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米海兵隊が歩兵の多兵器習熟を試行中 [Joint・統合参謀本部]

狙撃銃も迫撃砲も機関銃も対戦車ミサイルも扱えるように
「Arms Room Concept」と呼んで3部隊で2年間試行中
対中国本格紛争を見据え、状況や脅威に応じ柔軟運用部隊へ

Austin marine2.jpg4月26日付Military.comは、米海兵隊が対中国など本格紛争対処に備え、従来は狙撃兵、迫撃砲兵、機関銃兵、対戦車ミサイル兵等に細分化されていた歩兵兵士のMOS(特技:military occupational specialty)を、最終的には一つにまとめる方向で試行実験を行っていると紹介しています

米海兵隊はDavid Berger司令官の下で、毎年改定される「Force Design 2030」構想に基づき、10年計画で対テロから本格紛争対処への体制変換を目指しており、機動的に島々を移動する長射程砲で海軍艦艇を支援する作戦中心への転換や、砲兵に歩兵部隊を従属させる組織運用への転換、それに伴う戦車部隊の廃止や長射程対艦火砲の導入などなどを強力に推進しています

marine infantry2.jpgそんな流れの中、現在の狙撃ライフル、迫撃砲、機関銃、対戦車ミサイル等に専門化した各中隊で構成されている歩兵大隊を、一人の兵士が扱える兵器種類を増やすことで中隊の壁をなくす方向で、2年計画の検証試験が進行中のようです

担当の准将は「まだ何も決まっていない。試行実験を通じて提言をまとめ、司令官に報告する」と慎重な言いぶりですが、米海兵隊の3つの歩兵大隊が試行実験に取り組み、海兵隊員養成の基礎課程でも既に教育期間を延長して多能化試行を始めているようで、動きの迅速さに感心させられます

4月26日付Military.com記事によれば
Austin marine.JPG「Arms Room Concept」の名の下に、米海兵隊歩兵兵士の多兵器習熟型への改革が試行実験されている。海兵隊の戦闘開発融合を担当するEric Austin准将は、多様な兵器を武器庫に備えた部隊構築に向けたドラスティックな改革に向かっていると語った
同准将は「米海兵隊歩兵兵士は、状況や任務に応じた兵器を手にして作戦遂行できるよう、全ての兵器に対応できる訓練を受けることになるだろう」、「これにより海兵隊は、より成熟した、マルチドメイン対応の歩兵兵士によって構成された部隊となる」と表現した

具体的には、3つの海兵師団全てから歩兵大隊を一つ選び、一つの大隊は標準モデルで、他の2つの大隊はそれぞれに少し異なる形態で試行実験を行っていると説明した
Berger2.jpgBerger海兵隊司令官は検討の背景として、2020年3月に改訂版「Force Design 2030」構想を発表時に、「将来の歩兵大隊の構成を考える上で、将来作戦環境を正しく分析して検討がなされたかについて自信が持てない」と述べており、これを受け3つの大隊が試行実験に臨むことになっ

Austin准将は同時に海兵隊兵士の基礎課程でも訓練体系を変える試行を行っていると語り、「基礎課程教育期間を従来の9週間から14週間に5割増しし、歩兵海兵隊員が多様な兵器システムに習熟できるよう取り組んでいる」、「脅威に応じて命ぜられた任務に対応し、どの兵器が適切かを選択して前線に向かうことができる方向に取り組んでいる」と述べた
海兵隊は最終的に、歩兵兵士の職域を一つに統合したいと構想しているが、「Arms Room Concept」に対して批判的な声もある。そんなことが可能なのか・・・との率直な意見である
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marine infantry.jpg先日は、対テロも含め従来海兵隊の中心であった歩兵部隊が、砲兵に従属する形で作戦する次世代演習が沖縄伊江島で行われたとご紹介しましたが、対艦長射程兵器を中心に据える海兵隊の改革は勢いを増しています

米海軍や米空軍と比較すると、その柔軟性は際立っており、組織防衛意識は他軍種と同様ですが、方向性は正しいのでしょうし、海空軍には少しは改革意識を学んでいただきたいと思います

米海兵隊の変革関連
「海兵隊NMESISで海上目標攻撃成功」→https://holylandtokyo.com/2021/05/03/213/
「歩兵の多能兵士化を推進中」→https://holylandtokyo.com/2021/04/27/117/
「海兵隊で歩兵が砲兵を支援する新形態演習」→https://holylandtokyo.com/2021/04/15/107/
「対潜水艦作戦にも」→https://holylandtokyo.com/2020/11/09/382/
「在日海兵隊の飛び石演習」→https://holylandtokyo.com/2020/10/26/441/
「司令官が在日米海兵隊削減を示唆」→https://holylandtokyo.com/2020/09/28/488/
「米海兵隊は戦車部隊廃止へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-25
「2つの長射程対艦ミサイルを柱に」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-06

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小型無人機対処装備を求めオプション試験中 [Joint・統合参謀本部]

統合検討室を陸軍リードで空軍が支援
まずは副次的被害が少ない対処装備3つを試験

Skylord Griffon2.jpg16日付Defense-Newsは、国防省の小型無人機対処検討の一環として行われている、統合小型無人機対処システム室(JCO:Joint Counter-Small Unmanned Aircraft Systems Office)による候補システム試験の様子を紹介し、まず「副次的被害が少ない:low-collateral effects」対処兵器(小型無人機)の募集と試験を4月上旬に行ったと伝えています

このJCOは陸軍が主導して運用し、試験は陸軍のYUMA試験場で行われていますが、今回の副次的被害の少ない対処兵器試験は依頼を受けた空軍が試験の企画運用を担当する統合らしい分業体制で行われています

MIDAS.jpg候補機種の募集は統合検討室の要求事項に基づいて行われ、約37個の提案があったようですが、国防省の資金支援を受けていない新たな提案からのみ受け付けること等を踏まえ10提案に絞り込み更にプレゼン評価を経て5企業が選ばれた様です。ただ4月の試験には2企業がコロナの影響等で参加できず、3企業のみが参加したようです

米空軍は16個の様々な試験シナリオを準備して3提案を評価し、敵脅威シナリオには様々な速度と高度と飛行パターンを持つ固定翼と回転翼無人機が準備され、提案を様々な側面から吟味したということです

このような試験評価は今後年2回のペースで様々なカテゴリーの小型無人機対処装備について予定され、新たなアイディアと新たな企業の提案を促進するよう計画されているようです

16日付Defense-News記事によれば
Drone Kill Drone.jpgボーイング隷下のAurora Flight Sciencesが提案した「副次的被害が少ない:low-collateral effects」な対処兵器(小型無人機)は、air gunを備えたMIDASとのquadcopterで、敵無人機に接近して約30㎝のひもを付けた弾丸を6連発で発射し、敵無人機のローターやプロペラに絡めて無効化する装置である。2回連射攻撃を行って敵に効果がない場合は、あきらめて次の目標に指向する
2つ目の提案は敵をネット(網)に絡めて無効化するElta North America(イスラエル企業の米国支社)提案無人機Drone Kill Droneで、敵無人機の下部から網を射出し、敵にからめとって自らも共に墜落するタイプである

3つ目も同じく網で固めとるイスラエル企業提案のSkylord Griffonであるが、こちらは敵上部から網をかけ、うまく敵を拘束したら網を切り離して次の敵無人機に向かう方式である
Skylord Griffon.jpg16個の脅威シナリオで評価された3機種は、今後評価レポート受け取り、今後の開発の資とする

JCOと陸軍迅速能力検討室は、同様のデモ試験の機会を9月にも設ける予定で、異なった特性を持った対処装備に焦点をあて、5月には要求性能を公表する予定である
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「副次的被害が少ない:low-collateral effects」な対処兵器部門だけで、37個も提案があったすそ野の広さに感心しきりですが、それだけ脅威認識が高いということです

地道な取り組みの一つですが、陸軍と空軍が協力して取り組んでいる点はうれしいニュースです

世界の軍事関係者に衝撃
「攻撃無人機でアゼルバイジャン圧勝」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-12-21

無人機対処にレーザーや電磁波
「国防省が小型無人機対処戦略発表」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-01-10
「小型ドローン対策に最新技術情報収集」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-10-20-1
「米海兵隊の非公式マニュアル」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-07-31
「ドローン対処を3-5種類に絞り込む」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-12-14
「米軍のエネルギー兵器が続々成熟中」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-30-1
「米空軍が無人機撃退用の電磁波兵器を試験投入へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-09-27
「米陸軍が50KW防空レーザー兵器契約」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-08-05
「米艦艇に2021年に60kwから」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-05-24

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米海兵隊改革のシンボル:洋上目標ミサイル攻撃成功 [Joint・統合参謀本部]

NMESISで沿岸の無人車両から100nm離れた目標直撃
海兵隊司令官が成功を議会で報告し予算確保要請

NMESIS5.jpg4月29日、David Berger海兵隊司令官が米議会で、無人運用に改良された軽戦闘車両JLTVから発射された「naval strike missile」で、100nm沖合の海上目標攻撃試験に初めて成功したと証言し、2021年度予算で認められなかった本システム(海軍海兵機動型艦艇阻止システムNMESIS:Navy Marine Expeditionary Ship Interdiction System)予算を2022年度予算で確保するよう要望しました

NMESISは、既に沿岸戦闘艦LCS等に搭載されている対艦対地ミサイルと、既に運用実績がある軽戦闘車両JLTVを組み合わせ、JLTVに同ミサイルを搭載し、無人運用を可能にするため「ROGUE:remotely operated ground unit for expeditionary」システムを搭載して無人ミサイル発射兵器に改良したもので、開発リスクを最小限に抑えたものです

発射試験は加州Point Mugu Sea Rangeの地上にNMESISを配置し、その沖合約100nmの洋上に設置した海上目標を攻撃する形で実施され、「naval strike missile」は仮設目標に直撃したということで

NMESIS2.jpg米海兵隊は過去20年間の対テロ作戦体制から、このNMESISや陸上発射型トマホーク巡航ミサイルを迅速に機敏に西太平洋の島々に展開させ、敵水上艦艇や輸送船を射程に収めることで対中統合作戦に貢献する方向に大改革を進めており、NMESIS試験の成功は大きなマイルストーンとなりました

一方で米議会は作戦コンセプト未成熟として、2021年度で米海兵隊が求めた地上発射型トマホーク50発導入予算約150億円を認めず、Davidson太平洋軍司令官が3月に議会で「中国抑止力を削ぐ判断だった」と2022年度予算での復活を強く要求していたところです

Berger海兵隊司令官は議会で、NMESISが既に実績のあるミサイルと戦闘車両の組み合わせでできており、開発リスクの少ない重要新装備だと強調して訴えており、米海兵隊大変革のカギを握る兵器として今後の予算確保が注目されます

4月29日付Military.com記事によれば
Berger2.jpg4月29日David Berger海兵隊司令官は米議会で、同試験におけるミサイル発射写真を議員に示しつつ、NMESIS の信頼性が高いことと対中国抑止に重要な装備であることを説明し、予算確保への協力を訴えた。なお同試験の成功は、前日の4月28日に「naval strike missile」製造のレイセオン社から発表されていた
Berger海兵隊司令官は試験成功を「海兵隊若手担当者と軽戦闘車両JLTV改修に取り組んだOshkosh Defense社の努力の賜物だ」と讃えアピールし、「JLTVの後部を改修してnaval strike missileを搭載し、更にROGUE fires vehicleとの無人運用車両改修に可能にした彼らの努力が成功の原動力だった」と紹介した

更に同司令官は、「これで我々はNMESISを米艦艇や沿岸地域に配備し、敵水上艦艇に脅威を与えることができ、海上交通路を開放することができる」、「このNMESISを有効に活用できる迅速な機動展開運用が我々の目指すべき方向である」と説明した
NMESIS3.jpgそして同司令官は、米海兵隊にとって2022年度予算で地上や艦艇配備の精密誘導火力を確保することが死活的に重要だと訴え、「海洋エリアをバリアに変え、敵の海上交通路を遮断し、我が交通路を確保することが目的だ」と述べた

同司令官はNMESISの信頼性について、「naval strike missileは既に沿岸戦闘艦に搭載され運用実績のある兵器であり、輸送や兵站ルート確保も含めて実証済みである。また搭載車両も運用実績があり信頼できるシステムである」と開発リスクや運用リスクを局限したシステムであることを強調した
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NMESIS4.jpgBerger海兵隊司令官を中心に進められている海兵隊改革が成功するかどうかは「神のみぞ知る」世界ですが、歩兵中心で対テロ作戦を20年以上続けてきた組織が、またそれ以前は歩兵中心の着上陸作戦命で存在意義を見出してきた組織が、脇役だった「砲兵」を柱に組織改革を進める柔軟な姿勢を見せていることに感慨を覚えます

従来中心だった歩兵においても、単一兵器の専門職育成から、複数兵器を扱える多能兵士養成へと大きな改革が試行されており、米海軍や米空軍の硬直性を横目に、大変楽しみな組織力を発揮しています。注目したいです

米海兵隊の変革関連
「海兵隊NMESISで海上目標攻撃成功」→https://holylandtokyo.com/2021/05/03/213/
「歩兵の多能兵士化を推進中」→https://holylandtokyo.com/2021/04/27/117/
「海兵隊で歩兵が砲兵を支援する新形態演習」→https://holylandtokyo.com/2021/04/15/107/
「対潜水艦作戦にも」→https://holylandtokyo.com/2020/11/09/382/
「在日海兵隊の飛び石演習」→https://holylandtokyo.com/2020/10/26/441/
「司令官が在日米海兵隊削減を示唆」→https://holylandtokyo.com/2020/09/28/488/
「米海兵隊は戦車部隊廃止へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-25
「2つの長射程対艦ミサイルを柱に」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-06

応援お願いします!ブログ「東京の郊外より」支援の会
https://community.camp-fire.jp/projects/view/258997

ブログサポーターご紹介ページ
https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-04-16-1

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