攻撃能力
「米陸軍は2023年から遠方攻撃兵器で変わる」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-09-09
「3月の極超音速兵器テストは誤差20㎝」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-10-14
「3軍協力で極超音速兵器開発」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-08-15-1
「ボディー試験に成功」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-22
「空軍開発本格化」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-06-16
「射程1000nmの砲開発に慎重姿勢見せる」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-03-10
「射程1000nm砲の第一関門」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-15
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重複投資、アジアで受入国探し困難、1発数十億で破産する
米議員に「ばかげている、いい加減にしてくれ」と説明
1日、米空軍協会Podcastで公開されたインタビューで、米空軍で大型爆撃機やICBM部隊を管轄するGSC(Global Strike Command)司令官のTimothy Ray大将が、米陸軍が地上発射極超音速ミサイル等を重点装備として遠方攻撃に乗り出す方針を示していることに対し、「ばかげている。いい加減にしてほしい」と辛らつに批判し、くすぶり続けている「米空軍VS米軍地上部隊の長射程兵器導入構想論争」に、一気に火が付きそうな情勢になってきました
翌日2日には、米陸軍と空軍の参謀総長同士が連絡を取り、Brown空軍参謀総長が「米空軍は引き続き他軍種と緊密に協力しながら、米国の要求にこたえていく。4軍はそれぞれに、国家安全保障のため、統合軍としての役割を相互にサポートするため、それぞれを編成、装備、訓練することを担っている」との、沈静化を狙った声明を出していますが、コロナの影響で国防予算は厳しさを増しており、中国と戦う以前に、4軍間の「仁義なき戦い」は激しさを増しています
米空軍側は以前から、「遠方攻撃は既に米空軍が大型爆撃機等で担っており、空軍の極超音速兵器開発も進んでいるから、予算厳しき中で重複投資は無駄だ」、「ウォーゲームが示すように、長射程兵器だけでは勝てない」、「極超音速兵器や長射程精密誘導兵器は高価で、それだけで数万個の目標に対処すると破産する」と地上部隊の動きを批判してきましたが、GSC司令官は更に「欧州や中央アジアでは受け入れ国があるかもしれないが、アジアでは難しい」との点も持ち出して、陸軍を厳しく批判しています
2日付米空軍協会web記事等によれば
●1日公開の米空軍協会ミッチェル研究所のインタビューでRay司令官は、「(米陸軍の遠方攻撃追求を最優先とする構想について、)純粋にその構想の信頼性に苦慮している。私は既に米空軍が習熟している分野に、相当額を投資して重複する戦力を編成する案をばかげていると思う」と語った
●同司令官は、陸軍が全ドメインで戦うと称して、地上発射型の極超音速兵器を配備し、敵のミサイルや飛行場を迅速に攻撃できると主張し、陸海海兵隊が担ってきた長射程攻撃、海上作戦、着上陸作戦、宇宙作戦の任務に乗り出そうとしていることを批判した
●また同司令官は、「地上配備の長射程兵器が機能するには、同盟国等の受け入れ承認が必要だが、欧州や中央アジアのいくつかの国では可能かもしれないが、アジア太平洋地域でにわかに可能になるとは考えにくい」、「陸軍がその能力を部隊配備するまでに少なくとも5年は必要で、実際に部隊配備できても、有事に前線に展開するには2-3か月は必要だろう」と述べ、一方で空軍アセットは直ちに必要な場所に派遣できると語った
●そして、「関係しそうな同盟国に尋ねてみたらどうか? これまでなかったそのような兵器の受け入れ可能性について。基地対策で苦労している現状から、更に全く異なる依頼をすることとなる現実を考えるべきだ」と表現した
●極超音速兵器に関しても、米空軍の爆撃機搭載用AGM-183Aの試験が4月5日に予定され、B-52やB-1やF-15E等に搭載可能になることがまもなく証明される段階にあると同大将は訴え、陸軍の地上発射型より機動力があると主張した
●また、空軍の大型爆撃機部隊が開始した「Bomber Task Force」は、インドのような新たな場所にも展開先を広げ、数日ではなく、時間単位で展開可能で、長期にわたり変化する情勢に対応する柔軟性もあると語り、「国防省予算が厳しい中で、暴力的に高価な陸軍のアイディアに投資する必要があるのか」と疑問をぶつけた
●そして、複数の米議員から陸軍構想について質問されたが、そのたびに「正直に申し上げると、ばかげているし、いい加減にしてほしい」と答えているとまで表現した
●インタビューの中でミッチェル研究所の研究部長であるDeptula退役空軍中将は、「アフガンやイラクからの撤収が(政権の)話題の中で、米陸軍は極超音速兵器を追求することで自身の存在意義を主張しようとしている」、「強引に新たな任務を確保し、国家防衛戦略NDSの中で存在感を発揮しようとしている。それが遠方攻撃最優先の背景だ」と厳しく指摘した
●更に同部長は、「陸軍は統合戦力を頼ることなく、遠方の目標情報や衛星画像情報を陸軍の航空機や宇宙センサーで獲得しようと構想しているが、これらは米空軍が統合戦力にすでに提供しているもので、完全に重複投資だ」とも訴えた
●そして、陸軍は遠方攻撃に投資するために、米陸軍が中核として担ってきた基地防空やミサイル防衛への投資をおろそかにしていると批判し、米軍全体での戦闘能力強化を考えて行動すべきと批判した
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何回も申し上げてきたように、こんな時こそ統合参謀本部が乗り出すとタイミングだと思いますが、議長が陸軍人で、副議長が空軍人の体制では期待できそうもありませんし、仲介の動きさえも聞こえてきません
それでも、第一列島線上に「インサイド部隊」として残存性の高い防空&対艦ミサイル部隊を電子戦能力を強化して配備し、遠方で待機する「アウトサイド部隊」である海空軍部隊の来援まで持ちこたえ、中国が既成事実を積み上げることを阻止する体制づくりが大きな米軍の方向性のようなので、海兵隊を含めた地上部隊の動きは今後も要注目です
対中国新構想「海洋プレッシャー戦略」の中核か?
CSBAの同構想レポートを振り返る→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-06-13
遠方攻撃を巡り米軍内に不協和音
「米陸軍トップが長射程攻撃やSEADに意欲満々」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-03-12
「米空軍トップが批判・誰の任務か?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-04-02
「海兵隊は2つの長射程対艦ミサイルを柱に」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-06
米陸軍の目指す長距離攻撃能力
「米陸軍は2023年から遠方攻撃兵器で変わる」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-09-09
「3月の極超音速兵器テストは誤差20㎝」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-10-14
「3軍協力で極超音速兵器開発」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-08-15-1
「ボディー試験に成功」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-22
「空軍開発本格化」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-06-16
「射程1000nmの砲開発に慎重姿勢見せる」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-03-10
「射程1000nm砲の第一関門」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-15
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2021-04-08 05:30
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