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天下の正論:陸上自衛隊の削減 [ふと考えること]

過去記事「温故知新」シリーズです。

GSDF3.jpg昨年の大震災状況や東南海地震の予測から陸上自衛隊が災害対処のために存在するがごとくの扱いを受け、陸自の無い奈良県が災害派遣用に陸自の誘致を行う始末。
そんな社会風潮を受け、2年前の防衛大綱作成時に盛り上がった「陸上自衛隊削減」の正論が主張されにくい環境が生まれています

自然災害への対処は無視できませんが、軍事組織はそのために存在するのではなく軍事的脅威に備えるためのものであることを忘れてはなりません。
特に脅威に大きな変化が見られるこの時代に、旧態然とした陸自を現状の機能・規模・人員で残すことに日本の財政は耐えられないと思います。

GSDF7.jpgこのことは自衛隊の統合運用が開始され、普段から陸海空自衛官が日常的に業務を共にする機会が増えることにより、陸上自衛官自身が一番感じているようです
統合の作戦運用を経験した陸自幹部の多くが、海空自衛隊の活動の多さと隊員の多忙さを見て、陸自の余裕振りを恥ずかしく感じていると多くの高級幹部が語っているとの話を耳にしたことがあります。

本日は現在の社会風潮やそれを利用して組織防衛を図る陸自に立ち向かうべく、2年前の読売新聞社説の概要をご紹介します

「防衛大綱改定 陸自の定員削減が不可欠だ」
2010年11月21日付読売新聞社説)

(陸自と財務の攻防)
日本の防衛体制を強化するには、陸上自衛隊よりも、海上、航空両自衛隊に予算を重点配分する決断が求められる
GSDF6.jpg ●政府の「防衛計画の大綱」改定作業が大詰めを迎えている。焦点の一つが、現大綱で15万5千人とされている陸自定員をどう見直すかという問題だ。
●陸自は当初、南西諸島の防衛体制強化などを理由に、1万人以上の増員を要求していた。その後、増員要求を数千人に下げたが、定員を減らして14万1千人の実員に近づけるよう求める財務省との開きは依然、大きい。

(戦略環境無視の陸自案)
●尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件や中国海空軍の活動範囲の拡大を踏まえれば、与那国島への陸自部隊の配備や、那覇を拠点とする陸自第15旅団の増強は妥当だ
GSDF2.jpgだが、その増員分は、純増ではなく、冷戦時代の名残である北海道の2個師団・2個旅団体制などの縮小で捻出(ねんしゅつ)すべきである。陸自の要求は筋が通らない。
●むしろ自衛隊全体のバランスを考えれば、陸自の定員や戦車・火砲を一層削減し、その分を海自と空自の装備や定員の増強に充てる必要がある。南西諸島の陸自を増やしても、制海・制空権を確保できなければ、抑止力は強化されない。

(選択と集中の時)
●北朝鮮の核・ミサイルの脅威や中国の急速な軍備増強という状況の下、8年間続いた防衛費の削減には終止符を打つべきだ。一方で、国家財政は厳しく、防衛費の大幅な伸びは非現実的だ一層の「選択と集中」を進めることが不可欠である。
●ところが、陸海空3自衛隊の予算配分は長年、ほぼ固定されている。今は、3自衛隊の部隊を統合運用する時代になったのに、組織を守ろうとする各自衛隊の縦割り意識が依然強く、冷戦後の防衛力の見直しが不十分なままだ

(陸自のゆがみと地方政治の悪用)
GSDF4.jpg ●陸上自衛官は、他国に比べて、幹部や中堅が多く、若手が少ないという、いびつな階級構成になっている。平均年齢も高い。
●現状では、来年度以降、退職手当の増加などで数百億円単位で人件費が膨張し、装備費や訓練費を圧迫しかねない。給与・定年制の見直しや再就職支援の強化など人件費抑制策の検討が急務だ。
定員削減には、政治の役割が重要となる。157の陸自駐屯地の統廃合には、特に過疎化が進む地元の反対が強いが、安全保障と過疎対策は区別すべきだ
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当時は、月刊誌・文藝春秋のコラム「霞ヶ関コンフィデンシャル」にも同方向の意見が掲載され、陸自定員維持どころか増員を主張する官僚的陸自幹部への批判が広がりつつある状況を嘆いていました。
コラムの紹介: 「国防より組織防衛」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-11-16

念のために注意が必要なのは、上記社説では「制海・制空権を確保」が重要としていますが、脅威が変化している現在では、制空権は必ずしも戦闘機の空中戦で勝ち取るものではなく、中国は「ミサイル等で地上で日米航空機や飛行場の破壊」を狙っている点です。

GSDF1.jpgまた、現在の陸自の人員を単に削減するのではなく、削減した定員を自衛隊の欠落・不足分野に充当することも考慮すべきでしょう。もちろん陸自が担当してもOKです。
例えば、移動式の地対地ミサイルや地対艦ミサイル部隊、サイバー戦部隊、非公然工作部隊、無人ISR機部隊、宇宙アセット運用部隊等々が考えられます。

「8年間続いた防衛費の削減には終止符を打つべきだ。一方で、国家財政は厳しく、防衛費の大幅な伸びは非現実的だ」・・これもまったくの正論です。

これらの見直しには、専守防衛の修正、戦闘機部隊のリストラ・資源の再配分等々を同時に行う必要があることは当然ですが・・・。

Twitterもよろしく→https://twitter.com/Mongoose2011

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コメント 3

ななし

論者の考察は、論理に捻れがあるように思えます。

今日的戦略環境に適応させるためには、陸上戦力より海空戦力の充実をすべきとの趣旨と理解しましたが、
1.海空戦力の充実は、HICを重点としている点で今日的とはいいえない。むしろ冷戦時代の発想である。
2.今日の安全保障環境を論じているはずなのに、他国間枠組みの軍事的ミッション(多くの場合、陸軍主体)やサイバー戦(新たな軍種の議論)が欠如している。
3.軍隊の任務を狭義に定義しているが、冷戦後はMOOTW(戦争以外の軍事力の活用)に軍隊の任務は国際的に拡大しており、狭義の任務定義自体が今日的ではない。災害での活用は実は今日的議論である。

という問題点があり、冷戦時代ならいざしらず、近年の戦略環境を議論するうえでは、偏った論説であるように思えます。「天下」の正論なのですから、より広範な考察を期待いたします。
by ななし (2012-12-22 14:29) 

90戦車

全く同意です
陸自も、組織防衛の考えを早く改めなあといけません

安部政権に代わりまさたが、政治がリーダーシップを取って、真に役立つ自衛隊に、替えて欲しいてわすね
by 90戦車 (2012-12-30 22:27) 

どーも

賛同します。
自分達の組織に無駄な人員が多数いる事を陸自幹部は自覚している筈。
それは曹士のみならず幹部も然り。
直ちに削減ができないのなら、若年陸士の海、空への転出。
三自共通配置への陸曹の勤務者増等をもって陸自隊員を順次削減し、削減分を海、空へ回すべきだと考えます。
by どーも (2014-01-18 23:32) 

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