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ステルス機の意義と有効性を考える [ふと考えること]

Stealth report.jpg2日、米空軍協会ミッチェル研究所が新たなレポート発表会見を行い防空センサー等の発達でステルス機が発見される確率が高まっても、依然として航空機のステルス性は重要な要素であり、また他国がその技術を活用し始めたとしても、米国が持つ40年間の経験にはまだまだ及ばないと主張しました

Mark Barrett退役空軍少将(元F-22飛行隊長)とMace Carpenter退役大佐(元F-117操縦者)によるレポートは、「Survivability in the Digital Age: The Imperative for Stealth」とのレポートは、米海軍や米空軍で現在行われている次世代制空機(NGAD)検討において、他の性能とステルス性とのバランス議論が盛んになる中で、将来におけるステルス性の意義を再確認しようとする試みに見えます

主要な軍需産業をスポンサーにしている空軍協会とすれば、維持も含めたコストや作業量には余り言及せず、ステルス性は重要だと言わざるを得ないでしょうが、ステルス機の意義や有効性を整理する上で役立つので概要をご紹介します。

なお注意点としては、ステルス性の有効性よりも、ステルス性を持つ第5世代機の情報融合提供能力をステルス機の有効性として捉えている傾向があり、そのあたりは読者の皆様の見識で区別をお願いいたします

3日付米空軍協会web記事によれば
F-35 clear2.jpg新たなレーダーや探知技術が生まれつつあるとしても、ステルス技術は将来の作戦機においてもますます重要な設計上の要素となるだろう、と新レポートの筆者達は主張した
●そして、ステルス設計は比較的低コストの要素であり、個々の機体の生存性にきわめて重要である以外に、小規模な戦力で任務遂行を可能にする技術であることも重要な点だと訴えた

●Barrett元少将は、ステルス性なしのケースでは多数の援護機や支援機が必要だが、ステルス機であるF-22, F-35, B-2や次期爆撃機のB-21は、遥かに少ない機数で任務遂行が可能だと説明した
●同元少将はまた、空対空戦闘でも非ステルス機の戦いは相互にほぼ同距離で相手を発見するから搭載兵器の差が勝敗を分けるが、ステルス戦闘機の場合は相手に近くまで発見されないから、短射程ミサイルしか搭載していなくても勝利がほぼ確実だと説明した。

●Carpenter元大佐は、防空レーダーが仮にステルス機を探知できるようになったとしても、その情報をミサイル部隊に伝え、発射された防空ミサイルがステルス機を迎撃するまでには多くのプロセスがあり、航空機のステルス性はその過程全体の成功率を低下させるとステルスの重要性を説明した
●また元少将は、仮に防空レーダーが発達しても、ステルス機を電子戦機が支援すれば目標到達は容易になり、非ステルス機や機体外部に装備を搭載したステルス機よりも、遥かに発見される可能性は低いと説明した

敵レーダーへの対抗策と中露の追随
F-22hardturn.jpg●レポートを支援するために参加したMike Rounds上院議員(民主党)は、「広帯域をカバーする固定レーダーやパッシブセンサーを、高処理能力コンピュータとネットワークで結びつければ、強固な防空監視網を形成することが可能だ」と危機感を訴えつつ、
ステルス機のセンサー情報をネットワーク化した情報融合等を活用し、「敵レーダー網に、猛烈に多様なレーダー反射波を送り込んだり」、「電子戦機EA-18GやF-35に加え、積極的作為のため将来無人機を特定周波数を狙った反射材にしたてたり」とのアイディアで、敵防空を飽和させることを提案した

●元少将は、中国やロシアが「ステルス機らしきもの」を配備し始めていることに触れつつ、米軍には既に40年間にわたるステルス機運用の経験があり、どのようにステルス機を運用するかのノウハウの面で、他国はまだまだ米国に追いつくことは出来ないと語った
●そして自身が初期のF-22飛行隊長だった頃、当初はF-15の作戦運用法を元に応用を考えたが全く上手く行かず、初めて「全く新しい発想が必要だと痛感」し、互いに近接して飛行するな等々の新たな基本や戦術を生み出し、F-22の偉大な能力を引き出した経緯を例として解説した

シミュレーターは極めて重要
F-22Hawaii2.jpg●またF-22が空対空戦闘で敵を凌駕するだけでなく、戦闘全体の状況を瞬時に把握できる能力を「戦闘管理者」として発揮できることも説明し、F-35にも同様の能力があると元少将は語った
●加えて、このようなF-22やF-35能力を最大発揮するには、地上のシミュレーターで多様な状況を想定した訓練を繰り返すことがきわめて重要なのに、多くのF-35導入国がシミュレーターを購入しないのは大きな誤りだと主張した。

●そしてF-4の後継機にF-35を購入する国が、仮にシミュレーターを購入しないなら、高価なF-4を飛行場に並べておくのと大差はないと厳しく指摘し、ステルス機と非ステルス機の価格差を考えれば、シミュレーターをなぜ購入するかではなく、なぜ購入しないのかと言いたい・・と訴えた。
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古くからステルス性に重きを置かない米海軍と、ステルスを前面に主張する米空軍との対比や、互いの「口撃合戦」は興味深いところですので、下記の過去記事で振り返ってみてください。

B-2dual07.jpg要は、他の性能とのトレードオフをどこで決着するかの問題で、当然ステルス性が在れば突破力や生存性の側面で有利ですが、米空軍の次期制空機が重視すると言う兵器搭載量や航続性能に配慮すれば、ステルス性は犠牲にせざるを得なくなるということです。

これにコストや技術的な達成度合いや可能性などなど、まんぐーすが知る良しもないデータを踏まえつつ、最後は海空軍の声のでかい有力者の「個人的好みで」次期制空機の要求性能は決まっていくのでしょう。 そんなものです

当該レポートの現物(42ページ:約3MB)http://docs.wixstatic.com/ugd/a2dd91_cd5494417b644d1fa7d7aacb9295324d.pdf

米海軍NGADの検討
「米海軍は速度と行動半径重視?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-07-24
「米海軍もNGAD検討開始」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-24

米空軍次期制空機PCAの検討
「PCAの検討状況」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-07-12
「次期制空機検討は2017年が山!?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-12
「次世代制空機PCAの検討」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-30
「航続距離や搭載量が重要」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-08

「CSBAの将来制空機レポート」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-15-2
「NG社の第6世代機論点」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-01-17
「F-35にアムラーム追加搭載検討」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-28


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