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グアムにシンガポール空軍受け入れ施設増設へ [安全保障全般]

2019年の両国間覚書に基づくとか・・・
東京ドーム18個分の土地を新たに開拓して
何故グアムに今?覚書から5年経過し・・

F-15SG 2.jpg1月3日付米空軍協会web記事は、2019年に米シンガポール間で結ばれた覚書(MOU)に基づき、米空軍が12機のシンガポール空軍版F-15EやF-16等を受け入れて長期訓練可能な施設の建設を今後3-7年間かけて計画しており、そのための事前準備として環境影響調査報告(EIS:Environmental Impact Statement)を2024年中旬に中間報告、2025年初旬に最終報告の予定で進めると報じています

グアム島は対中国の最前線基地として重視され、米ミサイル防衛庁が中国からの弾道&巡航ミサイル防衛体制確立を最優先課題と取り組み中の拠点で、サンゴで形成された施設建設が困難な限られた地籍と原住民にとっての宗教的聖地への配慮等から、ミサイル防衛施設の配置や確保が大きな課題となっている難しい場所ですが、そこに空軍機受け入れ用に追加で200エーカー(東京ドーム18個分)のスペースを新たに確保する施設の建設計画です

Andersen AFB5.jpg両国間の2019年覚書では、シンガポール空軍版F-15Eストライクイーグルの最新型であるF-15SGのほか、同空軍F-16とE-2C早期警戒機も受け入れ可能な施設をアンダーセン空軍基地内に設けることが合意されており、新たな格納庫、機体整備施設、燃料施設、駐機場、道路や駐車場や関係者の施設等が建設計画に含まれているようです

シンガポール空軍は同国周辺空域が非常に混雑して大規模な飛行訓練が難しいことから、これまでにも同様の展開施設が設けられ、F-16用施設がアリゾナ州Luke空軍基地に、 F-15用がアイダホ州Mountain Home空軍基地に、AH-64 Apacheヘリ用はアリゾナ州Marana基地に、それぞれ設けられているようですが、今回はF-15SGを主対象とした受け入れ施設です。

F-15SG 3.jpgもちろん米空軍省はこの受け入れ施設が、重要な同盟国であり、毎年様々な形で共同訓練を行っているシンガポール空軍だけでなく、米空軍機のほか、米軍他軍種の航空機や同盟国等のグアム島での受け入れ施設としても将来に渡り利用可能で、対中国の態勢整備を進める米軍全体にとっても重要な意味を持つと説明しているところです

米空軍協会ミッチェル研究所のMichael Dahm研究員も、「対中国のカウンターバランス面でも意味深く、シンガポール空軍が米空軍戦闘機と継続的に訓練でき、同時に機体の維持整備施設にもアクセス可能となる点でも利点が多い」と、シンガポールから遠くないグアム島での新拠点確保の意義を強調しています
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Andersen AFB6.jpg2019年のMOU締結から5年越しでの200エーカー施設建設の動きです。上でもご紹介したように、グアムの限られた地籍を考えると、諸調整が今後も大変だと思いますが、シンガポール空軍は40機のF-15SGと70機のF-16を擁し、F-35A型購入も進める一大戦力ですので、有事には中国に近いシンガポールから避難し、グアム島からの作戦遂行を考えているのかもしれません。

同空軍は西側(日米を除く)スタンダードであるA330MRTT空中給油機の導入を進めており、グアム島からの遠距離作戦にも対応可能な体制整備を進めつつあり、そんな「思惑」のアンダーセン基地におけるF-15SG受け入れ施設計画だと理解しました

シンガポール空軍関連記事
「シンガポール空軍との演習を利用し」→https://holylandtokyo.com/2023/11/16/5245/
「F-35A型にも興味」→https://holylandtokyo.com/2022/09/15/3638/
「F-35B売却許可」→https://holylandtokyo.com/2020/01/15/866/

グアムのミサイル防衛関連
「本格試験を2024年開始」→https://holylandtokyo.com/2023/08/22/4937/
「グアムMDを再び語る」→https://holylandtokyo.com/2022/06/07/3295/
「整備の状況と困難」→https://holylandtokyo.com/2022/04/05/3082/
「分散&機動展開可能型へ」→https://holylandtokyo.com/2021/08/23/2146/

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中国による台湾への非接触型「情報化戦争」 [安全保障全般]

防衛研究所が日本台湾交流協会と共同研究
ペロシ下院議長の台湾訪問時を分析し「失敗」と
台湾は中国にとっての「試験場」

AnpoReport2312.jpg防衛研究所が、所属研究者による論文集である安全保障戦略研究(2023年12月号)を発表し、日本台湾交流協会との共同研究事業としてまとめられた論文『中国が目指す非接触型「情報化戦争」 ―物理領域・サイバー領域・認知領域を横断した「戦わずして勝つ」戦い―』を掲載しています

防衛研究所の中国研究室・五十嵐隆幸研究員と日本台湾交流協会・荊元宙氏による同論文は、「サイバー領域と認知領域の定義を確認し、中国の活動を整理したうえで、それに物理領域を加えた全ての領域で横断的に繰り広げられる非接触型の「情報化戦争」について、台湾を事例にその実態を理解する手がかりを考察」することを狙いとし、

Pelosi taiwan.jpg事例として、2022年8月2日から3日のペロシ米下院議長による台湾電撃訪問時に、台湾社会が見舞われたサイバー攻撃と、ペロシ離台後の人民解放軍による軍事演習を取り上げ、

「中国は台湾に対して領域横断的な非接触型「情報化戦争」を仕掛けたのだが、それは失敗に終わった。現時点で中国が台湾に対して繰り広げる領域横断的な非接触型「情報化戦争」の形態を見る限り、平素より対策を講じ、過剰に反応しなければ、その効果を無効化もしくは低減可能であることを台湾は証明した」と結んでいます

AnpoRepo2312.jpg更に同論文は、「また、2014 年から始まったロシアとウクライナの間の紛争を見ても、サイバー領域や認知領域での戦いが戦争全体の帰趨を左右したとは言い難く、むしろその限界が示され、それだけでは戦争に勝てないことが証明されている」と分析しています

同論文は、ペロシ米下院議長の台湾訪問から8月10日の中国による台湾周辺での軍事演習終了までの間の、中国による猛烈な「サイバー領域と認知領域」での非接触型「情報化戦争」の事例を細かく紹介し、4日以降の軍事演習についても概要をフォロー&紹介していますが、

Pelosi taiwan2.jpg『日本や欧米などのメディアは「第四次台湾海峡危機」として動向を注視したが、中国による台湾対岸で軍事演習に台湾の人々は「慣れ」てしまっており、「強要」の効果を失いつつあった。実際、台湾の人々は、圧倒的多数がその軍事演習を「怖くなかった」と語り、軍事演習下でも普通の生活を送っていた。台湾がパニックになっていたら中国の思うつぼだったが、威嚇で屈服させようとする中国の思惑は台湾に通じなかった』と結んでいます

AnpoRepo2312-4.jpgただし論文は、『「人海戦術」で自国民の命を顧みなかった中国でも、今は少子高齢化で軍隊は募集難に苦しみ、「兵士の命」の重要性が増している。ゆえに中国は「戦わずして勝つ」との究極の目標を目指し、領域横断的な非接触型「情報化戦争」の能力構築に努力を継続する』とし、『中国にとって台湾は、中国が領域横断的な非接触型「情報化戦争」の能力を国家総動員で構築していくための「試験場」になっている』と記し、西側の油断を戒めています

また、今後の本分野へのAI技術の活用の可能性に注目し、『最先端の AI 技術で言語や文化の壁を克服し、認知領域での優勢を獲得することで、物理領域と情報領域における優勢をより確保することへと繋がり、それが領域横断的な非接触型「情報化戦争」の到達点になる』とコメントしています
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AnpoRepo2312-5.jpgなお、中国の「情報化局地戦争」の範囲に関して同論文は、以下のように説明しています。

『「領域」についての認識は、米国や NATO 諸国のみならず、中国でもほぼ共通しており、本稿では(米国防省が示している) CDS(領域横断的な相乗作用(Cross Domain Synergy) の区分を準用し、物理次元に存在する陸、海、空、宇宙の 4 領域は「物理領域」、情報次元は Information と Intelligence との混同を避け、かつ、実態にそぐわせて「サイバー領域」、人間の心の中を「認知領域」として議論を進めていく』

AnpoRepo2312-3.jpgその他にも同論文は、学術的論文として、中国の「情報化局地戦争」概念をその経緯も含めて詳しく説明しており、ご興味のある方は論文をご覧ください

日本に対する中国の「情報化局地戦争」について、防衛研究所が分析&対外発信しない徹底した姿勢は、「中国安全保障レポート2024」や「NIDSコメンタリー」や今回の「安全保障戦略研究(2023年12月号)」から、よぉーーーーく理解できました

安全保障戦略研究(2023年12月号)の全体
https://www.nids.mod.go.jp/publication/security/security_202312.html

論文「中国が目指す非接触型「情報化戦争」」
https://www.nids.mod.go.jp/publication/security/pdf/2023/202312_02.pdf 

防衛研究所の対中国姿勢がわかる公刊物
「「中国の影響工作」概要解説」→https://holylandtokyo.com/2023/12/21/5362/
「異様な中国安全保障レポート2024」→https://holylandtokyo.com/2023/11/28/5299/

防衛研究所による各種論考紹介記事
「サイバー傭兵の世界」→https://holylandtokyo.com/2020/08/05/515/
「量子技術の軍事への応用」→https://holylandtokyo.com/2022/01/14/2577/
「先の大戦・あの戦争の呼称は」→https://holylandtokyo.com/2021/08/13/2103/

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米陸軍は2024年に部隊の大幅削減含む改編不可避 [Joint・統合参謀本部]

陸軍長官と制服軍人上層部との対立表面化
対テロで2倍に膨らんだ特殊作戦部隊等が対象か
新兵募集難で既にWW2以降の最小規模にある陸軍
「空虚な部隊」か「大幅組織削減」かの決断を迫られる

BCT3.jpg12月28日付Defense-Newsは、米軍2024年の課題を取り上げる記事で、新兵募集難に直面し、現時点で正規兵数がWW2以降で史上最低の45.2万名規模にまで縮小している米陸軍が、対テロ戦から本格紛争対処に備えた組織改編検討を行う中で、その方向性を巡ってChristine Wormuth陸軍長官と制服陸軍人の間の対立が先鋭化しているが、2024年は決断が避けられないと紹介しています

米陸軍の組織改革は内部検討中の流動的状態で詳細は不明ですが、「2024年は大変だ」と紹介している同記事と、Wormuth陸軍長官にインタビューした2023年6月28日付記事「Exclusive: Army secretary talks force structure cuts, SOF ‘reform’」の内容から、ベトナム戦後の米陸軍削減と同様の難しい削減を伴う改編に向かう米陸軍の様子を取り上げたいと思います

Wormuth陸軍長官の基本的考え方
Wormuth7.jpg●対テロから本格紛争対処への体制変革を追求する大方針の基、新たに「short-range air defense部隊」や「indirect fires protection部隊」や「multidomain operations対応部隊」などの新たな能力部隊の編制&増強要求に対応する必要があるが、兵士募集が困難に直面している中、即応態勢を維持できない「空虚な部隊:hollow formations(人員充足率が低い中身の伴わない書類上の部隊)」を維持することはできない
●我々は現在、31個BCT(brigade combat teams:戦闘旅団)体制を基本体制とし、その維持には48.5万名が必要だが、募集難の中、2023予算年度末で米陸軍はWW2以降で最小規模の45.2万人にまで正規兵数が落ち込んでおり、今後も募集目標達成に全力で取り組むものの、現体制の維持は難しいと認めざるを得ない

BCT.jpg●態勢見直しに当たっては、部隊のどの部分を維持して「緊急即応部隊(Immediate Response Force)」として引き続き即応態勢を高く維持させるか、どの部分部隊に手を加える必要かに関し、過去の前線派遣頻度や期間、最近の活動状況なども元に評価して基準(guidance)を明確にしたい。
●特殊作戦部隊は911同時多発テロ以降に約2倍規模となっているが、そのいくつかの部分は対テロや対反乱作戦専用の部隊編成となっており、現時点ではそれほどニーズがあるわけではない

陸軍OBのシンクタンク研究員
BCT2.jpg●最近においても、陸軍の中で最も頻繁に作戦投入されている部隊は、特殊作戦部隊内の部隊である
●ベトナム戦争後、米陸軍は「このような戦いを2度と遂行することはない」との前提に立ち、ベトナム戦で活躍した対反乱作戦部隊やそのノウハウを持つ部署を削減し、(911以降の戦いを通じて、)その失敗を繰り返さないと言い聞かせ来たはずではないか
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2023年10月にWSJ紙が、米陸軍特殊作戦部隊から約3000名削減しようとの案が米陸軍省内で検討されているが、特殊作戦部隊や陸軍制服組からの反対で議論が紛糾しており、オースチン国防長官が仲介に入って対立の鎮静化を行っていると報じ、23年夏ごろから議論が停滞している様子が伺えますが、2024年にはどのような方向性が打ち出されるのでしょうか

Wormuth6.jpgChristine Wormuth陸軍長官はベトナム戦後に使用された「空虚な部隊:hollow formations」との言葉をあえて多用し、募集難の現実を踏まえ、本格紛争に適した部隊編成への改革を強く打ち出し、特殊作戦部隊の任務の一部は通常の陸軍部隊でも担うことが可能だとの認識を示しており、ウクライナでの教訓も踏まえた米陸軍の動向が注目されます

米陸軍ウクライナの教訓
「米陸軍が評価中の様々な教訓」→https://holylandtokyo.com/2023/10/13/5129/
「22年6月:米陸軍首脳が教訓を」→https://holylandtokyo.com/2022/06/01/3245

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