台湾軍改革を阻む組織的抵抗勢力 [安全保障全般]
蔡英文の多層的で非対称な軍を求める改革に抵抗
人も装備もコンセプトも改革を迫られているのに
2月に開催された米中経済安保評議会の公聴会で、米大学の専門家が台湾の軍事力について評価し、人的戦力の充足率、装備の維持整備状況、作戦コンセプト等、全ての点について問題を抱えており、蔡英文総統が掲げる改革案も、軍や国防省や軍人OBの組織的抵抗にあってなかなか進まないと現状を紹介したようです
中国大陸に近接し、質量ともに中国軍が圧倒的優位な立場にある中、特に1000発を優に超える弾道ミサイルを中国軍が台湾正面に配備している状況にあって、極めて選択肢の少ない台湾軍ですが、徴兵制を縮小して人員が不足し、従来型の正規戦を想定した高価な装備を追求して老朽装備の更新が進まず維持整備が困難になるなど、動脈硬化状態が深刻なようです
また、蔡英文がこれら問題対処に対処するためまとめた国軍改革案「ODC:Overall Defense Concept」に対し、国軍や国防省が組織的抵抗を行って改革を阻んでいるとの指摘も行っています
証言したのはGeorge Mason大学のMichael Hunzeker准教授という方ですが、台湾に近い環境に置かれている日本にとって、「対岸の火事」として無視できない問題で、むしろ日本も同様の状態にあるとも考えられる話ですのでご紹介しておきます
1日付Defense-News記事によれば
●2月末に「U.S.-China Economic and Security Review Commission」で行われたヒアリングでHunzeker准教授は、「台湾軍は、人的、訓練面、装備面、動機づけの面で中国軍と対峙するに適した態勢になっていない」と説明し、また台湾政府が主導する国防改革への国防省や軍上級幹部の抵抗で改善が進まず、時間的余裕もないと主張した
●同准教授は、想定される中国軍による全面侵攻に備えていれば、部分的侵攻や台湾海峡の島占領などの限定的侵攻シナリオにも対応できると述べた
●台湾軍の課題として同准教授は、台湾が徴兵制から志願兵制度への移行を進める中で生じている人員不足に触れ、陸海空軍全般で定員の約8割しか充足されておらず、(若手が必要な)前線部隊では6割程度にまで充足率が落ちていると指摘した
●また装備面では、中国軍対応の台湾海空軍の艦艇や航空機による緊急行動が増加する中、装備品の更新が進まないことで、装備品の維持が困難に直面しており、稼働率が低下している点を指摘した
●また軍事ドクトリン面では、依然として中国軍と対称な戦い(symmetric response)を追求し、結果として「実際の想定される有事に、限定的な機能しか発揮できない高価なアセットを中心とした装備体系を追求することになっている」と警告した
●更に訓練面では、徴兵兵士と予備役兵士への訓練不足を指摘し、特に徴兵者(期間16週間)への訓練量が不足していると同准教授は証言した
●これら軍が持つ課題に対し、蔡英文政権は「ODC:Overall Defense Concept」を掲げ、「多層的で非対称:multilayered asymmetric force」な軍構築を目指そうとしており、「その方向性は台湾の脅威環境を考えればより良い方向である」と同准教授は評価している
●しかし同准教授は、ODCは軍や軍人OBや国防省高官からの反対に直面し、その様は「俗人的な反対姿勢、官僚組織的な抵抗、原理主義的ともいえる不同意」から来ていると批判している
●同時に政権自体も、徴兵制の復活等を含む政治的に微妙な内容にも触れているODCを、積極的に推進する意欲に欠けているように見えると評価している
●更に、ODCが完全実施の方向に向かったとしても、対処時間は限られており、装備品の転換だけでも大変だが、更に時間の必要な作戦ドクトリン、訓練、兵站、文化などの変革を考えると、厳しい状態に置かれていると評議会で同准教授は語った
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同准教授が指摘する、「有事に、限定的な機能しか発揮できない高価なアセット」(high on prestige but of limited utility in an actual conflict)へのこだわりや、「非対称戦に備えた体制への転換」への反対は、わが国でも根強いものと思います
我が国の憲法や各種法律による縛りがこれに加われば、「今そこにある危機」への対応が難しいことは明らかだと思うのですが、内なる敵との戦いが西側最大の課題なのかもしれません。
CSBA提言の台湾新軍事戦略に学ぶ
まとめ→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-11-08
その1:総論→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27
その2:各論:海軍と空軍へ→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27-1
その3:各論:陸軍と新分野→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27-2
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人も装備もコンセプトも改革を迫られているのに
2月に開催された米中経済安保評議会の公聴会で、米大学の専門家が台湾の軍事力について評価し、人的戦力の充足率、装備の維持整備状況、作戦コンセプト等、全ての点について問題を抱えており、蔡英文総統が掲げる改革案も、軍や国防省や軍人OBの組織的抵抗にあってなかなか進まないと現状を紹介したようです
中国大陸に近接し、質量ともに中国軍が圧倒的優位な立場にある中、特に1000発を優に超える弾道ミサイルを中国軍が台湾正面に配備している状況にあって、極めて選択肢の少ない台湾軍ですが、徴兵制を縮小して人員が不足し、従来型の正規戦を想定した高価な装備を追求して老朽装備の更新が進まず維持整備が困難になるなど、動脈硬化状態が深刻なようです
また、蔡英文がこれら問題対処に対処するためまとめた国軍改革案「ODC:Overall Defense Concept」に対し、国軍や国防省が組織的抵抗を行って改革を阻んでいるとの指摘も行っています
証言したのはGeorge Mason大学のMichael Hunzeker准教授という方ですが、台湾に近い環境に置かれている日本にとって、「対岸の火事」として無視できない問題で、むしろ日本も同様の状態にあるとも考えられる話ですのでご紹介しておきます
1日付Defense-News記事によれば
●2月末に「U.S.-China Economic and Security Review Commission」で行われたヒアリングでHunzeker准教授は、「台湾軍は、人的、訓練面、装備面、動機づけの面で中国軍と対峙するに適した態勢になっていない」と説明し、また台湾政府が主導する国防改革への国防省や軍上級幹部の抵抗で改善が進まず、時間的余裕もないと主張した
●同准教授は、想定される中国軍による全面侵攻に備えていれば、部分的侵攻や台湾海峡の島占領などの限定的侵攻シナリオにも対応できると述べた
●台湾軍の課題として同准教授は、台湾が徴兵制から志願兵制度への移行を進める中で生じている人員不足に触れ、陸海空軍全般で定員の約8割しか充足されておらず、(若手が必要な)前線部隊では6割程度にまで充足率が落ちていると指摘した
●また装備面では、中国軍対応の台湾海空軍の艦艇や航空機による緊急行動が増加する中、装備品の更新が進まないことで、装備品の維持が困難に直面しており、稼働率が低下している点を指摘した
●また軍事ドクトリン面では、依然として中国軍と対称な戦い(symmetric response)を追求し、結果として「実際の想定される有事に、限定的な機能しか発揮できない高価なアセットを中心とした装備体系を追求することになっている」と警告した
●更に訓練面では、徴兵兵士と予備役兵士への訓練不足を指摘し、特に徴兵者(期間16週間)への訓練量が不足していると同准教授は証言した
●これら軍が持つ課題に対し、蔡英文政権は「ODC:Overall Defense Concept」を掲げ、「多層的で非対称:multilayered asymmetric force」な軍構築を目指そうとしており、「その方向性は台湾の脅威環境を考えればより良い方向である」と同准教授は評価している
●しかし同准教授は、ODCは軍や軍人OBや国防省高官からの反対に直面し、その様は「俗人的な反対姿勢、官僚組織的な抵抗、原理主義的ともいえる不同意」から来ていると批判している
●同時に政権自体も、徴兵制の復活等を含む政治的に微妙な内容にも触れているODCを、積極的に推進する意欲に欠けているように見えると評価している
●更に、ODCが完全実施の方向に向かったとしても、対処時間は限られており、装備品の転換だけでも大変だが、更に時間の必要な作戦ドクトリン、訓練、兵站、文化などの変革を考えると、厳しい状態に置かれていると評議会で同准教授は語った
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同准教授が指摘する、「有事に、限定的な機能しか発揮できない高価なアセット」(high on prestige but of limited utility in an actual conflict)へのこだわりや、「非対称戦に備えた体制への転換」への反対は、わが国でも根強いものと思います
我が国の憲法や各種法律による縛りがこれに加われば、「今そこにある危機」への対応が難しいことは明らかだと思うのですが、内なる敵との戦いが西側最大の課題なのかもしれません。
CSBA提言の台湾新軍事戦略に学ぶ
まとめ→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-11-08
その1:総論→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27
その2:各論:海軍と空軍へ→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27-1
その3:各論:陸軍と新分野→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27-2
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