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MTCRで縛られた米国製無人機が輸出制限で中国製拡散 [安全保障全般]

米国が非公式で自発的な枠に縛られ無人機輸出制限の中
中国製無人機が中東などで増殖中

MTCR.jpg3日、米空軍協会のミッチェル研究所が「Modernizing Unmanned Aerial Vehicle Export Policy for Effective Coalition Forces」とのレポートを発表し、1987年発足のMTCR(ミサイル技術管理レジーム:Missile Technology Control Regime)により、米国製無人機がミサイルに分類されて輸出が大きく制限されている中で、この枠組みに縛られない中国製無人機が中東などの西側同盟国に大量に輸出されている問題を取り上げています

MTCRはあくまで非公式&自発的な集まりで、国際約束に基づく枠組みではありませんが、米英など西側諸国35か国(なぜかロシアも)が参加しており、大量破壊兵器の運搬手段となるミサイル及びその開発に寄与しうる関連汎用品・技術の輸出を規制することを目的としていますが、当時の技術的解釈で「搭載能力500kg以上かつ射程300km以上の完成した無人航空機システム」も本枠組みで厳しい輸出規制の対象となっています(末尾の外務省webサイト参照)

CH-4.jpgちなみにMTCR参加国35か国は、アルゼンチン,オーストラリア,オーストリア,ベルギー,ブラジル,ブルガリア,カナダ,チェコ,デンマーク,フィンランド,フランス,ドイツ,ギリシャ,ハンガリー,アイスランド,インド,アイルランド,イタリア,日本,韓国,ルクセンブルグ,オランダ,ニュージーランド,ノルウェー,ポーランド,ポルトガル,ロシア,南アフリカ,スペイン,スウェーデン,スイス,トルコ,ウクライナ,英国,米国です

MTCRに参加していない中国の代表的無人機企業CASC(米国製MQ-1やMQ-9と類似のCH-4、CH-5やRainbowなど製造)は、2014年以降2018年時点で、CH-4を30機以上サウジやイラク等に提供しており、同機輸出を10か国と交渉中といわれています

現代の戦いで重要な無人機を、米国が同盟国に十分に提供できないことは以前から問題視され米国務省が窓口になって、「無人機をミサイルとしての枠組みから外す」ことや、「搭載能力500kg以上かつ射程300km以上の完成した無人航空機システム」の縛りから「速度が時速800㎞以下」を除外することなどを参加国に提案してきましたが、無人機による民間人の誤爆事案が多発していることもあり、同意を得られていない状況です

CH-5 2.jpg若干緩和されたのは、2018年の交渉で、武器を搭載していないレーザー照準器「laser-designator」搭載機への制限や、FMSでない企業との直接売買が一部の無人機で認められた程度で、米国政府や企業には、中国製無人機の西側への浸潤に強い警戒感があります

2018年当時の報道では、衛星写真などで中国製が目撃されている国として、ヨルダン、イラク、サウジ、UAE、エジプト、パキスタン、ナイジェリアが紹介されており、イエメンやアフリカでの民間人被害が確認されているようです

「性能はほどほどで価格が半額以下」と言われた中国製無人攻撃機の性能は、年々向上しているといわれる一方で、イエメンなどで中国製無人機による民間人の犠牲者が急増してMTCRの議論が進めにくい状態が生まれている皮肉な現状があり、米国関係者のいら立ちが募っています

3日付米空軍協会web記事によれば
●3日に行われたレポート発表会で、同研究所のLarry Stutzriem研究部長(退役少将)は、「なぜ米国同盟国が米国より、中国から容易に無人機を購入できるのか?」と問題認識を訴え、同レポート担当のHeather Penney上席研究員は国際的約束でない非公式で自発的なMTCRに縛られているからだと説明し、「無人機は航空機であり、ミサイルではない。ミサイルの枠組みから除外すべき」と主張した

CH-4 2.jpg更に米商工会議所の国防輸出委員会のKeith Webster会長は、MTCRが設けられた当時の目的は明確だったが、技術の変化に対応しておらず、見直しが必要だと述べ、「中国は敵であり、米国の同盟国や友好国への扉を開くべきではない」と主張した
また、ヨルダン、サウジ、UAEなどの諸国は、米国が輸出できなければ他に選択肢がなく中国製に手を伸ばしているが、敵対国である中国関係者がアドバイザーとして現地で活動している状況は、今後米国との軍事関係や外交関係を損なう恐れがあると同会長は懸念している

同会長は更に、「F-35を英国と共同開発しているのに、MTCRのために無人機の共同開発ができないばかげた状態にある」と述べ、他の執筆者とともに、当面の策として「速度が時速600㎞以下」の無人機を制限の対象から除外する案を参加国で協議することを提案している
ただし、米空軍や豪州が検討を本格化している無人ウイングマンを考えれば、600㎞/hではすぐに限界を迎えるので800km/h以下の除外が必要だとし、いずれにしても現代の技術に対応していないMTCRの根本的見直しが必要で、無人機はミサイルではなく航空機との枠組み変更が急務だと主張した
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レポート現物
https://a2dd917a-65ab-41f1-ab11-5f1897e16299.usrfiles.com/ugd/a2dd91_cf3af457648a49dc889de89fd6d6dcd0.pdf 

外務省によるMTCR解説
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/mtcr/mtcr.html

CH-5.jpgこの話題は2018年10月に取り上げたのが最後で、中国製無人機の拡散状況がわかりませんが、レポートは約30ページで、恐らく中身を見ると、中東湾岸諸国やアフリカ諸国に中国製無人機が拡散している最新の状況が説明されていると思います(中身を見ていません。失礼)

「無人ウイングマン構想」に関連しているとは知りませんでした。そういえば、豪州がボーイングと組んで無人ウイングマン試験機を開発して披露したと思ったら、米国も機種選定本格開始で、タイミングが合ってるなぁーーーと思っていましたが、表立って共同開発できないから、同時並行で走っているんですね。多分

しかし日本も入っているMTCRって、皮肉な枠組みですねぇ・・・。よく勉強しないと、その重要性やなくなった場合の影響が読めませんが、INF全廃条約やオープンスカイズ条約を破棄したトランプ大統領なら、「やめた」と言い出すかもしれませんねぇ・・

無人機の写真は全て、米国製そっくりの、中国製CH-4とCH-5です

米国製無人機輸出緩和の関連
「中国無人攻撃機が中東で増殖中」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2018-10-06-2
「肩透かし無人機輸出緩和」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-04-21-3
「4月にも武器輸出新政策か」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-03-18-1
「無人機輸出規制の見直し開始」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-08-04

中国と無人機
「中国がサウジで無人攻撃機の製造修理」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-29
「中国が高性能無人機輸出規制?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-08-03
「輸出用ステルス機」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-27

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