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電波高度計への5G干渉問題:まず影響確認実地試験を [米国防省高官]

政府は12月からの電波オークションで既に巨額の応札を
後戻り困難と判断し、国防省は影響局限策追求か

Burke 5G.jpg21日付Defense-Newsは、米連邦通信委員会FCCが昨年12月から開始した「5G」企業への「Cバンド:3.7–3.98 GHz」の電波オークションについて、5G通信企業がCバンドを使用することで民間航空機や軍用機の電波高度計に干渉が起きて飛行安全上の問題となる恐れが指摘されている中でも、国防省はFCCのオークションを中止させるのではなく、まず影響の確認と対策検討に集中する姿勢だと報じています

この件に関しては、オークション対象の周波数帯に近い「4.2〜4.4 GHz」帯を長年使用する電波高度計に狂いが生じる恐れがあると、民間航空関係団体で構成するRTCAが昨年10月の報告書で指摘したにもかかわらず、「5G」企業への「Cバンド:3.7–3.98 GHz」売却オークションをFCCが強行したことで大問題となり、米国防省も12月21日にFAAや国土安全保障省や電波高度計メーカーを読んで検討会を開くなど対応を協議していたところでした

Ligado7.jpg一方で12月8日開始の電波オークションには、5G進出を狙う通信企業が殺到し、1月15日現在で既に電波オークション史上最高の8兆円以上の応募があり、これをひっくり返すのは事実上困難な状況に立ち立っているようです

民間航空会社や連邦航空局FAAは昨年10月に干渉の恐れをレポートにまとめていますが、軍用機への影響については「試験環境が整っていない」等の理由で整理されておらず、FCCに反論するにも明確な根拠がないのが国防省の現状でもあり、慎重な姿勢のようです

ただ、米軍から「GPS干渉の恐れがある」と大反対されながらも、5G企業への衛星通信用電波売却を強行したFCC(まだ揉めてます)ですが、政権交代と共に委員長も交代することになり、各方面から相当な反発を受けているようでもあり、今後の動向が注目されますので、状況をご紹介しておきます

21日付Defense-News記事によれば
Burke1.jpg7日のインタビューで国防省の航空サイバー特別チーム(interagency Aviation Cyber Initiative Task Force)のリーダーであるAlan Burke氏は、国防省はFCCのCバンドオークションを中止させる方向ではなく、全米の都市を中心に今後構成される5Gネットワーク網が、軍用機の電波高度計に与える影響をまず確認し、その影響を局限する策を検討することにまず焦点を当てると語った
具体的には「大都市圏への5G展開を遅延させるべきではなく、航空業界が(電波高度計の)保護対策を強化するまでの間の影響局限策や技術開発を急ぐべきだ」と表現した

トランプ政権下で進められた5G普及計画下で進められたオークションでは、「Cバンド:3.7–3.98 GHz」の5000以上のライセンスが対象とされ、オークションの第一段階で既に史上最高額となる8兆円以上の応札となっている
一方で退任するFCC委員長Ajit Pai氏は声明を出し、「FCCは本オークションに関し、多くの技術的、法的、政治的問題に直面している」、「計画を遅らせることは容易だが、我々はあるべき方向に前進を続け、全ての障害を克服する。その結果として米国は5G分野での指導的立場を確保し、5Gの恩恵を米国が迅速に享受できるようになる」との意思を示している

Ligado5.jpg12月21日に国防省が主催し、国土安全保障省やFAAや高度計企業Honeywell(RTCAレポートにも参加)を交えて行われた検討会では、軍用機への影響について更なる実地試験の必要性が指摘されており、国防省のBurke検討チーム長は、喫緊の問題は実地試験に必要な試験場を確保することだと語っている
また同チーム長は「FCCとの交渉力を確保するために、我々の主張を裏付ける実地試験でのデータが欠かせない」と訴え、「省庁間や関係機関の間の協力体制を構築するべく協議を行っていおる」と説明した

軍用機の中でも、輸送機や空中給油機が計器飛行着陸で電波高度計への依存度が高く、5G通信の影響を受ける恐れがあるが、軍用の電波高度計はある程度の電波干渉防御機能を備えており、その能力発揮の程度に関心が集まっている
仮に防御機能にもかかわらず5G干渉が避けられない場合には、空港周辺に離着陸に影響を与えない「5G信号排除ゾーン」を設けて航空機の安全を確保する案などを並行して国防省は検討している模様

FCC 5G.jpgまた高度計の改修案としては、使用する「4.2〜4.4 GHz」帯以外を電波フィルターで排除する案があるが、政府関係者からは、それにより高度計の誤差が大きくなる恐れも指摘されている
国防省では、将来的には5G通信ネットワークが都市周辺で構築されることを前提とした、新たな工業規格(new industrial standards)を国として定め、5G環境の干渉に強い高度計を普及させる方向が望ましいとの意見も出ている
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5G関連では、サイバー安全保障上の懸念がある中国企業の排除進める一方で、技術面や価格面で遅れている西側及び米国企業の5G開発を促進して「穴埋め」をする必要に西側諸国は迫られており、西側企業を応援することに西側各国政府は必死です

FCC 5G3.jpgトランプ政権下のFCCは、この流れで強硬に電波の優先使用を5G企業に与えるべく動いたと想像されますが、バイデン政権の新しいFCC委員長がどのようなかじ取りをするのかに注目です

FCCの「干渉が生ずるとの根拠はない。既得権の乱用だ」主張と、FAAや民間航空会社の「干渉の恐れがある」主張のどちらに分があるのか、技術的な知識やデータを把握していないのでコメントが難しいのですが、世界中で出そうな問題でもありますのでご紹介いたしました

5Gと電波高度計環境問題
「5G企業へのCバンド売却で電波高度計に懸念」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-12-22

5GのGPS信号への干渉問題
「炎上中:5G企業へのGPS近傍電波使用許可」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-05-14
「5G企業に国防省大反対の周波数使用許可へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-04-11
「米議会でも国防省使用の周波数議論」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-05
「ファーウェイ5G使用は米国との関係に障害」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-17
「軍事レーダーの干渉確認」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-12-05
「5G企業とGPS関係者がLバンド電波巡り激突中」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-11-22-2
「戦略コマンドが5Gとの電波争奪に懸念」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-27

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米軍がサウジ西岸で米海空軍の拠点探し [Joint・統合参謀本部]

少しでもイランから遠く、ペルシャ湾沿岸でない場所で
反体制ジャーナリスト殺害でサウジとの関係悪化の中でも

McKenzie3.jpg26日付各種軍事メディアは、Frank McKenzie米中央軍司令官が25日に米メディア(Defense OneとWall Street Journal)を同行させてサウジの紅海沿岸の港湾Yanbuを訪問したと報じ、米中央軍が同港とサウジ西岸近くの2つの飛行場を「緊急時」に使用できるようサウジ側と交渉中だとの米軍報道官の発表と合わせて紹介しています

米中央軍は、カタールやバーレーンやクウェートやUAEに米軍を展開させていますが、911同時多発テロ以降、ビンラディンの祖国であるサウジはリスクが高いとして米軍は撤退していました

Saudi Iran.jpgしかし2019年9月にサウジの製油所がイラン製の無人機やミサイルで攻撃されたことでイランへの脅威認識が高まり、トランプ大統領が首都リアド南東のPrince Sultan空軍基地に、2500名規模で米軍戦闘機部隊や防空ミサイル部隊を再展開させて現在に至っているところです

今回のメディア報道では、米軍側は兵力の常駐を意図しているのではなく、緊急時の展開先として構想しているらしいですが、サウジ側は米海軍艦艇受け入れのため港湾改修を行ったとの内容も含まれており、また記者を同行させて中央軍司令官が視察していることからも、米サウジ間では既に緊密な協議が行われていると推測されます

バイデン大統領は選挙期間中、サウジが反政府ジャーナリスト(Khashoggi)暗殺に関与したとして非難していたようですが、今後の新政権の中東政策を占う材料となる動きですので、ご紹介しておきま

26日付Military.com記事によれば
Saudi USF.jpg(左図は2020年1月時点)米中央軍報道官は、紅海に面したYanbu港と、同じく紅海沿岸近くのTabuk(King Faisal空軍基地)とTaif(King Fahd空軍基地)の緊急時の使用を想定して、1年余り評価検討を行ってきたと述べ、「挑発的にならないよう、中東地域やサウジでの存在拡大にならないよう、慎重に一時的な施設へのアクセスの可能性について協議検討を行ってきた」と文書で説明した
また同報道官は「検討してきた緊急時の拠点に対し、サウジ側が支出して施設の改善が既に行われ、今後更なる投資が検討されている」とも説明した

McKenzie司令官はYanbu港で、「ペルシャ湾岸は有事に高リスクエリアになることが想定されるので、湾岸地域から戦力移動させたり、域外からの戦力を受け入れる場所の確保を考えておくのだ」と語ったと報じられている
サウジ政府は、中央軍司令官のYanbu訪問や上記の報道官声明について、26日時点でコメントしていない
米国はサウジ以外でも、例えば、オマーンと同様の必要時の基地使用の合意を締結している模様である

Saudi Map.jpgCNAS研究員のBecca Wasser氏は、このようなサウジ西部・紅海沿岸での拠点模索は、以前McKenzie司令官が米議会で証言した、リスクの高いペルシャ湾岸を避ける新たな兵站ルート「Western Sustainment Network」の一環だろうと推測し、「恒久的な基地だけでなく、バックアップを想定した柔軟な姿勢が必要だ」とコメントしている

米軍のこのような動きにイラン側は敏感に反応し、イランの国連大使報道官は「中東の混乱と不安定を招いている」と外国軍のプレゼンスと米軍の動きを非難し、「緊急事態は、他国がイラン攻撃を試み、イランが自国防衛を決意した際にのみ発生しうる」と語った
今回の中央軍司令官Yanbu港訪問との関係は不明だが、23日にリヤドがミステリアスな攻撃を受けている。ミサイルか無人機よるかも不明で、過去にイランの支援を受け同様の攻撃を行ったことがあるイエメンのHouthi rebelsも関与を否定している
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世界中に長射程の精密誘導兵器や無人機が拡散しており、対中国でなくても、戦力の分散や避難先の確保、代替運用地の確保は喫緊の課題です。また兵站を支える拠点の代替確保の観点も重要で

McKenzie4.jpgその点で中央軍の動きは自然なものですが、原油価格への介入などもあり、米国とサウジの関係が微妙な雰囲気の中でも、イスラエルとUAEの国交樹立の流れもあり、いろんなことが進んでいるようです

前述したように、バイデン大統領は大統領選挙期間中、サウジを反政府ジャーナリスト(Khashoggi)暗殺に関与したとして非難していたようですが、今後の中東と向き合う姿勢にも注目です

昨年の大統領選挙直後の予想記事
「バイデン政権で国防政策はどう変わるのか」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-11-09

最近の中東関連記事
「イスラエルが中央軍管轄に」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-01-16
「政権交代前にUAEへのF-35契約署名へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-01-11
「イスラエルがUAEへのF-35に事実上合意」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-10-26
「大型爆撃機の中東駐留中止」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-04-30
「米政権がサウジとUAEに緊急武器輸出」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-05-25

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