NYT紙が露のINF条約破りミサイル配備報道 [安全保障全般]
14日付NYT紙が、兼ねてからロシアが開発していると見られていたINF(Intermediate-Range Nuclear Forces)全廃条約破りの新型巡航ミサイル1個大隊が、ついに実戦配備されたと報じました
これまで「SSC-X-8:9M729」と呼ばれていた最大射程3400km程度の巡航ミサイルですが、開発中を示す「X」が米国の情報機関内では無くなり、兵器として完成したモノだと米国政府関係筋が語ったようです
ロシアとの関係が噂されていたフリン大統領補佐官が辞任したタイミングのロシア関連情報でアリ、マティス長官のNATO訪問のタイミングでもアリ、色々な思惑がらみの情報リークと報道のような気がしますが、INF全廃条約は忘れてはならない論点ですので、これを機会に復習します
14日付NYT紙記事によれば
●オバマ政権はロシアを説得して条約違反のミサイル開発を止めさせようとしていたが、何の効果も無く、ロシアは開発を完了させた模様である
●匿名のトランプ政権高官は、ロシアが「SSC-X-8:9M729」ミサイル部隊を2個大隊保有し、1個大隊はロシア南部ボルゴグラード周辺の開発実験施設に置かれて居るが、他の1個大隊が昨年12月にロシア国内に実戦配備されたと語った
●この配備は、配備場所や今後の増強具合にもよるが、NATO諸国には無視できない脅威でアリ、15日にNATO国防相達とブラッセルで会談するマティス国防長官にとっても新たな課題である
●前NATO司令官のBreedlove退役空軍大将は、この展開を「何も対応しないでは済まされない」と警告しているが、同時に、移動式発射車両に6発づつ搭載可能な「SSC-X-8:9M729」は、配備位置の特定や検証が極めて難しいとも指摘している
●匿名のトランプ政権高官は、配備位置について言及しなかったが、「SSC-X-8:9M729」に似たミサイルが中央ロシアに配備されたとの推測報道がある
INF全廃条約とその後の経緯
●1987年12月8日、当時のレーガン大統領とゴルバチョフ首相によって署名された同条約は、相互に射程500kmから5500kmの地上発射弾道ミサイルの廃棄と保有禁止を約束するもの。
●翌年6月1日に施行され、米側はGLCMとPershing IIミサイルを、ソ連側はSS-20中距離弾道ミサイル等を両国総計2689発廃棄することに合意した
●条約締結の経緯を復習すると・・・
--ソ連が80年代初め、SS-20という中距離ミサイルをソ連の欧州部と極東部に配備した。
--当時のドイツのシュミット首相が、ソ連がこのミサイルで欧州の諸都市を攻撃した場合、米はNYやDCを犠牲にする覚悟で、米本土からソ連の諸都市を攻撃してくれるのかとの問題提起をして、このSS-20の配備で米と欧州の安全保障がデカプリング(切り離し)されることを問題視した。
--米国は西ドイツの主張などを踏まえ、結局核搭載パーシングーⅡと巡航ミサイルの欧州配備に踏み切った。それを梃子にSS-20の廃棄をソ連に要求した。紆余曲折があったが、中距離核ミサイルをグローバルに全廃することで米ソは合意した。
●しかし2代目ブッシュ政権時(2001~09)、露のイワノフ国防相は、ロシアが中東の周辺国からの脅威に直面しているとし、同条約の破棄の必要性を示唆。
●一方で同ブッシュ大統領は、NATOは同条約を重視し、また同条約破棄によるロシアの軍拡でアジアの米国同盟国も危機感を募らせる恐れがあることから、条約破棄には消極的であった。
●2008年4月にプーチンがINF条約存続について疑義を出している。ロシアは中国と北朝鮮と国境を接しており、イランにも近いので、この問題を我々以上に深刻に考えている。そしてこの2008年から「SSC-X-8」(射程300~3400km)の開発が始まったとされている
●2013年5月、米国務省の軍備管理担当だったGottemoeller氏は、ロシアによる条約違反の中距離ミサイルの開発を初めてロシア側に訴えた
●2013年6月、プーチン大統領は再び、「ほぼ全ての隣国が中距離各ミサイルを開発している」と危機感を訴え、ロシアによる条約破棄は「控えめに言っても議論対象だ」と発言した
●2014年、オバマ政権が懸念する地上発射巡航ミサイルの試験が行われた。オバマ政権はロシアに条約違反の恐れのあるミサイルだと訴えたが、それ以上は何もせず、ロシアは開発を継続した
●2015年9月2日、ロシアは巡航ミサイルSSC-X-8(9M729)の発射試験を実施。これは条約範囲内の射程500kmの核搭載可能ミサイル「Iskander:9M728」を改良したミサイルで、Iskander配備当初から射程の延伸は難しくないと関係者が言及していた
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トランプ大統領の「核」と「通常兵器」両方の軍拡ツイート等からすると、この条約が廃棄に向かう可能性がオバマ時代よりかなり高まっていると考えられます。
もちろん、いま米国の出方が最も注目されている対ロシア外交の方針次第ですが、INF全廃条約の行く末にも注意しておきましょう
同条約が破棄された場合、ロシアが中距離核ミサイルを持つ脅威と、中国などが中距離ミサイルを展開している現状への対応策をどうバランスして考えていくのか、国際情勢判断としても政策問題としても難しい問題ですが、独立国日本として、避けて通れない問題となるでしょう。
三浦瑠璃女史が「核兵器の持ち込み禁止」の見直し議論を提案しているのも、北朝鮮問題だけに止まらず、核拡散全般やこの辺りの問題も含めて考える必要がありそうです
それにしても・・・トランプ政権周辺からの情報リークは「ダダ漏れ」状態とも言われてますが、大丈夫でしょうか???
INF条約関連の記事
「露がINF全廃条約に違反」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-02-27
「米陸軍にA2ADミサイルを」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-14
「INF条約25周年に条約破棄を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-12-10
Iskander:9M728の配備関連
「ロシア飛び地にミサイル配備?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-12
「プーチンが展開否定も???」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-12-19-1
トランプ政権はNPR(核態勢見直し)をどうする?
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-09
三浦瑠麗女史の「核持ち込み容認論」
→http://lullymiura.hatenadiary.jp/entry/2017/02/13/153801
これまで「SSC-X-8:9M729」と呼ばれていた最大射程3400km程度の巡航ミサイルですが、開発中を示す「X」が米国の情報機関内では無くなり、兵器として完成したモノだと米国政府関係筋が語ったようです
ロシアとの関係が噂されていたフリン大統領補佐官が辞任したタイミングのロシア関連情報でアリ、マティス長官のNATO訪問のタイミングでもアリ、色々な思惑がらみの情報リークと報道のような気がしますが、INF全廃条約は忘れてはならない論点ですので、これを機会に復習します
14日付NYT紙記事によれば
●オバマ政権はロシアを説得して条約違反のミサイル開発を止めさせようとしていたが、何の効果も無く、ロシアは開発を完了させた模様である
●匿名のトランプ政権高官は、ロシアが「SSC-X-8:9M729」ミサイル部隊を2個大隊保有し、1個大隊はロシア南部ボルゴグラード周辺の開発実験施設に置かれて居るが、他の1個大隊が昨年12月にロシア国内に実戦配備されたと語った
●この配備は、配備場所や今後の増強具合にもよるが、NATO諸国には無視できない脅威でアリ、15日にNATO国防相達とブラッセルで会談するマティス国防長官にとっても新たな課題である
●前NATO司令官のBreedlove退役空軍大将は、この展開を「何も対応しないでは済まされない」と警告しているが、同時に、移動式発射車両に6発づつ搭載可能な「SSC-X-8:9M729」は、配備位置の特定や検証が極めて難しいとも指摘している
●匿名のトランプ政権高官は、配備位置について言及しなかったが、「SSC-X-8:9M729」に似たミサイルが中央ロシアに配備されたとの推測報道がある
INF全廃条約とその後の経緯
●1987年12月8日、当時のレーガン大統領とゴルバチョフ首相によって署名された同条約は、相互に射程500kmから5500kmの地上発射弾道ミサイルの廃棄と保有禁止を約束するもの。
●翌年6月1日に施行され、米側はGLCMとPershing IIミサイルを、ソ連側はSS-20中距離弾道ミサイル等を両国総計2689発廃棄することに合意した
●条約締結の経緯を復習すると・・・
--ソ連が80年代初め、SS-20という中距離ミサイルをソ連の欧州部と極東部に配備した。
--当時のドイツのシュミット首相が、ソ連がこのミサイルで欧州の諸都市を攻撃した場合、米はNYやDCを犠牲にする覚悟で、米本土からソ連の諸都市を攻撃してくれるのかとの問題提起をして、このSS-20の配備で米と欧州の安全保障がデカプリング(切り離し)されることを問題視した。
--米国は西ドイツの主張などを踏まえ、結局核搭載パーシングーⅡと巡航ミサイルの欧州配備に踏み切った。それを梃子にSS-20の廃棄をソ連に要求した。紆余曲折があったが、中距離核ミサイルをグローバルに全廃することで米ソは合意した。
●しかし2代目ブッシュ政権時(2001~09)、露のイワノフ国防相は、ロシアが中東の周辺国からの脅威に直面しているとし、同条約の破棄の必要性を示唆。
●一方で同ブッシュ大統領は、NATOは同条約を重視し、また同条約破棄によるロシアの軍拡でアジアの米国同盟国も危機感を募らせる恐れがあることから、条約破棄には消極的であった。
●2008年4月にプーチンがINF条約存続について疑義を出している。ロシアは中国と北朝鮮と国境を接しており、イランにも近いので、この問題を我々以上に深刻に考えている。そしてこの2008年から「SSC-X-8」(射程300~3400km)の開発が始まったとされている
●2013年5月、米国務省の軍備管理担当だったGottemoeller氏は、ロシアによる条約違反の中距離ミサイルの開発を初めてロシア側に訴えた
●2013年6月、プーチン大統領は再び、「ほぼ全ての隣国が中距離各ミサイルを開発している」と危機感を訴え、ロシアによる条約破棄は「控えめに言っても議論対象だ」と発言した
●2014年、オバマ政権が懸念する地上発射巡航ミサイルの試験が行われた。オバマ政権はロシアに条約違反の恐れのあるミサイルだと訴えたが、それ以上は何もせず、ロシアは開発を継続した
●2015年9月2日、ロシアは巡航ミサイルSSC-X-8(9M729)の発射試験を実施。これは条約範囲内の射程500kmの核搭載可能ミサイル「Iskander:9M728」を改良したミサイルで、Iskander配備当初から射程の延伸は難しくないと関係者が言及していた
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トランプ大統領の「核」と「通常兵器」両方の軍拡ツイート等からすると、この条約が廃棄に向かう可能性がオバマ時代よりかなり高まっていると考えられます。
もちろん、いま米国の出方が最も注目されている対ロシア外交の方針次第ですが、INF全廃条約の行く末にも注意しておきましょう
同条約が破棄された場合、ロシアが中距離核ミサイルを持つ脅威と、中国などが中距離ミサイルを展開している現状への対応策をどうバランスして考えていくのか、国際情勢判断としても政策問題としても難しい問題ですが、独立国日本として、避けて通れない問題となるでしょう。
三浦瑠璃女史が「核兵器の持ち込み禁止」の見直し議論を提案しているのも、北朝鮮問題だけに止まらず、核拡散全般やこの辺りの問題も含めて考える必要がありそうです
それにしても・・・トランプ政権周辺からの情報リークは「ダダ漏れ」状態とも言われてますが、大丈夫でしょうか???
INF条約関連の記事
「露がINF全廃条約に違反」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-02-27
「米陸軍にA2ADミサイルを」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-14
「INF条約25周年に条約破棄を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-12-10
Iskander:9M728の配備関連
「ロシア飛び地にミサイル配備?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-12
「プーチンが展開否定も???」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-12-19-1
トランプ政権はNPR(核態勢見直し)をどうする?
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-09
三浦瑠麗女史の「核持ち込み容認論」
→http://lullymiura.hatenadiary.jp/entry/2017/02/13/153801
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