刺激少ないISRアセット輸出で同盟強化を [安全保障全般]
台湾への近代化F-16である「V型」輸出は刺激が強いが・・・
7月19日付Defense-News記事は、6月に米国防省が発表した「Indo-Pacific Strategy Report」に沿って、米国は中国の浸透に対抗して地域諸国との関係強化や関与維持を進めようとしているが、戦闘機のような攻撃型兵器の提供は刺激が強いが、ニーズも高く、関係国との協力強化にもつながるISRアセットの輸出は効果的だと論じています
特に中国と深い経済関係を持ち、中国華僑の役割がアジア諸国で無視できない現状を踏まえれば、中国と国力面で圧倒的な差がある東南アジアの国々の場合、冷戦時の米側とソ連側のような明確なブロック分けが難しく、米国との安全保障上の関係強化にもデリケートな扱いが求められるでしょう
戦闘機やミサイルや艦艇のように目立たないため、なかなか取り上げられない側面でもありますので、断片的で、噂レベルのものもありますが、ご紹介しておきます
19日付Defense-News記事によれば
●今年3月後半、2機の中国軍機が中国と台湾の境界線を越えて台湾側に侵入し、約12分間にわたって台湾領空を飛行した。これは2011年以来初の事象であった。また今年5月には、台湾海峡で中国軍が実弾演習を行うなど、対中間の軍事緊張が高まっている。
●このような中台間の最近の緊張は、台湾空軍F-16A/B型を改良したF-16V型の提供が開始されたことや、台湾への約2000億円相当の国防装備品を米国から追加供給することが議論されたことが背景にある。なお追加供給はトランプ政権が6月に決定している
●台湾への戦闘機改修や武器輸出のような関係国支援の手法は、中国のような国に対して刺激的なものとなるが、直接的でないより微妙な手法をミックスして考える方法もある
●ISR能力強化のアセットを米国から関係国に提供するのはそんな手法の一つで、米国との関係深化や関係国の能力強化の潜在的「sweet spot」でもあり、また「グレーゾーン」事象の把握が困難な同地域で極めて需要が高いアセットがISRアセットである
●例えば、豪州は2018年11月にMQ-9無人偵察攻撃機の導入を表明し、インド、日本、NZも、より広範なアリアで脅威対象の活動が生起し、また脅威レベルの高いエリアでの活動も予期される中、ISRアセットへの関心を示している
●米国の軍事装備輸出戦略も、ISRアセットの同盟国等への提供効果を強調しており、特に冷戦期のように米側ブロックとソ連側ブロックの区切りが明確だった時代と異なり、中国との経済的関係が深いアジアインド諸国の立場に配慮した方向性を示している
●この地域諸国の微妙な立場に関しては、今年のアジア安全保障会議でシンガポール首相が、「ブロックの区切りが不明確になりつつある情勢下、小国には難しい判断が迫られている」と訴えている
●そんな中でも、今年5月に、海洋安全保障の基礎を支える海洋監視用アセットとして、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナムに34機の「ScanEagle」無人偵察機をFMSで提供することが発表されたが、微妙な地域情勢に配慮した関与手法と言える
●インド太平洋地域での中国抑止は極めて複雑な任務で、その基礎となる米国の地域関与を示すための手法として装備品輸出は重要な手段であるが、中国を刺激してエスカレーションにリスクを負う可能性の低い、状況掌握能力をISRを通じて提供する手法は、作戦面でも、戦略面でも適当なアプローチだと考えられる
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上記はAtlantic Councilの上席研究員執筆の論考ですが、記事が主張するほど事態は単純ではなく、サイバーや電子戦までドメインを拡大すれば、ISRアセットは十分中国にとって刺激的な武器輸出でしょう
ファーウェイが提供する「5G」アセットを巡るつばぜり合いも、ISRの一翼を担う分野だと思いますが、国家間のホットな衝突にも発展しかねない機微な分野だと思います
2016年米大統領選や英国のEU離脱国民投票を巡るSNS等を通じた「情報操作」が、国家間の戦いの最前線としクローズアップされる中、ISRが「Subtle but directed」な手法ではないような気がします
米空軍ISR関連の記事
「RC,WC,OC,NC-135は後継機なしの方向」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-05-28-1
「米空軍が新ISRロードマップ決定」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-08-04-3
「情報部長が中露のAI脅威を」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-07-28
「RC-135シリーズがピンチ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-07-08-1
「ISR無人機の急増」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-06-21
「無人機要員の削減を」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-02-25
7月19日付Defense-News記事は、6月に米国防省が発表した「Indo-Pacific Strategy Report」に沿って、米国は中国の浸透に対抗して地域諸国との関係強化や関与維持を進めようとしているが、戦闘機のような攻撃型兵器の提供は刺激が強いが、ニーズも高く、関係国との協力強化にもつながるISRアセットの輸出は効果的だと論じています
特に中国と深い経済関係を持ち、中国華僑の役割がアジア諸国で無視できない現状を踏まえれば、中国と国力面で圧倒的な差がある東南アジアの国々の場合、冷戦時の米側とソ連側のような明確なブロック分けが難しく、米国との安全保障上の関係強化にもデリケートな扱いが求められるでしょう
戦闘機やミサイルや艦艇のように目立たないため、なかなか取り上げられない側面でもありますので、断片的で、噂レベルのものもありますが、ご紹介しておきます
19日付Defense-News記事によれば
●今年3月後半、2機の中国軍機が中国と台湾の境界線を越えて台湾側に侵入し、約12分間にわたって台湾領空を飛行した。これは2011年以来初の事象であった。また今年5月には、台湾海峡で中国軍が実弾演習を行うなど、対中間の軍事緊張が高まっている。
●このような中台間の最近の緊張は、台湾空軍F-16A/B型を改良したF-16V型の提供が開始されたことや、台湾への約2000億円相当の国防装備品を米国から追加供給することが議論されたことが背景にある。なお追加供給はトランプ政権が6月に決定している
●台湾への戦闘機改修や武器輸出のような関係国支援の手法は、中国のような国に対して刺激的なものとなるが、直接的でないより微妙な手法をミックスして考える方法もある
●ISR能力強化のアセットを米国から関係国に提供するのはそんな手法の一つで、米国との関係深化や関係国の能力強化の潜在的「sweet spot」でもあり、また「グレーゾーン」事象の把握が困難な同地域で極めて需要が高いアセットがISRアセットである
●例えば、豪州は2018年11月にMQ-9無人偵察攻撃機の導入を表明し、インド、日本、NZも、より広範なアリアで脅威対象の活動が生起し、また脅威レベルの高いエリアでの活動も予期される中、ISRアセットへの関心を示している
●米国の軍事装備輸出戦略も、ISRアセットの同盟国等への提供効果を強調しており、特に冷戦期のように米側ブロックとソ連側ブロックの区切りが明確だった時代と異なり、中国との経済的関係が深いアジアインド諸国の立場に配慮した方向性を示している
●この地域諸国の微妙な立場に関しては、今年のアジア安全保障会議でシンガポール首相が、「ブロックの区切りが不明確になりつつある情勢下、小国には難しい判断が迫られている」と訴えている
●そんな中でも、今年5月に、海洋安全保障の基礎を支える海洋監視用アセットとして、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナムに34機の「ScanEagle」無人偵察機をFMSで提供することが発表されたが、微妙な地域情勢に配慮した関与手法と言える
●インド太平洋地域での中国抑止は極めて複雑な任務で、その基礎となる米国の地域関与を示すための手法として装備品輸出は重要な手段であるが、中国を刺激してエスカレーションにリスクを負う可能性の低い、状況掌握能力をISRを通じて提供する手法は、作戦面でも、戦略面でも適当なアプローチだと考えられる
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上記はAtlantic Councilの上席研究員執筆の論考ですが、記事が主張するほど事態は単純ではなく、サイバーや電子戦までドメインを拡大すれば、ISRアセットは十分中国にとって刺激的な武器輸出でしょう
ファーウェイが提供する「5G」アセットを巡るつばぜり合いも、ISRの一翼を担う分野だと思いますが、国家間のホットな衝突にも発展しかねない機微な分野だと思います
2016年米大統領選や英国のEU離脱国民投票を巡るSNS等を通じた「情報操作」が、国家間の戦いの最前線としクローズアップされる中、ISRが「Subtle but directed」な手法ではないような気がします
米空軍ISR関連の記事
「RC,WC,OC,NC-135は後継機なしの方向」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-05-28-1
「米空軍が新ISRロードマップ決定」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-08-04-3
「情報部長が中露のAI脅威を」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-07-28
「RC-135シリーズがピンチ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-07-08-1
「ISR無人機の急増」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-06-21
「無人機要員の削減を」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-02-25
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