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ゲーツ国防長官時の米中軍事関係(2009-11年) [ゲーツ前国防長官]

アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアログ)を機に振り返る
「両国関係者が対話の重要性を確認する」過程で相手を探る
対テロ作戦でドロ沼の中、中国と相互訪問交流を行いつつ・・・

gatesShan2.jpg6月2日から4日にかけ、アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアログ)が開催され、米中関係に注目が集まっているとNHKなどが適当な報道を行っていたところですが、本日は普段と趣向を変え、オバマ政権誕生当時の2009年から11年頃の間に、当時のゲーツ国防長官が行っていた「両国軍事関係者が対話の重要性を確認する」ための会談や相互訪問から、中東に足を取られながらも、中国の出方を探っていた当時の様子を振り返ります

今や習近平政権は、中国経済大混乱の中、米国との対立姿勢を鮮明にするしかない危機的な状態に立ち至っていますが、2009年から11年頃は、中央軍事委員会副主席の徐才厚(Gen. Xu Caihou)が訪米してCSISで講演(2009年)まで行い、2011年1月にゲーツ長官が訪中して胡錦濤主席、Yang Jiechi外交部長、徐才厚と会談までしていた時代がありました

US China2.jfifゲーツ国防長官が訪中するくらいですから、マレン統合参謀本部議長や各軍種参謀総長の訪中なんてのもあった時代ですが、結局「両国軍事関係者が対話の重要性を確認する」するまでには至らず、中国側は中国が世界の中心との「中華思想」から抜け出ず、南シナ海を始め世界各地で好き放題・盗み放題行為を繰り返し、今や世界の主要国から「総スカン状態」になりつつあるのですが、本日は、たまには・・・と言うことで昔を振り返ります

2009年10月中央軍事委員会副主席の徐才厚の訪米CSIS講演より
Gen. Xu Caihou1.jpg●中国は平和に価値を置く国家である。胡錦濤主席が60周年記念行事で述べたように、「中国は揺るぎなく平和外交政策を維持する」。中国の国防政策は防衛的なものである。戦略的に、相手が攻撃を始めてからのみ対応する。
●しかし、中国は未だ統一をなしえていない。台湾、東トルキスタン、チベットで依然分離独立運動が進行している。

●中国は他国を挑発したり脅かしたりはしない。勿論米国に対しても。中国は、覇権、軍備拡張、軍備競争を決して追求しない。
●約600年前、鄭和が率いる当時世界最大の艦隊がインド洋から中東・アフリカ方面にまで遠征したが、領土拡大の野心は全くなかった。これが歴史が示す中国の平和思考の証

2009年10月ゲーツ長官と徐才厚会談
Gen. Xu Caihou2.jpg●「もう、再開、中止の繰り返しは止めにしましょう」とゲーツ長官が先方に語りかけ、1時間以上会談し、以下を提案
●高官相互訪問の促進:ゲーツ長官は来年早々に訪中 マレン統合参謀本部議長は中国カウンターパートが訪米した後に訪中

●人道・災害対処での協力推進:海上での共同捜索救難訓練に合意
●医療協力:特にパンデミック対処部門、専門家の交流促進
●各軍種レベルでの交流促進、陸軍同士、中下級士官の交流強化(中国側からの提案の模様)

2010年11月&12月フロノイ政策担当次官
Flournoy4.jpg●米国は経済や外交関係と同様に、軍事部門でも関係を維持したいと考えている。しかしその代わりに、両国の軍事交流は彼らがスイッチを握っているようにオン・オフを繰り返している。
●台湾へ防衛的な武器を売却したり、大統領がダライ・ラマをホワイトハウスに招くとスイッチがオフになる。

●既に米中軍事関係者はハワイで、海上の安全保障と安全航行に関する議論のテーブルに付いた。喜ばしいことだ。来年1月にゲーツ長官が訪中する
●南シナ海問題に関し、“We don’t take any sides in those disputes,”(米国はどちらにも付かない)

馬暁天.jpg●馬曉天・人民解放軍副参謀総長(General Ma Xiaotian)との協議は前向きな議論であった。全ての問題で双方が合意したわけではないが、意見を異にする分野で、我々は率直で飾らない生産的な意見交換を行った。今時の議論は、米中間や米中軍間のより生産的な関係へ向けての基礎を形作る物である。

2011年1月ゲーツ長官訪中での会見
(訪中で胡錦濤主席、Yang Jiechi外交部長、徐才厚・中央軍事委員会副主席と会談)
gatesHuJintao.jpg●J-20(中国製ステルス戦闘爆撃機)の初飛行を私の訪問に併せて行ったのか、と胡錦濤主席との会談で直接質問したが、主席は関係ない偶然だと答えた。
●胡錦濤主席を含め、同席の中国側文民関係者は誰一人初飛行の件について知らないようだった

●現代社会において、純粋に軍事と政治を切り分けることは難しい。このような時代に中国内部で軍と政府の間の意思疎通が不足しているのでは、との懸念を以前から持っていた。
gatesFM20YangJiechi.jpg●これが今回の訪問で、軍人と政府の両方と会談した一つの理由である。軍人と文民が共にテーブルを囲む戦略対話の必要性が高い。
●戦略対話の焦点は、核兵器、ミサイル防衛、宇宙、サイバーの4分野であるべき。

●胡錦濤主席は、米側の対話への提案を真摯に受け止めると述べた。中国側との訪中間の会談は、全て大変丁寧で親しみやすいものであった。
●しかし、関係構築には時間が掛かる。この分野はドラマチックな展開や大きな見出し期待するような分野ではない。むしろ徐々に進化成長する種類のモノである。

2011年1月ゲーツ長官の訪日講演@慶応大学
gatesKeio.jpg●(中国との軍事交流再開について)特別な合意を生み出さなくても対話は相互理解を促進し、誤解や誤認識の教訓を学ぶ機会を与える。冷戦時のソ連とは環境が異なるが、対話の重要は変わらない
●中国の文民と軍人の間には結節の兆候がある。数年前のインペカブルへの対応や3年前の衛星破壊実験を中国文民指導者は事前に知らなかったようだし、J-20の初飛行の件も

2011年6月ゲーツ長官シャングリラ講演
gatesShan1.jpg●2008年のこの集まりで、大統領選挙後に国防長官(ゲーツ氏)は交代すると考えていたから、正直に政権が変わってもアジア政策や関与は変化無いと述べた。実際私が留任した様に米国政策に変化はなく、むしろ関係は強化発展してきた。同様のことが後任のパネッタ新国防長官の元で起こることを確信している。
●米国の経済や財政状況、2つの戦い(アフガンとイラク)や米国民の忍耐が切れてきたことを見て、米国のアジアへの関与の信頼性や継続性に疑問を持つのは自然なことである。しかし太平洋国家として、貿易等でアジアと関係が深い米国にとってアジアへの関与に変化はない。これは米国政府や議会の共通の認識である。

gatesShanla.jpg●我々は今後も米軍のプレゼンスを維持強化するために努力を続けるが、今後は展開兵力数(boots on the ground)のみをコミットメントの尺度とすべきではない。今後は艦隊訪問、海軍活動、多様な訓練の実施により、同盟国等との関係を強化し、同盟国等の能力を強化する
●(中国側代表の梁光烈(General Liang Guanglie)国防部長(国防大臣)と同会議内でバイ会談し、繰り返し対話の重要性を語り、戦略対話(核兵器、ミサイル防衛、宇宙、サイバーの4分野)推進を提案するも、曖昧な中国側の姿勢変わらず)
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gatesChinaDM4.jpgその後、米国が2020年頃まで中東での対テロ作戦に足を取られている間に、米国の足元を見た中国は、台湾への武器供与問題や南シナ海問題への米国の批判をネタに、米中関係の「オンとオフ」を繰り返しながら時間を稼ぎ、南シナ海埋め立てや要塞化を完成させ、強大な軍事力を構築し、世界各地に「アメとムチ」で拠点やシンパを確立することになります

まんぐーすは、当時のゲーツ長官の取り組みを「無駄だ」と言いたいのではなく、対ソ連の戦略対話がそうであったように、議論が実を結ぶ可能性が低いことを十分に想定しつつ、対話の中に垣間見える相手側の内部事情や変化を「偵察」する高等手段としての「戦略対話」のようなものが存在し得ると申し上げたかっただけです。

gatesChinaDM3.jpgもちろんそのためには、たたき上げ分析官からCIA長官にまで上り詰めたゲーツ国防長官のような、冷徹な視点と頭脳を持ち合わせたリーダーの存在が不可欠であり、それなりに成熟した国民や議会が必要ですが・・・・

皆さんは2009年のオバマ政権誕生から2011年頃まで、どのような日々をお過ごしだったでしょうか?

安全保障を考える「体幹」を鍛えるために
ロバート・ゲーツ(Robert M. Gates)語録100選
https://holylandtokyo.com/2022/03/26/2046/

2010-11年頃の米中軍事交流
「2011年のアジア安全保障会議」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2011-06-01
「中国軍トップ訪米と美人士官」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-05-18
「1月ゲーツ長官の中国訪問」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-01-09-1
「フロノイ次官の会見」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-12-12
「米中軍事交流の今後」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-11-23
「米中軍事交流再開へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-09-10
「米中激論:シャングリラ演説」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-06-05
「ゲーツ長官と軍事委員会副主席会談」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2009-10-28
「徐才厚の訪米CSIS講演」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2009-11-09

アジア安全保障会議(Shangri-La Dialogue)関連記事
「2021年は中止」→https://holylandtokyo.com/2021/06/04/1783/
「2019年」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-05-31-1
「2018年」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-05-26-2
「2017年」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-06-01-3
「2016年」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-30
「2015年」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-05-28
「2014年」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-05-27
「2013年」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-31
「2012年」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-05-25
「2011年」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-06-01
「2010年」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-06-05

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