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着地点が見えないA-10全廃議論 [米空軍]

Ayotte3.jpg5日、上院軍事委員会メンバーであるKelly Ayotte議員(共和党46歳:上院の女性議員の20名中2番目に若い:旦那が元A-10操縦者)は議会で会見し、毎年繰り返されている米空軍要求のA-10全廃案(現保有約340機)について、これを今後も一切認めない恒久的措置を行うべきだと述べました

2014年初頭から米空軍が持ち出しているA-10全廃案ですが、同議員はA-10全廃反対の先頭に立ち、昨年の2015年度予算審議では「とりあえず1年間は全廃着手を認めない」で収めていたところ、2016年度予算でも同じ空軍提案で紛糾している状態に「業を煮やした」訳です

米空軍は、A-10が他で代替出来ない地上部隊支援能力(CAS能力)を保有していることは認めるが、F-16やF-15Eで何とかカバーするとし、痛みはあるが種々の状況を考慮すれば最も痛みの少ない案だと主張。
A-10 turn.jpgそして予算状況を踏まえれば、A-10を全廃しないとB-1爆撃機の全廃やF-16戦闘機350機削減、空中給油機の削減、ISRアセットの削減、指揮統制C2機能の近代化遅延、等が必要になると訴えています

米空軍はまた別の側面で、A-10を全廃して整備員をF-35用整備員に転換させないと、F-35の運用開始が更に遅れるとのロジックを持ち出してもいます。

A-10攻撃機に支援される陸軍参謀総長は、「A-10は地上部隊支援面でベストなアセットだ」、「全廃案を推薦はしない」、しかし「米空軍の予算状況は理解する。残ったアセットで如何に任務を遂行するかを空軍と共に検討する」との立場を取っています
なお、当初持ち上がったA-10を空軍から陸軍に移管する案については、陸軍側も空軍側も実行可能性がないとしています

なおA-10は現在、対IS作戦に参加して活躍し、またウクライナ情勢を受けた欧州にも緊急展開してロシアににらみをきかせており、米空軍にとってはその存在感がクローズアップされる皮肉な状態にあります。

5日の会見についての報道
Ayotte5.jpg●Ayotte議員はA-10全廃を巡る議論を、その日暮らしをする男を描いたBill Murrayの映画に例え、「そのようなやり方は前線の兵士のためにならない」と訴え、恒久的に全廃議論を封印するよう行動すると語った
●またAyotte女史は、「A-10削減が予算上も問題から生じたものならば、国防省の官僚機構の無駄を切って必要な予算を確保すれば良い」、「槍の穂先を削減し、官僚機構が増殖するのをこれ以上目にしたくない」と語った

●A-10を地上から誘導するTACだった元上級軍曹Tim Stamey氏は、「A-10ほど地上部隊支援に適したアセットはなく、それに近い働きが出来るアセットもない」と会見で述べた
●イラクやアフガンにA-10操縦者として参戦経験のあるMartha McSally下院議員(共和党)も、コメントは得られなかったが、A-10全廃や補助席手段への配置換えに反対している

Graham3.jpg●同議員と共に会見したLindsey Graham上院議員(共和党)は、「予算不足でA-10を全廃する必要があるなら、皆で予算を見つけてA-10を存続させよう。予算の強制削減が問題なら、強制削減を撤廃しよう」と訴え
●またGraham議員は会見で米空軍幹部に対し、「(F-35の整備員問題まで持ち出して議論をすり替えようとしている件に関し、)もしこの件で改善が見られないようなら、君たちは議会における評判を落とすことになる」とまで述べている。
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その他の関連事項として
●機体の老朽化を受け、現在でも、現有約340機から段階的に約280機にまで削減する計画は進んでいる
●F-35の開発遅延等を受け、2028年までの延命措置を含むA-10C型への改修も2005年から行われており、100機程度が改修済みと思われる

A-10 TSP.jpg●先日、「A-10全廃案に不利に働くような発言は絶対するな。特に議員に対して」と部下等に語った米空軍の中将が更迭されました。また細部は不明ながら、同様の不適切な発言により、第19空軍司令官が退役に追い込まれています
●最終的にDunford海兵隊司令官がノミネートされた次期統合参謀本部議長の候補ですが、早々とWelsh空軍参謀総長が候補から外れたのは、空軍内の「性的襲撃問題」対応とA-10議論の影響だと言われている



本件は、民主党VS共和党の構図、A-10等の不正規戦族(多様な戦いに多様な機能派)VS戦闘機族の構図、強制削減の痛みを訴えたい軍幹部の思惑、基地再編・整理等(選挙区の利害に関する問題)を議論したくない議員側の思惑等々・・・複雑に絡み合った問題だと思います

軍事的にどうかと問われれば、アジア太平洋地域での必要度合いから、またリバランスに必要なアセット(次期爆撃機や給油機やISR機能)を確保する観点から、まんぐーすはA-10全廃を押しますが、現在燃えさかっている中東情勢等への影響を問われても、評価する知識がありません

Ayotte4.jpgでも、原則論だけを振りかざし「国防省の官僚機構の無駄を削減して予算を確保すればよい」、「予算の強制削減が問題なら、強制削減を撤廃しよう」と言われると、日本の民主党の女性議員のようで、あまり関わりたくない気がします。また、旦那の「お願い」を主張しているの・・・と言いたくもなります

付言するならば、A-10全廃案を推進する米空軍参謀総長Welsh大将は、A-10操縦者として操縦者キャリアを開始しており、その点では辛い役目を担っています。

関連の過去記事
「CASを統合で議論したい」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-02-16-1
「F-35整備員問題は何処へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-01-18
「米空軍:A-10はあくまで全廃」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-09-15
「A-10全廃案が浮上」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-09-16
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