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CSISが台湾軍に非対称戦術を迫る [安全保障全般]

戦闘機VS戦闘機や艦艇VS艦艇の戦いはあきらめよ!
台湾海空軍は対称戦を捨てろ。小さな米軍を目指すな
非対称な戦い「ヤマアラシ戦略:porcupine strategy」を
高価で豪華だが脆弱な装備追及を止めろ!

taiwan defense4.jpg先日ご紹介したCSISによる台湾有事Wargameレポート(1月9日発表:中国による台湾侵攻)は、台湾が早期に降伏しないとの前提で、日米が協力して精力的に支援すれば、中国の侵略企図は破砕できるが、台湾経済は壊滅的な被害を受け、米軍は空母2隻と数十隻の艦艇や数百機の航空機を数千人の兵と共に喪失し、長期にわたり世界の指導的役割を果たせなくなるとの厳しい現実を突きつけ話題となりました。

本日は同レポートの中から、CSISが台湾軍に求めた軍装備体系の大改革に関する部分(123-125ページ)を取り上げ、陸軍を最優先せよ、弾薬や装備品は紛争開始前に台湾に備蓄しておけ(ウクライナ方式の侵略後提供は不可能)、そして台湾海軍や空軍は高価ながら有事に役に立ちそうもない艦艇や戦闘機調達を止め、移動式の対艦ミサイルや対戦車ミサイルや防空ミサイルや地雷などを最優先し、非対称な戦いで長期持久を図れるような装備体制変革を直ちに推進せよと訴えた部分をご紹介します

taiwan defense.jpgCSISは、以前から多数の研究が台湾に非対称戦体制への変革を迫っているにもかかわらず、台湾政府や台湾軍により変革がとん挫している現状を踏まえ、米国に対し「アメとムチ」を駆使して台湾軍改革を進めるよう強く迫っていますが、日本の自衛隊にも程度の差はあれ台湾軍と同方向の変革が必要なことは、2010年5月のCSBA「エアシーバトル」レポート当時から明確ですので、「喉元に刃を突きつける」気持ちでご紹介いたします

2010年5月のCSBA報告書の解説
「CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-18
「2CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-20
「3CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-20-1
「4CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-21
「5CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-21-1
「6CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-24
「最後CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-30

元祖ASB:CSBAの報告書
「ASBの背景:対中国シナリオ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-12-30

CSISの台湾軍への提言部分(123-125ページ)より

ウクライナ方式は通用しない
taiwan defense2.jpg●ウクライナでは、ロシアの侵略開始後に、西側からウクライナへの兵器や装備品提供が始まり、現在も継続して可能であるが、台湾ではこのウクライナ方式は通じない。ロシア軍と異なり、中国軍は台湾への補給物資輸送を阻止する能力があることから、侵略開始前に必要な装備や弾薬を台湾が保有している必要がある
●米国は、遅れている台湾へのFMS装備提供を加速前倒しし、台湾も自身で製造可能な多様な弾薬調達を急ぎ、中国による侵略開始前に必要量を確保しておく必要がある

台湾陸軍に対して
taiwan defense3.jpg●台湾陸軍が必要な質や能力を保有しているか不明確(怪しい)であるが、戦力差からして中国軍を台湾上陸前に撃破することは不可能であり、中国軍上陸部隊に台湾沿岸部で粘り強く抵抗することが不可欠であることから、これが可能なように、急いで台湾陸軍の効率性や残存性を高める必要がある。台湾軍は陸軍強化を最優先すべきである
●台湾は山脈や河川により地形が複雑であり、これを最大限に活用して戦いを長引かせ、中国軍に消耗戦を挑むべきである。台湾主要都市の防衛は大きな被害を生むが、都市を失うことは中国側の作戦を容易にしてしまう

台湾海軍や空軍に対して
taiwan defense5.jpg●歴史的に台湾軍は、米軍の小型版を目指すように多様な装備を導入し、大型水上艦艇や最新戦闘機、更には潜水艦や地上装備を現在も追求し、戦闘機470機、水上艦艇26隻、潜水艦4隻等を保有している。
●このような装備は、まだ中国軍が弱体であった当時には、台湾の能力を誇示して中国侵略を抑止するには意味があったかもしれないが、中国軍が急速にミサイル部隊や海空軍戦力を増強した今となっては、現在の対称戦を想定した戦力構成(symmetrical capabilities)は不適切である

●有事になれば、台湾海軍水上艦艇は中国艦艇部隊にほとんどダメージを与えることなく壊滅するであろうし、残存性の高い潜水艦もわずか4隻では継続的な海洋戦力とはならない
●台湾空軍も、中国軍のミサイル部隊を前に台湾海軍と同様に極めて脆弱であり、強固な地下シェルターに格納されて中国ミサイル攻撃を生き残る可能性のある僅かな戦力では、ほとんど戦い全般に貢献できないだろう

taiwan defense7.jpg●我々のWargame結果が有効性を示した非対称な戦いを追求する「ヤマアラシ戦略:porcupine strategy」では、台湾軍が「艦艇VS艦艇」や「戦闘機VS戦闘機」の戦いでは中国軍に対抗できない現実を踏まえ、台湾軍が高価で脆弱な通常兵器よりも、機動性や隠密性を備えたJavelin対戦車ミサイルやStinger携帯防空ミサイルなどへの重点投資を求めている
●このような結論は他の多くの台湾軍事戦略への研究提言と方向を同じくするもので、最新の軍事バランスに当てはめても一貫している。この非対称戦略では、台湾海軍に大型艦艇よりも安価な、沿岸防衛用の移動式対艦巡航ミサイル、機雷、小型対艦ミサイル搭載ボート、機雷敷設能力強化に投資するよう強く求めている。空軍には移動式防空ミサイルの充実など。

●特に、例えば台湾に提供予定で未到着の地上発射ハプーン対艦ミサイル400発などは、今回のWargameで死活的に重要であることが示されており、200発追加することで政治的リスクや兵站補給の課題などを局限しながら極めて大きな追加効果を上げることが示されている。MLR or MDTFシステム等と同様で高い効果を上げる。

taiwan defense8.jpg●ただし、このような非対称戦型への変革、つまり「ヤマアラシ戦略:porcupine strategy」追求は、当時のLee Hsi-Min台湾軍参謀総長により2017年にまとめられているが、その後の台湾軍幹部はこの構想導入に消極的なままである
●今日の脅威環境を踏まえれば、「アメとムチ」の組み合わせで台湾軍改革を推進させることに、強い決意をもって米国は望むことが不可欠である
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CSISレポートの台湾軍への提言部分(123-125ページ)は分かり易い英語で書かれており、116ページからの他の提言部分と合わせ、一度目を通してはいかがでしょうか。

taiwan defense6.jpg2014年12月にCSBAが発表した台湾軍戦略への提言レポートと共通する部分が多く、「古くて新しい」指摘です。繰り返しになりますが、2010年5月にCSBAが提案した「エアシーバトル構想」で示された日本への提言も、未だに「古いが新しい」提言であると認識すべきです。特に依然として戦闘機命派が牛耳る航空自衛隊にあっては・・・

CSISの同レポート紹介webページ
https://www.csis.org/analysis/first-battle-next-war-wargaming-chinese-invasion-taiwan
CSISレポートの現物(165ページ!)
https://csis-website-prod.s3.amazonaws.com/s3fs-public/publication/230109_Cancian_FirstBattle_NextWar.pdf?WdEUwJYWIySMPIr3ivhFolxC_gZQuSOQ

インパクト強烈なCSISレポート・台湾有事で日本も・・・
空母2隻・数10隻の艦艇と数百機の航空機喪失、台湾経済大打撃・米軍の影響力当面喪失危機
「台湾有事のWargame結果を異例公開」→https://holylandtokyo.com/2023/01/11/4135/

旧態然とした台湾軍の問題は根深く、対中国に向けた政府主導の軍改革も、国防省や軍幹部や軍OBの抵抗で進まず、時間的余裕もない現状。日本にも通じる米国専門家指摘の問題点を確認
https://holylandtokyo.com/2023/01/04/4103/

CSBA提言の台湾新軍事戦略に学ぶ
まとめ→https://holylandtokyo.com/2020/11/08/381/
その1:総論→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27
その2:各論:海軍と空軍へ→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27-1
その3:各論:陸軍と新分野→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27

2010年5月のCSBA報告書の解説
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「2CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-20
「3CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-20-1
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「5CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-21-1
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沖縄海兵隊の主力旅団が縮小改編MLRへ [安全保障全般]

2+2で合意:3200名規模から2000名規模へ
海兵旅団から軽快な「海兵沿岸旅団MLR」へ
宇宙分野での連携強化も合意し岸田首相訪米準備

MLR4.jpg1月11日、ワシントンDCで日米2+2が開催され、13日の岸田首相とバイデン大統領との会談を前に、宇宙分野での協力強化に加え、在沖縄海兵隊で3200名規模の「第12海兵旅団」を縮小しつつも対中国作戦により適合した「第12海兵沿岸旅団:MLR:Marine littoral regiment」に2025年までに改編することに等に合意したと発表されました

「海兵沿岸旅団:MLR:Marine littoral regiment」の創設は、対中国など本格紛争に対処可能な将来米海兵隊への変革方針を示した2020年3月米海兵隊発表の「Force Design 2030構想」で明らにされ、アジア太平洋地域に3個設けることとなっています。

MLR3.jpgMLRを生み出した同構想は、戦車部隊の廃止、歩兵部隊や回転翼部隊の削減、総兵数の削減、ロケット部隊や対艦部隊や無人システムの増加や電子戦の強化などを柱に、小規模だが軽快な部隊に再編し、海軍と連携し制海に力点を置く将来海兵隊の姿を描いたもので、他軍種にも大きなインパクトを与える大きな方向転換を明確にしたものでした

同構想発表時には、日本に最初のMLR設置とDavid Berger海兵隊司令官が述べていましたが、地元調整のむつかしさ等から(推測)、まずハワイに第3MLRが最初に創設され、2023年9月の態勢確立に向け訓練中です

MLR5.jpgMLRは、従来の海兵旅団が歩兵や戦車や火砲中心だったのに対し、中国などのミサイル射程内の厳しい環境下「contested maritime spaces」で自己防御を図りつつ、機敏に移動しつつ敵艦艇や敵上陸部隊を攻撃するより軽快な部隊編成を目指し、対艦ミサイル部隊や防空部隊やISR部隊や兵站支援部隊を中心に構成される模様で、ハワイの第3MLRが試行錯誤を行っています

またMLRに関する報道では、「戦闘が始まれば中国が海空で優勢になる可能性が高いが。戦力を追加で投入できるようになるまでの間、最前線の部隊がいかに相手の侵攻を食い止めるかがカギを握ることになり、MLRにはその中心的な役割が期待される」とか、「小規模なチームに分散して各離島へ展開し、敵からの攻撃をかわしながら相手の艦艇や航空機の進出を食い止め、制海権の確保を目指す」と紹介されています

MLR2.jpgただ各種報道はあまり触れていませんが、現在の3000名以上規模から2000名弱規模に縮小されることは事実で、「軽快さや分散行動や機動展開の容易さ」を追求するとは言え、中国のミサイル射程内の危険な地域に戦力を置いておけないとの軍事的合理性に基づく判断とも言えます。在沖縄海兵隊の総兵力は変わらないとの、思慮深い配慮に基づくよくわからない説明は日米両政府からなされていますが・・・

ハワイで準備中の先輩部隊第3MLRの状況
(2022年8月の記事より)
●同年2月に対空監視から味方部隊の航空管制までも担当する「対空大隊」を編成し、6月には攻撃能力を担う「第3沿岸戦闘チーム」や文字通りの「戦闘兵站大隊」が再編成され、RIMPACでも訓練に参加
MLR.jpg●2023年9月の態勢確立に向け、軽着上陸用艦艇の「stern landing vessel」や、長距離運航が可能な「unmanned surface vessel」導入がカギとなるが、無人艦艇導入チームが同年夏から検討を開始。
●同年秋には、打撃力強化の柱「Medium Missile部隊」が編成予定で、「stand-in force」の準備が進んでいる
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宇宙分野での協力強化については、米国の日本に対する防衛義務を定めた「日米安全保障条約第5条」が宇宙空間も適用対象になりうることを2+2で確認しています。これは露のウクライナ侵略が宇宙ドメインで始まっていた最近の事例を踏まえると重要な一歩だと思います

「反撃能力」「敵基地攻撃」に関しても協力強化へ・・・。どこを攻撃すればよいのか、日本のISR能力では特定できないでしょうから・・・

CSISの強烈インパクトのレポート発表が1月9日で、日米2+2が11日で、日米首脳会談が13日との美しい流れになっています

米海兵隊の主力海兵旅団の改革
「ハワイで創設のMLR部隊」→https://holylandtokyo.com/2022/08/19/3546/
「米海兵隊のstand-in force構想」→https://holylandtokyo.com/2022/05/25/3264/
「MLRを日本にも」→https://holylandtokyo.com/2020/04/15/726/
「Force Design 2030構想」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-25

CSISの強烈インパクトのレポート発表
「台湾有事のWargame結果を異例公開」→https://holylandtokyo.com/2023/01/11/4135/

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CSISが台湾有事のWargame結果を異例公開 [安全保障全般]

24回様々な想定や参加者で実施した結果
莫大な被害想定を国民にも知らせ心の準備と抑止を
数千名の損失と莫大な装備被害で米軍は当面弱体化
無論早期に日本も巻き込まれ損害

CSIS Taiwan 2023.jpg1月9日、CSISが台湾有事(2026年に中国が台湾に着上陸侵攻)を想定した24回ものWargame結果を集約した168ページものレポート(The First Battle of the Next War:Wargaming a Chinese Invasion of Taiwan)として公開し、台湾が早期に降伏せず、日米が緊密に連携して対応すれば、中国の企図を早期に破砕することができるが、数千名の損失の他、数十の艦艇や数百の航空機を喪失し、米国の世界的立場は多年にわたり打撃を受けるとの分析結果を明らかにしました

通常このような影響の大きいシミュレーション結果は、秘匿度の高い情報を利用して実施されることから概要のみ公開や非公開となることが大半ですが、CSISはそのような手法では蓋然性が高まる台湾有事に関する国民的議論が不十分なまま事態を迎え、結果として生じる大きな損害を前に世論が思わぬ方向に大転換する恐れもあるとして、結果の公開を前提としてWargameを検討し実行したとのことです

CSIS Taiwan 2023-5.jpg24回のWargameは「Smith Richardson Foundation」が資金を提供し、米軍の退役将軍・海軍士官、元国防総省当局者らが参加して、想定や参加者を入れ替えて行われ、CSIS関係者は、過去使用されたデータや研究分析結果、理論的に導かれた兵器性能を基礎など、秘密情報を利用しない公開情報による公開フォーマットで実施されたことが最も重要だ・・と強調しています

各種報道から「つまみ食い」した情報で以下に同レポート概要の概要をご紹介しますが、「米軍の潜水艦や爆撃機、戦闘機は日本の自衛隊に頻繁に補強され」とか「自衛隊は平均122機の航空機、26隻の艦船を損失。米軍は空母2隻を喪失」とか、生々しい結果となっており、CSISが結果公開を前提として研究を進めた問題意識に強く共感した次第です

同レポート紹介YouTube映像・約140秒
 

10日付毎日新聞報道等によるとCSISレポートは・・・
CSIS Taiwan 2023-2.jpg●机上演習は22年夏から行われ、「米国が台湾防衛に加わる」「核兵器は使用されない」との前提で、数週間の軍事衝突をシミュレーション。米軍の参戦時期、台湾軍の即応体制、米軍の空対地ミサイルの対艦攻撃力の有無などの前提条件を変え、計24のシナリオを試した。
●中国が日本の基地や米軍の水上艦を攻撃したとしても結論を変えることはできないが、「台湾が反撃に出て降伏しない」というのが大前提。米軍の参戦前に台湾が降伏すれば、全てが終わるとの前提

●最も蓋然性が高い条件の3つのシナリオの内の2つでは、中国側が台湾の主要都市を制圧できないまま、10日以内に補給困難に陥り、「敗北」と判定された。残る1回では南部・台南の港を一時制圧したが、米軍の空爆で港は使用不能となり、「こう着状態だが中国に不利」と判定された。
●中国による大規模攻撃下でも、台湾地上部隊は敵の上陸拠点に展開して反撃、米軍の潜水艦や爆撃機、戦闘機は日本の自衛隊に頻繁に補強され、中国軍の水陸両用艦隊を迅速に無力化し、侵攻中国軍は補給の増強や上陸に苦戦

CSIS Taiwan 2023-4.jpg●ただし、この防衛には多大な代償が伴うことを指摘し、米国と日本は「何十もの艦船や何百もの航空機、何千もの兵士を失う」とともに、このレベルの損失を被れば米国の世界的立場は多年にわたり打撃を受けると分析
●自衛隊は在日米軍や自衛隊の基地が攻撃された場合に参戦し、中国の攻撃で平均122機の航空機、26隻の艦船を損失。米軍も毎回空母2隻を失うほか、168~372機の航空機、7~20隻の艦船を失った。台湾軍も平均約3500人の犠牲者を出した。

●台湾や米国にやや不利な条件で行われた17回のうち3回では「こう着状態だが中国に有利」と分析されたが、中国「勝利」と判定された例はなかった。
●だが、台湾が単独で防戦した場合や、日本が中立を保って紛争に参加する米軍部隊の在日米軍基地の使用を認めなかった場合には、中国が「勝利」した。

CSIS Taiwan 2023-3.jpg●上記を含む分析結果としてCSISレポートは、台湾が中国の侵攻に屈しない条件として「台湾陸軍の強化」「在日米軍基地の使用」「初期段階からの米軍の直接的関与」「米軍の長射程対艦巡航ミサイルAGM-158C(LRASM)等の増強」「戦力分散型の作戦運用」「戦力防護用シェルター整備」「爆撃機の増強」が「非常に重要だ」と指摘し、台湾への武器供与や日本との緊密な連携などを米国政府に提言した。
●CSISの担当研究者は、「中国は多くのシナリオで在日米軍や自衛隊の基地を攻撃した。日本は九州・沖縄の航空自衛隊基地の強靱化など備えを進めるべきだ」と指摘した。
/////////////////////////////////////////////

CSIS Taiwan 2023-6.jpgCSISと日本の研究機関が相談し、日本語訳を出してはどうでしょうか? そのくらいのインパクトがあると思いますし、レポートで導かれたシミュレーション結果が独り歩きしないように、又は左翼勢力に「切り取り曲解解釈報道」されないように備えておく点からも、日本で広く読まれるべき性質のものだと思います

空母2隻を喪失したら、1万名の米海軍兵士と装備品価値数兆円が失われるリスクに直結しているわけですから、それは恐ろしいまでのインパクトであることを肝に銘じるべきです

CSISの同レポート紹介webページ
https://www.csis.org/analysis/first-battle-next-war-wargaming-chinese-invasion-taiwan

CSISレポートの現物(165ページ!)
https://csis-website-prod.s3.amazonaws.com/s3fs-public/publication/230109_Cancian_FirstBattle_NextWar.pdf?WdEUwJYWIySMPIr3ivhFolxC_gZQuSOQ

弾薬量の圧倒的不足
「CNAS:弾薬にもっと予算配分を」→https://holylandtokyo.com/2022/12/02/3990/ 
「賛否交錯:輸送機からミサイル投下」→https://holylandtokyo.com/2022/11/15/3936/
「弾薬不足:産業基盤育成から」→https://holylandtokyo.com/2022/10/19/3758/
「ウ事案に学ぶ台湾事案への教訓9つ」→https://holylandtokyo.com/2022/03/15/2806/
「Stand-inとoffのバランス不可欠」→https://holylandtokyo.com/2020/07/01/562/

台湾関連の記事
「台湾軍の抱える根深い問題」→https://holylandtokyo.com/2023/01/04/4103/
「ウクライナ侵略は日本への警告だ!」→https://holylandtokyo.com/2022/03/28/2949/

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台湾が徴兵期間を4か月から再び1年間に [安全保障全般]

2018年に1年から4か月に短縮も情勢緊迫を受け
台湾国民の7割以上が徴兵延長を支持
ただ台湾軍が抱える旧態然とした軍課題は根深く

蔡英文 徴兵.jpg12月27日、台湾の蔡英文総統は国家安全会議を招集し、18歳以上の男子に義務づけている兵役の期間を現在の4か月間から1年間に再延長することを決定し、記者会見で決断に至った思いを「誰も戦争など望んでいない。台湾国民も台湾政府も、国際社会もそうだろう。しかし、平和は空から降ってくるものではない。台湾は専制主義拡大の最前線に存在しているのだ」と国民に語りました。

現在は4か月間の兵役を義務づけていますが、これを2024年からは1年間に延ばし、2005年1月1日以降に生まれた男子に適用するとしています。27日の発表に際して総統府報道官は、兵役期間の再延長は約2年前から検討していたと説明しており、台湾国内では2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻を機に、一層その機運が高まった模様です。

Taiwan Forces4.jpg台湾では、1950年代から80年代に2~3年間の徴兵制が敷かれていましたが、その後の国際情勢の変化や少子化などを背景に、90年代以降兵役期間は段階的に短縮され、2008年からは1年間になっていました。また、装備品の高度化等もあり、併せて徴兵制から志願兵制中心の態勢への移行も進められ、兵役1年間は2018年で最後となり、その後は現在の4か月間に短縮されていました。

台湾の世論調査でも1年間への再延長への支持は高く、台湾国民の73%が賛成で、中国寄りの政策を掲げる国民党支持者からも広く支持を受けているとのことです。ただ、さすがに若者の支持を得るのは容易でなく、20-24歳の賛成者は35%で、反対が37%との調査結果が出ていたようです

Taiwan Forces3.jpg現在、台湾軍約18万8000名の9割は正規兵で、徴兵兵士の占める割合は1割程度ですが、台湾が徴兵制から志願兵制度への移行で生じた欠員で、陸海空軍全般で兵員充足率は約8割で、若手が必要な前線部隊では6割程度にまで落ちているようすが、徴兵1年間に戻して充足率がどの程度回復するのかは不明です

ただ、具体的に4か月から1年に戻すための現場の対応は単純ではなく、細部は国防相が今後細部を詰めるようで、蔡英文総統の後継選挙が行われた後の2024年から新制度導入には、「責任の先送り」との声も聞かれるようです

蔡英文 徴兵3.jpg徴兵期間の延長は台湾の決意を示す兆候ですが、台湾軍の抱える体制全体の問題は根深く、その一端を2021年2月に米中経済安保評議会で証言を求められた米国専門家(Michael Hunzeker, assistant professor at George Mason University’s School of Policy and Government)の指摘からレビューしたいと思います

2021年3月の記事
「台湾軍改革を阻む組織的抵抗勢力」からご紹介

蔡英文 徴兵4.jpg●台湾軍は、人的、訓練面、装備面、動機づけの面で中国軍と対峙するに適した態勢になっていない。また台湾政府が主導する国防改革への国防省や軍上級幹部の抵抗で改善が進まず、時間的余裕もない
●(徴兵制から志願制への移行で生じた、充足率の低下については前述のとおり。また徴兵兵士への訓練期間が4か月では短すぎる)

●装備面では、中国軍の台湾周辺での軍事活動活発化に伴い、台湾海空軍の艦艇や航空機による緊急対処行動が増加する中、装備品の更新が進まないことで、装備品の維持が困難に直面しており、稼働率が低下している
●軍事ドクトリン面では、依然として中国と対称な戦い(symmetric response)を追求し、実際想定される有事に、限定的な機能しか発揮できない高価なアセットを中心とした装備体系を未だに追求している

Taiwan Forces2.jpg●これら台湾軍の課題に対し、蔡英文政権は「ODC:Overall Defense Concept」を掲げ、「多層的で非対称:multilayered asymmetric force」な軍構築を目指そうとしており、その方向性は台湾の脅威環境を考えればより良い方向だ

●ただし、ODCは軍や軍人OBや国防省高官からの反対に直面し、反対の理由は極めて非論理的な「俗人的な反対、官僚組織的な抵抗、原理主義的ともいえる不同意」から来ている
●同時に政権自体も、徴兵制の復活等を含む政治的に微妙な内容にも触れているODCを、積極的に推進する意欲に欠けているように見える

Taiwan Forces.jpg●仮に、ODCが完全実施の方向に向かったとしても、対処時間は限られており、装備品の転換だけでも大変だが、更に時間の必要な作戦ドクトリン、訓練、兵站、文化などの変革を考えると、厳しい状態に置かれている
/////////////////////////////////////////////////

2021年3月の記事「台湾軍改革を阻む組織的抵抗勢力」からご紹介した内容は、そのまま日本にも向けられるべき「正論」であり、「厳然たる事実」です。ご紹介した「実際想定される有事に、限定的な機能しか発揮できない高価なアセットを中心とした装備体系を未だに追求」との指摘が、日本のF-35等にぴったり当てはまると思いますが・・・

蔡英文 徴兵5.jpg最近発表された「防衛3文書」が素晴らしい出来栄えでも、蔡英文政権の「ODC:Overall Defense Concept」と同様の運命をたどる可能性を否定できません。残念ですが・・・

2014年にCSBAが台湾に提言した「非対称な戦力構成の勧め」や、台湾と同様の問題を抱える自衛隊(特に航空自衛隊の戦闘機命派)に関する過去記事も併せてご覧ください

台湾軍の根深い問題と改革
「台湾が統合強化と権限分散の軍改革へ」→https://holylandtokyo.com/2021/05/26/1705/
「台湾軍の対中国体制に危機感」→https://holylandtokyo.com/2021/03/08/155/

CSBA提言の台湾新軍事戦略に学ぶ
まとめ→https://holylandtokyo.com/2020/11/08/381/
その1:総論→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27
その2:各論:海軍と空軍へ→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27-1
その3:各論:陸軍と新分野→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27

10年前からチマチマ訴えてきたのですが・・・
「脅威の変化を語らせて下さい」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2012-10-08
「中国軍事脅威の本質を考えよう」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2012-12-30

くたばれ戦闘機命派
「織田邦男の戦闘機命論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-03-06
「F-3開発の動きと日本への提言」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-03-18
「戦闘機の呪縛から脱せよ」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2013-04-16
「大局を見誤るな:J-20初公開に思う」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-02

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トルコ企業が無人戦闘機の初飛行披露 [安全保障全般]

Bayraktar TB-2で「ウ」やアゼルバイジャンで名をはせた企業
自社投資開発で自由にどんどん改良予定
兵器搭載量3300ポンドで空対空や空対艦M搭載可

Bayraktar Kizilelma4.jpg12月14日、ウクライナやアゼルバイジャン軍で大活躍した無人機Bayraktar TB-2製造で世界的名声を得たトルコの無人機メーカーBaykar Tech社が、自社開発の自称無人機戦闘機「Bayraktar Kizilelma」の初飛行に成功し、その映像を公開しました。

同機は2021年夏に構想が発表され、2022年9月にプロトタイプ用エンジンの融合試験や地上滑走試験を行い、初飛行を2023年に実施すると同社が発表していましたが、自社投資独自開発である自由度を最大限に生かし、予定を大幅に早めて14日の約18分間の初飛行となった模様です

製造企業発表の初飛行動画(1分20秒:トルコ語)


初飛行したのはプロトタイプ機で、今後エンジンをアップグレードする構想など開発の方向性は様々に検討されており未確定な点が多いのですが、とりあえずBaykar Tech社やネット上で共有されている「Bayraktar Kizilelma」の概要について、ご紹介しておきます

19日付Defense-News記事等によれば
Bayraktar Kizilelma.jpg●プロトタイプ用のアフターバー無しのエンジンを1基搭載した機体は、巡航速度0.6マック、最大速度0.9マック、行動半径500nm、連続飛行時間5時間、上昇高度4万フィートの性能
●完全自動で離着陸が可能で、短距離離着陸性能に優れ、強襲揚陸艦甲板での運用も可能と同社はアピールしている(カタパルトなしでスキージャンプ離陸可能か不明)

●米軍が開発のXQ-58に見られるような、エンジンノズル部分にステルス配慮は無いが、ステルス性を追求しており、ステルス性と相反する機動性確保のためカナード翼を装備(中国のJ-20のようだと下の映像は解説)
●兵器搭載量は3300ポンドで、ステルス維持のため機体内部弾薬庫を保有し、翼下のパイロンも含めると、トルコ国産空対空ミサイルや対艦巡航ミサイルが搭載可能

Bayraktar Kizilelma2.jpg●AESAレーダーを搭載し、他のISR装備も搭載可能と言われており、また衛星通信で操縦すると同社は公表しているが、地上から主に管制するのか、飛行中の有人機から操縦するのか等の運用構想など細部は不明
●今後より強力なエンジンを搭載して超音速飛行可能な形態を目指し、将来的にはエンジン2基搭載型も検討されている模様

●今年夏にはBaykar Tech社長が、コスト面を度外視した開発は行っておらず、安価に大量導入が可能な機体開発を目指している・・・と語っている

軍事YouTubeサイトの同機紹介(8分15秒)

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Bayraktar Kizilelma3.jpg映像で紹介されている同機開発責任者がとても若く(40代か?)、初飛行を前倒しで行う積極性に開発の勢いを感じます。

米空軍が取り組む無人機ウイングマンCCAのような性能レベルなアセットだとは思いませんが、十分に脅威であり、柔軟に色々な用途に改良して発展していきそうな気がします。今後の展開に注目いたしましょう

Baykar Tech社無人機TB-2が大活躍
「ウクライナでも大活躍」→https://holylandtokyo.com/2022/03/05/2787/
「アゼルバイジャン軍の無人機大戦果」→https://holylandtokyo.com/2020/12/22/348/

米空軍の無人ウイングマンCCA開発
「研究機関のACP提言」→https://holylandtokyo.com/2022/12/15/4056/
「自立型や群れ開発格上げ」→https://holylandtokyo.com/2022/11/22/3948/
「Broun参謀総長まだまだやることあり」→https://holylandtokyo.com/2022/09/08/3614/
「空軍長官:1機数百億円」→https://holylandtokyo.com/2022/05/09/3193/

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最新型F-16 Block 70初号機完成:既に受注130機 [安全保障全般]

既存F-16のBlock 70への改修受注も400機越え
Block 70完成機は300-500機との需要予想も

F-16 Block 70 5.jpg11月21日、ロッキード社SC州Greenville工場で、F-16戦闘機の最新型Block 70/72初号機の完成式典が行われ、2023年に米空軍のエドワーズ空軍基地での初飛行など一連の試験を行うと同社が発表しました。

完成(roll out)したBlock 70/72型機はバーレーンに提供される予定の機体だそうですが、現時点でバーレーンを含む5か国(Slovakia, Bulgaria, Taiwan、他非公開1国)からの128機の受注契約が締結済で2020年代末までに製造予定で、他にヨルダン8機が手続き中で、ブルガリアとも協議中と同社報道官は語っています

F-16 Block 70 4.jpgBlock 70/72新造機の他に、既存の旧バージョンF-16のBlock 70/72への近代化改修受注は現時点で既に「405機」に達しており、2022年1月時点でロッキードはBlock 70/72型機関連で約9兆円の契約を既に締結していると関係者が語っているようです

米空軍が最後にF-16を購入したのは2005年のBlock 50型機で、その後はF-22を経てF-35の調達に資金を投入していますが、その米空軍が2021年春に、2030年代になっても600機程度のF-16を維持しているだろうとの「戦闘機ロードマップ」を明らかにしたことから、現在でも25か国で運用されているF-16維持整備体制が当面確保されたとの「安堵感」は世界に広がり、「F-16」ブームが再燃している状況です

F-16 Block 70 3.jpgちなみに、2021年春の近未来「戦闘機ロードマップ」(2023年度予算案の背景説明資料)では、2027年から29年頃にF-16後継検討を具体化し、2035年頃からハイエンド紛争での使用を想定しない5世代機以下程度の性能のMR-X(malti-role Fighter)導入構想も示されていますが、現時点ではどうなることやら全く見えていない状態で、F-16の地位が揺らぐことは当面なさそうです

また更に、Block 70/72型機は機体構造部材が強化され、機体寿命が12000時間と従来型の1.5倍に延伸されており、少なくとも2060年までは現時点でも運用される見通しで、今後受注が続けば2070年代にも雄姿を見せている可能性が十分あります

申し送れましたが、Block 70/72型機の改善点は・・・
F-16 Block 70 2.jpgAPG-83 active electronically-scanned array (AESA) radar,
electronic warfare 「Viper Shield」,
powerful mission computer,
cockpit with larger color displays—including zoom and the ability to rearrange displayed information
uprated engine,
capability for most modern weapons,
conformal overwing fuel tanks
infrared search-and-track system
targeting pod capability,
improved data links,
precision GPS navigation
/////////////////////////////////////////////////////

F-16 Block 70.jpg米空軍が初期型F-16Aを運用開始した1978年から45年が経過しようとしていますが、その間に30か国へ計4550機が提供されたF-16シリーズは現在でも25か国で運用されており、Block 70/72型新造機の市場ニーズが300-500機あるとの見積もりは決して大げさではないともいます

なおF-16運用国はABC順で
Bahrain, Bulgaria, Chile, Columbia, Croatia, Egypt, Greece, India, Indonesia, Jordan, Morocco, Korea, Oman, Pakistan, the Philippines, Poland, Romania, Singapore, Slovakia, Slovenia, Taiwan, Thailand, Turkey, UAE, USA the United Arab Emirates ・・・ です

日本は「亡国のF-35」ではなく、F-15Jの仲間でもあるF-15EXや、F-16最新型を導入しておけばよかったと思います。日本のような環境では、有事に戦闘機が活躍する場面は極めて限定されると思うからです

F-16関連の記事
「F-16後継検討は進展なし」→https://holylandtokyo.com/2022/08/25/3554/
「トルコに最新F-16提供要請」→https://holylandtokyo.com/2022/07/05/3437/
「F-16は2070年代まで運用へ」→https://holylandtokyo.com/2021/06/01/1784/
「米海軍が中古空軍F-16購入へ」→https://holylandtokyo.com/2021/06/17/1873/
「F-16人気にロッキードニンマリ」→https://holylandtokyo.com/2020/04/29/739/
「F-16生産移設であと200機」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-07-21-3
「米軍F-16延命へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-04-13
「稼働率8割はF-16だけが達成見込み」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-09-06
「インド選定に特別仕様F-16で挑む」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-02-22
「台湾F-16V型ようやく納入」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-10-27-2

米空軍の戦闘機構成議論
「戦闘機の近未来体制は」→https://holylandtokyo.com/2021/05/21/1709/
「戦闘機は7機種から4機種へ」→https://holylandtokyo.com/2021/05/18/1496/
「戦闘機混合比や5世代マイナス機検討」→https://holylandtokyo.com/2021/02/22/266/

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DNI長官:露は弾薬不足に対処できそうもない [安全保障全般]

来春の露の大規模反転攻勢はありそうもない
プーチンが戦闘の実態を把握しているか疑問
ウクライナ支配を一旦諦め、長期的目標に転換か

Haines Reagan5.jpg12月3日、毎年恒例の「Reagan Defense Forum」で公開インタビューを受けた米国情報機関トップのAvril Haines 国家情報長官(DNI:Director of National Intelligence)が、不活発になりつつあるロシア軍のウクライナ侵略活動やプーチン大統領の状況について断片的ながら見解を披露し、ロシア軍の弾薬枯渇が急速に進んで国内補給調達見込みが厳しいことや、プーチン大統領が戦況実態を十分報告されていない疑念に言及しました

厳しい冬を迎えウクライナでのロシア軍活動が低下し、ウクライナ東部からのロシア軍撤退の動きが確認される状況ですが、ロシア軍が態勢を立て直して来春に反撃の機会をうかがっているのではとの見方もある中、米国情報機関を取りまとめる立場の国家情報長官DNIが、慎重に言葉を選びつつながらも相当に確信をもって踏み込んだ発言をしている印象なのでご紹介いたします

12月6日付米空軍協会web記事によれば、
NBC放送のAndrea Mitchel女史にからのインタビューを受ける形式で語ったAvril Haines 国家情報長官は・・・

ロシアの弾薬備蓄量
Haines Reagan.jpg●厳しい冬を迎え、ロシアとウクライナ両国は軍の再編・物資装備の補給モードに入っていると見られ、反転攻勢の準備とも言えるが、春を迎える頃にロシア軍が反転攻勢に出られるかついて情報機関は相当レベルで懐疑的であり、ウクライナ側についてはかなり楽観的である
●特にロシア軍の兵器や弾薬の在庫量が問題で、具体的な数量はこの場で言及できないが、ロシアの精密誘導兵器消費ペースはウクライナよりかなり早く厳しい状況で、ロシア軍需産業では消費分を補填できない状態にあると見ている

●このためロシアは他国からの弾薬調達に動いており、ロシア軍装備で使用できる弾薬を保有している北朝鮮、中国、イランに対し提供を求めたことが知られている。ただし多くの補給を得られた訳ではない模様だ
●同盟国とも協力して分析を進めている我々の関心事項の一つは、ロシアの弾薬備蓄量から、ウクライナ以外の紛争にどの程度弾薬を使用できる状態にあるかであり、通常兵器でのウクライナ以外での軍事オプションは大きく制限されるだろうとの見方もある

●イランはロシアへの無人機提供を否定していたが、最近では「戦争前に提供したものだ」と言い訳を始めている。ロシアはイランから別の精密誘導兵器を導入しようとしており、極めて憂慮すべき事態で注視している

プーチンはロシア軍の苦戦や窮状を把握しているか
Putin Haines Reagan.jpg●プーチン大統領がロシア軍の状況や戦況の実態を把握しているのか、プーチンの怒りを恐れた部下からの虚飾に満ちたロシア軍に都合の良い報告しか受けていないのではないかとの疑問は、我々の関心事項であり、様々に議論されている。私が言えるのは、侵略後のロシア軍の苦戦にプーチンが驚いているということである
●プーチンはロシア軍の直面する問題を次第に認識する様になっていると考えるが、どの程度正確に全体像を把握しているかはよくわからない。弾薬の枯渇、士気低下、補給物資不足、兵站支援全般などなどの直面する課題についてだ

Haines Reagan4.jpg●ただ、ロシア軍の厳しい現状を把握し始めていても、プーチンは「ウクライナ支配の奪還(retake control of Ukraine)」との目的を変えていないし、少なくとも我々は変化の証拠をつかんでいない。
●「ウクライナ支配の奪還」の意味するところは様々に解釈でき、プーチンは「ウクライナはロシアの主権エリアである」と言い続けているが、それが短期的な軍事作戦にどうつながっていくのか不明である。侵略開始当初の勢いがなく当初の目的達成が困難なことを認識する時が来て、目的縮小を受け入れることができるかわからない
●一時的に目標縮小をプーチンが受け入れても、時間を置いて、再び彼は当初の目的達成に挑むだろうと米国情報機関は考えている

中国の動きについて
Xi Haines Reagan.jpg●中国の動きは2面性を持っている。引き続き中国はロシアを支援するための会議を催したり参加したり、国際社会でロシアの主張を拡散したり、様々な形での支援を行っている。
●しかし中国は、決定的な影響を与えうる軍事支援は行っておらず、支援はわずかなレベルである。我々は注意深く中国の動きを見ているが、プーチンによる核兵器使用を匂わせる発言の背景に中国がいるとの証拠は得ていない。ただ習近平の発言はプーチンに最も強く作用するだろうとも考えている

ウクライナのインフラ攻撃の影響
●ロシアによるエネルギーインフラ攻撃により、ウクライナは大きな打撃を受けているが、ウクライナ国民の士気を低下させるまでには至っていないし、ロシアと戦う意志に変化は見られない。
●ただし、ウクライナ経済は長期的に大きな打撃を受けることは間違いない
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会見の公式映像(約37分)


Haines Reagan3.jpg言葉を選んでの国家情報長官DNIの発言ですが、ロシア軍が今ウクライナ侵略を止めても、ロシア軍は当面何もできない状態にまでダメージを受けていると考えてよいレベルなのかもしれません。核兵器を除いては・・・

結果として、米軍や西側諸国が対中国により勢力を集中する事が出来ればよいのですが・・・

女性初の国家情報長官をご紹介
高校卒業後に来日し、1年間講道館で柔道を習ったつわものデス!
「DNIが年次報告書を語る」→https://holylandtokyo.com/2021/04/27/116/

ウクライナ関連の記事
「第1撃は宇宙やサイバー攻撃だった」→https://holylandtokyo.com/2022/06/23/3365/
「対中国への教訓は兵站の重要性」→https://holylandtokyo.com/2022/06/17/3358/
「米陸軍の教訓」→https://holylandtokyo.com/2022/06/01/3245/
「ロシアに迅速対処したSpaceXに学べ」→https://holylandtokyo.com/2022/04/22/3173/
「日本への警告」→https://holylandtokyo.com/2022/03/28/2949/
「台湾事案への教訓」→https://holylandtokyo.com/2022/03/15/2806/
「戦闘機での制空の時代は終わる」→https://holylandtokyo.com/2022/02/09/2703/
「ウクライナ侵略最初の一撃は宇宙で!?」→https://holylandtokyo.com/2022/02/18/2732/

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CNAS:米軍は弾薬にもっと予算を配分せよ [安全保障全般]

最近の紛争事例から急激な弾薬ミサイル消耗に着目
目立つ装備ばかりでなく、いつも後回しの弾薬備蓄に警鐘

CNAS weapon 2.jpg11月17日、シンクタンクCNASの女性研究者2名が「Precision and Posture」とのレポートを発表し、対中国作戦の予想様相やウクライナなど近年の紛争の事例も踏まえ、米国防省2023年度予算や5か年計画における弾薬調達予算配分が不十分だと警鐘を鳴らしています

弾薬の備蓄や製造にかかわる軍需産業基盤の弱体化問題は、長引く露によるウクライナ侵略への米国の兵器支援によって顕在化し、例えばJavelin対戦車ミサイルの米国備蓄の半分以上8500発をウクライナに提供した結果、その穴埋めには現状だと12年が必要との衝撃的数字が明らかになるなどして問題化し、対中国でも対艦精密誘導ミサイル「LRASM」の深刻な備蓄状態などを複数回取り上げてきたところです

そんな中でのCNASレポートは、より広範な事例から米国の弾薬事情について取り上げ、紛争のたびに問題が顕在化しているのに、一向に改善が進まない状況を指摘していますので、レポートの断片的な「つまみ食い」説明を試みたいと思います

レポート「Precision and Posture」は・・・
CNAS weapon 2022.jpg●対中国では中国による迅速な勝利を阻止し、米国や同盟国は粘りづよく反撃して膨大な攻撃目標に対処する必要があり、同時に中国の強固な防空網に我の兵器の一部が迎撃されることも考慮して弾薬の確保を今から準備する必要がある。ただ現在でも緊急にやるべきことが米国防省には多く残されており、現状の予算計画では不十分だ
●2023年度予算におけるICBMやSLBMを含めたミサイル予算は3兆5千億円程度にまで伸びているが、対中国で不足が叫ばれている対艦精密誘導ミサイルなどの予算は8000億円程度で増えていないのが現状である

JDAM-Empty.jpg●過去においても同様の問題が発生し、例えば2014年から17年に遂行された対ISIS作戦では、連合国の空爆で11万5千発の精密誘導兵器を多数含む弾薬が消費され現代戦の様相を呈したが、JDAMとレーザー誘導ミサイルの備蓄が枯渇して、需要に対応する軍需産業基盤の重要性が叫ばれた
●しかしウクライナ支援でも弾薬備蓄や製造能力不足が露呈し、米国は例えば韓国から155mm砲弾を購入してウクライナ支援に充てようとしている。ただこの窮状は米国に限らず、ウクライナを侵略しているロシアも、北朝鮮にまで弾薬補充を頼る状況に至っていると米国関係者は分析している

LRASM4.jpg●対中国作戦で考えてみると、例えば中国海軍艦艇は高度な地対空ミサイルを装備し、同時に「おとり艦艇」等で欺まんする可能性が高く、米軍の対艦ミサイルLRASM(Long Range Air to Ship Missile)の一部が迎撃されたり、誤目標攻撃に消耗させられる可能性を予期する必要があり、余分にLRASMを保有しておく必要がある

(LRASMは対中国作戦で800~1200発必要と言われているが、現有200発のみで、毎年の調達数はここ数年は38発たらず。2023年予算は88発導入を計画も、このペースでも1000発確保に10年は必要)

LRASM-B1-2.jpg●重要な弾薬備蓄と弾薬製造基盤育成への投資不足に関してはこのCNASレポート以外にも、9月のForeign Affairs誌で、フロノイ元政策担当国防次官とMichael Brown前国防省DIU局長が、対中国で必要な弾薬種と必要な数量見積もりを踏まえ、厳しい現実を改善するために必要な措置が緊急に望まれると主張している
////////////////////////////////////////////////////

CNASレポートをうまく紹介できていませんが、レポート内では重要な弾薬が「戦闘機や艦艇や戦闘車両など主要装備に予算が割り当てられた後、残予算で言い訳程度に調達されてきた経緯」なども説明されており、軍組織と軍人の硬直性を厳しく指摘しているようです

日本の自衛隊も同じような状況だと考えられ、「たまに撃つ、弾が無いのが、たまにきず」と自虐的に笑っている状況ではないのが今現在です。

レポート現物45ページ
→ https://s3.us-east-1.amazonaws.com/files.cnas.org/documents/Budget2022_Final.pdf?mtime=20221116160642&focal=none

弾薬量の圧倒的不足
「賛否交錯:輸送機からミサイル投下」→https://holylandtokyo.com/2022/11/15/3936/
「弾薬不足:産業基盤育成から」→https://holylandtokyo.com/2022/10/19/3758/
「ウ事案に学ぶ台湾事案への教訓9つ」→https://holylandtokyo.com/2022/03/15/2806/
「Stand-inとoffのバランス不可欠」→https://holylandtokyo.com/2020/07/01/562/

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「世界の火薬庫」バルカン半島にも無人機大量流入 [安全保障全般]

コソボと対立のセルビアが無人機大国へ
中国製やイスラエル製や自国製が増殖中とか
イラン製を発注との情報も・・・

CH-92A china2.jpg11月21日付Defense-Newsは、「世界の火薬庫」バルカン半島でコソボとの緊張が再び高まるセルビアが、2019年にバルカン半島国家第1位の軍事費を投入し、輸入無人機と自国製の無人機を組み合わせ、半島最大の無人機保有国になっていると紹介しています

セルビアは元々民間機分野(composite aircraft)で航空機産業基盤があるらしく、自国製のISR無人機Vrabacを運用して展示会に出品したりしているようですが、同時に中国やイスラエル等からの輸入無人機も導入運用し、イラン製にも興味を示しているとイラン政府関係者がメディアに語っているようです

Gavran Serbia.jpg同時にコソボ軍との緊張が高まる中、セルビア大統領が最近、「飛行禁止空域」に進入したり、軍事施設に接近するドローンをすべて撃墜せよと命じるなど、周辺国からの無人機の脅威にもセルビアは直面しており、「脅威の変化を最前線で体感している国」とも言える状態にセルビアは置かれています

2020年秋、アゼルバイジャンとアルメニア軍の戦いにおいて、ロシア製兵器で防御するアルメニア軍を、イスラエルやトルコ製の無人機で圧倒したアゼルバイジャン軍の記憶が生々しい中、今年秋には「遅まきながら」無人機の有用性に気付いたロシア軍が、イラン製無人機を急遽導入してウクライナ発電所などエネルギーインフラに大打撃を与える様子が世界に発信されるなど、安価な無人機の「脅威」が「やばい」と広く認識され始めた中での動きです

同記事からセルビア軍の無人機には
Vrabac Serbia2.jpg●最新無人機としては2020年6月に導入された中型の中国製攻撃無人機CH-92A(行動半径250㎞)
●セルビア製ISR無人機「Vrabac」
●上記「Vrabac」を改良し武装可能にした無人機(40㎜弾薬6発搭載)

●セルビア製空中待機型攻撃無人機「Gavran」(搭載15㎏、30分在空待機可)
●セルビア製偵察無人機Silac 750C
●イスラエル製ISR無人機「Orbiter 1」などなど

Orbiter 1 Israel.jpg(そのほか噂では、ウクライナ軍使用で緒戦で話題になったトルコ製TB2の導入希望を繰り返しセルビアは公言しているが、イラン政府幹部がセルビアはイラン製無人機導入に手を上げている22か国のうちの一つであると発言した以降、TB2の話は立ち消えになった模様)
////////////////////////////////////////////////////////

いつもにも増して「断片的」な情報でしたが、セルビアのような中小国にとって、「無人機」は軍事作戦に革命・革新をもたらす兵器だとの直感に基づき、無人機活用に邁進する様子をご紹介しました

そしてこんなところから、軍事作戦の大きな変革の波は訪れるのだろうと思います。大国は変化が難しいです。

急速に脚光を浴びる無人機
「イラン製無人兵器がウで猛威」→https://holylandtokyo.com/2022/10/20/3787/
「アゼルバイジャン大勝利」→https://holylandtokyo.com/2020/12/22/348/
「Asia/Africaへの中国無人機の売込に警鐘」→https://holylandtokyo.com/2022/06/16/3339/
「ウで戦闘機による制空の時代は終わる」→https://holylandtokyo.com/2022/02/09/2703/

無人機対処にレーザーや電磁波
「対処用のエネルギー兵器動向」→https://holylandtokyo.com/2022/07/14/3432/
「JCOが小型無人機対処3機種吟味」→https://holylandtokyo.com/2022/05/17/3233/
「2回目:安価で携帯可能な兵器試験」→https://holylandtokyo.com/2021/10/08/2280/
「カタール配備のC-UASと陸軍のIFPC」→https://holylandtokyo.com/2021/06/02/1708/
「1回目:副次的被害小な兵器試験」→https://holylandtokyo.com/2021/04/19/110/
「国防省が小型無人機対処戦略発表」→https://holylandtokyo.com/2021/01/12/295/

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人権や原油価格で緊張感も米B-52をサウジ戦闘機が護衛 [安全保障全般]

イランがサウジ攻撃を計画との警戒情報の中
イスラエル含む13か国がB-52の中東飛行を支援

B-52 Saudi 3.jpg11月10日、飛行ルートなど細部は不明も、2機のB-52爆撃機が「BTF:Bomber task forces」任務で中東地域を示威飛行し、イスラエルやサウジを含む13か国が何らかの形でこの飛行に関与したと米中央軍が明らかにしました。このような飛行は今年4月と9月にも行われています。

米中央軍は具体的に13か国の国名など細部に一切言及していませんが、イスラエル空軍はイスラエル領空内で同空軍F-35I型2機がB-52をエスコート飛行したとTwitterで発表し、サウジアラビアも同じくTwitterで各2機のF-15とTyphoon戦闘機がサウジ上空でB-52と共に飛行する写真を公表しています

B-52 Saudi11.jpg中東でも定期的になりつつある米空軍大型爆撃機による「BTF」飛行ですが、今回は米国とサウジ情報機関がイランによるサウジ攻撃計画の可能性をつかんでいるとのメディア報道が出たばかりのタイミングであり、注目を集めています

4月にB-52による中東「BTF」飛行をご紹介した際は、9か国が戦闘機で護衛したと表明していますが、今回はそれを上回った可能性もあり、ウクライナ情勢や中国情勢に隠れて日本で話題にならない中東情勢ですが、アラブ中東諸国のイランとイラン親派組織への警戒感は相当に高まっているものと推測されます

B-52 F-35I.jpgまた、2020年9月に成立した「アブラハム合意」(イスラエルとUAE&バーレーンの国交樹立)を受け、イスラエルとアラブ諸国との壁が急速に低下し、対イラン姿勢で協力気運が少しづつ高まる方向に変化がないことも伺えます

日本で報道を見る限り、米国とサウジの関係は、人権重視のバイデン政権と原油高を支えるサウジの姿勢もあり停滞もしくは悪化方向との印象ですが、サウジ国防省がSNSで大々的に米空軍爆撃機とサウジ戦闘機の編隊飛行写真をアピールし、「両国軍の協力は地域の安定と安全保障に貢献する」との声明を出す辺りは、「底堅い両国関係」を伺わせます

B-52 Israel F-35.jpg10日のB-52周回飛行に先立ち、11月7日までの約1週間、米国とサウジは「Nautical Defender」との海軍演習を英国も交えてアラビア海で実施しており、まさに西側とサウジの軍事協力を11月に入って強力にイランや世界に向け発信している状況です。
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イスラエル軍の護衛飛行ツイッター発表
→ https://twitter.com/idf/status/1590739568797835264?s=61&t=G4ZZEsquqC2rIgO2xopxAw

サウジ軍の護衛飛行ツイッター発表
→ https://twitter.com/modgovksa/status/1591736910908723201?s=61&t=G4ZZEsquqC2rIgO2xopxAw

世界は動いています。日本のTVや日本語報道を見ていると、頭が世界から遠ざかっていきますよ・・・皆様、ご注意を!

B-52による中東関係国と連携した示威飛行
「4月9か国戦闘機とアラビア半島周回」→https://holylandtokyo.com/2022/04/06/3105/

アブラハム合意の関連記事
「イスラエルが欧州軍から中央軍管轄に」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-01-16
「イスラエルがUAEへのF-35に事実上合意」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-10-26

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嘉手納からの米空軍F-15撤退を軍事的合理性から考える [安全保障全般]

11月4日と5日に、嘉手納基地へ計8機のF-22戦闘機がアラスカの米空軍基地から展開しました。 今回のローテーション派遣の期間は不明ですが、稼働率5割(2021年度実績)で米軍戦闘機最低のF-22の今後の活動に注目!
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日本の有識者の皆さんの楽観論にあえて言う
米軍は嘉手納基地に有事期待していない
日本はいつまで戦闘機に期待し続けるの?(ため息100回)

F-15C Kadena2.JPG11月3日付米空軍協会webは、「Air Force magazine」編集長でこの道35年の著名な航空宇宙ジャーナリストJohn A. Tirpak氏による、嘉手納F-15撤退後の穴埋め戦力に関する記事を掲載し、アラスカ配備のF-22によるローテーション派遣をとりあえず行うだろうが、その後の長期的な対応として国防省高官は、ドイツやイタリア配備の米空軍F-16を展開させる案も検討していると紹介しています

ただ、ドイツのSpangdahlem基地とイタリアのAviano基地のF-16部隊を合併し、極東アジアに移転させる「欧州F-16転用案」は2021年には存在していたものの、国際情勢を受け国防省の「米軍態勢見直し:Global Posture Review」で廃案になった経緯があり、ウクライナ危機で欧州がロシア脅威に直面する中、欧州F-16の極東への移転は感覚的に難しいだろうと示唆しています

F-15EX 4.jpgまた世間で噂の新型第4世代機F-15EXを嘉手納に展開させる案についてもTirpak氏は、導入機数が当初計画の144機から80機にまで削減され、2022年から24年まで毎年24機程度しか予算要求されず、米本土防空用F-15C退役後を支えるのに精いっぱいだろうから、短期的なローテーション派遣がないことはないだろうが、嘉手納への恒常的な展開は考えにくいとコメントしています

更にTirpak氏は、米空軍報道官の「米空軍は嘉手納F-15の穴埋め(backfill)の責任を負っているが、計画についてはコメントしないし、戦力の展開計画についても、機体が展開先に到着するまで触れないのが米空軍のスタンスだ」との発言に合わせ、「他軍種の戦闘機を嘉手納F-15の補填にすることはない」との公式発言を伝えています

F-16 Spangdahlem2.jpgそして記事はDavid A. Deptula米空軍協会ミッチェル研究所長による本件に関する以下のコメントを取り上げ・・・

「これは米空軍が予算不足で国家安全保障戦略や国家防衛戦略を適切に遂行できない状態にあることを示す兆候だ。前方展開戦力は両戦略の基礎だが、戦力が無ければ実行できないのだ」、「状況は悪化する。米空軍は2027年までに数百機から千機を退役させようとしている(240機F-15、120機F-16、70機A-10など)」

F-22 iwakuni2.jpg更に「嘉手納は対中国有事の際、疑いなく数百の中国軍の精密誘導ミサイル攻撃を受けるので、嘉手納基地の航空機は危機が迫れば他基地に避難する可能性が高いが、前方プレゼンス維持、同盟国への関与維持、ISR活動の必要性等から嘉手納を捨てることはないだろうが・・」・・・を紹介しています

また併せて記事は、地上移動目標を探知追尾する専門機E-8C Joint STARSが9月に嘉手納から撤退し、この後継機に相当する機体の配備予定はないとも伝え、嘉手納F-15の段階的撤退に関し、米議員が特別ブリーフィングを米空軍に求めていると伝えています
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Hinote2.jpgF-22に期待する声もありますが、所詮平時のプレゼンスであり、稼働率が米空軍戦闘機の中でずば抜けて低い5割程度で、2030年頃から退役が始まる維持運用が難しい機体です。米空軍司令部Hinote計画部長の言葉(2021年5月)を借りれば「F-22は1991年に開発が始まった機体で、中国脅威から台湾や日本やフィリピン等を守るには適切な装備ではなくなるだろう」とのアセットです

前述のようにF-16にもF-15EXにも期待できませんし、F-35は噂にもならない点からすると、性能等が中国に知られないよう、米空軍は中国正面に平時から置きたくないのかもしれません

Brown2.jpgDeptulaミッチェル研究所長の言葉を引用するまでもなく、嘉手納航空戦力は危機が迫れば、座して死を待つことなく、遠方に退避します。沖縄より中国から遠いグアム配備戦力でも、サイパンやテニアンや南洋諸島の島自前へ避難し、そこからの「分散運用」を追求します。これが米空軍が全世界で取り組むACE(agile combat employment)構想で、太平洋空軍司令官から現在の空軍参謀総長に就任したBrown大将の信念です

中国正面の第一列島線上はもちろんのこと、第2列島線上の航空基地も有事には破壊される恐れが高いことから、米空軍は次世代の戦闘機検討で発想の大転換を迫られています。

Holmes3.jpg例えば2021年2月27日に米空軍主要幹部や軍需産業関係者を前に、米空軍戦闘機族のボスである空軍戦闘コマンド司令官Mike Holmes大将は、「今現在の戦闘機に関する考え方は、例えば航続距離、搭載兵器、展開距離などについては、欧州線域ではそのまま将来も通用するが、太平洋線域では距離の問題が克服できない」と課題の本質に触れ、

「太平洋戦域では、次世代制空機(NGAD)検討において従来の戦闘機のような装備のニーズは必ずしも生まれない。距離と搭載量のトレードオフを迫るような機体は求められない」と明確に述べています。
 
Kadena AFB.jpg米軍や米空軍は、同盟国日本への配慮から嘉手納の脆弱性や嘉手納の有事の役割減少について対外的には発言しませんが、嘉手納基地から有事に戦闘機や作戦機が発進するイメージなど持ち合わせていません。

日本の防衛省や航空自衛隊幹部はこのことを明確に認識しているはずです。恐らく日米で実施するウォーゲームや机上演習で、その現実を以前から突き付けられているはずです

Gates5.jpg2009年1&2月号のForeign Affairs誌に掲載された「A Balanced Strategy」との論文で、当時のゲーツ国防長官は、中国やロシアや新興脅威国の台頭を念頭に「足の短い戦闘機の役割は小さくなる」喝破しました。そしてそのころからチマチマと「戦闘機命派」を批判してきたのですが、力及ばず今日に至るまんぐーすです。

10年前からチマチマ訴えてきたのですが・・・
「脅威の変化を語らせて下さい」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2012-10-08
「中国軍事脅威の本質を考えよう」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2012-12-30

米空軍の戦闘機構成検討関連
「近未来の米空軍戦闘機構想」→https://holylandtokyo.com/2021/05/21/1709/
「戦闘機は7機種から4機種へ」→https://holylandtokyo.com/2021/05/18/1496/
「戦闘機混合比や5世代マイナス機検討」→https://holylandtokyo.com/2021/02/22/266/
「米空軍戦闘機の稼働率2021年」→https://holylandtokyo.com/2021/12/07/2465/

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米軍人の外国政府ポストへの再就職 [安全保障全般]

豪州政府から年収10億円越えオファーの例も
2015年以降、約500名がコンサルタント等で

military consulting.jpg10月18日付ワシントンポスト紙が、退役米軍人の外国政府機関等への再就職状況について報じ、法律に基づき米議会の許可を得て仕事を得たものが2015年以降で約500名にのぼり、億を超える高額報酬のケースもあるほか、人権上の問題から問題視されることが多いサウジなど中東やアフリカ諸国に集中していると紹介しています

「Emoluments Clause Restrictions」との米国規定によると、20年以上の米軍勤務経験者(年金受給資格者)は、米議会の承認なしに外国政府からポストや仕事やコンサルタント業務を請け負ってはならないことになっていますが、2015年以降で申請した約500名の95%が承認を得て外国政府等のために働いているとのことです。なお本規定違反の罰則は定められていません

military consulting2.jpgWP紙は、米軍大将の基本給年額の最高額が2800万円弱なのに対し、豪州政府から退役海軍幹部に年俸14億円越えのオファーがあったとか、アゼルバイジャンから米空軍退役将官に日当70万円オファーの例を上げているほか、反政府ジャーナリストが皇太子の指示で殺害されたと非難されているサウジアラビア国防省にも、少なくとも15名の退役米軍将軍が採用されていると報じており、年俸3500万円程度とも伝えています

2つの軍事コンサルタント会社を経営するオバマ政権時の国家安全保障担当大統領補佐官を務めたJames L. Jones退役海兵隊大将はWP紙のインタビューに応え、サウジ政府と4つの契約を結んでおり、計53名の米国人をリアドに派遣していると述べ、8名は元米軍将官で、32名は下位階級の退役軍人だと説明しています。

Jones2.jpgそしてJones氏は、「誰も我々に、サウジからの撤退を考えるべきだと忠告する者はいない」、「我々が撤退したら、後はどうなると思う? 中国やロシアにサウジ政府がなびく可能性が考えられるが、それが良いことだと思わない」と語っています

ただ、Jones退役大将のコンサル会社からサウジに派遣されているCharles Wald退役空軍大将はWP紙に対し、「(反政府ジャーナリスト殺害後、)サウジから撤退すべきではないかとの議論が社内で巻き起こった。自問自答し、サウジ政府支援を続けるべきか考え、留まることを決定した」と葛藤があったと語っています
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Flynn2.jpg20年以上勤務の退役軍人が外国から金品を受け取って罰せられたケースでは、トランプ政権時の安全保障担当大統領補佐官であったMichael Flynn退役陸軍中将が、退役1年後の2015年にロシアとトルコ筋から6000万円を受け取った件で、FBI捜査に虚偽証言をしたと有罪判決を受けた例があります

Jones将軍の「我々が去れば、中国やロシアが来るだけ」との言葉が言い表しているように、報酬の高低だけがメディアやSNS上で話題になって済む話ではないと思います。

現役時代に知り得た米軍の秘密情報を提供する行為は戒められるべきですが、現役ができない必要な支援を外国に提供することは、OBの役割として期待してよいのではと思います

全く別の視点ですが
「米軍退役軍人の1/3が警察や刑務所のお世話になる現実」→https://holylandtokyo.com/2022/08/31/3597/

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安価なイラン製自爆無人機がウクライナで猛威 [安全保障全般]

【21日、追加情報】
米国政府がクリミアでのイラン人運用支援を強く批判

10月20日、ホワイトハウスのKirby報道担当補佐官が、当初ロシア兵による「SHAHED-136」操作が失敗したことを受け、イラン人支援要員がクリミア半島に入って、ロシア軍を支援していると厳しく非難

将来、イラン製地対地ミサイルの導入可能性も示唆し、イランの支援を否定するロシアとイラン側の主張を真っ向から否定
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「貧者の巡航ミサイル」と呼ばれる安価兵器が「ウ」に打撃
目標到達率5割程度もソフト目標に威力発揮
士気や市民生活への影響大で懸念広がる

SHAHED-136.jpg10月18日付Military.comが、9月下旬からロシアがウクライナ攻撃に投入開始したイラン製自爆攻撃無人機「SHAHED-136」の概要と効果について取り上げ、単純構造で安価で破壊力も突破力も限定的な兵器ながら、対処の難しさから大量投入で社会インフラや防御の薄い軍事目標攻撃に成果を上げ、停電など市民生活に影響を与えるなど恐怖感を与えるテロ兵器として猛威を振るっていると報じています

小型無人機の脅威や対処法検討について、これまでも様々にご紹介してきましたが、分かり易い形で表面化してしまった「貧者の巡航ミサイル」とも呼ばれる自爆型無人機の脅威を、どの程度の数量が使用されたのかなど細かな部分は不明な点も多いのですが、本事例から考えたるべくご紹介いたします。

イラン製自爆攻撃無人機「SHAHED-136」の概要
SHAHED-136 3.jpg●長さ380㎝、幅250㎝、重量200㎏で、5~40㎏の弾頭を搭載でき、プロペラ推進の速度185㎞/hで射程距離は1000㎞と言われている。
●プリプログラムされた目標位置にGPS利用で自力進出し、搭載カメラで目標を確認した後、地上からの無線指令で最終的に目標に突入する運用の模様

●「無人機の群れ」として飛行する高度な無人機間の連携能力はなく、単に同時複数発射で敵防空網を飽和させる運用が主流
●価格は1発300万円以下で、代表的なロシア軍巡航ミサイル「Kalibr」(弾頭480㎏)の1発約1億4000万円と比較すると極めて安価。

米やウクライナ専門家の見方
SHAHED-136 5.jpg●射程は1000㎞以上と言われるものの、通信覆域が限られ通信妨害に脆弱であることから、ロシア軍はより目標に近い場所の車両搭載発射機から射出して使用している
●低空を飛翔するため、防空レーダーや対空ミサイルでの対処が困難だが、騒音が大きく低速であるため、例えば10月10日の攻撃では、発射された75発の内、55%に当たる41発がウクライナ側により撃墜されている

●ロシアは「SHAHED-136」の被撃墜率が高いことを考慮し、防空カバーの弱い軍事目標や社会インフラ(発電所など)を攻撃目標にしており、首都キーウで停電が発生するなどウクライナ国民の「士気をくじく」「不安をあおる」点で特に効果を上げている。軍事的な影響については良くわからない
SHAHED-136 4.jpg●ウクライナ側は迎撃兵器として米国に対し、米海軍艦艇が自己防御用に搭載しているレーダーと機関砲を組み合わせた防空システム「ファランクス」を要望している模様

●ウクライナ国防省は、露が既に精密誘導兵器をほとんど打ち尽くしており、ロシアが今後、このような外国製無人攻撃機に依存する可能性を示唆している。
●ただし、安価ながらイランからの輸送費用や、制裁下にあるイランが「SHAHED-136」に使用する搭載カメラなどの部品の質が低く、ロシア側で交換して使用しているとの話もある。
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イラン製のSHAHED-136解説映像(約6分:90秒から性能解説)


ゼレンスキー大統領は「昼夜を分かたぬ市民へのテロ攻撃をロシアは行っている」と国際社会に訴えていますが、ウクライナの国立戦略研究所のBielieskov氏は「対処法をわきまえた前線部隊は半数以上を迎撃しているため、ロシア側は一般市民を目標にしている」と非難しつつ、「この攻撃が増加しても、ウクライナの前線での攻勢を覆すことはできないだろう」とコメントしています

SHAHED-136 2.jpg攻撃を受けているウクライナ国民の苦悩から目を背けるわけにはいきませんが、自爆型無人機による一般市民や社会インフラに対する攻撃が大規模にメディアで報じられ、軍事作戦を大きく変えそうなこの無人機兵器の恐ろしさが認識される一つの機会だと考えます

自国製巡航ミサイル等が「底をつく」状態にあるらしいロシアが、経済制裁下のイランからどの程度この種の兵器を導入できるのか不明ですが、注目したいと思います

無人機対処にレーザーや電磁波
「対処用のエネルギー兵器動向」→https://holylandtokyo.com/2022/07/14/3432/
「JCOが小型無人機対処3機種吟味」→https://holylandtokyo.com/2022/05/17/3233/
「2回目:安価で携帯可能な兵器試験」→https://holylandtokyo.com/2021/10/08/2280/
「カタール配備のC-UASと陸軍のIFPC」→https://holylandtokyo.com/2021/06/02/1708/
「1回目:副次的被害小な兵器試験」→https://holylandtokyo.com/2021/04/19/110/
「国防省が小型無人機対処戦略発表」→https://holylandtokyo.com/2021/01/12/295/
「小型ドローン対策に最新技術情報収集」→https://holylandtokyo.com/2020/10/30/445/
「米海兵隊の非公式マニュアル」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-07-31
「ドローン対処を3-5種類に絞り込む」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-12-14

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米軍喫緊の課題:弾薬確保を産業基盤育成から [安全保障全般]

退役軍人研究者が心もとない現状を取り上げ
政府・議会・米軍・同盟国を含めた対応を訴え
ウへ提供の対戦車ミサイルは米軍保有の半分以上で補填に12年

SM-6 4.jpg10月12日付Defense-Newsが、元太平洋軍作戦部長(J3:2017年退役海軍少将)とシンクタンク研究者(陸軍士官学校助教授:元Black Hawkパイロット)による寄稿を掲載し、米国は同盟国とも協力して、早急に弾薬の製造産業基盤の育成や備蓄量増に取り掛かるべきだとの訴えを紹介しています

LRASM-B1-2.jpgこのお二人の寄稿は今年3月、「ウクライナ事案に学ぶ台湾事案への教訓9つ」とのタイトルのものを一度取り上げていますが、その中でも一番に訴えていたのが「対艦ミサイルLRASM発射母機と同ミサイルを多数準備せよ」で、今回の寄稿にも通じるものがあります

中身は、ウクライナ支援で露呈した米軍の関連弾薬や兵器の備蓄量や製造基盤の弱体振りや、対中国でカギになる対艦ミサイルが同様の問題を抱えていることを紹介し、政府・議会・同盟国も巻き込んだ産業基盤政策と弾薬調達予算が急務だとの訴えです。特に備蓄量や製造能力に一部具体的数字が出ており、興味深いのでご紹介します

2名による寄稿の概要は・・・
Bowman3.jpg●長年にわたり、米国防省と米議会は米国の弾薬製造基盤と調達数の問題を無視し続けてきた。航空機や艦艇や戦闘車両を重視し、弾薬については余った予算枠で調達するような状態を続け、結果として弾薬製造企業が最低限生存できる程度の調達を細々と続けてきたのが実態である
●そして今、我々はウクライナの現状や台湾に迫る危機に直面する中で、この弾薬問題をこれ以上放置することができないぎりぎりのタイミングにある

事例で見る現在の弾薬製造能力
montgomery.jpg●このような弾薬問題は、例えばウクライナ支援でもクローズアップされることになった。約8500発のJavelin対戦車ミサイルをこれまでに提供しているが、これは米軍が保有する同ミサイル約15000発の半分以上に相当する。また同ミサイルの最大製造能力が年675発であることから、ウクライナ提供分の補填には今後12年を要するのが実態である
●この事態を受け、国防省と議会は遅ればせながら動き始め、関連軍需産業は同ミサイルの製造能力を2倍にしようと検討を始めているが、実際に動き始めてから製造能力拡大が完成するまで2-3年は必要である

●また台湾への中国侵攻リスクが高まる中、世界最大規模の中国艦艇部隊への抑止と対処が重要となるが、このための主要兵器となる対艦ミサイルが大きく不足している
Javelin FMG-148.jpg●例えば、代表的な空対艦ミサイルLRASM(Long Range Anti-Ship Missile、海空軍機に搭載可)は、最近のシミュレーションでは800-1200発必要とされているが、現実には200発しか保有していないし、毎年の調達数はここ数年僅か38発でしかない。

●国防省は2023年度予算要求で年88発を要求しているが、このペースが守られても、1000発確保するのに2032年までかかることになり、中国による台湾危機への対処準備の重要性が叫ばれる中、現実との乖離があまりにも著しい

解決への方向性
LRASM4.jpg●このような状態への解決策は、政治的な意思次第で極めてシンプルであり、まず米議会が現在の最大弾薬製造能力分を調達可能な予算を配分し、次のステップとして最大製造能力を拡大できるように更に予算を拡大させていく事である
●この過程で議会は、弾薬に関する複数年購入合意を可能にし、関連軍需産業が将来を見通して製造現場の専門作業者や技術者を確保&養成できる態勢の基礎づくりを支援すべきである

●米国政府は国内政策に加え、同盟国に働きかけ、米国の製造能力拡充に合わせて、米軍や米国納税者の負担を軽減するため、同盟国へのカギとなる弾薬売却を推進すべきである。豪州・日本・英国などはLRASMやSM-6などの将来調達数をレビューすべきである
●この過程で、同盟国との弾薬の共同生産合意も追求すべきである。多国間の協力体制で可能な、より大きな製造能力を年月をかけて構築することで、より抑止力の高い一体となった軍事力を構成可能となる
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Gates Nato.jpgこの問題は米国に限らず、欧州でも日本でも同じだと思います。かつてリビア支援作戦を米国が欧州に委ねたところ、僅かな期間で欧州諸国の弾薬が底をつき、米国に泣きついた事例があり、当時のゲーツ国防長官が激怒したり、「戦闘機ばかりに投資しないで、弾薬のことも考えろ」と国際問題担当次官補が怒りをあらわにする場面があったりですから・・・

欧州やアジアの同盟国を叱る
「同盟国等へ:米軍の弾薬を今後頼りにするな」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2016-11-21-1
「警告する、NATOの2極化を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-06-12

日本も決して例外ではありませんし、豪州や英国と並んで、名指しで協力しろと言われていますので、早めに対処が必要だと思います。老婆心ながら・・・

統合作戦準備が進まず
「大平洋軍や米軍の統合運用進まず」→https://holylandtokyo.com/2022/07/06/3396/
「ウクライナ事案に学ぶ台湾事案への教訓9つ」→https://holylandtokyo.com/2022/03/15/2806/

応援お願いします!ブログ「東京の郊外より」支援の会
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https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-04-16-1

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バイデン政権が国家安全保障戦略NSSを発表 [安全保障全般]

2020年代を将来を左右する「decisive decade」と表現
2021年春の暫定版からロシアによる「ウ」侵略で修正

2022 NSS.jpg10月12日、バイデン政権が政権誕生2年目で「国家安全保障戦略:NSS:National Security Strategy」の「公開版」(約48ページ)を発表し、昨年春の暫定版から、ロシアのウクライナ侵略を阻止できなかった反省を踏まえた修正を行い、改めて攻勢的で経済力をつけた中国や、危険なロシアと対峙するため、米国民に投資し、同盟国と共に民主主義と自由市場を守っていく姿勢を示しました

また発表されたNSSは、その下部文書となる「NDS:National Defense Strategy」、「NPR:Nuclear Posture Review」、「MDR:Missile Defense Review」もまもなく発表されることを示すものと理解されています。

2022 NSS.jpgNSSは「国家安全保障」に関する文書でそのカバーする範囲は広く、中国やロシア問題を中心として、北極や南極を含む世界全体への姿勢、宇宙やサイバーへの姿勢、更に漁業問題などにも及んでおり、公開版48ページを紹介するのは至難の業ですが、12日付米空軍協会web記事を参考に、「限定的でいい加減なつまみ食い」紹介をさせていただきます

ロシア関連
●ロシアは、無謀なウクライナ侵攻により、中国やインドや日本と比較したステータスを減少させ、外交的な影響力を衰退させ、エネルギーの兵器化で自身に火をつけている。またウクライナ侵略でロシア軍は兵士と装備に大きな犠牲を出して弱体化し、ますます核兵器への依存度を増すことになろう。しかし米国は、ロシアを含むいかなる国も、核兵器の恫喝や使用で目的を達成させない

Sullivan WH.jpg(なお、NSS発表会見でJake Sullivan安全保障担当大統領補佐官は、トランプ政権時代からカギとなる変化として、国家戦略における核兵器の役割を減少させていく事を、NSS暫定版に続き継承していく事を強調しています)

●米国は同盟国等と共に、ロシアによるウクライナ侵略を戦略的に失敗させるため、軍需民需両方の経済面で締め上げ、ロシアによる多国主権の侵害や多国間体制の弱体化を阻止する。また欧州諸国の、エネルギー面でのロシア離れを支援する
●今後のウクライナ情勢により米国の政策は変化の可能性があるが、米国は引き続きウクライナのEU加盟を支持する(ただし、NATOへの加盟については言及せず)
●ロシアが再び、建設的な役割を担って主要な大国として国際舞台に立てるかは、ロシア国民自らが決断しなければならない

中国関連
2022 NSS2.jpg●中国は世界で唯一、世界秩序を再編する意図と、それを成し遂げる潜在的な経済力と軍事力を備えた国家であり、米国は対抗して米国内の革新や競争力強化や強靭性強化に投資し、併せて同盟国等との結束を強化しなければならない
●中国対処を考える時、我々は「inflection point」に立っており、時間こそがカギである。今後10年間が「decisive decade」で、我々の選択や対策の優先度設定が、長期的な将来に渡る我が国の競争力を決定づけることになろう

●米国は、信頼できる戦いうる米軍を構築すべく投資優先を的確にし、アジア太平洋地域の同盟国等への中国の侵略を抑止し、同盟国等の自国防衛能力強化を支援していく
●米国は、台湾海峡の平和と安定維持にコミットし、如何なる一方的な現状変更にも反対し、台湾に対する嫌がらせ(coerce)や武力行使に対する台湾の防衛能力強化を支援していく事にコミットする

その他の地域や分野について
Sullivan WH2.jpg●近年ロシアとの接近傾向が見られたトルコと、NATOや西側諸国との関係強化に取り組んでいく
●中東への姿勢はほとんど変化なく、アラブ諸国にイスラエルとの関係正常化を働きかける

●北極圏での中国とロシアのプレゼンス強化傾向にはあまり危機感を強調せず、「必要に応じ」プレゼンスを強化し、不必要なエスカレーションを防止する
●中国やロシアやイランによる、南アメリカ諸国への嫌がらせに対して対抗していく

●環境保護を支援し、国際法や国際規範を顧みない自然環境への破壊的な遠洋漁業の撲滅を図る。また南極を平穏で科学的な保護された大陸として維持する
///////////////////////////////////////////////

Sullivan WH3.jpg様々に報道され、専門家の方の分析が日本のメディアにも出ると思いますので、ご関心の分野にご注目ください

原文は、グラフや図や写真の全くない48ページの文書ですが、のぞいてみてください

ホワイトハウスのNSS紹介Webページ
https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2022/10/12/fact-sheet-the-biden-harris-administrations-national-security-strategy/

NSS現物へのリンク(48ページ)
https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2022/10/Biden-Harris-Administrations-National-Security-Strategy-10.2022.pdf

トランプ政権での国家安全保障戦略NSSと関連文書
「国家安全保障政策を概観」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-12-23-1 
「NDS:国家防衛戦略」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2018-01-20
「リーク版NPR」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-01-13

応援お願いします!ブログ「東京の郊外より」支援の会
https://community.camp-fire.jp/projects/view/258997

ブログサポーターご紹介ページ
https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-04-16-1

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