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ロシア軍事産業専門家が世界2位の業界を語る [安全保障全般]

「米国製兵器の使用にはハーバード大卒の人材が必要だが、ロシア製兵器は、世界の軍事組織を構成する程度の人材にフレンドリーな装備である」
「宰相ビスマルクは言っている。ロシア軍は決して見た目ほど強くないが、見た目ほど弱くもないと」

Pukhov cast.jpg9日付Defense-Newsが、ロシアの「民間」軍事産業研究機関CASTRuslan Pukhov所長へのインタビューを掲載し、2014年に輸出額の記録を更新したロシア軍需産業の状況や、ロシア製兵器の人気の背景を語っています。

この40代半ばのPukhov所長は、20年に亘ってロシア軍需産業や軍事問題をフォローしてきた人物で、ロシアという国の中で、公開情報を元に情報を収集整理してレポートを顧客に提供する「民間シンクタンク」というビジネスモデルを確立させただけでも興味深い人物です

なお、防衛研究所と海上自衛隊の幹部学校は、昨年11月に来日したCAST関係者と意見交換を行っています
シンクタンクCAST(Center for the Analysis of Strategies and Technologies)設立や、今日に至る経緯についてもインタビュー後半で語っており、個人的にはこっちの方が遙かに興味深いのですが、今回はロシア軍需産業に関する前半部分のみご紹介します

9日付Defense-News記事によれば
●Ruslan Pukhov所長(director)のCASTは、ロシア軍需産業やロシア軍事問題分析をリードするシンクタンクである。彼は過去20年間、ロシア軍需産業の変遷を観察してきており、今やロシア国防省の公開諮問委員会委員でもある
●今インタビューでは、ソ連崩壊後に国家という後ろ盾を失ったロシア軍需産業が、生き残るために輸出志向の企業に変化を迫られ、20年の苦節を経て米国に次ぐ世界2位の兵器輸出国になる過程を見てきた同所長の今を見る視点を取り上げる

ロシアの戦略環境や脅威をどう認識するか
Pukhov cast2.jpg4年前まで、欧州方面にロシア軍の主要な部隊は存在しなかった。イスラム過激派やアルメニア問題の再爆発、グルジアとの2度目の戦争を恐れ、ロシアは南部に部隊を増強していたのだ
同時に中国に強い警戒心を持っている。政治的には中国と緊密だし、突っ込んだ意見交換も行っている。しかし心の奥底では、中国に対する極めて大きな恐れを抱いている
中国は大きな可能性を秘め、過去20年間で技術面や軍事面で大きな飛躍を遂げた巨大な軍を保有しているからだ

今の第一の問題は、ウクライナ問題である。NATOとは敵対関係に有り、これを考慮する必要がある。またこれに加え、ロシア側の見方として、北極海が将来の戦場になる可能性を感じている。
あなたがロシア軍の参謀総長だったら、恐らく毎晩悪夢を見るに違いない。ロシア国境全周に脅威が存在し、軍が縮小し、軍需産業基盤がソ連崩壊時のピークほどでない現実の中で、安眠出来ることはほとんどないだろう。


Pukhov所長はロシア兵器の人気の背景等を
●米国の大学で学んでいた当時、教授にこんなジョークを言ったものだ。「米国製戦闘機が高級スイス時計のように見えるとすれば、ロシア製戦闘機は戦車のようだ」と。そして「高級時計と戦車のどちらで戦いたいか?」と問いかけてものだ。
●また、「西側製の軍事装備品は素晴らしいが、使いこなすにはハーバード大学を卒業する必要がある」とも冗談で話していた。これらはジョークだが、いくらか理屈に合う正しいことも表現しているのだ

Pukhov cast3.jpgロシア製兵器は、それが国産であろうと西側兵器のコピーであろうと、(西側の機械より)劣った工作機械で製造され、練度や教育レベルの低い兵士によって使用される
●今日、世界の軍事組織を構成する兵士は、それほどレベルが高いとは言いがたい。だからこそロシア製の兵器や装備は極めて「user-friendly」なのだと言える

ロシア軍需産業は、ロシア式の戦争や戦闘に、物理的にも、精神的にも、モラル面でも近い性質を持っている。
●例えば、宰相ビスマルクがロシアの軍隊を上手く表現している。「ロシア軍は決して見た目ほど強くないが、決して見た目ほど弱くもない」と

●ロシア軍は強いが全能ではない。今年6月以降だけで9機の空軍機が墜落し、兵舎が崩壊して20名の兵士が死亡する事故もあった。
●ロシアはある一面では上手くやり、発達もしている同じ事がロシア(軍需産業の)技術にも言えるのだ

ロシア軍需産業の課題は?
CAST Russia.jpg●これらの脅威に加え、今は西側諸国から高技術製品の禁輸を受けている。この状態で「2020年軍備再編計画」を遂行するのは容易ではない
●現在のロシア軍需産業の最大の課題は、調達先をどうするかである。ウクライナ問題が生起した後の18ヶ月間で、軍需産業を取り巻く環境は劇的に変化した。以前ロシアは西側と同盟関係など無かったが、それでも敵対していた訳でもなかった

●(本課題に関しシンクタンクCASTでは、)ロシア国防省からの「孫請け」委託を受け、西側の禁輸制裁に対処し、ロシア軍需産業への部品供給先を確保する策についても3年前から研究を行っている。
輸入代替品を「技術的に西側に属さない先進国」に外注する手段も視野に置き、イスラエル、シンガポール、韓国、メキシコなどを取引先として考えている
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確かに、社会が豊かになる過程で国民の階層化が進み、軍事組織に属する人材のレベルは一般的には低下する事になるのでしょう。

欧米の先進国では、軍人の志願者が大都市やその近郊で減少し、地方や過疎地からの志願者で「定員を埋める」傾向にあるようで、都市に集中しがちな「優秀な人材」の確保が困難になっているようです。
Cast-JMSDF.jpgまた途上国では、国全体の教育レベル向上に取り組んでいる最中でしょうから、維持整備を含めて扱いやすい兵器が好まれるのは自然な流れかも知れません。プロの視点ですね

興味深いインタビューですが、冒頭でも触れたように、インタビュー後半部分にあるPukhov所長自身の「CAST立ち上げ話」が興味深いんです! お勧めです

ロシアに関する記事
「露軍の電子戦に米軍驚嘆」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-08-03-1
「ウクライナで学ぶ米陸軍」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-02

「また、6機目の大事故」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-07-15
「航空事故多発の露軍」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-06-13

「米陸軍:欧州への重装備集積を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-07-16
「次の米軍トップ:ロシアが最大の脅威」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-07-10

中露関係を考える記事
「中国が政策変更で西方へ?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-06-15
「露は日露共同演習を目指す」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-07-09-1
「中露関係は頭打ちで複雑化」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-03

「日本海で中露海軍演習」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-07-18-1
「中露海軍が地中海演習」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-05-01

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