「Block V」SSNが攻撃原潜か水上艦艇かの議論を呼ぶ [Joint・統合参謀本部]
高価なバージニア級攻撃原潜で攻撃力を確保したいが
潜水艦による攻撃力確保には水上艦艇の2-3倍の予算が
6日付Defense-Newsは、米海軍がバージニア級攻撃原潜「Block V」10隻の購入契約を結んだ機会を捉え、従来の同級潜水艦から巡航ミサイル搭載能力を3倍にし、無人水中艇や特殊部隊投入能力も付加した「Block V」の概要を紹介しつつ、このような大幅な形態変更の背景にある水上艦艇の脆弱性問題と、潜水艦の高騰する価格のジレンマに言及しています
現在米海軍は攻撃型原潜として、退役しつつあるロサンゼルス級を約35隻と、2004年から一番艦が任務を開始しているバージニア級18隻を保有しており、バージニア級は更に9隻が建造中か建造開始待ち状態にあります。そして12月2日、これらに加え「Block V」10隻の購入契約が結ばれたところです
潜水艦について語る知識は心もとないですが、冷戦期の攻撃原潜は敵潜水艦を探知追尾して攻撃したり、敵国重要港湾の近くに機雷を敷設したり、重要な海底ケーブルを切断したりしていたとの印象ですが、現在地域コマンド司令官は情報収集のために攻撃原潜を要求し、特にバージニア級の最新ソナーやセンサーによる優れたISR能力は大人気だそうです
ただ、バージニア級はロサンゼルス級の2倍の価格で毎年2隻購入するのが精一杯で、ロサンゼルス級の退役ペースに追いつかず現場は戦力不足を訴える状況にあり、更に今回契約の「Block V」は1隻当り約4000億円と「ひっくり返るくらい高い:mind-bogglingly expensive」と表現されるくらいで、専門家からは大丈夫ですか?の声が上がっています
それでも米海軍が巡航ミサイル搭載力3倍の高価な攻撃型潜水艦を追求している理由は、中国の対艦ミサイルの射程や精度が飛躍的に向上し、水上艦艇が中国大陸に近づくのが困難となり、「from the sea」の攻撃能力を確保できなりつつあるとの危機感があるからです
ただ、中国の懐に飛び込める攻撃力を「Block V」で確保することは、破産を意味する選択だと記事は表現し、今後は無人艦艇を絡めた検討が欠かせないと結んでいますが、とりあえずめったに取り上げない潜水艦の話を、「Block V」を通じてボンヤリとご紹介しておきます
6日付Defense-News記事によれば
●2日、米海軍はGeneral Dynamicsとバージニア級攻撃型潜水艦「Block V」の建造契約を結び、これまでのバージニア級のISR任務中心の機能に加え、攻撃能力を増強し大型無人艇の発進母艦としての能力も備えたマルチ任務対応潜水艦導入に進むこととなった
●「Block V」が前バージョンと異なる点は、まず巡航ミサイル搭載能力が従来の12発から40発になることで、7連装の発射装置を4基追加搭載することでこれを可能にする。この4基追加で艦の大きさは従来より1モジュール増加する。
●この追加モジュールには巡航ミサイルの代わりに別の兵器等を搭載可能で、大口径の無人水中艇や超超音速ミサイルのほか、海軍特殊部隊の送り込みなど、格納可能なものなら何でも搭載して射出・投入することが可能となる
●「Block V」の導入により、これまでオハイオ級戦略原潜を改良して巡航ミサイル搭載型原潜SSGNとした役割を攻撃型原潜も担うこととなり、特殊部隊投入面でもSSGN任務領域までも仕事の枠を広げることとなる。SSGN導入で縮小傾向にあった攻撃原潜の任務が、冷戦期の方向に戻るとも表現できる
●「Block V」は様々な最新技術の導入により「静粛性」を更に高めており、他の艦艇や潜水艦探知能力の向上と自らの被発見性低下を実現する
●以上のような設計変更により、「Block V」は搭載装備を含め1隻当り4000億円程度の価格となり、その価格は「ひっくり返るくらい高い:mind-bogglingly expensive」と外部から表現されている
●更に、今話題の超超音速ミサイルを潜水艦に搭載しようとすれば、現在想定されている垂直発射装置には収まりきらず改修が必要で、更に経費が膨らむことになる
●しかし中国などに高性能で長射程の対艦ミサイルが急速に拡散していることから、米海軍はこれら敵の地上配備対艦ミサイルを攻撃するため、そして米空母などの脆弱な友軍主要アセットを守るため、より多量の攻撃手段を必要としており、突破力と兵器搭載力を備えた潜水艦への期待は、米海軍の艦艇族の間でも高まっている。
●ただ、「Block V」は多くのミサイルを搭載して中露の拒否エリアに侵入し、脆弱な水上艦艇部隊の代わりに攻撃能力を確保してくれるが、中国軍の大規模戦力と対峙する前に、水上艦艇による攻撃能力構築の2-3倍予算が必要となり、米国防省を破産させる恐れがある
●このようなジレンマの中、最近米海軍首脳陣は、大規模な無人水上艦艇群コンセプトを検討し始めている。ここで無人艦艇群は、有人大型艦艇の「弾薬庫艦艇」「兵器発射艦艇」のような役割を担い、安価に攻撃力を増強する役割を期待されている
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トランプ大統領が、次期空母フォード級をその開発遅延と価格高騰面から繰り返し批判しており、就任したばかりの臨時海軍長官が「最優先課題としてより組む」と弁明に追われています。
また、主力の空母や潜水艦の新規導入型が軒並み価格2倍の仰天状態で数量を調達できず、かつ現役艦艇や潜水艦の維持費も右肩下がりで、米海軍関係の造船所や修理施設の維持が困難になる「悪循環」に陥っています
何らかの方向転換を図らないと、「ゆでガエル」になってしまいます。
攻撃原潜関連の記事
「CSBA報告書:米国の潜水艦優位が危機に」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2015-02-13
「米攻撃原潜SSNの方向性を語る」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2013-10-28
「バージニア級SSNの内部映像」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-09-10-1
「攻撃型原潜にも女性が」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-10-20
艦艇の修理や兵たんの課題
「米艦艇建造や修理人材ピンチ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-06-24
「空母定期修理が間に合わない」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-09
「優秀な横須賀修理施設」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-10-05
「悲惨な軍需産業レポート2019」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-06-28
潜水艦による攻撃力確保には水上艦艇の2-3倍の予算が
6日付Defense-Newsは、米海軍がバージニア級攻撃原潜「Block V」10隻の購入契約を結んだ機会を捉え、従来の同級潜水艦から巡航ミサイル搭載能力を3倍にし、無人水中艇や特殊部隊投入能力も付加した「Block V」の概要を紹介しつつ、このような大幅な形態変更の背景にある水上艦艇の脆弱性問題と、潜水艦の高騰する価格のジレンマに言及しています
現在米海軍は攻撃型原潜として、退役しつつあるロサンゼルス級を約35隻と、2004年から一番艦が任務を開始しているバージニア級18隻を保有しており、バージニア級は更に9隻が建造中か建造開始待ち状態にあります。そして12月2日、これらに加え「Block V」10隻の購入契約が結ばれたところです
潜水艦について語る知識は心もとないですが、冷戦期の攻撃原潜は敵潜水艦を探知追尾して攻撃したり、敵国重要港湾の近くに機雷を敷設したり、重要な海底ケーブルを切断したりしていたとの印象ですが、現在地域コマンド司令官は情報収集のために攻撃原潜を要求し、特にバージニア級の最新ソナーやセンサーによる優れたISR能力は大人気だそうです
ただ、バージニア級はロサンゼルス級の2倍の価格で毎年2隻購入するのが精一杯で、ロサンゼルス級の退役ペースに追いつかず現場は戦力不足を訴える状況にあり、更に今回契約の「Block V」は1隻当り約4000億円と「ひっくり返るくらい高い:mind-bogglingly expensive」と表現されるくらいで、専門家からは大丈夫ですか?の声が上がっています
それでも米海軍が巡航ミサイル搭載力3倍の高価な攻撃型潜水艦を追求している理由は、中国の対艦ミサイルの射程や精度が飛躍的に向上し、水上艦艇が中国大陸に近づくのが困難となり、「from the sea」の攻撃能力を確保できなりつつあるとの危機感があるからです
ただ、中国の懐に飛び込める攻撃力を「Block V」で確保することは、破産を意味する選択だと記事は表現し、今後は無人艦艇を絡めた検討が欠かせないと結んでいますが、とりあえずめったに取り上げない潜水艦の話を、「Block V」を通じてボンヤリとご紹介しておきます
6日付Defense-News記事によれば
●2日、米海軍はGeneral Dynamicsとバージニア級攻撃型潜水艦「Block V」の建造契約を結び、これまでのバージニア級のISR任務中心の機能に加え、攻撃能力を増強し大型無人艇の発進母艦としての能力も備えたマルチ任務対応潜水艦導入に進むこととなった
●「Block V」が前バージョンと異なる点は、まず巡航ミサイル搭載能力が従来の12発から40発になることで、7連装の発射装置を4基追加搭載することでこれを可能にする。この4基追加で艦の大きさは従来より1モジュール増加する。
●この追加モジュールには巡航ミサイルの代わりに別の兵器等を搭載可能で、大口径の無人水中艇や超超音速ミサイルのほか、海軍特殊部隊の送り込みなど、格納可能なものなら何でも搭載して射出・投入することが可能となる
●「Block V」の導入により、これまでオハイオ級戦略原潜を改良して巡航ミサイル搭載型原潜SSGNとした役割を攻撃型原潜も担うこととなり、特殊部隊投入面でもSSGN任務領域までも仕事の枠を広げることとなる。SSGN導入で縮小傾向にあった攻撃原潜の任務が、冷戦期の方向に戻るとも表現できる
●「Block V」は様々な最新技術の導入により「静粛性」を更に高めており、他の艦艇や潜水艦探知能力の向上と自らの被発見性低下を実現する
●以上のような設計変更により、「Block V」は搭載装備を含め1隻当り4000億円程度の価格となり、その価格は「ひっくり返るくらい高い:mind-bogglingly expensive」と外部から表現されている
●更に、今話題の超超音速ミサイルを潜水艦に搭載しようとすれば、現在想定されている垂直発射装置には収まりきらず改修が必要で、更に経費が膨らむことになる
●しかし中国などに高性能で長射程の対艦ミサイルが急速に拡散していることから、米海軍はこれら敵の地上配備対艦ミサイルを攻撃するため、そして米空母などの脆弱な友軍主要アセットを守るため、より多量の攻撃手段を必要としており、突破力と兵器搭載力を備えた潜水艦への期待は、米海軍の艦艇族の間でも高まっている。
●ただ、「Block V」は多くのミサイルを搭載して中露の拒否エリアに侵入し、脆弱な水上艦艇部隊の代わりに攻撃能力を確保してくれるが、中国軍の大規模戦力と対峙する前に、水上艦艇による攻撃能力構築の2-3倍予算が必要となり、米国防省を破産させる恐れがある
●このようなジレンマの中、最近米海軍首脳陣は、大規模な無人水上艦艇群コンセプトを検討し始めている。ここで無人艦艇群は、有人大型艦艇の「弾薬庫艦艇」「兵器発射艦艇」のような役割を担い、安価に攻撃力を増強する役割を期待されている
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トランプ大統領が、次期空母フォード級をその開発遅延と価格高騰面から繰り返し批判しており、就任したばかりの臨時海軍長官が「最優先課題としてより組む」と弁明に追われています。
また、主力の空母や潜水艦の新規導入型が軒並み価格2倍の仰天状態で数量を調達できず、かつ現役艦艇や潜水艦の維持費も右肩下がりで、米海軍関係の造船所や修理施設の維持が困難になる「悪循環」に陥っています
何らかの方向転換を図らないと、「ゆでガエル」になってしまいます。
攻撃原潜関連の記事
「CSBA報告書:米国の潜水艦優位が危機に」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2015-02-13
「米攻撃原潜SSNの方向性を語る」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2013-10-28
「バージニア級SSNの内部映像」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-09-10-1
「攻撃型原潜にも女性が」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-10-20
艦艇の修理や兵たんの課題
「米艦艇建造や修理人材ピンチ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-06-24
「空母定期修理が間に合わない」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-09
「優秀な横須賀修理施設」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-10-05
「悲惨な軍需産業レポート2019」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-06-28
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