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前半:海自OBが語る中国軍脅威と日本の対策 [安全保障全般]

Kouda.jpg「国際安全保障」の2014年6月号に、元自衛艦隊司令官の香田洋二氏が「日本海洋戦略の課題」と題する論文を寄稿し、中国の軍事脅威を分析しつつ、日本の取るべき方策を述べています

自衛隊高級幹部OBにありがちな、現役自衛官や軍需産業に務める自衛隊OBを傷つけず、脅威を羅列し、無尽蔵の国防予算を前提とし、「削減」や「スクラップ&ビルド」や「事業の優先順位付け」の発想を全く持たない「総花的」な対策論です

つまり、「我が国の平和と繁栄を維持するため」には最優先で国家的資源を投入すべきとの錦の御旗を建て、「政府の積極的かつ的確な防衛力整備が求められる」で終わる典型的な「言いっぱなし議論」です。

ただ、典型的な自衛隊OB議論でありながら、現役自衛官幹部や各種情報網から仕入れたであろう情報を元に指摘している中には、今後の海上自衛隊や防衛省の政策を予測する上で注視すべき点が幾つかあります。


中国のA2ADは「作戦計画」ではない
Kouda2.jpg●注目すべきは、中国のA2ADは米軍を撃破する戦力構築を目指すものであり、米軍との正面衝突を企図とした作戦構想や計画では無い点である。
●A2ADは、ワシントンDCのアジア太平洋地域への積極的関与の意図を弱体化させ、米国と戦わずして、中国の地域的優位を確立することを目指したモノ
●A2ADは、A2ADで米軍を撃破出来る能力を米軍に示し、平時のプレゼンス、危機の際の介入、有事での作戦実施の意図の弱体化や喪失を狙い、自らに有利な環境を構築するモノ

まんぐーすコメント
●この部分の記述には脚注も引用文献もなく、香田氏独自の主張と思われます。
●香田論文は全体として、米国のオフショア・コントロール的な動向を強く戒めており、中国A2ADを「読み違えるな」又は「作戦遂行能力を過剰評価するな」と米国に警告したいのかもしれません。いずれにしても、この記述部分の意図がよく分かりません


海自イージス艦に日本国土のBMDを期待するな
Kouda3.jpg●中国A2ADは、米軍が当地域へ支援・来援することを阻止するモノであり、中国本土から遠方で米軍部隊を撃破する能力が中心となる
●この点、最も注目すべきは対処が困難な中国のASBM(対艦弾道ミサイル)の脅威であり、日米共同で技術開発も含め取り組むべき課題である
●また、中国潜水艦の魚雷や対艦ミサイルの脅威も中国A2ADの重要要素で、海自イージス艦は米海軍機動部隊のミサイル防衛と対潜水艦作戦を同時に求められる

●従って中国の弾道ミサイル対処に関し、海自イージス艦は北朝鮮ミサイル対処時のようなBMD専従は困難である。
本土BMDには、米国が欧州に配備を進める地上配備イージスシステムや高高度防衛ミサイル(THAAD)の配備が必要で、関連指揮統制システムと合わせ整備すべき

まんぐーすコメント
●更に突っ込んで、陸上自衛隊が本土BMD任務を担うべきと主張してくれれば応援できるのですが。
●また論文では、沖縄本島から与那国諸島を経て台湾に至る海峡群をチョークポイントとして重視し、陸自の配備による中国占領阻止と通峡阻止機雷の開発を訴えている。
陸自の島配備が日本版ミニA2ADの対艦ミサイル部隊であれば少しは応援したい


巡航ミサイル(CM)防衛体制を構築せよ
Kouda4.jpg●中国A2ADでは、弾道ミサイル(BM)と並ぶ日本周辺戦力への攻撃手段が巡航ミサイル(CM)であり、我が国全土をカバーするCM防衛体制を構築する必要がある
●現在の我が国の防空システムは航空機を主対象し、CM対処能力は限定的であることから、C4ISRを含めた「抜本的」なCM防衛体制構築が急務

まんぐーすコメント
●航空自衛隊が、生起確率が低下の一途をたどる敵戦闘機との空中戦ばかりを考え、遙かに重要なCM対処を疎かにしている、と指摘してくれれば応援できるのに
●更に、根本的にBMやCM対処は非常に高価で、相手にコスト負担を追わせるという中国の作戦にまんまとはまることになる。
●だからBMDやCMDにはある程度で見切りを付け、攻撃力強化で敵を抑止する必要がある。そのための策を提言してくれたら応援するのに
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「能動的方策」として記載のある、「中国の弱点を突く」攻撃的なオプションについては、次回(後半)ご紹介します

Koda.jpg中国のA2ADは「作戦計画」ではなく、「戦わずして勝つ」との孫子の兵法に沿った戦略だとのご指摘は「さもありなん」ですが、どうも論文全体の中での位置づけがよく分かりません

本土BMD任務から海自イージス艦を外すべきとの主張は海上自衛隊らしく、ほほえましく思うのですが、海上自衛隊だって戦力発揮の基盤として佐世保や横須賀や呉が重要でしょうから、その防衛のための分担(人・もの・金)は相応に担って頂きたいものです
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論文全体は、無尽蔵が国家予算を前提とし、防衛関係者に八方美人姿勢を取る「言いっぱなし議論」の典型ですが、その中には、陸自にミサイル部隊化を求め、空自の戦闘機命派を批判する気配も感じられます

米海軍大学のヨシハラ教授、森本敏元防衛大臣、陸自の中澤一佐などなど、オブラートに包みながらも、陸自や空自を批判する意見の萌芽が見られることは、喜ばしいことです

本当に考えよう日本の防衛
「ヨシハラ教授:日本版A2ADを」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-09-18
「中澤1佐が傾聴に値すると」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-12-10
「森本元防衛大臣の防衛構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-09-05
「CSBA:陸軍にA2ADミサイルを」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-14

「戦闘機の呪縛から脱せよ」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2013-04-16
「脅威の本質を見極めよ」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2012-10-08
「失敗の本質の視点で今を」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2013-12-31
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