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ロシアによるウクライナ侵攻危機を考える [安全保障全般]

米国の選択肢は? ロシアのレッドラインに変化?
ロシアの戦略的目標は?、ロシアの非在来型介入に注意!
正攻法の軍事侵攻の場合ベラルーシに注目

小泉悠.jpg12月10日付Yahoo-Newsで、小泉悠氏(東大先端科学技術研究センター特任助教)による「ロシアによるウクライナ侵攻の危機」との論考が公開され、その包括的な分析が高く評価されています。

もしロシア軍がウクライナに侵攻するなら、地面が凍結して陸軍車両の進軍が容易になる来年1-2月頃かと言われ、論考が出た12月10日以降もウクライナ国境へのロシア軍増強がさらに進み、プーチン大統領の強気な姿勢がさらに加速している状況であり、論考の分析は依然として情勢を見る貴重な資料ですので、長くなりますが概要をご紹介いたします

米露首脳会談と米国の選択肢
米露首脳会談.jpg●日本時間の12月8日未明、米露首脳会談がオンラインで行われたが、全体的には双方「言いたいことを言った」状態で、会談後にバイデン大統領はヘリコプター搭乗直前に、「ポジティブなニュースは、コンタクトを継続しているということだ」と語った程度である
●ロシアが本当に軍事力行使を行うのかは不明だが、もしもロシアが覚悟を固めているなら、米国がこれを阻止する方法は概ね二つに限定される。
①大胆な妥協:「ウ」の中立化など、ロシアの要求(後述)を呑む
②強硬策:「ウ」への米軍展開など、強い軍事的関与を示すのいずれかだ

●ただ、①のような態度を米国が取るのは難しい。軍事威圧に米国が屈すれば、露だけでなく中国にも誤ったメッセージになる可能性大だからである
●他方、②は更に難しい。既に米国は「ウ」に対して武器提供や軍事顧問派遣を行なっているが、露の侵攻抑止には米正規軍を「ウ」派遣することとなり、露軍との正面衝突を覚悟する必要があるが、正式の同盟国ではないウクライナに対してそこまでやる必要性を同盟国や国内世論に説得するのは容易ではない。実際、バイデン大統領は、前述の「ヘリコプター前会見」で、米軍派遣の可能性を明確に否定している

●とすると、米国に残されたカードは経済制裁だけになるのだが、経済政策の効果はプーチン大統領やその側近の世界観に左右され、2014年のロシアのウクライナ介入に際し、欧米からの激しい経済的報復を覚悟の上で臨んだことを考えれば、今回も制裁が効果的だとする根拠は薄い
●米国は国際決済システムSWIFTからのロシア排除を柱に制裁を考えていると報じられており、実現すればロシアの経済的ダメージは甚大である。だが、同様の制裁下にあるイランや北朝鮮は、国家の崩壊に至っていない。ましてロシアは、エネルギー、食料、武器等々、遥かに高い自給能力を有する。SWIFT関連でロシアの軍事介入を止める可能性は高くない

ロシアは何を? 「レッドライン」の変化?
プーチン大統領.jpg●ロシアの本気度は不明であるが、米や「ウ」情報ではロシア軍は9万人内外の兵力で「ウ」を取り囲んでいる模様である。WP紙は12月3日、ロシア軍は予備役10万を含む計17万人で2022年1-2月で侵攻する計画だと報じたが、現兵力がロシア軍の1/4で、約半分が揃えば侵攻するというのが西側の見立ての模様である

●仮にロシアが「ウ」侵攻を考えているならば、その狙いは何か? 今年7月発表のプーチン論文は、ソ連崩壊後もロシアと「ウ」は深いつながりがあるが、西側や「ウ」政府はミンスク合意の履行を拒否し、NATOは軍事力で「ウ」の天然資源や農業資源を管理しようとしているとの情勢認識を示し、
●ウクライナの主権は不安定な状態に置かれているのであり、真の主権を取り戻すことはロシアとのパートナーシップによってのみ可能であるとプーチンは主張し、ロシアが「レッド・ライン」(越えてはならない一線)を変化させたことを示した。

●ロシアの従来の「レッド・ライン」は、ウクライナが西側の一員にならないことであり、これは、2014年以降のロシアによる軍事介入で概ね達成されたと言ってよい状態にあったはずなのに・・・である
●ただ、2014年以降の軍事介入で達成されたのは、ウクライナを「NATO寄り中立」に留めおくことだけで、このような状況にロシアがもはや満足していないことは前述のプーチン論文からも明らかであろう

「ロシア寄り中立」化の強要か
プーチン ウクライナ.jpg●では、ロシアの引いた新しい「レッド・ライン」はどこにあるのか。それはすなわち同国を「ロシア寄り中立」とすることであり、具体的にはミンスク合意を完全履行させることがロシアの狙いであると考えられる
●ミンスク合意とは、第一次合意ではドンバスの紛争地域に一時的に「特別の地位」を与えることを求め、第二次合意では改正憲法と恒久法に基づいたより固定的な地位とすることが定められた。こうして「ウ」の分裂状態を固定化で、ロシアに逆らえない状態にすることが目的とされ、7月のプーチン論文は、時間的猶予は無いとの「最後通牒」であったと言えよう

●しかも、ロシアは第二次合意に追加議定書を付属させ、ウクライナ憲法に中立条項を盛り込むことを計画していたとされる。今回ロシアが狙っているのは、激しい局地戦で「ウ」に壊滅的な打撃を与えたり、政治的に重要な首都キエフ占拠で、「ウ」の「ロシア寄り中立」化を強要することである可能性が高い。
●つまり、ロシアが軍事力を行使する場合、その戦略目標はロシアにとって都合のよい(しかし通常の条件下ではまずウクライナが受け入れないであろう)合意を呑ませることであろうと考えられそうだ

ロシアの非在来型介入のシナリオにも注意
プーチン レッドライン.jpg●とはいえ、ロシアが正攻法かは別問題である。仮にロシア軍は17万人で地面が凍る2022年1-2月に侵攻する予想されるなら、ウクライナ側も当然これに対して備えを固めるだろう。
●しかしロシア軍事思想では、敵の裏をかくのが戦争の常道であり、戦争の最初期段階では、過去の戦例からは予期し難い状況を侵攻側が作り出して利用する可能性が高い

●ロシアの軍事思想の伝統に立つなら、ウクライナに対する非在来型介入のシナリオを想像できよう。例えば大規模なサイバー攻撃を「ウ」全土のインフラに同時多発的に行い、経済や社会を混乱させ、食糧や暖房を欠く状況にウクライナを陥らせて、「人道援助」名目でロシア軍を送り込むことも一案である。
●ドンバス地方でロシア非常事態省が人道援助を大々的に行い、結果的に分離独立状態の固定化に貢献していることを考えると、この種の非武装介入部隊は「ソフトな占領軍」として機能する可能性がある

●あるいは、麻痺状態に陥った社会で反体制運動を引き起し、情報が不完全な中で混乱を拡大させることも想定できる。実際、これはクリミア半島の占拠作戦でロシアが用いた手法であった
●特殊作戦部隊がメディアやネットを占拠して情報を遮断し、ロシア発の偽情報を現地住民に大量に浴びせかけることで自発的にロシアへの併合を求める空気を作り出したのである。こうした手法は近年ロシア軍事思想で「新型戦争」として定式化されており、これらを駆使して軍事力行使に至らずしてウクライナに要求を呑ませる策をロシアが練っていても不思議ではない。

正攻法の軍事侵攻の場合ベラルーシに注目
プーチン ベラルーシ.jpg●もちろん、真っ正面からロシア軍が侵攻してくるという可能性もある。ここで注目されるのが、ロシアと「同盟以上、連邦未満」の間柄となっているベラルーシの振る舞いである
●現在ベラルーシに、訓練名目等でロシア軍が展開している可能性が高いが、仮にこれらの部隊がウクライナ侵攻に参加する場合、その意義は小さくない

●ロシア領から「ウ」に侵攻する場合、露軍は首都キエフ到達前にドニエプル川で前進を阻まれるが、ベラルーシを作戦発起地とするならばこれを回避できるからだ。しかも、ベラルーシ国境からキエフまでは最短で90km未満に過ぎず、電撃的首都占領の可能性もある
●ロシアが何を狙っているのか不明だが、ロシアが「ウ」周辺に集結している軍規模と配置はかつてない様相で、年末から年初にかけては予断を許さない状況が続きそうだ
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小泉悠2.jpg本当に嫌がらせの上手なロシアです。欧州が移民問題やコロナで内政が不安定で、米国バイデン政権の足元がフラフラなのを見逃さず、したたかです

静かな年末年始を心から祈念申し上げます


ロシアとサイバー戦
「ロシア発:驚愕の大規模サイバー攻撃」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-12-18
「ハイブリッド情報戦に備えて」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-09-05
「ドキュメント誘導工作」を読む→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-07-22-1

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