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リーク版NPR核態勢見直しが示す新方針 [安全保障全般]

NPR.jpg12日、2月に公式発表が予定されている米国防省の「核態勢見直し:NPRNuclear Posture Review」報告書がリークされ、Huffington Postのwebサイトに掲載されました。

国防省は、リーク版が作成途上にあるNPRの一案であることを否定せず、「段階を踏んだ議論が行われており、多くの検討案が存在している」、「NPRはまだ完成しておらず、検討中の案についてあれこれ外部と議論する習慣はない」、「国防長官や大統領の了解を得て初めて完成するものだ」とコメントしています

トランプ大統領は大統領選挙期間から、米国の核戦力を少なすぎると主張して規模と能力両方の増強を主張していますが、マティス国防長官ら軍幹部はこのNPRで総合的に検討すると慎重な姿勢を示していたところでした

もちろんあくまでも「案」であり、2月の正式発表で変わる必要もあるのですが、「本当のリーク」か、「世間の反応を見るリーク」か不明ながら、注目すべき新方針が打ち出されていますので、識者のコメント共に簡単にご紹介します

12日付Defense-News記事によれば
NPR2.jpg●12日付のHuffington Postに掲載されたリーク版NPRが、核兵器の3本柱維持を打ち出していることに驚きはないが、いくつかの点でトランプ大統領のこれまでの主張を反映した形跡が確認できる
小規模核弾頭(lower-yield nuclear weapons)の潜水艦への搭載を打ち出していることや、潜水艦に核搭載巡航ミサイルを再び搭載すること、更には核兵器の使用に関する米国のスタンス変化を示唆していることが新たな方向性として注目されている

●小規模核弾頭の導入は、現有の米国核弾頭の破壊力があまりにも大きすぎ、使用の敷居が高いことから、抑止力の点で疑問があるとの主張に対応したものである
破壊の範囲を限定できる小型核弾頭は使用の柔軟性があり、世界の破滅に直結する可能性がある大型核弾頭保有より抑止に有効だとの主張が背景にある
しかしこの小型核弾頭導入には根強い反対意見もあり、核兵器使用の「敷居を下げる」との懸念がその中核にある。また小規模な核弾頭使用を相手がどう受け止めるか予測が難しく、全面核戦争への導火線になるリスクが高まるとの懸念もある

●前回2020年のNPRの考え方を変え、潜水艦発射巡航ミサイルSLCMに核弾頭を搭載するアイディアには様々な方法がある。
●現有のトマホークを核搭載に改修する方法、検討中のトマホーク後継ミサイルの開発方針を変更する方法、全く新しいミサイルを開発する方法である。新型開発が最も高価だが、いずれの方法でも核搭載ミサイルを完成させるには多額の投資が必要である

政治的視点とコスト面の課題
GBSD2.jpg●リーク版NPRを政治的視点から見ると、最も注目すべきは、従来の「核兵器は敵の核攻撃に対する最終手段」との考え方を変え、「核兵器によらない重大な戦略的攻撃」に対する使用を示唆している点である
●これに対しする識者の反応は厳しく、「significant non-nuclear strategic attack」の定義が極めてあいまいで、意味を成しておらず、極めて危険な状況を生み出すと批判している
サイバー攻撃を受けた場合にも核兵器の使用可能性があるのか? 核兵器でサイバー攻撃が抑止できると考えているのか? このように核抑止の姿を拡大させることは、根本的な誤りであると主張している

●トランプ大統領が核軍拡を叫び始めてから継続している疑問がコストと予算の話で、リーク版NPRでもその疑問は解決されていない
●最近議会が警告の意を込めて公表した見積もりでは、リーク版NPR以前の国防省計画でも、実行するには今後30年間で約130兆円が必要となる。これは完全に実行不可能な額である
特に通常兵器大量更新時期を迎え、その更新さえも危ぶまれている中、新たに核兵器の新規開発を多量に組み込むことは不可能である。その点ではリーク版NPRは「プロパガンダの道具」に過ぎないし、このままでは2月発表予定のNPRも同類となる
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LRSO4.jpg小型核弾頭の導入や核兵器使用対象の拡大、更には「先制使用を否定しない」との表現もあるようで、トランプ大統領らしいところですが、上記の専門家の危惧を待つまでもなく、心配ですねぇ・・・

欧州や極東の「デカップリング」の危惧も再び話題になりそうな気もしますし・・・・うぅ・・・・ん。気になります。

日本では話題にもならないのかもしれませんが・・・・

Huffington Postのweb記事
https://www.huffingtonpost.com/entry/trump-nuclear-posture-review-2018_us_5a4d4773e4b06d1621bce4c5

NPR関連の記事 「国家安全保障戦略の発表」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-12-23-1
「議会見積:今後30年で140兆円」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-11-02-1
「次期ICBMと核巡航ミサイルの企業選定」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-08-27-1

「マティス長官がNPRに言及」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-06-15-1
「トランプ政権NPRの課題」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-09
「2010年NPR発表」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-07

21世紀の抑止概念を目指す
「3本柱はほんとに必要か?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-07-22
「米戦略軍も新たな抑止議論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-11
「21世紀の抑止と第3の相殺戦略」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-03

「相殺戦略特集イベント」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-29-1
「期限を過ぎてもサイバー戦略発表なし」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-04-25

戦術核兵器とF-35記事など
「戦術核改修に1兆円」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-20
「F-35戦術核不要論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-16
「欧州はF-35核搭載型を強く要望」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-22
「F-35核搭載は2020年代半ば」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-23-1
「F-35は戦術核を搭載するか?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-07-06

ICBM後継に関する記事
「初のオーバーホールICBM基地」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-05-15
「ICBM経費見積もりで相違」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-26
「移動式ICBMは高価で除外」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-16
「米空軍ICBMの寿命」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-09-16
「米国核兵器の状況」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-25-1

オハイオ級SSBNの後継艦計画関連
「次期SSBNの要求固まる」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-08-2
「オハイオ級SSBNの後継構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-01-25-1
「SLBMは延命の方向」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-13

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