SSブログ

中国軍事脅威の本質を:防衛大綱見直しに備え、エアシーバトルの背景を [Air-Sea Battle Concept]

安倍新政権が「防衛計画の大綱」や「中期防衛力整備計画」の見直しを早々に打ち出しました。

CSBA2ndjasbc.jpgそこで、もう一度日本が置かれている戦略的環境を見つめ直すため取り上げるのが2010年5月にシンクタンクCSBAが発表したレポートAirSea Battle: A Point of Departure Operational Concept」です(説明スライドも)。

元旦に、退役海軍大将による小論「エアシーバトルの実行」を取り上げてご説明しましたが、やっぱり物足りないと思うので、「元祖」に登場していただきます

中国の軍事脅威に関するさまざまな見方が提示されていますが、最も的確に判りやすく、シナリオ風に表現しているのがこのレポートだと思うので、昨年の年初に続き、しつこく取り上げます。
日本が何をすべきかを考える資としていただければ・・・
////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

中国正面の米軍の状況
DF-21-1.jpg中国正面の米軍の特徴は、防御が弱い同盟国の基地や防御が不十分な少数の前方展開基地に依存している点である。これらの基地は全て中国兵器の射程内にある後方補給面では、米本土から遠く、かつグアム島など少数の補給施設に依存する難しい環境に置かれている。
反面中国は、例えば膨大な飛行場と弾道ミサイルを移動できる広大な国土を持っている。
●よって、湾岸戦争に代表される米軍の過去のパワープロジェクションの前提であった、危機に際して迅速に必要な戦力を前方展開基地に展開し、近傍に兵站補給のための兵站の聖域(攻撃を受けない地域)を設置することができない

中国の戦い方
cyberwar.jpg中国の軍事論文や最近の中国軍研究によると、中国の接近拒否能力は、米軍が当然のように享受してきた従来のパワープロジェクションを無効化する。紛争時中国は、大規模な先制攻撃により短時間で米軍の基盤となる基地や部隊、指揮統制ネットワーク、補給ルートに大きな被害を与えることを狙っている。
具体的に中国の先制攻撃は、以下のような行動を伴う。
---開戦直後に中国は、エネルギー兵器、対衛星兵器、妨害電波及びサイバー攻撃等を併用し、米国の衛星(ISR、通信、赤外線)の無効化を行う。
---弾道ミサイルの連続同時発射攻撃と地上発射巡航ミサイルによる攻撃、更に航空機攻撃も併用し、米と日本の海空基地を攻撃する。アンダーセン、嘉手納、三沢、佐世保、横須賀、関連自衛隊基地、補給・燃料拠点(グアム等)等の基地が攻撃対象に含まれる。 
---対艦弾道ミサイルと対艦地上発射巡航ミサイルで、大陸から1500nm以内の米軍と同盟国艦艇を攻撃して耐えられない損害を与え、同距離内を「Keep-out zone」として米側に立ち入らせない(接近拒否戦略

米側が受ける被害
chinacyber3.jpg●仮に中国からの先制攻撃が行われれた場合、米軍の前方作戦基盤は無くなり、サイバー・宇宙・電磁パルスなどの分野でも聖域は期待できない。
サイバー戦能力については不明な部分が多いが、仮に米中双方が同等の能力を持って戦った場合、ネットワークへの依存度が高い米側が遙かに大きなダメージを受ける。典型的な例は米軍の兵站補給部門で、商用のネットワークに大きく依存する米側システムは大きな弱点を形成している。
●従来の戦いで当然のように行っていた、複雑な戦場情報ネットワークの立ち上げや衛星の回線周波数を買い占めを前提とする、大規模で継続的な海上・航空活動を遂行することは不可能となる。

これらの結果、米軍は、滑走路や燃料不足等による航空戦力運用の大幅制限、海上艦艇情報や対潜水艦情報の不足、空中給油機への過度の負担、作戦遂行物資の不足、長期を要する艦艇・潜水艦の再発信準備等の問題に直面する
●米軍は作戦地域へのアクセスを拒否され、作戦の主導権を失い、主導権を回復する足場をも失いかねない状況に至る。

せめてもの備え
CHAMP2.jpgC2やISRアセットへの被害を予期し、衛星が使用不能な場合に備え、空中中継機や空中ISRアセットを準備する必要がある。しかし同時に、能力が限られる空中アセットでの運用に備え、情報入手や回線使用の優先順位について、事前に全軍レベルや国家及び同盟国レベルで検討しておく必要がある
基地や施設の抗たん性強化は高価であり、またそれのみでは前線基地基盤を維持することは難しいため、次回に述べる中国ISRや宇宙アセットの無力化・盲目化等の施策と併せて総合的に対処策を考慮すべきである。
///////////////////////////////////////////

A2AD阻止の鍵「盲目化」作戦
PLA.jpg中国は、接近する敵を遠方で発見・識別・攻撃することで拒否戦略を成立させており、ISRシステムが中国のアキレス腱となる。逆に、米国にとってもISRが重要であり同時に弱点であるから、双方が相手を「盲目化」させる事を追求する。
●一朝有事に相手を盲目化させるための「偵察競争」は既に平時から始まっている。サイバー、宇宙、水中領域においても同様である。

●中国を盲目化することにより、中国の攻撃精度・能力が低下し、更に戦果確認能力も低下することから中国は余分な弾道ミサイルの使用を余儀なくされる。特に水上目標の位置評定は中国にとって難しい課題であり、盲目化は我への脅威減殺に重要である。
●米側にとって盲目化の重要目標は中国の宇宙関連システムである。中国の軌道上アセットへの攻撃や中国の衛星攻撃能力の破壊が重要である。

●宇宙目標以外では、中国の長距離攻撃を可能にする陸上設置の海洋監視OTHレーダーやISR関連中継施設が重要攻撃目標になる。
●また、中国軍が導入を計画している高々度長期在空無人機は宇宙アセットのISR能力を補完する装備として注意が必要である。

中国の弾道ミサイル対応
DF-21-1.jpg●盲目化で既に触れた対処以外では、空海軍のステルス長距離攻撃機と潜水艦発射兵器で中国防空システムを攻撃し、スタンドオフ電子攻撃兵器で弱体化させ、通過可能なコリドーを切り開いて弾道ミサイル攻撃パッケージを投入が鍵となる。
●この際、スタンドオフ兵器で固定ミサイルを攻撃し、有人無人の長期在空ステルス機で移動目標を破壊する。

中国海軍への対応
●情勢が緊迫し中国の先制攻撃の可能性が高まった時点で、日本にある海軍イージス艦は事前指定のBMD配備に就き、空母は中国の脅威レンジ以遠に移動する。
潜水艦は前進配備し、同盟国の潜水艦とASW(対潜水艦作戦)を第1列島線内で実施。巡航ミサイル潜水艦や攻撃潜水艦、同盟国潜水艦は大陸沿岸エリアでISRや攻撃(SEAD)任務に備える。
●紛争開始後、友軍潜水艦群の総合能力を考えれば、あまり中国艦艇への攻撃は期待出来ない。そこでASBでは航空機による艦艇攻撃に依存する。

●防空システムが強固な艦艇には空中発射巡航ミサイルが必要だが、中国艦艇自身の対空防御力は限定的であるため安価な兵器で対応できる。米海軍の航空攻撃アセットは、開発中の無人艦載機ステルス機N-UCASを除き足が短く空軍の戦闘機やUAVは、搭載量が少なく他の任務もある
●そこで、対空脅威がない前提で、在空時間が長く武器搭載量が多い空軍爆撃機に対応させる手法もある

中国潜水艦への対応
ChinaSB.jpg●まず第一列島線の東側の中国潜水艦排除に努める。次に、米と同盟国による「琉球バリア(第一列島線のラインをイメージ)」を通過する中国潜水艦を捕捉して対処する。
中国潜水艦は長期活動能力が低いため、母基地へ頻繁に帰投する必要があることからこの作戦が有効であろう。
●なおこの琉球バリア形成には、海上自衛隊の対潜水艦作戦能力が極めて重要な役割を担う。また米空軍ステルス爆撃機による潜水艦基地周辺への機雷投下や攻撃も有効。その他、水中無人システムとして開発中のUUVや移動型機雷なども有効

戦闘空域での航空優勢の確保
嘉手納、グアム、マリアナ諸島の米空軍基地や自衛隊の基地に被害が出た場合、東日本の基地へ米空軍戦闘機とミサイル防衛部隊の増強を送り込み、中国軍対処を支援する。これにより日本国内の目標防護と日本の防衛意志を強固にする
●米戦闘機等を早期に日本に増強すれば、それだけ中国側の損耗を増加でき、日米のBMD用ミサイルを防空に使用せずミサイル防衛に使用できる。

西日本から琉球列島にかけては、特に中国の弾道ミサイルや航空攻撃を受け脆弱なので、米日の大部分の戦闘機等は東日本から長距離運用を行う。
ChinaAF.jpg●航空優勢を東シナ海から琉球列島まで拡大し、琉球列島にある幾つかの滑走路を使用できれば、中国軍機を損耗させ、我のISRアセットの運用が容易になる。
●航空優勢拡大により、我の海上戦力による地上目標攻撃や突破型作戦の支援も容易になる。

その他のアセットや抗たん化
●確実な我の攻撃戦果確認や追加攻撃のため、ステルス長距離ISR攻撃機は高価であるが有効であり、また中国に対応策のための出費を強要する意味でも重要である。
テニアン、サイパン、パラオの空港施設は改造すべき。陸海空軍が合同で定期的にBMD訓練を実施すべきであり、日本との訓練も増やすべきであろう。

陸軍や海兵隊の役割
●地理的環境からも能力上も、米国は中国大陸で大規模な陸上作戦を行う意図はなく西太平洋地域は主に空軍と海軍の活動する戦域である
////////////////////////////////////////////////

このCSBAのレポートを議論すると、必ず出てくるのが「それじゃあ、なぜ日本に戦闘機を売り込むのか?」との疑問です。つまり、同レポートの航空優勢確保に関する具体的提案、つまり「日本の第4世代戦闘機を増やし、5世代戦闘機を提供する」の部分(今回は未紹介の部分)に関する疑問です。

CSBA LRS UCAS.JPG少なからず心ある者は「これだけ丁寧にかつ正直に各種ミサイルの脅威を認識していながら、脆弱な飛行場と多くの関連システムに依存する戦闘機への投資を日本に迫るのか」との純粋な疑問を持ちます

共に議論をした方やメールをいただく皆さんのご意見を総合すると、CSBAが軍需産業からの研究資金提供を受けているから、又は自国軍需産業保護を「影の」目標に置いているから、との結論です
まんぐーすも全く同感です

新政権の皆さんや防衛省の皆様には、このあたりを十分注意していただき、「防衛計画の大綱」や「中期防衛力整備計画」の見直しに取り組んで頂きたいものです。
「動的防衛力」の撤廃はもちろんのこと、専守防衛や大綱別表の作戦機数(戦闘機等の機数)に踏み込まないと、何にも替わりません。
////////////////////////////////////////////////

最後に外野の声も

中国国防省の副局長が日本にアドバイス
日本は中国のミサイルの脅威を考慮しないのだろうか。局地戦が発生して両国の艦艇や戦闘機が出動する前に、中国側がミサイルで先制攻撃するかもしれないのに
http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-10-29 そのとおりだと思う

海軍情報部長など米軍高官も
●J-20は中国の装備開発が想像以上に進んでいることを示した。しかし空母と共に、それらを運用するにはまだまだ長期間を要するだろう。それよりも我々は、中国のサイバー戦や宇宙関連技術等(の非対称な能力)を警戒している
「海軍高官の懸念」→http://www.afpbb.com/article/politics/2781770/6633582
「空軍へ最後通牒」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2009-09-17

「脅威の変化を語らせて」
http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2012-10-08

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0