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米空軍トップが再び21世紀の抑止に言及 [安全保障全般]

Gold-Live.jpg2日、Goldfein米空軍参謀総長が米空軍協会主催の「Air Warfare Symposium」で講演し21世紀の抑止についての考え方を説明し、その中での米空軍の役割を訴えています

背景にはサイバーや宇宙と言った新たなドメインが戦いの場に登場し、本国の社会インフラや経済活動に対し、誰が犯人か判らないような手段で甚大な被害を与えることが可能となっており、核兵器を柱とした抑止の考え方を再整理する必要があるとの問題認識があります

またまんぐーすが本件に着目するのは、核戦争に発展するのを懸念するとの理由で、エアシーバトル(ASB)的な考え方を批判し、オフショア・コントロール(OSC)的な経済封鎖を、対中国戦略の一つの柱のように扱う議論が存在する事への、米国防省の姿勢を確認するためです。

ASB1.jpgつまり、米国防省は「第3の相殺戦略」を進める前提として、強固な核戦力を維持する前提の基で、圧倒的な通常戦力を「第3の相殺戦略」への取り組みを通じて米軍が今後も継続保持することによって、潜在的敵国を抑止するんだ!・・と考えていることの確認です

更に言えば、米国防省や米軍は、学者達がどのような議論を展開していようが、ASBを生み出したCSBAの元研究員であるWork副長官らのゲリラチームのような一群が、「第3の相殺戦略」の形を取って、あるべき軍事戦略追求を追求していると言う事です。

以下にご紹介する、空軍参謀総長の発言や、Work副長官やSelva統合参謀副議長の過去の発言は、事柄の性質抽象的な表現が多いですが、「抑止」の根本に関わる議論が始まっていると言うことです。

3月2日、Goldfein米空軍参謀総長は
Goldfein1-1.jpg21世紀の抑止とは陸海空、水中、宇宙、サイバーの多様なドメインで、敵に対して多様なジレンマを与え、かつ圧倒的なテンポで与えることにより敵を圧倒し、敵が我と同様の行動を起こさないようにする事である
●このため、統合戦力の全ての部隊が同じ作戦状況認識を共有する事が不可欠であるが、このために軍需産業界の皆さんには、強靭で新たなネットワークの創造への挑戦を期待したい

●この新たな創造のため、米空軍もこの「combat cloud」を実現するため、新たなアイディアに挑戦する環境提供に尽力するつもりである
●我々は、作戦状況を共有するための手段を創造しなければならない(We have to think about … creating that common operating picture)。

例えば、タクシーのような「Uber」では、アプリ上でUber車が何処に所在し、車種や運転手情報、進行方向、到着予想時間まで簡単に判る仕組みになっている。これが目指すべき方向ではないか。そう思わないですか?

2月7日、同参謀総長は
Goldfein6.jpgトランプ大統領が核兵器の増強発言をしていることに関し、「全てのオプションをオープンに検討する準備がある」「弾頭数や威力の議論も問題ない」「国防省が現在構想している核兵器近代化計画の継続が議論の主対象になるだろう」と述べたが、更に続けて
●「一方で、21世紀の抑止についてより幅の広い議論を期待したい。宇宙やサイバードに戦域が拡大し、世界共通の公共財が目標になり得る時代における、抑止のあり方や核抑止の関わり方にまで議論の幅を広げる必要があろう」と語った

2016年10月28日、Work副長官がCSISで講演し
work AFA.jpgJohn Mearsheimerが核兵器時代の大国の定義で示したように、核攻撃に生き残れることによる核抑止力と、無敵の通常兵器保有が「great power」には必要である
●「第3の相殺戦略」は一つに目的に焦点を絞っており、それは通常兵器による抑止力を絶対的に強力にし、米国が戦争に巻き込まれる可能性を極限まで低下させることである。他の大国に対する通常兵器による抑止を指すものである
本戦略は、米国の通常戦力抑止力を強化する事により、主要な大国との本格紛争を回避することを期待する戦略である

同日CSISでSelva副議長は
●「第3の相殺戦略」は、解答ではなく質問である。それは潜在的な敵の能力を凌駕するため、どんな能力が我に必要かを問うものである
同戦略には決められたゴールはなく、単に目的地に向けてドライブするのでも、各軍種にどんな装備を購入すべきかを示してくれるモノではない

Selva-CSIS.jpg●代わりに同戦略は、国防省が繰り返し継続的に、敵がどのような優れた能力を蓄えつつあるかを監視し、その敵がどんな脅威を友軍にもたらすかを考え、その脅威への対処が通常戦力抑止を強化するかを自身に問うことを求める
●そのためには、机上演習や実演習を通じた作戦実験が重要で、これらを通じて技術やアイディアを、戦術や手順やドクトリンに取り込んでいくことが解答につながる

●正しき認識された戦術や手順やドクトリンを試し、それらを米軍や同盟国にも伝え、敵が戦場に持ち込むであろう通常戦力に対し、優位を確保する手法を考えなければならない
●そして敵が戦場に持ち込むであろう通常戦力とは、単純化すれば、長射程で、精密誘導で、陸海空だけでなく宇宙やサイバードメインで発揮されるものであろう 


2015年5月、クレピネビックCSBA理事長(当時)は
ASBの運命と第3の相殺戦略への動きを絡め説明し、
krepinevich6.jpg今やエアシーバトルASB検討は統合参謀本部のJ-7に移され、よく分からない別の名前を付けられている。
ASBにペンタゴンは悲鳴を上げた。ある軍種の予算を配分を増やし、ある軍種から削減することになるからだ。結果ASBは拉致監禁(hold)され、今後は困難な道をたどるだろう

●ただ、(拉致されたASB検討とは別に)かつてCSBAで同僚だったWork国防副長官(事実上の第3の相殺戦略発案・推進者)らのゲリラチームのような一群が、(あるべき軍事戦略追求のため、関連装備である)LRS-B(空軍の次期爆撃機)、潜水艦や水中無人艇、空母艦載無人攻撃機UCLASS、エネルギー兵器等の実現・調達等を画策している
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「第3の相殺戦略」が正しいか間違っているかではなく、現在の米国防省において、「第3の相殺戦略」は上記の発言が示すような位置づけにあり、ASB的な考え方で通常戦力を圧倒的レベルに引き上げる努力が行われていると解釈して良いと思います

ASEANPlus.jpgASBが発展し、ASLB(Air,Sea,and Land Battel)になる方向でしょうし、陸軍火力に期待し、MaltiドメインやCrossドメインの方向に進むのかも知れませんが、実務は国防省や米軍が行っているのでアリ、学者の論文で進んでいるのではありません

引き続き、サイバーや宇宙を絡めた抑止議論に早々決着がつくとは到底思えませんし、また「combat cloud」なる新たなネットワークが実現可能で現実の場で有用なのか「???」なのですが、我が国も防衛を考えるに辺り、基礎知識としてMemoしてみました

頭の整理不十分で申し訳ありませんが、今日はここまで!

トランプ政権とNPR(核態勢見直し)
http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-09

「第3の相殺戦略」関連の記事
「マティス長官と相殺戦略」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-01-19
「この戦略は万能薬ではない」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-11-1
「CSISが相殺戦略特集イベント」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-29-1
「相殺戦略を如何に次期政権に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-04

「CNASでの講演」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-12-15
「11月のレーガン財団講演」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-15
「9月のRUSI講演」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-12

「小野田治の解説」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-05
「慶応神保氏の解説」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-01-26
「第3のOffset Strategy発表」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-09-06-1
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