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大平洋軍に予算投入増も米軍の統合運用進まず [Joint・統合参謀本部]

グアムや周辺にインフラ予算急増も
移動艦艇攻撃能力や弾薬備蓄の不足は20年間変化なし
4軍は各軍の利害優先で統合作戦煮詰まらず

PACOM3.jpg6月23日付米空軍協会web記事が、2023年度予算に米議会で対中国予算の施設整備などが追加され、グアムかハワイにJTF(joint task force)を追加創設する検討が指示されるなどの動きがあり、大平洋軍部隊にも統合作戦訓練をアピールするなどの動きがみられるが、移動艦艇攻撃力や弾薬備蓄不足の課題は20年前から変わらず、各軍種の統合訓練意欲は低いままで各軍種が我が道を突き進んでいる状態だと専門家の強い懸念を紹介しています

今年10月以降の2023年度予算審議が米議会で山を迎える中、米軍各軍種首脳による「予算お願い」発言も活発化していますが、大平洋軍スタッフ経験者やシンクタンク研究者は、冷徹に実態が伴っていないことに警鐘を鳴らしています

先日の記事でも、分散運用準備がグアムやハワイ周辺だけでしか進まず、中国に傾きがちなアジア諸国との連携が進んでいない点や、燃料備蓄や貯蔵施設がハワイ施設の閉鎖にもかかわらずほとんど進んでいない点など深刻な状況を指摘しましたが、その続編のような内容です

まず前向きに見える報道
Gallagher.jpg●2023年度国防授権法に、ウクライナで抑止が失敗したことを教訓に、大平洋軍のインフラ整備や資材備蓄予算が約1200億円積み増しされる
●グアムかハワイにjoint task force (JTF)を増設する検討を議会が法令指示へ

●太平洋空軍司令官は、2022年度予算にもACE構想を支える事前集積資材調達費や分散運用飛行場の施設整備費が含まれており、
Wilsbach5.jpg●2023年度予算案にはチモール、Wake島などの施設整備が含まれ、特にテニアンには、離着陸・駐機支援、給油支援能力を新たに整備する計画が含まれていると説明

●米陸軍に対しては、グアム島などでの米空軍飛行場の防空体制を増強してほしいと太平洋空軍司令官は要望している
●6月3日には、ハワイの航空作戦センターで太平洋軍司令官を迎え、4軍の統合演習を行い、4軍が有機的に作戦遂行可能な能力を示した

強い懸念を持つミッチェル研究所Deptula退役中将
Deptula3.jpg●太平洋軍は本当に南シナ海で戦う備えを真剣に行っているか? 真の統合作戦を本当に追求している証拠はどこにあるのか? 
●20年前に太平洋軍幕僚として勤務した当時の問題、水上移動艦艇の攻撃能力や大規模作戦を遂行する弾薬の不足など、何も解決されていない現状に青ざめる

●グアムの航空機格納庫の強化が必要なのに、MDAによるミサイル防衛整備しか進んでいない
●Wilsbach太平洋空軍司令官はこれら問題を真剣に考えようとしているが、他軍種の首脳が同じように考えて行動しているとは言えない

統合への姿勢に疑問を持つCSISのJohn Schaus研究員
Schaus CSIS.jpg●各軍種がアジア太平洋地域での統合作戦運用を考えているとは言えない。どの軍種も自分たちの訓練ばかりを優先し、統合作戦にどのように貢献すべきかを考えていない
●統合演習が計画された場合も、自軍種の訓練になると思えば参加するが、他軍種の支援的な訓練ならば、極めて消極的な姿勢を見せている。こんなことばかりやっているから、統合運用が進まないのだ
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ミッチェル研究所Deptula退役中将は、湾岸戦争時の統合航空作戦を組み上げた中心人物で、対中国の作戦準備の状況や米軍統合作戦準備状況に、真に軍事合理性の観点から強い懸念を持っています。

Northwest Field2.JPG先日の記事では、分散運用準備がグアムやハワイ周辺だけでしか進まず、中国に傾きがちなアジア諸国との連携が進んでいない点を強く懸念するDeptula氏の発言をご紹介しましたが、状況は危ういようです

各軍種はパイが増えない中、熾烈な予算獲得競争をペンタゴン内で繰り広げているわけですが、前線司令部までその影響を受けてはいけませんねぇ・・・どの軍隊でも極めてありがちですが・・・

対中国軍事作戦準備に大きな懸念
「生みの親・太平洋空軍司令官がACE構想の現状を語る」→https://holylandtokyo.com/2022/06/24/3374/

陸軍と海兵隊の遠方攻撃傾倒
「米陸軍トップが長射程攻撃やSEADに意欲満々」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-03-12
「米陸軍は2023年から遠方攻撃兵器で変わる」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-09-09
「海兵隊も2つの長射程ミサイルを柱に」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-06
「射程1000nm砲に慎重姿勢」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-03-10
「射程1000nm砲の第一関門」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-15

米空軍による陸&海兵隊批判
「米空軍トップが批判・誰の任務か?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-04-02
「空軍ACC司令官が陸海海兵隊を批判」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-05-22
「空軍大将が米陸軍を厳しく批判」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-04-03

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米大統領が米議会にトルコへの最新F-16提供の許可要請 [安全保障全般]

フィンラドとスウェーデンのNATO加盟承認への見返り?
上院外交委員長はこれまでトルコへの強硬姿勢で知られるが

Biden NATO Madrid.jpg6月30日、マドリッドでのNATO首脳会議を終えたバイデン大統領は、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟にトルコが条件付合意した件とは全く関係ないとしつつ、トルコに対しNATO能力強化の一環として、最新型F-16とF-16能力向上キット売却を認めるよう米議会に要請しました

バイデン大統領や米国防省や国務省はFMS案件の細部に言及しませんでしたが、米メディアは40機の最新型F-16 Viper Block 70と80セットの既保有F-16能力向上キットのFMS購入(計約6700億円)にトルコが興味を示していると報じています

F-16 Viper4.jpgバイデン大統領は、トルコが北欧2国のNATO加盟を承認することへの「対価・見返り:quid pro quo」ではないと否定し、米国防省のCeleste Wallander国際安全保障担当次官補も6月29日に、「NATO加盟国の能力を高め、米国の安全保障能力を向上させることにつながる案件であり、米国はトルコ戦闘機の近代化を支援する。現在協議中で、トルコ側にも所定のプロセスを踏んでもらう必要がある」と述べているところです

F-16 Viper.jpgF-16を製造するロッキード社によれば、最新型F-16 Viper Block 70売却や能力向上改修キット提供により、トルコ空軍F-16には、最新アビオ装備のAESAレーダー、機体構造強化による機体寿命5割増、先進データリンク、最新型目標照準POD、最新ソフトと対応兵器等々が提供されることとなるようです

本件に関し、FMS契約を担当する米国務省FMS室はコメントを避けつつも、「正式に議会に通知するまではコメントしない」としていますが、一般論として「米トルコ関係は長期にわたる同盟関係であり、トルコのNATOとの相互運用性向上は引き続き優先度の高い事項である」としています

Menendez2.jpg米議会に可否が委ねられた場合の反応は見えないところですが、昨年2021年11月にBob Menendez上院外交委員長(民主党)はトルコへのF-16売却に反対姿勢を示し、「トルコのエルドワン大統領の人権問題への姿勢が問題だ。彼による法律家やジャーナリストの投獄や、米国のリビアやシリアへの関与に対する反対姿勢を変えてもらう必要がある」と主張していたところです
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トルコが「手のひら返し」でスウェーデンとフィンランドのNATO加盟を承認する姿勢を打ち出したのには驚きましたが、このタイミングでトルコへのF-16最新型や改修キット売却を持ち出されると、「対価・見返り:quid pro quo」ではないかと邪推するのが当然でしょう

F-16 Viper5.jpgご紹介したMenendez上院外交委員長(民主党)の発言はあくまで昨年11月のもので、ロシアのウクライナ侵略事態を受け態度が変化している可能性は十分にありますし、「民主党」の重鎮として、表面上は反対姿勢を見せる必要があるのかものかもしれません。

様々に激しく、世界情勢は動いているということです。

米トルコのF-35やS-400 巡る関係
「米国がトルコにF-35代替に最新F-16提案か!?」→https://holylandtokyo.com/2021/10/20/2357/
「トルコへのF-35部品依存は2023年まで」→https://holylandtokyo.com/2020/10/14/432/
「トルコの代わりに米で部品製造」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-08-27
「トルコをF-35計画から除外」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-07-17
「S-400がトルコに到着」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-07-14
「米がトルコに最後通牒」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-06-09

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米国がウクライナへ提供する兵器を仏軍も緊急購入へ [安全保障全般]

「Switchblade」との滞空型無人攻撃機
最新型であれば40分在空可能でカメラ探知の目標に突入

Switchblade3002.jpg6月22日付Defense-Newsは、3月に米国がウクライナに100セット提供すると表明したAeroVironment社製「Switchblade」との滞空型無人攻撃機を、フランス陸軍省がFMS契約で6か月以内に米国から調達すると報じています

同兵器は、約10年前から米軍地上部隊に提供され、アフガニスタンやイラクやシリアで使用されてきたようですが、今年4月に米国がウクライナ支援で提供すると発表するまで、その存在は公表されてきませんでした。

Switchblade600.jpg下で紹介する解説映像が示すように、人ひとりが担いで持ち運べる大きさ重量のタイプもあり、迫撃砲の様に射出すると翼を広げ電動モーターで推進力を得て飛行し、GPSで指定の位置に向かい、最終的には先端のカメラ映像で地上から人が操縦して目標に指向します。

速度は時速100~180㎞程度で、ウクライナに提供される2020年に完成した最新型の「Switchblade 600」は、射出用ランチャー含め約23㎏、飛び出す飛翔体重量は15㎏で、連続飛行時間約40分(約40㎞飛行可能)と紹介されています

最新型「600」は対戦車弾頭である「タンデム成形炸薬弾頭」を搭載し、戦車や装甲車両を破壊する映像がネット上では公開され、ソフトターゲット(レーダーアンテナ、通信装備等々)用だった初期型「300」から大幅に能力アップしている模様で

米からウクライナへの提供表明時の解説映像(8分)


フランス陸軍や関係者は調達数量や価格を公表していませんが、仏メディアの中には82セット導入予定と仏国防筋情報を伝えるものもあるようです。「Switchblade」シリーズを製造するAeroVironment社も個々の交渉については言及を避けていますが、4月に米からウクライナへの提供が公表されて以降、複数の国から問い合わせがあると明らかにしていま

フランス国防省関係者は、射程5㎞から50㎞の範囲の戦闘車両を破壊するオプションを検討しており、他に2つのプロジェクトを開始し、2024年にデモ試験を行う予定となっているようです
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Switchblade300.jpg「6か月以内に調達」とのスピード感に、欧州大陸の大国であるフランスの脅威感と言うか緊迫感を感じましたのでご紹介しました。ナポレオン時代からロシアと対峙してきた歴史を持つフランスは、ウクライナ侵攻の長期化と揺るがないロシアの姿勢に、底知れない恐怖を感じているのでしょう。

それと・・・中国企業もあっという間にコピー兵器を開発製造するということをお忘れなく。初期型「300」は、ランチャーと運搬袋含めて僅か2500gで全長50㎝、リュックサックに収まり、数個セットあれば飛行場を数時間無効化するには十分な兵器です。

仏軍宇宙コマンド司令官が語る
「ウクライナ侵略は衛星通信へのサイバー攻撃で始まっていた」→https://holylandtokyo.com/2022/06/23/3365/

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極超音速兵器の迎撃技術開発に2企業と契約 [米国防省高官]

米MDAが2020年夏に一端中断も、21年に再開
2027年夏に基本システム設計審査を目指すとか

GFI 3.jpg6月24日国防省ミサイル防衛庁MDAが、極超音速兵器を中間飛翔段階で迎撃する「GPI:Glide Phase Interceptor」開発に向け、Raytheon及びNorthrop Grummanとプロトタイプ設計に向けた契約を結ぶことに決定したと発表しました

2021年11月に上記2社にロッキードを加えた3社と、それぞれ約45億円の基本設計契約を結び、その結果を踏まえて「設計をさらに加速させる」契約を2社に絞り込み、追加で2社に約20億円を投資して「コンセプトデザインを加速させる」契約を結ぶとのことです

GFI 2.jpg24日付Defense-Newsによれば、MDAは「GFI」の検討を2020年夏に一端中止したようですが、2021年にはミサイル防衛庁長官Jon Hill海軍中将が企業から入手した最新技術動向を基に可能性を確信し、「恐れず開発を進めるべき」と述べ、極超音速兵器が最も脆弱な「glide phase」段階に狙いを絞り検討を再開したところでした

全体計画の詳細は未公表ですが、主導する米ミサイル防衛庁(MDA)は2028年夏に「GPI」の「weapon system and missile systems preliminary design reviews」を行う予定だと、2023年度予算案関連文書に記載されているようです

GFI 4.jpg「GFI」は米海軍イージス艦搭載を当面の目標とし、「Baseline 9 Aegis Weapon System」と融合させ垂直発射システム(VLS)から発射させるイメージで設計されており、イージス艦でうまくいけば、地上配備型が検討されるようです

「GFI」を使用した迎撃の流れは、まず極超音速兵器の発射段階で早期警戒衛星が探知し、地上の指揮統制センターに情報を伝達するところから開始します。その追尾情報を地上センターから通信衛星経由でイージス艦に伝送し、イージス艦は自艦のレーダーで探知していない段階でも迎撃体GFIを発射し対処します。

もちろん迎撃の最終段階でイージス艦レーダーが極超音速兵器を探知できれば迎撃に活用しますが、極超音速兵器が弾道ミサイルより遥かに低空を這うように進入することから、イージス艦自ら探知追尾できる範囲は限定的にならざるを得ません。詳しくは、下の解説映像をご覧ください
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「GFI」の解説動画by米ミサイル防衛庁MDA(約8分)


選ばれた2社から外れたロッキードですが、「GFI」の進展具合によってはロッキードの復帰もありうるとMDAはコメントしており、極超音速兵器開発において空中発射型の米空軍用「HAWC」と「ARRW」を担当し、米海軍用の「Conventional Prompt Strike」や陸軍用「Long Range Hypersonic Weapon」システムとりまとめも担当するロッキードへの期待も依然高いようです

GFI 5.jpg弾道ミサイルより遥かに高価な「極超音速兵器」ですが、それを迎撃するとなると、恐らく「極超音速兵器」自体の数倍~数十倍のコストが掛かると想像いたします。

相手が「脆弱」な「glide phase」段階で迎撃を目指すにしても、迎撃成功確率は対弾道ミサイルよりも低下すると思われ、ますますロシアや中国のような無法者国家に有利な軍事環境になるわけです

JSFさんによる分かり易いGFI解説記事
https://news.yahoo.co.jp/byline/obiekt/20220114-00277179

米国による極超音速兵器の開発(GFIではない)
「空軍:高価な同兵器は少数保有で」→https://holylandtokyo.com/2022/02/22/2742/
「国防省が空軍に極超音速兵器開発の改善提言」→https://holylandtokyo.com/2022/02/10/2670/
「技術担当次官:同兵器は最優先事項だ」→https://holylandtokyo.com/2022/01/26/2649/
「空軍長官:重要性は中国と米国では異なる」→https://holylandtokyo.com/2022/01/25/2639/
「米海軍潜水艦への極超音速兵器は2028年」→https://holylandtokyo.com/2021/11/26/2450/
「米陸軍の極超音速兵器部隊が実ミサイル以外を受領」→https://holylandtokyo.com/2021/10/18/2342/

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