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「エアシーバトル」から「智能化戦争」への流れを振り返る [安全保障全般]

防衛研究所の関連「NDISコメンタリ」をご紹介

Ohtani.jpg11月11日付で防衛省防衛研究所が、大谷弘毅3等海佐による「シリーズ湾岸戦争 30 周年 ⑦ 海軍戦略と情報技術のマトリクス展開としての湾岸戦争」との論文を「NIDS Commentary」として公開し、タイトル通り湾岸戦争の影響を受け、米海軍や中国等の海軍戦略がどのように変遷してきたのかや、RMA が展開され新たな戦争形態(智能化戦争)が提唱されている様子を紹介しています

特に、総花的で何でもアリ感が漂う湾岸戦争後のAIなど情報科学の軍事への導入を、「情報学の理論的視座」を活用して紹介しようと取り組んでいる点が特徴だそうですが、その辺りには頭が追随できておりません

CSBA2ndjasbc.jpgただ、この論文の中の「4.第3のオフセットと智能化戦争」で、懐かしの「エアシーバトル」や「第 3 のオフセット戦略」、そして中国の「智能化戦争」を一連の流れの中で説明し、関連の日本語文献も原文には添えられていますのでご紹介いたします

正直なところ、まんぐーすはこの部分にも十分追随できていませんが、たまには少し硬いアプローチで行きたいと思います

「4.第3のオフセットと智能化戦争」によれば
krepinevich6.jpg●湾岸戦争後の対抗国の海軍戦略具現化により、米海軍の制海局地的には脅かされることとなり、米国防省総合評価室のアンドリュー・クレピネヴィッチが2003 年のレポート「『A2/AD』による挑戦への対応」で「A2/AD」として脅威を概念化した

●彼は、対抗国が弾道&巡航ミサイル・高性能航空機などの遠距離投射武器を掌握するようになれば、米軍の前線基地が弱点に転じる可能性を指摘していたが、2000 年代以降に現実の懸念となった
●A2/AD の脅威認識より、米海軍戦略は大きな転換を迫られ、「エアシー・バトル」(2010年、対中国)や「アウトサイド・イン」(2012 年、対イラン)、「オフショア・コントロール」(2012 年)といった一連の対 A2/AD 戦略が矢継ぎ早に生み出された

BMrange.jpg●ただ、これらの一連の構想の実効性は、敵 A2/AD 領域打開に掛かっており、それは範囲外からの長距離戦力投射(スタンドオフ)能力獲得が前提で、かつ敵 A2/AD 領域における自身の被害軽減がカギとなる。長距離戦力投射能力と自身の脆弱性の克服の 2 点が達成されなければ、対 A2/AD 戦略は実現性を有しない
●この問題解決のため、 2014 年にヘーゲル国防長官(実際にはWork国防副長官)により「第 3 のオフセット戦略(Third Offset Strategy)」が提唱された。オフセットとは、敵対者の数的優位を、自身の質的優位で相殺し優位に立つとの意味で、過去2回(「核兵器」と「情報化の実現による RMA」)のオフセットに続く、 3 度目のオフセットとして位置付けられたものである

Air Sea Battle.jpg●「エアシー・バトル」「アウトサイド・イン」双方の提言元であるCSBAは、「第 3 のオフセット戦略」の提言で、「世界各地に展開する基地の敵攻撃に対する脆弱性」「陸上からの長距離攻撃に対する大型水上艦及び空母の脆弱性」「非ステルス機の統合防空システムに対する脆弱性」「宇宙空間の被攻撃に対する脆弱性」との米軍が抱える脆弱性に対処するため、
●「無人機作戦」「長距離航空作戦」「ステルス航空作戦」「水中における戦闘」「複合的なシステムエンジニアリング・統合・運用」の 5 つの分野について対敵優位を保つ必要性を主張し、そのために「13 の分野」における取組みが必要であるとした

ASBM DF-21D.jpg●「5 つの分野」や下部の「13 の分野」は一見、次世代技術の総花的列挙との印象を受けるが、レールガンや指向性エネルギーシステム、無人機運用の拡大は、敵 A2/AD 領域を打開するものであった。特に「無人機作戦」を支えるのはロボットの自律化であり、AI 技術により可能となるものである

●この「第 3 のオフセット戦略」に対し中露両国は、AI 分野に集中投資し、自律型無人航空機や陸上戦闘車両の開発を進め、2030 年までに同分野における主導的地位を確立することを戦略目標として掲げている
●特に、中国は 2019 年版国防白書において、「情報化戦争」から「智能化戦争」への推移という将来展望を示し、中国産業構造の転換による経済発展の質的向上を達成し、イノベーション型国家を建設する核心技術として AI が位置づけられている大きな国の方針の一部をなす形が明らかになった

china DF-15B.jpg●つまり中国は、一般的軍事技術の基盤となるメタ技術の遅れを自覚し、メタ技術部分に資源を集中させることで、より効率的な追い上げを推進しているといえる
●この智能化戦争を巡っては、高度な AI 技術活用で飛躍的に能力向上を図った無人機を戦場の主役にすることや、量子コンピュータ技術等で優れた情報分析能力を獲得した機械が人間指揮官の意思決定を補助する「人機共同決定」を柱にすること、更に戦争領域として「認知領域」(関知、理解、信念、価値観といった意識が構成するバーチャルな空間)が重要になるとの指摘がなされている
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NDISコメンタリー紹介ページ
http://www.nids.mod.go.jp/publication/commentary/comme_index.html

大谷3佐のNDISコメンタリ原文FDF11ページ
http://www.nids.mod.go.jp/publication/commentary/pdf/commentary197.pdf

Sakura2.jpgこのような、A2ADやエアシーバトル等から、現在までの流れを整理する試みはいろんな形で行われているのでしょうが、たまたま目に入った小論から抜粋ご紹介しました

防衛研究所や陸海空自衛隊の幹部学校でも、米国の軍事戦略や戦術に関する検討が普通に行われるようになってきています

まんぐーすは勝手に、ブログ「東京の郊外より」でCSBAの「エアシーバトル」や当時のゲーツ国防長官の考え方を紹介したことで、この分野に関する日本国内の関心が一気に高まったと自惚れています

「エアシーバトル」関連記事100本
https://holyland.blog.ss-blog.jp/archive/c2301176212-1

オフショア・コントロールの概要
http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-03-13

「第3の相殺戦略」関連の記事
「マティス長官と同戦略」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2017-01-19
「この戦略は万能薬ではない」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-11-1
「CSISが相殺戦略特集イベント」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-29-1
「相殺戦略を如何に次期政権に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-04
「CNASでの講演」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-12-15
「11月のレーガン財団講演」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-15
「9月のRUSI講演」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-12
「小野田治の解説」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-05
「慶応神保氏の解説」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-01-26
「第3のOffset Strategy発表」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-09-06-1

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https://community.camp-fire.jp/projects/view/258997

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https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-04-16-1

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