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アマゾンCEOが米空軍首脳を諭す! [米空軍]

失敗のコストが高ければ慎重に、それ以外は迅速に!?
要求値とコストのトレードオフを考えよ

Bezos4.jpg19日、米空軍協会総会で講演した世界一の富豪でアマゾンCEO、そして同時にロケットエンジンベンチャー「Blue Origin」創業者のJeff Bezos氏が米空軍首脳や関連専門家等に対し、今話題の「宇宙」に関する取り組みや、迅速な意思決定の重要性について語りました

会場の聴衆は、ロケット企業ULAがBlue Originのエンジンを採用するのか? Blue Origin(またはアマゾン)の2つ目の本社機能拠点をどこに置くか?・・・に注目していたようですが、その点には触れずに「米空軍にアドバイス」 との姿勢で講演しています

もちろん衛星打ち上げ用ロケットエンジン企業の創業者ではありますが、直接の軍需産業ではないJeff Bezos氏が主要な米空軍関係者への講演を依頼されたのは、鈍重な官僚組織の典型である米軍が、急速に変化する環境に十分対応できていない危機感から、現代の起業家代表であるBezos氏に刺激を求めた・・・ということでしょう・・・

19日付Defense-News記事によればBezos氏は
Bezos.jpg●皆さんは米国による宇宙支配(dominance)の新たな時代を望んでいるだろうし、そのためにこのようなイベントが開催されているのだろう。だれも米国支配の終わりを見たくはないだろう
中国やロシアが急速に洗練された宇宙技術やシステムを開発し、米国のアセットを妨害しようとしている中で、米空軍はどう対応すべきだろうか

●私は宇宙に存在し続けること(space domain by being present)だと考える。 米軍はもっと頻繁に、準備時間を短くして、宇宙にアクセスすべきだと思う。
●Blue Originの重要な役割の一つは、宇宙へのアクセス回数をもっと可能にして増やすことであり、準備時間もコストも削減してそれを実現することである

Bezos3.jpg●国防省や政府機関全体にも言えることだが、可能な時には、米空軍はもっと商業ベースの一般市場にある手段を解決法として採用すべきである。
●皆さんが装備品の性能要求をまとめる際、この商業ベースの一般市場にある手段を必ずしも考慮せずに作成しているのではないか

●この結果として、米軍はカスタムメイドの要求値に合致した装備を手にできるが、一般市場にある商業ベースの製品や技術でも、ほとんど遜色のないものがはるかに安価に効率的に入手可能な場合がある。
良いエンジニアは要求値に合致したものを制作するが、偉大なエンジニアは(費用と効果のトレードオフを勘案し)元々の要求値に立ち返って考えなおすことができる

迅速な意思決定がカギ
●この会合では、軍の皆さんが迅速な意思決定と柔軟性や機敏さの重要性を議論しているが、その一つの解決法は組織を小さくすることである。しかし米空軍には規模の大きさが任務遂行に必要で、その利点を簡単に犠牲にはできないだろう
●私も規模の大きさで飛んでくるパンチの威力を吸収できるようでありたいと思う。しかし同時に、パンチの威力を「かわす」敏捷性・軽快さも備えていたいと強く思う

Bezos2.jpg米空軍は意思決定を迅速にすることによりそうすることができる。スタートアップ企業がしているように。ただ米空軍は素晴らし決断をするが、その意思決定が遅い大きな組織でこの問題に対応するため、アマゾンでとっている考え方を紹介しよう
意思決定には2つがあり、一つはその決断が誤っていても小さな影響でやり直せる決断であり、逆にもう一つは後戻りできない大きな意思決定である。意思決定にはこのような大きく2種類が存在することをわきまえておくことである。
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やり直しがきくことは迅速に決めてとりあえず進んでみる。小さな失敗を許容する文化を持つ・・・仕組みを作る・・・といった事でしょうか?

税金を使用するお役所仕事で、そのような考え方や仕組み作り根付かせることは容易ではありませんが、それが必要だということです。

もう一つ、要求性能がどれだけ詰めて決められているかというと・・・・結構・・・いい加減な感じもしますから、費用と効果のトレードオフをよく確認する姿勢が、これはとっても大事ですね・・

関連の記事
「意思決定迅速化に規則削減」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-09-02-1
「トレードオフで将来戦闘機を」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-30
「計画段階から企業と意思疎通を」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-02-17

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予算の7割を占める維持費削減の革新に新組織 [米空軍]

この闇の世界に2年間の試行で斬り込み!

Roper5.jpg21日付米空軍協会web記事は、米空軍のWill Roper調達担当次官が、予算の70%を占めながらこれまでその削減に投資してこなかった反省から維持費削減分野での「革新:innovation」を追及する新組織「RSO:Rapid Sustainment Office」を立ち上げると発表しました

このRSOは、民間最新技術を最前線に迅速に導入するための組織RCO(緊急能力造成室:Rapid Capabilities Office)の維持費版ですが、その予算を自ら稼ぐ(pay for itself:必要な予算分の削減効果を生み出す)事を原則とし、当面2年間の試行期限で組織の有効性を確認する形でスタートするようです

短い解説記事によれば、維持整備面での革新と言っても、維持整備組織や関連業界の再編といったソフト面よりも、維持整備に関する最新技術を見つけ出して導入する事に力点があるようで、ちょっと面白そうです

21日付米空軍協会web記事によれば
maintainers2.jpg●Roper次官は、装備品を保有することによって生じる経費、つまり米空軍予算の中で大きな割合を占める維持整備費の削減に革新を導入するための組織RSOを立ち上げると語った
●そして「これまで維持整備分野では革新があまりなかった」と現状をとらえ、維持費を削減分でRSO運営経費をねん出するとの厳しい方針を課すことでRSO設立に理解を求めると説明した

●RSOは(RCOのように)米空軍長官までの結節を短くし、現場の状況を確認する権限を付与し、革新と改善に焦点を当て、迅速に動くことを求められる。一方で「完全な成果を追及することを必ずしも求めない」と語った
●また、RSOは2年間の仮運用期間を設定することとし、米空軍の維持整備分野に「十分な効率性を持ち込むことができるか、新たな価値を生み出せるか」を確認すると述べた

Roper33.jpg●「空軍内で確認し、空軍長官に提案できるような開拓者的取り組みを繰り返し生み出していく」と意気込みを語り、現時点で大きな潜在的可能性を秘めた技術を2つ挙げた
●一つは「3-D printing」で、もう一つは、微小な金属粒子を部品や材料にスプレーで吹き付け、溶接修理箇所や経年劣化部品の強度を増す「Cold Spray technology」である
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Will Roper調達担当次官はRCOの初代室長で、その運用のコツや難しさを熟知している人物で、同室長としての働きが認められて現在のホストに今年4月就任したばかりです。

どれくらいの経費節減インパクトが期待できるのか・・・。ミルスペックと作業標準書と人機比率によってがんじがらめのメンテナンスの世界ですから、それを形成する官僚機構をいかに打破するのかに帰結するような気がします。

Roper44.jpgそれでも、ソフト面でのアプローチではなく、技術優先のアプローチですから良い技術が見つかれば突破しやすいのかもしれません。人の削減につながるようだと大きな反発が予期されますが、材料や加工、作業工数の削減につながるものであれば、歓迎されるのではないでしょうか・・・

Will Roper氏の関連記事
「ソフト調達が最大の課題」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-05-01
「F-35維持費が大問題」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-01-20-1
「無人機の群れ第7世代」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-06-26 
「無人機の群れに空軍はもっと真剣に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-30
「米海軍が103機の無人機群れ試験」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-01-10-1

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10月納入予定のKC-46にまだ重要不具合5つ [米空軍]

最近の最終テストで2件追加の惨状・・・

KC-46-2.jpg17日付Defense-Newsによれば、米空軍の3大優先事業ながら、既に1年半以上の納入遅延となっている次期空中給油機KC-46Aに関し、最終段階の試験で更に追加で2件の「category-1」(最重要レベル不具合)が発見され、積み残しの3件の「category-1」と併せ、計5件の重要課題を抱えていることが明らかになりました

これまで蓄積されていた3件については、対策が行われてその確認段階にあるようで、解決の見通しがないわけではないのですが、本報道で明らかになった2件は、進行中の最終試験で発見されたばかりの不具合で、細部は確認中ながらとりあえず速報報告して対応を早期に開始する必要があるとの「出来立てホヤホヤ」不具合です

新型給油機ながら、成熟技術を活用することから開発リスクが少ないと企業側も予測し、価格固定契約でスタートした開発ですが、既に固定契約予算を3800億円以上超過してボーイング負担が膨らんでいるKC-46Aですが、まだまだ難航しそうです

17日付Defense-News記事によれば
KC-46-3.jpg17日、Defense-Newsが入手した情報を米空軍側が認め、10月に初号機を納入予定のKC-46に、新たな最重要不具合が2件見つかったことが明らかになった。米空軍はこの2件の問題が、初号機納入時期までに解決できるのかについて把握していない
●米空軍報道官は「ボーイング社と空軍担当部署は、試験データの分析と評価、リスクと対応策、更に納入時期への影響について検討を実施中である」と声明で述べている

●2件のうち最初の不具合は「No Indication of Inadvertent Boom Loads」で、給油のため相手とつながっている際に、給油装置操作員が意図せず操作を誤って給油ブームに負荷をかけ、相手機を押さえつけることになっても、操作員にその行為を警告することが出来ない問題である
もう一つは、受け側機が給油機に接近する段階で、給油ブームがあまりにも固着している(too stiff)だという問題である

KC-46 Boom.jpg●空軍報道官は「(2件の不具合については)細部を確認している段階だ。試験チームが不具合レポートを作成している段階だ」と説明した
ボーイングは声明を出し、「KC-46は既にF-16, F/A-18, AV-8B, C-17, KC-10 and A-10と4000回以上の給油を行った実績があり、今回の問題は飛行安全に支障をきたすものではない。給油システム全体は包括的に試験され確認されている」と説明している、

●なお、KC-46は昨年の試験で3件の「category-1」不具合が指摘されており、3件とも解決策が確認段階にあるが、いまだ解消されていない
KC-46 Boom3.jpg不具合の2件は、給油操作員がブーム操作等を確認する映像装置である。従来の給油機が窓越しに実物を見てブーム等を操作していたが、KC-46ではカメラとモニターで状況を確認するシステムを初めて導入している。しかし、ある条件下では照明の受け側航空機がよく見えない等の不具合があり、ソフト改良対策を実施中である
残る一つはドローグの機械的ロックシステムの不具合で、これに対してもボーイングはソフト対策で対応しようとしている
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予定では2017年8月に初期の18機の納入が完了しているはずでしたが、様々なトラブル対処で遅延が相次ぎ、お先真っ暗状態だったのですが、今年6月に突然10月初号機納入発表があり、18機を2019年4月までに納入するとも発表して今日に至っていました。

KC-46 Boom4.jpg6月の10月納入発表時に、空軍側が「KC-46Aの飛行試験は終了に近づいているが、重大な仕事がまだ残っている」と不信感たっぷりのコメントを出していましたが、その懸念が表面化したようです。

公式は発表は間もなくでしょう・・・。日本も導入する機体ですから・・

米空軍の空中給油機ゴタゴタ
「10月に初号機納入を発表」→ https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-06-22
「開発が更に遅れ」[→]http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-03-11-1
「ブームで相手にひっかき傷」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-09-02-1
「空中給油機の後継プランを見直しへ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-22
「KC-46ブーム強度解決?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-15

「納期守れないと認める」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-01
「Boom強度に問題発覚」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-03
「予定経費を大幅超過」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-07-21

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DARPAが新たなAI取組方針を示す [米国防省高官]

7月の「Artificial Intelligence Exploration initiative」に続き

Walker DARPA2.jpg7日、DARPAのSteven Walker長官が創立60周年記念シンポジウムの閉会あいさつで、「AI Next initiative」と題したAI研究開発の5か年計画開始を発表し、総額約2200億円を投入すると説明しました。

米国防省や米軍高官は、いろんな機会を捉えてAIの将来戦における重要性を訴えていますが、裏を返せば、ロシアや中国が猛烈な勢いで投資や人材投入を加速している現状への強い危機感の表れとも言えます

7月発表の「Artificial Intelligence Exploration initiative」は、18か月間の間に、ハイリスクながらハイリターンが見込めるAI分野を見出し、あらたなAIコンセプトを提示することを目指すもので、併せて迅速な研究資金確保のメカニズムを提示した取り組みです。(受付期間は3か月とのスピード感)

一方で今回発表の「AI Next initiative」は、より包括的な全体計画の位置づけかと推察いたします

7日付米空軍協会web記事によれば長官は
artificial intel3.jpg5か年計画で約2200億円をDARPA内全体でAI関連に投資し、その分野は大きく3つに分けられる
一つは柱となるもので、私(長官)が「AI第3の波:third wave of AI」と呼ぶところの、「deal with contextual reasoning」なAI技術の開発である

2つ目は、現在の最も困難な安保上の課題を解決するため、現有または姿が見えつつある新たなAI技術を見定めて適用することである
3つ目は、今DARPA内で取り組んでいるAI技術を分析し、軍事や安全保障の緊要システムの強固な運用を可能にするものを検討する

また技術的な視点から5つの分野を重視
new capabilities
robust AI
adversarial AI
high-performance AI
next-generation AI

artificial intel.jpg民間部門AI技術の活用を約束するが、米国の安全保障脅威に直結する一方で、ハイリスクの技術開発にもかかわらず、短期的に大きなリターンが望めない事を企業に要求するという課題と戦い続けなければならない
●DARPAはこれまでもAIに関与を続けてきており、AIのパイオニアである。AIの技術的基盤がゼロの時代から立ち上げ、広く世界で活用されるまでにしたのがDARPAである。

●現時点でもDARPAの計250個のプロジェクトのうち、80個がAI関連である。
●今後、DARPAが重点的に取り組むAI分野は、副長官のPeter Highnam氏が務める
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Walker DARPA.jpg気合のほどは伝わってきますが民間企業やベンチャーの技術に期待しつつも、経済的インセンティブを「ニンジン」として提供できないDARPAに勝算はあるのでしょうか?

なんとなく、「これまでAIをリードしてきたんだ」との「過去の栄光」頼み・・・のような気がしてなりません。ちょっと厳しいでしょうか・・・・

AIは将来を制する!
「露中はAIが世界制覇のカギと認識」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-07-28
「2025年にAIで中国に負ける」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-11-04
「DARPA:4つの重視事項」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-09-08

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米空軍2トップが戦力大増強と原点回帰を訴え [米空軍]

WilsonAFA.jpg17日、米空軍協会年次総会で米空軍長官が、半年かけて様々な将来分析を行った結果、2030年までには飛行隊数を25%増して386個にし、併せて必要な人員を4.5万人増強する必要があると明らかにしました。

また翌18日には空軍参謀総長が、各飛行隊は不十分な装備や基地環境に展開しても行動可能な体制、つまり派遣遠征部隊(expeditionary forces)の原点に回帰すべきだと訴えました。また基地防衛の重要性も強調し、「防御年間:the year of the defender」とすると宣言しました

空軍長官の発表には具体的な予算増加額が含まれておらず、空軍参謀総長も派遣展開部隊への原点回帰と飛行隊数増についての関係についてもあまり触れていないようですが、中国やロシアに対応するには現在より戦力増強せざるを得ず、かつ打たれ強い部隊にしなければならないとの考えが背景にあると推測します

特に飛行隊数の24%増要望をどのように議会や国防省に持ち出すのか、ホワイトハウスとの関係はどうなのか等、「?」がいっぱいなのですが、米海軍の全然具体化しない艦艇355隻体制のようなものだとも考えられます

17日Wilson空軍長官は
Wilson6.jpg現在の312個飛行隊を、2025年から30年までに、74個増やして386個にする。約25%増強する。またこの結果は最新の情勢分析や情報レポート、6か月に及ぶ多様なモデル分析やシミュレーション分析等を行た結果
●同総会の後の講演で人的戦力管理担当部長のBrian Kelly中将は、これら飛行隊増強に必要な人員は内部からは捻出できず、純増を要請すると語り、その数を少なくとも4.5万人だと説明した

●増強74個飛行隊の内訳は
・5個爆撃機飛行隊
・5個宇宙飛行隊
・14個空中給油機飛行隊

・7個特殊作戦部隊飛行隊
・9個救難飛行隊
・7個戦闘機飛行隊

・2個無人機飛行隊
・1個空輸飛行隊
・22個指揮統制とISR飛行隊

●長官の講演では、必要な予算額や航空機数については言及がなかった。また予備役や州軍との関係についても語らなかった
●ただ長官はこの増強の背景を、「the existence of evil, and new threats are emerging to which our generation must respond」と表現した


18日Goldfein空軍参謀総長は
GoldfeinAFA.jpg我々はかつての派遣展開軍のルーツから離れてしまっており、地域コマンド司令官の要望に応えるためとの理由で、また兵士に配慮し、十分に整った基地やインフラを前提とした部隊となってしまっている
●我々は基地から戦うことや攻撃下での戦いを知っているかもしれないが、敵攻撃により施設不十分な基地に分散せざるを得なかった場合や、十分な地上支援を受けられなくなった場合の戦いについてはどうだろうか

●米空軍は、施設不十分な基地や装備や物資が状態での展開運用に習熟しなければならない。その際は米本土と指揮統制面での連携が取れる必要がある
●これら変化は、空軍兵士の心の持ち方、装備品購入、演習や検閲の在り方、即応体制の考え方等、広範な分野に変化をもたらすもので、部隊は柔軟性と分割や増強受け入れ可能性を持たねばならない

●このような派遣展開を考える際のカギの一つが「多層的防御:defense in multiple layers」であり、この分野で世界一でなければならない統合でどのように協力して進めるかも詰める必要がある
●組織の再構築を恐れてはならない。これは「将来性のある将来のための変化:seminal shift」であるし、これまでも空軍はこれを成し遂げてきた。空軍や米軍内だけのアイディアでなく、視野を広く持って対応しよう
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Goldfein1-4.jpg繰り返しになりますが、どのような展開に米空軍は持ち込もうとしているのでしょうか? 確かに国家安全保障戦略NSSや国家防衛戦略NDSでは、中国やロシアの脅威がこれまでになく強く訴えられているかもしれませんが、これだけの軍拡を訴える力となるでしょうか?

これだけの飛行隊増強が実現すれば、過去30年で最大規模、冷戦時のピークレベル(the most squadrons the Air Force has had in 30 years, since the peak of the Cold War)になるようです。

でも実際、中国の軍事力は旧ソ連の脅威を超えているかも・・・ですからねぇ・・・
そういえば、先日ご紹介したRANDの研究レポートは、空軍2トップを援護射撃するものだったんですね・・

でも、空中給油機や指揮統制&ISR機部隊の重要性を抑え、レスキューや特殊作戦機部隊を忘れていない辺りはプロの視点ですね! 当たり前か・・

4つのシナリオで必要空軍力を分析
「8月末発表RANDレポート」
https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-09-02

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JASSMの更なる射程延伸版「XR」契約 [米空軍]

JASSM、JASSM-ER、対艦版LRASMに続く「XR」
防衛省が2018年度予算で要求したJASSMの話です

JASSM-ER5.jpg
13日付米空軍協会web記事は、米空軍が昨年からロッキードに検討を依頼していた長射程空対地ミサイルJASSMの更なる射程延伸バージョンについて、約55億円の本格開発契約を結んだと伝えています

契約は、開発と試験を2023年8月末までに完了するとしていますが、現在米空軍が保有する約2000発以上のJASSM-ER(Extended Range:JASSMから射程延伸型ERに改修済み)のうち、何発を更なる射程延伸型「XR:Extreme Range」に改修するか等の細部には言及していないようです

また、具体的にどの程度射程を延伸するのかについても契約は言及していません

JASSM-ER6.jpgJASSMは「Joint Air-to-Surface Standoff Missile」の略で、航空機から発射して地上目標を攻撃するステルス性を持つ空対地ミサイルで、初期型のJASSMが射程200nm(360km)、後に改良され現在米空軍が保有するJASSM-ERは射程540nm(1000km)です。つまり射程延伸型JASSM-ERはちょうど、第一列島線上空から中国沿岸部を攻撃できる射程のミサイルということになります

従って、JASSM-ERより更に射程を延伸すると言うことは、中国のA2AD能力向上に伴い、第一列島線より更に東方の離れた位置からでないと、中国大陸に向けたASMは発射できないとの判断に米空軍が至ったとも解釈できます。(もちろん、より中国大陸の奥深くを攻撃可能にしたい・・・との思いもありましょうが・・・)

13日付米空軍協会web記事によれば
JASSM3.jpg●JASSMシリーズは、初期型のJASSMが「AGM-158A」、射程延伸版のJASSM-ERが「AGM-158B」、そして空対艦ミサイルのLRASM(Long-Range Anti-Ship Missile)が「 AGM-158C」との型式名になっているが、今回の「XR」はまだ正式に「AGM-158D」とは決まっていない

●ロッキード社報道官は、翼の設計変更による空力効率改善による射程延伸のほか、各種防御性を高めた新GPSユニットを「XR」は備えることになると説明するにとどめた
●また契約は、必要な設計、開発、融合、テストと検証を段階的に進め、全てのプログラム設計と工学的活動を行うと述べている

過去記事からJAASMの概要ご紹介
JASSM-ER4.jpgJASSMは1995年から開発が始まり、実験の失敗等で紆余曲折はあったが2001年に初期量産を開始。敵防空網の射程外から発射され、強固な構造を持つバンカーや、ミサイル発射機などの攻撃を行う目的を持つ空中発射ミサイル。対艦ミサイル版のLRASMもある
●低コストの開発を念頭に、画像赤外線センサーは陸軍の対戦車ミサイル「ジャベリン」から、ターボジェット・エンジンは対艦ミサイル「ハープーン」からと、既存部品を多用している

●航空機から投下されると翼を展開、ターボジェットを始動する。途中、INSとGPSにより誘導され、レーダーに見つかりにくい低空を速度マック0.8で飛行する。
●目標に接近すると画像赤外線センサーにより目標を識別、急上昇してから70度の角度で急降下、突入破壊する。命中精度CEPは約3m

●中央部分の弾頭はタングステン製454kgの貫通モード、または爆風・破片モードを選択可能な多機能弾頭で、貫通力はBLU-109Bと同等とされる
地下施設や強固な施設には貫通モードで、ミサイル発射機やレーダー施設に対しては上空で爆発して爆風と破片を放出する

JASSM-ER9.jpg搭載可能な航空機は、B-2、B-1、B-52H爆撃機、F-15E、F-16戦闘爆撃機など多様
●「JASSM-ER」と「JASSM」の違いは、より大きな燃料タンクと効率の良いエンジンの搭載で射程距離が2.5倍の575マイル(約925km)に延伸したこと。またGPS妨害に対抗できる機能を付加したこと。更にデータリンクを追加装備したことである。

●「JASSM-ER」と「JASSM」は7割が共通部品で構成されており、製造コストの低減に貢献している。
●米空軍は2020年台の製造終了までに、2,400発のJASSM(1発約1億円)と、3,000発のJASSM-ER(1発約1.6億円)を購入予定

2017年12月25日付記事等によれば 
JASSM-ER8.jpgLockheed Martin社のJAASM計画責任者Jason Denney氏は、「A2AD脅威環境で操縦者の生存性を向上させる新たなデザインを開発している」、「我が社の顧客の皆さんは、証明済みのJAASM性能を信頼頂いているが、前線部隊に更なる能力向上型を提供できることを楽しみにしている」と語った
●ロシア製のS-300やS-400と言った高性能地対空ミサイルSAMが登場して世界に拡散する中、これら兵器を使用するA2ADにより、第4世代機の能力発揮できるエリアが制限されつつある

●配備が始まったばかりのF-35や、配備開始が2020年代半ば以降になる次期爆撃機B-21はステルス性も活用して強固な敵防空網を突破できるかも知れないが、しばらくは米軍航空戦力の多数派であるF-15EやF-16C、海軍のFA-18はそうはいかない
●低空を高速で飛行可能なB-1B爆撃機も、JASSMとJASSM-ERの両方が搭載可能だが、強固に防御された敵防空網の突破能力には限界がある

●なお、JASSM-ERの能力を確認した米海軍は、JASSMを対艦ミサイル用に改良することにDARPAと共に着手しており、LRASM(Long Range Anti-Ship Missile:AGM-158C)としてB-1には2018年から、FA-18には2019年から搭載開始される予定である
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北朝鮮絡みで、米軍が韓国展開部隊にJAASMを配備すると発表して大きな話題となりました。

JASSM-ER3.jpgまた昨年11月末、米国がポーランドにJAASM(又はER型)70発を、関連装備を含め僅か200億円で提供すると発表して注目を集めています。

何とお得な投資でしょう・・・戦闘機1機が100億円以上するとか、近代化改修だけで1機100億だとか・・・。よく考えたいものです

JASSM関連の記事
「更なる射程延伸開発契約」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-12-09
「ポーランドに70発輸出承認」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-30
「B-52をJASSM搭載に改良」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-13
「JASSM-ERを本格生産へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-17-1
「空中発射巡航ミサイルの後継」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-12-12-1
「JASSM-ER最終試験」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-08-10-1

LRASM関連の記事
「LRASM開発状況」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-05-17-1
「米軍は対艦ミサイル開発に力点」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-11-18
「ASB検討室の重視10項」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-11-04
「LRASMの試験開始」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-07-23
「新対艦ミサイルLRASM」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-19

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あの国防省のヨーダにインタビュー [安全保障全般]

marshall2.jpg12日付Foreign Policy誌web版が、国防省のONA(Office of Net Assessment)室長を40年以上勤めて2015年に引退したAndrew Marshall氏(96歳)へのインタビュー記事を掲載し、この年齢になっても国防省の現状を憂いつつ、9月に予定する新財団設立への思いを語る御大のご様子を紹介しています

メディア等に登場することがめったになく、またこの時代にパソコンも使用せず、メールは秘書的な人を会して間接的に週数回確認するだけとの人物ですので、貴重な機会と考え、前半で「国防省のヨーダ」と呼ばれたカリスマ的人物のご経歴を改めてご紹介し、後半で短いインタビュー部分を取り上げます

政権の異なる9代の大統領の下で勤務し、多くの有能な弟子を輩出し、政界や学会にも心酔する者が多い伝説の人物については、伝記「The Last Warrior」(CSBAのクレピノビッチ理事長(当時)とワッツ同主任研究員の二人の共著)が出ていますが、安全保障を語るうえでの重要人物ですので改めて・・・

12日付Foreign Policy誌はA.Marshall氏について
Marshall.jpg1949年にRANDで分析官としての仕事をはじめ、核戦略研究などでその深い知見を時の大統領補佐官キッシンジャー氏に認められ、1973年に国防省に移籍。ONA(Office of Net Assessment)の室長を42年間勤めて2015年に引退した
ONAでは、長期的視点での脅威分析、War Game、それら研究のスポンサーとして活躍し、ソ連の崩壊や中国の勃興を予測し、技術の発展による軍事の変革を予期し、RMA(revolution in military affairs)として訴えた

特にソ連に対する分析で、CIAなど当時のソ連分析の主流の見方に反対し、ソ連のGDPが過剰に評価され、ソ連の軍事支出が過小に評価されていると主張してソ連崩壊を予言し、後にCIAに誤りを認めさたことは広く知られている
●このような功績から、また表に出ない性格から、国防省の陰のロックスターとか、国防省のヨーダと呼ばれるようになった。

●そのような同氏を快く思わないクリントン政権時のコーヘン国防長官が、1997年にONAを国防省から国防大学に組織移転させようとした事があったが、議会と学会の支援者がマスコミを巻き込んでこれを阻止し、巨大官僚機構の中での存在感の大きさを内外に示した

Marshall.jpgラムズフェルド国防長官の下でQDRの取りまとめを任され、同長官の意向も踏まえ中国の脅威対応を大きく盛り込んだ原案が2001年にはほぼ完成していたが、911事案で対テロに大きく舵を切ることになったが、これをMarshall氏は中国に背を向けて「横道に脱線した」と表現し、その後も対テロについてはほとんど取り組んでいない
●また、実現はしなかったが、2014年に中国との紛争で西側の指揮統制システムが中国の重要目標となると予期してWar Gameを計画しているが、サイバー戦を初めてするITに対しONAとして関心を示さず、個人的にも関心が無く、知識も洞察力も無いと親しい弟子も証言している

●一方、中国やロシアに関するMarshall氏警鐘や取り組みの必要性は、トランプ政権になって再認識されるようになり、国家防衛戦略NDSでも中国を「略奪的な経済で主変国を恫喝」と表現するまでに至っている
●脅威分析に関する「博学の聖人」と称賛するシンパがある中、その考え方が時代の変化に対応していないとの批判もあるMarshall氏であるが、その意見が96歳の今でも大きな注目を集める人物である

●なお、Marshall氏が去ったONAでは、より短期的な問題への対応策を考えるテーマが扱われているという・・・

A.Marshall氏の発言:今の国防省について
marshall3.jpg●国防省がうまくやっているとは言えない。まず第一に、中国の脅威に気づいて対応するのがあまりにも遅すぎる
米軍はあまりにも(対テロに)多忙になっている。このような横道への脱線はベトナム戦争時にもあった。その結果、マスコミは国民の目を、ソ連の巧妙な中央欧州への投資や謀略から背けさせることになった

中国に関しては、我々は冷戦当時に対ソ連で行ったような分析を、今行っていなければならなかったと思う
●その分析というのは、10年以上をかけて特定の地域や脅威に関する第一級の分析結果が得られるようになった、対ロシアの分析のようなものである

A.Marshall氏の発言:9月設立の新財団について
今後10年間程度で米国が直面する戦略的な意思決定や選択に関し、考察や論文を書く人たちをより多く支援していきたい。
●まず最初にロシア脅威に関する分析プロジェクトを進める予定だが、現在、関係者に依頼して本分析に携わるに相応しい研究者たちを選定しており、それら候補者がどんな研究をしているか楽しみにしている
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Marshall2.jpgこのブログを始めた以降ではエアシーバトル構想をゲーツ国防長官に進言推奨し、ルトワック氏に「自滅する中国」(邦訳:奥山真司)の執筆を進めた事などを紹介してきましたが、国防省のみならず内外から安全保障関係者がその意見を聞きに訪れるという「伝説」の人物です

サイバーやITに関するお考えを是非伺いたいものです。でも、安易にツイッターなどSNSで発信していただくより、伝説の人物として、静かにご活躍頂きたいな・・・と何となく思います。

伝説の戦略家:A.マーシャル氏
「Andrew Marshall氏が引退」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-10-18-1
「ハンブルグシナリオに学ぶ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-01-29
「Marshallとルトワック」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-03-17
「存亡の危機国防省ONA」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-10-16

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米海軍トップ:グレーゾーンでの戦いに備えよ [Joint・統合参謀本部]

日本ではよく聞く「グレーゾーン」ですが
米海軍幹部の口から聞くのは初めてかも・・・

Richardson8.jpg5日、米海軍人トップのRichardson海軍大将がDefense News主催のイベントで講演し本格紛争に至る前のグレーゾーン段階(areas short of open warfare)での対応の重要性を強調し、米海軍は全ての段階の紛争において勝利しなければならないと語りました

米軍は中東やアフガンでの対テロ戦争を15年以上継続しており、今更何で・・・と思いながら読むと、Richardson大将の頭にあるのは、南シナ海やバルト海や黒海での、中国やロシア相手の「gray war」であることが分かりました

米軍は、長期に及ぶ対テロ対処作戦の結果、本格紛争への備えが疎かになっているとの大きな危機感を持ち、兵士に発想の転換を訴えているところですが、今頃になってグレーゾーンの重要性にも指導層が気づいて訴えるようになって来たということでしょうか・・・

5日付Defense-News記事によれば
maritime militia2.jpg●Richardson海軍大将は、紛争は初期の競争段階から全面的な武力対決までのすべてのスペクトラムで見る必要があり、米海軍はそのすべての段階で十分な体制でなければならないと強調した
●特に、本格紛争の前段階の「areas short of open warfare」でも大国に対応できなければならないと訴えた

●具体的には中国とロシアを取り上げ、中国の南シナ海での活動と、ロシアの東欧や黒海周辺でのハラスメント行為に言及し、中露それぞれが自国内で政治的ポイントを稼ぐ行為だとも表現した
●そして、「gray war」とか「competition below the level of conflict」とか「short of open warfare」と言われる競争から全面紛争に至る過程のスペクトラムへの取り組みが、勝利へのカギとなり、単に競争力があるレベルでは不十分であり、相手に先んじる必要があると訴えた

maritime militia.jpg●また、現実には紛争のあらゆるスペクトラムを行ったり来たりすることことがあるが、ハイエンド紛争能力で相手に先んじることが、(グレーゾーンでの)エスカレーション緩和を確かなものにするので、米海軍は海から宇宙そしてサイバー空間でも先んじることを追求しなければならない
●ただ、我々は時に中国のローエンド戦術によって窮地に置かれることがある。例えば、中国が海軍艦艇でなく海警(中国の沿岸警備隊)艦艇を用いて領海主張を行い、我が海軍駆逐艦等で対応せざるを得ない場合である。中国は我々の行為を侵略者として指摘するような状況である

●これは長期にわたる競争的争いだと肝に銘じるべきである。終わりのあるゲームではなく、終わりなきゲームだと考えるべきだろう。
●そうなれば継続可能性や維持可能性が重要となってくるが、過重負担(Overextension)で対処しようとしてはいけない。過度な負荷や限度を超えた任務の拡大は、自己破滅への道だからである
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Richardson.jpgだからこそ、現在の300隻を切る米海軍の状態から、355隻体制を構築しなければならない・・・とRichardson海軍大将は言いたいのかもしれませんが、「long-term competition」とか「an infinite game」などの表現で、その特性を訴えています

直接の表現ではないようですが、「The Navy has at times been stymied by China’s low-end tactics:我々は時に中国のローエンド戦術によって窮地に置かれる」と趣旨の発言をしているということは、「航行の自由作戦」が限界に直面している証左でしょう

トランプ大統領の下で、高級将校としてマトモナ精神状態を維持するのは極めて困難かと思いますが、頑張って頂きたい・・・ただただそう思います・・・

Richardson海軍大将の関連
「文書「将来の海軍」発表」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-05-18
「曖昧な用語A2ADは使用禁止」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-04
「同大将の初海外は日本」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-10-25
「海軍内では信頼薄い!?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-14

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米空軍情報部長が再び中露の技術開発脅威を [安全保障全般]

Jamieson5.jpg5日、米空軍情報部長VeraLinn Jamieson空軍中将が軍事関連団体主催のパネル討議に陸海海兵隊の情報部長と共に登壇し中国とロシアの軍事技術開発投資をよく観察し、それぞれが米国や西側のどの部分で優位に立とうとしているかを見極める必要があると語りました。

同情報部長は、士官任官以降、一貫して情報畑を歩んできた生え抜きインテル幹部として中国とロシアの脅威に関して他の空軍幹部の追随を許さない知見を有し、これまでも多様な視点から中露の脅威を訴えてきています。

ISRアセットの将来計画説明でも、AIを中心に語る際も、また一般的な脅威認識を語るときも、部分的に語ることが多いのですが、つなぎ合わせると米軍の中露への脅威認識に迫れそうなので継続してフォローしています

本日もそんな断片の一つで、過去記事との重複も含まれますがすが、とりあえずご紹介しておきます。末尾の過去記事と共にご覧いただければ幸いです

6日付米空軍協会web記事よりJamieson情報部長は
Jamieson.jpg中国とロシアが(米国との)大国間競争に備えるために、どのような戦略的投資、技術革新、研究、テスト、開発、評価状況を行っているかに注目しモニターしておく必要がある
●我々がなぜ破壊力や即応体制の強化に取り組んでいるか考える際、中露が何に投資しているか、何をテストし評価しているか、どのような将来技術を重視して評価しているか・・・つまり、どの分野で米国との競争的優位を確保しようとしているかを見極める必要がある

中国についていえば長射程ミサイルの制度の飛躍的向上や備蓄量の増加、(周辺地域に緊張を高めている)南シナ海での地対空ミサイルの配備がその一端である
●また、中国の量子コンピューティングと通信(quantum communications and computing)への取り組みや、半導体やAI分野での戦略的投資も注目すべきである

ロシアについても忘れてはいけない。ロシアがAI戦略を明らかにし、またシリアをMig-31戦闘爆撃機から発射可能な超超音速ミサイル等の「実証実験場」として利用し、大国間紛争での優位分野を確保しようとしており、同様に地対地巡航ミサイル、航空機、指揮統制システムなどなどの実戦テストも行っている

Russia Hypersonic.jpg●またロシアは、核戦力、宇宙、長距離にも注力しているが、私の見たところ、ロシアは西側とどんな手法や分野で対峙するか、限られた資金や資源をどの分野に優先して配分するか、どの分野の即応態勢を重視するかを、自らに問い続けている
●国家安全保障戦略NSSが表現しているように、米国の繁栄と安全保障への脅威となるのは、「revisionist powers」との長期的復活と戦略的競争であり、中国とロシアが他国に対し、経済面、外交面、安保面の決定で拒否権を行使できるような覇権を可能とする世界形成を狙っている事である
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最近やたらと「国家安全保障戦略NSS」を引用したり、持ち出したりする米軍幹部の発言が増えているのですが、なぜでしょうか???

ホワイトハウス取りまとめの文書を引き合いに出すことで、トランプ大統領のご意向に沿った発言ですよ・・・とアピールしているのでしょうか???

trump5.jpgまぁ・・・最近話題のBob Woodwardの「Fear」によれば、現在のホワイトハウス内は、ライオンや虎やサメやサソリなどなど危険な動物を放し飼いにしている状態で、争いの「るつぼ」化しているようで、かつ、トランプ自身も自ら発表した方針を理解もしていないし覚えてもいない状態らしいですから、どれほど効果があるのか不明ですが、自己防御にはなるのでしょうか?

Jamieson空軍情報部長が語るシリーズ
「情報ISR将来計画を語る」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-08-04-3
「情報部長が中露のAI脅威を」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-07-28
「中国軍とロシア軍を語る」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-01-06

「RC-135シリーズがピンチ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-07-08-1
「ISR無人機の急増」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-06-21
「無人機要員の削減を」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-02-25

「同部長のご紹介記事」 →http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-02

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米空軍輸送コマンドに女性司令官誕生! [米空軍]

しかも、予備役中将から大将に昇任して配置

Miller1.jpg7日、米空軍輸送コマンド司令官にMaryanne Miller大将が就任し同コマンドが1992年に創設されて以降初めての女性司令官となりました。
またMiller司令官は、予備役から大将に昇任して空軍メジャーコマンド司令官に就任する初めてのケースとなりました

ただし、ご経歴を拝見すると、第932空輸航空団司令官や第349空輸航空団司令官を努め、飛行時間はC-17、C-5、KC-10などで4800時間を超える飛行経験を持ち、直前まで空軍予備役コマンド司令官を務めていた実績十分の人材です

1981年オハイオ州立大学ROTC卒(防大25期相当か?)で推定60歳、2011年(准将で52歳時)にMBAを取得した努力家でもあります。修士号を取得しないと少将以上への昇進が難しいから頑張ったのかもしれませんが・・・

前任のCarlton Everhart大将は退役されるそうです。

11日付米空軍協会web記事によれば
Miller2.jpg●7日、Scott空軍基地で就任式に臨んだMiller司令官は、全輸送コマンド兵士に充てた同日付書簡で、「諸君は、毎日休むことなく、切れ目なく、求められた時間に求められた場所に輸送任務を完遂し、求められる効果をもたらしてきた」と呼びかけている

●そして「最近の3年間をざっと見渡しても、世界的な迅速空輸に、新たな地平を切り開く道を歩んできた。そしてくりかえし、降りかかる困難に対処する即応性も示してきた。そんな輸送コマンドには明るい未来が待っている
●書簡は「私は謹んで、この世界レベルで評価され、休むことなく任務にまい進する輸送コマンドの指揮をとる」と結ばれている
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少佐から中佐にかけての初ペンタゴン空軍司令部勤務で予備役空軍戦力の諸計画を担当し、准将として予備役コマンドの戦略計画部長を努めており、他のペンタゴン勤務は准将から少将の時期のJ-5での「Partnership Strategy副部長」という経歴です。

Miller3.jpg優秀な女性の登用に悩んでいた時期の、米空軍の女性の勤務管理の一例かもしれません。

しかし、空軍輸送コマンドには難問山積です
操縦だけでスタッフ業務をしない操縦者の管理、老朽空中給油機KC-10やKC-135の維持運用、KC-46A部隊の立ち上げと運用安定化、KC-Zの検討、宇宙に物資をストックしたいとの前任者発言のフォローなど大変そうです

Miller司令官のご経歴 → https://www.af.mil/About-Us/Biographies/Display/Article/108440/lieutenant-general-maryanne-miller/

米軍輸送関連の記事
「宇宙に物資の事前集積案」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-08-05
「禁じ手:幕僚無し操縦者募集へ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-07-28-1
「民間輸送力依存に危機感」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-05-03
「給油機後継プラン見直し」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-22
「今後20年の操縦者不足は深刻」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-29

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攻防の両方で超々音速兵器対応が話題に [米国防省高官]

国防省担当次官:探知センサーを宇宙に
米陸軍は遅くとも10年以内に同兵器を保有

Hypersonic4.jpg4日、ミサイル防衛関連のイベントで米国防省のMichael Griffin研究開発担当次官やMDA長官が超々音速兵器の重要性を強調して、その使用にも対処にも宇宙配備のセンサーが不可欠だと訴えました。

また8月末には米陸軍長官が記者団との朝食会で、陸軍の研究機関に超々音速兵器の開発を全力で急ぐように指示し、遅くとも2028年には配備したいと述べ、同時に開発を行っている米海軍や空軍との情報共有や協力にも積極的な姿勢で臨んでいると語りました。

hypersonic5.jpg相次いで公の場で発言した3名からは、先を越されてはならない・・・との焦りにも似た気持ちが滲んでいるように感じられ、超々音速兵器への危機感が国防関係者の間で相当レベルにあることを示しています。

一方で開発にはまだまだ課題があるようで、「手の中にある技術でなく、開発して手中に収める必要がある」との決意の現れた表現も見られます。

まだピンと来ない技術ですが、中露が先行しているとの認識を米国防関係者は持っており、喫緊の課題であることは間違いないようです

米陸軍は10年以内に同兵器保有を
8月28日、Mark Esper米陸軍長官は記者団に、音速の5倍以上の速度で大気中を飛翔する超々音速兵器の開発を陸軍近代化セ策の最優先課題だと語り、同兵器で実現可能な長射程精密攻撃を活用して将来紛争で相手を圧倒すると述べた
Esper Army.jpg●そして陸軍内に設けたセクション横断的な開発チームに対し、この兵器開発を他に先駆けて全力で実現するよう強く指示していると同長官は説明した

●また同長官は、他軍腫も並行して同兵器開発を行っていることに触れ、情報共有等について合意文書も作って協力体制で進めており、陸海空軍ともこの兵器技術が全軍種にとって鍵となる技術だとの認識のもと協力しているとも説明した
●更に長官は遅くとも2028年までには同兵器を開発配備したいと述べる一方で、「兵器実現のための技術開発が課題だ。現存技術ではなく、これから我々の手で切り開いていく必要がある技術だ。そこに一番に到達するため、開発地チームを叱咤している」と現状の技術的課題の存在を認めた

宇宙にセンサーが必要で、経費など問題じゃない
Greaves2.jpg●4日、MDA長官Samuel Greaves空軍中将は、現在の米国ミサイル防衛システムは今日の脅威には対応しているが、MDAは相手に先んじるため更なる技術開発と投資を必要としていると訴えた。
●そして同長官は、国家防衛戦略NDSが提唱している大国間の競争に備えるため、宇宙に超々音速兵器に備えるセンサー群を配備する研究に強い関心を持っていると語った

●また米国防省のMichael Griffin研究開発担当次官も、同兵器の脅威から身を守るため、相手側の領域を監視する宇宙配備のセンサー網が必要で、リアルタイムの情報が必要だと訴えた
Griffin.jpg●そして現状について「我々は、地球全体で何が起こっているかを認識するcomprehensive, persistent, timely, multi-modeな常時システムを保有していない」と強調し、手遅れとなる前に手を打つ必要があり、弾道ミサイルより機動性がある超々音速兵器は位置把握が難しく、センサーで追尾を続けるしかないと説明した

●さらに同長官はコスト面での困難性を指摘する声にと議論するのに疲れたと語り、1㎏当たり200万円の低高度への打ち上げ費用と仮定した場合、1トンの物体を宇宙空間に1000個配備するのに必要なコストは約2兆円足らずで20兆円ではないと訴えた
●そして「国防省の中には、より多くを投資して見返りの少ないプロジェクトがある」と主張した
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Hypersonics Senser.jpg1トンの物体を宇宙空間に1000個配備するのに必要なコストは約2兆円足らず・・・1トンの物体一個の打ち上げ費用は20億円ということです。ちょっと切り詰めた見積もりですが、桁が違うわけではないようです。

米海軍の艦載の無人給油機MQ-25を72機配備する予算総額が1.3兆円で、米空軍のKC-46給油機180機の計画が3.8兆円です。2兆円の宇宙センサーをどう評価するか・・・皆様いかがでしょうか???

超々音速兵器の関連
「米空軍が1千億円で」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-04-21-1
「同兵器は防御不可能」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-03-21-1
「ロシアが新型核兵器続々開発と」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-03-03-1
「中国が超超音速兵器で優位」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-01-27-1

「米ミサイル防衛の目指すべき道」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-05-12
「戦略国防次官にMD伝道者」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-04-07-1
「BMDRはMDRに変更し春発表予定」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-03-24-1

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ドイツが国防費増強プランを打ち出すも・・・ [安全保障全般]

10年計画でGDP比を1.2から1.5へ・・・
連立与党内でも不協和音が既に・・・

G-Leyen.jpg5日付Defense-Newsは、ドイツ政府が米国から強く迫られている国防費増加要求に対応し攻防増強の10年計画を明らかにしたと報じ、5年後には国防費を現在のGDP比1.2%から1.5%まで引き上げる野心的なものだと表現しています。←写真左はドイツの女性国防大臣

米国からの強い圧力を受け、NATOは2014年の首脳会議で加盟国の国防費をGDP比2%にまで増加すべきとの目標を採択しましたが、冷戦終了後に東西統一経費捻出もあり極端な軍縮を行ったドイツは1%程度の国防費で他国から非難を浴びてきたところです

軍事メディアが「野心的な」と表現していますが、その意味するところは、首相や国防相など政権幹部の希望を言葉にしただけで、野党だけでなく連立政権を組む他政党からも「なんの裏付けもない」「希望リスト」と揶揄される有様で、その実現性に早くも暗雲が垂れ込めています

まず冷戦後のドイツ軍の状況
東西ドイツ統一で1990年には約80万人のドイツ軍を保有。しかし軍縮の流れで2010年までには約24万人体制(軍人18.5万人、文民5.6万人)にまで縮小
●更に2011年当時の政権は追加縮小を打ち出し、軍人6.5万人まで削減し、戦車や戦闘機を3割、攻撃ヘリは80機から40機へ削減する計画までまとめた。

G-Leyen2.jpg●しかし、その後の情勢変化や米国の要請(圧力)もあり、2016年には軍人と文民あわせて約1.8万人の増強計画を打ち出しました。
ただ少子化や人々の軍隊離れから、人集めは難航し、2014年には給料・諸手当の改善や勤務時間の融通性向上などを含む人材確保策を打ち出し、2015年には今後5年間は国防費5%増を約束するなどしているが、思うようには進んでいない

●また人員だけでなく、国防費を一度大幅に削減した付けは装備品維持に影を落とし、2017年10月には6隻保有の独国産潜水艦が全艦稼働不能となる情けない事態に

5日付Defense-News記事によれば独政府は
●Ursula von der Leyen国防相は、「capability profile」と呼ぶ10年計画で、包括的で大規模な軍備近代化コンセプトを提示した。
●計画によれば、中間の2024年には国防費のGDP比が1.5%に達し、年7.5兆円を超える規模となる。なお現在は約5.4兆円である

Merkel.jpg●国防相は、この計画実行で長年予算削減と装備や人員削減に苦しんできた独軍を、自国防衛と海外任務に十分対応可能な能力レベルに向かわせると説明した
●国防省配布の計画サマリーによれば、計画は2つの優先事項を設けている。一つは兵士の装備改善で、もう一つは独軍をサイバー時代に対応可能な速度を与えることである

●一方で、政権指導層以外はこの計画に懐疑的で、連立政権を組む社会民主党は財務省を出しているが、以前国防相が提出した必要な国防費増額を狙った予算案を拒絶した経緯がある
●今後、この計画を具現化する予算案が議会で審議されるが、早くも閣内の社会民主党は「希望リストに過ぎない」と必要な細部予算内訳を政府に要求しており、別の同党有力議員もこの計画が政府の「debt-neutral budgets」方針に反すると不快感を示し、議会に相談なく発表されたことを批判している
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trump7.jpgドイツをはじめ多くの欧州諸国は、多かれ少なかれ、国防能力は一度緩めてしまうと取り返すのが極めて難しいとの反面教師ですが、ドイツは欧州の中核国にして対ロシアの西側中軸国ですから、その変化に期待したいものです

しかし難しい政権運営と経済情勢の中、それほど画期的な展開が期待できるとも思えずドイツの戦闘機選定への米国の関与など変な噂が漂う米独関係の今後と合わせ、暗雲が忍び寄るドイツ情勢でした

ドイツ軍の苦悩関連
「独戦闘機選定に米圧力?」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-04-28
「独仏中心に欧州連合で第6世代機開発」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-04-07-2
「独潜水艦が全艦停止」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-10-22
「美人大臣の増強計画」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-12

「独と蘭が連合部隊創設へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-02-05
「今後5年間国防費6%増へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-03-21-1
「ドイツ軍の人材確保策」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-11-09-1
「2011年時には大軍縮計画」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-10-30

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グリーンランドに中国企業進出狙いで情勢複雑化 [安全保障全般]

ちょっと複雑ながら、世界の縮図か・・・
   ↓     ↓     ↓
北極圏進出にグリーンランドを狙う中国
米国の重要軍事拠点グリーンランド
旧植民国デンマークと独立目指す自治領グリーンランドの対立
トランプが欧州に関税で欧州住民の米国離れ
欧州の米国離れを促す中国の情報戦

Greenland4.jpg7日付Defense-Newsが、Atlantic Council経費持ちのデンマーク取材記事を掲載しトランプ大統領の西側諸国への強硬な姿勢で同盟関係が揺らぐ中、中国がその隙間を見逃さず、経済的利益をちらつかせて影響力や勢力圏拡大を狙う事例を取り上げています

それにしても中国は巧みです。大戦略に基づき、長期視点でチャンスの到来を粘り強く待ち、好機と見るや確実に新たな足場を確保して前進する・・・が徹底されています。
恐ろしいですし、トランプが貿易分野で同盟国に難癖をつける次のターゲットは日本の様ですので、日本も「他山の石」として、グリーンランドの空港建設への中国企業進出事案をご覧ください

言葉で表現するとちょっと複雑になるので、冒頭の5項目でストーリーを予想・想像いただいた上で、お読み頂ければ・・・と思います。

北極圏進出を狙う中国
Greenland3.jpg●勢力圏の世界拡大を狙う中国は、欧州の経済危機で値下がりした鉱山やインフラや利権の獲得を着実に進めており、欧州の港の貨物スペースの10%を既に確保している。
2016年、かつて米軍基地だったグリーンランドの土地の入札に中国企業が参加する事例(デンマークが阻止した)も確認されており、関係国は短期的視点での経済的利益を求める地元社会と、長期的な安全保障懸念の間で難しい対応を迫られている

●今回グリーンランドが辺境地活性化のため3つの飛行場建設を構想(約600億円のプロジェクト)したところ、かつて世界銀行がブラックリストに入れた中国企業が名乗りを上げ、旧植民国デンマークや米国の懸念にもかかわらず、グリーンランド自治政府は最終候補5企業の中に中国企業を残すことに固執し、比較検討が行われている
グリーンランドは北極圏航路の開発の中で重要な拠点となりえ、また中国からの投資を受け入れることで、グリーンランドが中国政府の影響を受ける可能性も含め懸念が広がっている。

米国の重要軍事拠点グリーンランド
Greenland2.jpg●グリーンランドには、米軍のミサイル警報用レーダー基地や宇宙監視用レーダー、宇宙アセットの指揮統制施設、そしてこれら施設を支える3000m級の滑走路がある

●また港湾施設として、世界最北の水深の深い港を米軍が運用しており、まさしく北極圏活動の拠点としてグリーンランドは重要な位置づけにある


旧植民国デンマークと独立目指す自治領グリーンランドの対立
長くデンマークの植民地だったグリーンランドだが、1975年にグリーンランドに大きな自治権を認める法律が成立し、それ以降、グリーンランド内では独立を求める機運が高まっている
●大きな自治権獲得により、経済的な判断面でグリーンランドが権利を回復した後も、安全保障上の判断はデンマークが行う切り分けになっているが、経済と安全保障問題の切り分けはあいまいで、しばしばデンマークとの論争になっている

Greenland.jpg今回の中国企業参入に関しては、米国との関係を重視するデンマークは反対だが、経済的な面から中国企業に魅力を感じるグリーンランド自治政府との間に意見の相違があり、難しい問題となっている
デンマークは対立を表面化させることでグリーンランドの独立派を刺激したくなく、水面下で中国企業排除を要請している模様も、選定の最終段階の今になっても中国企業が含まれてる。ちなみに他の4企業はデンマーク2企業、オランダとカナダが各1企業である

トランプが欧州に関税で欧州住民の米国離れ
中国企業を排除するため、デンマークはグリーンランドに建設資金の援助を申し入れているとも伝えられているが、トランプ大統領が欧州に対する貿易関税で制裁措置に出る中、米国に味方するためにデンマークが税金を支出して動くべきなのか・・・との意見も出る事態に
●デンマークやグリーンランドに限らず、米国と欧州の関係が悪化する中、中国がその隙間を狙う余地が拡大している

欧州の米国離れを促す中国の情報戦
●グリーンランド議会では、10月末までに空港建設に関する法案の審議が数回計画されているが、デンマークの関係者は中国がグリーンランド内で、反デンマーク世論を形成するための情報戦(Chinese disinformation campaigns)を行うと予期しており警戒している
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記事本文にはより詳細な経緯や中国の北極圏や欧州への進出を紹介していますので、ご興味のある方はぜひ原文をあたってください。

trump5.jpg国際関係は微妙で繊細なバランスで成り立っており、変化は避けられないものの、トランプのような感情に任せたやり方では、中国やロシアの思うつぼです・・・

それにしても・・・周りを見渡せば、似たような事例が日本や極東やアジアでも多数見つかるのでは・・・これから起こりうるのでは・・・と心配になります。本当に心配です

中国の大戦略を考える記事
「英国防相:中国の戦略に学べ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-08-13
「中国の軍事力レポート2018」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-08-18

過去の「中国の軍事力」レポート関連記事
「2016年版」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-15
「2015年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-06-17
「2014年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-06-06
「2013年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-08
「2012年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-05-19
「2011年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-08-25-1

過去の「中国安全保障レポート」紹介記事
1回:中国全般→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-05-19
2回:中国海軍→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-02-17-1
3回:軍は党の統制下か?→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-12-23-1

4回:中国の危機管理→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-02-01
5回:非伝統的軍事分野→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-22
6回:PLA活動範囲拡大→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-03-09
7回:中台関係→サボって取り上げてません
8回:米中関係→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-03-03-2

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60周年DARPAの戦略重点4つを語る [米国防省高官]

スプートニクショック1957年を契機に創設され60年

Walker DARPA.jpg5日、DARPA60周年の記念シンポジウムで、DARPA長官の Steven Walker氏が講演し将来の60年間を見据えた「4つの戦略的必須事項」(four strategic imperatives)について語りました。

それほど具体的な中身について触れたわけではなく、60年もの長期を見通すことの無理もあると思うのですが、米国防省最高位の研究機関の現時点での見方ですので、Take Noteしておきましょう

それにしても・・・スプートニクショックとは歴史を感じずにはおれませんが、今の中国やロシアの状況などは、じわじわと明らかになるスプートニクショックに相当するのかもしれません

5日付米空軍協会web記事によれば
Walker DARPA2.jpgWalker長官はDARPAのことを「最新科学技術の世界的な守護士」だと表現し、その任務である世界の安全保障を守る将来技術を生み出してきた伝統を引き継いでいくと語った
●一方でDARPAを取り巻く環境が絶え間なく変化し、「米国の優位性や世界の安定を脅かす、大きな技術的、経済的、地政学的な変化の存在」と、「これらの問題に対処する画期的な技術能力がない現状」を踏まえ、同長官は以下「4つの戦略的必須事項」を提示した。

第1に米国の生存にかかわる脅威から守ることで、これら脅威対処に必須なものには、自動化されたサイバー安保から大量破壊兵器センサーやアクティブ生物脅威防御までの多様な完全に新たな技術能力が含まれる。またこれら脅威には、敵対者の超々音速兵器への対応も含まれる
第2に、DARPAが大国との大規模本格紛争を抑止・勝利できる能力を提供することも必須であり、長官は「我々は全てのドメインの戦力を分解し、我々の破壊力を増強する対応オプションに注力する必要がある」と表現した。また将来の紛争が新たな思考を要求し、特に宇宙や電磁波ドメインでの能力が一層重要になると語った

第3に、米軍が引き続き対テロの役割を担う中で、DARPAとして「phase-zero conflict」や「大規模都市戦」に必要な能力提供に取り組む必要があり、また作戦行動を行う対象社会をよりよく理解するモデリング開発しなければならないとも表現した
Walker DARPA3.jpg最後に長官は、最先端技術分野でのイノベーションにおいて世界のリーダーであり続け、世界の安全保障を守る将来技術を生み出す任務を全うすると語り、「今世紀の技術開発競争に勝利し、AI、先端極小エレクトロニクス、合成生物学、脳神経技術、新コンピュータ技術、そして社会科学の理解深化で優位でなければならない」と具体的分野を挙げた

●更に総括し、「我々はまず新たな技術を理解し、その将来的な用法や誤用について前線兵士や政策立案者に伝え、そして米国の価値と倫理を守るための国防能力に応用する必要がある」と結んだ
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DARPA創設の狙いには、「技術的奇襲の先駆者であるべきで、決してその犠牲者であってはならない」との言葉が含まれているようです。

DARPA創設当時の1950年代であれば、軍事分野が最先端技術を切り開いていたのかもしれませんが、今や民間企業やベンチャー企業が革新的技術を生み出しているのが現実です。そしてそんな技術がネットを通じて拡散しているのが実態です。

官僚的性格から逃れられないDARPAが、果たして今後も時代の最先端を維持できるのか・・・この点は内部の人も危機感を持っている事でしょう

DARPA関連記事
「脳神経と直接通信を研究へ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-03-21
「無人機の群れで都市戦を」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-01-09
「地下での戦いに情報提供を」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-11-28
「将来の注目技術を語る」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-09-09-1

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米空軍の文書や報告削減中間報告 [米空軍]

AF Publication RD.jpg8月29日、米空軍長官と空軍参謀総長と空軍先任軍曹が連名で全空軍兵士宛にレターを発簡し昨年から24か月計画でスタートした「文書削減取り組み:Publication Reduction Initiative」の状況を紹介しています

同取り組みは、内容が重複する報告書類を精査して削減し、また役割を終えた規則類を見直して削減し、兵士への余計な負担を軽減しつつ、部隊運用の裁量を入り前線に近いレベルに移譲する事を目的とするものです

レターの表現を借りれば、「指示発信の中央集権文化を再度追求し、その実行における権限移譲を推進するため」との狙いがあるようです。

兵士宛レターによれば、これまでの成果として、米空軍内にある1484発行物(報告文書や発行物:publications)の226を廃止し、212の内容を見直しを完了し、更に現在も309について存続も含め検討中とのことです

また、各種文書だけでなく、4795項目の遵守事項(規則類:compliance items)も検討に結果として廃止したとのことです。

AF Publication RD2.jpg文書や規則を廃止することは、それだけ各級指揮官や各兵士の自主性への期待を高くすることと両輪をなすものですが、この点に関し空軍長官らはレターで、「この取り組みは、戦いに集中するために避けて通れないものであり、また任務遂行に向けての各級指揮官の正しい判断を促進期待するものである」と表現しています

更に本取り組みを始める際の指針には、「見直しの際には、その発行物の意義や価値、政策への影響、良い見本を提示しているか、権限を現場に近い下位に移譲しているか、等の判断基準で行う」と示されており、部下の士官や各級指揮官には「部下兵士のために、君たちが現場で正しい判断をするとの信頼に基づいて見直しを進める。この点を各級指揮官は承知してほしい」と覚悟を訴えています
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日本では、役に立たない野党が重箱の隅をつついて小さな事象を騒ぎ立てる度に、政府機関内の報告文書が増え、文書管理の要領が複雑化しています

今や何のためにやっているのか意味不明なリスト作成や点検が山のようにあふれ、担当者がメンタルダウンするような事態も急増していると聞き及びます・・・

日本ではそこからでしょうねぇ・・・。野党の整理と共に・・・

空軍長官の関連記事
「パイロット流出対策」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-05-25
「下士官操縦者の拡大は考えず」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-05-19-3
「同盟国への宇宙訓練確認」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-04-21-2
「意思決定迅速化に規則削減」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-03-31-1

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米海軍F-35のIOCは最低半年遅れ [亡国のF-35]

F-35Cが空母で他機種と初の混合運用試験も

F-35Cformation.jpg27日、空母艦載型F-35の空母運用試験第1段階を開始したリンカーン艦上で、米海軍F-35担当の少将が会見し、本来計画では8月中にF-35Cの初期運用態勢IOC確立を宣言する予定だったが、来年2月以降にずれ込むと明らかにしました

会見は、FA-18やEA-18GやE-2が運用されている空母に、初めてF-35を配備して運用試験を20日の週から開始した中で実施され、その素晴らしい着艦精度を讃えることから始まっていますが、まだまだ確認すべき事項が多数あるとの慎重な言い回しとなっています

また今回の3週間の空母艦上運用試験の後は、具体的な空母での運用試験や訓練の予定は具体的に決まっていない模様で、このあたりからも、飛行運用だけでなく維持整備面を含めた明確な課題が相当積み残されている様子が伺えます

8月28日付Military.com記事によれば
F-35C Landing3.jpg米海軍のF-35C融合推進室長Dale Horan海軍少将はリンカーン艦上で、加州の第125艦載戦闘飛行隊から派遣の6機のF-35C運用試験の状況について会見し、「F-35Cは、FA-18やEA-18GやE-2と共に甲板上を移動し、空で共に有事を想定した飛行訓練を行っている」と語った
●そして、「初めて艦上で他機種と共に活動し、どのように整備を行い、どのように機体を維持するかを海上で確認しつつ、空母への融合を試験している。通信やデータリンク、他機種との連携や任務遂行要領について確認している」とも説明した

●約1週間前に展開した6機のF-35Cについて同少将は、「着艦制度が素晴らしい。平均値以上の性能を示している。新技術を導入当時は操作が難しく感じるものだが、着艦を容易にしてくれている。驚くべき装備だ」とも表現した
一方で今後2週間に及ぶ試験については、「挑戦すべき課題が複数ある。空母への融合が確認できれば良いが、機体を維持できるか、部品は確保できるか、艦上修理が可能か、効率手kに任務遂行が可能か等々、確認すべき課題は多い」と慎重な姿勢を見せた

F-35C USS Nimitz.jpg●ただし同少将はここまで1週間の試験結果については言及せず、「結果については話せない。我々がここに展開し、計画通りに試験に取り組み、F-35Cが艦載機として使用されていることが大きなメッセージである」と語った
8月の予定だったIOCが2月以降に遅れることについて、「IOCの方向に向け向かっている。この勘定運用試験結果を検証分析し、要求事項が満たされているかを検討する」、「要求を満たさなければ判断して延期することになる」とも語った

最初の米海軍F-35Cの任務投入は2021年を予定しているが、同少将は「IOC態勢が確立した以降は、緊急事態があって出動要請があれば、F-35は任務に投入されるであろう」と説明した
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最近国防省のF-35計画室は、やたらと「ソフト3F」搭載機の完成度が高いと触れ回っています。

f35c.jpgしかし超党派の政府監視団体の報告書によれば、「今年1月に会計検査院GAOが指摘した様に、最もリスクが高いレベル1にランクされる問題点が111個あったにもかかわらず、6月の時点では説明もなく19個になり、その後19個も明確な対策がないものも含めて低いレベルの問題に格下げされ、最高レベルの問題点がゼロになっている」、「説明なく格下げされた92個以上の問題はどうなった。議会で取り上げるべき」と指摘しています

どうなることやら・・・

驚きのMAGIC CARPET
「F-35Cの着陸精度が素晴らしい」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-22
「FA-18とEA-18Gにも」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-05-09

FA-18を巡る米国の動き
「海軍FA-18増強計画」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-06-15-2
「トランプ言及のFA-18改良型?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-04-07
「再びトランプがFA-18大量購入を示唆」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-18
「2/3が飛行不能の惨状」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-07

「政治ショー?F-35価格削減公表」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-01-25
「F-35の代替にF-18改良型を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-23-1

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