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米イスラエル関係の転機?:軍事援助を巡る攻防 [安全保障全般]

30年続いたイスラエル優遇に変化
サウジやトルコと同様に、対米関係に変化か?

AIPAC4.jpg米国によるイスラエル軍事援助の10年計画(現プランは2017年10月まで)が見直し更新時期を迎え、今後10年間の援助規模や用途制約条件を巡り、8月上旬に最終段階の交渉が予定される中、両国間で激しい議論が続いています

米国からの提示案は、10年間で現3.3兆円から4.2兆円に増額する案で、ネタニアフ首相がふっかけた5.5兆円(実質は4.4兆円狙い)には及ばないもののそれなりの額です。
だた今回提示案の大きな変化は、過去30年間米国が許容してきたイスラエル特有の優遇策「OSP:海外調達枠:offshore procurement」を、今後は認めない方針を米国が示している点です

このOSPは、1987年に当時のLavi戦闘機国産計画が終了した直後のイスラエル軍需産業を支援するため、イスラエル国内企業から調達しても良い枠を認めた事から始まったものですが、イスラエル軍需産業が力を付け、米国企業のライバルと成るに至った現状に鑑み、米側から打ち切りが打診されたものです

AIPAC2.jpg現10年計画では、援助額の26.3%をイスラエル国内企業からの調達や研究開発にOSP投資でき、更に最近は燃料購入費にも援助の使用を認めたことから、OSP比率は38.7%にも高まっていました

米側が持ち出したOSP段階的全廃はイスラエル軍需産業に極めて大きな打撃となるため、ネタニアフ首相は懸命の粘り腰を見せており、8月にはライス米大統領補佐官との最終?交渉にJacob Nagel国家安全保障局長を派遣すると発表したところです

15日付Defense-News記事によれば
●米国が提案する覚書MOU案では、イスラエル軍需産業に対処の猶予期間を与えるため、数年かけて段階的にOSP比率を縮小する事となっている。弾道ミサイル防衛に関する米国との共同開発や、エジプトとの地下トンネル対策研究などでのイスラエル国内投資は例外扱いになっているが・・・。

●本件に関しては、米国でイスラエル支援の強力なロビー活動を行っているAIPACの元幹部も、「OSPは例外的な一時措置であったはずで、イスラエル軍需産業が多くの分野で米企業のライバルとなった今、また米国財政が厳しい中で、これ以上継続する事を説明することは難しい」と述べている
AIPAC3.jpg●6月に米国在住ユダヤ人団体で講演したライス米大統領補佐官は米国の海外軍事援助の半分以上はイスラエル向けだと述べ、米国が緊縮財政運営を続ける中でも、今後10年間の援助パッケージは米国史上最大規模を準備しているとアピールしていた

●イスラエルのMoshe Kahlon財務相やイスラエル軍参謀本部の幹部の一部は、(本件を巡って米イスラエル関係がこれ以上紛糾する事を避けるため、)ネタニアフ首相や反対勢力に、オバマ大統領の提案を受け入れるように説得している
●ネタニアフ首相の側近は首相の心中に関し、首相は自分自身の声にしか耳を傾けない人物で有り、繰り返し述べているように、覚え書きは必ず締結するが代償は受け入れられないとの姿勢であると語った

●一方でイスラエル最大の軍需企業であるIAI(Israel Aerospace Industries)のCEOは、壊滅的とか破壊的との言葉を現時点では使いたくないが、それは単に現在も交渉が続いているからである。26%もの削減は極めて非常に大きく、労働者の解雇などなど、現時点では予測できない大きな結果を導くだろうと述べている

25日付記事は退役少将の意見を大きく紹介
AIPAC.jpg●私(Gershon Hacohen退役イスラエル陸軍少将:北部コマンド司令官や国防大学司令官を歴任)は、米国の援助から「乳離れ」し、米国主導の軍事戦略や戦術や装備依存から脱却し、失われたイスラエルの革新的軍事戦略を取り戻す方向を目指すべきだと主張している

●そのためには強いリーダーシップが必要だし、OSP依存から脱却する周到で段階的な計画も必要だが、米国の装備に縛られた現状から脱し、軍事的主権を取り戻し、軍の自己完結性や軍需産業の能力を高め無ければならない
●今行われている様な援助額を巡る交渉は、あるべき2国間の交渉ではない。この様な交渉が必要な状態を改善し、イスラエルが真に独立性を高める事で、2国間の真の発展と国益確保に向かうべきだ
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最後にご紹介した「退役陸軍少将」の発言は、ご自身もイスラエル安全保障関係者の一般的意見ではないと認めていますが、この様な意見をメディアが大きく取り上げる雰囲気が、米国と一体だったはずのイスラエル関係でも広がっていると言うことなんでしょう

AIPAC5.jpg冒頭で触れたように、中東やイラン情勢を巡る米国の姿勢にサウジも不満を募らせており、最近のトルコにおける米軍駐留基地への電力供給停止などと考え合わせると、日本のメディア情報だけで世界を見ていると、とんでもないサプライズに襲われそうな気がします

中国国内の政争と併せ、今年の夏はリオ五輪の裏で様々な動きが見られそうです・・・。静かな夏休みを望んでいるのですが・・・。

米国とイスラエル関係関連
「6つの迎撃ミサイルでBMD演習」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-03-07-1
「イスラエルF-35は独自装備」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-05-1
「史上最大の多国間空軍演習」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-03
「新統参議長:初海外はイスラエル」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-10-20

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