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嘉手納から有事早々撤退? [Air-Sea Battle Concept]

GatesRobert-.jpgここ最近、ゲーツ国防長官による演説を2本の記事でご紹介しました(3日海軍協会:記事「海軍海兵隊とも全面対決へ」、8日アイゼンハワー図書館:記事「国防省と議会にも宣戦布告」)。これら演説やゲーツ長官の各種改革やその発言を支えているのがシンクタンクCSBA(Center for Strategic and Budgetary Assessments)です。

CSBA理事長のクレピネヴィック(Andrew F. Krepinevich)は対中国作戦コンセプト「Joint air-sea battle concept(JASBC)」の提唱者です。また同シンクタンクからは昨年5月に海軍次官としてロバート・ワーク(Robert O. Work)が派遣され、3日のゲーツ演説にもワーク氏の論文からの引用が多く見られるところです。「断行宣言」が出たところで、今後実行に移す役割を担っていくのでしょう。

CSBA Ehrhard.JPGそして本日ご紹介するのは、これも昨年CSBA研究者から空軍参謀総長特別補佐官に命ぜられたトーマス・エアハード(Thomas P. Ehrhard)によるレポート「An Air Force Strategy for the long haul」です。
09年9月17日にCSBAのサイトにアップされたモノですが、前日の9月16日にゲーツ長官が空軍協会で空軍への宣戦布告を行った(記事「米空軍へ最後通牒」)ことからも、その内容からも関連性が明らかです。 今後明らかになる米空軍の改革と極東戦略の元ネタとなる可能性が高いレポートと考えられます。その内容は米空軍全体に渡る詳細な約120ページのモノなので、サマリーからその一部をピックアップします
→ 原文はhttp://www.csbaonline.org/4Publications/PubLibrary/R.20090917.An_Air_Force_Strat/R.20090917.An_Air_Force_Strat.pdf 

なおエアハード補佐官は、JASBCをゲーツ長官に進言した「スターの後見人」アンドリュー・マーシャル国防省相対比較評価局長(91才:Andrew W. Marshall)の補佐官も努めた経験があります。狭い社会で仕切っているんですね・・・アメリカ特有の体制です。 

情勢認識
●中国の軍事力近代化は、接近拒否・領域拒否(A2AD)能力の強化のみならず、サイバー領域、宇宙空間、国際海域の自由使用を犯す勢いがある。

戦闘機調達
本レポートの結論の一つとして、現行の米空軍将来計画の装備体系は、ローエンドや不正規戦に対してあまりに上等で高価すぎ、同時に予想されるハイエンドの挑戦への対応には能力不足である。例えばF-35は、ローエンドには過剰装備であり、一方でハイエンド環境では必須の航続距離が足りない。
Ehrhard UASF.jpg●上記及び他の優先度の高い分野への予算確保のため、F-35については現行の1763機調達から、約半分の858機で十分ではないかと考える。また調達速度を速め2020年までに540機を取得して終了する選択肢もある
●足の短い非ステルス戦闘機は今後20年間のうちにA2AD環境での使用が困難になり、非正規戦には過剰装備となる。従ってファイターギャップ(戦闘機不足)を埋め合わせる調達に関しては、経費面や有効性がクリアできなければ必要性は低い。

ドクトリンや長距離攻撃力
●多様な将来紛争環境に対応して4軍をリードするため、空軍指導部は特に4つの分野でドクトリンや戦いのコンセプトの革新を行う必要がある。4つの分野とは、1にハイエンドな非対称戦、2に不正規戦、3に拡散阻止、そして4に本土防衛である。

次世代爆撃機はゲーツ長官による無人機の可能性を含む再検討指示が出ているが、本レポートでは2018年から2027年の間で、5段階でアップグレードしながら毎年20機を生産する計画を提案した。後半の4段階は無人機とした。空中給油、ステルスISRや拒否領域通信と並んで重要な、長距離で突破力があるISR攻撃能力の必要不可欠な部分を担う。
●ISR無人機は、MQ-9リーパーとRQ-4グローバルホークに加え、次期爆撃機のISRタイプによる高脅威エリアへの隠密潜入飛行に期待する。
大陸から2000マイル以内の海空軍基地は危険にさらされるとの前提に立ち、太平洋地域が最も空中給油能力を必要とする。KC-Xを推進する必要がある。

海外空軍基地への施策
●米本土の空軍基地容量が過剰であり、更なる整理統合が望ましい。海外基地は、欧州の基地を整理縮小し、アジアの基地アクセスを拡大する。
中国の長距離攻撃力向上により、危機に際しては前方展開基地からの撤退が予想され、撤退により主要戦力投射基地であるアラスカ、ハワイ、グアムの収容能力を越える
Anti-Access3.JPG●このため国防省と地域軍は、(中国の)長距離航空・ミサイル攻撃の影響見積もりを早急に行い、基地分散、基地抗たん性強化、積極防空、警報発令を冷戦時のように真剣に考えるべき。
まず最も優先して考えるべきはアンダーセン基地(グアム島)の抗たん性強化やマリアナ諸島への分散基地建設である。航空戦力が密集する脆弱なままのアンダーセン基地は、相手に格好の攻撃目標を与えることになる。他の防御施策やシェルターの強化、滑走路の緊急修復資材などは、コストとの兼ね合いや分散施策を組み合わせの中で考慮する必要がある。

本レポートには、他にも宇宙アセットに関する記述やステルス機の全体に占める比率などの興味深い提言が含まれています。
軍事的合理性に基づき、かつ予算的整合性も追求した立派な政策提言レポートです。

しかし、嘉手納や三沢は抗たん性強化や防空強化の話題にも上っていません。普段は形だけの小規模駐留またはローテーションで航空遠征部隊(AEF)を派遣してコミットメントを示す反面、いざとなったらグアムやマリアナやアラスカ・ハワイまで真っ先に撤退、が前提になっているようです。 

(15日付読売電子版)
米軍普天間飛行場の代替滑走路建設をめぐって政府が検討している「杭(くい)打ち桟橋」方式について、米側が「ミサイル攻撃を受けたら滑走路が沈む」と難色を示していることが14日、わかった。政府関係者が明らかにした。米側は同方式について従来「滑走路下部が空洞で、テロ攻撃にあいやすい」と指摘していたが、上空からの攻撃にも弱いと問題提起した。

普天間移転を考える際は、大きな視点で米国の情勢認識と動きをフォローしておかないと・・・。QDRをよく読んだのかな?
さあーーて・・・「日米同盟の深化」の日米協議でどのように具体化するのでしょうか???

「CSBA中国対処構想」
  → http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-18

「Air-Sea Battle Conceptの状況」
  → http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-23-1

「(Ver.2)QDRから日本は何を読みとるべきか」
  → http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-01-1
「QDRから日本は何を読みとるべきか(Ver.1)」
  → http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-02-07

「どんな兵器を:Anti-Access環境対応」
  → http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-03-04

「ゲーツ長官が空軍へ最後通牒」
   → http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2009-09-17
「ゲーツ長官が国防省と議会にも宣戦布告」
  → http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-09
「海軍海兵隊とも全面対決へ」
  → http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-04-1
「(補足)アイゼンハワー・ライブラリ演説」
  → http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-11
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