力み過ぎでは:東アジア戦略概観(米国) [安全保障全般]

防衛研究所の全ての公刊物と同様に、「研究所の研究者が独自の立場から分析・記述したものであり、政府あるいは防衛省の見解を示すものではない」と記載されていますが、地域情勢に関する防衛省の公式見解と見て良いでしょう。
「東アジア」と銘打っていますが、中東から朝鮮半島、中国、東南アジア、ロシア、米国情勢までをカバーして安全保障の視点から記述しており、引用元や発言者をキチンと明確にしている点からも、研究者の方には必須の資料でしょう。

特に目についたのが、P206の「地理的に分散し、作戦面で強靱」関連とP207の「エアシーバトル構想」関連の2つの囲み記事です。
率直な感想として、そんなに力んで「米軍の前方展開戦力は日本から引かない」と訴えると、逆に「そこまで深刻なのか??」と裏を読みたくなります
「地理的に分散し、作戦面で強靱」関連説明では・・

●QDR2010では「前方配備および交替配備される米軍は引き続き有効。米軍の長期的な海外プレゼンスは、米国の関与について同盟国や友好国を安心させ、信頼感や善意を生み、米軍の地域的専門知識を増進。必要なときだけ信頼感や関係を単純に急速増勢することはできない」との記述がある。
●これは2004 年8月に当時のブッシュ大統領が「今後10 年の間に、米国は機動性が高く、柔軟性のある米軍を配備するが、より多くの米軍を米本土に配置して展開させることを意味する。いくつかの部隊を再配置し、予期できない脅威に対応できるようにする」と述べたのと明らかな対照をなしている。
●従って前方展開戦力は、米国の地域への関与を示すアセットとして、引き続き重要な位置付けを与えられていると評価すべきであろう
「エアシーバトル構想」関連説明では・・

●「エアシーバトル」はあくまで作戦ないし戦術レベルにおける運用構想とみなすべきであり、米国の戦略全体を左右するような概念ではない。
●戦略レベルの構想といえるのは、あくまで「A2/AD 能力への対抗」である。統合参謀本部は、それをドクトリンレベルで示すものとして、「統合オペレーショナルアクセス概念」を公表したが、その一部を構成し、A2/AD 能力への対抗を作戦レベルおよび戦術レベルで実行するための戦闘概念が、「エアシーバトル」なのである。
●このように、「エアシーバトル」は、米国が前方展開兵力を大幅に削減して、有事が発生したら後方から長距離打撃戦力のみで関与するというような「Offshore Balancing」を志向していることを意味するわけではない。あくまで「戦い方」を示す概念として理解すべき。
/////////////////////////////////////
繰り返しますが、そんなに熱くなって否定するとかえって逆効果・・・。正直申し上げて、学部生のレポートならともかく、天下の防衛研究所のコメントとしては大人気なく、稚拙(失礼)
04年の「transformation」の頃とは中国軍脅威の見方も変化していますし、リーマン後の米国経済状況も踏まえると、単純な比較が出来ないのは明らかだと思いますが・・・。

またAir-Sea Battleに関し、「詳細は明らかになっていない」のに、「米国の戦略全体を左右するような概念ではない」と断言する潔さ。
百歩譲って、米国や米軍にとって戦術レベルの変更に過ぎなくても、米軍が第一列島線や第二列島線より東からの作戦を主にすれば、日本は単なる「盾」又は「時間稼ぎの障害物」に成りますよ。
研究者は正直でなくては。でも本文に少し研究者の正直さが・・・
●ゲ-ツ国防長官(当時)は、米国の対外コミットメントの持続性と信頼性に対する疑念は「深刻かつ正当なもの」と述べた・・・(昨年のシャングリラ・ダイアログにて)
「パネッタ長官のアジアツアー」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-10-22
「米国の姿勢シャングリラ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-06-01
「フロノイのアジア政策授業」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-04-30
「新国防戦略とoffshore balance」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-02-27
「米海軍は日本から豪へ移動」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-07-29-2
2012-04-04 05:00
nice!(0)
コメント(0)
トラックバック(0)
コメント 0