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防衛研究所が「東アジア戦略概観2015」公表 [ちょっとお得な話]

Gaikan-2015.jpg10日、防衛省の防衛研究所が恒例の「東アジア戦略概観」2015年版を発表し、webサイトで「英語版要約」も併せて同時公開しました。例年通り、2014年1月から12月までの地域情勢を、わかりやすく網羅的に紹介しており、基礎資料としても大変有り難い「無料」刊行物です

「東アジア」の概観と言っても、当地域を把握するにはより広い視点からフォローする必要があるとの観点から、2015年版でも「日本」「朝鮮半島」「中国」「東南アジア」「インド」「ロシア」「米国」に各章を当て、更に今年度版のトピックとして「CBRN兵器」について特別の章を設けて「東アジア」にアプローチしています

更に、約2ページの「要約」や序章「2014年の東アジア」も設け、「概観」を概観したい人への配慮も取り入れています。

また、各章末に担当執筆者を明示して研究者間の交流を促進すると共に、参考文献も明示し、「本書が内外の大学や大学院において教科書・参考書としても活用され、国際環境が激変する中、安全保障上の具体的な課題について、若い世代の知的関心を喚起し得る題材を提供」することに配意している点も好感が持てます

第1章日本、第3章中国、第8章米国を取り上げます

「第1章日本」について(執筆:高橋杉雄氏)
Collective-D.jpg集団的自衛権とガイドライン議論の2014年概観。議論の経緯と主要な論点を「賛成」「反対」両方の立場からを紹介し、今後の議論を見る参考に供する姿勢で記述
●集団的自衛権に関するいわゆる「歯止め」議論に関し、「いかなる形で政策判断を行う基準を設定するかという議論」が賛成派の論者の間でも不十分だと指摘し、

●「日本が実際に集団的自衛権を行使するかという問題は、実際には具体的な状況が生起した際に、憲法の許容する範囲内でその都度さまざまな要因を考慮して行われる政策決定の結果として決まるものである」から、
●「そうした具体的な状況が生起した際に行われる政策的な判断の基準となる原則を、広く合意できる形で定めておくことが重要」とし、「いかなる原則を持って実際の政策決定を行うべきかについて掘り下げた議論はほとんどない」ことを問題と指摘している


「第3章中国」について
●「2014 年の中国は、習近平政権のイニシアチブが前面に出た1年であった」との総評で始まる本章は、政治外交レベル(腐敗撲滅、周辺外交、鉄道輸出等々)から、軍の改革の可能性(統合作戦センター設置、PLA兵員削減、軍管区の統合)までを幅広くカバーし、「概観」にふさわしい内容となっている
Silk-Road.jpg胡錦濤時代の「韜光養晦:とうこうようかい」(能力を隠し、力を蓄える)という概念が、主動的姿勢を反映して変更されつつある状況に触れつつも、習近平が2013年に語った「奮発有為」(奮起してことをなすというほどの意味)が、「韜光養晦」の放棄なのか否かについては、中国の論者の見解も分かれていると紹介している

軍事的には5つの注目点を提示。まず極超音速滑空飛翔体(Wu-14)の成功、第2に大陸間弾道弾DF-41やJL-2開発の進展、第3にミサイル駆逐艦Type052Dの就航、第4に国産軍用ヘリの開発、第5にSu-27や30に空中給油可能なIL-78導入報道
●笑えるエピソードとして、2014年7月、中国が海外で初めて受注した高速鉄道の開通式が行われ、トルコ首相(現大統領)が初日に乗り込んだが、いきなり途中で故障し30分以上停止した事例を紹介。ただ現時点で20以上の国と鉄道建設交渉が行われている状況も紹介


「第8章米国」について
●2014年に米国防省がアジア太平洋地域で実施したことを詳細に「国防省公式発表」で記録し、2014QDRを解説し、ウクライナ対応とISIL対応について細かく時系列で記載
Obama-rebalance.jpg●その記録の細かさは、まんぐーすも驚く「オタク」ぶりで、米国防省の予算問題や各軍種の装備品を巡る論点を詳細に把握記述しており、その精神力には「頭の下がる」思い。
●本章執筆者の菊池氏と新垣氏は、共に筑波大学第三学群国際関係(総合)学類卒業生の先輩後輩(10年差)であり、分担執筆でありながらも統制がとれている。

●「国防省公式発表」に対しては「マスコミ的な突っ込み」は全くなく、アジアリバランスに関する各種施策に関しても、問題点や停滞面からはほとんど触れていない点は今年も同じ。防衛省のカウンターパート米国防省には一切ケチを付けない姿勢を堅持
●一方で、米国防省と姿勢を同じくし、淡々とながら米国議会の機能不全を結構厳しく指摘
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ぐだぐだコメントしましたが、これが無料でネット上で読める有り難さに、改めて感謝したいと思います。

Boukenn.jpgまた「はしがき」部分で、「編集作業は、有江浩一、庄司智孝、田中極子、鶴岡路人、富川英生、中澤剛、西野正巳、原田有が担当」とありますが、連隊長勤務時(民主党政権時)に日米共同訓練の重要性を語って「更迭」された「中澤剛」1等陸佐のお名前を久々に見つけました。
改めてここで「武運長久」を祈念申し上げます

過去の「東アジア戦略概観」記事
「2014年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-13-1
「2013年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-04-10
「2012年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-04-03

無念の更迭、中澤1佐の論文
http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-12-10

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