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ミャンマーとインドネシアの武器購入 [安全保障全般]

インドネシアは米制裁恐れ露戦闘機断念
ミャンマーは中古の中国潜水艦導入式典

F-15EX Eglin.jpg年末のDefense-Newsが、西側との関係が微妙な東南アジア2国の武器購入の話題を報じていますので、対中国で米豪などが結束を強める中ですが、中国に物理的にも経済的にも近いアジア諸国は様々な状況にあることの事例としてご紹介いたします。

一つは、インドネシア空軍の戦闘機選定で、ロシア製のSu-35 Flanker-E購入を交渉していましたが、米国から経済制裁を受ける恐れがあるため断念し、米国製F-15EXと仏製Rafaleの2機種から選定することを明らかにした件です

Ming-class5.jpgもう一つは、ミャンマー軍が中古の中国製Type 035(明型潜水艦:Ming-class submarine)1隻を導入し、受け入れ式が12月24日に軍事政権トップ臨席で行われた件です

インドネシアが露戦闘機を断念し米&仏機で選定
一時は中古のオーストリアTyhoonにも興味
露製兵器購入で米国からの制裁恐れ

F-15EX Eglin2.JPG12月22日付Defense-Newsは、Fadjar Prasetyoインドネシア空軍参謀総長が記者団に対し、交渉してきたロシア製戦闘機Su-35 Flanker-Eではなく、米国ボーイング製のF-15EXと仏Dassault製のRafaleの2機種から選定すると明らかにしたと報じています

インドネシア空軍は、米空軍中古F-16C/D型とSu-27/30 Flankers を運用していますが、空軍力強化のため2-3個飛行隊を4.5世代機で編成しようと構想し、2015年にはまず11機のSU-35を導入することを決定しましたが、2018年までのロシアとの交渉は契約に至りませんでした

typhoon4.jpgその後インドネシアは2020年7月に、欧州のオーストリアが2002年から導入した15機のEurofighter Typhoon戦闘機を全て中古購入したいと提案しています

オーストリアでは、タイフーン戦闘機購入を巡り汚職問題が浮上し、あわせて同戦闘機のコストと能力にも疑問の声が上がり、「2017年に同戦闘機の早期退役を決定」した事を受けインドネシアが動いたと報道されていました

Rafale3.jpgこのように様々な経緯を経たインドネシアの戦闘機選定ですが、Defense-NewsはF-15EXとRafaleでの機種選定決定について、米国で2017年に成立した経済制裁法により、イラン・北朝鮮・ロシアから兵器を購入した国に制裁を課すことを定めたことで、ロシア製戦闘機を断念せざるを得なかったと説明しています

インドネシアのメディアは、F-15EXを選定したとして、同機の導入開始は2027年以降になると報じており、まだまだ色々ありそうな雰囲気です

ミャンマーが中古の中国製潜水艦を導入
Type 035明型潜水艦:Ming-class submarine
全長78m、1500トンのディーゼル潜水艦
細部不明も1990年代建造の潜水艦か

Ming-class6.jpg12月24日、2月に誕生したミャンマー軍事政権トップが臨席する中、中国から購入した中国製Type 035明型潜水艦(Ming-class submarine)の受け入れ式典がミャンマー海軍基地で行われました

ミャンマーは、2020年3月にインド海軍からロシア製のキロ級潜水艦1隻を中古購入しており、2隻目の潜水艦導入となりました。また式典では6隻のミャンマー製20m級の河川警備艇の就航も披露された様です

Ming-class.jpgType 035明型潜水艦はソ連のロメオ級潜水艦をベースに中国海軍用に計22隻建造されたディーゼル潜水艦です。全長78m・1500トンの同潜水艦は、最初の2隻が1975年、3隻目は1982年に進水、その後は建造は途絶えましたが、1988年ごろから水中雑音を低減した035A/G型(明改-I型)として2002年まで19隻が建造されています

2017年には、その内2隻がバングラディシュ海軍に売却されて再就役しています

Ming-class2.jpg12月19日には、中国の国旗を掲げた同型潜水艦がシンガポール海峡を通過して西進するのが確認されており、その後SNS上でミャンマーの河川をミャンマー海軍のボートにエスコートされ航行する様子がアップされていました

中国はミャンマー軍への主要な武器提供国の一つで、C-802対艦ミサイル、JF-17戦闘機やY-8輸送機も中国から購入しており、同国で軍事政権が誕生して西側諸国から制裁を受ける中、中国との接近が注目されているところです
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Rafale2.jpg中国製の潜水艦は、Ming-classだけでなくより新しいS26T型がタイに輸出されています

中国経済の「ほころび」が、様々な形で明らかになりつつありますが、リーマンショックの後で世界経済を支えたのは中国経済で、日本企業の多くが中国需要に支えられているのも事実です

2022年はますます難しい年になりそうです

インドネシア関連の記事
「インドネシアがオーストリアに中古戦闘機購入打診」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-07-21
「F-16購入可能性国でもあるらしい」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-04-23
「米国がFMSで小型無人偵察機を」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-07-22
「米軍の活動拠点を」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-02-16-1
「KF-X計画インドネシアが2割負担」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2016-05-28

ミャンマー関連の過去記事
「米国の海洋演習AUMX開始」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-09-03
「落日の雰囲気漂うミャンマーは大丈夫か?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2016-12-04
「自衛隊トップがミャンマー訪問」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-05-28
「スーチー女史は英国スパイ?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-01-13-1
「印とミャンマーと日本」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-12-29
「ミャンマーの魅力と課題」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-10-29-1

カンボジアも
「カンボジア海軍基地への中国進出」→https://holylandtokyo.com/2021/06/18/1921/

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6年遅れ新型空母フォード最後の不具合修復完了 [Joint・統合参謀本部]

艦内11か所の兵器運搬エレベーター修復完了
遅れている戦闘システム等の搭載を22年春に終了か
その後、任務態勢確立に向けた乗員訓練開始へ

Ford2.jfif6年以上完成が遅れている米海軍の新型空母フォード級の一番艦空母フォードで、遅延の根本原因だった11台の兵器運搬用エレベーターの修復が12月22日に終了したと米海軍が発表し、2022年春には残りの戦闘システム搭載等を終了して、2022年末の任務遂行態勢確立に向けた本格訓練に入る模様です

2008年に新型空母フォードの建造契約が締結された際には、2015年に同空母の建造が約1兆1千億円で完了するはずでしたが、6年遅れの今になって、追加で約3000億円投入し、何とか建造終了の目途が立つことになりました

AWE4.jpg11台の兵器運搬用エレベーターは、空母内弾薬庫に格納されている弾薬類を、航空機搭載のため甲板まで運搬するものですが、これまでの油圧駆動だったものを電動モータ駆動にする新設計が機能せず、11台すべてを設計段階から個別にやり直し、2019年1月に1台目の修復を終えてから、約3年をかけ11台全ての再設計・入れ替えを行いました

2019年1月、当時のRichard Spencer海軍長官がトランプ大統領の前で同年夏までに同エレベーター修復を完了すると報告し、大統領から完了しなければクビだと言われましたが約束を守れず、2019年11月に更迭されるなど「何をやってもダメな米海軍」の象徴であった空母フォードに、少しは光明が見え始めたようです

12月23日付Defense-News記事によれば
Ford.jfif●米海軍空母計画担当のJames Downey少将は、「米海軍と空母フォードとその乗員にとって極めて大きな一里塚である。兵器エレベータ修理完了により、全てのシステムが運用可能となり、訓練に供することができる」と語り、「休みなくこの日のために働いてくれた現場の作業員や技術者など、すべての関係者の努力を讃えたい」と声明を発表した

AWE2.jpg●上院軍事委員会の重鎮である共和党のJim Inhofe議員は、「現場作業者の努力を多とするが、艦艇の進水から4年半もこの問題の解決に費やしたことは厳しく評価されるべきだ」と述べ、
●更に、「国家安全保障のため空母の必要性がこれまでになく高まっている中で、既に6年も遅れている本プロジェクトのために、他の10隻の空母や乗員が酷使され、空母戦力の空白を生みだしていることを、改めて強調しておく」と語った
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AWE3.jpg建造を担当したHuntington Ingalls Industriesもさんざん批判を受けてきましたが、安定せず不足がちな艦艇建造&修理予算によって経験豊富な人材の維持や新規雇用が難しい中、休み返上で遅れの巻き返しに取り組んでいるようです

現時点では、2022年末に初期運用態勢確立を宣言する予定だそうで、F-35Cの離着陸訓練等も並行して行われているようですが、何せ1番艦ですので油断は禁物です。下駄をはくまでは・・・

フォード級空母関連の記事
「新型空母フォードの計画責任者更迭」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-07-08
「お披露目演習でEMALS故障」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-06-12
「空母フォード:3年遅れで米海軍へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-06-03
「米海軍真っ青?トランプ「EMALSはだめ」」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-05-13
「空母を値切って砕氷艦を!?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-05-19
「フォード級空母を学ぶ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-07-20
「解説:電磁カタパルトEMALS」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-12-10

空母の存在意義を巡る議論
「国防省が空母2隻削減と無人艦艇案!?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-04-22
「CSBAが提言:大型艦艇中心では戦えない」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-10
「半年かけて空母の将来像を至急検討」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-12
「レーザー兵器搭載に自信」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-05
「国防次官が空母1隻とミサイル2000発の効果比較」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-20

艦艇建造&修理の大問題
「空母や艦艇修理の3/4が遅延」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-08-22
「空母故障で空母なしで出撃」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-09-16
「米艦艇建造や修理人材ピンチ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-06-24
「空母定期修理が間に合わない」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-09

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UAEが米国との武器購入交渉停止表明 [安全保障全般]

外交的な交渉戦術だとの見方もあるが
米国がF-35の使用制限を求めているらしく・・・
中国軍事施設のアブダビ建設の懸念も

USA UAE.jpg12月14日、UAEがトランプ政権下で合意した50機のF-35など約2兆6千億円の兵器購入交渉を「停止:suspend discussions」したと発表し、各方面に波紋が広がっています・

この武器売却交渉は、トランプ前政権時に米UAE間で、UAEに50機のF-35と18機のMQ-9無人攻撃機や最新の空対空&空対地ミサイル等を売却合意した件に関するもので、バイデン政権になってから、UAEやサウジのイエメンへの武器使用批判などから手続きが遅れているものです

USA UAE2.jpgUAE側の「停止」発表や関連発言はそれほど厳しい内容には見えませんが、UAE政府関係者は「米国がF-35をhow and whereで使用するかにまで制限を加えようとしている」「主権の侵害だ」とまで不満を述べており、気になる雰囲気です

また米軍事メディアは、UAEがアブダビに中国の軍事施設の建設を受け入れようとしているとの米側懸念も紹介しており、中東最前線でのつばぜり合いも感じられますので、報道記事を紹介しておきます

14日付Defense-News記事によれば
F-35 Gilmore.jpg●14日、UAEはF-35購入交渉等を停止すると発表し、在米大使館が「米国はUAEにとって引き続き好まし最新兵器提供国であり、F-35購入交渉は将来再開されるだろう」との声明を出した
●ただしUAE交渉関係者は、米国側はどこでどのようにF-35を使用するか等について執拗に制限を課すよう求めてきており、UAEの主権を侵害するものだとメディアに不満を表明している

Blinken.jpg●ブリンケン米国務長官は15日、UAEが(制限を)受け入れるならば(if the Emiratis decide to do so)売却を進めることを示唆し、「我々はイスラエルの質的優位を確保するため、地域の国々への技術提供を見極めており、UAEも含まれている」と訪問先のマレーシアで語っている
●米国防省のKirby報道官も記者団に「米国製兵器に関する米国側の他国への要求は世界共通であり、議論の対象ではなく、UAEも例外ではない」、「米UAE関係は、単なる武器売却より、更に戦略的で複雑だ」ときっぱりと語った

MQ-9 Agile3.JPG●WSJ紙が最初に報じたUAEの「交渉停止」について情報筋は、UAEの「停止」発表文書が比較的低いレベルの官僚から出されたものである等から、UAEの戦術的動きだと推測し、アフガンからの大混乱の撤退の中でもUAEと米国は協力して行動していたと指摘しているが、最近の中国とUAEの関係に米側は懸念していると述べている
●12月6日の週、UAE外交担当高官はDCで、米側が軍事施設ではないかと懸念するアブダビ構内の中国施設工事を、「米側の懸念を受け、UAEが工事を停止させた」と述べる一方で、「それら建物は軍事施設ではない」、「米UAE間の議論は率直なものだ」とも主張している
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米国と湾岸諸国間の複雑な政治力学について語る知識はありませんが、中国が米UAE間にくさびを打ち込もうとしていることは間違いなく、まだまだ色々ありそうです

US Forces Japan2.jpg全く別の視点ですが、イスラエルとの関連や情報流出防止の観点から「米国がF-35をhow and whereで使用するかにまで制限を加えようとしている」とUAE側は不満なようですが、日本と米国間ではどうなんでしょうか?

ロシアや中国正面で最新兵器を運用する日本に、米側から何か「制限」要求があるのでしょうか? 気になることろです

中東と米国の関係
「UAEへの武器輸出を国務省次官補が語る」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-11-17
「UAE空軍司令官視察:イスラエル最大の多国間空軍演習」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-11-04
「米国防省の武器輸出担当DSCA長官が怒りの辞任」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-10-15

アブラハム合意の関連記事
「米中央軍で対イランの動き2つ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-09-09
「イスラエルが欧州軍から中央軍管轄に」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-01-16
「政権交代前にUAEへのF-35契約署名へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-01-11
「イスラエルがUAEへのF-35に事実上合意」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-10-26

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