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中国は「先制攻撃」するのか [Air-Sea Battle Concept]

CSBA2ndjasbc.jpgCSBAレポートをご紹介して以来、読者の皆さんから「中国は本当に先制攻撃をするのか?」との疑問を多く頂いています。
ダイヤモンドよりも硬い話題ばかりを扱う本ブログ読者の多くは、しっかり学生時代に勉強され、恐らく毛沢東以来の「人民戦争戦略」や日中戦争のイメージをしっかり頭に置き、かつ最近の日本のマスコミ発信をしっかり読まれている方が大多数だど思いますので・・・致し方ないこと・・・とも思います。

しかし中国はその経済発展と資金を背景に、そして最近の国際情勢や戦訓を学びながらその戦略を大きく転換しています。Holynaldは専門ではありませんが、その変化に微力ながらアプローチしてみたいと思います。

chinaecono.jpg中国は毛沢東時代から、世界的規模の戦争生起の可能性があるとの情勢認識に基づいて、大規模全面戦争への対処を重視し、広大な国土と膨大な人口を利用して、ゲリラ戦を重視した「人民戦争」戦略を採用して来ました。

しかし、軍の肥大化、非能率化などの弊害が生じたことに加え、世界的規模の戦争は長期にわたり生起しないとの新たな情勢認識に立ち、1980年代前半から「領土・領海をめぐる紛争などの局地戦」への対処に重点を置くようになりました。

そしてその流れに沿い、91(平成3)年の湾岸戦争後は「ハイテク条件下の局地戦」に勝利するための軍事作戦能力の向上を図る方針がとられて来ました。
しかし最近は、最新の軍事技術や軍事発展の趨勢(すうせい)に対応し、「情報化条件下の局地戦」に勝利するとの軍事戦略に基づいて、軍事力の機械化および情報化を主な内容とする「中国の特色ある軍事変革」を積極的に推し進めるとの方針をとっています。

obamachina.jpgまた、湾岸戦争で得られた米軍の弱点として、展開先における長期の戦争準備や長い補給路を必要性をあげています。(防衛白書や茅原拓大教授受け売り)
機械化や情報化との言葉の意味が西側の感覚と多少ずれることもありますが、精密誘導兵器であり、ISRの発達であり、ネットワーク戦(NCW)の概念がその背景にあるのでしょう

そして情報化条件下の局地戦に勝利する方法として・・・

情報化条件下の局地戦においては、第1撃による優勢の獲得が極めて重要であるとし、実際に中国の軍事論文は情報化戦争の成功には電子的あるいは打撃力による第一撃が不可欠とするモノが主流になって来ています。このような中国内の議論を踏まえ、中国が長らく掲げてきた毛沢東の「第一撃の受容」は「第一撃による優勢の獲得」へ変化したと考えられるようになってきています。

●また中国は、軍事や戦争に関して、物理的手段のみならず、非物理的手段も重視しているとみられ、「三戦」と呼ばれる「輿論(よろん)戦」、「心理戦」および「法律戦」を軍の政治工作手段として2003年に共産党として承認したほか、「軍事闘争を政治、外交、経済、文化、法律などの分野の闘争と密接に呼応させる」との方針も掲げています。

●この「三戦」について米国の分析は・・・ 
米国防省「中華人民共和国の軍事力に関する年次報告」(2009年年3月)によれば・・
gatesflag.jpg・ 「輿論戦」は、中国の軍事行動に対する大衆および国際社会の支持を築くとともに、敵が中国の利益に反するとみられる政策を追求することのないよう、国内および国際世論に影響を及ぼすことを目的とするもの。
・ 「心理戦」は、敵の軍人およびそれを支援する文民に対する抑止・衝撃・士気低下を目的とする心理作戦を通じて、敵が戦闘作戦を遂行する能力を低下させようとするもの。
・ 「法律戦」は、国際法および国内法を利用して、国際的な支持を獲得するとともに、中国の軍事行動に対する予想される反発に対処するもの。

この「三戦」は孫子の兵法「戦わずして勝つ」を改めて押し進めるモノとして、台湾や米国が大きな危機感を持ったところです。

wuhancv4.jpgHolylandなりに強引に整理すると、最新兵器や空母を導入しようとの動きを見せつつも、米国と艦隊決戦や大規模空中戦をイメージして準備しているのではない、と読むべきです
そしてその結果が弾道ミサイルや巡航ミサイルへの重点投資であり、対衛星兵器やサイバー戦への取り組みであり、中国伝統の「戦わずして勝つ」ための「三戦」への明確な重点指向だと考えられます。

「第一撃による優勢獲得」への移行は、既に軍のテキストを作成する軍事科学院からも承認を受け、その教科書「Science of Military Strategy」によりイデオロギーの上からも正しいとされるに至っています。

eagle2.JPGそしてそのテキストには、敵対的な国が政治的な圧力を及ぼそうとする場合、その予測される第一撃の脅威度に応じ、情報化戦争の手段による、あるいは機械的な手段による、中国からの第一撃が可能であると主張しています。また、中国領域付近に敵対勢力が集中することを防止するためには、先制攻撃的な手段が必要であると指摘しているところです。

JASBCslide2.JPG中国は変わりつつあります。広大な国土を背景に、核戦争をも勝ち抜く意志をも盾にし、前掛かりな先制攻撃論への自信が生まれつつあります。同時に孫子の兵法への伝統的な取り組みも着実に行っています

このほかCSBAレポートには、幾つかの中国に関する主要な論文が参考文献として挙げられています。ご興味のある方には一読をお奨めし、孫子と会わせての考察をおすすめいたします。

「CSBA中国対処構想」
  → http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-18
 (その2)から(その5) 
「(その6)CSBA中国対処構想」
  → http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-24
 (しつこく最後)(番外編)もあります 
「Air-Sea Battle Conceptの状況」
  → http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-23-1
「嘉手納から有事早々撤退?」
  → http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-13

(400記事記念の特別保存版記事)
「ゲーツ改革のまとめと整理」
  → http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-06-17
「400記事記念 反響大の記事特集」
  → http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-06-18
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