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米国のTPP離脱を安全保障関係者が嘆く [安全保障全般]

Reagan National.jpgレーガン財団が主催した「Reagan National Defense Forum」の議論から、対中国を念頭に置いたアジアでの安全保障枠組みの議論をご紹介し、NATO的な枠組み形成が難しい中で対応を模索しつつ、米国のTPP離脱を米国内外の安保関係識者が嘆く様子をご紹介します。

ハリス太平洋軍司令官はアジアではNATOの様な枠組みは成立しえないので柔軟な関係国協力が重要だと主張し、シンガポール国防相は軍事力の限界に言及して米国のTPP離脱を嘆き共和党系シンクタンクAEIのオースリン氏は日本等との協力強化を訴えつつ、貿易協定の重要性を中国経済下降も見据えた対応準備の必要性も絡めて説いています

3名の立場やいい振りは異なるモノの、主張を単純化すると、NATOのような枠組み構築が難しいアジアでは、軍事以外の多様な手段で対中国に備えるべきであり、TPPはその重要な手段であり、中国の増長と急降下の両方に備える意味で重要なのに・・・と嘆き節に聞こえます

ハリス大将はアジア版NATOの可能性を否定
Harris7.jpg●米国がアジアリバランスを進める過程で、人によってはNATOのような機構がアジアにも必要だと主張するが、実現可能性のある策だとは思わない
●なぜなら、NATOが形成できたのは、ソ連という明確な敵が存在し、ソ連に対抗する国が結びつく必要性が共有されていたからである。一方で、中国に対するアジア各国の思惑は国毎に複雑である

アジア各国の間には、単一のはっきりした共通の敵が存在しない中国はアジアの一部となっており、そのアジアは米国経済活動の一部であるからだ。私はアジア版NATOを想像できない
●米国防省は、アジア版NATOの代わりに、多国間の安全保障ネットワーク開拓に焦点を当て取り組んでいる。例えば、日米韓の3ヶ国軍事協力や、東南アジアの対テロ協力がこれにあたる

●更に、例え軍事同盟にならなくても、ASEANは広範な協力の枠組みを提供してくれると述べ、特に海賊対処や誘拐対処に有効だ。
●また、カーター国防長官が9月29日に言及した「リバランス第3弾」の、「地域国家によるネットワーク化された安全保障、ネットワークとネットワークの融合」「新たなレベルのパートナー関係を見いだす」につながる
トランプ新政権により修正もあろうが、このビジョンを進展させるため、2018年度予算案に数個の取り組み予算を計上している。

シンガポール国防相(Ng Eng Hen)は
Ng Eng Hen4.jpg●発展する中国の封じ込めは可能ではないし、戦略的に必要とも思わないが、米国は軍事力だけに頼って中国を封じ込めようとしても不可能だと認識すべきだ
米国は(中国以外のアジア諸国と)貿易面で発展的な関係に注力することが必要だったはずなのに、この点で米国のTPP離脱はシンガポールにとって極めて残念なことだ

●米国のアジアでのプレゼンスが軍事的になものに偏ることは構造的にもろく、TPPは確固として目に見える関与を示し、多側面でのアジアとの関係を形成する圧倒的な力となり得たのに残念な状況だ。中国は独自に多面的な関係強化を図っているのに・・・
●種々の統計資料が示すように、中国はアジアのほぼ全ての国にとって1位か2位の貿易相手国で、米中の関係も強いモノとなっており、「中国は今や、貿易、金融、安全保障面で世界システムのリーダーであると統計が示している」と結んだ

AEIのAuslin研究員は
Auslin5.jpg●(シンガポール国防相の視点を発展させ、)中国経済は今後機能不全を示すようになり、新たな地域諸国の課題となろう。地域諸国が成長する中国を課題として議論しているように、機能不全の中国問題にも直面することになる
●そして、成長する中国への諸国の懸念と対処は、機能不全中国への対処には活用できない

●近々出版の著書「The End of the Asian Century」でも述べているが、アジア版NATOはアジアには不向きである
●米国政府や太平洋コマンドはその点を良く理解し、多国間協力関係の構築に取り組み、ASEANのような枠組み活用に取り組んでいる

●更にやれることは、最初に、地域の貿易協定で遅れを取らないことの他に、日本とのような同盟関係を効果的にして利害共有のコミュニティーを構築すること
●次に、この様な地域の関係を結びつけ、東シナ海と南シナ海とインド洋を別々に扱わないことである。全ての地域を関連付け、「アジアの地中海」と捉える視点が重要
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最近、ティラーソン氏の国務長官指名を受け、米国がロシアと組んで対露包囲網をとか言われていますが、経済的に中国と強く結び付いたアジア全部を包囲する羽目になりそうな気がして心配です。

TPP-Graphic.jpgAEIのAuslin氏の発言の解釈や訳に自信がなく、TPPへの態度もはっきり表現されてはいませんが、共和党系シンクタンク所属ですのでTPPには反対なのかも知れません。

カーター国防長官はTPP協力推進派で、国防省のリバランス関連特設webページのトップに「TPPの重要性」を示す解説図(左図)を掲げるぐらいでした。
まぁ・・気持ちは分かりますが、国防省がTPPをそこまで持ち上げると、軍事面での弱点を認めることになるから控えるべきだと思いましたが、米国のTPP離脱は残念です

NATOのような枠組み構築が難しいアジアでは、軍事以外の多様な手段で対中国に備えるべきであり、猫の手でも借りるべきだと思います

トランプ政権が立ち向かう国防省の課題
「サイバー戦を巡る課題」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-14
「新政権の国防予算はF-35が鍵」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-08
「規模の増強は極めて困難」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-10

「現在の対テロ7原則を確認」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-07
「比が米軍機の利用拒否!?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-11
「北朝鮮でなく中国の問題」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-28

「新政権の国防予算はF-35が鍵」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-08
「国防省改革はどうなる?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-01
「中露を抑止するには」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-05

「F-35巡り国防省で内紛」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-09
「Mattis氏が国防長官へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-02

米軍サイバー機関の問題や対策を議論 [サイバーと宇宙]

CyberspacePolicyRe.jpg12日、サイバー戦問題を議論する会議が「軍事Communications and Electronic Association」の主催で行われ、米軍の関連現役やOBが諸問題と対処策について議論しています。

事柄の性格上、細部や具体的な事例がなく理解が難しいのですが、学際より企業との緊密な連携、組織の増強や効率性改善、装備導入手続きの迅速化・簡素化の必要性、同盟国等(特に極東の国)との連携強化の重要性等々が議論されたようです。

この会議が、米空軍幹部の発言が多くのでイベントの対象者が不明ですが、14日付米空軍協会web記事3本から、米空軍関係者の発言をつまみ食い紹介します、

官民の協力強化が必要不可欠
●米空軍のChief Information Officer(中将)は、今後効果的にサイバー戦を行うには、官民の協力強化が必要不可欠でアリ、「作戦運用者と機材提供企業関係者が相互運用性を持ちつつ共同すること」が作戦サイバー部隊の構築成功の鍵となると語った
CyberPolicy2.jpg●国防長官サイバー補佐官補(空軍少将)も、あたらな脅威に迅速に対処するため、「産業界、学会、特に小規模なベンチャー企業」との協力関係構築のために努力中だと語り、これが敵に技術面で先んじる鍵だと説明した

●国防情報システム庁の副長官である空軍少将は、産業界との連携の重要性を訴え、良いアイディアがあれば協力相手は選ばない方針だと語る一方で、学会は概念優先で実用面でそれほどでも無いと率直に語った
●また「Hack the Pentagon」に代表されるような、一般社会の力を活用する取り組みも今後重視していくと説明した。更に、年末までに革新を促進する契約のアイディアを募る文書を発出すると説明した

●産業界との関経強化に加え、「non-natural partners」を求めると語り、特に極東の同盟国等との関係強化を進め、学ぶ姿勢で世界中での活動能力を高めたいと述べた

政権引継ぎで「権限」の問題が議論に
cyber army kit.jpg●先述の国防長官サイバー補佐官補(空軍少将)は、政権移行チームとの会議でも、前線指揮官が迅速にサイバー脅威に対処するため、前線に権限をどのように委任し、決断を早くすべきかが最大の問題だとの議論になったと語った

●また、より複雑化するサイバー攻撃に対処するため、如何に迅速に新装備や手法を導入して前線に投入するかが課題で、調達プロセスがトラブルの核心にある
●そして両名は、「前線指揮官の要求に迅速に応えるには、200ページの要求文書で意思疎通するのではなく、短節な文書で迅速に行う必要があるのだ」と訴えた

●サイバー補佐官補は、対ISILでのサイバー戦が効果的かつ効率的に行われておいることを紹介しつつ、サイバーコマンドが6200名体制で133チームからなる「CMF:Cyber Mission Force」を2012年に立ち上げ、10月に初期運用態勢を確立したことを賞賛し、2018年末の完全な態勢確立に大きな期待を寄せた
●一方で、まだまだサイバー部隊の規模が不足していると指摘し、戦前指揮官から急増するサイバー関連要求に十分に対応できない現状を訴え、更なる成長の基礎として中高校生を対象とするサイバー教育プログラムを推進し、有能な若者を育てて行く必要を語った

退役准将は更に辛辣に非効率性を訴え
cyber01.jpg●2012年に退役し、現在はサイバー対策関連企業の副社長であるScott Bethel氏は、国防省は情報活動と通信活動の狭間でサイバー防御に苦しんでいるが、その背景には「リスクを伴う挑戦には冷たく、成功や見せかけの成功だけを讃える傾向があるからだ」と訴えた
●そして「米空軍長官とその側近がリスクやミスに寛容でないため、革新的なアイディアや計画が行き詰まっている。背景には何でも法律家に相談してからとの姿勢があるからだ」と批判的に語った

●また国防省組織全体の効率性を問題視し、現実として「軍人であれ文民であれ、国防省勤務者の1/3は何も仕事をしていない」と語り、官僚機構の機能不全を排除するため、国防省はISR機関に人事管理の権限を移管すべきだと語った
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西側諸国のサイバー戦に関する問題点を復習する内容となりました。何処に国にも当てはまる問題です。ちょっと「international allies from the Far East」がどの国や組織を指すのかが気になりますが・・
企業との協力強化はカーター国防長官が注力してきた分野ですが、時代のニーズでしょう。

cybercrime1-.jpgところで、14日にトランプ氏がトランプタワーで、ハイテク企業(Apple, Facebook, Amazon, Google, Oracle, Microsoft and IBM等々)のトップ級と会合を持ったそうです

概してこれらハイテク企業首脳は、大統領選挙時に「反トランプ」だった人が多く、特にカーター長官が立ち上げた「DIB:国防革新評議会」メンバーにもGoogleのトップ等が入っているのですが、トランプ氏とどのように折り合いを付けて話するのかに注目が集まっています

そして、国防技術革新へのトランプ氏の姿勢も窺い知れるかも・・・と気になっています

最近?のサイバー関連記事
「自ら創造したサイバー空間に苦悩」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-20
「サイバー脅威の変化と対処を語る」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-21
「装備品のサイバー脆弱性に対処」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-02

「対ISサイバー作戦で大きな教訓」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-23
「日本とイスラエルが覚書へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-21
「成果Hack the Pentagon」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-20-1

「組織の枠を超えた情報共有を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-07
「中国には君らも脆弱だと言っている」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-23

トランプ氏がF-35予算削減のツイート [亡国のF-35]

Lockheed Martinの株価が急落!!!

Trump-NATO.jpg米国東部時間で12日朝6時26分、トランプ氏がF-35を制御不能計画だと非難し、大統領就任以降に予算削減を示唆するツイートを行い、ロッキード社の株価が一時5%以上下がる事態となりました

先週6日にもトランプ氏は、大統領専用機(Air Force One)の後継機として計画中のB-747-8をベースとした機種を、「制御不能」「計画中断」とツイートし、その後ボーイング社と個人的に協議を行うと述べたものの、軍需産業にジャブを連発しています

更に7日にはルイジアナ州での講演で、「今後詳細を吟味する必要があるが、国防省で調達関連の業務に就いた経験のある者は、軍需関連産業に生涯再就職できないようにする必要がある」と発言し、大きく報じられたところです

12日朝のF-35関連ツイートは
Trump-F-35.jpgThe F-35 program and cost is out of control. Billions of dollars can and will be saved on military (and other) purchases after January 20th.
F-35開発計画とそのコストは制御不能となっている。私が大統領に就任する来年1月20日以降には、多くの予算が他の国防分野や他分野に活用されることになろう

ロッキードのJeff Babione担当副社長は
trump7.jpgF-35計画に対するトランプ氏のいかなる疑問にも喜んで解答したいし、その機会を得る事を歓迎する
●我々はF-35の価格が、2019~2020年には1機100億円を切る($85 million)と見込んでおり、その時点で世界市場にあるどの第4世代機戦闘機よりも安価になると考えてる
●我が社と関係企業はまた、F-35の維持整備経費の削減にも多額の投資をしており、同機を30~40年間使用することを見込んだ長期的視点で取り組んでいる
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トランプ氏のツイートのタイミングは、イスラエルが最初の2機のF-35受領式典をカーター国防長官ご臨席で開催直前でもあり、色々意味深ですが、最近1週間で連発した軍事産業関連ツイートは、少なくとも「艦艇や航空機の増産期待」を持っていた産業界に衝撃を与えています

trump5.jpgまた、CSBAのTodd Harrison研究員は、これまでのトランプ氏の言動をフォローして分析し、仮に発言通りのコスト削減を図ろうとすれば、F-35調達機数を1/2から1/3にする必要があると分析し、これによる単価の上昇を予想しています

まだまだ不明確なトランプ体制やその政策ですが、「F-35計画へのメス」がそのメニューに上ることは間違いなさそうです! 当然の帰結ですが・・・

「新政権の国防予算はF-35が鍵」
http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-08

「F-35巡り国防省で内紛」
http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-09

トランプ政権が立ち向かう国防省の課題
規模の増強は極めて困難」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-10
「現在の対テロ7原則を確認」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-07
「新政権の国防予算はF-35が鍵」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-08

「国防省改革はどうなる?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-01
「中露を抑止するには」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-05
「Mattis氏が国防長官へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-02

Work副長官:規模拡大の前に穴埋め予算が必要 [米国防省高官]

Work-trump.jpg6日、Work国防副長官が講演し、国防予算の現状を説明しつつ、トランプ氏が大統領選挙戦を通じ叫んでいた「米軍艦艇や作戦機の増強」が非現実的で、現状維持に必要ながら既に欠落している予算や規模維持に必要な予算だけを計算しても、現状から年間10兆円の国防予算増額が必要だと語りました

また、現状の欠落予算や規模維持を後回しにしても、喫緊の課題であるサイバー関連の脆弱性に投資し、指揮統制システムの強靱性を高める取り組みを始めるべきだと、現場感覚溢れる地に足のついた主張を展開しています

そもそもトランプ氏は、選挙期間中も選挙後も、ほとんど具体的に安全保障政策を語っておらず、9月の「米海軍艦艇を350隻体制に」等との意図不明な発言だけが残っているわけですが、厳然たる事実を前に、どのような政策を打ち出すのか注目されているところです

既にトランプ政権移行チームとの国防省とのミーティングが始まっており、第3の相殺戦略への取り組みや諸計画について説明したようですが、Work副長官はトランプ側の反応については言及を避けています

6日付米海軍協会web記事によれば副長官は
Work-army2.jpgトランプ氏は、予算の強制削減を規定した2011年の予算管理法破棄を主張しており、これは素晴らしいことだが、同法を破棄して得られた予算増額はまず現状の「穴埋め」に充当されることになるだろうし、米軍艦艇や作戦機を増強する余裕があるか疑問である
●私の計算では、既に予算不足で穴が開いている部分を埋め、老朽装備や施設を更新して現状維持するだけでも現状予算規模より追加で年10兆円が必要であり、まず現状をよく把握して考えるべきである

まず、国防省は規模を維持しながら最低限の装備更新等を図るための5カ年計画を立てているが、これを遂行するために追加予算が年2.5兆円が必要である。これが確保できなければ、艦艇や航空機の数削減に手を付けなければならない
次に、予算管理法で規定された上限ではまかなえない部分を、「海外緊急作戦予算OCOA」で例外的に議会の承認を得て確保しており、欧州での対露緊急対策(European Reassurance Initiative)など重要施策を進めているが、この経費年3.2兆円の基礎予算化して正常化する必要がある

第3に2022年から約20年間を掛け、核抑止3本柱の近代化・再構築を始める必要があるが、このために年間2兆円の追加予算が必要になる見積もりであり、抑止戦略の根幹をなす不可欠な投資確保は最優先事項である
Pentagon.jpg最後は現在リスクを負いつつ、リスクに目をつぶるような形で不足を許容している装備品の維持整備や弾薬調達予算である。現状の装備品規模に比し、現在の維持整備予算は年間2.3兆円不足している。これには削減している弾薬予算や停滞している危険な老朽インフラの更新予算も含んでいる

●繰り返すが、現在出血している傷を埋め、何とか老朽装備やインフラを更新して現状の規模を維持していくだけで年間約10兆円の追加予算が必要なのである。艦艇や航空機を規模を増やす余裕があるとは思わない
●これが私が見た国防省の現状であり、政権移行チームに伝えた現状である。移行チームとのやりとりや反応については言及しない

●個人的な意見ではあるが、仮に私が、追加で年間2兆円の予算を与えられたら、艦艇や航空機規模の拡大ではなく(現状の維持を多少犠牲にしても)、サイバー関連の脆弱性に投資し、指揮統制システムの強靱性を高める予算を編成する。それほど緊急に対処が必要な課題だと考えるからだ
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非常に分かり易いWork副長官の解説でした
強制削減を生んだ2011年の予算管理法は、国防省だけでなく他省庁も縛っており、この縛りが無くなれば一斉に「穴埋め」要求が全米からわき上がることになります。

Mattis13.jpg米国防省の予算は年間60兆円だったので、年10兆円追加が如何に大きいか御理解いただけると思いますが、これが現状維持予算の最低レベルだと言うことです
この現実に対処するため、現国防省幹部や関連議員の中に「F-35の調達数削減が必要」「次期政権の第一課題」との認識が広がりつつあるわけです

Mattis次期国防長官やスタッフも十分現状を認識するでしょうから、多かれ少なかれ、同盟国への要求が強くなるのは避けられないことだと思います

日本では米軍駐留経費がどうのこうの・・・との報道や議論がありますが、もっと大きな視点で世界の軍事や安全保障環境を見つめ、置かれている立場を認識する必要があります。
トランプ政権がどうのこうの・・レベルの話ではないのです・・・

死屍累々の装備品開発
「ズムウォルト級ミサイル駆逐艦」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-22
「F-35の主要課題」 →http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-12-17
「次期SSBN基礎技術要求」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-10-27
「空母建造費の削減検討に30億円」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-07-07
「沿岸戦闘艦LCSがF-35化」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-04-09

「米会計検査院が空母に待った」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-09-12
「新空母フォード級を学ぶ」 →http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-07-20
「映像で学ぶB-2爆撃機」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-03-01

ロバート・ゲーツ語録70
(ロシアでの講演で、)軍事官僚制の2つの病巣、つまり兵器システムの継続的価格 高騰と納期の遅延、を危惧する点でセルジュコフ露国防相と意見が一致した→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-03-28

オハイオ級の後継艦計画ORPと関連事業
「次期SSBNの要求固まる」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-08-2
「オハイオ級SSBNの後継構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-01-25-1
「あと25年SLBMを延命!」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-13

米潜水艦関連の記事
「攻撃潜水艦SSNの将来」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-10-28
「バージニア級SSNの内部映像」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-09-10-1

チョット関連の記事
「国防長官が暫定予算を批判」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-23
「新政権の国防予算はF-35が鍵」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-08
「米国防予算のグダグダ解説」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-25

比は航行の自由作戦の米軍機利用を認めない [安全保障全般]

SouthChina-sea3.jpg8日付NYT紙電子版は、同日にフィリピン国防相が航行の自由作戦で南シナ海を航海又は飛行する米軍艦艇や航空機のフィリピン施設使用を、認めない可能性が高いと発言しました。

6月にドゥテルテ大統領が就任後、米国が比大統領の強硬な麻薬対策を非難したこと等を受け、比大統領が米国への反発を強めて中国に接近していたところですが、トランプ氏の当選を受けドゥテルテ大統領の対米姿勢に変化の兆しが見え始めたところでした

11月21日の週には、米大統領選挙後では初めての米国高官としてハリス太平洋軍司令官がフィリピンを訪問し、軍事関係の改善が期待されていた中でしたが、事態を大きく改善するには至っていないようです

8日付NYT紙電子版によれば
Lorenzana3.jpg8日、フィリピンのDelfin Lorenzana国防相は、米軍の南シナ海パトロールを行う艦艇や航空機の支援を継続するかとの質問に対し、「ドゥテルテ大統領はそれを認めないだろう。南シナ海の緊張をエスカレートさせるような行動を回避するためだ。認める可能性は低い(unlikely)」と述べた
●更に「フィリピンは当面(for the meantime)、緊張を高める行動を回避する」「米国はフィリピン以外の基地を利用して作戦行動が可能だろう」と述べ、グアムや沖縄の米軍基地利用を米軍に勧めた

●この比国防相の発言に対し、米国務省のTrudeau報道官は同発言を確認していないのでコメントできないとし、「米国の航海の自由作戦に取り組む意志はよく知られている。我々は引き続き、公海上であればどこでも航行や飛行を行っていく」と述べた
●また11月にハリス司令官は、比大統領の発言にかかわらず、フィリピンとのとの軍事関係は変わらないと述べていたところだった

ドゥテルテ大統領就任後の対中国関係改善
10月に比大統領が習近平主席と会談後、中国は2012年以降禁じていたスカボロー礁でのフィリピン漁船の操業を容認し、フィリピン沿岸警備隊による同海域のパトロールも再開許容
●また、フィリピンが領有権を主張している「Second Thomas Shoal」へのフィリピンによる物資輸送を、中国沿岸警備隊「海警」が妨害しなくなった

Duterte4.jpg●また比大統領の訪中間に、2004年に中国と合意していたが2012年に当時のアキノ大統領が領有権問題を理由に中断した、軍の学生やオブザーバー相互派遣の再開に合意した
●更に同訪中間、中国側からフィリピンに武器供給の申し出があった

一方で米比関係は、比大統領が米比の共同南シナ海パトロールを含む米比軍事協力を縮小すると発言し、毎年行われてきた複数の共同軍事演習も縮小されている。
●更に今後は、両国間の演習は人道支援や災害対処に限定され、来年からは従来の着上陸演習や水際攻撃訓練は行われない方向である

前フィリピン外務大臣のAlbert del Rosario氏は、「米国が当地域でのリーダーシップを諦めるようなことになれば、その真空を北隣の隣国(中国)が直ちに埋めるだろう」と述べている
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米国の大統領選挙でトランプ氏が当選した直後、ドゥテルテ大統領が手のひら返しの「米国と手打ち宣言」していたので、米比関係が少しは改善するのでは・・・と期待していたのですが、中国との関係改善が進み、後戻りが難しいのでしょうか・・・

トランプ政権のアジアへの姿勢も未だ不明確ですし、「unlikely」とか「for the meantime」との表現や、比大統領が直接発言していないことからも、米国の姿勢を探るような発言とも解釈できます。

米比関係の記事
「ハリス大将:選挙後初の訪比へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-16
「米比演習の中止に言及」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-08
「C-130が2機だけ展開」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-27

「比大統領南シナ海共同を拒否」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-15-1
「比空軍と米空軍が3日間会議」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-03
「なぜ10月25日比大統領来日」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-06

米国防省内部でF-35計画見積を巡り内紛 [亡国のF-35]

F-35 luke AFB2.jpg7日付Bloomberg電子版は、マケイン上院議員がカーター国防長官に出したF-35計画への質問状に関する国防省の回答報告書準備状況について、国防省のMichael Gilmore試験評価部長がFrank Kendall開発担当次官に対し、国防省上層部がしっかり取り組んでいないと抗議した「文書:Memo」を明らかにしました

そもそもの発端は、国防省がF-35開発予算を追加で約550億円を要求し、試験の遅れを示唆したことに激怒したマケイン上院議員が、11月3日にカーター長官宛て書簡で、SDD(System Development and Demonstration)のスケジュールや追加経費、他の優先事業への予算的影響、将来のF-35計画への影響等に関する10個の質問への回答を求めたことにあります

「550億円の追加開発経費要求へ」
http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-09

Gilmore部長はケンドール次官にMemoで
Gilmore2.jpg仮にこのまま何ら変更がなされないまま返答報告書が発出されたら、そこに含まれる回答は、良く解釈してもミスリーディングで、悪く言えば「prevarications:詐欺、言い逃れ」に該当する
●F-35計画室等による回答は、明白な事実を無視し、曖昧で誤解を招く表現となっており、現状のまま議員の手に渡れば、議会との間で大きな問題となろう。返信報告書を見直し、明確で、正確で、質問に対する完全な回答とすべきである

●例えば種々のスケジュールの見積もりが甘すぎ、開発段階の飛行試験はどんなに早くても2018年中旬までかかるはずでアリ、実戦的戦闘試験の開始は2020年までずれ込むだろう
●また、米空軍が2018年度に納入されるF-35は、計画されている全ての能力を完全に具備していると約束しているが、「highly unlikely:そうなる可能性は極めて低い
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McCain-NDAA.jpgマケイン議員の怒りはもっともで、Gilmore部長はかねてから国防省F-35計画室のスケジュールは無謀だと主張してきており、時間が経過するほどGilmore部長の正しさが証明されているのですから・・・

単純なスケジュールの遅れだけでなく、それは当然コストの上昇に直結し、「死のスパイラル」に直結するわけです。拙速な形で米海兵隊と米空軍がF-35のIOCを宣言していますが、実態は何も変わっていませんし、「亡国のF-35」の名に相応しい惨状を呈しています

Gilmore試験評価部長とF-35
「新政権の国防予算はF-35が鍵」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-08
「国防省もやっと1年遅れを認め」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-26
「F-35フル試験は1年遅れ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-27-1

「民間団体が辛辣なF-35現状評価」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-03-20
「F-35の主要な問題や課題」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-12-17
「整備拠点関連の話」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-05-1 


おまけです!イスラエルのF-35操縦者養成

Nevatim.jpg12月12日に、日本と同じくFMSでF-35を購入するイスラエルが、最初の2機を同国南部のNevatim空軍基地に迎えるようですが、イスラエル空軍のパイロットは12日の時点でも、1度もF-35で飛行していないとのことです。

つまり、同国空軍のF-35操縦者は、米国で約1年間の準備訓練を受けましたが、地上でのお勉強とシュミレーター訓練だけで帰国し、米国人操縦者が操縦してイスラエルまで空輸したF-35に、イスラエルで初めて搭乗するとのことです

本件についてイスラエル空軍幹部は
●まず、F-35のシミュレーターは素晴らしく、実機の訓練無しで十分な基礎技量を獲得できる
●そして、F-35には単座型しかなく、いずれにしても初飛行は単独飛行になるので、米国で初飛行しようがイスラエルで初体験しようが関係ない
●他の国はどうか知らないが、これがイスラエルの選択だ(That was our choice

Nevatim2.jpgなおイスラエルは既に33機の購入契約を結び、来年春までに追加で17機の購入契約をまとめる方針。そして将来は更に追加で25機(垂直離着陸型F-35Bになるとの噂が)も加え、計75機の体制を目指すとか。

邪推ですが、米国防省かロッキードから、米国内での操縦訓練に関し、とんでもない金額をふっかけられ、怒りの米国訓練撤退決断があったのかも・・・

落日の雰囲気漂うミャンマーは大丈夫か? [安全保障全般]

スーチーの実務能力欠如を世界は見抜き・・・
地価崩壊、通貨下落、治安悪化、ゴミ散乱・・・

myannma.jpg忘れた頃に取り上げてきたミャンマーですが、熱狂の政権交代時のかけ声であった「軍事政権から民主的政権へ」の期待は急速にしぼみ、シンボリックな「カリスマ風の人気」だけに支えられたアウンサン・スーチーの実務能力欠如が明らかになってきたようです

ミャンマーに20年以上根を張り、現地の女性と結婚し、世界が見向きもしなかった時代から現地での人脈を気づいてきた日本人の友人と話す機会があり、現地の雰囲気に接する機会がありましたので、断片的ながらご紹介したいと思います

ミャンマーの情勢一般
スーチーやその政権に対する根拠のない熱狂は、ミャンマーに向けた関心を集めて投資を呼び込んだが、化けの皮が剥がれた実務能力無きスーチーや政権に見切りを付け始めた投資マネーは、急速に「引き波」を始めている
myannmarsuti.jpg高騰を続けていた地価は暴落を始め、取引が成立しなくなっている。最近5年間ほど上昇を続けていた現地通貨も下落し始め、世情に敏感な投資家心理を敏感に映し出している。これにインドの高額紙幣流通停止による経済混乱が拍車を掛け、バブルは急速にしぼむだろう

かつて軍政下で何とか管理してきた国境紛争や民族問題も再燃している。ミャンマー西部国境付近では、イスラム勢力と仏教徒の衝突が再燃し、仏教徒住民を守れない警察や軍を諦めた住民が武装して軍事行動に出る状況に至っており、紛争が無秩序に地域的広がりを見せている

●山岳地域の少数民族問題も同様で、政府も十分に状況を把握できないほど混乱の度を深めている
●20年に渡って変化を見てきた政経中枢であるヤンゴンの雰囲気も良くない。ゴミの収集に代表される社会サービスの質が低下し、一般治安も悪化している

ミャンマー進出を考える日本企業へ
myannma2.jpg主要な産業や商業分野で、ミャンマー市場を狙うのはもう遅い欧米企業が全ての利権を抑えたと考えて良い。2014年にコカコーラが進出してきたが、これは米国との関係に置いて、米軍が展開してきたのと同程度の意味を持つ
日本企業関係者が多数ミャンマー進出の相談に訪れるが、私がいつも言うのは、製造業で、30年スパンで投資を回収するぐらいの覚悟がないと今からでは遅い・・・と言うことである。

スーチーをシンボルにして実務を閣僚が支える体制が期待されたが、閣僚が機能していない知識や経験のない者、スーチー人気にあやかって地位を得たが自身で正面に立つことを嫌って仕事をしない者、早くも利権にまみれている者等が混迷を深くしている
治安の悪化はスーチーに反発する勢力の活動を促し、「スーチー暗殺」の企ての噂が絶えない。スーチーが排除されるようなことになれば軍政回帰が避けられないが、有識者の間にも「軍政時代の方が良かった」「もう一度軍政で落ち着きを取り戻すべきだ」との声が聞かれる状況である
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人権命だったオバマ政権はスーチー応援団でしたが、実務的な視点を持つトランプ政権には、人権命の看板を小さくして欲しいです。そしてフィリピンや東南アジアの国々とも仲良くして欲しいものです。

myannma4.jpgミャンマーのような国では、軍の士官学校しかまともな人材育成をしておらず、海外留学の裕福層は国に根付いた政策を打つ気がない&打てない実態もありますから、軍人の活用は決して不合理ではありません

ミャンマーはアジア唯一のフィロンティアだったのでしょうが、日本はゴリゴリの利権争いに奥ゆかしさが出たようです。まぁ・・でもここは、長期的視点に立って、ビルマ時代からの繋がりもありますから、長い視点で関係を育てていきたいものです

ミャンマー関連の過去記事
「自衛隊トップがミャンマー訪問」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-05-28
「スーチー女史は英国スパイ?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-01-13-1
「印とミャンマーと日本」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-12-29
「ミャンマーの魅力と課題」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-10-29-1

次の国家軍事戦略には「4+1」対処計画が [Joint・統合参謀本部]

NMS.jpg4日、Goldfein米空軍参謀総長はレーガン財団主催の「Reagan National Defense Forum」で講演し、現在カーター国防長官が確認中の2016年版国家軍事戦略には、中国、ロシア、北朝鮮、イランと国際テロへの対処計画が含まれていると述べました

この国家軍事戦略「national military strategy」は、毎年、統合参謀本部議長が国防長官に報告するモノですが、2015年版までは一般公開扱いとなっていたモノが、2016年版からは非公開(classified)にするとダンフォード議長が明らかにしていた所でした。

併せて、ダンフォード議長が同戦略のポイントについて10月に語った内容も、含蓄が深すぎて具体的イメージが描きにくいのですが、とりあえずご紹介しておきます。
なおタイトルの「4+1」とは、最近カーター国防長官が使用している要対処対象を指す言葉で、上記の4ヶ国と国際テロを表現する用語です。

米空軍参謀総長によれば
Goldfein1-1.jpg米軍は北朝鮮による核兵器獲得の野望に対処するため、非公開の対処計画を煮詰めてきた。北朝鮮計画は、国家軍事戦略に付帯文書(annexes)として添付される5つの文書の一つでアリ、他にはイランの核開発、国際テロ、更に中国とロシアの脅威への対処計画付帯文書が準備されている
●そして、これら付帯文書となる対処計画は、今年の国家軍事戦略が非公開(classified)となったことによって添付されることになったものであるが、同戦略は新たな政権が誕生した際にも報告される

北朝鮮に関しては、各種情報が示すように独裁者の発言と実際の行動にギャップがあり、この様な国の脅威には最新で信頼できる核抑止が不可欠である
●そして、核抑止に必要なしっかり機能する健康な指揮統制インフラと核兵器の3本柱の維持が、この抑止の信頼性を維持するのに欠かせない

ダンフォード議長は同文書に関し
(10月5日:米陸軍協会総会での発言)
●間もなく完成する2016年版国家軍事戦略では、国際同盟の開発発展と遠方への戦力投射の2つが文書の鍵となる
また同戦略では、「戦争:war」の定義の見直しや、国防省による戦争への準備プロセスの見直しも試みている。特に、複数の地域で同時進行的に紛争が生起した際に、地域戦闘コマンド間で、計画段階と協力実行段階でのプロセス見直しが重視されている

Dunford AFA.jpg●「戦争:war」の定義の見直しは、ロシアが欧州で行っている巧妙に組み合わされた「西側の敷居ギリギリの活動」を踏まえて行っているものである。
ロシアの当該行動は、米国の軍事力を構成する重心とも言える2つの要素、つまり米国の戦力投射力と同盟の信頼性を、損なうことを追求して練られた行為である

ロシアの行動は「hybrid warfare」とも言われる今日の紛争の特徴をなしており、我々にとって「大きな重荷」になっている。そして軍事だけでなく、政治と経済を巻き込んで様相を刻々と変える紛争の形態は、「adversarial competition」として知られている

我々は伝統的な、平和か戦争か、との区別では戦いを捕らえているが、相手はその様には考えていないのだ。
我々の軍事作戦も、ますます複雑化する国際情勢に適合しておらず、例えば我々は戦略レベルでのコマンドを保有していないし、その様な任務のコマンドを立ち上げる基準も検討していないのだ
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下記の過去記事を調べると、前回2015年版の国家軍事戦略は、何と2011年版以来4年ぶりの作成だったとか・・・。その重みの程が伺えますが、今回は力が入っているようです・・・

NMS2.jpgダンフォード統合参謀本部議長とGoldfein米空軍参謀総長は、それぞれに異なる側面から2016年版国家軍事戦略について語っており、全体像はよく分かりませんが、従来の延長では情勢に追随出来ないとの危機感は共通しているように思います

非公開文書になると言うことで、これ以上想像してもどうしようもないのですが、米国防関係者の頭の中を理解する一助としてご紹介しました。「adversarial competition」との言葉は知りませんでした

しかし・・・最近は中国対処の話がほとんど聞こえてきません。米軍事メディアも対ISILが7割、対露が2割ぐらいでしょうか・・・。

Typhoon2.jpgそう言えば、1日に在米の英国大使が、日本や韓国で訓練したタイフーン戦闘機4機が、英国への帰路に南シナ海を飛行すると発言し、更に、2020年運用開始予定の新空母「クイーンエリザベス」も南シナ海に展開するだろうと発言しています

これには中国側も冷笑チックな反応で、「meddling role:余計なおせっかい」は止めときなさいと国営通信社が反応しているところです。英国外交筋の大使に、軍事的な行動について語られたくないですね・・・。

前回2015年版の国家軍事戦略発表
何と2011年以来4年ぶりの発表だった
http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-07-02

英国軍のアジア太平洋へのお節介!?
「タイフーン戦闘機が日本で訓練」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-18
「新空母の艦載機が不足」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-03


米大統領が最後に対テロ7原則を再確認 [安全保障全般]

OBAMA-MacDill.jpg6日、オバマ大統領が任期中最後の安全保障演説(ホワイトハウス関係者談)をフロリダのMacDill空軍基地で行い、オバマ政権の対テロ指針を「7原則」で再確認しつつ、トランプ政権への牽制球を交えながら、8年間の成果からアピールしています。

大統領としての主要スピーチと軍事メディアは位置付けており、大統領が持論としてきた対テロ姿勢である「テロは米国の存立を脅かす脅威ではない」「持続可能な態勢で長期的視点で対応」「拷問など非合法的な手段の排除」「地上部隊や大規模空爆ではなく、無人機による焦点攻撃」「明確な戦略に基づく対処」「民主的な手続きを踏んだ対処」を再度強調したと報じています

大統領は演説前に、同じフロリダ州に所在する対テロの中核を担う中央軍司令部と特殊作戦コマンド司令部を訪問して感謝の意を伝えており、対テロが任期中の最も重要な安全保障案件であったとも言えます

一方これにより安倍首相と真珠湾を訪れる際は、対中国メッセージはなく、戦没者慰霊のメッセージと日米同盟への軽い言及に終わる様子が想像できそうです

全文を見たわけではありませんが、米空軍協会web記事とDefense-News記事を組み合わせ、オバマ大統領の考え方を振り返り、今後のトランプ&Mattis体制での変化具合を見る参考にしたいと思います

オバマ政権の対テロ7つの指針と評価
OBAMA-MacDill2.jpg8年間の任期を通じ、次期政権への基礎固めを行えた。ISILの背骨を砕きつつあるが、より大きな過激テロリズム脅威との戦いは1世代の時間が必要だと考える
●テロの脅威を、より多くの爆撃や大戦力を世界中に展開して早期に排除するなどと言った「間違った約束」は批判されるべきであり維持可能でスマートな戦略を生み出す長期的視点が重要

中東やアフガンに展開している米軍兵士は、私が就任した2009年当時より18万人も減少している。海外派遣部隊は一般的に脆弱な状況に置かれており、この点からも維持可能な外交政策を採用すべきだと考える
対テロ同盟の形成努力に成功を収め、情報収集システムや仕組みを確立したが、今後も米国にとって小規模な個人ベースのテロ攻撃はセキュリティー上の問題でアリ続ける


7つの指針の一つ目はテロの脅威に正しい認識を持つことである(keeping the threat in perspective)。テロは危険でそこに存在しているが、米国の存立に直ちに影響を与える脅威ではない
テロリストは世界秩序の支配者や主役であるかのように振るまい演出するが、彼らは単に殺人者でアリ、過剰に評価すべきではない

2つ目は過剰に手を出す範囲を広げて滅んだ過去の大国と同じ過ちを犯してはならない点である。真に必要な場合にのみ、明確な任務の基に兵力を派遣すべきである
3つ目に捕虜等の尋問に拷問を用いるような国に戻ってはいけない。我が国の価値観や法のルールを遵守することは弱みにはならない

OBAMA-MacDill3.jpg4つ目にテロリストを生み出すような戦い方はしない。一般市民を巻き添えにして犠牲者を増やすような大規模空爆や地上部隊の作戦の代わりに、焦点を絞った無人機攻撃を最大活用し続ける事で、攻撃が再びテロリストを生み出さないようにすべき
5つ目に、国家安全保障に関わる施策は透明性と合法性を確保すべき。併せて大統領として、オバマ政権における対テロ戦略の法的根拠をまとめたレポートを発表した

●そして、議会が2001年にテロとの戦いに軍事力の使用を承認して以降、この承認に関して議論せず、結果的に恒久的に戦争状態にあるような形になっていることを国家として不健康な状態であり、志願制軍隊を維持する国家として、また人口の1%だけを危険で困難な任務に従事させることをきちんと議会で議論し承認手続きを行うべきだ

6つ目は民主主義の力を対テロに活用する事を米国の方針として要望すること
7つ目は情報収集に当たって明確な規定と制限を設け、移住者の宗教確認のような手段は行わないことで、我々を守る市民の自由を尊重すること

関連のDefense-News記事は
http://www.militarytimes.com/articles/obama-farewell-speech-troops
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OBAMA-MacDill4.jpgオバマ大統領は大統領で、きちんとその信念を貫いた主張しており、トランプ氏の「ツイッターつぶやき攻勢」よりは明確で整理されており、戦略や指針として議論しやすくなっています

また、イラクから早く撤退しすぎたことがISILの増長を促したとの批判にも、撤退当時の米軍受け入れに対するイラク政府の姿勢からすれば、米軍兵士の身分や安全を保障する観点から最大限の努力をしたとの説明しており、一定の説得力があります

まぁ、人権や透明性と合法性への過度のこだわりには賛成できませんが、依然としてトランプ氏よりは安心してみていられる感は否めません
オバマ大統領もホワイトハウスのどこかの壁に、「あと何日で自由になれる」日めくりカレンダーを吊しているのでしょうか?

オバマ大統領の発言記事
「対ISILでNSC招集」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-08
「核先制不使用宣言準備」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-07
「卒業式で議会を大批判」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-03
「シリアに安全地帯は考えない」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-17
「サイバー事業者の義務強化法案」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-01-15

中国とロシアを抑止するには@レーガン財団 [米国防省高官]

Reagan.jpg3日、加州のレーガン財団が主催した会議で「領土回復を目指す勢力への抑止:「Restoring Deterrence in an Era of Revanchist Powers」とのパネル討論が行われ、Work副長官やハリス太平洋軍司令官や陸軍参謀総長も加わり、中国やロシアに対する抑止について語っています

そんなに画期的な発表があったわけではありませんが、中国とロシアの抑止に関する、今の国防省の考え方や取り組みを端的に表現していると思うのでご紹介します。

最近、トランプ氏の大統領就任を控え、レーガン大統領の誕生時との類似性から論じる方が増えているように思いますが、このレーガン財団が毎年この時期に主催する「Reagan National Defense Forum」には、昨年も国防長官を始めとする国防省の幹部が勢揃いしており、レーガン氏への国防族の思いのほどが窺えます

Work副長官は「第3の相殺戦略」と絡めて
Work-Reagan.jpgJohn Mearsheimerは大国(a great power)の定義として、米国のように圧倒的な通常兵器と核攻撃を生き延びる核戦力で核抑止力を持つ大きな国と表現した。
●米国は、勢力争いを自然な国家の状態と見なしている中国とロシアを抑止するため、3つの要素が必要である。戦略核抑止、通常兵器による抑止、そして日々継続的に繰り広げられる戦略的闘争への対応である

●仮に、戦略核抑止を「at the Top」とすれば、通常兵器による抑止は「in the middle」で、日常的な闘争は「at the bottom」である。通常兵器と日常の闘争の関連を「危機管理」とすれば、戦略核抑止と通常兵器による抑止のリンクは「エスカレーション管理」と考えられる
●そして我々が取り組んでいる「第3の相殺戦略」は、包括的な戦略的安定を追求する中で、通常兵器による抑止に焦点を当てたものである

ハリス司令官は抑止の定義に言及し
Harris CSIS4.jpg抑止を方程式で表現すると、「能力」と「決意:resolve」と「意図表明:signaling」のかけ算で表現される。そして3つの要素全てが揃わなければ、抑止は機能しない
●「能力」について問われれば、我々には備わっていると思う。危機が迫ったときの「決意」についても、我々にはあると思う。しかしこの2つの要素に疑問がなくても、「意図表明:signaling」が十分でなければ抑止は完全に機能しない

●また「能力」に関して言えば、軍事力はその一部に過ぎず、全ての省庁が保有する能力全てがこれに該当し、国際社会の中で中国とロシアと向き合う必要がある
●そして「私の担当する太平洋地域を暗視装置で見れば、我々の取り組み全てが、この複雑な環境において大統領が必要な施策を遂行できる能力を提供する事につながっている

Milley米陸軍参謀総長は
Milley.jpg●過去15年間の戦いでは、4軍全てが対テロや過激派対応に集中して対応してきた。これらのために特化し、今や他の脅威対処に必要な能力とのギャップが明らかになりつつある
●米国(米軍)は依然として比較優位を保っているが、相手との差は明らかに急速に縮小しており、危険な状況に立ち至っている

●望むと望まざるとに関わらず、中国やロシアや北朝鮮やイランやテロリストは、国際秩序に挑戦してくる。我々は必要な能力を確保して抑止しなければならない
●そしてこの抑止は力によってなし得るモノで、規模と能力の組み合わせで得られるモノだ。これまでその様に努力してきたし、将来の指導者も同じようにするだろう
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Reagan3.jpg久々の共和党政権誕生に向け、レーガン大統領との類似性が指摘されるトランプ政権に向け、「第3の相殺戦略」を着実に進め、オバマ政権の態度が煮え切らなかった「意図表明:signaling」もしっかりやり、本格紛争用の戦力強化にガッツリ取り組んで欲しいと訴えているようです

そして世界や同盟国の間に不安感が広がる中にあっても、何となく米国防省内部にはどっしり構えるムードが漂っているような気がします。

既に3日の時点では、Mattis氏が次期国防長官にノミネートされたことは明らかになっており、オバマ政権の「細部介入」に嫌気がさしていた国防省幹部にも「光明」が見えているのかも知れません

Mattis次期国防長官の関連
「Mattis氏が次期国防長官」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-02
「トランプ氏がMattis氏と面談」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-21

昨年の同イベント関連記事
「カーター長官基調講演」 →http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-13
「副長官が相殺戦略を説明」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-15

大統領&議会選挙を経て国防省改革(GN法改正)は? [カーター国防長官]

NDAA.jpg11月30日付Defense-Newsは、大統領&議会選挙を経て、両選挙で勝利を収めた共和党の国防省改革「急先鋒」であるマケイン上院議員(上院軍事委員長)が、5月に素案を公表していた大胆な国防省改革案を、2017年の国防授権法(NDAA)の最終案に盛り込んだと紹介しています

この国防省改革は、米軍の指揮系統やコマンド編制等も含めて定めた「Goldwater-Nichols法」を30年ぶりに改正しようとする動きの一つであり、この動きを強く警戒する国防省側も案を提示して「激突」の様相を呈しているものです。

これまでも様々な論点候補をご紹介(末尾の過去記事参照)してきましたが、本日紹介の記事は、「調達技術兵站次官の権限分割」「将軍ポストの削減」「統合参謀本部議長の任期延長」「NSC国家安全保障会議の定員削減」を論点として紹介しています

なおNDAAは、National Defense Authorization Actの略です

調達技術兵站次官の権限分割
McCain-NDAA.jpg●現在は豪腕Frank Kendall氏が務め、カーター国防長官も経験したことがある「調達Acquisition」「技術Technology」「兵站Logistics」を司る重要ポストであるが、マケイン議員らは装備品開発の遅延と経費高騰を強く問題視し、同時に中露に対する軍事技術優位を維持する重要性等から、3つの任務の分割を考えている
●一案としてマケイン氏ら上院では、調達と技術を新ポスト「研究開発次官USD(research and engineering)」に、兵站を新ポスト「管理支援次官USD(management and support)」が提案されている

●一方で下院は、技術を一人が、調達と兵站を別の一人が束ねる案を温めている。これはどちらかというと、カーター長官が進める「chief innovation officer」指名に近いとも言える
国防省側は反対しており、調達技術兵站を一人が束ねることによって、迅速な最新技術導入や研究開発、更に効率的な調達につながるとカーター政権下の取り組みを訴えている
●NDAA最終案でも、分割は2018年2月となっており、種々検討の期間はある

将軍ポストの削減
McCain-NDAA2.jpg米軍の規模がイラク・アフガン対処のピークから縮小を続ける中にあって、将軍ポストの削減は継続して議題に上がっている。現状は、大将が37ポスト、中将が138、少将が299、准将が411の計885ポストであるが、5月の案では1/4に当たる221ポストの降格や削減が提案されていた
NDAA最終案では、妥協が図られて110ポストまで対象ポストが削減提案がなされたが、これを2022年末までに達成する案となっている。例えば大将ポストは5個削減の案となっている。また最終案は、110ポスト削減の後に、更に1割削減の検討が必要だと提案している

●最終案は、「国防省は、膨れあがった司令部組織やスタッフを削減する事で効率性を改善し、部隊訓練や国家のために戦う部隊に必要な階級の必要なポストを設け、総合力を向上させるべきである」と提案している

統合参謀本部議長や副議長の任期延長
Goldwater-Nichols.jpg1986年の「Goldwater-Nichols法」で、それまでの任期を短縮し、同議長や副議長の任期は現在2年とされており、大統領が求めれば更に2年延長することとされている。

●しかし大統領の最高軍事アドバイザ-として、長期的な視点で任務を遂行するには、2年は短すぎる。NDAA最終案では、議長や副議長の任期を4年とし、同時期に二人が交代する現状を改め、時期をずらすべきだと提案している
●関係者の一人は、「30年前の時点では人事の新陳代謝の観点で2年に人気を縮小したが、誤りだった。4年にすべきだと統合参謀本部のスタッフも考えている」と語っている

NSC国家安全保障会議の定員削減
NSC-USA.jpgオバマ政権の肥大したNSC国家安全保障会議による、行政サイドへの「執拗な細部介入:micromanagement abundant」の再発を防止するため、NSCスタッフの人員上限を定めようとする動きがある
5月時点の案では、NSC国家安全保障会議の定員を150名以下にすべきとしていたが、NDAA最終案では200名となっている

●識者の間では、「スタッフの数に上限を設けても、細部介入を防ぐことには直接つながらない」との意見も多く、「問題認識は良いが、実現は夢物語だ」と評価する者もいる
●また報道によれば、トランプ政権はNSCスタッフを40-60名に制限すると伝えられており、この動向にも注目が集まっている
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NDAA2.jpg国防省側が4月に提案していた改革の論点は、「地域コマンドの再編」「サイバーコマンドの格上げ」「装備品や物資調達の権限委譲」「昇任資格と統合職経験の縛り緩和」「統合参謀本部議長の役割再定義」などでした

ちなみにその際マケイン議員は、「サイバーコマンドの格上げや統合参謀本部議長の役割強化など国防省意見と同じ部分もあるが、更に深く改革を進め、国防省が望まない提案も多く考えている」と牽制していたところです。

新政権の動向を見守る一つの視点として、今後の成り行きに注目したいと思います

GN法改正関連の記事
「マケイン議員の意気込み」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-30
「階層縮小で人員削減」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-26-1
「先制:国防省がGN法改正案」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-06

「国防省がGN法改正検討」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-03-05
「国防長官が同法改正に言及」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-02-03
「統合参謀本部の削減検討」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-12-16

地域コマンドの再編に関する記事
「地域コマンド改革私案」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-07-24
「情報筋:コマンド再編案」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-08-12

CIO:chief innovation officerの指名へ
http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-01

イスラエルが火災対処の国際共同消火飛行隊を提言 [ふと考えること]

Fire-Haifa.jpg11月27日、イスラエルのネタニアフ首相が閣議で、大規模な山火事や火災に対処するため複数の国が協力して消火用航空機部隊を編制して維持し、効率的に災害に対応する態勢を構築すべきだと訴えました。

背景には、11月22日から約5日間に亘り、イスラエル北部の都市ハイファ近郊で複数の大規模火災が発生し、少なくとも700世帯の住居が被害を受け、6万人に避難指示が出される事態に発展し、海外13ヶ国から20機以上の航空機の支援を受けて消火活動に当たった事案があります

一方で、乾燥した気候に強風が重なったとは言え、この火災に関連し12名が拘留され、国内治安相が「放火である事は明らか。テロだ」と発言するなど、対テロ最前線のイスラエルならではの様相も垣間見える状況です

国際的な消火用航空機部隊はまだヤワヤワな案のようですが、国際的な気候変化で山火事のニュースを増えている気がしますので、とりあえずご紹介しておきます

イスラエル北部の大規模火災(25日CNN)
Fire-Supertanker.jpg22日にハイファの北約35km付近で発生した火災は、2010年に44名の死亡者を出し、1.7万人に非難を命じた大火災を経験したハイファ市長をして、「前例のない規模だ」と言わしめた火災となった
●イスラエル消防救助庁によれば、過去1週間に発生した火災は1500件で通常の2倍に上っており、消防長官は「過失と巧妙に仕組まれた火災の両方が考えられる」とコメントしている。死者は数十名に上る模様

25日までに火災との関連で12名が拘束されている。ネタニアフ首相は「仮に巧妙に仕組まれた火災ならばテロであり、イスラエルを消失させようとする如何なる者も厳罰に処する」と記者団に語った
Gilad Erdan国内治安相は24日、「相当数の火災が放火によることは明白で、放火テロが現実のものとなった」と語っている

●ネタニアフ首相は世界の指導者に救援を依頼し、プーチン大統領は大型の消火航空機「Beriev Be-200」を2機派遣している。またB-747を消火用に改修した米国民間企業の「Supertanker」もイスラエルに向け移動を開始した


国際的な消火航空部隊編制を提言
Fire-Be-200.jpg●イスラエル外務省によれば、イスラエルの要請に応じ、13ヶ国(Azerbaijan, Croatia, Cyprus, Egypt, France, Greece, Italy, Romania, Russia, Spain, Turkey, the US and Ukraine)が計20機以上の航空機を派遣してくれた
●また支援を申し出た国は、他に11ヶ国もあった(Belarus, Bulgaria, the Czech Republic, Georgia, Great Britain, Jordan, Portugal, Slovakia, Switzerland and the Netherlands)

●ネタニアフ首相はこれら海外からの支援に感謝の意を表すると共に、国際的な消火航空部隊編制を提言し、「この様な火災の時に多数の国が協力する多国籍編制だけでなく、火災対処用の航空機を共同購入してプールするような仕組みを世界の指導者に促したい」と閣議で述べた
●同首相は、複数の他国指導者と既に電話で会話して好感触を得たと語り、「皆が強い興味を示してくれ、このアイディアを前進させたい」と語った

●同首相の関係者は、具体的な経費見積もりや部隊編制、電話協議した相手について言及を避け、かつて同構想に近かった国防及び軍需産業関係者も特に話を聞いていないと語っている
●他方で、今回はイスラエル国防省の関与はなく、所掌が11月上旬にイスラエル空軍からイスラエル警察に移管されたと言われている

●2010年の大火災以来、イスラエル政府は民間企業Elbit Systemsに依頼し、消火航空アセットや関連人材と整備支援をリース契約で利用する方式で強化能力強化に努めている
●Elbit Systems社も、米国製「AT-802F」を8機導入し、更に追加で6機を発注して14機体制を整えている
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Fire-AT-802F.jpgイスラエルの事ですので「放火テロ」との厳しい見方が広がっていますが、種々の災害対処に国際協力が必要な事は間違いなく、高価であっても有用なアセットがあれば、国際協力で調達することは良いアイディアだと思います

アジア太平洋地域でも種々の災害が発生しており、日本もこの様なアイデアを活かす事で存在感を発揮する事が可能かも知れません。
米国の関与はあまり期待できないでしょうから、なおさら一考の余地があるかも知れません

ちょっと関連あるかも記事
「ロシアがイランに防空ミサイル」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-16
「イスラエル後に湾岸へ戦闘機」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-17
「日本とイスラエルが覚書へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-21
「Elbitのミサイル防御装置」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-25

パイロット以外も取り上げ褒めてやれよ! [ふと考えること]

日本でも、こんな写真で整備員を讃えてやれよ!

F-35 Luke4.jpg11月28日、海外F-35購入国の操縦者や整備員教育を一括して行うテキサス州Luke米空軍基地に、航空自衛隊が購入したF-35の1番機が到着し、同基地関係者やロッキード関係者、そして航空自衛隊の整備員達が出迎えました

この機体は、FMS購入国(他にイスラエルと韓国)の機体として同基地に到着した最初の機体で、FMS購入国用に操縦者と整備員用訓練プログラムを準備してきた米側関係者にとって、一つの大きな新事業の開始を告げる機体であり、米空軍webサイト記事は米軍関係者の喜びと決意のコメントを掲載しています

また同記事は、日米両国の整備員チームが機体を受け入れたことに触れ、航空自衛隊の整備員チームの写真を3枚も掲載してくれています。
特に写真の中で米側関係者は最小限に紹介し、空自隊員を写真でショーアップしてくれている様子に同盟国への配慮を感じ、嬉しい気持ちにもなりました

F-35 Luke.jpgまんぐーすはF-35を「亡国のF-35」と表現し、この購入決定や戦闘機に固執する戦闘機命派の高級幹部を非難してきましたが、命に服し、最前線で受け入れに汗をかく隊員の皆さんに何の恨みもありませんし、むしろ敬意を表したいと思っています。

だからこそ思います!
こんな機会に、なぜ受け入れのため地道に努力する整備員達を日本国内でショーアップしないのか? 整備員や地上で黙々と準備に取り組む隊員に目を向ける視点がないのか?
パイロット以外が目立つのがイヤなのか? パイロットだけが絵になると思っているのか? 

F-35 Luke2.jpg11月28日の米国でのイベントですが、約1週間が経過した12月4日の段階でも、防衛省webサイトはもちろんのこと、航空自衛隊webサイトも、全くこの記念すべき整備員達をアピールできる機会を生かそうとはしていません

ちなみに空自は、29日に上記トップ写真を誰も見ないようなwebサイトの隅に掲載していますが、「整備員」との説明の一言もありません米空軍webサイトは丁寧に説明してくれているのに・・・・

またこの到着を伝える米空軍webサイト記事で奇妙なのは、受け入れに従事した航空自衛隊員の名前やコメントを一切紹介していない点で、隊員の名前は情報保全上の配慮と深読みしても、空自隊員コメントが無いのは、空自広報担当者のサポートが不十分だったからだと思います

F-35 Luke3.jpgこの1番機は、戦闘機命派の航空幕僚長が出席した9月23日のド派手な式典でお披露目され、その様子は国内外の各報道機関に必死に配信されたようですが、それとの落差を痛切に感じます
そして、パイロット以外に冷たい組織文化を如実に表現する典型的な事象だと思います

まぁ、ついでに邪推すれば・・・
以下の12月2日のイベントをショーアップするため、整備員達が犠牲になったのかもしれません

稲田大臣の次期戦闘機に関する発言
(12月2日岐阜基地でX-2「心神」視察後に)
http://www.mod.go.jp/j/press/kisha/2016/12/02a.html
X-2 sinsin.jpg記者質問1:大臣は、将来戦闘機、国産、純国産であるべきか、共同開発かというお考えはいかがでしょうか。
稲田大臣:そこはやはり、多様なところで、共同開発も、国際的に共同開発することの良さもありますし、いろいろな多様な選択肢があって、さまざまな観点から考慮することが必要だというふうに思います。

記者質問2:X-2の試験データ等を踏まえて、将来戦闘機の選考をしていくと思うのですけれども、国産化等に向けた現在の検討状況と今後のスケジュールを教えていただいてよろしいでしょうか。
稲田大臣:本当に、非常にいろんな角度から考えられていますし、エンジンも国産ですし、ものを開発していますし、私は、こういった研究が民間の経済発展にも資するものでありますので、非常に期待をしています。そして、さらには、国際共同開発ということもあるわけですから、いろいろな選択肢を与えてくれる研究だというふうに思います。
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「国際的に共同開発」とか、「国際共同開発」とかの言葉を、キーワードとして頭にたたき込んで会見に望んだような雰囲気がプンプンしますが・・・。気のせいでしょうか・・・???

9月23日の1番機お披露目式典
http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-24

くたばれ日本の戦闘機命派
「大局を見誤るな:J-20初公開に思う」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-02
「F-35の主要な問題点」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-12-17
「F-3開発の動きと日本への提言」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-03-18
「戦闘機の呪縛から脱せよ」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2013-04-16

空自OBに戦闘機を巡る対立
織田邦男の戦闘機命論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-03-06
広中雅之は対領空侵効果に疑問」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-18-1
小野田治も戦闘機に疑問」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-05

Mattis元海兵隊大将が次期国防長官に [マティス長官]

Mattis13.jpg1日夜、トランプ次期大統領が国防長官にJames Mattis元海兵隊大将(中央軍司令官で退役)を選んだとシンシナチでの集会で発表しました。
同日の報道を追認する形でしたが、11月19日に初面談した際のメディア対応や雰囲気から、現在はフーバー研究所の安全保障フェローを務める独身の元将軍選択を、米国は自然と受け止めているようです

1日付の同発表を紹介するDefense-News記事は、Mattis氏の議会受けが良く、軍人が退役後7年以内に国防長官になる場合に必要な、議会からの特別許可取得も問題ないだろうと報じています。
例えばマケイン上院軍事委員長はMattis氏を、「彼の世代の中で最良の軍人かつリーダーの一人だ」と表現し、上院での承認に大きな問題が無いことを示唆しています

本日は同Defense-News記事から、つまみ食いでMattis氏の考え方や人柄を示す部分を、つまみ食いでご紹介します

軍隊と一般国民との乖離を懸念
Mattis12.jpg●今年9月、Mattis氏は共著で「Warriors & Citizens:兵士と市民」とのタイトルの書籍を出版し、軍隊と一般国民との文化的な乖離問題を取り上げ、驚くべきレベルの一般国民の軍隊への無知と親近感の無さを描いた
●彼の調査によれば、3人に一人の米国民は軍隊にほとんど親近感を持っておらず、米国民の半分は過去1年間に軍人やその家族と接したことがない事が明らかになった。また多くの米国民は米軍の規模がどの程度かも知らない事も指摘している

●そして彼は「このギャップが拡大して共通の目的を見失うことが、問題だと考える」と語っており、この結果から、Mattis氏の国防長官としての優先事項の一つは、市民と軍の分断を埋めることになろう
●Mattis氏と同時期にNATO司令官として退役したJames Stavridis元海軍大将は、「Mattis氏は3つの重要要素を国防省に持ち込むだろう。まず現在進行中の軍事作戦への深く揺るぎない理解、次に軍の歴史と戦略を深く理解した知性、そして彼が支える前線部隊への強い愛情の3つである」と語っている


世界の諸問題に対する姿勢
Mattis11.jpg●最近、講演等で(加州のフーバー研究所から)ワシントンDC訪問が増えていたMattis氏は頻繁に、ますます危険になる世界に於いて、軍事的なリーダーシップや警戒心が必要だと訴えていた
トランプ氏が選挙戦で訴えていた「大きな軍隊と国防投資」と「諸外国との衝突を避ける外交政策」が、Mattis氏の従来の姿勢とどう結びつくのかよく分からない

●しかしMattis氏は8月に発表のレポートで、過去3つの米国政権を「国家安全保障ビジョンの不足」と表現し、中露やテロの脅威を無視してきたと非難している。
●そして「過去20年間、戦略無しに行動してきた米国を目の当たりにしてきた。あらなた脅威の見極めに遅れを取り、利害の優先順位付けを疎かにしてきた。そして敵や同盟国に一貫性のないメッセージを発信してきた」と述べている

●専門家は、アフガン作戦が上手く行っておらず、トランプ政権が新たな政策を必要とする最初の部分の一つであると見ており、トランプ大統領はMattis氏に対応を求めるだろうと述べている
現役時代からイランに対して警戒感をあらわにし、オバマ政権のイラン核合意に公然と強く反対してNSCチームと対立し、2013年に退役したとも見られているMattis氏は、就任後、イランへの姿勢を硬化させるだろう。むちとあめの同時使用でなく、ムチを先に、アメは後にの方針ではないか

中国やロシアに対し、トランプ政権は従来と異なったアプローチを求めるだろうが、Mattis氏は明らかに軍事的な力を問題解決に重要と考えるだろう
●CSBAのBryan Clark氏は「Mattis氏は両国との不同意部分について、より対峙する方向で強く主張するだろう」「両国が問題を起こす場所に、多くの戦力配備を望むだろう」と見ている
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Mattis5.jpgアフガン指揮官だった際の言葉「Be polite, be professional, but have a plan to kill everyone you meet」や、オバマ大統領が求めていた同性愛者に関する「言わない、聞かない方針撤廃」に正面切って反対を表明していたことを、国防長官候補者に名前が挙がった際にご紹介しました。

一方で、無類の読書好きで蔵書が6000冊、孫子、パットン将軍、シェイクスピア、ローマ皇帝で哲学者のマルクス・アウレリウス等の言葉を好んで引用する人物であることも、ここで再確認させて頂きます


現在の国防省リーダーを取り上げる際と全く視点や話題が異なるので、違う世界のことのようですが、これまで取り上げてきたゲーツ、パネッタ、ヘーゲル、カーター国防長官はオバマ政権下の国防長官であり、政権交代を目の当たりにする今回の変化は、こんなモノなのかも知れません。

Mattis14.jpg現在のカーター国防長官やWork副長官が精力的に推進してきた、「第3の相殺戦略」や関連の「最新民間技術の迅速発見活用」や、「Future of Force」等々がどうなるのかとても気になるので、誰か質問してくれないかと思うのですが、今後の国防省の雰囲気から徐々に明らかになるのでしょう

上記記事では、「昨年の春、Mattis氏の支援者が大統領選挙に同氏を立候補させようと動いたが、Mattis氏自身がその動きを封じて話は立ち消えになった」と紹介しており、そんな人望を集めるMattis氏に期待しておきましょう。

トランプ氏がMattis氏と面談
http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-21

CNAS:北朝鮮の問題でなく中国の問題だ [安全保障全般]

2020年代に米国は西太平洋への戦力投射不能に

CNAS-Korea.jpg11月21日、シンクタンクCNASのPatrick Cronin氏が 「Breakthrough on the Peninsula第3の相殺戦略と韓国防衛の将来」とのレポートを発表し、「第3の相殺戦略」を柱にした関係国の国防力強化を訴えつつ、特に米韓の指揮統制や部隊融合の重要性を指摘しています。

また、朝鮮半島の問題は北朝鮮問題に止まらず、究極的には中国によるA2ADにどのように対処するかの問題であると述べ、韓国と日本に強く国防努力を求めて独自の「相殺戦略」を企てるべきだと主張しています。

CNASは現在の米国防省と関係が深く、トランプ次期政権はヘリテージ財団と近くなるのでは・・と噂が飛び交っていますが、どのシンクタンクが見積もっても、各種兵器技術の拡散や西太平洋の地理的環境から、中国の軍拡により米国の軍事的活動の自由度は低下する方向にアリ、日本や韓国への自助努力要求は高まる方向にあると改めて認識する必要があるでしょう

22日付米空軍協会web記事によれば
China N-Korea.jpg朝鮮半島における米軍戦略を考える上で最も緊要な要因は、中国の動向であろう。
●米国は「第3の相殺戦略」を柱として北朝鮮の核開発や恫喝に対抗してことになるが、長期的には、米国の当地域への戦力投射能力に挑戦するのは、北朝鮮のミサイルではなく、中国のA2AD能力である

●現実問題として、2020年代には(中国のA2AD能力により)米国は当地域に戦略投射出来なくなる可能性が高いことから、米国は「第3の相殺戦略」を推進するに当たり、同盟国等との2国間や多国間の共同研究や開発による「第3の相殺戦略」推進を真剣に考えるべきである

●一方で、アジア太平洋の同盟国等にも米国が認識している脅威への対処能力構築努力を行わせるべきでアリ、例えば韓国が北朝鮮の核兵器無効化のため、「高出力マイクロ波兵器」や「EMP爆弾」に取り組んでいるような努力である
中国のA2AD能力が、米軍の西太平洋における行動を制約し、抑止し、打破する可能性がある中、韓国や日本には確かな抑止力や国防能力を確保させるため、それぞれの国の相殺戦略を実行させるべきである

米韓の軍事同盟については
Korea-China3.jpg朝鮮半島におけるパワーバランスを米韓同盟に有利に保つためには、「第3の相殺戦略」が鍵となる。同戦略は技術開発と関係付けられてイメージされる事が多いが、同時に国際協力や統合レベルでの相互運用性でA2ADに対抗することである点も重要だ
●特に北朝鮮対処では、ハイレベルでの政治的結束、緊密な両国間の指揮統制、システムや人材の融合等が強く求められる

●そして米韓同盟に最も求められる「第3の相殺戦略」関連の施策は、北朝鮮と対峙する韓国北部に「連合の戦闘師団:combined combat division」を編制することである
●他方、韓国の国会が戦いの趨勢左右する新たなシステムへの投資に消極的だと非難し、韓国に対し先進技術への投資増を要求する
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Korea-China2.jpg韓国の現状は、細かな国防政策を詰めようもない混乱ですが、「トランプ氏が次期大統領だから」とか、「韓国の新体制がどうだから」とかではなく、大きな「脅威の変化」を見極め、「腰を据えた安全保障議論」が必要な時です。なので本レポートの概要の概要をご紹介しました

韓国が「高出力マイクロ波兵器」や「EMP爆弾」開発に取り組んでいるなら気になりますし、「連合の戦闘師団」の中身も興味をそそられますが、ご興味のある方は、以下のCNASサイトをご覧下さい
https://www.cnas.org/publications/reports/breakthrough-on-the-peninsula

第3の相殺戦略関連の記事
「CSISが特集イベント」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-29-1
「相殺戦略を如何に次期政権に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-04
「CNASでの講演」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-12-15
「11月のレーガン財団講演」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-15

「9月のRUSI講演」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-12
「慶応神保氏の解説」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-01-26
「第3のOffset Strategy発表」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-09-06-1

カーター長官の技術革新促進
「SCOが存続をかけ動く」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-10
「ボストンにもDIUx」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-27-1
「技術取込機関DIUx」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-25

「米陸軍もRCO設立」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-01
「次期爆撃機の要求検討」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-07
「謎のRQ-180」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-12-09
「謎の宇宙船X-37B」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-10-12

Cross-domain能力を追求
「ハリス長官がcross-domainを」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-05
「副長官が米空軍の尻を叩く」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-28

無人機の群れ関連
「無人機の群れ:艦艇の攻撃や防御」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-01-10
「海軍研究所の滑空無人機」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-01-04

地上部隊にA2AD網を期待
「再びハリス司令官が陸軍に要請」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-16
「尖閣防衛に地対艦ミサイル開発」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-14
「ハリス大将も南シナ海で期待」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-06
「陸自OBが陸自で航空優勢と」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-07-12
「CSBA:米陸軍をミサイル部隊に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-14

ポーランドに長距離巡航ミサイル輸出へ [安全保障全般]

米国が対ロシアに積極的な兵器輸出へ!?
日本も欲しい・・・・!

JASSM-ER6.jpg11月28日、米国務省がポーランドへの最新ステルス長距離巡航ミサイル「JASSM-ER」の輸出を承認すると発表し、議会の最終許可手続きが残っているものの、実質的に対ロシアの最新兵器輸出が決定しました。

ポーランドは同ミサイルを、空軍のF-16戦闘機に搭載して使用する構想を持っており、射程が900km以上とされる性能からすれば、対ロシアの力強い戦力になると考えられます。
日本にも欲しいなぁ・・との思いを込め、ご紹介致します

米国務省の発表概要
JASSM-ER3.jpg●11月28日、米国務省の武器輸出を管轄する国防安保協力庁(DSCA)は、70発の「JASSM-ER:Joint Air-to-Surface Standoff Missile-Extended Range」に関連装備等を含め、約220億円でポーランドに売却する事を承認したと発表した
●ミサイル以外の関連装備には、同ミサイル搭載のためのF-16戦闘機改修キット、シミュレーター、試験車両等々が含まれている

●最終的に議会主任を得る必要があるが、売却承認についてDSCAは「NATO加盟の同盟国の安全保障を改善することで、米国の安全保障上の目的達成と外交政策に貢献する」ものと声明を出している。
●そしてポーランドについて声明は、「中欧の政治的安定と経済的発展の重要な原動力」だと表現している

●JASSM-ERを製造するロッキード社は、初期型のJASSMを含め、既に2000発の同ミサイルを米空軍に納入しており、「高価値で強固に防御された目標攻撃用」としての役割を果たすミサイルと説明している
●なお「JASSM-ER」は、原形である「JASSM」の2.5倍の射程距離を有している

「JASSM-ER」に関する補足説明
JASSM-ER5.jpg前身のJASSMは1995年から開発が始まり、実験の失敗等で紆余曲折はあったが2001年に初期量産を開始。敵防空網の射程外から発射され、強固な構造を持つバンカーや、ミサイル発射機などの攻撃を行う目的を持つ空中発射ミサイル対艦ミサイル版のLRASMもある
低コストの開発を念頭に、画像赤外線センサーは陸軍の対戦車ミサイル「ジャベリン」から、ターボジェット・エンジンは対艦ミサイル「ハープーン」からと、既存部品を多用している

航空機から投下されると翼を展開、ターボジェットを始動する。途中、INSとGPSにより誘導され、レーダーに見つかりにくい低空を速度マック0.8で飛行する。
目標に接近すると画像赤外線センサーにより目標を識別、急上昇してから70度の角度で急降下、突入破壊する。命中精度CEPは約3m

JASSM-ER9.jpg●中央部分の弾頭はタングステン製454kgの貫通モード、または爆風・破片モードを選択可能な多機能弾頭で、貫通力はBLU-109Bと同等とされる
地下施設や強固な施設には貫通モードで、ミサイル発射機やレーダー施設に対しては上空で爆発して爆風と破片を放出する

●搭載可能な航空機は、B-2、B-1、B-52H爆撃機、F-15E、F-16戦闘爆撃機など多様
●「JASSM-ER」と「JASSM」の違いは、より大きな燃料タンクと効率の良いエンジンの搭載で射程距離が2.5倍の575マイル(約925km)に延伸したこと。またGPS妨害に対抗できる機能を付加したこと。更にデータリンクを追加装備したことである。

●「JASSM-ER」と「JASSM」は7割が共通部品で構成されており、製造コストの低減に貢献している。
●米空軍は2020年台の製造終了までに、2,400発のJASSM(1発約1億円)と、3,000発のJASSM-ER(1発約1.6億円)を購入予定
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「JASSM-ER」の射程距離である約900kmという距離は、第一列島線から中国大陸を攻撃できる距離です。
従って、中国防空網の脅威外からの攻撃が可能な兵器と言うことで、F-35やF-22には搭載する計画はありません

JASSM-ER8.jpgしかし思います。70発を関連装備を含め僅か200億円で購入可能な高性能兵器です。何とかF-15JやF-2に搭載可能にして、有効活用できないものでしょうか?

1機が100億円以上する戦闘機の数を減らしてでも、平時からグレーゾーン付近でしか活躍が期待できないであろう戦闘機の要求性能を落としてでも、この様な長射程兵器を導入する方向に、考え方を改めていくべきと考えます

米国も輸出に前向きになったようですし、費用対効果の面でも、日本の置かれた地理的な戦術環境からしても・・

JASSM関連の記事
「B-52をJASSM搭載に改良」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-13
「JASSM-ERを本格生産へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-17-1
「空中発射巡航ミサイルの後継」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-12-12-1
「JASSM-ER最終試験」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-08-10-1

LRASM関連の記事
「LRASM開発状況」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-05-17-1
「米軍は対艦ミサイル開発に力点」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-11-18
「ASB検討室の重視10項」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-11-04
「LRASMの試験開始」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-07-23
「新対艦ミサイルLRASM」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-19