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米空軍戦闘機の2021年稼働率は前年より低下 [米空軍]

前年より改善は皮肉にも早期退役させたいA-10のみ
F-35Aはエンジン問題で今後数年低位安定へ

F-35.jpg11月22日付米空軍協会web記事が米空軍戦闘機クラスの2021年「稼働率:Mission capable rates」を取り上げ、具体的にF-35A、F-15E、F-15CとD、F-16、F-22、A-10の稼働率を2020年との比較や結果の背景から紹介し、米空軍が早期退役を望むA-10のみが前年から稼働率上昇との皮肉な結果が明らかになっています

ここで紹介している「稼働率」は、各機種に与えられた任務(F-16の場合、空対空、空対地、SEAD)の中で、どれか一つでも実施可能であれば「稼働機」とみなしてカウントする統計で、全ての任務が可能な状態を示す「完全稼働率:full mission capable rate」(非公開データ)とは異なります

F-22 iwakuni2.jpg各軍種が新型機の導入には積極的ながら、足元の保有機稼働率低下放置を問題視していた当時のマティス国防長官は、2018年10月に主要戦闘機(F-22、F-35、F-16、FA-18)の稼働率80%を達成せよと指示しましたが、一時的にF-16とFA-18が達成したのみで、同長官退任後は「単純な稼働率80%目標は、部隊任務達成度合いに比例しない」と海空軍が反発し、従来からの部隊ごと&機種ごとの目標設定に回帰しています

限られた予算内で老朽化が進む戦闘機を維持するのは単純ではなく、前線に派遣された部隊は優先的に部品の配分等を受け100%近い稼働率を達成可能ながら、派遣先から帰隊後は部品配分優先度が下がり、稼働率も急降下する実態もあり、「稼働率」だけでは部隊状態を判断するのは難しく、稼働率が「部隊任務達成度合いに比例しない」との各軍種の主張には一理あります

F-16 2.jpgしかし以下でご紹介する各戦闘機クラスの稼働率は、コロナ影響をまともに受けた2020年からだけでなく、2019年と比較しても低下している機種が大半で長期低落傾向が感じられ、米空軍が訴える機体老朽化の一端や新機種導入偏重が伺えます

【ご参考:2022年度予算案の米空軍背景資料】
●米空軍が旧式アセット早期引退を急ぐ背景
--- 航空アセットの44%が当初の運用寿命オーバーで使用中
--- 米空軍航空機の平均年齢は28.6歳 老朽化
--- ちなみに米陸軍は15.3歳、海軍は14.4歳
--- 豪空軍は8.9歳、英空軍は16.6歳

22日付当該記事によれば各機種の稼働率は

●F-35A
・ 2020年76.01%が、2021年68.8%
同機が最初のエンジンオーバーホール時期を迎え、エンジン耐久性問題もありエンジン不足で稼働率が低下している。計40機がエンジン不足で非稼働状態
国防省F-35計画室は、この状態がseveral years続くと予期
●F-15E
・ 2020年69.21%が、2021年66.24%
・ 2019年は71.29%で継続的低下

●F-15CとD
・ 2020年71.73%が、2021年69.48%
・ 2019年は70%台 F-15は計画耐用年数を超え、様々な運用制限下で運用 部品枯渇多数
●F-16CとD
・ 2020年73.9%が、2021年71.53%

●F-22
・ 2020年51.8%が、2021年50.81% 
2019年50.57%で継続的に50%前後。2018年のハリケーンで10機が大損害受け非稼働で、かつステルス塗装や部品不足で低迷
・ 約1兆円の改修計画にも稼働率アップ対処も?
●A-10
・ 2020年71.2%が、2021年72.54% 
システムが他機に比しシンプル(センサー数小)、整備員にベテラン多数
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F-35Aの維持費高止まりで調達機数は増えず、F-15EX新規導入はあるものの、第4世代機の稼働率に回復を期待するのは無理があることから、稼働率の長期低下傾向は避けがたいのが現状かもしれません

主要戦闘機の稼働率問題など
「Lord次官:F-35稼働率の状況」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-01-21
「8割目標を放棄」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-05-08
「海軍FA-18は何とか達成?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-09-25
「米空軍はF-16のみ達成可能」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-09-06
「戦闘機稼働率8割への課題」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-12-09
「マティス国防長官が8割指示」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-10-11

「B-1爆撃機の稼働機一桁の衝撃」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-06-05
「2Bソフト機は稼働率4割台」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-03-10-1
「2/3が飛行不能FA-18の惨状」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-07
「世界中のF-35稼働率は5割」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-03-03-3

今頃になってF-22改修契約
「1兆円越えの近代化へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-11-07

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ロシアが千島列島中部に対艦ミサイル配備 [安全保障全般]

2016年の択捉島への配備に続き
かつて日本軍が使用し、戦後ソ連軍が占領した火山島の松輪島
ソ連崩壊で1991年にいったん放棄も、再び軍備化進むか

Russi Matua2.jpg12月2日、ロシア海軍太平洋艦隊が、千島列島中部のマトゥア島(松輪島:全長11㎞の楕円形で、松輪富士と呼ばれる美しい活火山が中心の島)に地対艦ミサイル「バスチオン:Bastion」を実戦配備したと発表しました

ロシア軍が公開した映像では、断崖が多い同島の数少ない浜辺に着上陸用舟艇が同ミサイルと見られる装備を陸揚げする様子が紹介され、併せてロシア軍が兵士が居住する兵舎やミサイル格納用のハンガー等を準備すると発表したようです

Russia Matua.jpgなお、松輪島は日本領である北方4島とは異なり、国際法的に帰属未定の地であると日本政府は主張していますが、ロシア連邦が実効支配している状態の島です

バスチオンは、ロシア製の沿岸防衛用地対艦ミサイルシステムで、水上艦を沿岸から攻撃することを目的としており、ロシアが実効支配する北方領土の択捉島にも2016年に配備済みで、インタファクスは今回、その射程を最大500キロと報じています。なお択捉島配備時には、射程約330㎞と言われていました

bastion P-800.jpgちなみに択捉島には、長射程のバスチオンの他に、短距離地対艦ミサイルBal(ロシア版ハプーン。射程130㎞程度)や小型偵察用無人機Eleron-3(全長1m程度)や、地対空ミサイル部隊も配備され、戦闘機の展開も行われています

今回のマトゥア島(松輪島)への地対艦ミサイル配備は、ロシアの戦略原潜の聖地であるオホーツク海を、米海軍のプレゼンスから守る姿勢強化と考えられますが、太平洋戦争当時は日本海軍が約8000名の守備隊を置き、南東部に飛行場も設置されていました

bastion P-800 2.jpg戦後ソ連の国境警備隊が駐留しましたが、ソ連崩壊の混乱と財政難で1991年で撤退し、無人島になりました

その後は2000年代には、日・米・露共同の火山学・津波地質学・人類学の研究者らが何度か上陸して調査活動を行う程度でしたが、近年ロシア軍が千島列島を見直す動きが始まり、2016年のロシア国防省とロシア地理学協会の合同調査で、同島沿岸の水中でゼロ戦らしき航空機が発見されています

Matua.jpgただこの松輪島は活火山で、20世紀に入って以降だけで、1923年、1930年、1946年、1960年、1976年、1981年、1987年、1989年、2009年に噴火しており、1946年11月の大噴火では島の植生が完全に破壊され、2009年の大噴火でも噴煙により航空交通が大混乱になっています

今後、北方4島を含む千島列島全体へのロシア軍の進出がどう進んでいくのか全体構想を把握していませんが、中国に注目が集まる中、ロシアもヒタヒタと好きなようにやっています

ロシア国防省公開の映像


2016年にバスチオンが配備された際の記事
「露が択捉島に対艦ミサイル配備」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2016-03-26

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英空軍トップが「ゼロ排出」への取り組みを熱く語る [安全保障全般]

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持続可能燃料、合成燃料、電気&水素活用など様々に
12月にも新たな合成航空燃料発表へ
2040年「温室効果ガス排出ゼロ」に本気です

Wigston.jpg11月24日、Mike Wigston英空軍参謀総長が航空宇宙研究機関で講演し、英空軍として「2040年温室効果ガス排出ゼロ」を目指す取り組みについて語り、持続可能燃料SAF、合成燃料、電気&水素エンジンなど様々な最新技術収集と開発プロジェクトを走らせ、地球温暖化対策だけでなく、作戦運用面での兵站負担軽減メリットを追求する姿勢であることを訴えしました

もう少し「浮ついた」話を予期していましたが、英空軍は足元を見て問題点を把握しつつも、着実に本気で前進しようとしています。大いに感心し、考えさせられました。背景には英国としての姿勢もあるのでしょうが・・・

UK Ikarus C42.jpg既に英空軍は11月2日、プロジェクトの成果としてZero Petroleum社製の合成燃料で小型セスナ機Ikarus C42の世界初飛行を成功させギネスブック入りを果たしましたが、その際は水と大気から原料(水素と炭素)を抽出し、太陽光と風力発電で得たエネルギーで加熱&加圧製造した合成燃料に注目が集まりました

それだけにとどまらず英空軍は、同時に進めている2つ目の合成燃料開発プロジェクトの成果を、12月上旬に発表するとしています

SAF.jpg一方で、良く報道される持続可能航空燃料(トウモロコシ利用のエタノールやリサイクル油から製造:sustainable aviation fuel (SAF))について英空軍は、一部の機体での使用可能性はあるとしつつも、価格が通常の航空燃料の10倍で、現在の生産量(必要航空燃料の3200分の一の製造量)が飛躍的に伸びるとは考えにくいと冷静に分析しています

更に小型軽量機に電力や水素を動力として活用する可能性についても言及しつつ、合成燃料も含め輸送可能な製造プラントを開発し、航空燃料を輸送する方式でなく、展開基地や空母上で航空燃料を製造して利用し、兵站補給路の負担軽減や脆弱性克服につなげたいとの思いを真正面から訴えています

24日付Defense-News記事について
Wigston2.jpg●24日、Wigston英空軍参謀総長はFreeman Air and Space Instituteで講演して「2040年温室効果ガス排出ゼロ」への取り組みを語り、「合成燃料プラントが輸送可能となれば、航空燃料を展開先基地や空母エリザベス艦上で入手でき、燃料輸送の兵站負担を削減できる。敵の攻撃目標になる危険性も排除できる」と語り、
●また同参謀総長は「太陽光や水素エンジンも同様に小型軽量機であれば活用可能性があり、莫大な航空燃料輸送の負担を取り除くことができ、輸送途中の脆弱性の排除につながる」とその可能性に期待を示した。

synthetic fuel2.jpg●そして英空軍報道官は、11月2日に合成燃料での世界初飛行に成功したZero Petroleum社製の合成燃料以外に、もう一つの合成燃料顔発プロジェクトが別企業と進んでおり、その成果をまもなく12月に発表できるだろうと述べた
●ただ英空軍も既に一部で試用し、ウェールズ王子がA330旅客機燃料として使用して話題となった持続可能航空燃料(SAF)について同参謀総長は、高コストの課題や生産量の伸びが期待できないとの見通しを述べた

●同参謀総長は合成燃料に特に関心を示し、「合成燃料の製造は環境面で優しく持続可能性面でも優れている。また化学組成が純粋であるためエンジンを汚さず、結果としてエンジン整備負荷が少なく、騒音も廃熱も低く、飛行機雲も少ないことから作戦運用面で利点が極めて多い」と強調した
Wigston3.jpg●更に合成燃料以外のオプションにも触れ、小型軽量機には電気や水素推進装置が代替燃料として期待できる同参謀総長は述べ、空軍報道官も英空軍として様々な最新技術せ精査を通じ、「賢明な技術利用者の目線を持って、将来コンセプトや要求事項を固めるのに活用している」とコメントしている

●電動航空機の発展は目覚ましく、ロールスロイス社によれば、最近電動航空機の従来速度記録(時速213㎞)が破られて555㎞が達成されたり、瞬間最高速度で623㎞が出た模様である
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合成燃料の現状でのコストが気になるところですが、トウモロコシ由来のエタノール利用持続可能航空燃料(SAF)に現実味がないなら、この分野に期待したいものです。

航空機に利用可能なら、車にも・・・と思いますが

排出ゼロや気候変動への取組み関連
「英空軍が非化石合成燃料でギネス認定初飛行」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-11-18
「米国防省は電気自動車&ハイブリット車導入推進」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-11-10
「米陸軍が電動戦闘車両導入の本格検討へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-09-23-1
「米国防省が気候変動対処構想CAP(Climate Adaptation Plan)発表」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-10-08
「サイバー停電に備えミニ原発開発」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-07

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米国防省の調達担当次官候補に元空軍調達次官 [米国防省高官]

国防省高官の議会承認進捗は、
承認済22、承認待ち22、候補未定13
調達担当次官の直属部下(副次官or次官代理)も未定

LaPlante5.jpg11月30日、ホワイトハウスが米国防省の調達担当次官候補に、元米空軍省調達担当次官であるWilliam LaPlante氏を推挙すると発表しました。
同氏の議会承認に関し米軍事メディアは全く問題ないと予想していますが、具体的な議会内手続きは年明け2022年初頭になると報じています

前任のLord国防省調達担当次官はトランプ政権と同時に退任しており、約9か月間同ポストが空席で「臨時代理」者が職務を代行していますが、海軍長官と並んで、政治任用者が未決定な重要空白ポストととして各方面から早期の人材充当が求められているところです

LaPlante4.jpgWilliam LaPlante氏は2014年初めから2015年末まで空軍省調達担当次官を務め、今や数少ない順調な開発状況にあるB-21次期爆撃機の契約をまとめた功績で国防関係者や議会での評価が高く、同時期に国防省調達次官を務めていたKendall現空軍長官とも良好な関係だと言われています

空軍省調達担当次官を務めていた前後は、技術研究開発企業で国家予算が多く投入されているMitre社の国家安全保障事業担当の副社長や重役を務め、現在は工学系非営利企業のDraper Laboratory社の会長兼CEOを務める傍ら、「National Defense Industrial Association」や「Naval Research Advisory Committee」等々のボードメンバーを務めています

LaPlante3.jpgまたLaPlante氏はもともとJohns Hopkins大学の学部長を勤めた経験もある理論物理学者で、、Mitre社ではBMD分析部長なども歴任しており、学問分野を極めつつ、現場の開発案件や行政経験もある実力者です

LaPlante氏が議会承認された場合、調達担当次官として担う課題は大きく、F-35維持費高騰問題やシステム成熟、米海軍の規模拡大、核戦力の近代化、本格紛争に備えた能力を提供する軍事産業基盤との協力体制強化、ソフトウェア調達改革などなどで、重責であることは間違いありません

米議会も含め、LaPlante氏への信頼が厚いことに期待し、2022年早々の議会承認と同ポストでのご活躍を祈念したいと思います

同氏が役員である企業webサイトでの紹介
https://aerospace.org/person/honorable-william-laplante
https://www.iafastro.org/biographie/william-a-laplante.html

米空軍調達担当次官当時のLaPlante氏関連記事
「LaPlante氏の退任会見」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2015-11-25
「次期爆撃機選定」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2015-10-01
「F-35の急激増産が課題」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-10-1
「2023年は装備計画が大集中」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2015-07-14
「軍需産業と計画段階から意思疎通」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2015-02-17

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米軍態勢見直し完了発表もほぼ非公開で日本に言及無し!? [オースチン国防長官]

Indo-Pacific重視、対中国重視が柱だと強調も
予期される在日米軍削減に会見で言及無し

Global Posture R.jpg11月29日、Mara Karlin政策担当国防副次官が会見し、オースチン国防長官が2月に表明していた「米軍の態勢見直し:GPR:Global Posture Review」が完了し、米国防省の重要優先地域であるIndo-Pacific地域への戦力ローテーション、投資、演習訓練等を強化し、ロシア正面の欧州には「信頼に足る抑止のための戦闘力:combat credible deterrent」を強化すると表現しました

ただし同副次官は、再編の細部については安全保障上の理由や同盟国等との関係から非公開事項だとし、強化や増強する一部の概要に言及しただけで、具体的にどこから削減してどこを強化するのか等については触れませんでした

米軍事メディアの中には、喫緊に大きな変更は必要ないとの結論に至ったが、引き続き中東やアジアで分析や関係国との調整を進めることとなった、と報じているところもありますが、よくわかりません

この米軍態勢見直しGPRでは、中国のミサイル射程範囲にがっつり入る在日米軍の脆弱性も大きなテーマのはずで、昨年9月に米海兵隊司令官が「米海兵隊の西太平洋地域での現配置の見直しを行っている。太平洋地域全体に分散した態勢を取らねばならない」と明言し、数千人規模の沖縄からの移動がささやかれていました

Austin GPR.jpgまた、元々この態勢見直しは、2020年1月に当時のエスパー国防長官が開始したもので、同年9月までに固めてしまう(大統領選挙までに固めてしまう)予定でしたが、トランプ大統領とエスパー国防長官の不仲や、同盟国との複雑な調整もあり延び延びになっていたもので、それを引き継ぐ形でオースチン長官が2021年2月に再度仕切り直して開始を命じたものです

トランプ政権からバイデン政権に代わり、国防費増強に消極的なドイツ国内の駐留米軍1.2万人削減案を引っ込めたり、豪州に攻撃原潜を提供するAUKUSとの新枠組みが新たに創設されたりとの話題はありますが、日本にとって肝心の「在日米軍の態勢見直し(つまり大幅撤退)」について全く情報が出てこないのが気になるところです

ご参考:2020年9月23日:Berger海兵隊司令官発言
Berger3.jpg●(中国の脅威増大を背景に、)WW2や朝鮮戦争後に形成された米海兵隊の西太平洋地域での現配置は、今後10年を考える時、統合戦力にとって良い体制(not a great posture)ではない。見直しを行っている
●グアムにも一部を置かねばならない(We have to factor in Guam)。我々は太平洋地域全体に分散した態勢を取らねばならず、これにより地域の同盟国やパートナー国と協力し、中国のような国際規範を書き換えようとする国々を抑止しなければならない

上記発言を受けた当時の各種軍事メディア報道
●米海軍と海兵隊プレゼンスは、西太平洋で日本に大きく依存している。空母や駆逐艦を横須賀で、強襲揚陸艦は佐世保を拠点としている。海兵隊もIII Marine Expeditionary Forceの約1.8万人を沖縄においているが、専門家は、中国からのミサイルや爆撃機攻撃に対して脆弱な固定基地に戦力が集中していることに疑問を呈している
●海兵隊は今後数年(in coming years)で、数千名の兵員と家族を沖縄からグアムに移すことを計画している

11月29日付米空軍協会web記事によれば
Karlin2.JPG●Karlin副次官は会見で、「GPRの多くは、作戦運用上に理由と、同盟国等との協議の秘匿を保つため、引き続き非公開としている」、「国防長官は中国がpacing challengeだとの一貫した姿勢で見直しに取り組んでおり、Indo-Pacificが優先地域である」と述べ、
●「GPRは更なる地域の同盟国等との協議を指示するものであり、中国からの侵略を抑止し、地域の安定に寄与するものである」と表現した

●朝鮮半島情勢に関連して同副次官は、オースチン国防長官は11月30日に韓国を訪問し、「米国のextended deterrenceへの変更について議論する」、「GPRでは、米陸軍攻撃ヘリ部隊や火砲師団司令部のローテーション派遣を恒久配置にする」と述べた
Karlin3.jpg●Indo-Pacific地域への増強話では、9月に豪州国防相が更なる航空ローテーション部隊や弾薬事前集積が来るだろうと述べ、2021年度予算に「Pacific Deterrence Initiative」として約2500億円が承認されグアム島などに投入されるとの話題がある

●更に、GPR取りまとめは、他省庁との議論や、NATO諸国・豪州・韓国・10か国以上の中東アフリカ諸国との協議を踏まえて行われたことを、同副次官は強調した
ただし注意点として、GPRでは、アフガニスタン派遣兵力や特定機能分野である核戦力・宇宙・サイバーについては触れておらず、これは個別に議論すべき課題と分類していると説明した

Karlin.JPGアフリカや南北アメリカについて、会見で同副次官は細部には触れず、アフリカsub-Sahara地域から世論の圧力でフランス軍が5000名を撤退させる中、バイデン大統領が10月に仏大統領との会談で追加アセット提供を約束しているが、細部については依然不明である

●2020年12月にトランプ政権がソマリアからの全面撤退を指示したが、具体的なISRアセットの撤収について具体的な発表は依然としてない
南北アメリカおよび中米地域については、引き続き人道支援や災害対処や麻薬取引対処に取り組むと説明があったが、具体的な戦力の変化等については同副次官は一切述べていない
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Pentagon building.jpg11月30日の昼のNHKニュースでも、このGPR会見で「日本」関連の言及があったとは一言も報じておらず、上記記事を書いた記者が日本に関心が低く、書き漏らしたわけではないようで、Karlin副次官は会見で日本に言及しなかったようです

11月30日にオースチン国防長官が韓国を訪問して「米国のextended deterrenceへの変更について議論する」するそうですが、在韓米軍を削減して豪州や米本土に撤退させ、「遠方から抑止力」を発揮すると説明しそうな雰囲気です

それにしても、大きな本丸とまんぐーすが想定する在日米軍の削減について情報がないのが不思議です。メディアの皆様、視聴率は取れないでしょうが、重要な話ですので頑張ってくださいね

米国防省のプレスリリース
https://www.defense.gov/News/Releases/Release/Article/2855801/dod-concludes-2021-global-posture-review/

米軍の態勢見直し
「オースチン長官が米軍態勢見直し指示」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-02-06
「司令官が在日米海兵隊削減を示唆」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-09-25
「ドイツ駐留米軍削減発表」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-07-30
「在韓米軍削減案報道に長官は」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-07-22
「9月末までに米軍再編検討を」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-14
「アジア太平洋で基地増設検討中」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-08-28 
「新統合作戦コンセプトを年末までに」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-08-18
「太平洋軍司令官が議会に要望」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-04-29

在日米軍基地は有事には
「米空軍はアジアで米海兵隊と同じ方向へ!」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-06-25
「西太平洋の基地防御は困難」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-09-23
「欺まんで中国軍を騙せ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-12-21

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