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不発?:米シンガポール国防相会談 [カーター国防長官]

P-8はシンガポールに「1週間だけ」配備です!

Singapore.jpg7日、カーター国防長官とシンガポールのNg Eng Hen国防相がワシントンDCで会談し、国防協力合意(DCA)に署名し、1990年の協力覚え書きや2005年の戦略枠組み合意を発展させる方向で、安全保障分野での協力を進める合意をしたようです。

一部メディアが「米国P-8哨戒機のシンガポール配備に合意」と報じたようですが、正確には「12月7~12日の間だけ一時的に」展開することに合意し、その根拠は1990年と2005年の合意に基づくとの不完全燃焼感が漂う発表です

シンガポールと米国間では沿岸戦闘艦LCSの4隻配備(現在2隻目まで配備、来年3隻目で17年に4隻目)とか、F-35売却交渉とか、米国のアジア太平洋リバランスを支える案件があるはずなのですが、あまり進展があるようには見えません。気のせいでしょうか?

8日付Defense-News記事によれば
Singapore2.jpg●(一時的なP-8対潜哨戒機のシンガポール展開に関連し、)両国防相は報道発表で、P-8の将来のシンガポール展開は、2国間や多国間の演習を通じ、地域諸国との相互運用性を高めることを促進するだろうと述べた。

●合意された国防協力合意(DCA:defense cooperation agreement)には、5つの分野が含まれ、それらは軍事、政策、戦略、技術、そして海賊やテロ対処等協力である
●また共同声明では、新たな分野である人道支援、サイバー防衛、バイオ安全保障、public communicationsでの協力にも合意し、更にハイレベルな国防対話導入にも合意している

シンガポール国防相は6~10日の間米国に滞在し、国防省関係者や議会関係者と会談することになっている。
1日には、シンガポール空軍の60機のF-16を能力向上する、約1100億円の契約がLockheed Martinと結ばれ発表されている

来年2月のシンガポール航空ショーでは、V-22オスプレイやF-35戦闘機に関する協議が両国国防関係者の間で行われると予期されている
●両国防相は、1990年と2005年の合意のそれぞれ25周年と10周年のタイミングに当たるこの機会は、両国の国防関係を推進する良い機会だと評価した

本件関連の米国防省web記事
http://www.defense.gov/News-Article-View/Article/633243/carter-singapore-defense-minister-sign-enhanced-defense-cooperation-agreement
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singapore3.jpg米国防省web記事は、シンガポールがアフガンやイラクの安定復興や、アデン湾での海賊対処に米国と協力して貢献していることを讃えていますし、2014年から対ISILにシンガポールが貢献しているとも記載しています。

両国間には、35年の歴史を持つ陸軍共同演習「Tiger Balm」や、20年の歴史がある海軍演習「Cooperation Afloat and Readiness Training」、25年の歴史がある空軍演習「Commando Sling」があります
またシンガポール空軍は米本土に、常駐のシンガポール空軍操縦者訓練部隊を置いています。

東南アジア諸国の中では、米国との関係が順調な国なのでしょう。それでも小国ですからインパクトには欠けます。小さな事からコツコツと・・は重要なのですが。特にP-8に関しては将来にどうするつもりなのかよく分かりません

シンガポールの話題
「2015年シャングリラ会合」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-05-28
「飛行船レーダー配備」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-11-04
「F-35交渉が難航?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-02-26

「ドイツ製潜水艦2隻を契約」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-12-03
「米との戦略枠組みが難航?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-04-06

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来年から米軍全職種を女性に開放:機会の平等です [カーター国防長官]

woman open.jpg3日、カーター国防長官は会見を行い、2016年1月から米軍内の全ての職域を女性に開放すると発表しました。これまで順次女性の職域は拡大されてきましたが、約1割の22万ポストについて女性を受け入れていませんでした

最後まで「全開放」に反対だった海兵隊に対しては、国防長官が海兵隊トップと何度も時間を掛けて話し合ったと、カーター長官が会見で語っています

これまで未解放だったのは、陸軍のレンジャーや戦車兵、海軍のSEALS、海兵隊歩兵、空軍の救命救助員、特殊部隊等の体力的に厳しく、極限状態でチームとしての機能発揮が求められる職域です

従って、「例外なく女性に開放」は3年に及ぶ検討の末の結論で言葉通り間違いないのですが、職域基準をクリアした者のみが対象で、結果の平等ではなく機会の平等であり、強制的な女性枠は無く、部隊全体の効率性も念頭に、他国軍との共同にも配慮等々の「運用指針」を併せて発表し、4軍指揮官(特にDunford議長)の「言いたいこと」に配慮した「全開放」です

3日付米国防省web記事によれば
●3日カーター国防長官は、2016年1月から、全ての軍のポストを例外なく女性にも開放すると発表した。米軍史上初めて、各職種の基準を満たして資格要件をクリアする限り、女性も全ての道で国家に貢献することが可能になると長官は語った
●「女性兵士も戦車を操縦し、迫撃砲を発射し、歩兵部隊を率いて戦闘に参加することが許される。以前は男性のみだった、陸軍レンジャーやグリーンベレー、海軍のSEALS、海兵隊歩兵、空軍の救命救助員等として貢献可能になる」と表現した

woman open3.jpg●長官は(職種の開放との側面だけでなく)、才能ある女性がその能力や視点を、より良く軍に提供出来るようになる点を強調した。
●11月に長官は、3年間に亘る4軍をカバーする女性職種開放に関する検討結果を受け取り、陸海空軍と特殊作戦コマンドからは「全開放」に賛同を得た。海兵隊は部分的な例外(歩兵、砲兵等々)を求めていたが、統合部隊として活動することを踏まえ、長官は全軍に「全開放」適応を決断した

一部例外を求めていた海兵隊司令官とは何度も協議し、本日4軍トップとも話し合い、懸念事項については「実施段階:implementation」で配慮していくことで「全開放」に至ったと長官は語った
●「実施段階」はWork副長官とSelva統合参謀副長官が当面監督し、30日間で「全開放」の準備を進める。慎重に整然と進めるため、長官は「7つの指針:seven guidelines」を示した

「7つの指針:seven guidelines」
1 実行段階では、部隊の効率性改善目的との整合を追求する
2 部隊指揮官は、性別でなく能力で任務や仕事をアサインしなければならない
3 機会の平等は、全分野における男女の平等な参画を意味するものではなく、(女性)強制枠はない

4 米軍の調査によれば、男女間には体力等の平均的な差が存在し、実行段階ではこれを考慮する
5 米軍兵士の中には、男女を問わず、男女混合編制が部隊の戦闘効率を低下させると認識している者が存在するとの複数の調査結果に、国防省は配慮する

6 特に新たに開放対処となる職種では、調査結果や指揮官の意見からも、小集団の機能発揮が重要だとの結果が出ている
7 米国やいくつかの同盟国等では、軍隊を男女両方で構成しているが、全ての国がこの認識を共有しているわけでは無い
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woman open2.jpg「7つの指針」の中で、6つは(いや、2も含めて全てか?)「全開放」の例外を事実上認める、「現場指揮官に抜け道を与える」表現だと理解しました。
カーター国防長官は、「原則全開放:no exception」を4軍に認めさせる一方で、米軍指揮官の裁量の範囲も大いに認めたと言えましょう。

まぁ米国のことですから、誰かがメディアの前で「話が違う」と騒いだり、裁判を起こしたりして、落ち着くところに落ち着くのでしょう。
多様性は組織を強くする・・・との言葉を、生かすも殺すも、組織管理者次第と言うことでしょうか。

本件関連の「覚書き」→http://www.defense.gov/Portals/1/Documents/pubs/OSD014303-15.pdf
カーター長官会見→http://www.defense.gov/News/Speeches/Speech-View/Article/632495/remarks-on-the-women-in-service-review
会見映像→http://www.defense.gov/Video?videoid=440437

軍での女性を考える記事
「ある女性特殊部隊員の死」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-10-27
「珍獣栗田2佐の思い」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-05-17
「2012年の記事:栗田2佐」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-06-11

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米国防長官が人材確保・育成策第1弾を発表 [カーター国防長官]

Force of the Future2.jpg18日、カーター国防長官はGeorge Washington大学で講演し2月に就任直後から取り組みを宣言していた人材確保・育成策「Force of the Future」計画の第一弾を発表しました。
数ヶ月以内に更なる計画を発表すると講演の中で述べており、同長官の意気込みが感じられます

カーター長官の念頭には、世界情勢や科学技術の素早い動きに対応して行くには、必要な分野に必要な人材を適時に柔軟に確保し、また養成した貴重な人材の流出阻止が極めて重要であるとの危機感があり、出来ることから積極的に実行に移すべきとの「スピード重視感覚」があります

長官は就任直後から、シリコンバレーの有力IT企業や軍需産業や有識者と複数回議論を重ねており、これに国防次官(技術開発&兵站担当)や副長官当時の経験を併せ、かなりの思いを込めて施策を推進していることが伺える講演で、「ミリオタ」の方より、人事施策に頭を悩ませる管理職一般の方にお勧めの内容です

施策の必要性や問題認識部分は上記で紹介した事項で十分ですので省略し、具体的な施策に言及している部分の概要をご紹介します

本日は講演概要を紹介する米国防省web記事でご紹介しますが、全文にご興味のある方は以下のトランスクリプトを
http://www.defense.gov/News/Speeches/Speech-View/Article/630415/remarks-on-building-the-first-link-to-the-force-of-the-future-george-washington

または国防省発表の「Fact Sheet」5ページで
http://www.defense.gov/Portals/1/features/2015/0315_force-of-the-future/documents/FotF_Fact_Sheet_-_FINAL_11.18.pdf

インターン制度拡充で良い人材を
Force of the Future5.jpg将来の優秀な文民職員を引きつけるのに欠かせない施策である。インターン制度をより拡充して充実させ、より効率的に運用し、優れた将来性のあるインターンを国防省職員に招き入れたい
●インターン制度で受け入れる職種や部署については、webサイトの「www.defense.gov/LinkedIn」でまもなく公表する

米国の優秀な技術者や外部組織を活用
●「Defense Digital Service制度」を構築しつつ有り、これにより国防省以外の技術者を、特定の期間又は特定のプロジェクトのために特化して招き入れ、国防省が抱える複雑なIT関連問題の解決に、より革新的で機動的な対処を図る
●例えば、企業家精神を持つ特定分野の高練度者を、特定の困難なプロジェクト担当の国防省高官と共に2年間程度業務させ、国防省に活用することも考えられる

Force of the Future4.jpg●逆に、国防省職員に時間を与えて(国防省以外の組織に派遣し、)新たなスキルを身につけさせ、外部有識者との関係を構築し、アイディアを国防省に持ち帰らせることを可能にしたい
●具体的には、優秀な国防省職員を1年間企業に派遣する「Secretary of Defense Corporate Fellowship program制度」の対象者を倍増し、下士官も対象者に含める。対象企業には、Accenture, Google, SpaceX, Intel, Amazon, EMC等々が含まれる

●より多くの国防省員が、従来の既定路線エスカレーターから一端降り、キャリアを傷つけること無く、再び新たな力を備えて復帰する制度を支援したい。最後には国防省のためになるはずだ

軍人用の長期有給休暇(sabbatical)や年金改革
Force of the Future3.jpg軍人が2~3年の有給休暇を活用し、学位取得や家族編制や技能取得に当てる「Career Intermission Program制度」を、継続するよう議会に要請する
●本制度を数年前に活用した海軍パイロット夫妻の例を紹介したい。共にF-18操縦者だった夫妻は、本制度を利用し、夫がMBAを、妻がハーバードで広報活動の学位を取得、更に子供も設けた。夫は今、海軍長官の首席副官で、妻は海軍広報部で勤務することになっている

現状では20年以上軍で勤務しないと退職後の特典が享受出来ないが、8割以上が20年未満で退職しており、何の恩恵も受けないで過ごしている
●この制度を我々は変更する。数年先にスタートする制度では「簡易な401Kのようなプラン(個人年金)」を提供し、いつ転職しても何らかを得る機会を提供する

「Big data」活用で適材適所を推進
●「Big data」活用で、国防省での勤務や生活をより魅力的なものにしたい。例えば「LinkedIn-styleの職務希望申請」を拡大し、各個人の希望業務やポストと組織ニーズのマッチングをより円滑に進めたい
●また、組織構成員の資格や能力やタレントに関する膨大なデータを、「Big data」分析活用で処理し、有する人材を最大限に活用したい

Force of the Future.jpg●(国際関係学専攻の学生聴衆に対し、)国防省が皆さんの考えるキャリア上で、貢献の対象になること知って欲しいし、皆さんに値する敬意と威厳を持って受け入れる用意がある事を知って欲しい。
●今日お話ししたのは、「Force of the Future」の一部で有り、今後数ヶ月で更なる施策を発表する予定だ。士官の昇任管理や文民職員の管理改善等々についてだ
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国防省発表の「Fact Sheet」は5ページにまとめられ、細かな施策が21項目コンパクトに解説されています。
国防省内の全職員と全兵士に魅力化施策を訴え、国防省外の企業や学会や研究者に協力を呼びかける事を狙った「作り」と見ました。力が入っていますし、必死さが伺えます

どれだけ効果を生むか、本当に米軍や国防省機関で受け入れられるのか? 企業や学会や研究者の協力が得られるのか・・・? 
細部の制度設計が気になりますが、例えばサイバー分野の報酬面で、民間企業には到底及ばない国防省の人材確保に効果が見られるでしょうか・

いずれにしても、2月の就任直後に宣言した「Force of the Future」計画を、9ヶ月余りで具体化実行する勢いに改めて感嘆です。

「Force of the Future」特設ページ
http://www.defense.gov/News/Special-Reports/0315_Force-of-the-Future

カーター長官の「中露対処策」講演
http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-13

Work副長官の「Third Offset Strategy」解説
http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-15

シリコンバレーとの連携
「FlexTech Alliance創設」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-08-31
「技術取込機関DIUx」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-25

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米国防長官が中露対応をレーガン流に語る [カーター国防長官]

Reagan.jpg7日、カーター国防長官が加州で開催されたReagan Foundationのイベントで、基調講演として「ロシアと中国にいかに対応するか」を語りました。
同財団は故レーガン大統領の名を冠する組織で、「Building Peace Through Strength:強さ(力)による平和構築」との勇ましいスローガンを掲げる財団です。なおレーガン大統領は、米国の経済&軍事力で旧ソ連を崩壊に追い込んだ大統領(共和党)です

民主党政権下ながらこの財団のイベントを選び、中露対処を語る決断をしたカーター長官は、米中首脳会談でも相互理解の道が開けず、南シナ海で「航行の自由作戦」を決行した米国の強い決意を示そうとしたのだと思います

聴衆には主要なマケイン議員など主要国防関係議員や、統参議長や空軍を除く3軍のトップ、主要地域コマンド司令官(欧州、中東、太平洋か?)が顔をそろえており、力の入れようがうかがえます

実際、「航行の自由作戦」に関してカーター長官は、「再び実施する。私たちは本気だ:And we will do them again. We meant what we say」と強調して語り、その部分(だけ?)は報道されています

Reagan2.jpgただし、肝心の「ロシアと中国にいかに対応するか」部分については報道されていません。それは勇ましい演説の場の設定やテーマ選定の割には目新しい中身が無く、強力なパンチ力も無いからかもしれまし、どうせオバマ政権だから、どうせ予算がないから、と期待されていないからかもしれません

まあ、目新しくはないですが、「中露対処」のメニューを整理していますので、頭の整理も兼ね、ご紹介いたします
なおカーター長官講演は、8日のWork副長官の同イベントでの発言(米国の技術優位を維持するための計画)と、セットで見ていただくのが適当かと思います。副長官の発言は、別の機会にご紹介することにします

カーター長官講演の導入の概要
●レーガン大統領のように、強さとバランスが取れた革新的なコンセプトが、ロシアや中国対応には必要
●国防長官に就任時、私は3つを誓った、国民への忠誠、オバマ大統領への忠誠、そして将来への備えの忠誠な取り組みである。
●そして今日は4つ目、戦略的な変革の時代に、安全保障問題に革新的な戦略と作戦コンセプトの開発を進めることについてお話ししたい

ロシアに対しては
Reagan4.jpgロシアは、海や空や宇宙やサイバー空間で挑戦的な行動に出ているが、最も困惑させられるのは、核保有国の国家指導者に期待される、核兵器の使用に関する戦略的安定性や規範に対するコミットメントに疑問が生じていること
●また核兵器の位置づけについて、彼らの考え方の深遠な部分に疑問が生じていることだ。(プーチンによる、通常戦でも核兵器を投入することがある発言への疑問と思料)

●米国は冷戦も熱い戦争も望まないが、多様な対応をとる。すべてをお話しできないが、米国は核戦力の近代化を推進し、核抑止のために安全で効果的な核戦力を構築する
●ロシアの挑発行為に対応するため、技術開発に投資する。無人機、次期長距離爆撃機LRS-B、レールガン、レーザー兵器、新しい電子戦やサイバーや宇宙装備、そして幾つかのここでは言及できないサプライズな装備が含まれる。作戦コンセプトも同様

対ロシアで既に手を付けているのは
Reagan5.jpg他の米国政府機関の能力も活用する。情報広報キャンペーンや、既に効力を発揮している経済制裁等である。
ハイブリッドで非対称でサイバーも含む脅威の中で、欧州でのNATOを中心とする戦力体制にも変革を行い、機敏で維持可能な体制に変換していく

●例えば、東欧州に戦車や装甲車や大砲や関連装備を事前集積保管しておくことや、NATOにVJTF(Very High Readiness Joint Task Force)を構成配備し、欧州東部や南部での緊急事態に対応可能にする
●欧州での演習に米国はより関与し、訓練や相互運用性を改善する。例えば、6日に終了した過去13年間で欧州最大の演習である「TRIDENT JUNCTURE」には、米軍人4000名以上が参加している

●またサイバー戦分野では、NATOの機関である「Cyber Defense Center of Excellence」を支援し、同分野での強化を図っている
●更に、ウクライナには装備品を提供し、ドイツにローテーションで陸軍旅団を派遣している。同旅団は事前集積装備を活用し、パートナー国との演習や相互理解促進に努めている

レーガン大統領のように、ロシアに対しバランスのとれたアプローチにも取り組んでおり、イランや北朝鮮の核問題にP5+1の枠組みで協力関係も維持している。米国はロシアが今後も、責任ある役割を国際社会で果たす可能性をホールドする


中国対応に関しては
Reagan3.jpg●アジア太平洋リバランスは継続的に進展している。数日前に訪れた空母ルーズベルトは、太平洋地域への戦力シフトの一環としてSan Diego配置転換する
●米軍は今後、全軍種の装備に関し、大きな投資を行い当地域に最高で最新の装備を投入する。潜水艦戦や電子戦や宇宙戦やサイバー戦やミサイル防衛等々・・である

●また、台湾や同盟国への侵略を抑止して義務を遂行するため、また広範な緊急事態に備えるため、米国防省は根本的に伝統的な作戦計画やアプローチを変更しつつある。
●米国はまた、政治的で経済的なアジア太平洋関与を確立する必要があり、その点でTPP締結は最も重要である。戦略上極めて重要であり、ご臨席の全議員の皆さんに賛同をお願いしたい

地域の多国間の安全保障枠組みを、同盟国やパートナー国等と共に強化したい。例えば「Maritime Security Initiative」では、当地域国が情報を共有して潜在的脅威を把握し、協力して脅威にに対処する素地を提供している
Reagan9.jpg●また共通のルールや習慣を共有するため、米軍は多くの地域演習に参加している。例えばASEAN6カ国との海洋演習や、アラスカの部隊と地域関係国との訓練を通じた取り組みである

●更にASEAN国防相会議に参加し、韓国との同盟関係を進展させたり、豪州と日本を含む3カ国同盟の発展を推進している
●また、インドや、マレーシアや、ベトナムとの協力関係深化にも取り組んでいる。(まんぐーす注:タイ、フィリピン、シンガポール、カンボジア、ミャンマーに言及無し

南シナ海問題について
南シナ海は世界の海洋貿易の3割が通過する海域である。そのため、米国は当地域の領有権問題に大きな懸念を有している。
中国の領有権主張は、歴史上のいかなる国の主張よりも大きな主張である

Reagan7.jpg●先月、米海軍艦艇ラッセンが国際法に則り「航行の自由作戦」を実施した。このような行動を、我々は過去にも世界中で行ってきた
我々は同作戦を再び実施する。私たちは本気だ。国際法が認めるあらゆる場所で飛行、航行、活動を続ける

重要なことは、米国のアジア太平洋リバランスは、特定の国を支援したりおとしめたりする事を目的にしていない点である。これには中国も含まれる
習近平主席が「南シナ海の軍事化を追求しないと誓う」と語ったことを確認しておきたい

●複雑な状況だが、中国との協力もバランスを持って見ている。相互理解やリスク低減の機会はある。例えば、航空機の危険な遭遇を避ける合意を含む、中国との4つの信頼情勢合意を結ぶことも出来ている
先週、新年早々の中国訪問招待を受けた。両国の相違点について議論することあろうが、共通の課題への協力についても議論できるだろう。海賊対処、HA/DR、天候変動対処等々である
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講演では、レーガン大統領の政策を振り返り、如何に冷戦末期を戦略的に競って戦って勝ち抜いたかを解説し、その知恵に学ぼうとの姿勢を前面に出しています
現在の政策に結びつけた時点で、今の策が色あせるのですが・・・

これだけ場の設定を整え、中露に絞った演説を打っても、一般プレス上でそれほど話題にならないのは悲しいことです。既に別の場所で言及することを整理してまとめた講演と言ってしまえばそれまでですが、カーター長官にとってはつらいことでしょう

Reagan8.jpg第3のOffset Strategy」や「国防省の業務要領の効率化や迅速化」を精力的に打ち出し、「シリコンバレーとの連携強化による民生技術の早期導入枠組み構築」への陣頭指揮など、就任1年以内の国防長官として150%の獅子奮迅だと思います

そんな懸命の姿勢にも世界に打ち出すインパクトがないのは、話し合いでの妥協が生み出せない米議会の機能不全や、ホワイトハウスの安全保障政策の無策振りが際だっているからです。
でも、そんなことは百も承知で、この時期に国防長官を引き受けた、カーター氏に最敬礼せざるを得ない心境です!

それでも今後注目し、フォローしたい表現は・・
●「幾つかのここでは言及できないサプライズな装備:new systems for electronic warfare, space and cyberspace, including a few surprising ones that I really can’t describe here」
●アジア太平洋に関し、「米国防省は根本的に伝統的な作戦計画やアプローチを変更しつつある:changing fundamentally our operational plans and approaches to deter aggression, fulfill our statutory obligations」

Offshore Balancing的なアプローチですかねぇ・・・
帰路、飛行機に乗り込むカーター長官の後ろ姿に疲れが・

軍事技術開発や革新に関する、Work副長官の同イベントでの発言は、そのうち、気が向いたらご紹介します。チョット長期的な目線の話ですが・・・

中国関連は、半年前のシャングリラ発言と変化無し
「2015年アジア安全保障会議」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-05-28

ロシア軍の関連
「露軍は鉄の壁arc of steelを構築中」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-10-07
「黒海NATO演習と露軍反応」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-03
「露軍の電子戦力は米より強力」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-08-03-1

「2日連続トルコ領空侵犯」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-10-06
「露空軍空爆開始」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-30-1
「シリアは地政学チェルノブイリ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-23

「対ISに暗雲:露軍展開」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-21
「イラン核合意で中露が中東で好き放題」 →http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-08
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米軍北極特殊部隊削減と米露の北極戦力差 [カーター国防長官]

Alaska Arctic.jpg10月30日、韓国訪問とASEAN国防相会議への参加のため8日間のアジアツアーを開始したカーター国防長官がアラスカに立ちより、オバマ大統領のアラスカ訪問に続き「北極は重要だシグナル」を出しています

しかし、アラスカ州選出の共和党議員は精強な極地対応部隊の削減が予定されることや、ロシアに遙かに劣る米国砕氷船の体制や、米国防省の陳腐な北極戦略計画を厳しく批判しており、「先立つものがない」又は「視線だけで身体がその方向を向いていない」状態が明らかになっています

1日付Defense-News記事によれば
Arctic ship.jpg●10月30日、アラスカ州のフェアバンクスの陸軍基地を訪問したカーター国防長官は、氷の急激な減少やロシアによる猛烈な航路開拓や海底資源開発への取り組みを受け、長らく続いてきた北極圏の安定が脅かされていると語った
●カーター長官は「北極はどんどんその重要性を増す地域となっている」、「米国にとって重要だし、他国にとっても重要性を増している。重要なのは地域の平和と、規範に基づく秩序である」と訴えた

2013年にオバマ大統領が北極圏に関する国家戦略を発表した際、「平和で安定し、争いの無い北極圏」を描いたが、その方向には向かっていないようだ
●(北極航路や海底資源以外にも、)北極圏には米国のミサイル防衛システムが配備され、北半球の移動を短縮するため北極上空を民航機が飛び交っており、米国にとって鍵となる重要地域である

Obama Alaska.jpg●しかし、豊富な地下資源確保を狙うロシアが今夏に数千名参加の北極演習を行った一方で、厳しい予算により、米国防省はアンカレッジに所在する約2600名の極地訓練を受けた部隊を削減しようとしてる。
●またオバマ大統領が9月にアラスカを訪問した直後には、5隻の中国海軍艦艇が初めてベーリング海の米国沿岸で活動するなど、北方を視野にした活動を各国が活発化している

2013年に米国防省が発表した北極戦略文書は、当地域における米軍の急激な増強は他国軍との軍拡競争を招くとした姿勢を示し、「北極圏に軍備増強されるとの認識の広がりは、軍備競争感覚を導くリスクを帯びている」と記している

アラスカ選出議員の批判
Sullivan Alaska.jpg●Dan Sullivan上院議員(共和党)は、北極圏で米軍軍事力を緊急に増強する必要性が忘れられていると訴えている
●同議員は「来週ロシアがアラスカに攻めてくるなどと言うつもりはない。しかしこのような戦略環境下で、精強な訓練された極地対応部隊を削減する事が意味あることなのか? 戦略的に理解できない」と語っている

●同議員は、2012年にプーチンが3度目の大統領任期を開始した以降の北極支配施策を取り上げ、ロシア北極軍には4個旅団が所属し、2020年までには50飛行場が整備され、長距離爆撃機による警戒飛行も増加している状況を指摘した
●また、原子力推進型を含む現29隻の砕氷艦と11隻の増強建造計画の存在を同議員は訴えた。開設予定の多くの北極圏の露軍施設はソ連時代に開設されたが、冷戦終了後の混乱で放置されていた基地等である

Arctic.jpg●Sullivan上院議員によれば、一方で米国保有の砕氷艦は僅か2隻で、しかもそのうち1隻は故障中の惨状である。
●同議員は最低追加で4隻の砕氷艦が必要だと訴えつつ、現在の米国防省の北極戦略は「真剣に検討された軍事戦略文書だとはとても考えられない」と語っている
「米国防省の北極戦略」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-11-23-1
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カーター長官は1日には朝鮮半島の板門店で南北対立の前線を視察し、2日には韓国の首脳達と会談するのでしょう。

Korea DMZ.jpgその後はASEAN国防相会議で、ここでは「航行の自由作戦」を柱に、南シナ海情勢について説明し、米国の今後の同海域での軍事的姿勢について理解を求めると思われます

ASEAN諸国の南シナ海問題での姿勢は様々で、ASEANの「緩やかなまとまり」を象徴する状況ですが、ベトナムやフィリピンと、タイやインドネシアやマレーシアとの空気感の違いがどんな風に現れるのか注目されます

プーチン様には困ったもんです。ストレートに明確な戦略の基礎に、まっしぐらですから

北極&極地関連の記事
「ロシアが鉄の壁構築」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-10-07
「露軍が北極に部隊増強」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-04-1
「露が北極基地建設を加速」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-09-09

「米軍C-17が極地能力強化」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-02
「無人潜水艇で北極海調査」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-03-04
「北極海での通信とMUOS」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-08-25-1

「米国防省の北極戦略」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-11-23-1
「米海軍が北極対応を検討中」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-11-20

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不満です:カーター国防長官のTPP祝福声明 [カーター国防長官]

TPP7.jpg5日、延期を重ねたTPP閣僚会合が最終的に開催され、TPP交渉の大筋合意が発表されました。
そして「大筋合意」が報道されるやいなや、間髪を入れず、カーター国防長官がTPP米国代表団フロマン代表等を「ねぎらい」「TPPの意義」を語る声明を発表しています

まんぐーすは経済交渉の細部が分かりませんが、「日本のTPP反対派」のメンツが「黒々」しているので「TPPには大賛成」です。また、米国政府として自由貿易を推進する姿勢は良く理解出来ますし、カーター国防長官がこれを喜ぶのは自然です

でも、米国防長官が声明まで出して交渉代表団を讃え、TPPの重要性を語る必要があるのでしょうか?
米国経済の成長が国防予算確保に直結することは当然ですし、TPP関連のアジア太平洋諸国が一致団結してパートナー関係を強化することは、「安全保障の強化」に繋がることは明らかですし喜ばしいことです。

しかし、ケリー国務長官が声明を発するのとは異なり、カーター国防長官が喜ぶと軍事的な弱みを強調する結果にならないでしょうか?

TPP-Graphic.jpgカーター国防長官は就任直後、「アジア太平洋リバランス特設webページ」を開設し、米国防省や米軍の取り組みをアピールし始めました。結構なことです。

しかし同サイト開設時、トップページの最上段に、デカデカと一番目立つ大きさで「TPPの重要性」を訴える図を掲載し、軍事面の強化やその必要性を訴えるのでは無く、TPP交渉成立に期待する姿勢を「いの一番」に打ち出し、物議を醸しました。

なお、「TPPの図(写真上)」は、縮小はされましたが、現在もトップページ下部側面に解説付で掲載されています

5日付TPP合意に関する米国防長官声明の概要
●(国防長官として)私は、歴史的な11カ国によるTPP合意をまとめ上げたフロマン代表や交渉チームにお祝い申し上げる
米国軍事力は活発な経済によって支えられている。TPPは成長する市場へのアクセスを増やして輸出を促進する

TPP2.jpgオバマ大統領が述べ、私も繰り返し明示しているように、TPPはアジア太平洋リバランスの極めて重要な一部を構成するという、強い戦略的認識の基でも重要である
●我々の戦略は、関係国全てが上向きに発展する地域の安全保障枠組みを推進することにある

●共通原則と開放性、更に高い規範を通じて構築されるパートナー関係により、TPPは地域の不安定さを減じ、世界でも成長著しいこの地域における米国の影響力と指導力を確固とするものになろう
////////////////////////////////////////////////////////

しつこいですがもう一度言います
言いたいことは本音としてよく分かりますし、経済的相互依存が避けて通れない重要な現実であることも理解しているつもりです。

TPP3.jpgしかしカーター長官殿、あなたが正面に出て訴える必要がありますか? 記者に問われたとき、質問に返す形で語れば良い内容ではありませんか???

シリア情勢大混乱な中、カーター長官におかれましては、表面だけでも「でんと構えて」頂きたいものです!

ご参考:6月8日にはカーター&ケリー長官連名で
「USA Today」にTPP重要を訴える投稿を
http://www.sankei.com/world/news/150609/wor1506090014-n1.html

4月6日には「TPPは空母くらい重要」と来日前に講演
http://www.news24.jp/articles/2015/04/07/10272504.html
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米国防長官が薄膜回路センサー開発に企業等と大同盟 [カーター国防長官]

久々にカーター国防長官を取り上げます!

Hybrid electr.jpg8月28日、カーター国防長官がカリフォルニア州で薄い膜のような曲げられ装着可能なセンサーをイメージした「hybrid electronics」を開発する、企業&大学&政府機関の連合体「FlexTech Alliance」の創設を発表しました

この「Alliance」に参加する96企業、41大学、14国家や地方機関、11研究機関を束ねて研究を推進するため、「National Manufacturing Innovation Institute:国家製造革新研究所」を設けるとのことです。

カーター長官は、民間分野で生まれる新技術を、いち早く国防に導入するための各種施策に力を入れており、最近では、シリコンバレーの新技術を見いだして取り込む機関「Defense Innovation Unit Experimental:DIUx」を設置したところです。

8月28日付米国防省web記事によれば
カーター国防長官は加州の産業界を訪問した後に講演し、開発を目指す「Flexible hybrid electronics」が巨大な潜在的可能性を秘めていると語った
●国防省はシリコンバレーに設置される「国家製造革新研究所」に約90億円の投資を行い、「Alliance」に参加する官民の団体からも同等以上の投資があると、国防長官は明らかにした

hybrid elect.jpg●カーター長官は「Flexible hybrid electronics」について、薄いシリコンチップに電子回路やセンサーや電源等を組み込んだ柔軟性のある先端素材だと表現し、「次世代の電子装備になり得る」と語った
●また「軽量で柔軟で薄い同製品を、艦艇や航空機の表面にセンサー等として装着したり、従来の回路基板や配線が不可能だった部分に活用すれば、リアルタイムでの情報収集が可能になる」とも可能性を語った

●更に「肌のような柔軟性を持つ同製品を兵士の戦闘服等に織り込んだり直接装着させることで、兵士の状況を的確に把握でき、負傷した場合などに迅速な対応が可能になる」とも語った
●長官は「この革新的な技術が応用可能な分野や装備を、我々はまだ十分理解出来ていないのが現実だが、これが革新的技術の素晴らしい側面でもある」と大きな期待を示した

●過去3年間でオバマ大統領が取り組んだ「製造革新研究所」が6つあるが、その内4つが国防省関連機関である。
●これらの機関をカーター長官は、「最先端の電子装備を開発、製造して、民間へ波及させるための、先駆者的革新を可能にする研究拠点だ」と語った
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Les&Gay month.jpg理論物理学者であるカーター国防長官が、国防副長官や調達担当国防次官として軍需産業政策に取り組んだ経験を踏まえ、また米軍の技術優位を維持するための施策を思案した結果の一つとして、「第3のOffset Strategy」が発表されていますが、その取り組みの一環です
カーター長官に取っては「一丁目1番地」の事業なのかも知れません

「第3のOffset Strategy発表」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-09-06-1

米国防省幹部によるシリコンバレー訪問が頻繁になってきました。
シリコンバレーは「IT産業」のイメージで、もちろん今もそうですが、最近は「もの作りベンチャー」も集まりつつあるようで、国防省はそんなところにも期待しているのかも知れません

ちなみに、冒頭で紹介した「シリコンバレーの新技術を見いだして取り込む機関:DIUx」に付いては、以下の過去記事とwebサイトが紹介しています
過去記事→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-25
関連Webサイトhttp://diux.mil/

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2011年以来初:国家軍事戦略NMS公表 [カーター国防長官]

2015 NMS per.jpg1日、カーター国防長官とデンプシー統合参謀本部議長が会見し、まず長官が次の海兵隊司令官候補にRobert Neller中将(海兵隊戦闘コマンド司令官兼ねて欧州海兵隊司令官。カーター長官が副長官時にJ-3で、互いによく知る仲)が推薦されたことを紹介し、次にデンプシー議長が国家軍事戦略(NMS:National Military Strategy)を2011年以来4年ぶりに発表しました

なお、2011年(24ページ)の前は2004年で、そんな位置づけの文書です

発表されたのは本文17ページの文書で、「サプライズの無い」「抽象的で」「あっさり」したものです。
カーター長官が同席の会見で本文書に一切言及せず、デンプシー議長の挨拶文が文書冒頭を飾る事が示すように、政治的なものが入らない、つまり「強制削減」や「予算」との言葉が全く含まれない、軍人の文書です

会見ではデンプシー議長による短いNMS紹介の言葉がありましたが、会見で記者からNMSに関する質問は全くなく、中東情勢に関する質問一色でした。
記者さん達はその位置づけをよくご存じで、抽象的な文書より、「予算」や火の手の上がる「中東」「ウクライナ等東欧」「南シナ海等」の現場の動きに関心があるようです

NMSの現物(約1.2mb)
http://www.jcs.mil/Portals/36/Documents/Publications/2015_National_Military_Strategy.pdf 

デンプシー議長は会見でNMSを紹介し
2015 NMS.jpg4年前にNMSを出して以来、世界の不秩序は拡大傾向に有り、一方で米軍の優位性は浸食されつつある。2015年NMSでは、我々の成功が、軍事的手段で如何に他の国家パワーを支援出来るか、また軍事的手段が同盟国や友好国との連携を促進出来るかにかかっている、との認識に立っている

●本戦略は、継続してより高い機敏性、革新、統合部隊の融合を求めている。また本戦略は、米軍事力が世界の安全保障環境形成に関与するために必要なことを明らかにし、この戦略を生かす人材の育成への関与を新たに確認している

1日付Defense-New記事によれば
●デンプシー議長の冒頭挨拶文は「我々は、伝統的な国家から地域をまたぐ非国家組織までの、多様な挑戦を同時に受けている。そしてそれら敵対組織全てが、急速な技術革新を活用している」、「短期解決する紛争ではなく、長引く争いごとにより多く直面するだろう」と情勢認識を表現している
●また文書に政治や強制削減や予算の話はないが、デリケートな国際問題に対処するため、関係国とのパートナー関係の重要性にも焦点を置いている

2015 NMS chair.jpg●本戦略では、イラン、ロシア、北朝鮮を、特に世界平和への攻撃的な脅威と呼んでいる。中国に関しても同様だが、オバマ政権は中国の発展を支援し、国際社会でのパートナーとして支援したいとの表現も加わっている。
●更に戦略では「これらの国も、米国やその同盟国に対する直接武力紛争を狙っては居ないが、にもかかわらず、どの国も深刻な安全保障上の懸念を引き起こしており、国際社会は集団的に政策、意思表明、共同行動で対応することになっている」と表現している

●本戦略は「今日、米国が国家間紛争に大規模戦力で関与する可能性は低いが、その可能性は増加しつつある」とも表現し、また「ハイブリッド戦」に関し、対ISだけでなく、ウクライナの新露派戦力との紛争にも拡大すると表現している
●また、技術的な優位性がもはや保障されていない状況にあるとの認識を示し、同時に対ISの様な紛争では、技術的優位が勝利を保障しないとも記している

米空軍協会web記事は
●本戦略は「将来の紛争は、急に襲いかかり、長引き、技術的に困難な戦場で戦われるだろう」と述べ、「米本土にもincreasing implications」と表現している
ロシアを「隣国の主権への不配慮」「目的達成のための軍事力使用の意図」と表現、イランについては核開発の懸念と「地域の安定を損ねるテロ支援国家」と表現し、テロ支援先として「イスラエル、イラク、シリア、イエメン」を挙げている

ご参考:米国防省webの関連記事 
http://www.defense.gov/news/newsarticle.aspx?id=129197
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2015 NMS Cart.jpg何もケチを付ける気持ちはありませんが、2011年を最後に放置されてきたNMS文書を、デンプシー議長が退任前にすっきりさせておきたかったのでしょう。
でも「他の国家パワーを支援」「同盟国や友好国との連携を促進」を短い会見コメントで出してくるあたりは、「無い袖は振れない」米軍の実態を端的に示したかったのでしょう

安全保障の論文を書いたり、米軍事を論ずるときの「引用文献」「参考文献」としての活用が最も想定されます。
本文17ページで、比較的大きな字ですので、項目だけでもチラ見しておいて良いでしょう

NMSの現物(約1.2mb)
http://www.jcs.mil/Portals/36/Documents/Publications/2015_National_Military_Strategy.pdf 

2011年にNMSが発表された際の記事(中身無し)
http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-09

2011年以来、見直しが無い事への下院軍事委員長の不満
http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-10-17
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米国防長官:対ロシアはVJTF(高即応統合部隊)で [カーター国防長官]

NATO3.jpg25日、ブラッセルでのNATO国防相会議に長官として初参加したカーター国防長官が記者会見し、米軍の欧州へのコミットメントの裏付けとして、VJTF(高即応統合部隊)を運用すると語りました

一方で、記者団からの「現在欧州に展開する6万5千名の兵力を増強するのか?」との質問には、「現時点で増強の考えはなく、ローテーション派遣を基本とする」と答えています

VJTFに関しては「新しい能力を提供」と表現し、部隊の種類を多数上げており、今は存在しない部隊を派遣するのでしょうが、総兵力数6万5千名に変化をもたらすほどの兵員を伴う部隊を常時在欧させる計画ではないのでしょう。

または、65000名との数自体が、かなり底上げした表現の数字なのかもしれません

会見のトランスクリプトによれば
NATO1.jpg●ロシアによる攻撃的で脅威となる行為に対し、米国の戦略的アプローチは強力でバランスのとれたものであり、NATOへの関与は重要な部分である
新たな対処行動の一つは、VJTF(high Readiness Joint Task Force:高即応統合部隊)である。22日にVJTF関連部隊を訪れた際、私は新たな戦力増強(provide many unique enabling capabilities)を行うと発表し、今朝も昨日も同盟国にその旨を告げた

●増強する10カテゴリー
域内及び戦略空輸力
航空ISR能力
戦闘維持支援(combat sustainment support)
空中給油能力
1個航空宇宙展開航空団(an air and space expeditionary wing)
海軍支援装備(naval support assets)
精密誘導火力(precision joint-fires)
戦闘ヘリ(Combat helicopters)
1個移動式指揮所(a deployable command post)
海空軍の特殊作戦部隊(special operations air and maritime能力)

●他には、演習や訓練を支援する米軍の派遣や展開があり、これは米軍の機動性や対応力を向上させる役割も果たす
●また、中欧や東欧地域に、戦車、歩兵戦闘車両、火砲等の1個旅団規模の関連装備を事前集積する。2個大隊分は既に現地にあるが、全体の1/3もまもなく到着する

サイバー戦やハイブリッド戦といわれる新たな脅威への備えにも取り組んでいる。NATOサイバー防衛センターへの関与による戦略からインフラ等々の計画的強化、また弾薬の共通化に習ったサイバー対処基準のすりあわせ等々に取り組む
ハイブリッド戦(対称戦と非対称戦の同時対処か?)に関しては、NATOが戦術、技術、手順等々を共有することが必要。NATO事務総長(Stoltenberg:新着任)にもこの点を優先するようお願いした
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NATO2.jpgこの様に抽象的な表現だったため、直後の質疑では「ルーマニアに関しては、どんな関与をしてくれるのか?」、「現在欧州に展開する6万5千名の兵力を増強するのか?」等の具体的中身を問う質問が連発しましたが、カーター長官は「増員の計画なし」「ローテーション派遣」としか具体的には触れませんでした

また特に米国メディアからは、中東問題にも多くの質問が出され、対IS、アフガン対応等々、カーター長官の大変さ、つまり米国の大変さがよく分かります
「10カテゴリー」の増強・・当然嘘はないでしょうが、その厚みについては余り多くを期待するのは酷でしょう

なおこの他に、「Wales Summit」でNATO諸国が共有したはずの「各国予算における国防投資の確保」について、改めて強く「釘を刺す」ことも忘れては居ませんが、これも期待薄かも知れません。

関連の記事
「フィンランドが不明水中物体に警告機雷」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-29
「米軍がロシア最新軍事技術分析」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-02
「NATOと連接せず:トルコ防空」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-02-20

「露軍機とデンマーク民間機が接近」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-22
「スウェーデン領海内に露潜水艦?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-10-23
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カーター長官のインド訪問 [カーター国防長官]

INDIA PM.jpg2日から3日にかけ、カーター国防長官がインドを訪問し、インド首相、国防省、外務担当相、国家安全保障補佐官と会談表敬を行い、「2015 Framework for the India-U.S. Defense Relationship」文書に署名したようです。またインド海軍の東部コマンドを訪問しています

本文書は、これまでの合意事項をアップデートしたもので、高官協議や技術協力等を含みますが、今年1月のオバマ大統領訪問で前進した両国関係の推進力を絶やさないよう、懸命のエネルギー充填です

3日付米国防省web記事によると
●両国による共同声明によれば、インドのParrikar国防相とカーター長官は、両国の国防関係の他、広範な戦略パートナーシップについて話し合った
●両者は両国関係を発展させることに合意し、地域の安全保障問題について意見交換を行った

INDIA DM.jpg新たな「2015 Framework」は従来の合意を発展させるもので、今後10年計画でハイレベルの戦略対話や両国軍の交流や訓練により国防能力強化を目指すものとなっている
●新枠組みは変化を続ける軍事技術分野の協力(Technology and Trade Initiative (DTTI))についても触れ、両国が「mobile electric hybrid power」や「next-generation protective ensembles」の共同開発に合意したことに言及している

●更に、本年1月のオバマ大統領によるインド訪問時の合意である、ジェットエンジン共同開発の推進、空母設計建造に関する協議を更に前進させることでも合意した
●また、インドを軍装備の製造ハブへと推進する国家計画を含む、両国軍需産業界のパートナーシップ構築に向け、共同生産や共同開発を追求することでも合意した

●また両国防相は、相互の関心事項である海洋安全保障や国防に関する知的分野でも協力関係を継続発展させることで合意した
●カーター長官は、インド国防相を米国に招待し、インド側は基本的に同意した。

3日付Defense-News記事は
INDIA FM.jpg●米国防省高官は、DTTIの2つのプロジェクトは、2年間の合計で6000万円程度の小さなプロジェクトだが、規模は問題ではなく開始することに意義があると語っている
今後可能性のあるより大きな共同プロジェクトは何かとの記者団の質問に、同高官は、基本的にインド側が望むものは何でも歓迎すると述べたが、ジェットエンジンや空母設計については議論を始めている模様

ただ、冷戦時代の長きに亘り、両国の軍需産業システムは全く異なる道を歩んできた。そのため両国産業の協力には時間がかかる。またインドの国防調達は非常に時間が必要であり、その点も考慮する必要がある
●一方、対外関係に関し積極的とは言えなかったインドの前政権と比較し、モディ政権は積極的だとみられており、今後に期待されている
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INDIA Press.jpg米側の力の入れようが伺えます。しかし、少し前進ぐらいのことかも知れません。ジェットエンジンや空母の設計が簡単に進むとも思えませんし・・・

しかし重要な大国間の関係ですので、なが・・い目で見る必要がありましょう


インド関連の記事
「露製ステルス戦闘機インド輸出版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-01-14

「インド首相の米国訪問」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-09-30
「ヘーゲル長官の訪印」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-08-12
「米印関係ランクアップ?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-10-01-1
「米軍がインド対応特別チームを」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-08-16
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カーター長官のベトナム訪問と非拘束合意 [カーター国防長官]

Vietnam.jpg1日、カーター国防長官はベトナムを訪問し、国防長官として初めてベトナム沿岸警備艇を視察したほか、Phung Quang Tranh国防相と会談し、拘束力のない「Joint Vision Statement」に署名しました。
また、警備艇視察の後には、警備艇購入支援に約20億円を提供すると発表しています。

ベトナム戦争後の「しこり」が長く残り、中国の台頭を背景にベトナムとのよりを戻し始めた初期段階の米国ですので、まだまだ「人権問題」等で意見の相違も根強いのですが武器の共同生産にも道を開く内容の声明がまとまっています

1日付Defense-Mews記事によれば
●カーター長官は「Joint Vision Statement」の署名式で、「昨年米国がベトナムへの武器禁輸を緩和したことを受け、両国はこの合意で初めて、行動を共にし、装備取引を活発化し、共同生産への歩みにコミットした」と語った
●米側高官は微妙な両国間の協議に触れつつ、2011年の両国覚え書きを発展修正した点で大きな意義があると評価した

Vietnam3.jpg●「Statement」は、「装備品取引を拡大し、現行法制の元で、新たな技術や装備の開発も潜在的に含むものとする」と謳っている
●米側関係者は、急激に物事が進むとは期待出来ないが、中国とベトナム間で広がりつつある亀裂に飛び込む意味も込め、両国産業界の潜在的な枠組みとなると意義を語った
ベトナム軍の装備品の9割以上はロシアからの輸入であるが、この合意が両国の「win-win」な関係を提供し、米国軍需産業の進出でロシア軍の影響力を削ぐことにもなろう

●ベトナム国防相は署名式典で、米国武器輸出の緩和を歓迎する一方で、全面解除も要望し、「全面解除が両国関係に信頼と敬意を払うことを表す」と語った
●カーター長官はまた、米国防省から在ベトナム米国大使館にPKO専門家を派遣し、ベトナムによるPKO活動教育を支援すると発表した。ベトナムがいつPKO活動を開始するかは未確定である

ベトナム国防相は、ベトナム戦争で米軍と戦った功績で、共産党内で現在の地位を得た人物である。それだけに思い入れもあるようだ。

相違点も存在
Vietnam2.jpg●米国とベトナム間で意見の相違は残っている。一つは人権問題であり、署名式でカーター長官も触れたが、質問には細部答えず、国務省と連携しつつ国防協力を進めると述べるにとどめた
●もう一つは領有権問題である。米国は南シナ海の島々に軍を配置したり、施設を建設することに反対の姿勢だが、ベトナムはベトナム管理下の19の島に軍人を配置している。ただし島を拡大する計画はない
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記事には、「国防省は、この様な合意文書を製造する工場のように見えることもある」と皮肉を込めた表現も見られます。

でも、カーター長官歓迎のセレモニーはかなりの規模で、昨年石油採掘リグを巡ってベトナムと中国が激しく対立して以降の「風の変化」も感じられます
日本もベトナムとの関係では色々貢献出来そうですので、こっちの方に来るようにお誘い致しましょう。

アオザイには惹かれるし・・・。

米国防省webの関連記事
http://www.defense.gov/news/newsarticle.aspx?id=128955

米とベトナム関係の記事
「武器輸出緩和発表」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-11-13-2
「ベトナムへ武器輸出解禁か?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-09-28
「50年ぶり米軍トップが訪問」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-08-16
「中国と関係改善の兆し?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-08-28
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主要研究者38名が国防予算改革を要求 [カーター国防長官]

open-letter2015.jpg4月29日、主要な政策シンクタンクの国防問題研究者38名が連名で国防長官と上下院軍事委員会主要メンバー宛の「公開書簡」を発表し、政治や議会による「対応放置」が原因で国防予算の不均衡是正が進まず、米軍事力の有効性や健全性を脅かしていると訴えています

同様の「公開書簡」は2013年6月にも発表(25名の連名)されていますが、2年前から主要研究者の懸念は変わらず、むしろ当時より変革の必要性は強まっていると訴えています。

「研究者25名が国防改革を要求」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-06-06

「個人的に」主旨に賛同して署名したメンバーには国防分野の主要な研究者が含まれており、CNASのフロノイ、CSBAのKrepinevich、AEIのイーグレン、Brookingsのオハンロン、StimsonのGordon Adams、CAPのLawrence Korb、CFRのDavidsonの他、CSISやAmerican University、Third Way等々からもお馴染みのメンバーが集まっています

他の国防政策に関しては意見の相違もあるが、この部分だけは皆の意見が継続して一致している」との分野は具体的に、「基地の再編整理:BRAC」、「文民職員の削減」、「福利厚生(compensation)予算の改革」で、その道の「通」ならではの指摘です

Open-let20152.jpg要求の中身は、予算案の大きな部分を占め固定経費化している部分の改革で、議員による地元への利益誘導を断ち切ったり、有権者の不評を買う「痛みを伴う改革」を求めるものです。

つまり、「大統領選が近づくと無視されるだろう問題点」と皮肉たっぷりに書簡が表現する代物で、繰り返しますが、最も根本的かつ本質的な部分で米国防省予算の課題となっている部分であり、是非頭に置いておきたい現実です

まず、基地の再編整理と閉鎖
過去5回実施されているのに、最後にBRACを行った2005年以降実現していない課題。最初の4回で年間約9000億円の経費節減を生み出し、2005年時には民主共和両党の支持を得て、年間4200億円の経費削減に貢献したのに・・。
Marine-okinawa.jpg●国防省の試算では、米軍基地の86%の面積を占める国内基地の内、約2割が余剰施設となっている状態が10年以上放置されている。国内の基地が放置されている中で、海外の米軍基地が大きな議論を呼びながら縮小されている中でである
●議会は早急に国防省と本課題に真剣に向き合い、過剰な国内施設の整理統合閉鎖を実行し、その分の予算を前線に配分すべきである

次に、文民職員の削減
●2001年から14年の間に正規兵は3%減少させられているが、文民職員は同期間内に、10%の76万人増となっている。昨年だけで3%も増加しているのだ。
●文民職員は重要な仕事も行っているが、2001年からの急増が増加分は、不必要な職員を生み出しているはずだ。更に指摘すべきは、同期間に外部委託会社の職員が70万人も増加している現実である

Medevac.jpg●国防省は部分的に文民職員の削減を行っているが、その削減が適切なものかどうかが不明確である。これは2014年に8兆円以上を文民職員に支払っている政策担当者に向けられるべき極めて重要な疑問である
●本件は会計検査院GAOも注視している。しかし、文民職員数の妥当性を検証するデータ提供に国防省が非協力的なことをGAOは厳しく批判している
●調査に協力するだけでなく、国防省は率先して組織の階層削減に取り組み、不必要な官僚機構を廃して最適な権限の領域を追求し、効率的な組織運営を目指すべきである

そして、福利厚生(military compensation)の改革
●現在の米国防省の福利厚生(military compensation and benefits)は、1970年代からほとんど変化していない。この間に対象者の年齢構成や学歴は上昇し、より低コストで満足度を向上出来る施策案も指摘される中でである
●福利厚生評議会も最近、時代の変化に対応した改革案で、移ろいやすい若者向けにアピールする施策や多様化する価値観に対応する手法を提言している

Pentagon.jpg●ただし本件に関しては、急増する負担も喫緊の課題である。1998年から2014年の間に、一人あたりの関連経費は76%も増加しているからだ。
国防省も経費上昇率を抑える「小手先の微修正」案を持ち出しているが、それさえも議会は取り上げようとしていない。議会は最低限、福利厚生評議会の提言を今年中に採決実行すべきである
●そして更に、米国の納税者にとって負担の少ない方法で、現役と退役者とその家族に、よりよいサービスが提供出来る最善の提案を吟味実行すべきである
///////////////////////////////////////////////////////

研究者達の書簡は最後に、上記3つの改革は、痛みを伴う不人気な分野で容易ではないと認めています。

しかし、「今年動かなければ、2017年の大統領選挙を控えて対処が遅れることは目に見えている」との危機感を持つべきだ・・・とも表現しています
そしてこの改革に取り組まなければ、又は失敗すれば、そのコストは計り知れなく大きくなり、前線兵士が将来の課題に対峙する備えを損なうと結んでいます

ちなみに、2013年6月の「公開書簡」に対し
下院軍事委員会の主要メンバーであるJim Cooper議員(民主党)は
Jim Cooper.jpg→「組織の枠組みを 超えた研究者たちの提言を賞賛する。しかし、この提言が実行される可能性はほとん ど無い。大多数の議員は、国家レベルの課題よりも偏狭な利害で行動しているからだ。また、軍事関係委員会のメンバーの多くは(選挙区に)軍の大きなプレゼンスが有ることを望む人間である」と語っていました

なお福利厚生「military compensation」については、
「研究者25名が国防改革を要求」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-06-06
に解説があります

関連の記事
「研究者25名が国防改革を要求」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-06-06
「4大研究機関が強制削減対処案」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-30

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米国防省がシリコンバレーとの関係強化へ [カーター国防長官]

Stanford.jpg23日、カーター国防長官はシリコンバレーを訪問し、スタンフォード大学で講演して4年ぶりの新サイバー戦略発表を宣言すると共に、シリコンバレーとの連携強化チーム「Unit X」の設置を発表しました。

先日、担当次官補の「事前説明」を紹介した新サイバー戦略関連については、以前の記事に気が向いたら追記することとし、「Unit X」に関する長官の発言を中心にご紹介することと致します

なお、カーター長官は同大学で講演した後、「Facebook本社」と有力ベンチャーキャピタルを訪問し、IT分野の技術革新の状況や国防省へのイノベーション精神の抽入に向けた意見交換を行っています
全ては、民間で日進月歩の技術を迅速に軍事技術に導入し、厳しくなる予算状況の中で効率的に米軍の技術優位を維持確保しようとの一貫した取り組みの一つです

国防省とSilicon Valley連携に「Unit X」
(23日付Defense-Newsによれば)
Stanford3.jpg●カーター長官は、国防省とシリコンバレー文化の協力は、技術開発と将来の脅威に備える意味で双方の利益になると訴えた。そして関係強化を促進するため、長官は公式に米国防省内に「Defense Innovation Unit X」を設置すると発表した。

●長官は「この種の初の試みであるUnitは、優秀な現役米軍人と国防省職員、更に予備役からも最高の技術素養を持った人材で構成される」、「同Unitは、両者の関係を強化して新たなものを生み出す。新たな革新的技術や可能性のある技術の発掘を助け、国防省とシリコンバレーとの架け橋の役割を果たす」と説明した
●更に長官は、情報の流れは双方向であり、同Unitは国防省に技術情報を提供することを主に期待されるが、同時にシリコンバレーの起業組織に国防省との契約を勝ち取るヒントを与える役割も果たすと語った

●また長官は、企業側に国防省との業務に際して「知的財産:intellectual property」に関する懸念があることを指摘し、「企業側に知的財産権を国防省に提供するよう強要することはない」、「国防省は過去の長い歴史の中で、企業が保有する知的財産を保護してきた実績がある」、「企業の知的財産権を尊重し理解する」と重ねて説明した

●そして長官は、「国防省にはスタートアップ企業や小規模企業の創造性や革新精神が必要だ。そしてそのためには、Silicon Valleyの皆さんの知的財産権を守ることが必要だと承知している」と語った
●更に長官は、国防省の鈍重(snail-paced)な官僚仕事の迅速化を約束し、「国防省の鈍重な官僚仕事により、革新的なアイディアや能力を失いたくないし、そうでないと起業集団とは協力していけないと思っている」と語った

匿名の国防省官僚は本件に関連し
Stanford4.jpg●細部はまだ検討中だが、Silicon Valleyから6マイルほど離れた「Moffett Federal Airfield」に同Unitが設置されるのではないか。5月には開設されるらしい

●この計画に加え、米国防省は「Corporate Fellows program:企業派遣員プログラム」の拡大を計画している。このプログラムは、主要な一般企業に15名程度の国防省職員を1年間派遣して経験をつませるものだが、これまでのところ国防省指導層が期待するほどの成果は上がっていない
●国防省はこの派遣プログラムを2年に拡大し、1年目の企業派遣はそのままで、2年目に関連の国防省部署に配置して企業で得た知見を業務に反映させる方式での「拡大」を考えている

●スタンフォード大学での講演の後、長官はFacebokkのCOOであるCheryl Sandberg氏と会談し、更に主要ベンチャーキャピタルの「Andreessen Horowitz」を訪問した
●国防長官と同行幹部は、最新の技術動向を資本家や企業トップから聞き、シリコンバレーとの関係強化の方策について意見を聞いた
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carter-Dec.4.jpgサイバー対策も含め、この手の仕事は従来副長官が担当してきたのですが、カーター長官は自らSilicon Valleyに乗り込み、てこ入れに乗り出しました。
しかし「道遠し」の印象はいなめません。シリコンバレーでは最近、「IT」だけでなく「ものづくり」分野でも「起業:スタートアップ」が盛んで、ロボット企業の創設やM&Aが盛んだそうです。

しかしそれら勢いのある企業にとって、国防省の「ひも付き資金」は「縛りが大きい」と人気がなく、国防省の技術導入が迅速に進まないのが現状のようです。
カーター長官自身が指摘する「鈍重(snail-paced)な官僚仕事」と対極をなすのがシリコンバレーとも言えますから、「水と油を混ぜる」ような取り組みです。お手並み拝見と致しましょう

「Googleが国防省資金回避」
http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-03-27

新サイバー戦略は国防省特設webで
http://www.defense.gov/home/features/2015/0415_cyber-strategy/
国防次官補の「事前説明」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-19

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カーター長官:日韓訪問前にアジア政策を語る [カーター国防長官]

8日からの日韓訪問を前にアジア政策演説

arizona-asia.jpg6日、長官就任後初めてのアジア訪問(日韓&ハワイ)を直前に控えたカーター米国防長官は、アリゾナ州立大学でアジア政策に関する講演を行いました。
目新しい施策を打ち出した訳ではありませんが、「はじめの一歩」ですので概要の概略を、米国防省webサイトの講演紹介記事でご紹介します

なおカーター長官は、最初に8~9日で日本に、その後韓国に2日間滞在し、11日のホノルル訪問で締めるスケジュールを組んでいるようです。

6日付米国防省web記事によれば長官は講演で
(講演はJohn McCain研究所で)
●オバマ大統領が進める歴史的なTPP交渉の成功を希望し、これにより米国の国益が確保出来ることと確信している
●アジア太平洋リバランスには軍事的分野が含まれるが、これは全政府機関を挙げてのアプローチである。WW2後に米国が同地域の安全保障を裏書きし始めて以降のことでもある
●この米国の姿勢により、日本、台湾、比、マレーシア、ベトナム、インドネシア、中国の開発と繁栄が可能となったのだ

米国は重要なアジアに関与を続ける
carter-hearing3.jpg米国は太平洋のパワーであり、太平洋諸国の一員であり続け、アジア太平洋地域に関与を続ける。今回の日本と韓国訪問は、数十年に及ぶ両国との同盟関係の重要性を反映したものである
●米国の取り組みはそれだけでは無い。最新の装備や兵器はまず一番に当地域に配備されるし、将来、米海軍艦艇の6割は同地域配備となる。また海兵隊は豪州でのローテーション配備を開始しているし、米比は、軍事協力関係の強化に向けた協議を続けている。

2050年までには、世界の人口の半分以上は当地域が占めるだろうし、今後15年間で、世界中の「中間層消費」の6割は当地域で発生することになるだろう。
●アジア太平洋地域は繁栄を続けており、その市場へのアクセスを確保しなければならない。当地域での国益を確保するため、米国も変化を続けている。

アジアで繁栄と友好の輪が広まっている
Carter-first4.jpg米国のプレゼンスで、当地域に民主主義政府が4倍にも拡大した。また我々の主導で、当地域国は自由貿易、法治システム、国際法に基づく秩序の利益を享受している。
米国の安全保障、経済、外交の力は、比類無き同盟国や友好国の連携によって更に増幅され、他地域の国も呼び込んで繁栄の輪を広げている。これは力や脅しによるものではなく、理念や価値や意思が生む引力によるものだ

●この様な地域の同盟関係をより強化したい。日本と韓国とは情報共有について協議を行っており、豪州と日本とは海洋安全保障について関係強化に向けた話し合いを行っている
インドとは、1月に2国間国防協力枠組みの見直しを10年ぶりに行い、海洋安全保障やハイテク技術開発(ジェットエンジンや空母設計等)で両国関係に新たなページを開いた

中国の当地域への影響について
中国が米国を当地域からはじき出すとか、中国の経済発展により米国のチャンスが奪われると主張する者が居るが、私はその様な「ゼロサム思考」を排除する。
強力な米国が役割を果たすことで地域の平和と安定が数十年維持され、今後もそうあるだろう。この様なシナリオを米国は追求する

TPP交渉に関して
arizona-asia2.jpg●国防長官として言えば、米国の軍事力が究極的には躍動的に成長を続ける当地域の経済発展の基礎である事を、決して忘れることは無い
TPPは極めて重要である。なぜなら米国経済に仕事と成長をもたらすからである。質の高い仕事を支え、今後10年間で約13兆円もの輸出の伸びを確保するものだからである

TPPは地域諸国との関係強化戦略の面でも重要である。TPPを成立させることは、「空母」のように重要であるTPPが同盟や友好関係を深化させ、アジア太平洋への関与を確かなものにするのだ。そして我々の価値や国益を支える世界秩序推進を後押しする

なお別メディアは講演のこの部分を重視
長距離攻撃能力:6日付Defense-News
●カーター長官は講演の中で、アジア太平洋地域への軍事戦略アプローチについても語った
●新たな技術、例えば次期長距離爆撃機LRS-Bや新型対艦巡航ミサイルLRASMは、アジア地域で活動する際の距離を埋めてくれる重要な装備で重視している装備である

講演の原稿(トランスクリプト?)
http://www.defense.gov/Speeches/Speech.aspx?SpeechID=1929
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IS対処やイスラム過激派対処、ウクライナ問題やイラン問題等、世界中で「火の手」が上がっている今日この頃、アジア太平洋地域が静かに見えてしまいます
最近の米国政府や政権に近い研究者の発言をフォローされている皆様にとっては、3年前のパネッタ国防長官時代からほとんど進展が無い・・と突っ込みたくなるカーター長官講演ですが、これが現状です。

「2013年ヘーゲル演説」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-31
「2012年のパネッタ演説」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-05-25

TPPにかなり言及していますが、なぜでしょう。これしかアジア太平洋諸国を米側につなぎ止める切り札手段が無いとの思いからでしょうか???

日韓両国に「もっと仲良くしろ」と言うために、仲人のような心持ちでカーター長官はアジアツアーを迎えるのでしょうが、韓国へのTHHAD配備問題、日本とのガイドラインや普天間問題の話、どれもため息の出る話題です

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カーター長官3つの誓い [カーター国防長官]

Carter-first4.jpg17日、Ashton B. Carter新国防長官がバイデン副大統領の仕切りで就任の宣誓を行い、その後オバマ大統領や大統領府スタッフとの会議に臨み、職務をスタートしました。
なお宣誓前には、アーリントン墓地をStephanie夫人と共に訪れ、国のために殉じた英霊に祈りを捧げています

国防省に長官として初登庁した後は、早速、副長官、統合参謀本部議長&副議長と「Top4会議」を行い、今後の業務について打ち合わせしています。

宣誓式で新長官は3つの決意(Commitments)を
Carter-first2.jpg大統領が国家と世界の安全保障に関し、ベストな判断が出来るよう助力する。そして国防省が長年鍛えた能力と効力を発揮し、大統領の決断を確実に遂行出来るよう努める
●2つめに、私が率いることになる国防省の皆が、私が取り組む全てに対し献身的に取り組み、実行に移せるように私自身が関与していく

3つめは将来への関与である。将来に備えて装備品等を確保するだけで無く、納税者の血税を最大限に有効活用すべく、今後数年間で変化を起こし、米国民の優れた人たちがその一員になりたいと願い、他の世界各国の道しるべとなるようにしたい
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3つめの「Commitments」は、軍人を含む世界中の国防関係者にとって、極めて重要なポイントです。
既にカーター氏は、国防次官(技術開発取得担当)や国防副長官時代から、この信念を強く持って仕事に打ち込んできた人物ですが、まだまだこの様な人材が世界には不足しています

Carter-first.jpg特に日本では、国防が「ままこ」扱いされてきた経緯もあり、「総花的な議論で言いっ放し」&「国防は最優先だから青天井予算を前提で」のような態度の軍人や軍人OBばかりです
国全体の状況を大局的に俯瞰し、真の安全保障政策を提言出来る人材の育成が求められています。そして「東京の郊外より」と「輪になって踊らず」がその一助となれば幸いです!

オックスフォード大で「理論物理学者」として教鞭を執っていた経歴もある新国防長官です。
公式バイオでは「Ashton B. Carter」となっていますが、米国防省webサイトでは大部分が「Ash Carter」と表記されています。長官の希望なのでしょう

それから・・・冒頭のアーリントン墓地での写真が広くプレスで紹介されています。この雪景色がカーター新長官を取り巻く環境を示しているとでも言いたげに・・・

米国防省員に対する着任メッセージ
(宣誓式での発言を、職員と全兵士用にかみ砕いて丁寧に説明した内容:2月17日付)
http://news.usni.org/2015/02/17/document-secdef-carters-welcome-message-pentagon

カーター新長官の公式バイオ
http://www.defense.gov/bios/biographydetail.aspx?biographyid=186
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RAND研究所が200ページを超える本格的報告書を
「前半:RAND中国軍の問題レポート」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-02-15
「後半:RAND中国軍の問題レポート」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-02-15-1
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