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語学の壁:空自訓練生の米国での墜落事故から2年 [米空軍]

外国人訓練生の英語教育担当機関担当が語る
極めて難しい問題に取り組む人がいます

T-38 Uesaki.jpg4月13日付Defense-Newsが、2021年2月19日に米空軍練習機が墜落し、米空軍教官操縦者と航空自衛隊の飛行訓練生が亡くなった事故から2年経過を機会に、事故原因とも大いに関係あるとされている外国人飛行訓練生の英語能力問題と、英語教育を担当するテキサス州に所在する米空軍DLI「Defense Language InstituteのEnglish Language Center」の事故後の取り組みを紹介しています

当該事故は、航空自衛隊が米空軍に飛行教育を委託していた飛行訓練生ウエサキ2等空尉(事故当時:25歳)と同乗していた教官操縦者Scot Ames Jr.中尉(事故当時:24歳)が操縦するT-38ジェット練習機が、モンゴメリー地方空港(Montgomery Regional Airport)着陸直前に滑走路手前に墜落し、2名とも射出脱出することなく亡くなった事故です(事故の細部は末尾紹介の過去記事をご確認ください)

同年10月に米空軍公開した事故調査報告書によると
T-38 AC2.jpg●Ames中尉が、最終着陸進入時に訓練生の十分な状況把握を行わず、ウエサキ訓練生が長時間エンジン出力をアイドル状態にしていたことに気づくのが遅れ、危険な状態への対応が遅れた
●ウエサキ訓練生は、着陸直前の多様な操作手順に「飽和状態」になり、スロットルをアイドル状態にしたままにして事故を導くこととなった

●事故調査官は、T-38訓練生がこのような行動(着陸直前の段階でアイドル状態を維持する)を執ることは、搭乗者を極めて不安な状況に置くことから極めて珍しい、と報告書に記し、
●操縦教官は地面に近い着陸直前の段階では、訓練生のスロットル操作から片時も目を離さず、訓練生の誤操作には直ちに介入する態勢にあることが通常であると報告している

更にウエサキ訓練生の語学力の影響について
T-38 AC5.jpg●英語能力が劣る外国人訓練生は、飛行訓練前に約6か月間の語学教育を受けるが、そこでの卒業成績は「平均、または平均の少し上」であった
●ただ、当該日本人訓練生は飛行訓練を通じ、飛行航空用語での発言や聞き取りに困難を感じており、教官の指示や無線通信内容の理解に影響を与えていた

●事故の直接的な原因は、教官操縦者が滑走路への最終進入段階で訓練生操縦機体の状態をよく把握せず、危険な状態からの回復にタイムリーな措置を取らなかったことにあるが、日本人訓練生の英語対話能力が原因となって、着陸直前の多くの機体操作が必要な段階で訓練生の思考を飽和させ、エンジン出力を最低限レベルに絞ったまま飛行し続けたことが大きく影響している

13日付Defense-News記事が紹介している内容
T-38 AC4.jpg●過去10年間で外国人飛行訓練生の死亡事故は4件あり、日本人事例以外の3件は全てF-16単独操縦中の事例(2015, 2016 and 2017年に発生)で、イラク人2名と台湾人1名の事故である
●米空軍は毎年約50名の外国人操縦訓練生を教育しているが、2013年からの統計では、米空軍内での飛行事故死亡者80名の内、8%が外国人訓練生で、人数比率は高いとは言えない。(ちなみにパイロット以外も含めると、年間100か国以上から約6000名の外国軍人英語教育を米空軍は行っている)

DLI.jpg●ただ、2021年2月の事故では成績優秀な米空軍教官パイロットも同時に死亡したことから米空軍幹部の問題意識が高まり、外国人訓練生の英語教育を担当するテキサス州の機関(DLI:Defense Language InstituteのEnglish Language Center)の訓練内容に注目が集まっている
●インタビューに対応してくれた同機関英語教官のTerry Harsh氏は、DLIはその役割を果たしており、部隊活動の映像教材などの導入も進めているが、実際に飛行訓練をこなすための英語能力を身に着けさせるには、現在の6か月間の英語教育期間に加え、追加で6か月が必要だと語り、資金や時間確保に関係者の理解を得ようと試みたが、「誰もそれを払いたがらない」と実現するのは容易ではないと語っている

DLI3.JPG●訓練生個々の能力進捗程度把握など、各訓練生が抱えている語学上の課題のより細かなフォローにも米空軍は取り組んでいる。飛行訓練部隊の教官が訓練生の語学レベルを細かくチェックする新しい評価シートの作成や、DLI教育の状況を定期的に上級部隊が確認することなども行われている。ただ、限られたカリキュラム期間と陣容で、限界もある。
●語学教育機関DLIと卒業生が進む飛行訓練部隊との訓練生の情報共有、更には全体を監督する空軍教育訓練コマンドや訓練生派遣国との定期的意思疎通も重要だと認識され、2021年2月の事故調査のためだけでなく、例えば今年2月にも米国内関係者の会同が行われている

●そのほかHarsh氏は個人的な意見として、語学教育機関と飛行訓練部隊を繋ぐ軍務に詳しい連絡役の配置や、飛行訓練に進んだ卒業生からの語学機関へのフィードバックを効率的に入手する仕組みの導入を提案していた
●最後にHarsh氏は、米国人が日本や韓国やアラブ諸国に赴任し、現地の言葉で操縦訓練を受けることを想像し、粘り強く米国での外国人訓練生教育に対応することが重要だと述べつつ、外国人訓練生が最初に接する米国組織であるDLIが、上官との関係や米国社会での一般的行動様式などを交えて語学教育に取り組んでることも強調していた
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DLI4.jpg色々言うのは簡単ですが、Harsh氏のインタビューから、日本や韓国や中東諸国からの操縦訓練生の受け入れに苦労している様子が伺えます。それでも、毎年文化や習慣が異なる100か国以上から6000名を受け入れ、英語教育を提供している米国の努力には頭が下がります。

なお上記記事によれば、事故から1年経過した2022年2月に、ウエサキ2尉のお母さまから、米国での語学教育や操縦教育を担当していた米空軍教育訓練コマンド司令官宛てに、様々な配慮に感謝する旨のレターが届けられたとのことです

注意:上記でご紹介した内容は、13日付Military.com記事と事故調査報告書から、まんぐーすが抽出した内容ですので、必ずしも米空軍の当該事故を受けた対応や現在のDLIの状況、更に事故報告書の内容を正確に反映しているとは限りません。ご注意ください。

当該墜落死亡事故の調査報告紹介記事
「当該事故調査報告」→https://holylandtokyo.com/2021/10/12/2328/

42ページの事故調査委員会報告書
(少将が事故調査委員長)
https://www.afjag.af.mil/Portals/77/AIB-Reports/2021/AIB%20Report%20Columbus%20T-38_Final.pdf

航空機事故関連の記事
「F-35事故対策改修内容は秘密」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-11-24
「三沢F-16の整備部隊がでたらめで墜落事故」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2018-11-22
「在日米軍が空自救難隊員にメダル授与」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2018-10-19
「B-52が飛行中にエンジン1個落下」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2017-01-08

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ルーマニアがF-35導入決定東欧3番目 [亡国のF-35]

東欧ではポーランドとチェコに続き3番目

romania iohannis.jpg4月11日、ルーマニアのKlaus Iohannis大統領をトップとする最高国防評議会(Romanian Supreme Council on National Defense (CSAT))が、F-35導入を決定しました。購入機数や価格や受け入れ時程などは明らかにされていません

ルーマニアは現在、ポルトガルから購入した中古のF-16戦闘機を17機保有し、昨年2022年にはノルウェーから同じく中古のF-16戦闘機32機を購入する契約を結んだところであり、F-35を導入するにしても常時最低限の運用機数である4-8機を確保できる12機程度の導入が限界かと勝手に邪推いたしま

F-35 Romania.jpgルーマニア軍は、総兵力7万1500人、(陸軍3万5,500人、海軍6,800人、空軍11,700人、総合軍1万7,500人)ですから、約30機のF-16を維持運用するだけで十分大変だと思いますが、欧州全体で維持整備体制をうまく回して、少数機体の稼働率を確保するつもりでしょうか・・・

同じ東欧では既に2か国が・・・
●2020年1月に、ポーランドが32機のF-35導入を約6200億円で契約と発表
●2022年7月に、チェコが24機のF-35導入を目指し米国と価格交渉を開始すると発表(その後交渉妥結したとの記憶が・・・)

【ご参考】F-35導入を決定した国(カッコ内は購入予定機数)

●共同開発国(8か国)
豪州(100機), Denmark(27), Italy(90), Netherlands(37), Norway(52), 英国(138)、米国(2443)(空軍1763、海兵隊420、海軍260)、そしてカナダ(88機)
トルコも共同開発国ながら、ロシア製SAM購入で排除された

●FMS購入国(10か国)
Belgium(34機), Israel(19), 日本(42+100) , 韓国(40)、シンガポール(当面12機 最終的に約50機) ポーランド(32機 2020年1月)、スイス(32)、そして、フィンランド(64機)、ドイツ(最大35機)、チェコ(24機)、ルーマニア(機数非公開12機程度か?)

最近のF-35購入又は追加購入決定
「シンガポール追加」→https://holylandtokyo.com/2023/03/10/4343/
「カナダがやっと決定」→https://holylandtokyo.com/2023/01/12/4134/
「チェコが東欧で2番目」→https://holylandtokyo.com/2022/07/25/3492/
「ドイツも核任務用に」→https://holylandtokyo.com/2022/03/16/2920/
「フィンランドが15番目」→https://holylandtokyo.com/2021/12/14/2520/
「スイスが14番目の購入国に」→https://holylandtokyo.com/2021/07/02/1976/
「ポーランドが13カ国目に」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-03

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米印空軍演習参加にB-1爆撃機がインド再展開 [安全保障全般]

「Cope India 2023」演習が4月10-24日の間で
米空軍はF-15EとC-130Jも参加、B-1は2月にも
航空自衛隊員もオブザーバ参加

COPE INDIA2.jpg4月13日付米空軍協会web記事が、インド国防省による米印空軍演習「Cope India 2023」に関する12日付プレスリリースなどを紹介しつつ、今年2月に開催のインド航空ショー(Aero India)に続き、B-1爆撃機がインドに展開するなど、米軍とインド軍との関係が強化されつつある様子を伝えています

なおインド国防省発表はわずか6行の短いものですが、最後に「航空自衛隊員がオブザーバー参加し、米印空軍と交流する(Personnel from the Japanese Air Self Defence Force will also observe the exercise and interact with the two participating air forces)」と記されており、アジア・インド太平洋地域において日本に期待される役割が急速に拡大していることを伺わせます

COPE INDIA5.jpg訓練は、4月10日から開始の第1フェーズ「空輸フェーズ」で始まり、横田基地C-130やハワイヒッカム基地のC-17による空輸訓練が行われ、この間にWilsbach太平洋空軍司令官がインド空軍のロシア製SU-30MKI後席に搭乗して飛行する画像が公開されるなど、両国空軍の親密ぶりをアピールする場面が今後も発信されていくものと考えられます

13日から始まった第2フェーズは「航空作戦フェーズ」で、米空軍からはF-15EストライクイーグルにB-1爆撃機、インド空軍はSu-30 MKI, Rafale, Tejas, Jaguar戦闘機、更にインド空軍の空中給油機やAWACSも投入して、24日まで訓練することになっています

COPE INDIA3.jpg米印空軍演習「Cope India」は2004年に初回が実施され、その後2005, 2006, 2009年に実施されていますが、その後は2018年の再開まで間隔が空いており、米印関係のバロメータのような演習となっています。

その他、隔年開催のインド航空ショー(Aero India)の視点で見てみると、2021年開催の同イベントにB-1がインド初展開参加して大きな話題になりましたが、2023年2月開催時にはB-1が大サービスで超音速飛行を行ったほか、F-35の性能展示飛行や三沢F-16デモ飛行チームによるアクロバット飛行なども披露され、会場を大いに盛り上げ、インドメディアで大きく取り上げられたとのことです
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COPE INDIA4.jpgフィリピンでは米軍17000名が参加する大規模演習「Balikatan」が始まり、豪州では7月に米豪演習「Talisman Sabre」が兵站に特化して過去最大の兵站演習として計画されるなど、不動産バブル崩壊で弱みも見せつつある中国に、「対中国」包囲網構築を見せつけるかのような、米軍とアジア太平洋地域諸国との訓練が花盛りであり、誠に素晴らしいことです

インド国防省プレスリリース12日付
→ https://pib.gov.in/PressReleaseIframePage.aspx?PRID=1915928

2021年のB-1爆撃機インド初展開
「米軍爆撃機が75年ぶりインド訪問」→https://holylandtokyo.com/2021/02/10/259/

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豪州でのTalisman Sabreを過去最大の兵站演習に [Joint・統合参謀本部]

米豪主催で日韓インドネシアが参加
兵站を重点に従来の4倍規模の装備物資輸送
米軍兵站指揮所を始めて海外に設置
日本の補給拠点も有事用に再構築予定

Talisman Sabre 2023.jpg4月7日付Defense-Newsは、米陸軍が7月から豪州を中心に行う隔年実施の米豪共同陸軍演習「Talisman Sabre」を、対中国を想定した兵站(物資輸送・補給・維持整備)に特化した演習として計画しており、日韓インドネシアを巻き込み、装備物資輸送量が従来比4倍規模になる史上最大規模の兵站演習になろうと紹介しています

先日取り上げたように、米陸軍は大きな課題となっている対中国作戦の兵站支援問題や、ウクライナの教訓から兵站改革の必要性を痛感し、陸軍内に専門の改革チームCFT(cross-functional teams)を創設して、米本土から遠く、かつ厳しい戦いが予期される戦域での「contested logistics」戦略や実施計画を煮詰めると発表しているところです。

Talisman Sabre 2023 3.JPG米太平洋陸軍はその一環として、年間に複数回計画されている「Operation Pathways」演習を通じ、「兵站改革」に取り組むことになっており、特に昨年から力を入れているフィリピンでの同演習では、地域全体の兵站を支える「Theater Distribution Center」を設置して年間の同演習を支える体制を構築したり、フィリピン内複数拠点と連携して物資配分等する訓練をより複雑化して強化を予定しているようです

今年7月からの豪での「Talisman Sabre」演習は、これまで陸上作戦主体だったものを「兵站中心」に大きく変更して兵站重視を打ち出したもので、遅まきながらの感は否めませんが、米陸軍としての姿勢を良く反映しています。以下では今年の「Talisman Sabre」演習の特徴をご紹介します

Talisman Sabre 2023 2.jpg●米太平洋陸軍の演習の兵站司令部は、従来ハワイのオアフ島に置かれていたが、今回は初めて海外設置に挑戦して豪州東海岸中部ブリスベーンに置き、他軍種や豪州のメンバーも同居する全く新しい合同兵站センター形態で行う
●豪州内2か所の兵站活動拠点も、実戦を想定して分散した2か所(一つは豪北海岸のTownsville、もう一つは約2600㎞離れた東海岸北部のDarwin)に置き、西太平洋地域の広大な兵站支援を体感する場とする

Army Preposition S.jpg●経験のない17両のM1戦車輸送や400個もの備蓄パック輸送を含む輸送負荷を課し、事前備蓄品洋上保管船(Army Prepositioned Stock Afloat ship)や未整備な海岸に「映画プライベートライアン風に」上陸する着上陸輸送船(watercraft)、約400mの人工埠頭を活用する西太平洋の島々への物資輸送想定の訓練実施

●不整地海岸の上陸地点から兵站活動拠点Townsvilleまで、約160㎞を戦車部隊が自力で移動する訓練実施
●我の兵站活動全般に対する敵の妨害活動を付与し、兵站活動の強靭性や脆弱性を検証

●豪州の外来生物進入への厳しい姿勢に対応するため、例えば「マダラコウラナメクジ:leopard snail」が車両に付着して侵入しないよう、ハワイの施設で豪州へ持ち込む車両や装備の徹底的な洗浄を数か月かけて行っている
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army watercraft.jpg同記事は、どの演習での実施事項か、演習外での実施かは明確にしていませんが、日本に既に配備されている「配送センター:distribution center」の「再構築・改編:reconfigure」を、米陸軍が計画していると説明しています

また記事は、フィリピンでの活動拠点が昨年演習時の4か所から、今年は9か所に増強されるとも報じており、対中国でアジアの重要なピースであるフィリピンと米国の関係が改善&強化されつつあるのであれば、それは素晴らしいことだと思います。

兵站支援関連の記事
「兵站改革目指しCFT設置」→https://holylandtokyo.com/2023/04/10/4469/
「ウの対中国教訓は兵站」→https://holylandtokyo.com/2022/06/17/3358/
「ウへの補給物資輸送拠点」→https://holylandtokyo.com/2022/05/11/3197/
「改善提案最優秀:燃料と水輸送負担軽減策」→https://holylandtokyo.com/2022/05/06/2781/
「ウへの武器提供」→https://holylandtokyo.com/2022/03/02/2772/

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ロッキードがLRASMとJASSM増産ライン開設 [Joint・統合参謀本部]

LRASMとJASSMあわせ年500発製造体制から
年間1000発製造体制用の生産ラインオープンと
ただ海空軍の予算要求総計は2024年度118発

LRASM4.jpg4月3日付米空軍協会web記事が、対中国や台湾有事に最もニーズが高いのに備蓄量が不足している兵器の一つで、射程約1000㎞の空中発射型の兄弟巡航ミサイルLRASM(対艦攻撃用)とJASSM(対地攻撃用)に関し、製造企業ロッキード社が2番目の製造ラインを開設して従来の2倍の生産能力(2弾種併せて年間500発強の従来製造能力から、年間計1000発体制に)を確保しつつあると報じています

特に台湾有事に最もニーズが高いと言われているLRASMは、研究者によれば800-1000発少なくとも必要だと見積もられていますが、現保有量は200発程度で、過去2022年までの調達量は年間海空軍併せて38発、2023年は88発で、必要数に達するのに10年必要だと各方面から懸念の声が上がっていたところです

JASSM Rapid Dragon.jpgちなみに、米議会で議論が始まっている2024年度予算案では、ウクライナの教訓から弾薬の調達数が増加しており、LRASMを海軍が91発、空軍が27発の計118発要求しているとのことで、更に米空軍は年間調達量を4倍にして、2028年まで計380発を契約したいと求めている模様です

LRASMは1発が約4億円だそうですが、ロッキードのLRASM担当営業責任者は、4月3日に米海軍協会Sea-Air-Space会議で、「国防省から弊社に対し、製造能力を大増強しろとの強い要請があり対応した」、「米軍からの要請に応じて対応可能な生産能力確保に取り組んでおり、従来のアラバマ州Troyの工場に第2製造ラインを開設し、自動化推進や製造効率改良に努めている」と説明しています。

JASSM7.jpgまた、地上攻撃型のJASSMとも構造や部品の共通性が高く、同じ製造ラインで生産可能と言うことで、柔軟にLRASMとJASSMの生産増強要望に対応できるとも同責任者は語っています

更に同ロッキード責任者は、米軍がウクライナに提供して活躍している多連装ロケット発射機HIMARSに、LRASMを搭載して発射できるよう改良に取り組んでいるとも語り、機動性のあるHIMARSに搭載して発射機の残存性を確保しつつ、空対艦ミサイルのLRASMを地対艦ミサイルとして活用しようとしていることを明らかにしています

また、現在は空軍B-1爆撃機と海軍FA-18からのみ発射可能なLRASMを、F-35戦闘機や対潜哨戒機P-8から発射できるよう取り組んでいるとも語りました
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B-1からのLRASM発射と標的命中映像約1分


ロシアによるウクライナ侵略勃発後、元米太平洋軍作戦部長やCSIS研究レポート等々から、LRASM生産増や備蓄増が極めて重要だとお伝えしてきましたが、現在でもLRASMとJASSMあわせ年500発製造可能で、その製造能力が1000発に拡大との話を聞き、拍子抜けいたしました(本当なのか、よく確認する必要を感じております)

LRASM6.jpgただ実際には、CSISレポートによれば、空対艦ミサイルLRASM、空対地ミサイルJASSM、艦対艦ミサイルSM-6、対艦トマホークミサイル等の新規発注&製造には(原材料や部品の確保を含めて)20か月以上が必要であるとの指摘もあり、「(大規模紛争の場合)保有備蓄量は僅か1週間で底をつく程度」の現状への危機感は持ち続ける必要があるのでしょう

それにしても、1発が約4億円程度のLRASMを、どうして年間100発程度調達して備蓄しておく動きが無かったのでしょうか・・・戦闘機や空母が優先で、弾薬は2の次との慣習が根強く残っていることが問題です。それから、LRASMやJASSM以外の弾薬兵器が、このように簡単に増産できるとは限りませんのでご注意を

LRASM不足関連の記事
「CSISが台湾有事のWar-Game」→https://holylandtokyo.com/2023/01/11/4135/
「CSISも弾薬調達&提供問題レポート」→https://holylandtokyo.com/2023/02/16/4212/
「弾薬不足:産業基盤育成から」→https://holylandtokyo.com/2022/10/19/3758/
「ウ事案に学ぶ台湾事案への教訓9つ」→https://holylandtokyo.com/2022/03/15/2806/

米空軍の弾薬関連予算
「2023年度予算案の各弾薬要求数」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2022-04-04

JASSM-ER関連記事
「高市議員のCHAMPはJASSM搭載」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-09-11
「JASSMまだまだ射程延伸」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-09-15
「更なる射程延伸開発契約」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-12-09
「ポーランドに70発輸出承認」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-30
「B-52をJASSM搭載に改良」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-13
「JASSM-ERを本格生産へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-17-1

LRASM関連の記事
「LRASM開発状況」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-05-17-1
「米軍は対艦ミサイル開発に力点」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-11-18
「ASB検討室の重視10項」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-11-04
「LRASMの試験開始」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-07-23
「新対艦ミサイルLRASM」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-19

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嘉手納からF-22とF-16が去り、F-15Eが新展開 [米空軍]

3月28日にF-35が展開して約2週間後
現在はF-35とF-15EとF-15Cの3機首@沖縄

F-15E kadena2.jpg4月10日付米空軍協会web記事は、老朽化著しいF-15C戦闘機が徐々に米国に帰還し始めている米空軍嘉手納基地に、4月8日、米本土ノースカロライナ州からF-15Eストライクイーグル戦闘爆撃機が展開し、F-22とF-16が母基地に帰還したと伝えています

F-15Eの展開により、米空軍が昨年11月に嘉手納基地から2年間かけてのF-15C段階的撤退を発表してからの約5か月間で、米空軍の保有する全ての戦闘機クラス(F-15C/Ds, F-15Es, F-16s, F-22s, and F-35s)が嘉手納に展開した事になります

F-15C戦闘機(48機)の撤退発表後の動き
●2022年11月1日 F-15C戦闘機の段階的撤退発表
●同年11月5日 アラスカからF-22(推定8機)展開
●同年12月1日 F-15C撤収第一弾(推定8機)が米本土へ帰還

●2023年1月16日 ドイツからF-16(推定16機)展開
●同年3月28日 アラスカからF-35展開
●同年4月8日 F-22アラスカへ帰還、同10日F-16ドイツへ帰還

F-15E kadena.jpgF-15Eの嘉手納への到着を受け、同基地の第18作戦群司令官は「F-15Eは既に実戦で証明されたいくつかの特異な能力を備えており、既にわが基地に展開している強固な戦力との組み合わせで、実力を発揮してくれるだろう」と語っています

なお、昨年11月から嘉手納に展開し、4月8日に帰還するまでアジア太平洋地域で活動したF-22部隊は、フィリピンとテニアン島(グアム島近傍)に初展開して第5世代機のプレゼンスを示し、展開期間中に総計1100ソーティーもの飛行を行ったとの事です
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F-16 kadena.jpgすこし「ひねくれた」表現になりますが、ウクライナでロシアと米軍含むNATOの両方の戦闘機が全く活躍できないことに、米空軍幹部の心中は穏やかではありません

「事態のエスカレーションを避けるため」との大義名分はありますが、ロシアの地対空ミサイルS-400などの強固な防空網を前に、リスクを冒せない現実もあり、米空軍幹部による「航空優勢の重要性が改めて確認されている」などの関連発言には「歯切れの悪さ」が目立ちます

F-16 Kadena2.jpg台湾有事の際にも、恐らく「核戦争へのエスカレーションを避けるため、中国本土への攻撃は避ける・・・」との縛りが、少なくとも開戦当初はあるはずで、パイロットの救難救助体制も不十分な中国や台湾正面で、ステルス機であっても戦闘機の活躍場面は限られるはずです

欧州大陸とは異なり、中国が保有する大量の弾道&巡航ミサイルを前に、戦闘機クラスが展開する拠点確保自体が難しい中、「平時」のうちに戦闘機をアピールしておくしかないのかもしれません

嘉手納基地F-15撤退と代替戦力派遣
「アラスカからF-35展開」→https://holylandtokyo.com/2023/04/04/4482/
「ドイツからF-16展開」→https://holylandtokyo.com/2023/01/19/4178/
「第1陣の8機米へ帰還」→https://holylandtokyo.com/2022/12/06/4021/
「米空軍幹部発言から大きな流れを学ぶ」→https://holylandtokyo.com/2022/11/09/3904/
「衝撃、11月1日から段階的撤退」→https://holylandtokyo.com/2022/10/31/3817/
「嘉手納でelephant walk」→https://holylandtokyo.com/2022/11/25/3981/

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米空軍は輸送機による燃料輸送にも取り組むが [米空軍]

米空軍輸送機が燃料空輸試行も
専門家は極めて懐疑的な視線を

C-5M R-11.jpg4月3日付米空軍協会web記事は、米空軍がC-5Mなどの輸送機を利用した燃料輸送を試行的に行っている様子を紹介しつつ、同時に有事初動には輸送機による少量の燃料空輸が役立つこともあろうが、相当規模の紛争を支えるには膨大な燃料補給が必要であり、根本的な燃料輸送能力不足解消には、前線基地に大規模地下燃料施設を建設したり、大規模海洋輸送船団の準備が必要だとの専門家意見を取り上げています

また、有事には輸送機に武器弾薬装備などの膨大な輸送任務が控えており、米空軍が試験的に検討している兵器発射プラットフォームや指揮統制機能ハブとしての役割を含め、燃料輸送など輸送機に期待すべきでないとの、専門家意見を紹介しています

輸送機による燃料輸送試行
C-17 R11.jpg●2023年2月に第9空輸飛行隊C-5M輸送機が、半分のエンジンを停止して、C-5M近傍に駐車したR-11燃料輸送車に機内燃料を提供し、C-5輸送機による燃料輸送が可能なことを立証した。
●同飛行隊は「理論的には、輸送機が不便な分散基地着陸して至短時間に燃料を提供し、最短時間で再移動できることを確認できた」と声明を発表した

●過去には、2020年にC-130がハワイで2機のF-22に地上給油した例や、2022年12月にC-17が加州でB-2爆撃機に給油したことがある。また同様に簡易燃料タンクや飛行場の一般的な燃料施設にも燃料を提供できる

シンクタンク研究者の見方
Walton.jpg●米空軍が西太平洋地域で分散運用しようとしている基地候補には、船舶タンカーから燃料を陸揚げできる施設がないことから、輸送機による燃料輸送は一つの手段であり、C-5Mなら約6機のF-35に給油可能で、C-130だと3機弱に可能だと見積もった研究がある
●ただしハドソン研究所のTimothy Walton氏やBryan Clark氏は、有事の輸送機には膨大な輸送所用が発生することから、燃料輸送だけでなく、米空軍が検討している兵器発射プラットフォームや指揮統制センターとしての機能を担わせる余裕は、輸送機には既にないはずだと強く主張している

●また有事の必要燃料量は膨大で、作戦初動段階では緊急援助的に輸送機の燃料輸送が役立つ場面があるかもしれないが、C-5M輸送機が輸送可能な9万バレル程度の量は大勢に影響を与えられない現実に目を向けるべきだと両名は主張している
Clark.jpg●両氏の結論は、コストがかかっても、西太平洋の島に自然環境に配慮した爆撃にもある程度耐えられる「地下燃料タンク」を設置したり、長期作戦を支えることを考えれば、強固に防御された海上タンカー船団を準備する以外はないということである

●ここで問題になるのが米国政府が外国船籍のタンカーに大きく依存していることで、両氏は大規模紛争を支えるには少なくとも80隻の米国籍タンカー船団が必要だが、実際には10隻確保を目指すプロジェクトが、米議会が米運輸省に命じて動き出した程度である
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C-130 R-11.JPG米空軍輸送コマンドは、恐らく米空軍全体のACE構想に取り組んでいる姿勢を見せるため、一応オプションとして実施可能なことを検証しているのでしょうが、ハドソンのWalton氏やClark氏の主張は完全な正論です

いろいろな兵器開発やプロジェクト発表の「華やかさ」に惑わされることなく、対中国作戦の難しさの足元をしっかりと踏まえておく必要があります

輸送機からの兵器投下検討
「巡航ミサイル投下&攻撃試験」→https://holylandtokyo.com/2021/12/20/2550/
「Rapid Dragonを本格検証へ」→https://holylandtokyo.com/2020/11/06/380/
「兵器投下に反対 Stand-inとoffのバランス不可欠」→https://holylandtokyo.com/2020/07/01/562/
「空軍計画部長が語る」→https://holylandtokyo.com/2020/06/09/619/
「MC-130からパレタイズ兵器投下試験」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-06-01

輸送能力や弾薬量の圧倒的不足
「米空軍若手がACEの課題を語る」→https://holylandtokyo.com/2020/11/27/397/
「民間海空輸送力活用のための取組」→https://holylandtokyo.com/2022/10/21/3780/
「弾薬不足:産業基盤育成から」→https://holylandtokyo.com/2022/10/19/3758/
「ウ事案に学ぶ台湾事案への教訓9つ」→https://holylandtokyo.com/2022/03/15/2806/

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米陸軍が対中国年頭に兵站改革チームCFT創設へ [Joint・統合参謀本部]

今頃感ありありですがcross-functional teamsを
2040年代を目指す遠大な・・・
自動化、事前備蓄、強靭化、ウクライナ教訓

contested logistics2.jpg3月29日付Defense-Newsが、米陸軍のFutures Commandと兵站コマンドが協力し、陸軍体制改革に取り組む「CFT:cross-functional teams」を対中国を念頭とした兵站(物資輸送・補給・維持整備)改革のために立ち上げ、米本土から遠く、かつ厳しい戦いが予期される戦域での「contested logistics」戦略や実施計画を煮詰めると報じています

このCFTは米陸軍Futures Command内に2018年に3分野(長射程精密攻撃火力Long-Range Precision Fires, 次世代戦闘車両Next-Generation Combat Vehicles and 将来垂直離陸型輸送ヘリFuture Vertical Lift)で編成されましたが、今回の兵站専用CFTは上記3分野以外で初のCFTとなる模様です

contested logistics4.jpg新CFTの細部は数か月後に発表するとFutures Command司令官のJames Rainey大将が28日に講演で語っていますが、兵站コマンドの関与を指示したWormuth陸軍長官は、従来のように敵の妨害なく自由に輸送活動が可能な環境に無い場所で、大規模な兵員や弾薬や装備輸送をどのように実現するかを検討する使命であり、「contested logistics」検討だと表現し、

Futures Command司令官は、「Top focus areas」として軍需産業界と協力し、輸送経路の安全性を改良向上し、輸送部隊の生存性や交戦能力を増強し、兵站物資の軽量化を図ることなどに言及しています

contested logistics5.jpg兵站コマンドで新CFT業務を所掌するMohan副司令官は、「2040年までに完全な改革を目指すもので、CFTはアジア太平洋戦域に焦点をあて戦略や実施計画を立案する。最も厳しい戦いが予期され、米本土から極めて遠く、海に隔てられている困難な環境での検討だ」と述べ、数週間後から複数の関連WarGameを開始すると語っています

更に米軍全体で分散運用を目指す観点から、地域諸国との関係を強化して小規模な展開拠点を新たに設置する努力を続けることや、併せてそれら拠点に弾薬や装備の事前集積を強化する考えをMohan副司令官は示しています

contested logistics3.jpg前線基地での装備や弾薬の事前備蓄について同副司令官は、ウクライナへの支援活動を通じて多くの教訓が得られ、敵の妨害がない場合の輸送能力把握に役立ったが、相手先の受け入れ態勢整度合いや保管設備はケースバイケースであり、事前備蓄と有事緊急輸送のバランスは場所により平時から慎重に見極めておく必要があることを強く感じたとコメントしています

更に、米陸軍の指揮統制システム改革(Project Convergence)と「contested logistics」を有機的に連携させ、必要な物資や装備の存在場所をリアルタイム把握とニーズ発生場所をAIも活用して結び付け、効率的な輸送計画作成や必要な機材の配分優先順位決定に活用して効率化を進めたいとMohan副司令官は語っています
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contested logistics.jpg2026年には中国による台湾への作戦が始まる恐れがあると太平洋軍司令官が危機感を表明する中、2040年に完成を目指す「contested logistics」検討を数か月後から具体的に進めるよ言われても、その時間感覚は大丈夫ですか? 新CFTプロジェクトの説明ぶりとしてはよく考えた方が良いのでは? とご忠告したくなるのは私だけでしょうか?

まぁ、現段階では細部が良くわからない取り組みですので、とりあえず・・・と言うことでご紹介しておきます

兵站支援関連の記事
「ウの対中国教訓は兵站」→https://holylandtokyo.com/2022/06/17/3358/
「ウへの補給物資輸送拠点」→https://holylandtokyo.com/2022/05/11/3197/
「米空軍改善提案の最優秀:燃料と水輸送負担軽減策」→https://holylandtokyo.com/2022/05/06/2781/
「ウへの武器提供」→https://holylandtokyo.com/2022/03/02/2772/

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新兵募集難に米空軍が体脂肪基準緩和へ [米空軍]

手&首入れ墨、マリファナ陽性緩和に加え
新兵採用数の目標達成困難な見通し受け

Air Force Recruit.jpg4月4日付Military.comは、米軍全体で新兵採用が厳しさを増す中、米空軍が今年の新兵採用目標を約10%程度達成できない状況等を踏まえ、新規採用者の「肥満基準(体脂肪率)」を緩和する方向だと報じました。

米空軍は、今年1月に新規採用者のマリファナ試験(THCテスト)の緩和や、2月にも手や首に入れ墨がある者の入隊を認めるなどの入隊基準緩和策を打ち出してきましたが、採用数確保のため引き続き次々と対策を打ち出しています

Air Force Recruit2.jpg米空軍報道官は、「単純な基準緩和ではなく、国防省全体の政策を踏まえての調整だ」と説明し、採用時の「肥満基準(体脂肪率)」緩和もあくまで採用時の基準の話であって、継続的に勤務するためにクリアする必要のある基準に変更はないとコメントしていますが、「入り口」を大きくしたことは事実です

米国社会全体では、肥満や犯罪歴や麻薬使用歴などから、米軍採用対象年齢人口の内、わずか30%程度しか米軍の採用対象にならないとの統計が出ているらしく、空軍だけでなく陸軍海軍海兵隊も似たような困難に直面しているとご理解いただいてよいと思います

Air Force Recruit3.jpg4月4日に米空軍担当部署報道官がMilitary.com取材に対し認めた「肥満基準(体脂肪率)」緩和は、男性で従来20%→26%に、女性は28&→36%にするものらしいですが、これにより年間の採用数が50 ~ 100名増加する効果を空軍は期待しているようです

(まんぐーす推定→約40万人規模の米空軍は毎年1万人新規採用が必要だとざっくり見積もられ、この増加数は1%弱程度と推測)

Air Force Recruit4.jpg他軍種も、新規採用対象者の「肥満問題」に頭を悩ませており、例えば米陸軍は肥満基準を満たさない潜在採用候補者に「入隊前フィットネスクラス:pre-boot camp physical fitness classes」を提供開始し、米海軍も同様の「physical fitness prep course」提供を最近開始したということです

そのほか米空軍は採用促進策として、上限850万円の奨学金ローン一時肩代わりなどを検討しているようですが、軍隊への入隊希望者減少傾向は世界的な傾向であり、少子化先進国である日本でも「明日は我が身」の問題です

第22代国防長官ロバート・ゲーツ語録100選より
https://holylandtokyo.com/2022/03/26/2046/
「米軍と社会の遊離を懸念」http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-10-10

採用難の一側面
米空軍パイロット不足関連
「コロナ沈静化で米空軍の離職率増加」→https://holylandtokyo.com/2023/01/10/4125/
「コロナ後の操縦者争奪戦に備え」→https://holylandtokyo.com/2021/10/17/2271/
「女性登用増に航空機設計基準変更」→https://holylandtokyo.com/2020/08/26/533/
「米空軍がパイロット身長基準を廃止」→https://holylandtokyo.com/2020/05/27/682/
「女性登用増に航空機設計基準変更」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-08-20
「ヘリ操縦者養成から固定翼削除試行」→https://holylandtokyo.com/2020/08/07/517/
「Fly-only管理の募集中止」→https://holylandtokyo.com/2020/03/25/789/
「5年連続養成目標数を未達成」→https://holylandtokyo.com/2020/02/27/838/
「採用の身長基準を緩和」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-11-18

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中国産軍用航空機エンジン続々も合金調達に課題 [中国要人・軍事]

WS-19とWS-20開発に目途もサプライチェーンに
その他のエンジンについても少し整理

WS-19 China.jpg3月17日、中国の国産軍用航空機エンジンを担う研究機関「Beijing Institute of Aeronautical Materials」のZhang Yongプロジェクト責任者が天津市で講演し、次世代エンジンWS-19とWS-20開発が困難を克服して成功したが、大量生産を開始するにはエンジン生産に必要な合金関連のサプライチェーン問題解決が必要だと語りました。サプライチェン問題の細部には言及していませんが・・・

不動産バブル崩壊で中国経済の足元が揺らいでいると見られる中、「開発完了」とか「量産準備よし」の話をどこまで真に受けてよいのか半信半疑ですが、27日付Defense-Newsが次世代エンジンと呼ぶWS-19やWS-20エンジンの他、WS-15やWC-10シリーズについても断片的にZhang Yong氏が語ったようなので、頭の整理のためご紹介しておきます

開発完了の次世代エンジンWS-19やWS-20は・・
WS-20 China2.jpg・WS-19はアフターバーナー付きターボファンエンジンで、次世代空母艦載機であるJ-35への搭載を目指しているもの
・WS-20は高バイパスターボファンエンジンは、中国製大型輸送機Y-20への搭載を狙っているエンジン。現在同機はロシア製D-30KP-2ターボファンエンジン(H-6爆撃機H-6J/K/Nにも搭載)を搭載している

スパークルーズ可能なWS-15が量産可能に
WS-15 China2.jpg・WS-15は現在国産のWS-10Cエンジンを搭載しているが、スパークルーズ可能と言われるWS-15が完成して量産可能となったので、最近製造された(今後生産される?)J-20に搭載する

WC-10Cが98%自国産に
・ステルス戦闘機攻撃機J-20に現在搭載されているWS-10C(181キロニュートン)が98%自国産(98% localization)を達成。残り2%については語らず。

以下は関連報道情報ですが、
WS-15 China.jpgWS-10シリーズは、10年ほど前から陸上基地配備で双発の「J-11B要撃機」や「J-16攻撃機」、最近では「J-20ステルス機(攻撃機)」の量産型に搭載開始とのニュースが伝えられるようになってきた中国製戦闘機エンジンの本流

その中でWS-10B形に注目が・・・
WS-10B China.jpg・WS-10Bは排気ノズル構造等からステルス性が高いと言われ、J-10Bに試験搭載される様子が確認されていましたが、2021年5月に中国国営ラジオwebサイトが、中国空軍の単発J-10C戦闘機に同エンジン搭載の映像を公開し、米軍事メディアが「ついに中国製エンジンが信頼性を高め、量産型単発戦闘機に搭載された」と配信。単発機エンジンには特に高い信頼性が求められるが、WS-10Bがそのレベルに達したとの証左

中国輸送機と空母艦載機エンジン関連の最近の記事
「中国空軍がY-20U空中給油機を量産開始か?」→https://holylandtokyo.com/2021/02/24/268/
「国産エンジンを空母艦載機J-15に搭載か」→https://holylandtokyo.com/2022/12/07/3999/

WS-10エンジンが登場する過去記事
「単発J-10CにWS-10B搭載」→https://holylandtokyo.com/2021/05/14/1497/
「中国航空ショーでのJ-20を評価する」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2018-11-10-1
「J-20が初の海上行動」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2018-05-12-1
「報道官が戦闘能力発言」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-02-17-1

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