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米空軍の対中国救難救助検討は引き続き迷走中 [米空軍]

欧州や中東でのみ有用なHH-60Wヘリ調達削減決定後も
米陸軍がFLRAA候補にした2機種も検討対象と
当面はCV-22オスプレイとHH-60Wでしのぐのか
中国の強固な防空網下で活動可能なアセットは夢か

FLRAA3.jpg4月27日付米空軍協会web記事が、最近の米空軍幹部による米議会軍事委員会での2024年度予算案説明の中なら、遠方CSAR(遠方の戦闘捜索救助:combat search and rescue)アセット検討状況について証言する様子を紹介していますが、2023年度予算で2021年導入開始直後のHH-60Wヘリ調達機数を、対中国脅威下で活用困難との判断から当初計画108機から85機に削減した「後の体制検討」について、実質進展がない模様です

対中国で、母国から遠い中国大陸近傍での戦いを強いられる米軍兵士にとって、敵の勢力下で航空機や艦艇が撃墜撃沈されたり、敵影響下での地上活動を命ぜられた場合に、味方が救出してくれるとの「安心感」「信頼感」は士気に直結しますし、米国世論を踏まえれば、救助作戦が遂行不可能なエリアでの活動実施は、米政権や米軍指揮官にとって命令不可能と言っても過言ではない極めて判断困難なものとなります

HH-60W2.jpgそんな軍事作戦遂行の基盤中の基盤である「CSAR:捜索救助任務」構想が、今頃になって根本的見直しを迫られていること自体が驚くべきことですが、どうしようもなく、手を付けられないから今まで放置せざるを得なかった感もあり、弾薬確保や前線への輸送能力欠如と相まって、対中国作戦の基礎崩壊とも見ることができます

同時に、仮に東シナ海や台湾近傍で米軍機や米艦艇が撃墜や撃沈され、近傍の同盟国である日本が米軍兵士に有効な救助活動を提供できなかった場合(努力する姿勢を見せなかった場合も含め)、米国民感情からも、米軍兵士から見ても許容できるものではなく、日米同盟の根幹を揺さぶるものとなりえることを、日本は認識しておくべきと考えます。

このように、中国正面での「CSAR:捜索救助任務」が極めて重い問題であることを最初に再確認しておき、実質進展がない米空軍内での検討状況を米議会証言から以下でご紹介しておきます。

4月27日付米空軍協会web記事によれば
Brown nomination.jpg●27日の下院軍事委員会でBrown米空軍参謀総長は、議員からアジア太平洋戦域における遠方CSARに関してHH-60Wでは能力不足だからCV-22オスプレイ活用を検討しているかと問われ、オスプレイを追加導入してCSARに活用するつもりは無く、一旦停止した製造ラインを再立ち上げるにはコストが掛かりすぎると理由の一端を説明した
●そしてBrown大将は、米陸軍が最近FLRAA(将来長距離攻撃ヘリ)に選定したティルローター型機「Bell V-280」も候補として検討すると述べ、更に他の候補機として空軍現有のCV-22オスプレイや同陸軍機種選定に敗れたSikorsky-Boeing社製の「Difiant X」へりのほか、具体的機種には言及せず他の企業製品も見ていると語った

(なお、米空軍現有のCV-22に関しては、同機を保有する空軍特殊作戦軍司令官が最近繰り返し、CV-22が遠方CSAR任務を遂行する計画はないと強調している)

Slife2.JPG●26日に上院軍事委員会で証言したJames Slife空軍作戦部長は、ベトナム戦での歴史が示すように、米空軍にとって撃墜された兵士を救出することは「道徳的義務:moral imperative」だと表現し、この義務を果たすため非伝統的な手法を含め検討中だとし、唯一確かなことは速度270㎞程度でC-130から空中給油を受ける必要があるアセット(HH-60Wのこと)では厳しい環境での答えにはならない点である、と述べている
Moore.JPG●また同委員会でRichard Moore空軍計画部長は、HH-60Wの85機要求は十分な機数であり、同機が担う救命救助任務と人員回収(personnel recovery)の内、人員回収(personnel recovery)任務については、米軍内に同任務可能な機種が多数現存する点を指摘し、加えてHH-60Wはイラクやアフガン用に購入されたものであり、対中国戦域では有用ではない、と明言している
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V-280 Bell2.jpgちなみに、米陸軍が2022年12月に機種結果を発表したティルローター型機「Bell V-280」導入は、2025年に陸軍の細部要求を体現したプロトタイプ機が完成し、部隊運用開始が2030年頃との導入計画となっており、仮に米空軍が活用を決定しても使用開始は10年後になります

またHH-60W選定時に、ティルローター型機はダウンウォッシュ(ホバリング時の下方への風量)が強すぎて、救難員がロープで遭難者を収容する作業が不可能との理由で排除した経緯があるのに、なぜ今になって簡単に復活可能なのか理解に苦しみます

Hexa.jpg米空軍内では、電動無人ヘリ「eVTOL」を前線での極地輸送や救難救助に活用する検討「Agility Prime」計画も始まっていますが、2021年に「100nm先に、3~8名を速度100マイル程度で輸送可能」を目標に定め、「2023年までに実用可能なオプションに煮詰めたい」としたものの、その後進展があったとの報に接していません

冒頭に述べたように、対中国作戦遂行上の目立たない「肝」である遠方CSARは、米軍だけでなく自衛隊にとっても極めて重要な任務ですが、全く目途が立たないように思えます。兵站輸送能力確保や弾薬確保と並んで・・・

救難救助体制の再検討
「対中国の救難救助態勢が今ごろ大問題」→https://holylandtokyo.com/2022/07/15/3463/
「米空軍トップが語る」→https://holylandtokyo.com/2022/09/08/3614/

米陸軍のFLRAA選定結果
「米陸軍が過去40年で最大のヘリ機種選定」→https://holylandtokyo.com/2022/12/09/4043/

電動ヘリ導入検討「Agility Prime」計画の状況
「米空軍が電動ヘリeVTOL導入検討に本格始動」→https://holylandtokyo.com/2022/06/29/3370/
「電動ヘリeVTOLでACE構想推進へ」→https://holylandtokyo.com/2021/04/13/105/

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