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ソフトなエアシーバトル!?:米海空軍トップが再び連名論文 [Air-Sea Battle Concept]

ついに登場!「ゲーツ元長官語録100選」
http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2013-05-19
ロバート・ゲーツ語録より→全ての潜在的敵対者、つまりテログループ、ならず者国家、ライジングパワー、これら全てが共通に学び得たものは、米国と通常戦の手法で正面から対峙するのは賢明ではないとの認識である→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-11-27
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Greenert.jpgGen. Welsh III.jpg16日付でForeign Policy誌のwebサイトに、米海軍と空軍トップによる連名論文「Breaking the Kill Chain」が掲載され、エアシーバトル(ASB)への取り組み状況をかなり具体的に説明しています。

米海軍と空軍トップは、昨年2月にも同誌に連名のASB論文を寄稿していますが、昨年の論文は「米軍内へのASB遂行宣言」のような位置づけの中身で、組織的抵抗や偏狭な軍種や職域の利益防衛は許さないとの主張が前面に出たものでした。

今回の論文は前回に比較し、大上段に振りかぶった堅い戦略環境分析は最小限にし、より淡々とより分かり易くASBの狙いと具体的施策の進行状況を説明するものとなっており、特にASBに「ソフト」なイメージを与えるよう軍種の融合やネットワーク重視を前面に出しています。
読みながらこのタイミングで論文を発表する狙いや必要性を考えたのですが、現時点で頭に浮かんだのは以下の3点です

RIMPAC2010-2.jpgASBを過激で金食い虫作戦だと見なして批判し、経済封鎖を前面に打ち出した「オフショア・コントロール」論が急速に広まる中、軍としての考えを発信する必要
●5月末を目途に進む国防省自身による戦略レビューSCMRを、作戦面で補足説明する必要
●議会や政策シンクタンクの中に根強くある、米軍は非効率に各軍種が好き勝手な高級装備品を未だに要求しているとの批判に反論する必要

以下の概要説明では、中国やイランの軍近代化によるA2ADに対処するASBの必要性や、予算状況が苦しい状況説明等の「前振り部分」は省略し、目新しい「表現」や「事実関係」に絞って「つまみ食い」説明します

昨年2月の論文を読んでからご覧になると、その違いが鮮明でおもしろいと思います
昨年2月の論文概要http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-06-19
2月の論文の詳細説明http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2012-06-19

論文「Breaking the Kill Chain」の興味深いところ

脅威は費用対効果の高いA2AD
ASBM DF-21D.jpg●潜在敵が、「世界的な公共材」で誰の所有物でもないair, sea, cyberspace, and spaceへのアクセスを妨げて自由な使用を妨害するのに対し、この行為を粉砕するため、潜在敵のkill chains(敵の軍事行動の流れを寸断)するのがASBである
●隣国を威嚇するような国家がA2ADを指向するのは、費用対効果が高いからである。A2ADによるホルムズ海峡の閉鎖、サイバー面での国家遮断、米国やその同盟国による展開や反撃の阻止の脅しが、効率的に行えるからである

エアシーバトル(ASB)の特質を考える
2011年に国防長官が承認したASBコンセプトは、特定の一つの相手を想定しているのではない。例としては、イランの脅威が想定されるホルムズ海峡やアラビア湾、シリアが近代的な防空ミサイルを配備する東地中海等があり、韓国海軍艦艇を撃沈した北朝鮮もA2AD能力を誇示した点で想定対象といえる。(まんぐーす注:ワザと中国を外すところがカワイイ!

ASBConcept.jpg●ASBは軍事戦略ではない。襲撃や侵攻に関するものでもない。これはアクセスへの脅威を排除し、人道支援や被害復旧を含む連続した活動への道を確保するものである。(まんぐーす注:HA/DRを絡めるなんてステキ!
●通常の作戦は地域担当のコマンドが作成するが、同コンセプトは各軍種が戦闘コマンドに提供する戦力を組織し、教育訓練し、装備させる方針を示すものである

●ASBでは、アクセスへの脅威に対し、まず敵C4ISRを寸断し、次に敵の兵器発射母体を破壊し、最後に敵が放った兵器を破砕する。つまりkill chains(敵の軍事行動の流れを寸断)の考え方が基礎である。
●従ってASBでは、必ずしも内陸奥深くの敵施設を攻撃するわけではない。なぜなら、(そのような攻撃より)敵のC4ISRは脆弱で、次に敵の艦艇や航空機は撃破可能で、発射された兵器を欺瞞や邀撃できるからである。(まんぐーす注:オフショア・コントロール論への流し目が最高!

米軍はA2ADに対し対称な手法をとる必要はないミサイルをミサイルで邀撃したり、潜水艦で潜水艦を撃沈したりする必要は必ずしもなく、例えば、敵ミサイルを電子戦で無効化したり、敵偵察システムを電磁攻撃やサイバー攻撃で混乱させたり、経空脅威を潜水艦で対処するのだ。
●これこそがネットワーク化された融合攻撃であり、そのために編成され訓練された部隊が求められる

エアシーバトル部隊を構築する
KJ-2000.jpg●今でも定期的に海軍と空軍Top Gunメンバーは共に訓練しているが、ASBではこのような軍種間の協力をより推進し、例えば陸軍の防空部隊や海兵隊偵察部隊との協力を進めるため、軍種間のドクトリン融合を拡大する。
異なるドメイン間の単なる協力から融合へ、ASBを通じて進化しているである。このため、軍種間の各種手順共通化、予算の融通、軍種共同演習や机上検討を強化している。

データリンクは軍種融合作戦に緊要な前提装備である。ASB関連の投資は、軍種間のアセットを厳しい電磁妨害下でも結びつけるネットワークに向けられており、同時に妨害に強い波形変換技術や衛星通信の代替システム研究や、強靱で代替機能のある通信システムに向けられている。。(まんぐーす注:ソフトなASBをアピール!

●その成果の例として、潜水艦発射の巡航ミサイルの飛翔プログラムを、発射後にF-22から更新変更するテストがあり、また陸軍巡航ミサイル用のセンサーシステムを活用し、海軍艦艇防御用の艦対空ミサイルSM-6で、昨年9月、射程を延伸して敵巡航ミサイルを邀撃している。
●また2013年度ASB推進計画により、世界中にある海軍と空軍作戦センターの再編成(operational alignment)を通じ、通信ネットワークの改善を追求している

更なるエアシーバトル進展に向けて
3つの方針を掲げて継続的に推進する。3つとは「軍種の壁を除去compelling institutional change」,「ASBコンセプトを育成fostering conceptual alignment」,「4軍で調達を整理整頓promoting programmatic collaboration」である。

GreenertCNO.jpg●「軍種の壁を除去」では、ドメインを超えた作戦を追求し、長年蓄積されてきた軍種毎や機種毎の「やり方」を乗り越え、より融合した運用を目指す。ASB検討室(ASBO)を設置して4軍の兵士を配置、各軍種間の融合を促進するべく日々調整に当たっている。
●昨年12月には、ASBO主催の集中検討会が行われ、4軍と中央軍や太平洋軍の関係者等、約150名がASB推進に向けた協議や意見交換を行い大いなる成果を得た。

●「ASBコンセプト育成」では、ASBを根付かせるため各軍種が演習を行っている。例えば昨年は、3月に海兵隊がExpeditionary Warrior、6月に陸軍がUnified Quest、8月に海軍がNavy's Global、12月に空軍がUnified Engagementを実施し、他の軍種も参加している
●最後のUnified Engagement 12では、これらの集大成として海外10カ国以上からの参加者も含む、計300人が参加した机上演習が行われている

Welsh III1.jpg●「4軍で調達を整理整頓」では、ASBOが各軍種の諸計画や予算案を分析し、A2A対処の視点から不足箇所やや過剰部分に関する助言勧告を行っている。過去2年間の成果として、対長距離ステルスミサイルLRASM、海軍電子戦システム、戦闘機用新データリンクに投資が行われた
●逆に「軍種間の重複」の削減にも成果を上げている。2013年度予算では、無人偵察機Global Hawk、空軍戦闘機、海軍艦艇の要求削減を行った。ASBは、予算縮減の中で、米軍を融合させ能力を維持するために今後も使用される

●10年にわたる戦いが終焉を迎え、ソ連のような現実の敵がない中、軍は少しじっとしていろ(retrench)との声もある
●しかし米軍は、ドクトリン、訓練、投資分野で融合を進め、議会や国防長官室の協力も得て戦略を推進し、米国の行動の自由を確保し、その能力で侵略を抑止し、地域の安定を維持し、危機に対処し、同盟国等の安心を確保する
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CSBAのASBレポートに親しんだ皆様には、「なんとソフトなASB論文なんだ!」と驚かれたことでしょう

Waterdrop.jpgごもっともです。これまでのASBは、CPGS(通常兵器による世界即時攻撃)、長距離ステルス爆撃機(LRS-B)、長距離ステルスミサイル、艦載無人ステルス攻撃偵察機(UCLASS)、無人電子戦デコイ(MALD)、Resiliency強化の部隊分散、衛星や衛星通信の強靱化や代替確保、サイバー戦や宇宙戦への備えでしたから・・・

もちろん、最近漏れ聞こえてくる各種検討でも、上記装備はまだ生き残っているようですから、ASBが完全に変質した訳ではないでしょう。
するとこの論文は、ASBを「オブラートで3重巻き」するための論文でしょうか。

そんなことを考え、本論文の目的を冒頭の3点、「オフショア・コントロール対策」、「SCMR発表に備えた作戦面の補足説明」、「議会説明用に4軍団結をアピール」と推測しました。

陸軍の防空部隊に目をつけてますね! 陸軍に米国版A2AD任務の方向です!
ところで・・昨年12月の「Unified Engagement 12」に日本は参加したんでしょうか???

関連する過去記事
「オフショア・コントロールを学ぶ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-03-13
「カーター副長官がSCMRを語る」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-08-1
「SCMRの状況とシンクタンク対案」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-20

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