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RANDレポート「中国との紛争」 [安全保障全般]

中国との衝突リスクは無視できないが、誇張されすぎてもいけない
RANDchinaoct.JPG10月上旬、RAND研究所が米陸軍の要請を受けて作成した約25ページのレポート「中国との紛争:見通しと影響、抑止への戦略」を発表しています。原題はConflict with China:Prospects, Consequences, and Strategies for Deterrence
執筆チームは国務省とホワイトハウスで顧問・大使や紛争調停特使としての経験豊富な人物(James Dobbins)をリーダーとし、他3名を中国軍、米軍等の軍事問題に詳しい若手RAND研究者が占めています。

元軍人が含まれていない点で、より政治や経済的視点からの見方が期待でき、出身軍種への思い入れや遠慮がない分、ある意味端的な指摘が可能では・・との期待もあってサマリーに目を通してみました。

率直な感想として、米国の内向き感がにじみ、ホワイトハウスや国務省的な見方はこんなところなのかなぁ・・と感じましたのでご紹介します。

アジア紛争シナリオと米中紛争
PLA.jpg●中国のGDPや軍事費は、今後30年の間に米国のそれを凌駕する勢いであり、注意を要する競争者となり得る。しかし我々は、中国の安保や軍事上の関心は引き続き中国近傍に焦点が絞られると考える
●アジア太平洋地域での紛争は、可能性の高い順に、北朝鮮関連、台湾、南東アジア諸国関連、又はインドや日本に関連するモノになる可能性がある。またサイバー領域では米中の紛争が始まるかも知れない(サイバー領域に封じ込められるだろうが)。

●ただし、我々は上記いずれの紛争も、米中間の武力紛争につながるとは見積もっていない。もちろん本見積もりには、米国がそのような衝突を抑止する軍事力を維持しているとの前提がある。
米陸軍は北朝鮮関連の紛争には不可欠だが、他のシナリオにはそうでもない

中国軍事力の将来とエスカレーション
●中国の総合軍事力が近未来に米国と肩を並べる事はないが中国近接地域での局所的優位はより早く獲得するだろう。まず台湾周辺で、続いてより遠方に拡大していくだろう。そして、米国が直接地域の防衛を行うことは段階的に困難になり、最終的には接近が困難になるだろう
●その結果、米国は「escalatory options for defense」と「retaliatory capabilities for deterrence」に頼ることになる。

chinacyber.jpg●中国は核の第2撃能力を保有しており、核兵器の存在はそれほど紛争抑止の助けにならない。それ以前に、どのシナリオも米国にとって死活的な結果まで導かない
●紛争がサイバー領域や経済領域にエスカレートして波及する可能性はある。両ケースとも米国の脆弱性が高く、米国にとって魅力ある方向ではない。
通常兵器による中国内軍事施設の攻撃は、「escalatory options」の中でベストな選択であろうが、紛争がその範囲で収まるとの確証はほとんど無い

米国としての選択肢
dobbins_jamesRAND.jpgより期待できそうな防衛策やエスカレーション防止策として、中国周辺同盟国の能力と決意を強固なものにする方法がある。このような取り組みが中国の敵対心をあおらないよう中国側に「囲い込み」や「対中陣営構築」と見られないようにすべきである。
●同時に、中国を集団的な安全保障環境構築努力に取り込み、敵対関係を防止するだけでなく、世界第2位の経済国から大きな貢献を引き出す努力が求められる。

米中紛争による経済的ダメージは、両国が経済戦争を避けようと試みても歴史上類を見ない大きさになり得る。現在は若干でも経済的に米国が有利な立場にあるが、紛争による予想経済ダメージが巨大なことは両国を抑止する強力な要素である。
米国の経済力を強化することが、今後数十年に渡り、相互依存と抑止力のバランスを米国危機にシフトさせないベストな方策である。

軍事偏重になるな
中国との衝突のリスクは無視できないが、誇張されすぎてもいけない。他の多くの紛争シナリオの可能性がより大きい。より可能性の高い紛争は対中国紛争のそれとは大きく異なり、中国の様なreal peer competitorを扱う紛争とは全く異なった能力を求められる
個々のシナリオは中国との紛争ほどの結果を招かないが、全体で見ると、これらが国家間の関係を規定する環境を造り、米国のパワーや決意に関する中国側の見方に影響を与える。
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chinaFlag.jpg紛争による経済ダメージの大きさが抑止力に」との考え方の反証は歴史上枚挙に暇がないと思いますが、いつの時代にも力を持つ考え方です。
「中国を集団的な安全保障環境構築努力に取り込み・・世界第2位の経済国から大きな貢献を引き出す」ことができれば苦労はしませんが、中国嫌いが先行しすぎて最初から喧嘩腰でも困ります

「サイバー戦がサイバー領域に止まる」との見方も含め、本当にそうだろうか、見積もりが楽観的では・・と軍事を中心に見ているまんぐーすが感じる部分が多くありますが、経済や外交や農業等々の視点を総合すると、政治レベルではこのような見方も出てくるのでしょう
しかしこのレポートを受け取って陸軍はどうするのでしょうか・・・削減してもリスクは少ないとの論拠にするのでしょうか。

「海空重視に陸軍の反応」http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-10-11
「CNASレポート海空重視で」http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-10-10

「Toshi Yoshihara博士の来日」http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-09-29
「マレン議長がアジア政策を」http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-07-27

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コメント 1

ふゆづき

初めて投稿します。
ランド研究所の報告書をご紹介頂きありがとうございます。経済戦争に勝ったことを遠因として、もう一度冷戦時の封じ込めを指向しているような内容ですね。
でも、サマリーには書かれていませんが、米国の本当の強さの原因は数年間に一度実戦を経て(Conbat Provenを経ていること)、軍が実戦を経験していることでしょう。
中越紛争以来大規模な武力行使を行っていない中国は現時点では米軍の敵では無いように思いますが、中国が実戦を経験すると米国にとっても手強い相手になるのでしょうね。

by ふゆづき (2011-10-24 22:05) 

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