NDSを否定してCNASが2年計画で対中露構想を練る [安全保障全般]
国家防衛戦略NDSは対中露で米を敗北に導くと
まず問題を上げ、今後2年間で組織横断の議論を
6月12日、CNASのChristopher Dougherty上席研究員が「Why America Needs a New Way of War:なぜ米国に新たな戦い方が必要か?」とのレポートを発表し、冷戦後の湾岸戦争のような戦いを想定しがちな米国防省や米軍が生み出した国家防衛戦略NDSは、対中露で米国を敗北に導くとその誤りを指摘しています
そして筆者Dougherty上席研究員は、現時点では各軍種に具体的な提案は行わないものの、CNASとして今後2年間で国防省の多様な有志人材との意見交換を通じ、マルチドメインや統合の新たな方向性を探すとレポート発表会見で語ったようです
Dougherty研究員は国防省内部に協力を求め、同意してくれた人々の反応について紹介し、「そのような検討をやるべきだと長年言い続けてきたんだ」と頷いて協力を約束してくれた例や、すこし慎重な様子でも「面白そうだ。全く問題ない」と言って応じてくれた例を紹介し、広く国防省内で問題認識が共有されていると説明したようです
先日ご紹介したCSBAの「海洋プレッシャー戦略」を「がっかりだ」とご紹介しましたが、このCNASのNDS否定から入る手法も、同じ問題認識からスタートしているような気もします。
根本的に今の戦い方の延長線ではダメで、何な新たなものが必要だ・・・との認識です。
CSBAレポートは国防省国防戦略委員会の委託だったため、政策的な縛りや現状路線から大きく離れることが出来ず、「実現可能性が低い軍事的オプション」を提示せざるを得なかったと解釈すれば、CNASレポートは既存の枠組みを離れた検討を追求しようとするものですが、根本にあるのは現路線の「破たん」を認めなければ前に進めないとの危機感です
または、CSBAの委託研究結果「海洋プレッシャー戦略」があまりにも「玉砕的」だったのに我慢できず、もう一つの本流と自覚するCNASが我慢できずに新構想検討をぶち上げたのかもしれません
以上はまんぐーすの個人的解釈でしたが、大陸国である中国やロシアと、米軍の拠点が少ない西太平洋地域で戦うのはそれだけ困難だということでしょう。
CNASの今後の検討の前提がよくわかりませんが、エアシーバトルが想定していた懲罰的な中国本土攻撃を避け、海上封鎖や第一列島線上で強靭に戦う路線でないことを願うばかりです
以下では、発表説明会でChristopher Dougherty上席研究員が語った内容を、Military.comの記事からご紹介します
12日付Military.com記事によれば
●2018年の国家防衛戦略NDSに基づき、各軍種が計画を立案し、装備品開発に取り組んでいるが、中露の複雑な防御ネットワークを突破しようとするNDSが示す試みは時間の無駄であり、米軍を敗北に導く
●NDSやペンタゴンは、高度な防空ミサイルシステム網や電子妨害、GPSや衛星通信攻撃兵器など、米軍による効果的な攻撃力を弱める中露の優れたA2AD網を破砕することに焦点を当ているが、これは誤りである
●中露のA2AD網が提示する脅威が中露作戦の「重心」だとのNDSの考えは誤った判断であり、中露A2AD対処に重点を置くならば、その方向は間違っている
●相手が「盾」を持って戦いを挑んできても、あなたが全ての時間を費やして「刀」で「盾」にぶつかっていてはいけない。「盾」を避けて戦うことを考えねばならない
●これらの考えは、私が4年間、国防省の戦力造成戦略室での勤務間に得た経験を発展させてまとめたものであり、加えて私の陸軍レンジャー部隊での3年間の経験も加味したものである
●国防省か現在想定する戦い方は冷戦後の流れそのままで、今後の対中露を考えた場合には機能しない。また国防省の安保環境への現在の対応は、残念ながら、小出しでやる気が感じられないもので、これは現状の問題やその兆候を体系的にとらえることが出来ていないからだ
●この結果、米軍は他を大きく引き離した強大な力を持つとの誤った認識を導き、中露との戦いで敗れるリスクを高めている。中露がイラクやユーゴスラビアのような地域脅威と誤認識しているようだ
●以下の4つの視点で上述の問題を今日はご紹介する
--- 米軍指導者は我が軍が選ぶ場所と時間で敵と戦う前提に慣れているが、敵が選んだ時と場所で戦うことに備え、効果的に戦わねばならない
--- 情報活用や分析の手法や技術でなく、情報を獲得する戦いに焦点を当てるべきだ。海兵隊司令官の「ネットワークを機能させて迅速に意思決定するサイドが、将来の戦いで優位を占める」との言葉は至言である
--- 我が軍が安心して戦いの準備をできる「聖域」は、将来の戦いには存在しない。物理的攻撃の範囲はその精度と共に急速に拡大発展しているが、そのような攻撃が難しい場所でも、サイバーや電子的手段で作用が可能な時代である。
--- 各ドメインの完全な制圧状態がない状態で、敵侵攻を撃退する手法を考えるべきである。我の自由度が限られた敵の強固なA2AD網の中に入り込んで、所望の成果を獲得する必要がある
●米軍の各軍種は、また国防省は、それぞれに上述の問題に対応すべき取り組みを幾らか行っており、陸軍の「Futures Command」創設や海兵隊の「Marine Corps Warfighting Lab」は、良い取り組みである
●マルチドメイン作戦への取り組みも良いスタートである。今回のレポートは今後2年間のCNASにおける「Defense Program」の先陣を担うものであり、国防省内の軍人と文民が共に恐れることなく大胆な議論をし、報告をまとめる端緒である。
●国防省内では、「そのような検討をやるべきだと長年言い続けてきたんだ」とか、「面白そうだ。全く問題ない」と言って協力してくれる人が既におり、国防省内で問題認識が共有されていると感じている
///////////////////////////////////////////////////
レポート現物は以下に
→https://www.cnas.org/publications/reports/anawow
Dougherty上席研究員が述べた「4つの視点」は、エアシーバトルコンセプトが発表された2010年当時から訴えられてきた点だと思うのですが、軍事組織は自分で変われないのでしょうか・・・
CSBAの「海洋プレッシャー戦略」を取り上げた記事の後半部分で、エアシーバトルコンセプトの脅威認識を、しつこいですがもう一度、ご確認いただいて、同研究員の思いと現実政策や装備品開発の現状の乖離を考えて頂ければと思います
記事「CSBA海洋プレッシャー戦略の概要」
後半部分でエアシーバトルの概要をご紹介しています
→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-06-13
まず問題を上げ、今後2年間で組織横断の議論を
6月12日、CNASのChristopher Dougherty上席研究員が「Why America Needs a New Way of War:なぜ米国に新たな戦い方が必要か?」とのレポートを発表し、冷戦後の湾岸戦争のような戦いを想定しがちな米国防省や米軍が生み出した国家防衛戦略NDSは、対中露で米国を敗北に導くとその誤りを指摘しています
そして筆者Dougherty上席研究員は、現時点では各軍種に具体的な提案は行わないものの、CNASとして今後2年間で国防省の多様な有志人材との意見交換を通じ、マルチドメインや統合の新たな方向性を探すとレポート発表会見で語ったようです
Dougherty研究員は国防省内部に協力を求め、同意してくれた人々の反応について紹介し、「そのような検討をやるべきだと長年言い続けてきたんだ」と頷いて協力を約束してくれた例や、すこし慎重な様子でも「面白そうだ。全く問題ない」と言って応じてくれた例を紹介し、広く国防省内で問題認識が共有されていると説明したようです
先日ご紹介したCSBAの「海洋プレッシャー戦略」を「がっかりだ」とご紹介しましたが、このCNASのNDS否定から入る手法も、同じ問題認識からスタートしているような気もします。
根本的に今の戦い方の延長線ではダメで、何な新たなものが必要だ・・・との認識です。
CSBAレポートは国防省国防戦略委員会の委託だったため、政策的な縛りや現状路線から大きく離れることが出来ず、「実現可能性が低い軍事的オプション」を提示せざるを得なかったと解釈すれば、CNASレポートは既存の枠組みを離れた検討を追求しようとするものですが、根本にあるのは現路線の「破たん」を認めなければ前に進めないとの危機感です
または、CSBAの委託研究結果「海洋プレッシャー戦略」があまりにも「玉砕的」だったのに我慢できず、もう一つの本流と自覚するCNASが我慢できずに新構想検討をぶち上げたのかもしれません
以上はまんぐーすの個人的解釈でしたが、大陸国である中国やロシアと、米軍の拠点が少ない西太平洋地域で戦うのはそれだけ困難だということでしょう。
CNASの今後の検討の前提がよくわかりませんが、エアシーバトルが想定していた懲罰的な中国本土攻撃を避け、海上封鎖や第一列島線上で強靭に戦う路線でないことを願うばかりです
以下では、発表説明会でChristopher Dougherty上席研究員が語った内容を、Military.comの記事からご紹介します
12日付Military.com記事によれば
●2018年の国家防衛戦略NDSに基づき、各軍種が計画を立案し、装備品開発に取り組んでいるが、中露の複雑な防御ネットワークを突破しようとするNDSが示す試みは時間の無駄であり、米軍を敗北に導く
●NDSやペンタゴンは、高度な防空ミサイルシステム網や電子妨害、GPSや衛星通信攻撃兵器など、米軍による効果的な攻撃力を弱める中露の優れたA2AD網を破砕することに焦点を当ているが、これは誤りである
●中露のA2AD網が提示する脅威が中露作戦の「重心」だとのNDSの考えは誤った判断であり、中露A2AD対処に重点を置くならば、その方向は間違っている
●相手が「盾」を持って戦いを挑んできても、あなたが全ての時間を費やして「刀」で「盾」にぶつかっていてはいけない。「盾」を避けて戦うことを考えねばならない
●これらの考えは、私が4年間、国防省の戦力造成戦略室での勤務間に得た経験を発展させてまとめたものであり、加えて私の陸軍レンジャー部隊での3年間の経験も加味したものである
●国防省か現在想定する戦い方は冷戦後の流れそのままで、今後の対中露を考えた場合には機能しない。また国防省の安保環境への現在の対応は、残念ながら、小出しでやる気が感じられないもので、これは現状の問題やその兆候を体系的にとらえることが出来ていないからだ
●この結果、米軍は他を大きく引き離した強大な力を持つとの誤った認識を導き、中露との戦いで敗れるリスクを高めている。中露がイラクやユーゴスラビアのような地域脅威と誤認識しているようだ
●以下の4つの視点で上述の問題を今日はご紹介する
--- 米軍指導者は我が軍が選ぶ場所と時間で敵と戦う前提に慣れているが、敵が選んだ時と場所で戦うことに備え、効果的に戦わねばならない
--- 情報活用や分析の手法や技術でなく、情報を獲得する戦いに焦点を当てるべきだ。海兵隊司令官の「ネットワークを機能させて迅速に意思決定するサイドが、将来の戦いで優位を占める」との言葉は至言である
--- 我が軍が安心して戦いの準備をできる「聖域」は、将来の戦いには存在しない。物理的攻撃の範囲はその精度と共に急速に拡大発展しているが、そのような攻撃が難しい場所でも、サイバーや電子的手段で作用が可能な時代である。
--- 各ドメインの完全な制圧状態がない状態で、敵侵攻を撃退する手法を考えるべきである。我の自由度が限られた敵の強固なA2AD網の中に入り込んで、所望の成果を獲得する必要がある
●米軍の各軍種は、また国防省は、それぞれに上述の問題に対応すべき取り組みを幾らか行っており、陸軍の「Futures Command」創設や海兵隊の「Marine Corps Warfighting Lab」は、良い取り組みである
●マルチドメイン作戦への取り組みも良いスタートである。今回のレポートは今後2年間のCNASにおける「Defense Program」の先陣を担うものであり、国防省内の軍人と文民が共に恐れることなく大胆な議論をし、報告をまとめる端緒である。
●国防省内では、「そのような検討をやるべきだと長年言い続けてきたんだ」とか、「面白そうだ。全く問題ない」と言って協力してくれる人が既におり、国防省内で問題認識が共有されていると感じている
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レポート現物は以下に
→https://www.cnas.org/publications/reports/anawow
Dougherty上席研究員が述べた「4つの視点」は、エアシーバトルコンセプトが発表された2010年当時から訴えられてきた点だと思うのですが、軍事組織は自分で変われないのでしょうか・・・
CSBAの「海洋プレッシャー戦略」を取り上げた記事の後半部分で、エアシーバトルコンセプトの脅威認識を、しつこいですがもう一度、ご確認いただいて、同研究員の思いと現実政策や装備品開発の現状の乖離を考えて頂ければと思います
記事「CSBA海洋プレッシャー戦略の概要」
後半部分でエアシーバトルの概要をご紹介しています
→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-06-13
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