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ご指摘「中国は全面戦争を招く日本攻撃はしない」に関し [ふと考えること]

最近、以下のような要旨のご意見を頂いたり、論調を世間で見かけたりするので、まんぐーすの思うところを綴ってみたいと思います

ご指摘や戦闘機企業顧問(空自OB)の論調
(「限定戦争想定論」と称します)
習近平.jpg中国共産党はその支配体制の維持や存続を第一優先で考えるから、その根底を崩しかねない国際社会からの完全孤立を招く過激な作戦や「日本との全面戦争」を望むことはなく、相手の出方を見極めながら、時間をかけた長期戦覚悟のサラミ戦略で自己の権益拡大を図るだろう
●従って、まんぐーすが騒いでいる弾道ミサイルや巡航ミサイルによる日本本土への攻撃は、米国を刺激し巻き込む可能性もあることからあり得ず、想定すべきは限定的な戦争ではないか

航空基地の無力化はそんな簡単なものではない。核でもない弾道ミサイルや巡行ミサイルでの基地攻撃が、それほど効果的かも具体的に考えれば疑問だ

長期間に及ぶグレーゾーン紛争や限定的な戦争に備え、中国に付け入る隙を与えないためには、航空優勢を確保する航空戦力が極めて重要であり、またグレーゾーンや限定紛争で最も柔軟に多様な任務に活用できる戦闘機への投資こそが引き続き重要
また別の視点で注意を要するのは、中国の弾道・巡航ミサイル等による攻撃効果を過大に捕らえ、米国や米軍が極東で手痛い被害を被ると「言いふらす」のは、冷戦期にソ連が「西側同盟分断のために行ったプロパガンダ」と同類の工作にも見える点

以上の「ご意見」にまんぐーすが思うこと
共産党中央軍事委員会3.jpg以下では、脅威を構成する「相手の意図」と「相手の能力」の両側面からのアプローチを試みますが、「限定戦争想定論」においては、具体的にどのような防衛装備を追求するのかを語らない傾向があり、この「落とし穴」も絡めて考えたいと思います

なお上記「限定戦争想定論」ご紹介では、空自OBである戦闘機企業顧問がサブリミナル効果を使って展開する「現状維持で波風立てたくない戦闘機だけ投資維持論」で取りあえずご紹介しています)

一方で「限定戦争想定論」者が訴える、「西側同盟分断のためのプロパガンダ」への警戒は100%賛同できる正しいご指摘であり、左派勢力やマスゴミに利用されないよう注意したいものです


中国の能力に関し
Great-Wall.jpg航空基地は複雑で多様で脆弱なインフラに支えられており、滑走路と航空機が無事でも、航空機管制機能や指揮所機能、司令部との通信機能や兵站支援機能を支える電源や通信網やIT装備等々を、数時間から半日機能停止させることは容易。航空機の活動を限定期間でも妨害できれば、非ステルス機など、数にものを言わせた原始的な攻撃が可能になるから。
●例えば滑走路に関して言えば、完全に破壊しなくても、無人機で小爆弾や異物をばらまくことで航空機の離着陸を数時間妨害することは簡単であろう。
●また、中国の直接的関与をグレーにしたまま、航空基地の機能を低下や喪失させる手法も、サイバーや電子戦に限らず、不正規な手法を含めれば数限りなく考えられる

冷戦当時、ワルシャワ条約軍による欧州NATO軍航空基地攻撃を多数多様なシミュレーション分析した結果、最も航空基地機能発揮の「ボトルネック」となったのは、航空機に燃料を補給するタンク車に燃料を注入する給油装置だったと言われている。
ASBM DF-21D.jpg●このように、つまり航空戦力発揮基盤は、現代の脅威の前に、あまりにも複雑であまりにも脆弱である。米軍が最後に空襲を受けたのは朝鮮戦争であり、それ以降は航空基地の強靱性強化を実質無視してきており、その影響を受けた自衛隊の飛行場は米軍以上に脆弱なまま

一方で中国は通常戦能力(例えばステルス機保有数:米国300機VS中国0機)で圧倒的に不利なことを湾岸戦争以降よく認識し、空中戦以外で敵航空戦力を無力化する方策を考え実現し続けている
●弾道・巡航ミサイルの増強強化(例えば射程1000kmのDF-16の正式化)、旧式戦闘機の無人機化、外国製を含む多種多様な無人攻撃兵器、サイバー兵器や電子戦兵器等々・・・その能力は急激に進歩強化されており、今後も安価に効果的に強化されるだろう


中国の意図について
YJ-18 radial.jpg●中国共産党がその支配体制の維持や利権構造存続を第一優先で考え、全面戦争へのエスカレートや米国の介入を招く展開を「望んでいない」との指摘は適切な情勢分析である。
●また中国が、相手の出方を見極めながら、時間をかけた長期戦覚悟のサラミ戦略で自己の権益拡大を図る可能性大だとの想定も、広く共有されている考え方だろう
●更に中国がその資金力にものを言わせ、メディアやシンクタンク研究者に、「米国や米軍が西太平洋に手を出すと大けがするよ」と同盟分断を働きかけていることは想像に難くない

●しかし、歴史から学ぶ姿勢に立てば、国家間の経済相互依存や議会民主主義の広がりからあり得ないと開戦前に言われていた第一次世界大戦等々、想定外の連続が戦争・紛争の歴史
●また西沙諸島への地対空ミサイル配備を全く知らされていなかった(模様の)中国外相が、「西側メディアのでっち上げだ」と哀れな反論を試みたように、軍部への政治の統制程度に疑問がある中国で、エスカレーションの可能性は否定できない

China Cyber.jpg●今後経済面での問題が顕在化して人民の不満が増す中国で、人民の目を外に向けようとする傾向がある中国で、東や南シナ海でますます軍備増強や西側との接触が進むと考える中で想定外の事態の可能性を低く見積もれるのか
●また対面(メンツ)を重んじる中国が、対外的な諸外国とのつきあいに不慣れな中国が、偶発的な小規模衝突事案を局所的な事態に封じ込めることが出来るのか

●RAND研究所の「5日間シナリオ」が飛躍した誇張分析だとしても、「5週間」や「5ヶ月」のスパンで見れば、十分エスカレーションがあり得るのではないか
冷戦当時も、極東ソ連軍の「意図」に関する疑問はあったかもしれないが、だからといって「能力」を無視して防衛力整備を進めていたか?


「限定戦争想定論」が避ける対応策議論
china H-6.jpg●「限定戦争想定論」者は、どの程度の限定戦争や紛争を想定しているのか。戦闘機に搭載する空対空ミサイルや射程100nmの対艦ミサイルは限定戦に必要で、対戦哨戒機や艦艇に搭載する対艦ミサイルも必要と言いながら、航空基地が攻撃されることは想定しないのか。弾道ミサイル防衛に関する装備は不要だと主張するのか?
●「最後のゴールキーパー」だとスローガンを掲げ、本土決戦に備える陸上自衛隊の戦車や自走砲や巨大な定員に対し、削減を訴える立場に立つのか。いや陸上自衛隊は大災害に備えた戦力として必要だから維持すべきと主張するのか

●「限定戦争想定論」が具体的対処や防衛装備に言葉を濁す理由は不明ながら、「能力」を保持する相手の「意図」だけに頼りに備えをしない、または相手がその「能力」を使用しない前提に傾いた投資選択があり得るか?
●「限定戦争想定論」者は、弾道・巡航ミサイルやサイバー等による航空基地等の基盤作戦基地への被害想定を過剰反応だと指摘するだけで、「だからどうしたいの」かを語らない事で、「戦闘機への投資を守る」事だけを願っているのではないか

Asia Pacific.jpg国防政策を考える際には、相手の「意図」と「能力」を冷静に見極めつつ、利用可能な資源を踏まえつつ、長期的視点でバランスを考えた判断が求められるが、「限定戦争想定論」がなにを訴えようとしているのかよく分からない
●「限定戦争想定論」の想定が正しくても、中国が「能力」を蓄え、更に充実させていくことを考えれば、より高い抑止力を発揮できる国防政策や国防投資を考えるべき

●米国防省や米軍の取り組みを鵜呑みにする必要はないが、台頭する中国やロシアに対処するために打ち出した「Third Offset Strategy」では、大量に乱れ飛ぶ各種誘導ミサイル対処のため、レーザーやレールガン兵器の他、対処用情報処理に「AI」活用やマンマシン協力強化等々に大きな予算を投入している
●もちろん同時に、直接対決を避けるため、結果の期待値が低くても対話や議論の場を追求し、中国人を刺激するような発言を抑えてエスカレーションを招かないような配慮もしている

●まんぐーすには、あるべき国防投資の全体像を語る知識や能力はないが、少なくとも巨大な「惰性パワー」と「組織支配力」を持って変化を阻んでいる「戦闘機命派」がこのままでは、あるべき国防投資のポートフォリオ等に関する議論も出来ないと考え、まず戦闘機への投資に対し「情熱を持って」疑問を訴えている
BMrange.jpg●長期に渡るであろうグレーゾーン対処に備え、戦闘機の存在を完全否定はしないが、本格有事での期待値が低いことを念頭に、その機数や総投資を抑えるべきだとも考える

●また、上記のような「能力」を蓄積する中国に対する抑止力を高めるため、より残存性の高い装備を追求し、不正規な手法も取り入れ、日本版A2ADと言われるような方向を追求することが必要だと考える
●繰り返しになるが、本件に関する議論も出来ない現状を憂い、多少過激に戦闘機に対してはコメントしている。このような考え方については、以下の記事でこれまでも繰り返し訴えてきたところ

非戦闘機命派の空自OB出現か?
「広中雅之は対領空侵犯措置優先に疑問」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-18-1
「小野田治も戦闘機に疑問」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-05

色々考えよう日本の国防政策
「台湾に学べ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27
「陸自OBが陸自で航空優勢と」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-07-12
「ヨシハラ教授:日本版A2ADを」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-09-18
「森本元防衛大臣の防衛構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-09-05
「中澤1佐が傾聴に値すると」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-12-10

日本は戦闘機と心中するのか?
「悲劇:日本でF-35組立開始」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-12-17
「悲劇:F-3開発の動き」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-03-18
「戦闘機の呪縛から脱せよ」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2013-04-16
「NG社6世代機の論点」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-01-17

2017年度米国防予算の関連記事
「カーター長官の概要アピール」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-02-03
「UCLASSからCBARSへ変身」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-02-02
「米空軍F-35調達を削減」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-02-04
「精密誘導兵器に重点を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-02-04-1

日本軍の失敗を考察した「書籍」をもとに考える  
書籍「失敗の本質」の視点で今をhttp://crusade.blog.so-net.ne.jp/2013-12-31

安全保障観の「体幹」を鍛えるために
ロバート・ゲーツ語録100選 →http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2013-05-19

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google

このOBの楽観論・陰謀論を批判する論説が、まんぐーすさんだけでなく、以下のように他のOBや研究者から次々と出てきてますね。よい傾向です

「5日で日本が敗北」を中国、台湾はどう報じたか
ウォーシミュレーションの目的を勘違いしてはいけない
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46258

習近平がヒトラーに変貌する日への備えは万全か
「ミュンヘンの宥和」が大惨事に発展したことを忘れるな
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46221
by google (2016-03-09 12:05) 

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