米国防省が「イランの軍事力」レポート初発表 [安全保障全般]
中国及びロシアに続く3か国目の対象がイラン
来年10月の国連制裁切れで中露が武器輸出を狙う
19日、米国防省がイランを対象とした初めての軍事力レポート「Iran Military Power」を発表し、実際に取りまとめたDIA(Defense Intelligence Agency)関係者が説明ブリーフィングを行った模様で、様々な軍事メディアがその概要を取り上げています
このレポートは、中国とロシアを対象とした「軍事力レポート」に続く3か国目のレポートで、米国が中東情勢のカギを握るイラン軍事力動向に注目し、それを世界に知らしめようと力を入れている様子が伺えます
約120ページの同レポートはざっくり言えば、イランはユニークな3本柱で抑止力を構築し、ペルシャ湾岸地域での覇権を確立しようとしていると分析し、3本柱として弾道ミサイル、多様で大きな沿岸海軍戦力、そして特殊部隊と近接国の親派勢力への支援を挙げています
また、核兵器は未開発だが、米国が懸念する活動は続いており、またICBMに利用できる規模のロケット技術を衛星打ち上げを通じて蓄えつつあると警戒しています
更に懸念として、2020年10月に国連決議に基づくイランへの武器禁輸が期限切れとなるため、この制裁が延長されない限り、中国やロシアから最新兵器が一挙に流入する可能性を示しています
日本の新聞なども取り上げると思いますが、メモ程度に取り上げておきます
各種米軍事メディアによれば同レポート概要は
●イランはイスラエルを上回る短距離及び中距離弾道ミサイル戦力を構築し、老朽化が進む航空戦力を補って、周辺敵対諸国や米国を抑止して脅威を与えている
●地域の覇権国を狙うイランは、大部分の通常兵器輸入を禁じた国連の制裁決議によりその野望をくじかれているが、2020年10月の同制裁期限切れを狙って、数年前からロシアと中国が戦闘機や戦車の売り込みを開始している
●防空兵器については、ロシアがS-300地対空ミサイルを提供して、近代的な防空体制の一歩を踏み出しており、これに国産のSAMを加え、SAMで国土の6割をカバーする防空網を整備している
●2018年5月に米国が「核合意」から離脱した以降、イランは制裁を解除しない限り核燃料濃縮を制限を超えて行うとしている
●イランは海外派遣戦力の造成を考えているが、現時点では正規・非正規のパートナーを支援することに焦点を当て対外影響力を行使しており、その先はイラク、シリア、イエメン等で、軍事協力合意との形では、更にAfghanistan, Belarus, China, Oman, Russia, South Africa and Venezuela,と協力関係を明文化し、対外支援の資としている
●またイラン海軍は。中国沖、南アフリカ沖、地中海で他国との共同作戦に参加している
●DIA長官のRobert Ashley陸軍中将は同レポートの序文で、イランは革命後の40年間、継続して米国に対抗し、米国の中東でのプレゼンスに反対し、イスラエルへの米国の支援を敵視ししてきたと表現している。
●そして、イランはサダムフセイン亡き後のイラク、内戦状態のシリアやイエメンで、上手く立ち回って影響力を行使しており、2003年から11年の間に命を落とした米軍兵士の603名は、イラクからの兵器で被害にあったと記している
●更にイランは、米国が中東で戦力を増強している中でも、中東地域に「米国は中東への関心をなくし、関与から逃れようとしている」との誤情報の宣伝活動に従事している
●イランの軍事組織は2重構造となっおり、約42万人の陸海空防空軍と、約19万人と言われている革命防衛軍である。同レポートは、この2重構造と近代兵器の入手困難さをイラン軍の弱点としている
●一方でイラン軍の脅威の源泉は、大規模な弾道ミサイル部隊、ペルシャ湾岸を主とした沿岸海軍力、そして近隣パートナー国と親派の組織との連携である。
●結果として、イランの「戦い方」は、通常選を避け・抑止し、地域での安保目的をプロパガンダや心理戦や不正規戦を通じて前進させることを追求する手法である
●イランの兵器入手先は、ロシア、中国、北朝鮮、ベラルーシ、ウクライナであるが、特にロシアとイランの軍事協力が近年飛躍的に大きくなっており、シリアのアサド政権支援面でも両国の協力が顕著である
●複数の国と軍事協力合意を結んでいる結果として、イランは弱小なパートナー国に小規模な部隊(地上部隊、空輸部隊、無人機部隊など)を送り込み、大きな作戦を支援している
●他に米国が懸念している分野として、イランが立ち上げつつある衛星打ち上げ計画があり、長距離弾道ミサイルやICBMにそのまま転用できるものとして米情報機関がその動向に関心を寄せている
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より細かい説明記事には、20日付米空軍協会記事などがあります→
http://www.airforcemag.com/Features/Pages/2019/November%202019/DIA-Clock-is-Ticking-on-Iran-Gaining-More-Military-Power-When-Embargo-Expires.aspx
冒頭で触れたように、米国防省が発表する軍事力レポートは、中国と2017年に復活したロシアに続き、イランで3か国目です。それだけイランの脅威を世界に訴えたいのでしょうし、中東の不安定化で米国が受ける影響が大きいということでしょう
2020年10月に「UN Security Resolution 2231」が失効した後に、何らかの追加制裁が可能なのか、中露が反対して制裁が解除される可能性が高いのか把握していませんが、トランプ大統領の個人的な感情で「イラン核合意」から離脱したことで、パンドラの箱を開けてしまったのかもしれません。
イランと日本は伝統的に良好な関係のベースがありますし、穏健なイスラム世界の構築をイランがリードしてくれるように働きかけたいところですが、世界が逆方向に加速しているようです
「空母トルーマン艦長にはイラン人の血が」
→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-08-15
「S-400絡みで湾岸諸国へのF-35売り込み停滞」
→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-11-13
米国防省「中国の軍事力」レポート関連記事
「2019年版」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-05-06
「2018年版」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-08-18
「2016年版」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-15
「2015年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-06-17
「2014年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-06-06
「2013年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-08
「2012年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-05-19
「2011年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-08-25-1
来年10月の国連制裁切れで中露が武器輸出を狙う
19日、米国防省がイランを対象とした初めての軍事力レポート「Iran Military Power」を発表し、実際に取りまとめたDIA(Defense Intelligence Agency)関係者が説明ブリーフィングを行った模様で、様々な軍事メディアがその概要を取り上げています
このレポートは、中国とロシアを対象とした「軍事力レポート」に続く3か国目のレポートで、米国が中東情勢のカギを握るイラン軍事力動向に注目し、それを世界に知らしめようと力を入れている様子が伺えます
約120ページの同レポートはざっくり言えば、イランはユニークな3本柱で抑止力を構築し、ペルシャ湾岸地域での覇権を確立しようとしていると分析し、3本柱として弾道ミサイル、多様で大きな沿岸海軍戦力、そして特殊部隊と近接国の親派勢力への支援を挙げています
また、核兵器は未開発だが、米国が懸念する活動は続いており、またICBMに利用できる規模のロケット技術を衛星打ち上げを通じて蓄えつつあると警戒しています
更に懸念として、2020年10月に国連決議に基づくイランへの武器禁輸が期限切れとなるため、この制裁が延長されない限り、中国やロシアから最新兵器が一挙に流入する可能性を示しています
日本の新聞なども取り上げると思いますが、メモ程度に取り上げておきます
各種米軍事メディアによれば同レポート概要は
●イランはイスラエルを上回る短距離及び中距離弾道ミサイル戦力を構築し、老朽化が進む航空戦力を補って、周辺敵対諸国や米国を抑止して脅威を与えている
●地域の覇権国を狙うイランは、大部分の通常兵器輸入を禁じた国連の制裁決議によりその野望をくじかれているが、2020年10月の同制裁期限切れを狙って、数年前からロシアと中国が戦闘機や戦車の売り込みを開始している
●防空兵器については、ロシアがS-300地対空ミサイルを提供して、近代的な防空体制の一歩を踏み出しており、これに国産のSAMを加え、SAMで国土の6割をカバーする防空網を整備している
●2018年5月に米国が「核合意」から離脱した以降、イランは制裁を解除しない限り核燃料濃縮を制限を超えて行うとしている
●イランは海外派遣戦力の造成を考えているが、現時点では正規・非正規のパートナーを支援することに焦点を当て対外影響力を行使しており、その先はイラク、シリア、イエメン等で、軍事協力合意との形では、更にAfghanistan, Belarus, China, Oman, Russia, South Africa and Venezuela,と協力関係を明文化し、対外支援の資としている
●またイラン海軍は。中国沖、南アフリカ沖、地中海で他国との共同作戦に参加している
●DIA長官のRobert Ashley陸軍中将は同レポートの序文で、イランは革命後の40年間、継続して米国に対抗し、米国の中東でのプレゼンスに反対し、イスラエルへの米国の支援を敵視ししてきたと表現している。
●そして、イランはサダムフセイン亡き後のイラク、内戦状態のシリアやイエメンで、上手く立ち回って影響力を行使しており、2003年から11年の間に命を落とした米軍兵士の603名は、イラクからの兵器で被害にあったと記している
●更にイランは、米国が中東で戦力を増強している中でも、中東地域に「米国は中東への関心をなくし、関与から逃れようとしている」との誤情報の宣伝活動に従事している
●イランの軍事組織は2重構造となっおり、約42万人の陸海空防空軍と、約19万人と言われている革命防衛軍である。同レポートは、この2重構造と近代兵器の入手困難さをイラン軍の弱点としている
●一方でイラン軍の脅威の源泉は、大規模な弾道ミサイル部隊、ペルシャ湾岸を主とした沿岸海軍力、そして近隣パートナー国と親派の組織との連携である。
●結果として、イランの「戦い方」は、通常選を避け・抑止し、地域での安保目的をプロパガンダや心理戦や不正規戦を通じて前進させることを追求する手法である
●イランの兵器入手先は、ロシア、中国、北朝鮮、ベラルーシ、ウクライナであるが、特にロシアとイランの軍事協力が近年飛躍的に大きくなっており、シリアのアサド政権支援面でも両国の協力が顕著である
●複数の国と軍事協力合意を結んでいる結果として、イランは弱小なパートナー国に小規模な部隊(地上部隊、空輸部隊、無人機部隊など)を送り込み、大きな作戦を支援している
●他に米国が懸念している分野として、イランが立ち上げつつある衛星打ち上げ計画があり、長距離弾道ミサイルやICBMにそのまま転用できるものとして米情報機関がその動向に関心を寄せている
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より細かい説明記事には、20日付米空軍協会記事などがあります→
http://www.airforcemag.com/Features/Pages/2019/November%202019/DIA-Clock-is-Ticking-on-Iran-Gaining-More-Military-Power-When-Embargo-Expires.aspx
冒頭で触れたように、米国防省が発表する軍事力レポートは、中国と2017年に復活したロシアに続き、イランで3か国目です。それだけイランの脅威を世界に訴えたいのでしょうし、中東の不安定化で米国が受ける影響が大きいということでしょう
2020年10月に「UN Security Resolution 2231」が失効した後に、何らかの追加制裁が可能なのか、中露が反対して制裁が解除される可能性が高いのか把握していませんが、トランプ大統領の個人的な感情で「イラン核合意」から離脱したことで、パンドラの箱を開けてしまったのかもしれません。
イランと日本は伝統的に良好な関係のベースがありますし、穏健なイスラム世界の構築をイランがリードしてくれるように働きかけたいところですが、世界が逆方向に加速しているようです
「空母トルーマン艦長にはイラン人の血が」
→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-08-15
「S-400絡みで湾岸諸国へのF-35売り込み停滞」
→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-11-13
米国防省「中国の軍事力」レポート関連記事
「2019年版」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-05-06
「2018年版」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-08-18
「2016年版」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-15
「2015年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-06-17
「2014年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-06-06
「2013年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-08
「2012年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-05-19
「2011年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-08-25-1
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