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中国安全保障レポート2018 [中国要人・軍事]

8年目となる今回のテーマは「米中関係」

2018中国安保.jpg2日、防衛省のシンクタンクである防衛研究所が、あくまでも各研究者の個人的な見解であるとの前提を置きつつ、中国の安全保障に関する動向を分析した年次報告書「中国安全保障レポート2018」を公表しました

8年目となる今回のテーマは「米中関係」で、米中が、それぞれ相手に対してどのような認識をもち、どのような政策的アプローチをとってきたのか、そして地域のイシューにおいて米中関係がどのように展開してきたか、という点を分析することで、米中関係の中長期的傾向を探る・・・とその狙いを定めています

3日付産経web記事は、特に中国が不透明な形で核戦力を増強している状況に触れ、配備が進めば「(先制の)第一撃で米国の(核搭載)ICBMを撃破することが可能な態勢を構築できるようになる」と予測し、米露が中国の核に対抗する必要から「米露が核軍縮を進めるのは極めて困難になる」と指摘、「国際社会はこれまで以上に注視する必要がある」と記載されている点に点に注目しています。

色々な切り口があるでしょうが、本日は同レポート冒頭の「要約」部分から、つまみ食いでご紹介します

第1章 中国の対米政策
戦勝70周年.jpg●中国は2000年代初頭まで、自国を「発展途上の大国」と位置付け、対米関係安定を重視していた。しかし、中国の経済成長とリーマンショックで相対的なパワー・バランスが変化する中で、中国は次第に自己主張を強めていった。これが外交の強硬化や周辺国との対立につながった
●中国の新型大国関係論は、もともと核心的利益の「相互尊重」という文言で、中国が自国の核心的利益と考える問題について、米国の譲歩を取り付けることに重点を置く概念であった。

●しかし周辺国との対立の結果、対米関係が次第に悪化し、米国との対決懸念から次第に「不衝突、不対抗」を強調し、他方で、南シナ海で見られるように、中国の周辺諸国に対する姿勢は大きく変化していないので、対立の方向性が変化するには至っていない。
中国は、対米関係の安定化と他地域での自己主張強化の2つの方向性を同時に追求している。原則にとらわれないトランプ大統領に対し、中国は多様なルートで働きかけを強め、中国は米中関係の協調と安定に自信を持っている。
●しかし、米中関係は安定からは依然として遠く、対話や協力において具体的成果を求めるトランプ政権に対して、どの程度の利益や価値を中国が米国に提供できるのかは、依然として不確実である。

第2章 米国の対中政策
China-US Pre.jpg●米国は冷戦終結後、方向性が不透明な中国に対して、必要以上の敵視を戒め、安保上の脅威にならないように「エンゲージメント(関与)」していくという方針を取った。ブッシュ政権においては「国際システムの一員」として取り扱い、その中で責任ある振る舞いを求める「シェイプ・アンド・ヘッジ」が基本となった。
オバマ政権もこの姿勢を受け継ぎ、「戦略的再保証」=「中国の大国としての地位を保証すれば、中国は米国と協力して世界の安定のために責任ある役割を果たすようになる」との考え方を執った。しかし、中国の対外政策が強硬化したことにより、米中関係の競争的な側面が重視されることとなり、「アジア・リバランス」を執った。

トランプ政権は国家安全保障戦略で「中国は米国をインド太平洋地域から追い出そうとしている」ときわめて厳しい警戒感を示し、従来の関与政策の放棄を宣言。米国は「危機における安定性」よりも「軍備競争における安定性」を重視し、相互の脆弱性について言及することなく、透明性や信頼の重要性を強調する形の宣言政策をとってきた。
●これは米中間の核戦力に大きな格差があることや、相互脆弱性を宣言することが、「安定・不安定の逆説」の具現化につながりかねないことから、適切な政策であったと考えられる。ただし、地域安全保障とグローバルな核軍備管理体制という観点の両面から、中国の核戦力やその戦略に関する不透明性が懸念される。

第3章 地域における米中関係の争点
地域における米中関係の展開を見ると、双方の不信感が増大していることも見て取ることができる。

朝鮮半島の問題は、中国にとっては安定、平和的解決、非核化が重要である。中国は、北朝鮮を崩壊させたり、米韓同盟が強化されたりすることを望んでいない。
●一方で米国にとっては朝鮮半島の非核化が最重要で、また同盟国日本・韓国の安全保障も関わっている。半島問題は、北朝鮮の行動次第でコントロールが難しい危機発生の可能性がある。

maritime militia2.jpg南シナ海問題は、中国の主張は明確に定義されていないとは言え回復すべき領土という位置付けである。他方米国にとっては、航行の自由と海洋の法的秩序を守るという点が重要であり、またフィリピンとの同盟関係も関わっている。
●南シナ海問題は、関係国も多く、問題を安定的に処理するようなメカニズムは存在しない。そのため問題の安定性は高いとはいえない。

台湾問題は、中国にとって、中華人民共和国成立時より一貫して最も重要な問題であり、「一つの中国」原則を守り、将来必ず統一すべき領土であると考えられている。重要性の高さのために、最も大規模な衝突が起きる可能性を持つ問題である。
●米国にとっては、「一つの中国」政策にのっとり、台湾関係法などに基づくコミットメントを維持し、平和と安定を維持すべき問題である。ただし、これまでに米中は、台湾問題を安定的に扱うための行動様式を確立しており、そのため問題の安定性は高いといえるだろう
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こうやって「要約」の概要で見ると無味乾燥なイメージもしますが、産経が取り上げた中国核兵器の透明性欠如の問題のように、約80ページの本文では様々なエピソードや関係者への聞き取り等を交えて突っ込んだ分析がなされており、是非ご覧ください

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過去の「中国安全保障レポート」紹介記事
1回:中国全般http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-05-19
2回:中国海軍http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-02-17-1
3回:軍は党の統制下か?http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-12-23-1

4回:中国の危機管理http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-02-01
5回:非伝統的軍事分野http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-22
6回:PLA活動範囲拡大http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-03-09
7回:中台関係サボって取り上げてません

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