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米陸軍の電子戦:失われた15年を取り戻す動き [Joint・統合参謀本部]

Church EW.jpg15日付Defense-Newsが、米陸軍司令部電子戦部長へのインタビュー記事を掲載し対テロ作戦の15年ですっかり失われた米陸軍の電子戦TTP(戦術、技術、手順)を、米陸軍が取り戻そうと取り組む様子を紹介しています

電子戦に関する自らの惨状を薄々感じていた米陸軍ですが、ウクライナでロシア軍の強力な電子戦に対峙し、「米陸軍は露陸軍の1/10も電子戦も出来ない」と驚き狼狽する状態にある中、何とか前進しようとする極めて地道な取り組みが行われているようです

「露軍の電子戦に驚く米陸軍」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-08-03-1

予算が限られる中、派手な装備品開発の話は出てこず、部隊にカードを提示して妨害を受けている状況を付与する訓練の様子など、本当に基礎から取り組み始めた様子が伺える中身です。

15日付Defense-News記事によれば
EW2.jpg●米陸軍電子戦部長Jeffrey Church大佐は、Defense-Newのインタビューにペンタゴンで答え、陸軍として電子戦TTPの再編に取り組んでおり、通信、情勢認識から兵器誘導等々まで多くを依存している電磁パルスを巡る戦いで、前線で兵士が奇襲されることがないよう備えていると述べた。またサイバー分野でも同様に取り組んでいると語った

●例えば6月のポーランド軍との共同演習「Anakonda」でも電子戦が組み込まれた。安全のため実弾射撃訓練では電子戦を加えなかったが、それ以外の場面で特定部隊に電子戦妨害を受けている状況を付与するカードを提示し、部隊行動を制限した状況で訓練させた。ただ、兵士のスマホやTV利用を制約する事や、ポーランドの地元を知ることを妨げたくはないので、その辺りは配慮した

●同演習では改めて、自軍が使用する周波数割り当てを適切に行うことの重要性を再認識した。味方が割り当て以外の周波数を使用し、自軍内の他部隊を妨害する結果となる事例が発生し、ロシア軍に妨害される前に自滅する事態が発生してしまった

●加州の「NTC:National Training Center」で、8月に大規模な電子戦環境の演習を計画している。本演習ではロシアのような脅威だけでなく、太陽や発電機や人間社会や自然がもたらす様々な電波妨害要因も含めて対処訓練を計画している
●NTCでの同演習にはサイバー戦も組み込まれ、旅団規模の訓練部隊が参加する。訓練の中では100%機能喪失ではない管理された妨害を部隊に与え、如何に状況に対応して作戦目的を達成するかを考えさせ、妨害対処のための装備品操作や配置を実行させる

EW3.jpg●演習の教訓はTTPの再編に活用される。同時に、ソ連との対峙を通じて米陸軍の電子戦能力が高かった、60~90年代当時のレベルに引き戻す努力の一環でもある。過去15年間の対テロ作戦で、米陸軍がないがしろにしたのだ
基本に立ち返るとは、些細な基本を習慣付けることでもあるなるべく低出力で通信を行い、指向性の高いアンテナを用い、敵との間には山や丘を置くように陣取って通信等の漏洩を防ぐ、地図やコンパスで妨害源の方向を推測する等々、かつては部隊や兵士が当たり前に行っていた習慣の復活でもある

周辺の電波環境に影響を与える事無く電子戦訓練を行うため、兵士や部隊が保有する装備だけに直接妨害状況を発生させる「direct injection jammer」装置の配分も行われている。外部に妨害電波を出さず、特定装備に接続して妨害状況を発生させる装置である
この装置により、海外で妨害電波発射や電波使用使用申請が容易でない国でも、電子戦訓練が工夫できるようになってきている

●また米陸軍は9月から、前線部隊が電子戦作戦計画の作成を容易に出来るよう支援する「Electronic Warfare Planning and Management Tool」を配分する計画である。
●電子戦部長Jeffrey Church大佐は、米陸軍が後れを取っていることを率直に認めつつ、「追いつくための努力を続けている。電磁スペクトラムの世界に戻る努力だ。この世界に追いつき、支配する地位を奪還するためにだ」と語った
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完全に出遅れていますが、それでも今の努力がなければ、今巻き返しを図らなければ将来はありません

EW.jpgしかし日本軍内部では、このような危機感を改善に結びつける動きは見られません。たまたま新装備に電子戦能力が「くっついてきた」とか「新しいものには何か付けておけ」程度で、組織文化に取り込もうとする努力は寂しい限りと言って良いでしょう

脅威の変化や戦いの様相を無視し、戦闘機部隊や戦闘機数だけを死守しようとする戦闘機命派の姿勢に無力感を感じ、思考を止めてしまったその他大半の組織構成員・・・・。このままでは太平洋戦争と同じです・・・

記事:書籍「失敗の本質」から今こそ学べ!
http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2013-12-31

電子戦で劣勢な米軍の「あせり」
「米軍の電子戦の惨状と取り組み」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-17-1
「露軍の電子戦に驚く米軍」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-08-03-1
「ウクライナで学ぶ米陸軍」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-02 

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「ステルス機VS電子戦攻撃機」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-22
「E-2Dはステルス機が見える?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-06-12

「EA-18Gで空軍の電子戦を担う」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-09-08
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「緊縮耐乏の電子戦部隊」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-01-29-1

「MALDが作戦可能体制に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-08-29-1
「電波情報収集RC-135」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-01-09
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