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悲劇:国産ステルス戦闘機「F3」開発報道を嘆く [ふと考えること]

F-3 ASDF.jpg17日付産経新聞web(Sankeibiz)は、日本政府が航空自衛隊の戦闘機「F-2」の後継機となるステルス戦闘機「F-3」(仮称)を開発する方針を固めた報じ、左藤防衛副大臣のインタビューなども掲載しています。
直接的には、「ステルス機用の強力なエンジン(推力15トン)の開発にめどがつき、国内技術だけで高性能戦闘機を製造できる見通しが立った」ことが引き金になったようです。

記事によれば、今夏に飛行試験を開始する「先進技術実証機(ATD)」の成果を踏まえ2018年度までに「F-3」の具体的な開発計画を決め、計画通りに開発を終えれば2028年以降に順次、部隊に配備する計画だそうです

F-3 ASDF2.jpg国産の技術が成熟し、「一国の航空機技術力の象徴」といわれる戦闘機が優れたレベルで国産可能となること自体は素晴らしいことです。空中戦の性能で「他国の最新鋭戦闘機を上回る性能を目指し」、「零戦の夢再び」も結構です
また、防衛省が左藤副大臣を先頭に「戦闘機開発には1000社以上が関連するので経済効果が大きい。雇用や新技術開発にもつながる」、「経済効果は合計で8兆3000億円」と大宣伝するのもほほえましい限りです・・

でも思います。「F-3」は日本の国防環境の中でどれほど重要なんですか? 国防投資全体の中で「F-3」への投資はどの程度の優先度や比率になるんですか? 他の必要な投資とのバランスをどう考えているの? そんなことを考えてみます

まず17日付産経新聞web記事の概要
F-3用のステルス戦闘機用の「ハイパワースリムエンジン(HSE)」は「先進技術実証機(ATD)」と呼ばれる試験機に搭載された推力5トン級の「実証エンジン(XF5)」の技術を生かし、IHIと防衛省技術研究本部が開発。2018年度をめどに15トン級の戦闘機用試作エンジンを仕上げる計画
●一方、ATDは今夏にも飛行試験を始める。F-3に搭載するステルス技術やエンジン噴射の角度制御での「高運動性能」等実験を、2016年度まで実施。データを基に、2018年度までに「F-3」の具体的な開発計画を決め、計画通りに開発を終えれば2028年以降に順次、部隊に配備する計画

F-3 ASDF3.jpg15トン級の戦闘機はエンジンは、世界でもP&WやGEやロールスロイス(RR)などだけが製造技術を持つもので、純国産戦闘機開発の壁となっていた
防衛省は開発費用だけで5~8000億円を見込んでいるが、戦闘機にはこのほか、製造や維持、改修、さらに耐用年数経過後の廃棄に至るまでさまざまな費用がかかる

●左藤副大臣は「歴史的に大きな転換点になるだろう。日本にはステルス関連で、機体の構造や材料、エンジン回りの優れた技術がある」と語り、対空戦闘で他国の最新鋭戦闘機を上回る性能を目指し、戦後70年を経て初めて視野に入った一線級の国産戦闘機は日本の航空機産業の復権をかける意気込みを示した

左藤防衛副大臣は国産の意義を
Satou DDM.jpg●共同開発では、他国の技術を取り込め、参加国同士で安全保障面の関係を強化でき、リスクや開発コストを削減できる。ただ、特定の国に全面的に依存しているわけにもいかない。共同開発を視野に入れながらも、国産を選択できるように技術の蓄積・高度化を図りたい
●国産化により、防衛生産・技術基盤の維持・強化に役立つ。また自衛隊機の適時適切な能力向上、高い可動率の維持に繋がり、安全保障の主体性の確保に寄与でき、共同開発時の交渉力にもなる

技術波及(スピンオフ)にも期待。例えば、F-2共同開発時の炭素繊維強化複合材技術はB-787旅客機に、レーダー技術は電子料金収受システム(ETC)に応用されている
戦闘機を防衛装備移転三原則の下で、海外に移転できるかどうかの方針は決まっていない。さまざまな兼ね合いがあるので国家安全保障会議(NSC)で可否を議論することになる

●対艦能力だけでなく、対空能力もかなりの水準までいけるのではないか。優れた戦闘機には抑止力を高める効果があるということを強調しておきたい

ハイパワースリムエンジンの説明記事
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150316-00000001-fsi-bus_all&pos=1


当然まんぐーすは反対です
F-3 ASDF4.jpg●少子高齢化が急速に進み、少なくとも半世紀は現在の財政状況に大きな変化は無いことを踏まえれば、実態として日本の国防費を急激に増加させることは極めて困難との前提でまず考えるべき。
●従って今後の国防投資は、歴史的に見ても大きな転換点にある戦略環境や軍事技術動向を見極めつつ、日本に必要な優先分野を絞り込み、効率的に行うことが不可欠。

●世界及び極東の国々は相互依存が進んでおり、武力紛争自体は国益に大きな負のインパクトとなる。従って、中国を中心とした周辺諸国との軍事的な緊張は高まりつつあるが、適切な国防力を維持整備することで抑止力を強化し、紛争の未然防止を目指すことが最重要
抑止力強化を考えるには、相手の軍事的脅威とその変化をよく見極める必要があり、特に安価な弾道・巡航ミサイル技術の拡散、サイバー戦・宇宙戦・電子戦分野の影響力拡大は、従来の脅威認識の意識改革を迫るものである

「脅威の本質を見極めよ」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2012-10-08
「世界共通の中国軍事脅威観」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-12-30

●「脅威の変化」に対する意識改革は、日本の同盟国である米国で少しづつ着実に進んでいる。米国防省の年次報告書「中国の軍事力」は毎年「短期間に局地戦に勝利することを目指す中国軍」を紹介し、ミサイルやサイバー等の脅威に警鐘を鳴らし、2010年QDRが提唱したエアシーバトル検討も「脅威の変化」認識の表れ
●米軍内でも、「被害状況下」を想定した戦い方の必要性が叫ばれ、指揮所、指揮通信C2、飛行場等のインフラ、兵站支援等々のResiliency(抗たん性、強靱性)の議論が行われており、アジア太平洋での拠点の分散が始まっている

「Resiliencyを捨てたのか?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-09-13-1
「2014年版中国の軍事力」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-06-06
「米空軍C2の脆弱性議論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-02-18-1
「作戦基地の脆弱性議論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-12-05-1
「被害状況下で訓練せよ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-10-23
「国防科学委員会の警告」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-10-1

DF-21D.jpg日米両軍が過去数度に亘ってハワイで行っているIAMD机上演習(IAMD Wargame)では、恐らくこれら中国を中心とした「脅威の変化」が扱われ、両軍で脅威の実態の認識の共有が図られているはず
ただし注意を有するのは米軍は所詮「遠征軍」であり、国土が第一列島線を構成する日本とは戦略環境が異なる。従って、進行しつつある急激な「脅威の変化」に日本が適切に対応するには、米国や米軍の認識の変化を待っていては遅く、日本が先頭に立って軍事戦略・戦術の変化をリードする気概が必要

「米軍と海空自がIAMD演習」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-02-22

●既に米国研究者やシンクタンクでは、日本に「非対称の戦い方」や「日本版A2AD」を求める意見が大勢を占め始めており、従来型の防衛体制強化を「応援」しているのは軍需産業やそれに繋がる政治家(政治屋)ではないかとも個人的には思量する

CSBA理事長のFA論文http://www.foreignaffairs.com/articles/143031/andrew-f-krepinevich-jr/how-to-deter-china
「CNAS:日本もA2AD戦略を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-09-18
「CSBA:陸軍にA2ADミサイルを」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-14
「森本元防衛大臣の防衛構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-09-05

DF-21D 2.jpg日本より遙かに厳しい地理的環境で中国に対峙する台湾の状況は、大いに参考にすべきである。有力シンクタンクCSBAは昨年末、ついに台湾に対し「不正規戦」重視への方針転換を迫るレポートを発表した

●同レポートはその大きな理由として「脅威の変化」を挙げつつ、更に、台湾がこのまま戦闘機や大型艦艇や大型潜水艦を米国に要望し続けるようであれば、米国は台湾の本気度を疑うだろう、と説明した
つまり、「脅威の変化」に目を背け、従来通りの国防投資を続けるような国には真剣さを感じないし、応援する気にもならないと訴えたのである。日本はCSBAの訴えを、近い将来の日本への言葉として肝に銘ずるべきだろう

CSBA提言の台湾新軍事戦略に学ぶ
「その1:総論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27
「その2:各論:海軍と空軍へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27-1
「その3:各論:陸軍と新分野に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27-2

戦闘機のみ重視は改めるべき
米国の研究者やシンクタンクは「非対称の戦い方」や「日本版A2AD」を求め始めているが、戦闘機投資削減を求める声は聞かれない。軍需産業からの研究費や支援を受けているがための、消極的黙認姿勢ではないかと考えられる)

SinSin.jpg戦闘機は脆弱な複数のインフラ(飛行場、整備施設、管制機関、燃料、部品補給ルート等々)に依存する兵器システムであり、「脅威の変化」の前には、残念ながらResiliency(抗たん性、強靱性)の極めて低いシステムである。
●戦闘機は、平時における領域警戒には最低限なアセットが必要だが、有事に置いては初期段階で機能を喪失又は機能発揮が大幅に困難になる可能性が高く、各種ミサイルやサイバー戦・宇宙戦・電子戦分野に重点を置く相手国に対する抑止力は限定的と考えるべき

●またベトナム戦以降、米空軍の戦闘機は空中戦で撃墜されておらず、、制空や航空優勢の確保は空中戦以前の戦いで決している
従って将来戦闘機に求める能力は高度な空中戦能力ではなく、平時の領域警戒に効率的(整備性や航続能力やリンク能力等)に対応できる能力であり、また有事には可能な範囲で多様な兵器システムが搭載可能な程度のもの(拡張性や発展性を備えたもの)を限定的な投資範囲内で目指すべきである。そして戦闘機への投資比重は現状から大きく低下させるべき

日本の環境からすれば、有事に戦闘機にはあまり期待出来ないとの認識をいち早く共有し、新たな投資ポートフォリオ議論を組織を挙げて開始し、戦闘機重視で停滞した人材育成の活性化に繋げるべき

「戦闘機の呪縛から脱せよ」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2013-04-16

資源の再配分先(一案)
Resiliency.jpg抑止力を向上させるための投資再配分先は、Resiliency(抗たん性、強靱性)強化に寄与する移動式攻撃ミサイル部隊や防空部隊、指揮所やC2の強化
日本版A2ADに向けた小型潜水艦や高性能機雷、在空型無人ステルス攻撃機やエネルギー兵器への投資
●我が国のサイバー戦・宇宙戦・電子戦分野強化への投資
●同盟国等と協力した衛星を含めたISR及びC2の強化

●そして戦闘機操縦者の養成に過度に集中した人材育成投資を見直し、「脅威の変化」に対応した広範な人材育成に配分する
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戦闘機の方が役に立つ・・と主張されても、必要なときに離陸出来ない可能性が高い高価なアセットへは、投資を絞らざるを得ませんし、そうするべきです
いらいらしても仕方がありません、「脅威の変化」とはその様に厳しいものだからです

Rethinking Seminar.jpg明確にこの様な「脅威の変化」を認識し、変化への備えに取り組む姿勢が相手に伝わることが「抑止力の強化」に直結するのです。
更にこれが国民全体に広く理解され、日本が厳しい環境下にあることを承知しつつ、困難であることを知りつつ立ち向かう国民の姿を相手に見せることが、有効な抑止力として相手に作用すると思います。

「平成のゼロ戦」を生むことに話題性があっても、民生分野への波及効果があったとしても、それは「抑止力の効果」の観点からすれば、つまり国益全体の観点からすれば、極めて非効率な投資であり、現在の日本には不適切な投資だと言わざるを得ません
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おまけ
●中国国防省の副局長が日本にアドバイス
日本は中国のミサイルの脅威を考慮しないのだろうか。局地戦が発生して両国の艦艇や戦闘機が出動する前に、中国側がミサイルで先制攻撃するかもしれないのに
http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-10-29

ロバート・ゲーツ語録http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2013-05-19
ある意味で空軍は、その成功の犠牲者とも言える
http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-03-07
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CSBA提言の台湾新軍事戦略に学ぶ
「その1:総論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27
「その2:各論:海軍と空軍へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27-1
「その3:各論:陸軍と新分野に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27-2

「CNAS:日本もA2AD戦略を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-09-18
「CSBA:陸軍にA2ADミサイルを」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-14
「森本元防衛大臣の防衛構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-09-05

「脅威の本質を見極めよ」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2012-10-08
「世界共通の中国軍事脅威観」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-12-30

「戦闘機の呪縛から脱せよ」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2013-04-16
「作戦サイクルは機能するか?」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2014-05-05

「脆弱でも米軍展開を維持せよ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-09-12
「米空軍C2の脆弱性議論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-02-18-1
「作戦基地の脆弱性議論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-12-05-1
「被害状況下で訓練せよ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-10-23
「国防科学委員会の警告」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-10-1

「米軍と海空自がIAMD演習」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-02-22

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ななせ

>>またベトナム戦以降、米空軍でさえ戦闘機による空中戦で敵を撃墜しておらず

↑の部分、間違ってますよ。
湾岸戦争で米空軍のF-15が多数の戦闘機を撃墜した記録はありますし、アライドフォース作戦においても、米空軍のF-15とF-16が戦闘機を撃墜した記録があります。
by ななせ (2015-03-19 23:05) 

まんぐーす

2011年4月8日、イラクのモスルに展開する米陸軍部隊を訪問したゲーツ国防長官は兵士達に「United States hasn’t had an Air Force pilot shot down in air-to-air combat since the Vietnam War」と述べています。撃墜された米空軍パイロットはいない、が正しいです
by まんぐーす (2015-03-20 06:39) 

日本人

日本人の多くは憲法9条を平和憲法などと錯覚して、平和ボケしてしまっている人が多くいるようです。
外交や話し合いにより平和が確保できるのなら、ほぼ常に世界のどこかで戦争がなぜ起こっているのでしょうか
1985年まで、靖国参拝しても中国、韓国も何も言ってきませんでした。
それは経済力と言った抑止力が働いていたためです。
しかし、経済力の抑止力は既に失われました。
そうなれば、軍事力の抑止力が必要となってきます。
抑止力は戦争をするものではなく、日本の場合は戦争を避けるために必要なものです。
自分の学校や職場を考えてみてください、自分より力や役職が上の者と下の者に対し同じ態度や応対をしていますか、それが抑止力です。
「私は戦いません」と宣言し、紛争は話し合いで解決すればよいとし、話し合いの努力をする者と、「私は戦いません」と心で思っても、イザというときのため、しっかりと準備をしている者とでは同じなのだろうか、前者の場合口は、「こいつは何をやっても戦わない」、口だけと思って思われるため、「話し合おう」と言っても、そんな面倒くさい交渉なんかしなくとも力で奪えばいいのだからという意識がはたらく可能性が高くなる。
だが、後者の場合は、イザという時に備えているのでたとえ攻撃しようと思っても「こいつに喧嘩売るとこちらもケガをするかも」という抑止力が働く
永世中立国であるスイスも軍隊を有しています。その理由は「自由と独立は、絶えず守らねばならない権利であり、言葉や抗議だけでは決して守り得ないものである。」といったものです。
以上より、私は日本のF-3開発を大きく支持します。
by 日本人 (2015-06-08 01:03) 

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