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米陸軍の前線電子戦部隊構想:2027年までに [Joint・統合参謀本部]

前線レベルの部隊整備だけでは対中露には不十分だが
2027年までを目途に各旅団に専門小隊を

EW Army.jpg1月1日付C4ISRnetが、対テロに専念してきた過去20年間で「忘れられ、置き去りにされてきた」米陸軍の電子戦部隊整備について、担当大佐の語る将来構想を紹介しています

過去20年間の対テロ作戦では、イスラム武装集団やテロ組織が相手だったことから「電子戦」を意識する必要がなく、米陸軍だけでなく、米軍全体から「電子戦」のノウハウや経験が失われ、前線兵士から中堅幹部は経験や知識が実質「ゼロ」で、将官クラスでも冷戦時の記憶が微かに残る程度の惨状です

EW Army2.jpgこの危機感が本格的に米軍内で共有されたのは、2014年のロシアによるウクライナへの侵攻時で、ロシア側による最新の情報戦(サイバーやメディア戦を絡めた手法)と電子戦の組み合わせた「ハイブリッド戦」を前に、米軍は茫然と立ちすくす他なく、むしろ米軍が支援に赴いたウクライナ軍から電子戦の基礎を学ぶ羽目になった米軍部隊の教訓からでした

その後、国防省を上げて「電子戦」能力の再構築に取り組み始め、例えば米空軍は「情報戦」と「電子戦」を担当部隊を融合した第16空軍を立ち上げる等の動きを見せていますが、中露を相手にすることへの意識改革も道半ばで、かつ米軍を取り巻く予算不足も重くのしかかり、なかなか体制整備が進まないのが現実です

以下で紹介する米陸軍の取り組みは、あくまでも前線部隊レベルの話で、対中露となれば必要な軍団(Corps)レベルの整備構想が欠如した状態ですが、小さなことからコツコツと・・・の姿勢で、とりあえずご紹介しておきます

1日付C4ISRnet記事によれば
EW Army3.jpg米陸軍司令部で電子戦能力担当マメージャーを務めるDaniel Holland大佐が、C4ISRNETに書面で電子戦への取り組みについて説明してくれた
米陸軍の戦闘単位の中核として機能してきた旅団戦闘チーム(BCT:Brigade Combat Team)に、2027年までを目途に、電子戦専従の「小隊:electronic warfare platoon」を整備し、併せて各種電子戦情報を他部隊と共有して総合戦闘力発揮につなげるネットワーク構成部隊「signals intelligence network support team」も新設する

これら電子戦小隊やネットワークチームは、今後、Strykers戦闘装甲車に搭載した形で導入されるTLS-BCT(Terrestrial Layer System Brigade Combat Team)との電子戦・電子情報収集・サイバー戦プラットフォームを活用して行動する
TLS-BCT開発は、開発リスクを低減するため2つの企業(Lockheed MartinとDigital Receiver Technology)が並行してプロトタイプ作成に取り組んでおり、その中から一つを選択する予定である

EW Army4.jpg現時点までに米陸軍は、太平洋と欧州戦線への配備を念頭に、2つの電子戦用プロトタイプを開発している。一つは電子戦支援と電子攻撃用のTEWS(Tactical Electronic Warfare System)、もう一つはFlyer72搭載用のより小型のTEWL(Tactical Electronic Warfare Light)である
各旅団に新編成される電子戦小隊やネットワークチームは、旅団内に分散して配置されていた要員を一つのまとめて編成される方向である

ハードの整備と並行し、部隊に対する電子戦訓練として米陸軍は、CEMA(cyber and electromagnetic activities)セッションとの電子戦訓練を、大部分の部隊に2022年までに受けさせる計画である
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EW Army5.jpg2つの企業が並行して開発している電子戦装備と、TEWSとTEWLとの装備の関係が良くわかりませんが、とりあえず言葉だけご紹介しておきます

また記事では、第1機甲師団の第3戦闘旅団(BCT)がモデル部隊として、上記の新装備や新編成導入に先行して取り組むと紹介しています

対中国で、米陸軍がどのような役割を果たそうとしているのかよくわかりませんが米海兵隊が機動力を生かして太平洋の島々を機敏に移動しつつ、敵艦艇撃破に注力する方向に取り組むイメージを頭に浮かべつつ、お手並みを拝見したいと思います。そんな悠長な状況にはない日本ではありますが・・・

ロシアの電子戦に驚愕の米軍
「東欧中東戦線でのロシア軍電子戦を概観」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-06-09-1
「ウクライナの教訓」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-05-08
「露軍の電子戦に驚く米軍」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-08-03-1
「ウクライナで学ぶ米陸軍」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-02

EW関連の記事
「国防省EW責任者が辞任」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-12-19
「ACC司令官が語る」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-04-19
「米空軍がサイバーとISRとEwを統合」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-04-06-3
「電子戦検討の状況は?」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-12-13
「エスコート方を早期導入へ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-27

「米空軍電子戦を荒野から」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-17-1
「ステルス機VS電子戦攻撃機」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-22
「E-2Dはステルス機が見える?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-06-12

第16空軍の関連記事
「電子戦(spectrum戦)専門の航空団創設へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-11-03
「新設第16空軍の重要任務は2020年大統領選挙対策」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-19
「遅延中、ISRとサイバー部隊の合併」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-08-24
「米空軍がサイバー軍とISR軍統合へ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-04-06-3

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下院軍事委員長がF-35を痛烈批判「どぶに金を捨てるのか」 [亡国のF-35]

米空軍による戦闘機構成検討「TacAir」の背景にある問題児
高止まり維持費、利益地元誘導政治家が絡み身動きできぬ苦悩

Smith2.jpg5日、Adam Smith下院軍事委員長(民主党)がブルッキングスで講演し、「どぶに金を捨てるようなF-35への投資を止めさせたい」などとF-35を厳しく批判し、「金食い虫のF-35に今後35年も頼らなくてよいような道を探るべき」と訴えました

この問題には米軍も苦悩しており、同機を1763機も調達予定の米空軍でも、2月17日にBrown米空軍参謀総長が「5世代機と次世代制空機NGADと新たな5世代機マイナスとの混合編成」を考える必要があるとして、新たに「5世代機マイナス」性能のF-16後継機開発を含めた、「TacAir study」検討を数か月間で行うと表明したところです

F-35 3-type.jpg飛行時間当たりの維持費が第4世代機の2倍で下がる見通しが立たず、まだ開発と製造が同時進行状態で稼働率も上がらないF-35にこれ以上依存では破産するとの現実的な問題ですが、F-35製造関連企業や工場を政治家対策のため全米に分散させた結果、地元利益誘導の米議員集団が「亡国のF-35」計画の推進を要求しており、「民主主義の悪夢」の様相を呈しています

Brown空軍参謀総長は初の黒人軍種トップとして話題の大将ですが、予算の現実を直視しない前線部隊や政治屋からの大反対を受けつつ、「今決断せねば勝利はない」との強い決意で戦闘機問題に臨もうとしていますが、黒人ゆえの悲哀を感じつつ、孤独な戦いが続いています。重鎮である下院軍事委員長の発言を「追い風」として、改革が進められるのかに注目しているところです

Adam Smith下院軍事委員長はブルッキングスで
Smith.jpgF-35は我々に何を与えてくれるか? 我々の損失を断ち切る道はあるのか? このような問題の多いアセットへの多額投資を止める方法はないのか? 皆さんも知っているだろう。この機体の維持費は暴力的だ!
私は最も費用対効果の高い戦闘機の構成(a mix of fighter- aircraft)を検討したいと考えている。今後35年間、問題山積のF-35に依存しないために、何かを見つけたいと考えているのだ 

我々はこれまで、期待通りに機能しない兵器システムに驚くほど巨額の資金を浪費してきた。我々が受け入れてきてしまった過ちは、唖然とするほど巨大なものである。F-35は・・
しかし、(地元利益誘導の)米議員からのF-35支援の声が強く、米国がF-35に縛られる状況に陥りつつあることを情けなく思う。米国議会はコストが高騰し続ける兵器システムをチェックする役割を担っているはずなのに・・

2月25日Brown空軍参謀総長は戦闘機問題について
Brown3.jpg(2月17日に「TacAir study」を発表したのは、)今後調達していくF-35だけでなく、今後10-15年のスパンでF-35を補完していく他の方法も含め、総合的な検討を行いたいと考えたからだ
必要な能力を確保するため、F-35を計画通り1763機導入するオプションから、予算で対応可能な4世代機プラス(5世代機マイナス)を利用するオプションについても、幅広く検討したいと考えている
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米空軍は1763機調達予定を、1070機まで減らす検討をしていると昨年末に報道され、「火の無いところに煙は立たず」で、そうならざるを得ないと思います・・・

まんぐーすも、いつまでもグダグダとF-35の負の話題をお伝えしたくはないのですが、日本は世界第2位のF-35購入国になる計画を持ち、共同開発国でもないことから米国以上の調達&維持コストを強いられることが明らかだから触れずにはおれません

F-35 Luke.jpgおまけに、主に海外に展開して戦う米軍とは異なり、日本を拠点として戦う自衛隊の性格からすれば、有事に飛行場等の機能喪失が容易に予想できる中で、F-35に多額の投資を行うことが如何に「亡国の政策」かも、くりかえして口にせざるを得ません

前線で真摯に国防に取り組みたいと汗を流す隊員の皆さんが、これ以上「亡国のF-35」で苦しむ姿は見るに堪えません・・・。時すでに遅し‥でしょうか? 日本も「TacAir study」を、いやより大きな戦力構成再検討を行ったらどうでしょうか?

2月17日Brown参謀総長発表の「TacAir study」関連
「戦闘機世代混合比や5世代マイナス機の検討」→→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-02-19
「戦闘機族ボスがNGADへの危機感を」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-02-27-1

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ストライクイーグルにJDAM運搬役を [米空軍]

ACE構想のため輸送機の代わりに完成弾JDAM輸送
現在の9発搭載から15発搭載の試験実施

F-15E JDAM.jpg2日付米空軍公式webサイトは、2月に米空軍の第85試験評価飛行隊で、従来はJDAMを最高9発しか搭載しないF-15Eストライクイーグルに15発搭載する試験を実施し、問題ないことが確認されたと発表しました。

このJDAM搭載量増加試験は、単にF-15Eの攻撃能力強化を狙ったものではなく、F-15Eで組み立てが終了した完成弾JDAMを輸送させることで、C-130輸送機で組み立て前のJDAMと組み立て要員を輸送する負担を軽減する効果を狙ったものらしく、航空アセットを機敏に機動展開させて分散運用するACE構想に資するものだと米空軍はアピールしています

F-15Eの他にも、米空軍は無人機MQ-9に空対地精密誘導兵器AGM-114 Hellfireを従来の2倍の8発搭載する試験を昨年秋に実施し、同じく攻撃力増加と輸送能力強化アップを構想しているようで

2日付米空軍公式webサイト記事や報道によれば
F-15EX 3.jpg2日、第85試験評価飛行隊長のJacob Lindaman中佐は、「ストライクイーグルF-15Eは今や、より多くの完成弾JDAMを搭載して戦闘任務に参加したり、搭載したまま遠方の基地に着陸し、F-35やF-22にJDAMを積み替えて運用する作戦にも貢献できるようになった」と試験の成果を表現した

これまでJDAMを組み立て前の状態でC-130輸送機により運ぶには、JDAM組み立て要員も含めて最低2機の輸送機が必要だったが、完成弾JDAMをF-15Eで輸送できれば、1機のC-130輸送機で対応可能となる

公開された写真では、片側の翼付け根付近に6発の500ポンドJDAMが搭載されており、この方式で両翼付け根に計12発、残り3発の500又は2000ポンドJDAMは胴体下1発と両翼下に1発づつ搭載可能と米空軍は説明している
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MQ-9 4.jpgF-15Eにどれほど期待しているのかよくわかりませんが、MQ-9部隊も取り組んでいる言うことは、C-130等輸送機の負担緩和を目指しているのか、輸送機の残存性考慮や搭乗員の生命を守る観点から、機動性や防御能力の高いF-15Eや、犠牲を許容しやすいMQ-9活用を追求しているのかもしれません

下の過去記事「米空軍若手がACEの課題を語る」が示すように、ACEの実施は容易ではありません。緊急展開先、輸送能力、地上支援機材や弾薬等事前集積物資の確保、展開先で複数の業務をこなせる人材育成などなど、課題は山積していま

そういえば、ダブつき気味のMQ-9を太平洋の海面監視用に活用する試験も行われていましたから、使えるものはF-15Eも含めて何でも使おう・・・との検討の中の一つのアイディアかもしれませんが

米空軍の戦力分散運用ACE関連
「GuamでF-35とF-16が不整地離着陸」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-01-28
「米空軍若手がACEの課題を語る」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-11-13
「中東派遣F-35部隊も挑戦」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-08-19
「三沢でACE訓練」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-21
「太平洋空軍がACEに動く」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-12
「太平洋空軍司令官がACEを語る」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2017-12-10-1
「有事に在日米軍戦闘機は分散後退」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-11-02
「F-22でACEを訓練」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2017-03-08

「MQ-9の対中国海上作戦への応用演習」
https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-09-26

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タグ:MQ-9 JDAM F-15E
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台湾軍改革を阻む組織的抵抗勢力 [安全保障全般]

蔡英文の多層的で非対称な軍を求める改革に抵抗
人も装備もコンセプトも改革を迫られているのに

ODC Taiwan2.jpg2月に開催された米中経済安保評議会の公聴会で、米大学の専門家が台湾の軍事力について評価し、人的戦力の充足率、装備の維持整備状況、作戦コンセプト等、全ての点について問題を抱えており、蔡英文総統が掲げる改革案も、軍や国防省や軍人OBの組織的抵抗にあってなかなか進まないと現状を紹介したようです

中国大陸に近接し、質量ともに中国軍が圧倒的優位な立場にある中、特に1000発を優に超える弾道ミサイルを中国軍が台湾正面に配備している状況にあって、極めて選択肢の少ない台湾軍ですが、徴兵制を縮小して人員が不足し、従来型の正規戦を想定した高価な装備を追求して老朽装備の更新が進まず維持整備が困難になるなど、動脈硬化状態が深刻なようです

ODC Taiwan4.jpgまた、蔡英文がこれら問題対処に対処するためまとめた国軍改革案「ODC:Overall Defense Concept」に対し、国軍や国防省が組織的抵抗を行って改革を阻んでいるとの指摘も行っています

証言したのはGeorge Mason大学のMichael Hunzeker准教授という方ですが、台湾に近い環境に置かれている日本にとって、「対岸の火事」として無視できない問題で、むしろ日本も同様の状態にあるとも考えられる話ですのでご紹介しておきます

1日付Defense-News記事によれば
2月末に「U.S.-China Economic and Security Review Commission」で行われたヒアリングでHunzeker准教授は、「台湾軍は、人的、訓練面、装備面、動機づけの面で中国軍と対峙するに適した態勢になっていない」と説明し、また台湾政府が主導する国防改革への国防省や軍上級幹部の抵抗で改善が進まず、時間的余裕もないと主張した
ODC Taiwan.jpg同准教授は、想定される中国軍による全面侵攻に備えていれば、部分的侵攻や台湾海峡の島占領などの限定的侵攻シナリオにも対応できると述べた

台湾軍の課題として同准教授は、台湾が徴兵制から志願兵制度への移行を進める中で生じている人員不足に触れ、陸海空軍全般で定員の約8割しか充足されておらず、(若手が必要な)前線部隊では6割程度にまで充足率が落ちていると指摘した
また装備面では、中国軍対応の台湾海空軍の艦艇や航空機による緊急行動が増加する中、装備品の更新が進まないことで、装備品の維持が困難に直面しており、稼働率が低下している点を指摘した

ODC Taiwan3.jpgまた軍事ドクトリン面では、依然として中国軍と対称な戦い(symmetric response)を追求し、結果として「実際の想定される有事に、限定的な機能しか発揮できない高価なアセットを中心とした装備体系を追求することになっている」と警告した
更に訓練面では、徴兵兵士と予備役兵士への訓練不足を指摘し、特に徴兵者(期間16週間)への訓練量が不足していると同准教授は証言した

これら軍が持つ課題に対し、蔡英文政権は「ODC:Overall Defense Concept」を掲げ、「多層的で非対称:multilayered asymmetric force」な軍構築を目指そうとしており、「その方向性は台湾の脅威環境を考えればより良い方向である」と同准教授は評価している
しかし同准教授は、ODCは軍や軍人OBや国防省高官からの反対に直面し、その様は「俗人的な反対姿勢、官僚組織的な抵抗、原理主義的ともいえる不同意」から来ていると批判している

ODC Taiwan5.jpg同時に政権自体も、徴兵制の復活等を含む政治的に微妙な内容にも触れているODCを、積極的に推進する意欲に欠けているように見えると評価している
更に、ODCが完全実施の方向に向かったとしても、対処時間は限られており、装備品の転換だけでも大変だが、更に時間の必要な作戦ドクトリン、訓練、兵站、文化などの変革を考えると、厳しい状態に置かれていると評議会で同准教授は語った
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同准教授が指摘する、「有事に、限定的な機能しか発揮できない高価なアセット」(high on prestige but of limited utility in an actual conflict)へのこだわりや、「非対称戦に備えた体制への転換」への反対は、わが国でも根強いものと思います

我が国の憲法や各種法律による縛りがこれに加われば、「今そこにある危機」への対応が難しいことは明らかだと思うのですが、内なる敵との戦いが西側最大の課題なのかもしれません

CSBA提言の台湾新軍事戦略に学ぶ
まとめhttps://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-11-08
その1:総論http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27
その2:各論:海軍と空軍へhttp://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27-1
その3:各論:陸軍と新分野http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27-2

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米空軍の戦闘機族ボスが謎の次世代制空機NGADを語る [米空軍]

機密度が高いゆえに予算確保が困難だと危機感
参謀総長の戦闘機混合分析検討をけん制か??

Kelly.jpg2月26日、米空軍戦闘コマンド司令官、つまり「戦闘機族のボス」であるMark Kelly大将が記者団と懇談し、記者団からの関連質問もない中で突然自ら次期制空機NGAD(Next Generation Air Dominance)の予算確保への危機感を訴えました

次期制空機NGADについては、4世代機や5世代機とは異なり、他の兵器や装備で構成される「family of systems」の中の構成要素の一つととらえて検討する方向性が語られるのみで、2017年以降情報が全く出ていませんでしたが、昨年9月、当時のRoper空軍調達担当次官補が突然「既にデモ機が初飛行を済ませている」と衝撃発言を行って世界中に激震が走ったところです

NGAD6.jpgしかしその後は再び闇に包まれ、昨年12月に再びRoper次官補が、米空軍の新規開発プログラムは極秘技術に関するものが多いが、米議会に説明するために必要な「機密情報隔離施設:SCIF」がコロナで使用困難で、「次世代制空機計画がコロナに殺されかねない」とまで言及して危機感を訴えていたぐらいしか関連情報がありませんでした

そんな中、期待もしていなかったNGADに関する突然の発言に、参加していた約20名の記者たちも驚いたようで、2月26日付Defense-News記事は「誰もNGADについて質問しようと考えない雰囲気の中、会見の最後に突然Kelly大将が思いを語り始めた・・・」と様子を伝えています

2月26日付Defense-News記事によれば
Kelly2.JPGMark Kelly米空軍戦闘コマンド司令官は記者団に会見の最後に自ら突然、「私は技術開発や試験状況から、NGAD技術が実用化(will get fielded)できるレベルに達していると確信している」、「また敵に大きなダメージを与えることができる技術だと確信している」と技術完成レベルに自信を示すとともに、
一方で、「中国などがこれを実現して我が国に使用する前に、我が国がこの技術に焦点を当て、配備に進む勇気を発揮できるかわからない」と現状への危機感を訴え

ただ同司令官は、いつ頃NGADを配備可能になるのか等、本計画に関する細部への言及を避け、何機デモ機が存在するのか、どの企業が担当して開発しているのかについては触れなかった
ただ「極めて重要な焦点となる技術であり、我々はこの技術がもたらす利益の重要性を国家として訴え続けなければならない。そのことにより米国と統合戦力に航空優勢を提供しなければならない」と重要性を繰り返し訴えていた

NGAD7.jpg同司令官の発言の背景には、開発を加速するために予算増が必要なタイミングにありながら、確保が進まない焦りがあると推測されている。2020年度のNGAD予算が約1000億円だったのに対し、2021年度は空軍要求の1150億円から減額され、昨年以下の約990億円に抑えられたからである
米議会は国防省の独立部署であるコスト分析計画評価局に対し、開発状況が良くわからない米海軍と海軍の次世代戦闘機開発について調査を行うよう命じており、技術的成熟度合いやコストの観点からの分析が2021年度行われる予定となっている

F-35の維持費25000ドル/時間目標@2025年について
この目標達成に確信を持てない状況だがあきらめてはいない。だから私は各部隊整備部署や修理センターや部品調達ルートの話を聞きき、何が出来るのか検討しているのだ
訪れた先では、単に感想を聞くのではなく、取るべきアクションを煮詰めるための議論を行っているが、今ここにいる段階で、目標達成に自信を持てないでいる
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2月17日のBrown空軍参謀総長による「戦闘機世代別の構成比率検討」開始宣言に対する意見表明のような気がしなくもありませんが、コロナで国家予算の重点配分先が変わりつつある中、いろんな方面でこれまでと異なる環境への対応が求められているのでしょう

NGAD5.jpgNGADに関する情報がここまで管理されているのはある面で素晴らしいことですが、中国やロシアにはしっかり漏れているかもしれません。この米空軍大将が先を越されることを恐れているくらいですから・・・。今後の米軍全体の戦い方の変化を考える上での「試金石」となる装備ですので、今後もその動向に注目したいと思います

F-35に関しては、今になっても新たな機能を盛り込んだりしているため、整備がますます複雑化し、一度は低下した整備コストが増加に転じており、低下の見通しが立たない状態です。

NGADを巡る最近の動き
「戦闘機世代混合比や5世代マイナス機の検討」→→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-02-19
「SCIF使用困難で戦闘機開発危機」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-12-12
「次期制空機のデモ機を既に初飛行済」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-09-16

ちょっと以前の関連記事
「戦闘機族ボス:中国正面で戦闘機のニーズは?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-28
「CSBAの米空軍将来提言」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-24
「連接重視で航空アセット削減へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-28
「次期制空機検討は急がない、急げない」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-11-19
「米空軍が次期戦闘機検討でギャンブル」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-05

「戦闘機族のボスがNGAD予算を危惧」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-08-21
「PCA価格はF-35の3倍?」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-12-15
「秋に戦闘機ロードマップを」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-04-22
「PCA検討状況」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-07-12
「次期制空機検討は2017年が山!?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-12
「次世代制空機PCAの検討」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-30
「航続距離や搭載量が重要」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-08

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太平洋軍が今年も追加要望事項レポートを [Joint・統合参謀本部]

3月4日AEIのイベントで司令官自らプレゼン
米議会超党派が推進のPDI太平洋国防イニシアチブとスクラム
ただ国防省は厳しい予算枠の中で動けるはずもなく

Davidson3.jpg2日付Defense-Newsは、昨年に引き続き米太平洋軍が、2027年までの間に約3兆円の追加予算が対中国でアジア太平洋地域に必要だとのレポートをまとめ、4日にAEIでDavidson太平洋軍司令官が発表プレゼンを行うと紹介しています。Defense-News独自入手情報らしいです

このレポートの内容は、数週間後のバイデン政権初の2022年度国防予算案発表に先立って行われ、要するに現状の予算枠ではとても対中国の態勢は構築できないから、これだけ必要だと訴えるもので、超党派の議員団が昨年「PDI:Pacific Deterrence Initiative」として2026年までに約2兆円の投資をアジア太平洋地域に求めた内容をなぞったような要求レポートになるようです

Pacific Deterrence2.jpg元々、予算案から漏れた「優先追加要求事項」を地域コマンドが米議会に提出するのは慣例(法的要求事項?)となっているのですが、その内容があまりに本質的で重要な内容なので、国防省予算案の在り方自体に問題を投げかけ、米議会超党派議員も同じ方向を要求していることから話題になります

同レポートの要求事項の一部は、例えば第一列島線上に射程500㎞以上の火砲部隊を配置して中国をけん制する構想など、国防省予算案にも含まれるようですが、現実の予算枠からすると実現が困難な内容も含まれており、昨年の同レポートや米議会のPDI提案に、国防省担当部局からは「無い袖は振れない」「議会に好き放題予算をいじられては・・・」と困惑の本音も聞こえてくる状態です

結局、ホワイトハウスに国防費の枠拡大を求める軍現場と米議会超党派の陳情のような形になっていますが米国防省の予算案が、F-35など勇ましい正面装備を重視する中で、太平洋軍レポートはグアムのミサイル防衛強化や電子戦能力や第一列島線火砲など、現実的で必要な装備体系も求めており、いわば良心的な国防関係者の本音を見る思いがしますのでご紹介しておきま

とりあえず昨年のレポートやPDI提案は、コロナの大きな波の中で、「風と共に去りぬ」扱いだったと認識しておりますが・・・

2日付Defense-News記事によれば
Davidson.jpg1日、太平洋軍は米議会に、2022年から27年にかけて追加で約3兆円の国防投資を求めるレポートを提出し、まず2022年には約5000億円が追加で必要だと訴えている。4日にAEIでDavidson太平洋軍司令官が発表プレゼンを行う予定になっている

同レポートに含まれている要求項目は例えば・・・
--- 約1兆円 局所的な海上・航空優勢確保費(戦力分散用の港湾や飛行場整備、分散拠点展開先確保のための着上陸戦力強化など)
--- 約1800億円 グアムのミサイル防衛強化(パラオに設置の200億円のレーダーシステム含む)
--- 約2500億円 宇宙配備の早期警戒衛星網整備
--- 約3500億円 第一列島線上に射程500㎞以上の精密誘導火砲を、残存性高く、機動性を持たせてネットワーク配備
--- 約250億円 情報戦(世論操作への誘導工作対応 前回の5倍)
--- 約400億円 兵站強化費
--- 約50億円 電子戦強化費

Pacific Deterrence.jpgDavidson太平洋軍司令官が4日にプレゼンを行うAEIのEric Sayers研究員(昨年の米議会PDIにも関与)は、「米国防省の現在の計画は、アジア太平洋地域に生じている軍事アンバランスに対応するには不十分だ」、」「PDIはバイデン政権が米議会とこのアンバランス問題に協力して取り組む良い機会を提供する」と語っている

ちなみに、太平洋軍が本レポートで要望している2022年度の追加費用の規模約5000億円は、2014年にロシアのウクライナ侵攻を受けて正式に開始された「European Defense Initiative」で、2020年に認められた約7000億円規模と比較すると小さい額である
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US China2.jfifバイデン政権は、ウイグルの人権問題もあり、今のところ中国に厳しい姿勢を示していますが、国防に関しては近く発表される2022年度予算案を見ないといけません。もちろん、トランプ政権の引継ぎが遅れて、十分に新政権の意向が反映できなかったとの言い分もあるでしょうが・・・

欧州では正式に「EDI:European Defense Initiative」が実行されたのに、対中国で実態がない状態では困ります

アジア太平洋でのDefense Initiative
「上下院軍事委員長が対中国抑止PDI推進」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-05-29
「太平洋軍司令官がグアムミサイル防衛一押し」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-07-23

European Reassurance Initiative関連
「NATO首脳会議は葬式?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-11-18-1
「ロシアの毒牙にセルビアが危ない」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2018-03-10-2
「対露の欧州米軍予算4倍を説明」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-16-2
「欧州への派遣や訓練を増加」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-08-1

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正直者は馬鹿を見る?:米軍が引き続きメキシコ国境警備 [ふと考えること]

国家安全保障省の任務を支援して19年
今や当たり前にみられてバイデン政権後も継続投入

Mexico border2.jpg2月25日付Military.com記事は、本来は20年前に誕生した国土安全保障省の任務でありながら、断続的に米軍が19年に渡り支援し、現在も3600名がメキシコ国境警備に展開している状況について国土安全保障省が今後も最低5年は継続支援を要請し、国防省側が恒常的な支援状態は好ましくないとの姿勢だと報じています

本件は、トランプ大統領が2019年2月に国家緊急事態宣言して国防省予算や米軍兵士を国境の壁予算や建設に投入して物議をかもしましたが、バイデン政権誕生後はこの宣言を引っ込めており、本来なら米軍派遣は根拠レスとも言えますが、引き続きメキシコ国境に不法移民が押し寄せる現状から、米軍の派遣は常態化しています

Mexico border.jpgこの状態に対し、米議会が会計検査院GAOに調査するように命じ、調査を踏まえてGAOが提言を行い、国防省には派遣要請を受ける判断基準の明確化、国境派遣のコストや部隊即応態勢への影響をきちんと評価して報告するよう要望し、国防省と国土安全保障省の双方に、両者でよく協議して恒常的な支援形態をまとめるよう提言したようです

これに対し国防省は、派遣判断基準やコストや部隊への影響報告には同意しましたが、恒常的な派遣に関する協議については拒否し、可能な範囲で国防省側の判断で派遣するとの姿勢を示しているようです

GAOはこのような国防省の姿勢に対し、実質的に大した問題もなく継続的に派遣し、コスト負担についても柔軟に対応してきた経緯があるにもかかわらず、今になって消極的な姿勢を見せるのはおかしいと指摘しているようです

国土安全保障省DHSが20年前に誕生した経緯を把握していませんが、DHSが自らの任務を自分の力で果たす能力を20年経過しても持ちえず、実質的に将来も変わりそうもないことが明らかな中、米軍頼みのゆがんだ体制はバイデン政権になっても変わりようがないのでしょう・・・

2月25日付Military.com記事によれば
Mexico border3.jpg国土安全保障省(DHS:Department of Homeland Security)が「南部国境管理:継続的な国防省支援の必要性と、対処すべきコストや即応態勢の課題」とのレポートをまとめ、今後少なくとも3-5年間、恐らくそれ以上、少なくとも現状数(3600名)以上の米軍派遣継続が必要だと訴えている
一方で国防省は調査を行ったGAOに対し、「国土安全保障省が独自に国境管理を遂行するまで期間に限り、一時的な支援を行う方向が望ましい」との姿勢を示している

現在の米軍派遣はトランプ大統領の要請で2018年4月から始まっているが、国境での不法入国の罪で拘束される人数が、40万から85万に急増したことが派遣要請の背景にある
Mexico border5.jpgなお前出のDHSレポートは、2018年4月から2020年9月までの米軍派遣コストを、約1100億円と推計している

国防省が長期的な派遣体制についてDHSと協議して固定するような方向を拒否する姿勢を見せていることに関し、GAOは、実際に国防省側が積極的に支援している現実との相違が理解できないと批判的にコメントしている
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この流れを見て思います。

Mexico border6.jpgわが国で自衛隊があらゆる場面に「便利屋」として担ぎ出され、地震や豪雨災害派遣ならいざ知らず、豪雪にもかかわらず高速道路に突っ込んだ車両への支援、鳥インフルや豚インフル関連の動物処分、更にはさっぽろ雪まつりの雪像作成まで、何でもかんでも拡大解釈で投入され、いつの間にか「当然視」され、「正直者が馬鹿を見る」ような状態におちいっているのではないかと・・・

いつまでも便利屋扱いしていると、だれも志願しなくなりますよ・・・・。あなたの子供をその職につけたいですか???

「米陸軍正規兵に国境の壁ペンキ塗り任務で非難殺到」
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KC-46空中給油機を一部の任務に投入開始 [米空軍]

KC-10やKC-135の負担軽減のため
軽易な国内任務や海外展開支援など
ステルス機への給油は不許可

Ovost6.jpg24日、Jacqueline Van Ovost米空軍輸送コマンド司令官が、空中給油操作システム不具合対策が2023年までかかるKC-46空中給油機に一部任務の遂行を可能とし、負担のかかっている老朽給油機(KC-10やKC-135)の負担軽減を図ると明らかにしました

これに先立つ22日と23日に、Brown空軍参謀総長や米議員代表団を同機に搭乗させ、一部の任務に投入可能な段階にあると確認の場を設けたようです。

現在既に44機が米空軍に納入され、今後も毎月2機ペースで納入されるKC-46Aが実施可能になった「一部の任務」とは「軽い:coronet」任務で、国内の演習訓練や国外へ機動展開する航空機への空中給油で、ステルス機であるB-2,F-22,F-35は対象外だそうです

KC-46A3.jpg給油boomを操作する際に操作員が見るBVS(remote vision system)の画像がゆがんだり、太陽の位置によって見難かったりで、ステルス機の表面コーティングを傷つけた「黒歴史」があるからで、当面給油対象機はF-15やF-16やFA-18などだそうです

それでも、老朽給油機(KC-10やKC-135)の負担軽減は待ったなしの様で、2023年まで時間が必要なRVSのハード改修までの間、KC-46操作員の操作練度が向上するにつれ、関係者の信頼感が高まるにつれ、少しずつ任務範囲を拡大するようです

24日付米空軍協会web記事によれば
24日、Van Ovost米空軍輸送コマンド司令官は記者団に、KC-46Aは米輸送コマンドからの命令に従い、一部の可能な空中給油任務を遂行し、同機の運用態勢確立の遅れに伴い老朽給油機(KC-10やKC-135)にのしかかっている大きな負担を軽減したいと語った
KC-46 Boom3.jpg同司令官は「我々は今後、KC-46空中給油機に、過去数年間に渡り運用試験等で行ってきたと同レベルの任務を実施させることとした。例えば、国内演習でのF-16への給油や、海外へ移動するFA-18やB-52への給油を行えることにすることにより、KC-10やKC-135に余裕時間を与える」と語った

米空軍でKC-46担当のRyan Samuelson准将はこの決定の背景について、まず、米空軍とボーイング社の間でBVS(remote vision system)改修方向に合意でき2023年から部隊提供が可能になったこと、更に米空軍の搭乗員が同機の操作に完熟してきた点を挙げた
KC-46 Boom4.jpg24日の発表に先立ち、空軍参謀総長と米議員団が22-23日に同機に搭乗して任務飛行開始準備状況を確認したが、この件についてVan Ovost司令官は「KC-46と搭乗員の能力を確認いただいたが、同時にRVSの課題についても認識いただけた」と説明した

Samuelson准将は今後のKC-46の任務について、これまではKC-46部隊が運用試験の他に適当な給油チャンスがないか探していたが、今後は米輸送コマンドがKC-46に可能な任務を割り当てることとなると語り、具体的に44機保有で毎月2機増加していく機体の何機を提供可能になるか等の具体的計画をまとめて報告すると説明した
また、米輸送コマンドが計画しやすいように継続的に任務遂行可能な態勢を作り上げると語り、部隊能力の進展に応じ、給油対象機種を拡大する可能性もあるとの「conditions-based approach」をとるとも説明した
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KC-46A1.jpgどのくらいKC-46A型機のBVSが見づらいのかは、同型機を保有する航空自衛隊の方々にお尋ねください。既に器用に使いこなしているかも・・・です

米空軍も、ボーイングに対して振り上げたこぶしの降ろしどころを探っているのかもしれません。ボーイングは、既に契約金額の2倍の金額を開発に自腹投入することになっているようですから

KC-46関連の記事
「恒久対策は2023-24年から」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-11-30
「今度は燃料漏れ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-31-1
「やっぱりだめで更に1年遅れ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-04
「重大不具合について3月に手打ち!?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-21
「空軍トップが新CEOに改善要求」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-03
「ついに空中給油の民間委託検討」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-12-15
「貨物ロックに新たな重大不具合」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-09-12
「海外売り込みに必死なボーイング」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-05-22-1
「米空軍2度目の受領拒否」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-04-06-1
「機体受領再開も不信感・・・」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-03-16-1
「米空軍がKC-46受け入れ中断」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-03-09-3
「不具合付きの初号機受領」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-01-12-2
「初号機納入が更に遅れ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-10-20
「10月納入直前に不具合2つ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-09-19
「10月に初号機納入を発表」→ https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-06-22
「開発が更に遅れ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-03-11-1  

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やっぱり危ういPACAF司令官:E-7ほしい発言 [米空軍]

翌日には空軍参謀総長が時期尚早と即否定
米軍内の不協和音が聞こえてきます・・・残念

Wilsbach3.jpg2月24日、Kenneth Wilsbach太平洋空軍司令官が記者団に、現有のE-3早期警戒管制機は老朽化が進んで稼働率が低下していることから、豪州やトルコや韓国が運用しているE-7早期警戒管制機を後継機として早期に導入したいと突然訴えましたが、翌日Brown空軍参謀総長が「E-7だと決めつけるのは早計だ」ときっぱり否定しました

Wilsbach太平洋空軍司令官はペンタゴン勤務経験がないままに、つまり「DC」の力学を知らずに「大将」になった人物で、Brown大将の後任として昨年夏から太平洋空軍司令官に就任していますが、就任当初から「中国に備えておけば、ロシアや北朝鮮やイラン等への対処は可能」とか、「米空軍はF-22導入から約5年間、その能力を十分使いこなせなかった」とか、その立場からすると「本音すぎる」発言で「危うさ」を感じさせる人物でした

Brown4.jpg今回の「E-7をすぐに欲しい」発言も、E-3の現状からすれば、また対中国航空作戦司令官としての立場からすれば、米空軍内の会議ならあり得る意見提示でしょうが、米空軍が公式には2035年まで使用予定との立場をとっている中、いきなり記者団の前で「E-7」と決めつけて訴えるのは異常であり、黒人として初の空軍トップになったBrown参謀総長へ、露骨に反旗を翻したとも受け取られています

Brown参謀総長は最近、地域コマンド等の反対を覚悟のうえで、新型の「5世代機マイナス」を開発製造するとぶち上げ、「今変えなければ勝てない」との信念で改革の道まっしぐらですが、早くも身近な中国最前戦の部隊指揮官からジャブを繰り出された形になりまし

E-7.jpg話題のE-7 Wedgetail早期警戒管制機は、B-737旅客機をベースに豪州空軍用に開発され、2009年から納入されていますが、その後トルコや韓国も採用し、更に英国も5機発注して2023年から受領予定となっている機体で、2018年にBrown大将も太平洋空軍司令官時代に体験搭乗しています

一方で米空軍が現在31機保有するE-3は、B-707旅客機をベースに1971年から84年の間に製造された機体ですが、米会計検査院GAOは2020年報告書で、「必要な部品調達などの維持整備の難しさから、2011年から19年の間、必要な稼働率を満たしていない」と評価しているところです

26日付Defense-News記事によれば
Wilsbach.jpg24日、Wilsbach太平洋空軍司令官は米空軍協会主催の「Aerospace Warfare Symposium」で記者団に、「現実は、E-3の最近の信頼性度合いから、早急に新たな代替を必要としている。E-3は離陸するのがどんどん困難になっている」、「最新のE-7を早急に導入すべき」と語った
そして更に、将来的には次期制空機NGADや同機搭載兵器の導入を推進すべきと述べ、航空優勢無くしては進歩した将来の敵とは対峙できないと訴えた

E-7 2.jpgしかし翌日の25日、同じ場で記者団と懇談したBrown空軍参謀総長は明確に、「どのような選択肢があるか見極めたい。E-7 Wedgetail早期警戒管制機のファンがいることは承知しているが、決定するのは時期尚早だ。もう少し時間をかけて検討する必要がある」と語った
またBrown大将は、自ら体験搭乗した経験があるE-7について「能力のある機体だ」と表現しつつ、「E-3の稼働率やその維持経費の状況から、対応する必要がある。しかし何をすべきかはまだ未定で、E-7は一つの選択肢だが、唯一の選択肢ではない」と語った
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改めてWilsbach太平洋空軍司令官の次期制空機NGADを絡めた発言を眺めてみると、2月17日にBrown参謀総長が反対を覚悟のうえで表明した「戦闘機世代間構成の分析検討開始」や「5世代機マイナス」の新規開発への露骨な反発発言であることが伺えます

E-3 2.jpg米軍を取り巻く予算状況や、平時から有事までの幅広い任務を考えると、ハイ&ローミックスの戦力構成を追求せざるを得ないことや、全ての要求に対応できないことを踏まえて改革を目指すBrown参謀総長と、狭い視野で現場の主張をメディアに訴える「立場をわきまえない大将」の印象がぬぐえません

こんな時だからこそ、ペンタゴンと前線部隊が一体感を持って前進して頂きたいのですが・・

「戦闘機世代機構成と5世代機マイナスの検討開始宣言」
https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-02-19

ペンタゴン勤務がない異例の大将
日本ハワイ中東アラスカ韓国のみの飛行5000時間の男
「F-35はF-35らしく使用せよ:F-22の失敗に学べ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-10-29
「Wilsbach太平洋空軍司令官の紹介」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-05-16

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